一言で言えば、硬直状態。
リーダー格に、私とリンが挟み込む感じ。
『…』
周りは、リンが一瞬で叩き伏せた軍人達。
彼女にとっては、孤立無援の状態だ。
「どないする? 逃げるんなら、今のうちやで」
リンがさり気なく、逃げ道を提案する。
だけどそれって、相手は聞かないと思うよ。
彼女なら、後ろからそっと撃つかもしれないし…
「なるほど。貴女の指揮ならば、我々が手玉に取られるのは道理です」
閑念したのか、彼女は深く溜め息をついた。
日本語、話せたんだ…
てか、
「リン… 知り合い?」
「いや、ウチは初めてやけれど…?」
私も知らないしなぁ…
じゃぁ、『貴女』ってだれ?
「今回は我々のメインに失敗した。こうなった以上、待機は危険と判断した。」
彼女上空へ、別の銃の引き金を引く。
それは派手に飛んで行った後、凄まじく発行する。
「これは… 信号弾!?」
「では、失敬する」
言うが早いか、リーダー格はすっ飛んでいた。
既にトラックに乗り込み、アバよとでも言うかのごとく手を振った。
「待たんかい、ゴルアぁ!?」
ギャアああ、やあっぱり銃を隠し持ってた---!?
そして容赦なく、車体にキズをつけていった…
(容赦ねぇわ、やっぱり…)
改めて、リンの裏側を見た気がする。
「ここにいましたの!?」
その声は---
「慧理那? 津辺さんまで!?」
何で来た!?
まだ敵が襲ってくるかもしれないのに。
「光の元を辿って、ようやく追いついたわ」
「お怪我はごさいませんか?」
心配そうに、私とリンに尋ねてくれる。
その優しさが、今は痛い。
「しっかし、荒しまくっただけで、何がしたかったんだ? ただの破壊活動でもなさそうだし…」
リンが冷静に分析してくれた。
確かに、彼らは『何か』を探していたような…?
「まぁ、後でわかるか」
…何でそう、楽観的なんですかねぇ?
でも、これで終息したから良しとしますk---
「---!?」
何をわめいているかはしらないが、迷彩服を来た者がまだいた。
何と言うか、絶望感が表情豊かに表現された感じ…
「御愁傷様です」
思わず、合掌してしまった。
「そんな場合じゃないでしょ!? 早くとっちめないと」
向こう側も気付いたのか、銃を抜き出し発砲した。
咄嗟に防御に徹した私は、全面に過重力を生み出す。
勿論それは、弾丸の威力を殺すためである。
「大丈夫、みんな---?」
後ろを確認すると、誰かいない。
えっと、慧理那に津辺さん、私。
リンがいないか…
「遅いで」
気がついた時には、もう終わっている。
リンが拳銃を、思い切り蹴とばした後、物凄いスピードの連続蹴りを披露した。
「非道ですわね…」
「流石のあたしも、このスピードは出せないわね…」
うゎぁ、2人はドン引きじゃないの。
殺戮の現場を見てしまったわ、私達。
これを見たから、リンに殺される可能性が…
「ふぅ、始末完了♪」
そう汗を拭くリンの顔は、とてもすがすがしく。
同時に恐ろしさを増大させていた。
後ろで倒れている彼は、迷彩服がボロボロにされていた。
「今、一体何を---」
「一気に敵の懐に潜り込んで、叩き伏せただけや」
そんな事、一般人にはできないから…
あんたやっぱり、何処かおかしいよ!?
「で、のびている奴はどうします?」
「んなもん、縄でグルグル巻にすればええ」
「あ、でも拘束するなら---」
私の知らないところで、更にえげつない事になりそう…
折角、丸く収まりそうだったのに。
「---で?」
嘆息する桜川先生。
両手をはたき、更なる一仕事を終えたみたい。
「亀甲縛りにしたコイツは、一体誰だ?」
彼女が指すのは、気絶したボロボロ迷彩服の男性。
意識は飛んでるはずだけれど、何故か喜びの顔に満ちている…
すんごい、気色悪いわ。
「この学園を襲撃した部隊の一人です」
「私も対峙したが、かなりのやり手だった。もしあのままだったら、我々の敗北は決していただろう」
確かにねぇ。
私でも、かなり危うい状態だった。
彼らは一応、本気で制圧にかかっていたんだ…
「その上、これ程までの手際の良さ… 裏に何かあるかもしれん」
「つまり--- 共犯者が外部にいる、と?」
それは…どうだろうか?
確かに、これだけの人員を導入するには何らかの手続きが必要だ。
いきなり来るにしたって、この数は卑怯だったし。
「そもそも、警察や機動隊が抑えに来ないのも変ですね」
「人質となったウチらの被害を考慮したか、それとも---」
いまだこの学校は神堂家のメイドさん達が巡回することで、何とか平静を保ってはいる。
本来ならば、これは警察の役目なんだよね…
それに、ボロボロになった校舎も何とかしてほしい。
「まぁ、死亡者が出ないだけでも良かったじゃない!?」
津辺さんがすかさずフォローしてくれた。
言い忘れてはいたが、本当に死者はいなかったのである。
(神堂家のメイドさんが報告するには)
破壊された教室は、辛うじて人はいなかった。
そもそも、狙われた場所が殆ど使用されていないからってのもある。
銃を使用した割には、直接生徒に当たらないように配慮もしてくれたらしい。
まぁ、必死だった私たちは、気付くわけないけれどね…
「それにしても… よく無事でしたね、お2人とも」
「そうですよ!! 勝手に出ていくし、それに敵もぶっ飛ばすし」
今頃気付いたか…
勝手に出ていった私も悪いが、結構怖かった。
敵のリーダー格と対峙するわ、ユウと思いがけない再開だったのに殺されそうだわ…
もう散々!!
最後は相手が勝手に逃げてくれたから、本当に助かったわよ。
「ともかく、2人と愛香さんは無茶しないように!!」
『はぃ…』
そりゃあ、怒られるよね。
「でも、それなら観束君も同罪だよね? 彼はどこに…?」
「それでしたら---」
私が素朴な疑問をぶつけると。
トゥアールさんは、何やら機械を操作した。
そしたら、何にもない場所から降ってきたのだ。
「襲撃者同様に、縛っておきました♪」
「どうりで、話に入ってこないわけだ…」
トゥアールさんは、やっぱりトゥアールさんだったか…
見れば、されている当人は苦しそう。
ドMでないところ、少し安心した。
「何一人で突っ走ってんのよ!? 本当なら、アタシがするべきだった---」
「仕方ないでしょう? 私以外に自由な人がいませんでしたし」
津辺さん、怒るところ間違ってます…
でも、結論からして、無事は確認できた。
「とはいえ、これからが大変ですわ。校舎の修繕費の見積もり、生徒の安全確認、etc…」
「いや、恐らく慧理那の出番はないで」
…何で?
恐らく、皆が初めに感じた疑問。
でもそれは、後々分かってきた。
☆☆☆
『---では、貴女には事前に情報を得ていなかったということですか?』
『私達は何も知りませんでした。まさか、生徒たちの楽しみを、あのような形で踏みにじられるとは…』
『何も知らないわけないでしょう? それに、学校側の安全性にも問題があるのでは?』
陽月祭後の、登校日。
休日でさえ話題となった襲撃騒ぎは、今日も熱が冷めない。
『確かに、生徒数を見れば問題がなかったとは否定できません。ですが、私達とて最大限の努力はしました』
『あの学校の敷地面積を考慮すれば、警察に頼っても良かったのでは? もしそうすれば、今回の大事件は多少抑えられたはず』
陽月学園の理事長・神堂絵夢は画面におり、記者たちの執拗な質問に耐えていた。
冷静沈着な彼女の顔からは、薄く汗が流れている。
「事件の責任追求にしては、穏やかじゃないわね」
「母さん…」
同じリビングで見ていた母さんも同意見だ。
少なくとも、慧理那のお母さんは俺達を影から守ってくれたはず。
その応酬かこれじゃ、割に合わないじゃないか!!
『学園祭の企画書では、何かしらのサプライズを提供する予定が組み込まれていました。もしそうならば、あれが---』
『あれは私のサプライズではなく、招かれざるお客様にすぎません。あれ程散らかした上で、何も言わずに立ち去れられたのですから』
聞いているうちに、悲しくなってきた。
イベントってのは、皆で楽しむものだってのに…
なんでここまで---
「今回の事件が不安を煽り、神堂家が所有している会社の株価が下落しています。それも偶発的とは考えがたいですが…」
トゥアールも起きだした。
だが、目下にクマができていることから、一晩中情報を集めていたのか…
『神堂理事長。最後に一言』
『…』
記者会見もいよいよか。
依然として、彼女の顔は揺るがない。
『陽月学園の理事長として、生徒を守れなかったことについて謝罪します。この件を反省し、今後このような事態を招かぬよう、対処いたします』
その言葉を最後に、理事長は席を立った。
お約束のごとく、記者たちは執拗に彼女に求めていく。
非常に、辛すぎる…
「私達も用心すべきです。理事長ほどでなくとも、白い目で見られるでしょうし」
そうは言っても…
授業がある以上、向かわねばならない。
「皆さんはどうしているんでしょうか?」
「あ~… 一応、聞いてみるか?」
皆も学校へは来るだろうからな。
その時に聞けば良いだろ。
「では、私が総二様ぼボディガードとして同行致します」
「そう言って、思い切りくっつきたいだけだろ!?」
久し振りすぎて、慌ててしまった。
こうもスキンシップが過激だと、そろそろアイツが---
「落ち込んでいると思えば--- 何やってんのよ、アンタラは!?」
愛香が飛び降りてきた。
それも、自分の家の2階から。
「別に構わないでしょう? 私は総二様の嫁ですし」
「いつお前が、そーじの嫁になったあああ!?」
あぁ、そうだよ。
この騒がしいが、懐かしい光景。
「そーじも何か、ツッコミなさいよ!?」
「別にスルーしても大丈夫ですから!」
「お前ら… どっちなんだよ!?」
これを見ていると、少しだけ安心できる。
これなら、学校も大丈夫かもな。
☆☆☆
「…本気ですか!?」
生徒会室。
朝日に照らされた部屋だが、何処か冷たさを感じさせる。
その場にいるのは、慧理那のみ。
彼女はスマフォを通話状態にし、誰かと話し込んでいる。
「あなたには、少なからず恩恵は受けております。ですが、それはあまりにも急では…?」
『---』
「その条件であれば、承諾致しましょう」
その言葉を最後に、通話は途切れた。
慧理那は嘆息し、彼女の座高には高すぎる椅子にもたれかかる。
陽月学園の生徒会長として、責務は全うせねばならない。
その重荷は今、最大のものとなった。
「観束君… 私はどうすれば…」
虚無感にさいなまれてもなお、彼女は頼れる人に、救いを求めていた。