「新堂家所属メイドである、この私を舐めるな!!」
桜川尊は、自身を拘束していた荒縄を引き裂いた。
その縄を乱暴に投げ捨て、彼女は起き上がる。
だが、視界は相変わらず役に立たない。
そもそも周りが真っ暗闇な以上、働く事がない。
(恐らく、何処かの倉庫だろう。ここへ動かしたという事は、余程私達の存在は面倒らしい)
そう仮定し、桜川先生は次の行動へと移す。
耳を澄ませ、微かな音にも反応できる様にした。
すると、ある方向から物音が聞こえた。
「そこか!?」
桜川先生はその方向へと走り、跳び蹴りをする。
だが、それでは容易にこじ開ける事はできない。
(ドアを破壊するには、足りない。まさか、溶接されたのか…?)
ドア全体を溶接する事はできなくとも、鍵穴付近は金属であるために可能だ。
それはつまり、ピッキングの技術は無能力とされる。
「無理すれば開かないこともない。だが、体力を無駄に消費するわけには…」
「メイド長--- いえ、桜川先生」
声をかけられる。
その後ろには、神堂家のメイド達がいた。
姿は見えずとも、声で誰かぐらいはわかる。
「ここはお任せを」
そのそばには、大勢のメイド達が体当たりでドアを破壊している。
「お前達…」
「先生は観束君の嫁になるんですよね? だからこそ、立ち止まっては駄目です」
そして、黒一色の空間は破られる。
「貴女の未来は、貴女自身で掴んでください」
そばにいたのは、メイドの中で一番若い者。
だが、彼女は誰よりも気を配っていた。
だからこそ、桜川先生の思いも焦りも感じ取れたのだ。
「---無論だ!!」
桜川尊は、その光へと走り出す。
「お前達は敵の排除、及び生徒の脱出を補佐せよ」
「イエス・マム!!」
☆☆☆
さぁ~て、どうすれば…
「…」
私は鎖で縛られたまま、地べたに倒されている。
少数ながら一般人もいるから、余計面倒なの。
私だけなら、打開策はあるけれど…
そして、私の視線には銃口を向けられている。
余計な行動は控えよ、って暗喩かな?
「ふぇっくしゅん!」
あぁ、地面すれすれだから、埃が…
どうせなら、もっとマシな待遇にしなさいよ。
変身できれば…
(あ)
ある。
打開策が。
でも、私の今の技量では一般人に被害を被る可能性が…
(でも、そんな事言っていられない!!)
幸い、一般人には怪我を負わせた形跡はない。
恐らく、最小限度に被害を抑えたいのだろう。
だったら、私のとっておきは敵味方には最適かもしれない。
(テイルギア、頼むわよ…!)
そう念じて、密かにテイルブレスを起動する。
確かテイルギアって、声でなくても起動することはできるはず。
それに変身とまではいかなくても、機能の一部はそのままでも使えるらしい。
前に一度だけ、リンが見せてくれたから。
『別にツインテイルズにならんでも、能力は使えるで。例えばやな---』
『ぬあっ!? お、重いんですけれど…』
そう、私の能力は重力操作。
そしてその範囲・程度は、ある程度は操作ができる。
リンが自力で見つけ出した、抜け穴だ。
(リンもその力で、必死に戦っているはず。だから---)
その瞬間、私を中心として20mに変化を与えた。
その証拠に、一般人も軍人も呻き悶えている。
やっぱり私には、細かい調整は無理っぽい。
でも死人がいないだけ、まだマシか。
「ぐ… 一体何が!?」
「体が、動かん…」
これで、テロリスト達の動きは封じた。
後は私の鎖を引きちぎるだけ…!
(って、あれ…?)
体が動かない。
重力を付加させた分、鎖の質量も増えたって事…?
余計悪化した---?!
(まさか、裏目に出るなんて… なら!!)
切り札・その2を使う!
「ぬぬぬ…!」
手には確かに、
これなら、確実に破壊できる。
無理矢理鎖が引きちぎられた音が聞こえ、両腕が自由になった。
後は立ち上がり、制圧作戦を妨害するだけ。
この力なら、十分に戦力になる!
(軍人に最小の
そうすることで、一般人には被害は最小限で済む。
自分の正体がバレる可能性が高まるけれど、命には変えられない。
「いたぞ、この意地汚いガキが!!」
この騒ぎを聞きつけて、援軍が来たか。
ちょうどいい、うっぷん晴らしをさせてもらうか!!
私を含む、約十数名に容赦ない死刑執行がなされる。
でも、私がいることは計算外でしょ?
「なっ…!?」
「どういう事だ?!」
私達に向けて放たれた弾丸は、その役割を果たせなかった。
銃弾は一時空中で制止した後、無理矢理地面に叩き付けられた。
「どいて!!」
瞬時に間合いを詰め、テロリスト達の集団に入り込む。
そしてその一人に、肩に狙いを定めて手刀を叩き込む。
当てたのは右肩だから、相当なダメージだ。
それで気を抜く私じゃない、彼らに手を向け、テイルギアの流出を加速。
『グボアッ?!』
流石の彼らも重力操作には抵抗できず、吹き飛ばされてしまう。
そして校舎の壁に、思いっきりめり込んだ。
彼らが動かないところを見るに、気絶したみたい。
「せめてメイドさんがいたらなぁ…」
だけれど、そんな贅沢な事は言っていられない。
☆☆☆
「愛香、大丈夫だよな…?」
俺は今、どこにいるかすら分からない。
廊下は既に、俺達が知っている光景ではなかった。
要所要所は穴が空けられ、幾つかの教室は見るも悲惨な状態へと変貌している。
一体何をどうすれば、こうもできるのか…?
(それにしても、彼等の行動にはどこか不自然さがある)
教室を見ても、むやみやたらに破壊するわけではないらしい。
ある程度の数を爆破するというよりは、予め予定されていた…?
兎も角、彼女との合流が先決か。
「一体どこをほっつき歩いているんだ…?!」
俺は適当に歩きながら、合流を目指そうとした。
その時、思いがけないものを見た。
「どういう事だ」
俺達ツインテイルズの拠点の一つであり、皆の憩いの場。
そのツインテール部は、跡形もなく破壊された。
俺もぱっと見では気付かなかったが、転がっていたプレートからそう推測できる。
まるで、廃墟だ。
これがテロリストのする事か!?
「まだいたのか。子供は大人の言う事を聞くべきだぞ?」
俺が呆気に取られていた間に、後ろに付かれた。
後頭部には、固い物が突きつけられている。
もし従わないのならば、容赦なく射殺するという事か。
「さぁ立て! 両手を挙げろ!!」
ここは選択肢がない。
俺はその指示に従う。
「はぃ、ご苦労さん」
その声と共に、後ろの威圧感は消えた。
振り向けば、脇腹を抑えて蹲る男性が。
というか、その緊張感の無い声はまさか…!
「リン先輩!?」
「久し振りやな~」
こんなところで、思わぬ再開。
先輩、今まで何してたんだろうな…?
「これは一体…?」
「ウチも薄々は感ずるところはある。敵さんの正体もな」
凄い、そこまで把握するなんて。
「ツインテール部の奴らは?」
「愛香が勝手に出ていって… トゥアールはまだ教室に」
俺がその事実を伝えると、リン先輩の顔は変わる。
「すると、一番危険なんは彼女やな」
…不味い。
彼女の口振りからして、アイツが危険だ。
「今すぐ探さないと!!」
「無駄や無駄。それよか、別エリアの解放が先や」
ふと感じたが、どうして彼女はここまで冷静さを保てるんだ?
ただ俺よりも年上だから、って訳じゃあなさそうだ。
そう考えるのも束の間、先輩は勝手に歩いていく。
「この人、ほっといて大丈夫ですか!?」
「かまへん。どうせ、肋骨損傷でまともに動けんから」
あの僅かで、どれだけの力を込めたんだ!?
刀身は当ててはいないはずだから、恐らく柄だけ。
それでも力を伝えるには、瞬間ではできない。
「(ウチらは諦めてへん!!)」
俺は、これ以上の単独行動は危険だと判断した。
慌てて、リン先輩の後を追うとするか。
「(大丈夫。まだ、希望はある)」
☆☆☆
「来客にしては、横暴すぎない…?」
「構わん。もうすぐ、お前達が来客となるからな」
またもや、思わぬ組み合わせ。
津辺は、いつかの襲撃者と鉢合わせすることとなる。
楊は飛び膝蹴りで、彼女の顎を狙う。
だが彼女は、得物の箒で僅かに威力を殺した後、顔を横へずらしてギリギリ躱した。
「どうしてここを襲ったの!?」
「知らん。文句は上司に言え」
いつか見せた、シーラカンスギルディとの肉弾戦。
今回はそれ以上の激戦を見せた。
それも、生身で。
「私は軍人だ。命令とあれば、不条理も受け入れる」
「だからって、破壊する必要があるの!?」
訴えを乗せたストレートは、楊に届きはしない。
その手の平に、吸収されてしまう。
「それが、最も効率化された物だ。お前達では到底理解できないだろうが」
「…!」
彼女はこのまま放って置けない。
だからこそ、ここで足止めをする。
いや、願わくば叩き伏せる。
「人を殺して、校舎を壊して… 私達から、大切な物を奪わないで---!!」
握られた手に、刹那の揺らぎが生じる。
それを津辺は、見逃すことはない。
その指からすぐに離し、逆に相手の腕を捉える。
そして体を潜り込ませ、体重を乗せた肘打ちを叩き込む。
「そのために、アタシは、ここにいる!!」
その思いに、テイルギアは答えたのか。
先程の肘打ちに、追撃をかける。
情人ならぬ力が相乗し、彼女の体へとめり込ませていく。
「アタシには、まだやりたい事がある」
よろめきながらも、まだ戦意は失っていない。
今度は、回し蹴りを上段に打つ。
(ただの高校生のはずだ。だがこの力は?!)
その威力は、到底片手だけでは防げない。
咄嗟に両手を構え、衝撃を吸収しようと試みるも、危ない。
だが、押されつつもその場に留まった。
「だから、ここで負けていられない!!」
津辺はその軸足をも、攻撃へと転じる。
空中へ飛び、体を回転させてその軸足を腹部に蹴りつける。
先程の肘打ちのダメージがあるため、たまらないはず。
「津辺、何故お前が!?」
「へ… 桜川先生?!」
「む…」
そこへ援軍が。
これ以上の戦闘は、不利であると判断した。
楊は窓ガラスを突き破り、外へ逃げた。
実はその高さは3階だが、まるで猫の様に華麗な受け身を取ることで着地ダメージを抑えた。
「アイツ…!」
「知り合い、という訳ではなさそうだな」
津辺と桜川先生は、割れた窓ガラスからその様子を窺った。
彼女は2人を軽く見た後、校庭の方角へと走って行った。
「逃がすか!!」
「危ない。お前は死ぬぞ!!」
慌ててその後を追うつもりでいた津辺を、桜川先生襟元を掴むことで制した。
これ以上の深追いは禁物だ、そう言いたいのだろう。
「でも---」
「我々は、何のためにここにいる?」
桜川先生にそう問われ、初めて気付いた。
自分は目的を見失っていた、と。
戦いにばかり目を向け、大切な事を忘れていた。
これでは、彼女の事を責められないではないか。
「一度、我に返れ!!」
「…済みません」
叱咤され、ようやく津辺は思い出した。
そうして、彼女は冷静さを取り戻した。