「…参ったなぁ」
相変わらず、私の運は悪いなぁ。
これ程歩き回っても、誰とも会わない。
皆がまだ出歩けないってのもあるが…
「校舎でも駄目なら、どうすればいいのよ…」
思いっ切り肩を落とす。
津辺さんなら、きっと会えるだろうと踏んだのに…
(…ん?)
その時、ふと目に入ってきた。
あそこは確か、理科室だっけ。
そこから、妙に黒い煙が出ている。
「って、火事!? 不味い不味い!?」
慌てて辺りを見回した。
すると、運よく消火器があるではないか。
「(でも、ここで慌てたら駄目)」
だけれど何故か、この時は妙に冷静になった。
「(内側からロックはされていないけれど… 気配が殆どないのが気になる)」
どうも、これ自体が胡散臭いと思った。
なので、荒っぽく試してみようか。
そっとテイルギアの一部開放を行い、
ドアが嫌な音を立てて内側に倒れた瞬間、閃光が起きる。
「やっぱり--- ってこれはマズいでしょ~!?」
だけれど、逃げ出すにはもう
容赦なく爆炎は、私を通り抜けて行く。
そして、理科室は爆発した。
「…ぷはっ。これ、私じゃなきゃ死んでたわよ」
制服がボロボロになりながらも、何とか生き延びた。
今日ほど、生きている事に感謝することはないだろう。
「さっきのは、もしかして---」
取り敢えず、理科室には何かがある。
そんな気がして、迷わずに飛び込んでみる。
まだ爆炎が残り、視界が凄く悪い。
(まだ何かいる可能性が高い。気を引き締めていこう)
薄目だし、本当に視界が効かない。
いつ襲われても分からないからなぁ…
「---!!」
途端、殺気が。
それに警戒し、距離をとる。
だが距離は詰められ、首筋に冷たい感触が。
「無謀だな」
(その声---!?)
やがて、視界がハッキリしてきた。
その顔は、かなり久し振りだった。
「---ユウ!?」
「なっ、何故君が!?」
思いがけない再開。
互いに動揺しながらも、動けない。
「…これは失敬」
「もしかして… 遊びに来たの?」
そうでなきゃ、ここへ来る用はないからねぇ。
晴れた視界の先に、もう一人いた。
私よりは小柄で、お洒落なワンピースを着ている。
「奥にいるのは、彼女?」
その言葉に、彼女は凄く期待の顔をしている。
まるでそうだと言わんばかりに。
「いや、連れだけどそこまでじゃない」
ユウが補足すると、今度はがっかりした。
えらく、感情の起伏が激しいなぁ。
「彼女の名はウィッシュ。『希望』という名だ」
ユウは首筋に当てていたものを収めると、そう紹介してくれた。
「へぇ… その割には、満更じゃなさそうだけれど?」
「長い付き合いだからかな?」
そう答えるユウの顔は、平然としている。
これは、本気でそう思っているに違いない。
「---速く逃げなきゃ!?」
そうだ、再会に喜ぶ暇は無いんだ。
いつ壊れてもおかしくないし、まだ敵がうろついている可能性があるんだ。
ここに居座り続ける選択肢は、ないんだ。
「その力、まだ使い続けるんだ」
「…はぁ?」
折角逃げようと思ったのに。
意味深な言葉を、発さないでほしい。
余計、気になるじゃない。
「随分と、あの娘に執着心がおありで」
「半分正解で、半分間違いだ」
ウィッシュに諭されるも、軽く流す。
そんな彼女からは、凄まじいまでの嫉妬のオーラが…
この娘、案外ヤンデレに近いぞ。
「その力は強大だ。君がそのままでいれば、君で無くなる」
「「何それ?」」
あまり遠回しな表現は、理解を遠ざける。
今の言葉ですら、理解できない。
と同時に、ウィッシュさんもできなかったらしい。
「もう少し、解かりやすい言葉でお願いしますよ。私が一番苦労するんですから」
「安易に表現すれば、知能の低さを曝す事になる。君達だって、よく知っているはずだ」
相変わらず、分かりにくいなぁ。
もったいぶった言い方というか、
「もし君が生き残れば---」
ドアの前で一旦立ち止まる。
私に振り向かず、こう言い残した。
「僕の全てを、教えよう」
ウィッシュもその後を追う形で、理科室を出ていく。
炎も弱くなり、出るにはもってこいのタイミング。
だけれど、私はまだ出られなかった。
(不思議な人だとは思っていたけれど… また会えるのかな?)
その時、大きく地揺れが起きた。
というか、ここは元々不安定な場所だよね…
あの爆発で酷く壊れたとなれば---
「逃げるべきじゃない!?」
本来の目的は、それだし。
急いで行動に移すが、本当にギリギリだった。
ドアの近くにいた事が、幸いなのかも。
転がる感じで外に出ると同時に、理科室が崩壊した。
「た、助かった…」
この短時間に、何度ヒヤヒヤさせるのよ。
寿命が縮んだわ!
(ユウたちはもういないか…)
まぁ、彼等だって暇じゃないか。
私の安全ですら、保証がないし。
今は、その確保を優先するべきか。
「それよりも、あの侵入者たちを何とかしなきゃ」
まだ戦力について、把握しているわけじゃないから。
この様子だと、本当に警察が来ないみたいだし。
(先ずは、誰かと合流したいわね。リンなら、恐らく---)
当てずっぽうな感じだけれど、彼女が行きそうな場所はなんとなくわかる。
兎も角、ずっと一人は危険だからね。
☆☆☆
「さて、キッチリ精算してもらおか」
リンがいる場所は、荒れ果てたグラウンド。
地面はもう、使い物にならないだろう。
そんな環境の中、ジッと睨み付ける。
「---!!」
彼女に対するのは、先程の襲撃者の一部。
恐らく、外からの襲撃を懸念しての事であろう。
だが、ここまで狂わされたことは想定外らしい。
銃を構えるその手には、僅かに震えが見える。
この部隊に配属されて、まだ浅いのか…?
「ショボイけど… まぁ、ええか」
彼女が偶然見つけ出したのは、陸上競技で使われる槍。
そこそこに突貫力はあるが、武器を貫通することはないはず。
だが彼女は、あえてそれを選んだ。
彼女は構え、彼に向けて投げた。
「…狙い通り」
だが、彼には当たらない。
まあかすりはしたが。
かれの横を通り抜け、当てた場所---
襲撃の際に使用したトラックの後輪である。
刺さったタイヤの空気は、勢いよく抜け始めていく。
これで少しは、敵の足止めとなるだろう。
「とんでもない事、してくれた」
その時、彼女の背後に誰かがいた。
言葉の抑揚から、学校関係者ではない。
振り返れば、容赦の良い女性がいる。
だが雰囲気からして、良くはなさそうな展開である。
「…ッ」
それだけでなく、彼女の仲間も集まってきた。
多勢に無勢、このままでは厳しい。
この場に陽月学園の関係者は彼女だけとはいえ、派手に暴れるわけにもいかない。
リンは渋々、降参を示そうとしたが---
「やっと見つけたわよ、リン!!」
なんとも空気を読まない、馬鹿がいた。
散々探し回ったのか、息が少し荒い。
軽くしゃがみながらも、声だけはリンや襲撃者たちには聞えている。
(あのドアホウが。何で今やねん…)
リンは内心、呆れていた。
タイミングが悪すぎる。
彼女の考えでは、最悪自分だけを犠牲にするつもりであった。
だが、これではご破算だ。
「…お邪魔でした?」
ここでようやく、伊織もこの事態に気付いた。
銃を彼女に向け、臨戦体制に入ってしまった。
「何で来たんや、伊織!?」
「だって--- 心配だったんだから!!」
通常ならば、手放しで喜んでいた。
だが今は、正解ではない。
(ここでグズグズしてたら、アカンわ。そろそろ別の部隊が来る頃やろうし…)
「成程、仲間か。ならば、容赦なく殺せるな」
リーダー格の女性はそう呟き、伊織へと歩み始める。
もう完全に、逃れることはできなかった。
「---?」
それを合図に、リンの周囲一体を軍人が囲っていた。
言葉で制するのは、放棄するということか。
「人数では、我々が勝っている。無事に帰れるとは思わないことだ」
「寝言は寝て言いなや」
ニヤリと笑うリーダー格だったが、それはすぐに変貌する。
振り返れば、囲んでいた戦闘員h全て倒れていた。
「…お前、何者だ?」
戦闘員が問いかけるが、リンはそこまで親切じゃない。
兎も角、これで初めて有利に立てた。
☆☆☆
「校内の56%まで安全圏を確保できました」
「体育館も奪還したようです!」
生徒会室は騒然としていた。
校内各地に向かわせたメイド達から、トランシーバーを通して情報が入ってくる。
聞こえてくるのは、吉報ばかり。
「何とかなりそうですわ」
慧理那は安堵していた。
だが、桜川先生はそうではなかった。
「まだだ。まだ、愛香と総二の確認が取れていない」
「そういえば…」
その事実に、慧理那は焦り出す。
「大丈夫でしょうか…?」
「まだ、報告がない。恐らくは---」