「これより、陽月学園高等部制圧作戦を行う」
その言葉を皮切りに、武装した軍人がトラックから出て来る。
数は…大体40人程度かな。
その中には女性も複数いて、男性と遜色の無い武装を担いでいる。
手にはアサルトライフル。
そして、標準は陽月学園の生徒だけでなく、一般人にも向けられている。
「のわぁ~!?」
「…何やってんのよ?」
私の隣では、コスプレ部の元部長が騒いでいる。
ただでさえ厚着である執事服に、汗が染み込んでいく様子がまるわかりだし。
何を騒いでいるかと思えば、答えは意外と近くにあるもので…
「貴様らには、無駄な抵抗だ。両腕を頭に構え、跪け!!」
私の後頭部には、固い金属音がコツンと当たる。
もしかしなくても、銃だよね、これ。
…兎に角、状況が読めない。
ここは従うが先決だね。
周りは喚き散らし、混乱が生じている。
「仕方あるまい」
その瞬間、凄まじい銃声が鳴り響く。
案外、アサルトライフルの連射って五月蠅いのね…
その聞き慣れない音に、お客さんはまた混乱する。
その銃声は刹那か、永遠か…
「わかっただろう。大人しく従わないのならば、こうなると」
地面には、無数の穴が。
そのアサルトライフルの脅威を、目の当たりにした人々は声を失う。
あ~ぁ…これの修繕費って、どうなるんだろうか。
まぁ、一介の高校生である私が知る現実じゃないけれど。
「この学校の周囲一体を封鎖しろ」
「ハッ!!」
あら、一気に制圧作戦を行うんじゃ…?
でもこれで、ここの戦力は少しは減った。
現に、複数ある校門へ向かう一派がいる。
「(まぁ、それでも方針は変えないよ…)」
ここにはまだ、多くのお客さんがいる。
下手に動けば、巻き添えを喰らう可能性が高いのだ。
ここはジッと我慢の子、だね。
「…?」
そんな中、私に近付く軍人がいた。
身長は私よりも少し高めで、胸は私よりもかなり小振り。
ボブカットの20代の女性が、私の顔を覗き込んだ。
「お前…何者?」
少し片言だけれど、ちゃんと聞き取れる。
もしかして---
「私は、ここの高校生よ」
「果たして、そうかな…!」
一目見ただけでわかる。
彼女は、とてつもない何かを持っている。
そんな予感が、私を駆け巡る。
「まぁ良い。彼女に拘束具を」
「了解!!」
拘束具って、これまた厳重な…
そんな事を言っている合間にも、私の両手は手錠をかけられる。
しかも体をチェーンでグルグル巻にされてしまう。
どんな拘束の仕方よ、それ。
「ぷぎゅる」
「おぃ、長瀬-!?」
滅茶苦茶に重い…
そうか、普段はテイルギアの出力に頼り切りだったから。
今日は使わないだろうと、OFFにしてあるんだった。
「動かない方が良いぞ、高校生」
うん、随分と前から選択肢をミスしたっぽいね。
☆☆☆
「動くな、生徒ども!!」
この陽月学園の警備を兼ねている風紀委員が、何で…?
何で俺達に牙を向ける!?
「ここ、東校舎は封鎖された。もう逃げ場は無いぞ!!」
それも、リボルバー式拳銃で。
俺達を、撃とうってのか…?
「それであたし達を脅そうっての?」
不味いぞ愛香、煽るんじゃない!!
そう思っても後の祭り。
風を切る音が走り、窓ガラスに亀裂が生じる。
そして、彼女の頬には薄く鋭い切り傷が付けられた。
「我々は本気だ」
間違いなく、彼が撃った。
その証拠に、彼が持つリボルバー式拳銃の銃口からは硝煙が出ている。
「何故、この様な真似を…?」
愛香を支えるトゥアールが質問をするも、彼はそれを無視する。
だが、恐らく混乱を生じているのはここだけじゃないはずだ。
恐らく伊織先輩やリン先輩、慧理那の周りも---
「(兎に角、ここの制圧を開放するのが先決!!)」
それを感じたのか、2人も頷いてくれた。
さて、どうやって流れを変えるか…
「封鎖ですか… その割には人員が少ない気もしますねぇ」
「お前達が知る必要はない。すぐに開放されるだろうからな」
「ほぅ。ではその汗は何でしょうか?」
トゥアールの指摘に、風紀委員の動きが見られた。
少しばかり、動揺を示した。
だけれどそれは、愛香にとって十分な隙だ!
「悪いけれど、ジッとしていられないから」
愛香は教卓を蹴飛ばし、風紀委員を攻撃。
当然、彼には躱すことができずにまともに喰らってしまう。
そして、彼女は、教卓ごと彼を再び蹴とばした。
その勢いは留まる事を知らず、ドアをもへし折る。
しかも、金具ごと破壊して、密閉空間を開放したのだ。
「急いで脱出しなきゃ!」
そして、愛香は安全確認のためにドアから顔を出す。
しばらくして彼女は振り返るが、その顔は恐怖している。
「不味い… アイツの言ってた事、本当ね」
俺とトゥアールも、信じられない。
そんな訳で、俺達も確認してみる。
右方向には、小銃を携帯した男性が。
左方向には、各クラスごとに同じように存在している。
(マジかよ…!)
本当に、封鎖されたのかよ!?
これ、大人しくしていた方が良かったんじゃ…?
急いで首を引っ込める事で、彼らに怪しまれずには済んだ、はず…
「何だって、こんな事を?」
「あたしが知るわけないでしょ!?」
その事実が明確化されたことで、俺達もようやく事態の深刻さを理解した。
「普通ならば、警察が動きを見せても良いんですが」
「静か過ぎるわよね…」
そうなんだよな。
時間はあれから20分ほど経っているはずだが、学校の周りではそういった騒ぎすら聞こえない。
これには、流石の俺もおかしいと感じた。
「ここがこんな状態じゃ、本当に不味い。一刻も早く、生徒を退避させなくちゃ」
だったら、あたしの出番ね。
そう言って愛香は教室を出ていく。
「何するつもりだ!?」
「アタシが引き付ける。その隙に、、皆を逃がして!!」
そう簡単に言うなよ!?
アイツ、目の前の事に精一杯になって、状況を忘れていやがる。
これをどうやって、突破するんだ…?
でも、彼女の陽動は幾らか効果はあったようで、何人かは彼女の後を追って行った。
「本気で乱射してますよ。大丈夫ですかね…?」
「あぁもう! ごちゃごちゃ言っても仕方ない。兎に角、ここを取り戻すしかないだろ!!」
そうだ、俺達には一発逆転の奴がある。
変身はできなくても、確か身体強化はできるはずだよな。
「愛香のバックアップをする。トゥアールは、皆を」
「わかりました。では、御武運を」
ここでは不用意に動かない方が、良い選択なのかもしれない。
だけれど、あの馬鹿のせいでそれもできなくなった。
(もしかしたら、テイルレッドの正体がバレるだろうな)
そんな一末の不安を抱え、俺は愛香とは別方向へと向かった。
彼女と同じ方向へ行けば、別の道は危険性が増す。
一人でその場所へ向かうことはかなりリスクは高くなる。
「まだいたのか!? 大人しくしてろと言ったはずだ!」
見張りの人に見つかり、銃を乱射されてしまう。
もう少し上手く隠れられたらとは、思っている。
だけれど、見つかってしまった以上は仕方ない。
俺なりにこの学校を護って見せる!!
☆☆☆
(始まってしもた…)
突然の乱入から、既に1時間は経過しようとしている。
その間に、ほぼ全ての教室は占拠され、校門も封鎖された。
アクセスについても、手際の良さが見える。
外界のラインは全て遮断され、ネットも圏外。
つまり、助けを求める事はできなくなったということである。
(この様子やと、メイド部隊を抑えたみたいやな)
陽月際の間は神堂家のメイドが、監視役を務める話である。
事実、襲撃が行われるまではメイドが校舎内外を監視していた。
だがしかし、廊下を見ると、いるのは武装した軍人のみ。
恐らく、彼らがメイド達を無力化したのだろう。
「(何とかしたいけれど、上から押さえつけられたらなぁ…)」
彼女とて、こうして静観するしかない状況に苛立ちを隠しきれない。
本当ならばすぐさま行動に移し、事態を上手く収めたい。
「あぁ…どないすりゃええねん!?」
自身の無力さ、そして決断の無さに厭きていた。
「さっきから、何ウジウジしてるの?」
「む…」
そこに、クラスメイトが寄ってくる。
その手には、一本の刀が収められている。
「コレ、雨宮が持ってきたんだよね? 本当に偽物?」
彼女がそう疑うのは、無理もない。
リンのクラスは、体育館をステージとした劇。
その際、どうしても刀が必要となり、代表してリンが家から持ってきた。
「偽物にしちゃ、かなり重いし… 確かに本物と似た物が欲しいとは言ったけれど」
何で今更?
リンにも、そう思う節はあった。
本当の事を言えば、それは本物である。
だが、それを言ってしまえば余計なものを引き寄せかねない。
だが今は、そのような時ではない。
「スマン、貸して!!」
「へっ?!」
リンはクラスメイトから強引に、刀を奪った。
いや本来は彼女の所有物であるから、返してもらった方が適切な表現か。
そして刀を手に、彼女は教室を飛び出していった。
クラスメイトもその後を追うとしたが、危険性を考慮して立ち止まる。
「…これ、ヤバくない?」
「何故、貴様が?」
「ジッとはしてられへんわ。スマンけれど、お邪魔するで」
ダブルブッキング。
やはり、非常時はむやみやたらに動くべきではない。
そう後悔するリンである。
「邪魔なら、立ち去れ!!」
そう言って軍人は、容赦なく引き金を引く。
その弾丸はリンを中心として、廊下中を荒らしていく。
その煙の量は尋常ではなく、彼女の姿は隠れてしまう。
「…む」
「周りに注意せぇよ」
だが、リンの体に傷が付くことは無かった。
彼女に当たるはずの弾丸を、全て流したのだ。
無理に切り落としたり、弾こうものならば、弾丸は流れ弾と変化する。
それは直線状に走る弾丸とは異なり、どの軌道を描くのか全く予想できない。
だからこそ、彼女はこの選択肢を選んだ。
「大した技術だ。是非ともウチの軍にスカウトしたい」
「お生憎様、あんたらのところは興味ないから」
既に刀は、鞘から抜かれている。
リンが彼を攻撃する事に、躊躇いを覚える必要もない。
彼女は下ろした刀を振り上げる。
それだけならば、ただの素振りとしか映らない。
現に、彼は何の警戒をもしなかった。
だが---
「?!」
本能は『何か』を察したらしい。
彼は咄嗟に、廊下の端ギリギリに寄る。
その直後、突風が通り過ぎた。
それは突風と呼ぶには、段違いかもしれないが。
危険性がない事を確認するために、彼は待った。
謎の突風が通り過ぎて数秒後、爆弾による爆発とは異なる爆発が生じた。
恐る恐る後ろを振り返れば、壁に大穴が空けられていた。
「な…?!」
「加減間違えたわ、スマン」
彼が驚きを見せている間に、リンは間合いを詰めた。
それに気付き、彼は銃を構えるも既に遅い。
(…?)
彼は斬られた。
だが、そう表現するには違和感があった。
彼女は確実に、彼の体を捉えていたはず。
だが、その肝心の痛みが来ないのだ。
よく見れば、斬られたのは、迷彩服の上に来ていたアーマーのみ。
「邪魔や」
間髪入れず、リンは追撃を試みる。
刀を横に構え、彼の腹部に押し付けた。
その重みは凄まじく、ろっ骨を幾つか折る程に威力があった。
そしてそのまま、彼を吹き飛ばした。
彼は遠心力に振り回され、突風で出来た穴へ吸い込まれていった。
「この様子やと、どえらい目になるわなぁ…」
確認のため、リンは穴から外の世界を覗き見る。
そこは悲惨なもので、あちこちに武装した軍人がいる。
これを打開する策は---
(頼むから、下手な事はせんでよ… ツインテール部!)
状況は依然、最悪。
外部との連絡は寸断され、助けはない。