Which do you love ?   作:ズケズケ

73 / 89
Episode.73【文化祭、開幕】

『只今より、○○年度陽月学園高等部、文化祭を開催致します』

 

アナウンスの開催宣言を皮切りに、校門よりお客さんが入ってくる。

そう、文化祭が開催されたのだ。

 

「聞こえたな、諸君。この戦に勝利し、栄光を勝ち取るぞ!!」

『オォーッ!!』

 

文化委員の言葉に、私のクラスは決起した。

…いつから戦国時代になった?

突っ込みたい気持ちはあったが、皆のやるきに水を差したくはない。

ここはスルーするべきだな。

 

(えっと、私のシフトは… 確か午前だったはず)

 

私のクラス以外にも出店は多くあるから、そこまで集客は見込めないと思うけれど。

でも、始まったからには精一杯しますか!!

 

「すいません、焼きそば2つ」

「はい、少々お待ちください」

 

決心したそばから、もうお客さんが。

営業スマイルで対応し、順調に廻していく。

その間にもお客さんは集まりだし---

 

(何でこんな事に---!?)

 

どえらい行列ができてしまった。

出店の焼きそばは、不味いとは言わないものの、普通のだよ?

どうしてまた、こんな人気が出たんだろう…

 

「ここの受付、かなりの美少女らしいぜ」

「あぁ。今タイムラインで、もっぱら話題になってる」

「握手とかしてもらわないと!!」

「なら、お釣りを貰う時がチャンスだ」

 

…そういう事か。

成程、腑に落ちたわ。

私自身は美少女と思った事はないが、まぁ嬉しい。

だけれど、(よこしま)な気持ちで来ないで欲しくもある。

 

「ちょっと借りるね」

 

なので、私は使い捨ての手袋を取りに行った。

理由は、察しの通りで…

 

「では、140円のお返しです」

 

小銭はキチンと渡すよ?

でも直接手に触れられない事がショックなのか、お客さんは少し落ち込んでいた。

…エレメリアン以外で、久し振りに変態を見た気がする。

当人が騒ぐには構わないけれど、周りを巻き込むのは勘弁して欲しい。

 

「1つお願いします」

 

今度は少しマトモだね。

ウチの生徒で、カップルときたか。

仲が良さそうで何より。

 

「おっと、ここは俺が払うから」

「駄目よ。私が奢るって言ってたんだから」

 

焼きそばができるまでの間、カップルはそんなやり取りを繰り返していた。

漫画やアニメではよくあるけれど、実際に見たのは初めて。

何というか、凄く苛つく。

どこか他所でやれっての。

 

「お待たせしました」

 

焼きそばができたので、カップルへと渡す。

割り箸は…2つで良いかもね。

どうせ、仲良くわけるだろうし。

 

「すみませんが、お返しします」

 

そう思っていたら、割り箸の1つを返された。

何となくだけど、彼の予想がわかる。

恐らく、憧れのシチュエーションである『あ~ん』をしてもらいたいのだろう。

なんとも、下心が丸見えだ。

 

「それじゃ、行こうか」

「うん♪」

 

焼きそばを片手に、カップルは手繋ぎをしたまま出店を去った。

あの感じだと、どこへ行っても怨恨を買うだろうね。

私が見ても、吐き気がするほどにラブラブだったし。

願わくは割り箸のように、ポッキリと別れてしまえ!!

 

「今度は3つを」

「はぃはぃ、只今」

 

…まぁ、なんだかんだ言いながら繁盛しているのは良い事か。

この調子だと、午後はかなり仕入れないと厳しくなるかも…?

 

☆☆☆

 

「…ふむ。文化祭とやらも、悪くはないな」

「~♪」

 

この陽月学園高等部に、珍客が訪れている。

彼らは一見すれば人間であるが、実際にはそうではない。

 

(あぁもう、最高のシチュエーションじゃないですか!? これを機に"怨み"殿に猛烈ラブアタックを仕掛けるチャンスなのです!! でも、こうしてそばにいるだけでも幸せです…)

 

彼の傍らにて、そんな妄想にふけっている。

思考が青春時代真っ盛りの高校生並にしかない。

そんな彼女の名前は、ウィッシュ。

アルティメギルの一角、"王室の茶会(ロイヤル・ティー・パーティ)"に所属するエレメリアンである。

 

「お前には、ピッタリな場所だな」

「それって…」

 

彼はそれらしい台詞を言った。

それは彼女にとって、褒め言葉であろうと思われた。

 

「こうして、人間の感情を集められるのだからな」

(あぁ… 僅かながら期待して、損でした)

 

確かに、エレメリアンである彼女にとって都合は良い。

だが、もう少し空気とやらを読んでもらいたい。

そう軽く後悔する、ウィッシュである。

 

☆☆☆

 

(…嘘でしょ?!)

 

それからというもの、客足が途絶えることは無かった。

お客さんの対応についていけず、調理を担当していたクラスメイトが駆り出される程に。

陽月学園って、一応進学校ではあるけれどそこまで有名でないはず。

こんなに人気(ひとけ)があるのは、かなり珍しいよ、これ…

 

「よぉ。繁盛やな」

「リン? 久し振りね!!」

 

そんな中、思わぬお客さんが来てくれた。

 

「シフトは午後からでな。それで様子をば見に来たんや」

「…それにしても、部活動も最近は顔を出さなくなったわね。何かあった?」

「いゃ~、ちょいと野暮用でな…」

 

私が部活動の欠席について問い詰めると、バツが悪いような感じで逸らした。

何か、怪しいわねぇ…

 

「焼きそば、あがりぃ!!」

「は~い」

 

おっと、世間話にふけっている余裕は無いんだ。

そろそろ接客業へ戻らなきゃ。

 

「どうぞ。私のクラスメイトが心を込めて作ったから、美味しいはずよ」

「なら、後で貰うわ」

 

あれ、食べないの?

そうつっこみたいところだけれど、既にリンの姿は無かった。

なんて逃げ足、恐らく追いつけないだろうな。

 

「まぁ良いか。それよりも---」

 

午前中は引っ切り無しにお客さんが来る。

私に休息は無さそうな感じ…

 

☆☆☆

 

(それにしても---)

 

先程の客---ユウは感慨に耽っていた。

伊織の姿を一目見て、明らかな違いを感じたのだ。

「男子3日会わざれば刮目して見よ」という、古来からの諺がある。

しかしそれは、女にも言えるのではないか?

 

「どうかしました、"怨み"殿?」

「いや、気にするな。それと僕の事は、"ユウ"と呼んでくれ。エレメリアンの名は、何かと不都合だ」

 

ユウの付添い人---ウィッシュは、彼の顔を窺う。

彼はそれに気付いて制するものの、名前は変える様に指示した。

エレメリアンの名前を使用しても別に困りはしない。

だが、彼女にばれてしまう事だけは、今は避けたいのだ。

 

「構いません。この"喜び"の感情を手に入れられるのですから…」

 

彼女は繋いでいた手を離し、両手を組む。

その姿は、まさに聖女その物。

彼女は本当に、そう感じていると見て取れた。

 

「(もっと、この時が続いて欲しい…)」

「どうした?」

「い、いぇ何でも!?」

 

ウィッシュがそう心で呟くも、声に出ていたらしい。

ユウが問いかけるも、彼女はオーバーリアクションで誤魔化す。

どうやら、まだ彼には本心を知られたくはないようだ。

 

(でも、そう思っている時に限って---)

 

彼女は感じ取れた。

その平穏は、すぐに崩れ去るであろうと。

 

「どうやら、祭りは次の出し物が出てきたようだ」

 

彼は瞬時に、事態を把握する。

この場所では見えはしないが…

明らかに豹変した事を、気配で察知したのだ。

そして、彼女の予感は的中する事を示している。

 

☆☆☆

 

いつも以上に賑わっている校舎の外を、ブラブラとしている。

えっ、出店はどうしたのって?

 

(驚いたわね… まさか、こんなに早く売り切れるなんて)

 

そう、予想外に大反響を呼んだのだ。

おかげで私はクタクタだっての。

途切れることもなく、お客さんは来る。

それに、注文数が一回につき複数頼むからねぇ…

そのせいで、クラスが予想していた量をはるかに超えてしまったのだ。

 

「(調理担当は、大急ぎで調達しに行ったし… その間は暇ね)」

 

そんな訳で、こうしてブラブラしている。

別に、ツインテール部に寄っても良いよ?

展示会だけれど…

正直、その必要性が見当たらない。

文化祭が終わるまでは、放っておくとしましょ。

 

(改めて見ると… コスプレ部って、意外と規模が大きいのね)

 

横を見れば、屈強なメイドがいる。

だけれどそれは桜川先生のような神堂家直属のではなく、コスプレだと一目でわかる。

動きが、彼女と比べると幾つか拙いもの。

そんな中、私がよく知っている人がいた。

 

「…何をしているんで?」

「見りゃわかるだろ。執事だ、しつじ」

 

うん…、しつじねぇ…

ハッキリ言えば、似合ってないから。

確かに、女性を始めとして人気が高いコスプレではある。

けれどそれを着こなせるかといえば、それは別問題。

 

「客引き、大変そう…」

「当たり前だ! 何でこのくそ暑い時に、こんな服装を… もっとあっただろうが!?」

 

私が心配そうに答えると、彼は天に向かって怒り散らしていた。

でも、少しばかり疑問が。

彼の言い様では、服装に選択権が無かったように聞こえた。

 

「あぁもう!! 何で文化祭が始まる前に、クーデターが起きたんだよ!?」

「(クーデタ―…!?)」

 

高校生という職業柄、何とも聞き慣れない単語が飛び出してきた。

それに私は、戸惑いを隠しきれない。

 

「なぁ… こっからは、俺の独り言なんだが---」

 

文化祭が行われる、その1ヶ月ほど前。

彼は部長として、その準備に勤しんでいた。

コスプレするための衣装を整えたり、部室の内装を変えたり。

特に部内で問題が発生することも無く、順調に進んでいた。

だけれども、突然分裂した。

簡単に言えば、どうやってコスプレの良さを広めていくかについてだ。

部長はコスプレする姿---コスプレイヤーとして、披露する手法を。

もう一方は、お客さんに実際に着させる事で、実感を得てもらおうというものだ。

どちらもコスプレを認知させる手法としては、間違ってはいない。

だけれど、彼には部長としてのプライドがあった。

それは互いに譲れないものとして、摩擦が悪化。

結果、もう一方が部長を降格、ヒラ部員とされてしまった。

 

(悲惨過ぎる…)

 

彼の独り言は、部長の苦悩を体現していた。

取り敢えず、この空気を何とか変えなくちゃ!!

その時、異常なまでに学校にそぐわない格好が多いことに気付いた。

 

「それにしても… コスプレしている人、多くない?」

「そうなんだよ!! 我がコスプレ部だけでなく、ミリタリー部もコスプレをし始めたんだよね。そのせいで、ウチの集客効果が減少してねぇ~」

 

ミリタリー部、か。

確か開催前に、力を入れている様な話は聞いたね。

しかし、その方法がコスプレとは。

まぁ、自衛官の制服をコスプレとして着ている人もいるか、ら一概に駄目とは言えないけれど。

 

「まぁ良いと思うよ? 防犯対策にはなっているだろうし」

「そうかなぁ… どうもあれはコスプレだけじゃない」

 

私が答えても、部長は決してミリタリー部を肯定しない。

そんなに気になるの?

よく、オタクが「同志は雰囲気でわかる」って言うけれど…

もしかしたら彼は、それで感じ取れたのかもしれない。

 

(…?)

 

彼に釣られて私も、何となく観察してみた。

そろそろ秋だけれど、今日は何となく暑い。

それなのに、ミリタリー部の彼は厚い武装に包まれていた。

しかしそれで動きにくい様子は見られない。

寧ろ本職の様な、機敏さを見せている。

 

(直接それを見たわけじゃないけれど… それでも怪しいわね)

 

たまにコスプレをした人を見かけるけれど、あれ程じゃない。

纏う雰囲気も、何処か私達とは一線を引いている感じ。

これも、エレメリアンとの日々の賜物なのかな…

 

「気味悪いぜ…」

「同感」

 

感じ方は違えど、共感できるところはあった。

 

「取り敢えず、暇だから追跡してみる。わかったら教えるから」

「おぅ、頼むぜ!!」

 

私は彼に近付き、その様子を伺おうとした。

その時彼は、確か校門をジッと見ていたなぁ…

まるでそこから何かが来るのを待っているかの様に。

 

(奇妙ね…)

 

突如、その平穏な文化祭を引き裂く音が鳴る。

校門から、トラックが爆走してきたのだ。

それも一台だけでなく、4台程が入ってくる。

お客さん達は、何事かと思い、硬直してしまう。

いや、恐らく何かのサプライズかと判断したのかもしれない。

だからこそ、静観するに留めたのだろう。

 

「何だか… 嫌な予感が…」

「分かるか。俺もだ」

 

校舎前にあるスペースに、ドリフトしながら駐車するトラック。

その後ろから、装備した兵隊が流れ出てきたのだ。

その手には、アサルトライフルが。

彼等が扱う様子から、偽物ではないと判断できる。

 

「これより、陽月学園高等部制圧作戦を行う」

 

その言葉を皮切りに、周囲は騒然とした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。