「どういう事ですの、これは!?」
生徒会室。
ここでは、緊急事態への対応に勤しんでいた。
最も、殆どが機能不全に追い詰められた状態で、どうすべきか。
放送も使えず、役員の半数は拘束されたらしい。
(誰がこんな事を…?)
神堂慧理那は、持てるべく全てを使う。
今は理由を詮索するよりは、この事態を打破すべきだと。
だが、自分一人ではどうする事もできない。
「観束君なら、どうすべきでしょう」
右手首に付けられた、テイルブレスを撫でる。
『神堂慧理那』としては、何もできない。
だが『テイルイエロー』なら、できる。
彼女ならば、恐らく一個中隊でも相手にできる。
『お前は生徒会長だ。なら、慧理那にしかできない事をすべきだ』
「…そうですよね」
観束らしい台詞を思い浮かべ、微笑みが出る。
そして、何かを決意した。
「先ずは教師達に連絡が取れるか、確認を! その上で生徒の安全確認をお願いします」
「了解!!」
生徒会室に残る僅かな役員に指示を出す。
だが、それを制する者が横やりを入れた。
「お前さんはマスコットなんだよ、神堂慧理那」
「足立先生…? 一体何処におられたんです!?」
見れば、空いた窓から腰かけている。
かなりの高所であるはずだが、どうやってここまで来たのか。
「お前は何もできない。もう全ての手は、封じられたも同然なんだ」
窓から降り、慧理那を見据える。
その目は、明らかに降参しろと訴えていた。
「私はそうかもしれません。ですが、私と私の仲間はまだ諦めてはいません」
彼女も負けじと、彼を睨み返す。
両者はお互いに譲りはしない。
この場にいる役員は、ただ見守るしかなかった。
「側近のメイド達はどうした? それどころか、役員も殆どいない。これで諦めていないだと?! 馬鹿馬鹿しいにも程がある」
「離れていても、皆を守りたい気持ちは同じ。だからこそ、ここで投げ出すわけにはまいりません!!」
それどころか、ヒートアップ。
とてもではないが、話し合いという雰囲気ではない。
むしろ不味い方向に行ってはいないか…!
(ひ~ん、誰か助けて---!)
役員はただ、静観するしかなかった。
「成程。言葉で制せないなら---」
足立は限界に来ていた。
教師として、なるべく言葉で抑えようと努力はした。
だが、これ以上の会話は無用と判断した。
「現実を見ろ、神堂慧理那!!」
突如後ろを向き、何かを投げる。
その方向は、先程彼が侵入してきた窓だ。
そこにはテロリスト達の仲間が居座り、アサルトライフルを構えていた。
「なっ…!」
だが、放たれない。
否、放てないのだ。
彼の右手に深く万年筆の先が突き刺さり、反応を鈍らせたのだ。
「ここでお前達が動けば、こうなる。だからこそ、ジッとしてもらいたい」
そう冷たくあしらうと、足立は侵入者に近付き、蹴り飛ばした。
彼は振り向き、出入り口の方へ足を運ぶ。
「お前は今まで通り、マスコットであれば良い」
クツクツ笑い、華麗に出ようとした足立。
だが、そう上手く決められないのが人生とうもの。
突如ドアが開いたと思えば、彼は蹴り飛ばされたからだ。
「マスコットだと? お前はお嬢様を何だと思っている!?」
「尊? 無事でしたの!」
桜川尊、帰還。
そしてお嬢様を守るために、足立を攻撃したのだ。
何故彼女がここにいるのか、彼には理解できない。
「本当なら、アタシが蹴るはずなんだけれど… まぁいっか」
そのドアから、ひょっこりと津辺が顔を出す。
「お嬢様はマスコットではない。我々の、次の指導者となるものだ!!」
倒れている足立を無理矢理引き寄せ、そう強く言い放つ。
掴んでいる拳には、力が込められているのか震えている。
「そうか。それじゃ、お手並み拝見としますか」
彼はその手を弾く。
そしてゆっくりと立ち上がると、今度こそ生徒会室を出る。
「待ってくださいまし。今はテロリスト達で危険なんですよ!?」
慧理那が彼を制するが、既に外に出ている。
「彼女達が平気なら、俺だって大丈夫だろ。余計なお世話だ、生徒会長さんよ」
嫌味たらしく言い残すと、彼は廊下へと歩く。
生徒会室から彼の姿は、完全に消えたようである。
「それよりも、そーじはどうしたのよ?」
津辺の一言で、皆は気付いた。
まだ、危険な状態にある人物がいることに。
「まさか、観束君!」
「多分、アタシを追って教室を出た可能性が高いわ」
それを聞いて、更に絶望した。
「今は大丈夫だろうが、あの時は---」
「不味いですわ、尊!!」
☆☆☆
「(瓦礫ばっかり。どうやったらこうも酷くできるのかねぇ…?)」
小声でそんな事を呟きながらも、私は校舎へ戻ろうとしていた。
校舎の周りは無視するのかって?
校外は人員削減がなされていると推測できるからだ。
理由としては、校舎の所々で起きている火災。
それが陽月学園高等部の重要拠点を爆発したものであり、そこに動員させているかもしれない。
(下手すれば、そこにいる関係者諸共爆発するつもりで…!)
だからこそ、急いでいたんだ。
そう、最悪を目にするまでは。
「---? ----!?」
外国語で話す、迷彩服を来た女性が校舎前にいる。
左手に握られたのは、通信機か。
「…?」
しかも、運悪く通信が終わった。
そして、私の存在に気付いた。
彼女は今何も握られてはいないが、体術で来られるとかなり不味い。
(人生、詰んだわ)
彼女は素早く何かを取り出し、私に向けた。
直感で危険を感じた私は、横に飛ぶ。
その直後、地面が砕けた。
私が居た場所、正確には右足を狙ったんだ。
もしあのまま突っ立ってると、確実にやられていた…?
「Be gone !!」
英語でそう問われる。
私はその質問に、答えられない。
(…何て?)
数学が致命的なら、その他もあまり出来はよくない。
そんな私が、理解できると思った?
「Don't get in the way」
そう言って、彼女は本気で私を狙う。
ただでさえ状況把握できていないのに、これはないでしょ。
兎も角、遮蔽物が多い場所まで移動するしかない。
(むやみにテイルギアの力を使うのは良くない。節約しなきゃ!!)
必死に走りながらも、思考はクリア。
私が戦場慣れしている証拠だね。
私が通り抜けていく場所に着弾してくる。
立ち止まることも、引き戻すこともできない。
「…?」
そしてようやく、ゴミ収集所まで辿り着いた。
校舎の裏手にあるから、多少は遮蔽物がある。
私が急いで隠れると同時に、彼女も追いついた。
だけれど、見失ったのか拳銃を構えて前進する。
(打開策があるとすれば---)
隙をついての、攻撃。
だけれど、それを許す程相手は甘くない。
何しろ、本物の軍人なんだから。
ただの女子高生が、敵う相手じゃない。
真正面から突っ込めば、確実に蜂の巣だ。
「(もう一度、無茶するよ!!)」
意を決して、飛び出した。
それを感知した彼女は、引き金を引く。
だけれどそれは、一発も当たることはない。
小休止を挟む彼女だが、それはすぐに変わる。
別方向から飛び込み、その脇を通り過ぎる。
「!?」
そりゃ驚く。
私が瞬間移動したのかって、思ったでしょ?
「さぁ、イリュージョンの始まりよ!!」
幾つもの私が、彼女の周りを駆け抜ける。
彼女はあらゆる方向へ乱射するが、狙いが甘く外す一方だ。
これで、予想以上の隙ができた。
私はそこを突き、徐々に削っていく。
膝・腰・肩・首。
要所要所を叩き、バランスを崩してみる。
(分身体は全部、意識共有している。私が見る限り、確実にダメージはある)
何でこんな芸当ができるかって?
ふふふ、そろそろネタばらしとしますか。
"
そう、
一応変身せずとも、何故かこの機能は使えるのだ。
いらないと思っていたが、今は感謝している。
「捕まえた!」
銃口を掴み、思いっ切り握り潰した。
嫌な音を立てながら、武器は使い物にならなくなった。
慌てて彼女はサバイバルナイフを立てつけるも、無駄。
私の腕に刺さるどころか、途中で折れた。
右ストレートで当てようとしたけれど、彼女にギリギリで躱された。
その後、軽く風が薙いだ。
そしてゴミ箱をころがし、コンクリート片を生成する。
逆に腕を掴まれ、私の視界は逆転した。
「うぐぅ…」
そして、固め技を仕掛けてきた。
これならどんな馬鹿力も、無力化できる。
この臨機応変に、戸惑うだけだ。
流石、軍人ってか…
「その辺にしておけ」
途端、体にかかる重みが減った。
それに加えて、固め技も解けたから痛みもない。
どういう事?
「アイツに誘われて来てみれば… まさか、鼠退治をする破目になるとはな」
体を動かして、その人を見る。
私よりも遥かに背が高い男性。
でも、迷彩服は来ていない。
それどころか、私服だわ。
ガタイも良いし、体育系かも。
「大丈夫か? あまり無茶はするな」
「す、すみません…」
襲った女性を片手で持ち上げながら、私に叱咤する。
なんちゅう怪力…!
「ここは俺に任せて、さっさと避難しろ」
「はあ…」
この男性が誰か分からないけれど、このままよりはずっと良い。
いつまで相手をしなければならないかよりは。
お言葉に甘えて、ここを去るべし。
「(誰なんだろねぇ…)」
そんな疑問を、ふと漏らしつつも合流を目指した。
恐らく生徒会室に行けば、慧理那くらいはいるでしょ。
☆☆☆
「これはこれは… 何とも」
ユウはピンチの場にいた。
彼の周囲一体を武装した軍人が取り囲み、蜂の巣にせんとばかりに構えている。
彼には緊張感というものがないのか、飄々とした態度を取るばかり。
ウィッシュが居る事も、お忘れなく。
「(彼等は我々に、アダを返す気ですね)」
「(折角の良い関係だったのに…)」
彼等は背中を互いに預け、状況を窺っている。
できれば、このまま逃げられたら良かったが。
ユウには、ここを去るには些か惜しい気がしたのだ。
「ここで我々を討てば、関係は水の泡だぞ?」
「お前達には、これ以上の価値は無くなった。」
言葉をオブラートに包まず、ストレートに言い放った。
同時に、軍人が一斉に構え直した。
「やれやれ。こうなれば---」
ユウは嘆息する。
できる限り、穏便に済ませたかったが仕方ない。
だがこうなれば、実力行使しかない。
「燃え尽きてもらうか」
瞬間、彼等を業火が襲う。
それは自然界で生じるものでは、ない。
その証拠として、彼等の迷彩服が燃えているのだ。
「馬鹿な!? 特殊なコーティングで燃えないはず…!」
「僕を敵に回した事、後悔させるよ」
業火は留まる事はなく、更に広がり続ける。
苦しみ悶える軍人達。
最早、収集の着く状態ではない。
「こうも人間同士で争う必要があるのか、甚だしい。この様では、恒久和平など夢のまた夢だな」
ユウの呆れ顔は、人間に対する悲哀感を示した。
「君たちでは、
燃え盛る炎に囲まれるユウ。
しかし、暑がる様子は未だない。
「さぁ、君も送ってあげよう」
隊長格の軍人にそう告げると、彼はその場を離れた。
あの現象から、彼がタダモノでない事を認識したらしい。
「文化祭どころじゃなくなりましたね」
「それ以上だ。まだまだ、楽しませてもらおう」