「ふゎ~…」
かなり眠い。
昨日はトゥアールさん達にからまれて、酷い目に会った。
身体的にも、精神的にも疲労が…
私、怪我人なんですけれど。
そのせいで、未だに包帯はとれていない。
「おぃっす。えらい落ち込んどるねぇ」
「リン…」
後ろから、来ないでほしい。
一瞬、ビクッてしたじゃないの!
「よう見たら、クマが---」
「ほんっと、誰のせいかしら?」
兎に角、今の私は機嫌が悪い。
私の顔を覗き込むリンに、少しばかりお仕置きをしておく。
頬を引っ張られる形となった彼女は、ジタバタしだした。
彼女があの現場に言っていれば、私は苦労することは無かった。
そう思うと、心のそこから苛立ちが---
「っと、そんな事している場合じゃない! 早く行かなきゃ!!」
「ウチのほっぺた、どないしてくれるねん!?」
頬を引っ張る手を離し、足早に校舎へと入った。
リンが文句言っているけれど、そんなのは無視に限る。
ただでさえテイルグリーンとして活躍しているから、勉強時間が削れるのだ。
自分の机にかじりつく覚悟でしないと、留年の危険もある。
さぁ、自分を取り戻しに行こう!!
「陽月祭の季節だったわね…」
思い返せば、季節は秋。
普通の高等学校では、この時期に文化祭が行われるのよね。
最近戦闘ばっかりだったから、そんな事すっかり忘れていた。
というか、文化祭である以上、所属するツインテール部も何か出し物する必要があるよね…?
「さて、ウチのクラスの料理についてだが---」
この場を仕切る文化委員が、教壇にて話をしている。
この陽月学園では、学年ごとに大体出し物が決められている。
確か1年生が展示品、2年が出店、3年が劇だったはず。
それで私のクラスは料理を出すことが決まっているが、何を出すかでまだ決まっていないのだ。
(定番メニューなら焼きそばとか、たこ焼きなんだけれど…)
何処か奇抜なアイディアが欲しい。
文化委員から、そんな見えない圧力があった。
「他に出したい料理はないか!?」
黒板に書かれているのは、定番メニューばかり。
もう、他に案はなさそう---
「長瀬、何か良いアイディアはないか?」
わ---っ、なんでこっちに来るのよ!?
折角現実逃避しようと思ったのに-!!
でも何か言わないと、この雰囲気からは逃れることはできない。
あわわ…
「えっと… チヂミなんて、どうかなぁ?」
「チヂミぃ?」
やっぱり駄目か。
咄嗟に出たとはいえ、これは流石にどうかと思う。
「まぁ、案の一つには加えておく」
そう言って、文化委員は私のそばを離れた。
でもその顔からは、少し満足していると感じられる。
…良かったのかな、これで?
そんな私を置いてきぼりにしたまま、文化祭の出し物は着々と進んだ。
「それじゃ、これで完全に決まったか。準備等は、明日以降決めていく」
結局は『焼きそば』に決定した。
その文字入には、白いチョークの○で囲まれている。
両脇を挟む様に、お好み焼きやたこ焼き、クレープが…
そして、私が咄嗟に提案した『チヂミ』はある。
「そりゃ無理でしょうね」
私は一人、そう零した。
基本的には多数決、皆の意思を纏める必要があった。
そんな私に皆は賛同するわけはない。
無理がある、よね…
「長瀬」
振り返れば、そこには文化委員が。
何の用で御座る?
まさか、嘲笑しにでも来たのか?
「私の案は見事に砕けた。流石は民主主義ね」
そうだ、私は完敗した。
例え私個人が幾ら強くとも、数の暴力には勝てない。
それに無益な争い事は避けようとする、日本人の性質だ。
私も日本人である以上、それには心の奥底で理解している。
「俺はそうは思わん。皆が消極的に活動する中、長瀬は個性を貫いた。少なくとも、他のものよりは優れている」
個性ねぇ…
「俺は長瀬の様に、自由になれない。羨ましいよ」
…何を言っている?
文化委員なりのポエムか?
予想外な発言に、私は戸惑うばかり。
「自由? まさか。貴方に指名されて、咄嗟に出ただけ」
皮肉に聞こえるかもしれないけれど、それが私の本音でもある。
「…そうか」
彼はそれだけを言い残し、教室から出ていった。
もしかしたら、彼は『自由な発想』を羨ましいと思ったのかな?
取り敢えず、次の授業があるので黒板を綺麗にしておくか。
日直じゃないけれど。
☆☆☆
「~♪」
アルティメギル前線基地にて、何やら陽気な鼻歌が…
「何をやってんねん」
「っと、メガ・ネか」
彼の後ろから声をかけたのは、メガ・ネプチューン。
廊下を歩いていた際に、鼻歌が聞こえたのだろう。
気になった彼女は、こうしてその元を辿ってきたようである。
「態々人間の姿に化けて、何処へ行くんや? まだ作戦は決行してへんやろ」
「確かにね… でも、僕らがそうじゃなくても、ツインテイルズを狙う連中は沢山いるはずさ」
アルティメギルとして、今は休戦状態に再び入るかもしれない。
そんな噂が各地で広まっている。
理由として、メガ・ネが話したように作戦が決行されない事にある。
ツインテイルズと交戦するも、ほぼ戦果は得られていない。
寧ろ同胞は減る一方で、彼らエレメリアンを纏め上げるには今は相応しくない。
更に、テイルグリーンやテイルホワイトによる存在が大きい。
彼女達は幹部クラスを軽く片付けてしまう。
その実力はツインテイルズを遥かに凌駕するだろう。
そしてその事実は、まだアルティメギルには伝わってはいない。
「ウチら以外に、誰が狙うんや? 地球ではツインテイルズはマスコット的存在。そんな
それは、彼女にとっては真実のはずである。
現在地球では、ツインテイルズを擁護する活動がなされている。
裏社会でもそれは同じであり、寧ろ反対派はいないはず。
だからこそ、彼の話は何処か腑に落ちないのだ。
「人間だろうとエレメリアンだろうと、全てを寄せる事はできない。オセロの様に、決して白か黒で統一することはないようにね。僕らアルティメギルがツインテイルズを毛嫌いする様に、人間にもいるはず。それを利用せずに、ツインテイルズに打ち勝つことはない」
至極真っ当な答え。
それにメガ・ネが反論する隙は、どこにもない。
だが---
「…何が言いたいねん?」
メガ・ネにはわからなかった。
彼がこれからする事が。
何故、人間へと化ける必要性があるのか。
いや、これは『溶け込む』と意訳した方が適切か。
「これから『文化祭』とやらを見物しに行くのさ。良かったらどうだい?」
すがすがしい顔でそう誘われるも、メガ・ネは辞退する。
意図が不明である以上、同行するには危険であると判断したのだ。
そして彼女は、イースナ---ダークグラスパーに極秘情報として報告すべきだと。
「残念♪ また機会があれば、デートを申し込むよ」
彼は舌をチロッと出し、それでも落胆した様子は見られない。
人間に模した姿見だからこそ、この様な仕草を行える。
…余計に、彼の思考を読めなくさせる。
メガ・ネはただ、彼を見送るしかできなかった。
人間ならば皮膚をくい込ませ、血を流す程に拳に力を入れて。
「…アホが」
☆☆☆
出店の方針が決まった。
後は部活動について、だ。
それについては、一体どうするのか?
それを聞くために、私は部室へと向かう。
「観束君、いる---」
「勝手にでしゃばるなー!!」
「あででで?! 私の可動範囲が広がるぅ~!!」
ツインテール部のドアを開けると、そこは修羅場だった。
愛香さんがトゥアールさんに、キャメルクラッチをかけている。
ドアを開けた瞬間から、骨がミシミシする音が聞こえるのだ。
これをホラーと呼ばずして、何がホラーなのだろう。
「あぁ、伊織先輩ぃ、この蛮族を何とか…」
「せいっ!!」
私の存在に気付いたトゥアールさんが私に助けを求めるも、愛香さんに決められた。
かけていた首を更に上へと持ち上げる事により、腰へのダメージが来たのだろう。
数秒ほど震えた後、意識を奪われた。
「えっと… 観束君は?」
「まだ来ていませんよ」
先程までの寸劇を忘れようと、私は愛香さんに尋ねてみた。
しかし、答えは私の予想とは異なっていた。
折角勉強の合間を縫って来たのに…
「まいったなぁ… 部の出し物について、聞きたいのに」
ツインテール部だからこそ、困るのだ。
ツインテイルズの活動をカモフラージュするためとはいえ、流石に活動しないわけにもいかない。
まぁ、恐らくツインテールについての調査発表会だろうけれど。
「それなら決まっていますよ。ツインテールについてあらゆる調査を発表するって」
マジか、予想が当たっていた!
適当に考えていたんだけど。
…それにしても、ツインテールか。
調べるにせよ情報量は少ないだろうな。
「了解。それで、私はどうすれば良い?」
「…」
愛香さん、何処か歯切れが悪いなぁ…
どうしたのかしら?
「ナニモナイ」
「…?ぇ」
「何もしないで良い。私にも、そう言われたの」
どういう事?
私のみならず、愛香さんにも『厳命』されたの?
そうなるとトゥアールさんは…
「私も同様です。まぁ、大人しく引き下がる性分ではないですが」
「そうよ。今まで命懸けで戦ってきた仲間だもの。これしきの事でへこたれるあたしじゃないわ!!」
皆、メンタル強いわぁ…
私なんて、それを聞いた瞬間、動揺しちゃったもの。
そうなると、後は慧理那と桜川先生か。
「相変わらず、盛り上がっているなぁ」
「長い間空けてしまい、申し訳ありません」
…タイミング、良すぎない?
何、この狙いすましたかの様な。
「部長さんからの話は?」
「えぇ、聞き存じておりますわ」
「観束の奴、無茶しなければ良いが… こういう時こそ、将来の妻たる私の出番だ!!」
やっぱり、彼女達についても同様か。
この様子じゃ、リンもだね。
しかしながら、いつもの観束君らしくない。
思い返せば、心あたりが…
アドレシェンツァでの際、彼は終始笑っていたが、何処か悲しそうな感情が見え隠れしていた。
私、何かやったのかな?
「(…後で謝るべきかな)」
小声で、私はそう言う。
☆☆☆
『久し振りだな、少年』
…本当に、久し振りだ。
ここへ来たのは、アラクネギルディ戦以来だ。
俺はまた、境地へと来たらしい。
『お前はツインテールと共に歩む、私にそう誓った。だがその決心に揺らぎが生じている』
揺らぎ。
恐らく、唯乃とテイルグリーンの戦闘を見てからだ。
いや、あれは戦闘ではなく一方的な破壊としか表現できない。
俺が見たかつての彼女に近く、しかし最も遠くなった。
もうツインテールやポニーテールを、超越した何かになっていた。
俺は、それに『恐れ』を抱いてしまったのだ。
『お前の信じるツインテールは、確かに強大で届かない存在だ。それを得るには、更なる修羅の道を歩まねばならない』
わかっているさ。
アラクネギルディに打ち勝ったけれど、それはまだスタートラインにようやく立てた程度。
俺が手にするツインテールは、まだその先にある。
『だがそれは、ほんの些細なことだ。私が危惧しているのはテイルグリーン、彼女だ』
テイルグリーン…
伊織先輩についてか?
だがそれは、テイルレッドである俺以上だと?
『彼女のテイルギアには、予想以上の負荷がかかっている。これ以上の稼働は、危険性を増大させるだろう。最悪、彼女諸共爆発するかもしれない』
馬鹿な?!
トゥアールの話では、特に異常はないって---
『それだけではない。彼女の体には、私でも分析できない何かを内に秘めている。もし君達がこれを放置するならば… いずれ彼女は人間を超え、エレメリアンとなる』
おい、嘘だろ!?
先輩が、エレメリアンに…
『その将来を決めるのは、間違いなく君の決断次第だ。君がツインテールを信じるならば、道は必ず開かれん---』
待ってくれ、ツインテール!!
俺はどうすれば良いんだ!?
俺が彼女に出来ることって、一体何なんだよ!
「---待ってくれ!!」
呼吸が荒い。
俺は、夢を見ていたのか。
ったく、どんな悪夢だよ…
(おっと)
ここは市立図書館だった。
周りは勉強している人で、埋め尽くされているんだ。
彼らを邪魔するわけにはいかない。
俺は再び席に座り、本を開いた。
調べるのは、ツインテールに関することだ。
(俺が不甲斐ないばっかりに、仲間を傷つけてしまった。だからこそ俺は、ツインテールをもっと調べなきゃ---)
それに、もうすぐ文化祭だ。
ツインテール部の出し物として、最良のはず。
部長としても、ツインテイルズのリーダーとしてもしっかりしなければ…!!
頬を思いっ切り叩き、奮い立たせる。