「そろそろ、行動を起こすべきではないかね?」
暗闇が支配する空間に、年配男性の声が響く。
「落ち着きなさい。彼等は既に準備を整えているが、舞台がまだではない。これでは、劇ができないではないか」
制止をかけるは女性。
行動すべきだと判断した、男性を諭した。
一見すれば、女性は慎重で後手に回す。
もう一方は、猪突猛進で先手を討つ。
「何度も言うようだが、これは失敗は許されないのだ。決行する以上、戦果を挙げねば軍人の名が廃る」
「そうは言うが、手配は整えておるのか?」
「無論です。日本政府に手出しは致しませぬ。警視庁も自衛隊も、全て我が手に」
その報告に、賛同者は驚く。
今まで日本政府に対して、特に圧力を加える様な真似はしなかった。
しかしその
この作戦は、世界を巻き込む覚悟を得たことを示す。
「不安ならば、我々が手を貸しても良いぞ?」
「手出しは無用です。必ずや、ツインテイルズを我が手に---」
☆☆☆
「観束君は…?」
「それがねぇ、私が言っても言う事聞かないのよ。困ったわね」
アドレシェンツァ店内。
私は店長特性のカレーライスの作り方を学ぶために、ここへ来た。
厨房で作業している間、私は彼の様子について聞いてみたの。
「目にクマまで出来てね。あんな総ちゃんは、初めてよ」
「…」
やっぱり、無理していたんだ…
私は直接彼を見たわけではないが、何処か焦燥感に駆られている感じがした。
あんな事を続ければ、いずれ彼はどうなるか…!
「ちょっと、様子を見てきます」
「えぇ、伊織ちゃん!?」
あまりにも心配になったので、厨房を飛び出した。
未春店長に、彼がどこにいるか聞くのを忘れたけれど、大体何とかなる。
恐らく、自室だ。
階段を駆け上がり、2階へと辿り着くと…
「…何やっているの、2人共?」
茫然自失となった、トゥアールさんと愛香さんが座り込んでいた。
何というか、居たたまれない気分にさせられる。
「総二様らしくないです…」
「何で、あたし達を拒絶するのよ…」
そうまでして、部活動の出し物を一人でする必要があるの?
皆で作成してこそ、部活動の意義があるのに…!
私は観束君の部屋へと向かい、ドアをノックする。
『…伊織先輩?』
「聞こえているようね」
話はできる状態みたい。
もしこれで完全に沈黙だったら、どうしようと思ったから。
「何故、私達を無視するの? 何か悪いことでもしたかしら?」
『…いえ』
「伏し目が無いのなら、私の顔を見なさい!! この根性なし!!」
彼を怒らせる。
それは私が思いつく、最大限の方法だ。
テイルレッドとして活躍してきた彼なら、ここまで罵倒されて黙っているわけがない。
怒って余計にこじらせる可能性をあるけれど、できる限りは…
『そうでしょうね』
だけれど、返ってきたのは私の予想外だった。
随分と弱弱しい。
『先輩は--- テイルグリーンは強いから、そう言えるんです。唯乃をたった一人で追い込ませて、エレメリアンを瞬殺して。強いから、俺に『根性なし』って…』
強い?
まさか。
それよりも、このまま引きこもりになるつもり?
「修理費は払うわ」
「「…はい?」」
予め彼女達に断っておく。
そうしなきゃ、何をしでかすか分からないもの。
私は拳に力を込めて、ドアを破壊した。
「んなぁぁぁ!?」
「何やってんのよ--!?」
取り敢えず突入してみると、観束君は机にいた。
特に驚いた様子はなく、落ち着いていた。
部屋の明かりはついていたので、彼の顔はハッキリわかる。
髪はボサボサ、目にはクマができている。
「私にとって、強いか弱いかなんてどうでも良いの。戦いはね、何時だって命懸けなの」
襟元を引き寄せ、威圧ぎみに話す。
無理矢理にでも捕まえなければ、逃げ出しそうだったから。
「もし観束君一人で駄目なら、構わず私達を頼りなさい。私達は部活動の部員で、仲間でしょ?」
私だって、1人で戦っているわけじゃないもの。
リンのサポートが無いと、私はここまで来れなかった。
今彼が陥っている時こそ、私達が支えなければ…!
「本当に必要がある時に、頼ります。今は大丈夫ですので」
襟元を掴む手を払い、彼は私から背を向ける。
依然、彼は協力する気ははなからないようだ。
「…そう。それなら構わない」
説得するには、力不足だったか。
これ以上の策も無いので、私は諦めて部屋を後にした。
「やはり無理でしたか…」
部屋を出た直後、トゥアールさんがそう嘆息する。
愛香さんも予測通りか、と言った表情ね。
「直接手助けできないなら、陰でするべきね」
その真意を、2人は察知したみたい。
トゥアールさんと愛香さんは、頷いてくれた。
「何かと思って来てみれば… そういう事なら、私も協力するわ」
「「未春おばさん(義母様)!?」」
相変わらず、趣味が悪いねぇ。
私が部屋に突入する時には、既に階段の影に隠れていたんだけれど。
気配察知の能力が向上した辺り、私も武人となったか。
いや、彼女の存在をワザと言わないからか。
厭らしいな、私は…
「方針は決まった。こうなれば、するべき事は一つ---」
「その前に、ドアの修理費お願いね♪」
…はぁ。
彼の前に、私がしっかりとしなきゃ。
☆☆☆
「正気ですか!?」
『そうでなければ、どうと言う?』
電話越しに、信じられない内容が飛び込んで来た。
普段は冗談交じりにしか対応していない彼女も、流石に驚く。
「いくら上からの圧力とは言え---」
『それだけではない。こちら側も、ある程度の報酬は約束されている』
流石の彼女も、唇を噛んだ。
彼女は従うしかない存在とは言えど、ここまでは…
『お前も組織の人間である以上、分かっているはずだ』
「…御意」
本当はしたくはなかった。
だが、それを言えるほどの力はなかった。
『だが、それだけでは些か興がない。少しばかり、サプライズとやらを渡そう』
「…!?」
『六道学園高等部に、文化祭の招待状を送った』
もう、これは
彼女の顔は一気に青くなる。
『お前はただ、見ているだけで良い。自分が可愛いならな』
電話はそこで切れた。
☆☆☆
さぁさぁ、忙しくなってきた。
本格的に出店の出店計画を練らねば…
「焼きそばの具材についてだが---」
「コストをなるべく削減しないと。でなきゃ、破産するぞ!?」
「トッピングは、アタシの自由で♪」
『それは却下だ!!』
焼きそば一つでここまで熱くなれるのは、かなり珍しい。
確かウチのシステムでは、売り上げが1位になったら食券がクラス全員に渡されるらしい。
トロフィーも理事長から貰えるが、それは些細なものでしかない。
(そうだ。私が求めるのは---)
「長瀬。お前は客の対応と、宣伝に任せる」
酌量の余地は無いのか、文化委員。
勝手に人の役割を決めて、それで良いのか?
「どうせ、焼きそば一つできやしない。ならばせめて、バイトで培った経験を活かしてもらう」
なんか、見透かされた感じ…
でも、カレーライスで手一杯の今、余計な事はできない。
ここはお言葉に甘えさせてもらうが。
「ありがと。よく見ているじゃない」
「そうでなければ、クラスを纏められるわけがない」
私がそう素直に礼を言うとは思っていなかったらしい。
彼はもっともらしい言い分を残すも、顔が少し赤くなった。
…可愛いじゃない。
「待て、何処に行く?」
「決まっているでしょ、部活動よ」
「皆、いる?」
ツインテール部へと、急いで走ってきた。
途中先生に見つかって、注意されたけれどね。
部室のドアを開けると、まぁまぁ居た。
「まぁね」
そこにいたのは、愛香さんとトゥアールさん、慧理那と桜川先生だった。
ここにいないのは、観束君とリンだね。
そう言えば、長らくリンの姿を見ていないなぁ。
どうしたんだろ?
「トゥアールが、インターネットを通してツインテールに関する情報を集めているわ。あたしも、そのサポートに回っているの」
思い返せば、観束君が集めていたのは雑誌を含む書籍関係。
だとすれば、インターネット関係の情報は薄い。
それを補う形での調査は、理にかなった方法かもしれない。
「成程。それなら、私は観束君のフォローに入るわ」
「私も是非---」
「お嬢様には、生徒会長としての仕事があります。無理は禁物です」
慧理那も私と共に手伝おうとしたけれど、桜川先生に止められる。
それに気付き、彼女は項垂れてしまう。
ただでさえ、忙しいもの。
確かリンは書記に配属されたんだっけ…
最近はそんな話題が無かったから、忘れそうだった。
「それにしても困ったものだ。部活動の数が多いというのも、考え物だな」
「というと?」
「お前たちがツインテール部を発足させた後、部活動の登録数が増えたのだ。概ね、ツインテイルズを応援する事を目的としたものが大半だ」
そう言えば、観束君がツインテール部を発足させたのは単なる『ツインテール馬鹿』だったわね…
ソーラ事件でも、色々と騒動が。
思い返すだけで、頭痛が…
「文化祭が終われば、整理する必要があるな。ただでさえ部費は嵩む一方だからな」
でしょうね。
これ以上の大騒動は、御免被りたいので。
「それじゃ、私はまだ手伝いがあるので」
私はそう言い残して、部室を出ていった。
私の行き先は、教室ではない事を、先に言っておこう。
その道中、妙な人達にからまれてしまったが…
「おぉ、長瀬先輩!! ツインテール部から出られたんですか?」
「うぇ?」
「ならば、我ら陽月学園コスプレ部を手伝ってくださいな!!」
そう、最悪な人達に。
このコスプレ部も、ツインテイルズが本格参入してから発足されたようだ。
人数はそこそこいるものの、その看板広告たる女子部員は少ない。
…いるだけ、凄いとも思えるが。
「…何で?」
「手作りではあるんですが、ツインテイルズの衣装は揃いまして。ですが、テイルグリーンの衣装に合う人がいなかったんですよ」
テイルレッド、テイルブルー、テイルイエローのコスプレをする部員はいる。
だが、テイルグリーンを完全に着こなせる部員はいないらしい。
そこで私に、白羽の矢が立ったわけか。
「てなわけで、お願いします」
そりゃあ、合うでしょうね。
なんたって、本人だし。
それよりもテイルホワイトがいない事が気がかりだ。
「それよりも、一人足りないような…?」
「そうでしょうか? 確認したか?」
「あぁ。これで間違いないはずだぞ」
…リン、ご愁傷様。
人々の記憶から、欠落されております。
「ウチ以外もコスプレする生徒は多い。確か
へぇ、そんなにコスプレするんだ。
もしかしたら当日は、メルヘンチックになりそうね。
でも、そうまでして強調する必要があるのかな…?
「で、長瀬先輩、コスプレを---」
「却下」
話を逸らしても尚、懇願するのでバッサリ切っておいた。
そうしないと、しつこく食い下がるでしょうからね。
☆☆☆
「ようやく出番が回ってきそうね」
「…誰に言っているんです?」