『只今より、○○年度陽月学園高等部、文化祭を開催致します』
アナウンスの開催宣言を皮切りに、校門よりお客さんが入ってくる。
そう、文化祭が開催されたのだ。
「聞こえたな、諸君。この戦に勝利し、栄光を勝ち取るぞ!!」
『オォーッ!!』
文化委員の言葉に、私のクラスは決起した。
…いつから戦国時代になった?
突っ込みたい気持ちはあったが、皆のやるきに水を差したくはない。
ここはスルーするべきだな。
(えっと、私のシフトは… 確か午前だったはず)
私のクラス以外にも出店は多くあるから、そこまで集客は見込めないと思うけれど。
でも、始まったからには精一杯しますか!!
「すいません、焼きそば2つ」
「はい、少々お待ちください」
決心したそばから、もうお客さんが。
営業スマイルで対応し、順調に廻していく。
その間にもお客さんは集まりだし---
(何でこんな事に---!?)
どえらい行列ができてしまった。
出店の焼きそばは、不味いとは言わないものの、普通のだよ?
どうしてまた、こんな人気が出たんだろう…
「ここの受付、かなりの美少女らしいぜ」
「あぁ。今タイムラインで、もっぱら話題になってる」
「握手とかしてもらわないと!!」
「なら、お釣りを貰う時がチャンスだ」
…そういう事か。
成程、腑に落ちたわ。
私自身は美少女と思った事はないが、まぁ嬉しい。
だけれど、
「ちょっと借りるね」
なので、私は使い捨ての手袋を取りに行った。
理由は、察しの通りで…
「では、140円のお返しです」
小銭はキチンと渡すよ?
でも直接手に触れられない事がショックなのか、お客さんは少し落ち込んでいた。
…エレメリアン以外で、久し振りに変態を見た気がする。
当人が騒ぐには構わないけれど、周りを巻き込むのは勘弁して欲しい。
「1つお願いします」
今度は少しマトモだね。
ウチの生徒で、カップルときたか。
仲が良さそうで何より。
「おっと、ここは俺が払うから」
「駄目よ。私が奢るって言ってたんだから」
焼きそばができるまでの間、カップルはそんなやり取りを繰り返していた。
漫画やアニメではよくあるけれど、実際に見たのは初めて。
何というか、凄く苛つく。
どこか他所でやれっての。
「お待たせしました」
焼きそばができたので、カップルへと渡す。
割り箸は…2つで良いかもね。
どうせ、仲良くわけるだろうし。
「すみませんが、お返しします」
そう思っていたら、割り箸の1つを返された。
何となくだけど、彼の予想がわかる。
恐らく、憧れのシチュエーションである『あ~ん』をしてもらいたいのだろう。
なんとも、下心が丸見えだ。
「それじゃ、行こうか」
「うん♪」
焼きそばを片手に、カップルは手繋ぎをしたまま出店を去った。
あの感じだと、どこへ行っても怨恨を買うだろうね。
私が見ても、吐き気がするほどにラブラブだったし。
願わくは割り箸のように、ポッキリと別れてしまえ!!
「今度は3つを」
「はぃはぃ、只今」
…まぁ、なんだかんだ言いながら繁盛しているのは良い事か。
この調子だと、午後はかなり仕入れないと厳しくなるかも…?
☆☆☆
「…ふむ。文化祭とやらも、悪くはないな」
「~♪」
この陽月学園高等部に、珍客が訪れている。
彼らは一見すれば人間であるが、実際にはそうではない。
(あぁもう、最高のシチュエーションじゃないですか!? これを機に"怨み"殿に猛烈ラブアタックを仕掛けるチャンスなのです!! でも、こうしてそばにいるだけでも幸せです…)
彼の傍らにて、そんな妄想にふけっている。
思考が青春時代真っ盛りの高校生並にしかない。
そんな彼女の名前は、ウィッシュ。
アルティメギルの一角、"
「お前には、ピッタリな場所だな」
「それって…」
彼はそれらしい台詞を言った。
それは彼女にとって、褒め言葉であろうと思われた。
「こうして、人間の感情を集められるのだからな」
(あぁ… 僅かながら期待して、損でした)
確かに、エレメリアンである彼女にとって都合は良い。
だが、もう少し空気とやらを読んでもらいたい。
そう軽く後悔する、ウィッシュである。
☆☆☆
(…嘘でしょ?!)
それからというもの、客足が途絶えることは無かった。
お客さんの対応についていけず、調理を担当していたクラスメイトが駆り出される程に。
陽月学園って、一応進学校ではあるけれどそこまで有名でないはず。
こんなに
「よぉ。繁盛やな」
「リン? 久し振りね!!」
そんな中、思わぬお客さんが来てくれた。
「シフトは午後からでな。それで様子をば見に来たんや」
「…それにしても、部活動も最近は顔を出さなくなったわね。何かあった?」
「いゃ~、ちょいと野暮用でな…」
私が部活動の欠席について問い詰めると、バツが悪いような感じで逸らした。
何か、怪しいわねぇ…
「焼きそば、あがりぃ!!」
「は~い」
おっと、世間話にふけっている余裕は無いんだ。
そろそろ接客業へ戻らなきゃ。
「どうぞ。私のクラスメイトが心を込めて作ったから、美味しいはずよ」
「なら、後で貰うわ」
あれ、食べないの?
そうつっこみたいところだけれど、既にリンの姿は無かった。
なんて逃げ足、恐らく追いつけないだろうな。
「まぁ良いか。それよりも---」
午前中は引っ切り無しにお客さんが来る。
私に休息は無さそうな感じ…
☆☆☆
(それにしても---)
先程の客---ユウは感慨に耽っていた。
伊織の姿を一目見て、明らかな違いを感じたのだ。
「男子3日会わざれば刮目して見よ」という、古来からの諺がある。
しかしそれは、女にも言えるのではないか?
「どうかしました、"怨み"殿?」
「いや、気にするな。それと僕の事は、"ユウ"と呼んでくれ。エレメリアンの名は、何かと不都合だ」
ユウの付添い人---ウィッシュは、彼の顔を窺う。
彼はそれに気付いて制するものの、名前は変える様に指示した。
エレメリアンの名前を使用しても別に困りはしない。
だが、彼女にばれてしまう事だけは、今は避けたいのだ。
「構いません。この"喜び"の感情を手に入れられるのですから…」
彼女は繋いでいた手を離し、両手を組む。
その姿は、まさに聖女その物。
彼女は本当に、そう感じていると見て取れた。
「(もっと、この時が続いて欲しい…)」
「どうした?」
「い、いぇ何でも!?」
ウィッシュがそう心で呟くも、声に出ていたらしい。
ユウが問いかけるも、彼女はオーバーリアクションで誤魔化す。
どうやら、まだ彼には本心を知られたくはないようだ。
(でも、そう思っている時に限って---)
彼女は感じ取れた。
その平穏は、すぐに崩れ去るであろうと。
「どうやら、祭りは次の出し物が出てきたようだ」
彼は瞬時に、事態を把握する。
この場所では見えはしないが…
明らかに豹変した事を、気配で察知したのだ。
そして、彼女の予感は的中する事を示している。
☆☆☆
いつも以上に賑わっている校舎の外を、ブラブラとしている。
えっ、出店はどうしたのって?
(驚いたわね… まさか、こんなに早く売り切れるなんて)
そう、予想外に大反響を呼んだのだ。
おかげで私はクタクタだっての。
途切れることもなく、お客さんは来る。
それに、注文数が一回につき複数頼むからねぇ…
そのせいで、クラスが予想していた量をはるかに超えてしまったのだ。
「(調理担当は、大急ぎで調達しに行ったし… その間は暇ね)」
そんな訳で、こうしてブラブラしている。
別に、ツインテール部に寄っても良いよ?
展示会だけれど…
正直、その必要性が見当たらない。
文化祭が終わるまでは、放っておくとしましょ。
(改めて見ると… コスプレ部って、意外と規模が大きいのね)
横を見れば、屈強なメイドがいる。
だけれどそれは桜川先生のような神堂家直属のではなく、コスプレだと一目でわかる。
動きが、彼女と比べると幾つか拙いもの。
そんな中、私がよく知っている人がいた。
「…何をしているんで?」
「見りゃわかるだろ。執事だ、しつじ」
うん…、しつじねぇ…
ハッキリ言えば、似合ってないから。
確かに、女性を始めとして人気が高いコスプレではある。
けれどそれを着こなせるかといえば、それは別問題。
「客引き、大変そう…」
「当たり前だ! 何でこのくそ暑い時に、こんな服装を… もっとあっただろうが!?」
私が心配そうに答えると、彼は天に向かって怒り散らしていた。
でも、少しばかり疑問が。
彼の言い様では、服装に選択権が無かったように聞こえた。
「あぁもう!! 何で文化祭が始まる前に、クーデターが起きたんだよ!?」
「(クーデタ―…!?)」
高校生という職業柄、何とも聞き慣れない単語が飛び出してきた。
それに私は、戸惑いを隠しきれない。
「なぁ… こっからは、俺の独り言なんだが---」
文化祭が行われる、その1ヶ月ほど前。
彼は部長として、その準備に勤しんでいた。
コスプレするための衣装を整えたり、部室の内装を変えたり。
特に部内で問題が発生することも無く、順調に進んでいた。
だけれども、突然分裂した。
簡単に言えば、どうやってコスプレの良さを広めていくかについてだ。
部長はコスプレする姿---コスプレイヤーとして、披露する手法を。
もう一方は、お客さんに実際に着させる事で、実感を得てもらおうというものだ。
どちらもコスプレを認知させる手法としては、間違ってはいない。
だけれど、彼には部長としてのプライドがあった。
それは互いに譲れないものとして、摩擦が悪化。
結果、もう一方が部長を降格、ヒラ部員とされてしまった。
(悲惨過ぎる…)
彼の独り言は、部長の苦悩を体現していた。
取り敢えず、この空気を何とか変えなくちゃ!!
その時、異常なまでに学校にそぐわない格好が多いことに気付いた。
「それにしても… コスプレしている人、多くない?」
「そうなんだよ!! 我がコスプレ部だけでなく、ミリタリー部もコスプレをし始めたんだよね。そのせいで、ウチの集客効果が減少してねぇ~」
ミリタリー部、か。
確か開催前に、力を入れている様な話は聞いたね。
しかし、その方法がコスプレとは。
まぁ、自衛官の制服をコスプレとして着ている人もいるか、ら一概に駄目とは言えないけれど。
「まぁ良いと思うよ? 防犯対策にはなっているだろうし」
「そうかなぁ… どうもあれはコスプレだけじゃない」
私が答えても、部長は決してミリタリー部を肯定しない。
そんなに気になるの?
よく、オタクが「同志は雰囲気でわかる」って言うけれど…
もしかしたら彼は、それで感じ取れたのかもしれない。
(…?)
彼に釣られて私も、何となく観察してみた。
そろそろ秋だけれど、今日は何となく暑い。
それなのに、ミリタリー部の彼は厚い武装に包まれていた。
しかしそれで動きにくい様子は見られない。
寧ろ本職の様な、機敏さを見せている。
(直接それを見たわけじゃないけれど… それでも怪しいわね)
たまにコスプレをした人を見かけるけれど、あれ程じゃない。
纏う雰囲気も、何処か私達とは一線を引いている感じ。
これも、エレメリアンとの日々の賜物なのかな…
「気味悪いぜ…」
「同感」
感じ方は違えど、共感できるところはあった。
「取り敢えず、暇だから追跡してみる。わかったら教えるから」
「おぅ、頼むぜ!!」
私は彼に近付き、その様子を伺おうとした。
その時彼は、確か校門をジッと見ていたなぁ…
まるでそこから何かが来るのを待っているかの様に。
(奇妙ね…)
突如、その平穏な文化祭を引き裂く音が鳴る。
校門から、トラックが爆走してきたのだ。
それも一台だけでなく、4台程が入ってくる。
お客さん達は、何事かと思い、硬直してしまう。
いや、恐らく何かのサプライズかと判断したのかもしれない。
だからこそ、静観するに留めたのだろう。
「何だか… 嫌な予感が…」
「分かるか。俺もだ」
校舎前にあるスペースに、ドリフトしながら駐車するトラック。
その後ろから、装備した兵隊が流れ出てきたのだ。
その手には、アサルトライフルが。
彼等が扱う様子から、偽物ではないと判断できる。
「これより、陽月学園高等部制圧作戦を行う」
その言葉を皮切りに、周囲は騒然とした。