Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.75【熱いのはほどほどに】

「新堂家所属メイドである、この私を舐めるな!!」

 

桜川尊は、自身を拘束していた荒縄を引き裂いた。

その縄を乱暴に投げ捨て、彼女は起き上がる。

だが、視界は相変わらず役に立たない。

そもそも周りが真っ暗闇な以上、働く事がない。

 

(恐らく、何処かの倉庫だろう。ここへ動かしたという事は、余程私達の存在は面倒らしい)

 

そう仮定し、桜川先生は次の行動へと移す。

耳を澄ませ、微かな音にも反応できる様にした。

すると、ある方向から物音が聞こえた。

 

「そこか!?」

 

桜川先生はその方向へと走り、跳び蹴りをする。

だが、それでは容易にこじ開ける事はできない。

 

(ドアを破壊するには、足りない。まさか、溶接されたのか…?)

 

ドア全体を溶接する事はできなくとも、鍵穴付近は金属であるために可能だ。

それはつまり、ピッキングの技術は無能力とされる。

 

「無理すれば開かないこともない。だが、体力を無駄に消費するわけには…」

「メイド長--- いえ、桜川先生」

 

声をかけられる。

その後ろには、神堂家のメイド達がいた。

姿は見えずとも、声で誰かぐらいはわかる。

 

「ここはお任せを」

 

そのそばには、大勢のメイド達が体当たりでドアを破壊している。

 

「お前達…」

「先生は観束君の嫁になるんですよね? だからこそ、立ち止まっては駄目です」

 

そして、黒一色の空間は破られる。

 

「貴女の未来は、貴女自身で掴んでください」

 

そばにいたのは、メイドの中で一番若い者。

だが、彼女は誰よりも気を配っていた。

だからこそ、桜川先生の思いも焦りも感じ取れたのだ。

 

「---無論だ!!」

 

桜川尊は、その光へと走り出す。

 

「お前達は敵の排除、及び生徒の脱出を補佐せよ」

「イエス・マム!!」

 

☆☆☆

 

さぁ~て、どうすれば…

 

「…」

 

 

私は鎖で縛られたまま、地べたに倒されている。

少数ながら一般人もいるから、余計面倒なの。

私だけなら、打開策はあるけれど…

そして、私の視線には銃口を向けられている。

余計な行動は控えよ、って暗喩かな?

 

「ふぇっくしゅん!」

 

あぁ、地面すれすれだから、埃が…

どうせなら、もっとマシな待遇にしなさいよ。

変身できれば…

 

(あ)

 

ある。

打開策が。

でも、私の今の技量では一般人に被害を被る可能性が…

 

(でも、そんな事言っていられない!!)

 

幸い、一般人には怪我を負わせた形跡はない。

恐らく、最小限度に被害を抑えたいのだろう。

だったら、私のとっておきは敵味方には最適かもしれない。

 

(テイルギア、頼むわよ…!)

 

そう念じて、密かにテイルブレスを起動する。

確かテイルギアって、声でなくても起動することはできるはず。

それに変身とまではいかなくても、機能の一部はそのままでも使えるらしい。

前に一度だけ、リンが見せてくれたから。

 

『別にツインテイルズにならんでも、能力は使えるで。例えばやな---』

『ぬあっ!? お、重いんですけれど…』

 

そう、私の能力は重力操作。

そしてその範囲・程度は、ある程度は操作ができる。

リンが自力で見つけ出した、抜け穴だ。

 

(リンもその力で、必死に戦っているはず。だから---)

 

その瞬間、私を中心として20mに変化を与えた。

その証拠に、一般人も軍人も呻き悶えている。

やっぱり私には、細かい調整は無理っぽい。

でも死人がいないだけ、まだマシか。

 

「ぐ… 一体何が!?」

「体が、動かん…」

 

これで、テロリスト達の動きは封じた。

後は私の鎖を引きちぎるだけ…!

 

(って、あれ…?)

 

体が動かない。

重力を付加させた分、鎖の質量も増えたって事…?

余計悪化した---?!

 

(まさか、裏目に出るなんて… なら!!)

 

切り札・その2を使う!

属性玉変換機構(エレメリーション)手属性(ハンド)

 

「ぬぬぬ…!」

 

手には確かに、属性玉(エレメーラオーブ)の力が宿っている。

これなら、確実に破壊できる。

無理矢理鎖が引きちぎられた音が聞こえ、両腕が自由になった。

後は立ち上がり、制圧作戦を妨害するだけ。

この力なら、十分に戦力になる!

 

(軍人に最小の重力砲(グラビティ・キャノン)を放った上で、これを解除すれば大丈夫か)

 

そうすることで、一般人には被害は最小限で済む。

自分の正体がバレる可能性が高まるけれど、命には変えられない。

 

「いたぞ、この意地汚いガキが!!」

 

この騒ぎを聞きつけて、援軍が来たか。

ちょうどいい、うっぷん晴らしをさせてもらうか!!

私を含む、約十数名に容赦ない死刑執行がなされる。

でも、私がいることは計算外でしょ?

 

「なっ…!?」

「どういう事だ?!」

 

私達に向けて放たれた弾丸は、その役割を果たせなかった。

銃弾は一時空中で制止した後、無理矢理地面に叩き付けられた。

 

「どいて!!」

 

瞬時に間合いを詰め、テロリスト達の集団に入り込む。

そしてその一人に、肩に狙いを定めて手刀を叩き込む。

当てたのは右肩だから、相当なダメージだ。

それで気を抜く私じゃない、彼らに手を向け、テイルギアの流出を加速。

 

『グボアッ?!』

 

流石の彼らも重力操作には抵抗できず、吹き飛ばされてしまう。

そして校舎の壁に、思いっきりめり込んだ。

彼らが動かないところを見るに、気絶したみたい。

 

「せめてメイドさんがいたらなぁ…」

 

だけれど、そんな贅沢な事は言っていられない。

 

☆☆☆

 

「愛香、大丈夫だよな…?」

 

俺は今、どこにいるかすら分からない。

廊下は既に、俺達が知っている光景ではなかった。

要所要所は穴が空けられ、幾つかの教室は見るも悲惨な状態へと変貌している。

一体何をどうすれば、こうもできるのか…?

 

(それにしても、彼等の行動にはどこか不自然さがある)

 

教室を見ても、むやみやたらに破壊するわけではないらしい。

ある程度の数を爆破するというよりは、予め予定されていた…?

兎も角、彼女との合流が先決か。

 

「一体どこをほっつき歩いているんだ…?!」

 

俺は適当に歩きながら、合流を目指そうとした。

その時、思いがけないものを見た。

 

「どういう事だ」

 

俺達ツインテイルズの拠点の一つであり、皆の憩いの場。

そのツインテール部は、跡形もなく破壊された。

俺もぱっと見では気付かなかったが、転がっていたプレートからそう推測できる。

まるで、廃墟だ。

これがテロリストのする事か!?

 

「まだいたのか。子供は大人の言う事を聞くべきだぞ?」

 

俺が呆気に取られていた間に、後ろに付かれた。

後頭部には、固い物が突きつけられている。

もし従わないのならば、容赦なく射殺するという事か。

 

「さぁ立て! 両手を挙げろ!!」

 

ここは選択肢がない。

俺はその指示に従う。

 

「はぃ、ご苦労さん」

 

その声と共に、後ろの威圧感は消えた。

振り向けば、脇腹を抑えて蹲る男性が。

というか、その緊張感の無い声はまさか…!

 

「リン先輩!?」

「久し振りやな~」

 

こんなところで、思わぬ再開。

先輩、今まで何してたんだろうな…?

 

「これは一体…?」

「ウチも薄々は感ずるところはある。敵さんの正体もな」

 

凄い、そこまで把握するなんて。

 

「ツインテール部の奴らは?」

「愛香が勝手に出ていって… トゥアールはまだ教室に」

 

俺がその事実を伝えると、リン先輩の顔は変わる。

 

「すると、一番危険なんは彼女やな」

 

…不味い。

彼女の口振りからして、アイツが危険だ。

 

「今すぐ探さないと!!」

「無駄や無駄。それよか、別エリアの解放が先や」

 

ふと感じたが、どうして彼女はここまで冷静さを保てるんだ?

ただ俺よりも年上だから、って訳じゃあなさそうだ。

そう考えるのも束の間、先輩は勝手に歩いていく。

 

「この人、ほっといて大丈夫ですか!?」

「かまへん。どうせ、肋骨損傷でまともに動けんから」

 

あの僅かで、どれだけの力を込めたんだ!?

刀身は当ててはいないはずだから、恐らく柄だけ。

それでも力を伝えるには、瞬間ではできない。

 

「(ウチらは諦めてへん!!)」

 

俺は、これ以上の単独行動は危険だと判断した。

慌てて、リン先輩の後を追うとするか。

 

「(大丈夫。まだ、希望はある)」

 

☆☆☆

 

「来客にしては、横暴すぎない…?」

「構わん。もうすぐ、お前達が来客となるからな」

 

またもや、思わぬ組み合わせ。

津辺は、いつかの襲撃者と鉢合わせすることとなる。

楊は飛び膝蹴りで、彼女の顎を狙う。

だが彼女は、得物の箒で僅かに威力を殺した後、顔を横へずらしてギリギリ躱した。

 

「どうしてここを襲ったの!?」

「知らん。文句は上司に言え」

 

いつか見せた、シーラカンスギルディとの肉弾戦。

今回はそれ以上の激戦を見せた。

それも、生身で。

 

「私は軍人だ。命令とあれば、不条理も受け入れる」

「だからって、破壊する必要があるの!?」

 

訴えを乗せたストレートは、楊に届きはしない。

その手の平に、吸収されてしまう。

 

「それが、最も効率化された物だ。お前達では到底理解できないだろうが」

「…!」

 

彼女はこのまま放って置けない。

だからこそ、ここで足止めをする。

いや、願わくば叩き伏せる。

 

「人を殺して、校舎を壊して… 私達から、大切な物を奪わないで---!!」

 

握られた手に、刹那の揺らぎが生じる。

それを津辺は、見逃すことはない。

その指からすぐに離し、逆に相手の腕を捉える。

そして体を潜り込ませ、体重を乗せた肘打ちを叩き込む。

 

「そのために、アタシは、ここにいる!!」

 

その思いに、テイルギアは答えたのか。

先程の肘打ちに、追撃をかける。

情人ならぬ力が相乗し、彼女の体へとめり込ませていく。

 

「アタシには、まだやりたい事がある」

 

よろめきながらも、まだ戦意は失っていない。

今度は、回し蹴りを上段に打つ。

 

(ただの高校生のはずだ。だがこの力は?!)

 

その威力は、到底片手だけでは防げない。

咄嗟に両手を構え、衝撃を吸収しようと試みるも、危ない。

だが、押されつつもその場に留まった。

 

「だから、ここで負けていられない!!」

 

津辺はその軸足をも、攻撃へと転じる。

空中へ飛び、体を回転させてその軸足を腹部に蹴りつける。

先程の肘打ちのダメージがあるため、たまらないはず。

 

「津辺、何故お前が!?」

「へ… 桜川先生?!」

「む…」

 

そこへ援軍が。

これ以上の戦闘は、不利であると判断した。

楊は窓ガラスを突き破り、外へ逃げた。

実はその高さは3階だが、まるで猫の様に華麗な受け身を取ることで着地ダメージを抑えた。

 

「アイツ…!」

「知り合い、という訳ではなさそうだな」

 

津辺と桜川先生は、割れた窓ガラスからその様子を窺った。

彼女は2人を軽く見た後、校庭の方角へと走って行った。

 

「逃がすか!!」

「危ない。お前は死ぬぞ!!」

 

慌ててその後を追うつもりでいた津辺を、桜川先生襟元を掴むことで制した。

これ以上の深追いは禁物だ、そう言いたいのだろう。

 

「でも---」

「我々は、何のためにここにいる?」

 

桜川先生にそう問われ、初めて気付いた。

自分は目的を見失っていた、と。

戦いにばかり目を向け、大切な事を忘れていた。

これでは、彼女の事を責められないではないか。

 

「一度、我に返れ!!」

「…済みません」

 

叱咤され、ようやく津辺は思い出した。

そうして、彼女は冷静さを取り戻した。

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