熱い…
周りは炎で囲まれていたっけ。
でも、冷たい。
私は今、地面にうつ伏せになっているからか。
…何で、こんなことを考えているの?
「まだだ。君は僕を、失望させる気かい?」
---そうだ、私は。
起き上がらなきゃ。
でも、体に力が入らない。
それに、頭がボーっとして…
「うおおおおっ!!」
「このっ…!?」
「つ、強い!?」
遠くからでも、ハッキリと聞こえてくる。
テイルギアで拡張されているからか。
ツインテイルズも、頑張っているんだから。
「でも無理か。その体じゃ」
視界が上手く効かない。
それでも無理に動かしてみる。
横の地面には、異なる色で染められている。
地面の茶色や、草の緑色とは違う。
周りを照らす炎よりも、黒い。
(これは、なに…!?)
ここでようやく、痛みが襲い来る。
それに何とか耐えながらも、意識は飛ばされないようにした。
(左肩が、熱い!?)
炎で焼かれるような痛み。
それに、傷口を広げられるかのような痛みが追い打ちをかける。
「さぁ、立ってくれ。さもなければ---」
☆☆☆
(メール? 珍しいわね…)
そう思いながらもポケットからスマフォを取り出す。
最近になって、ようやく通話アプリを使いだした。
あのメールでのもどかしさから、やっと抜け出したからねぇ。
でもって、メールで来ることは殆ど無くなったわけ。
(また、メルマガ登録の類かしら…)
内容を確認してみると、差出人がメールアドレスだけ。
これって、電話帳に登録していない人からよね…
(でも、直接アプリで登録している場合もあるし…)
取り敢えず、スルーは不味い。
疑いを持ちつつ、メールを開封してみる。
『今日の夜、○○山中で待っている』
これだけ。
…これだけえええっ!?
(なんというか、その…)
あまりにもそっけなさすぎ。
送り主も分からない以上、どうしようもない。
やっぱり、スルーすべきだったか…
「どした、いおりん?」
「んにゃ、何でも…」
でも、削除するには…
「急がないと、間に合わないよ~?」
「ゴメンゴメン!!」
もう、スルーしていっか。
そう思って、ポケットに入れ直した。
『メールは、もう読んでくれたかい?』
「---」
…で、これだ。
『夜になったのに、一向に来ないからね。こうして、連絡したわけだ』
「はぁ…」
これは、悪質なストーカーだわ。
最も、私のメールアドレスを知っていた時点で気付くべきだったけれど。
『それよりも---』
それよりも、凄く気になっている。
それは…
「あの、どちら様で…?」
『…え?』
電話主が誰か、ってこと。
私は思いっ切り忘れた(かもしれない)。
『いや、冗談で---』
「本当にすみません」
『嘘だろ…』
男性が話しかけているのはわかる。
だけれど、その中で心当たりがあるのは…?
「…誰だっけかな?」
『…いかに僕が大事にされていないかが、よくわかったよ』
いかん。
相手を怒らせてしまったか。
「すみませんでした。すぐに思い出しますので---」
何とかして、謝ろう。
そう、思っていた。
けれど、それができなかった。
「…あ?」
さっきまで、繁華街にいたはず。
なのに、急に暗くなった。
まだ、目がそれに追いついていない。
(寝ぼけたのかな…?)
そう思って、瞼をこする。
「やれやれ。あの返答では来ないと思ってね。強硬手段を使った」
声が聞こえた。
方角からして、私の正面かな。
でも、真っ暗闇であることに変わりない。
「あの、これは一体---」
その時、背後から誰かが近づいてきた。
と同時に腕を抑えられ、肩に体重をかけられた。
「まったく… 何で貴女が」
「えっ!?」
その声は、全く聞き覚えがない。
淡々と話してはいるが、所々に怒気が孕んでいる。
「それ以上は止めておけ、"ウィッシュ"」
「…了解」
これ以上の痛みを、感じない。
彼女が途中で、加減してくれたからか…
正面から来た人は、私の顎を掴み、上げる。
「これで、分かってくれるだろ?」
「---ぁ」
相手の顔を、マジマジと見てみる。
これで私は、ようやく誰かわかった。
ほんっと、素で忘れていて、ごめんなさい。
「"ユウ"、さん…?」
私が出した
「僕がこれ程のヒントを出して、ようやっとか」
「こんな女に、何故執着するのです?」
うん。
私が悪かったから。
精神的なダメージを、追い打ちでかけないでほしい。
「彼女は、僕にとっての"お姫様"だからさ。そして、アルティメギルにとっても、必要不可欠な
色々と問い詰めたいことはある。
けれど、この姿勢は…
「あの、そろそろ解いてほしいです… あ、足が」
「貴女が言うことではない!!」
座らされた際に、正座させられたから。
慣れていない私にとっては、苦痛でしかない。
地面が直接当たるから、なおさらだよ。
あぁ、砂利が…
「だが、いつまでもこのままではよくはない。開放してくれ」
「---」
ユウがそう優しく諭すと、彼女は渋々開放してくれた。
押さえつけられた時についた土埃を払いつつ、立ち上がる。
「さて--- 僕が君を呼んだ理由、わかるかい?」
「…わからない」
わからないし、知りたくない。
私はまだ、何かを知るべきでもないかもしれない。
「簡単に言えば、僕と付き合ってほしい。友人としてではなく、恋人として」
だけれど、わかっていた。
そんなきがする。
「私と貴方は、友達としては最高かもしれない。けれど---」
けれど、違う。
私を思ってくれている人は別にいる。
「貴方を、恋人としては、見れない」
ここでハッキリと示さなきゃ。
私は、後悔する。
「---そうか」
彼は首をうなだれ、すごすごと去っていく。
でも、ある程度の距離を取った後、急に振り返った。
「では、力尽くでいくしかない」
その時の彼の顔は、怒っていた。
暗い上に距離があったけれど、それでもわかるくらいに。
いや、そうだとわかったのはそのオーラが押し寄せたからかな。
「くっ…」
同時に暴風も押し寄せて来るから、吹っ飛ばされないようにする。
でも、徐々に後ろへ押されてる…!
「あぁなった時の彼は、もう止められない。私でさえもね」
そんな様子を、ウィッシュは冷めた目で見てた。
こんな時でも、冷静ね。
「(なんで、私を見てくれないの?)」
「…?」
暴風で、彼女が何を言ったのかは聞こえない。
でも、悲しげな表情をしていたことは記憶している。
「どうして、私を---」
「言ったはずだ。私のお姫様だと。僕には、貴女が必要なんだ!!」
あぁもう、言わせておけば…
「しばらく会わない間に、随分とキザったらしいわね!! 少なくとも私は、そういう男は嫌いよ!!」
私は右手に光る、テイルブレスをかざす。
ここまで来ると、もう直接フるしかない。
「そういうことなら、仕方ない。はぁ…」
私の言い分に納得してくれたのか?
でも、彼にそんなそぶりは見えない。
むしろ、右手に剣を取って、臨戦態勢に---
(臨戦態勢?!)
ちょっと待って。
てことは、本気で…?
「本気で行かせてもらうよ---!!」
一瞬で間合いを詰め、私へ切りかかる。
寸でのところで、躱せたけれど。
「なんで、って!?」
何で切りかかるか、一瞬疑問に思った。
けれど、確かに彼は言ったじゃない!!
『彼女は、僕にとっての"お姫様"だからさ。そして、アルティメギルにとっても、必要不可欠な
---まさか!?
「そうさ。君にこの世界を教えたのは、僕。ならば、薄々でも正体は分かっているはず」
その瞬間、彼は炎に包まれた。
これが普通の人間なら、私はあわてふためくかもしれない。
でも。
「僕は"怨み"のエレメリアン。君に素質があると思って、ここまで来させたんだ」
禍々しいまでの雰囲気。
殺気に混じって、狂気をも臭わせる。
「意地でも、僕の物にするよ」
「…」
やっぱり、エレメリアンか。
こんな形での再会は、私は望んでいない。
「それで、コードネームは"ユウ"ね。少しばかり、ひねりがないと思うよ?」
「これでも、頑張って作ったんだけれど…」
それでも、隙は見せてはくれない。
私が動くのを待っている?
「テイルギアを纏わないのかい?」
「貴方はその方が好みなの?」
そう軽口で話す。
けれど実際には、テイルギア無しで勝てるほど弱くない。
これは本気でかかる必要があるなぁ。
「テイルオン!!」
「さぁ、始めよう!!」
テイルブレスに輝きが増すと共に、彼は剣を構えながら突っ込んでくる。
剣が私に当たる直前に、ハンマーで受け止める。
「流石は、重力の戦士。そう簡単には吹っ飛ばないか」
「伊達に、死地を潜り抜けては、いませんから!!」
押されそう…
ユウって、こんなに強かったんだ!!
反重力を活用して、ここは何とか乗り切ろう。
「それにしても、ハンマーが出るのは久し振りだね」
「最近は、素手での殴り合いだったから…」
ははは…
最近の私の行動がバレテル。
まぁ、マスコミにも映っていたみたいだし。
「感覚を取り戻すわ!!」
「僕は、練習台ってことかな?」
口調とは裏腹に、私への攻撃は一切手を緩めはしない。
当たれば不味いけれど、きっとそれだけではないはず…
(ハンマーは絶対に離さない!!)
そう、本能が告げていた。
「ひっ!?」
今度は足元に狙いを定めてきた。
バック転でかわそうと思ったけれど、中途半端にできなかった。
う~ん、テイルギアのバックアップがあっても駄目か。
(普段から運動はしているけれどな…)
その僅かな隙を、彼は見逃すわけはない。
いつの間にか、剣は銃へ置き換わっていた。
しかも、銃口は私へ向けていた。
「げっ」
地面がえぐられるのと、私が逃げるのはほぼ誤差は無かった。
コンマ数秒でも遅れていれば、ハチの巣になってたろうな。
(逃げなきゃ---!!)
彼との距離を取る必要がある。
だからこそ、私はそう行動した。
(森へ消えたか。木々を盾にしたみたいだが---)
軽く息切れしている。
あの銃の威力は厄介でしかない。
今は時間稼ぎをして、策を---
「かくれんぼのつもりかい?」
ユウは乱射し始める。
でも、乱反射が起こるような威力が弱いモノじゃない。
太い木々を、いとも簡単に破壊していく。
(探す努力すらしないの!?)
またも私は、逃げ回り続けることとなる。
これじゃ、圧倒的に不利じゃない!?
「(あぐっ…!)」
「! そこか!?」
どうやら、かすったらしい。
声は極力抑えたはずだけれど、聞こえたか。
私のいる方向へ、銃弾の雨が通り過ぎていく。
大半は私の体に当たることはない。
でも、明らかに私へ飛んできたものは、ハンマーで弾く。
(このおぉ…!)
もう必死だった。
単体ではかすり傷だけれど、数が圧倒的。
体に、細かいダメージを蓄積させる訳にはいかない。
「…ふむ。これではらちが明かない、か」
銃撃が止んだ…?
彼は銃を収めた。
かと思えば、再び腰へ手を回す。
まるで、剣を抜くかのように…
「先ずは一撃。受けてもらうか!!」
抜かれたのは、蝋燭のような西洋剣。
さっきは銃だったのに、どんなマジックよ?
そんな心のツッコミは、ガン無視。
まるで、居合切りのように抜かれた剣。
そこから、三日月状のエネルギー波が飛んできた。
「ちょ、聞いてないけどー!?」
始めはハンマーで受け止めたけれど、そのパワーに耐えきれはしなかった。
ハンマーを弾き飛ばされ、私は宙を舞った。
「ガッ!?」
地面への強い衝撃が、私を引き戻した。
そっか、私は---
「まだ…」
でも、どうする?
何かしらの奇策がない限り、勝てっこない。
ゆっくりと立ち上がりながら、そんな事を考えている。
(もう少し、試すか)
完全に立ったところへ、剣撃が襲う。
両手でガードはするが、厳しい。
手がしびれる。
ユウの動きが見えない。
(それでも、耐えなきゃ!!)
耐えて耐えて、耐え抜く。
きっとその先に、活路を見いだせるはず!!
「ペプシ?!」
でも、先に腕に限界が来た。
腕のガードを弾かれ、体の前面に空きができた。
そこへ、彼の袈裟切りに襲われた。
思ったよりも深く入り込んで、痛い。
更に、横一線を仕掛け、私を再び弾き飛ばす。
(思った以上に痛い。おまけに熱い!?)
やっぱり、何かある。
ただの西洋剣じゃないとは、思っていたけれど…
追加効果かも。
「やっぱり、テイルギアは固いなぁ。いつかの、リヴァイアギルディの高速連撃に耐えられたわけだ」
ユウは刃こぼれのない西洋剣を眺めながら、そう呟いた。
完全に、私を見下してる…!
「でも、それだけじゃない。君には、別の力があるはずだ」
別の力?
そんなの、私が知りたいんですが…
(もしかして、
考えつくとすれば、これしかない。
まだ彼の前では、見せてはいない。
それに、
言ってみれば、私も知らないビックリ箱のみたいなもの。
「だったら、見せてあげようじゃない? その力!!」
"
形勢逆転を生み出す、奇跡の力。
その中で、最も私が使いやすいものを選び出した。
「その武器… テイルレッドと同様のものか」
「悪い? でも、ハンマーの次に使いやすいからね!!」
それに、ユウの西洋剣に対処できるとすれば、これしかない。
ブルーのウェイブランスだと、柄の長さでハンマーとの接触は避けられない。
イエローのヴォルティックブラスターだと、ハッキリとめんどくさい。
それなら、
ホワイトのディメンションクローは、使った事がない。
(正直に言えば、消去法なのよね…)
やれやれといった感じで、リンが呆れていた。
そんなイメージが、頭をよぎる。
「しかし、ハンマーとの2刀流とはね。それは無謀と呼ぶんだ!!」
剣をハンマーで受け流し、ブレイザーブレイドで切り付ける。
でも、ユウはそんな甘い動きはしてくれない。
躱されては受け、躱されての受けを繰り返し。
(普段はハンマーを両手で持ってたっけ。即興で肩手持ちはきつかったか…)
テイルギアの中で、最大の重量を誇る武器。
ツインテイルズでも持ち上げることは不可能らしい。
(リンが言うには)
「遅い」
下からの振り上げは、私の右手を当てた。
その衝撃はハンマーをこぼす。
続けざまにタックルをされ、またも吹き飛ばされる。
「ぐぎゅ!?」
突如、肩に刺さったような痛みが襲う。
そして、背中に強烈に当たったかと思うと、その反動で地面に倒れた。
「痛いか?」
痛みにこらえて、顔を上げる。
正面にいるユウ。
その手には、何も持っていない。
彼はしゃがみ込むと、私の肩に手を伸ばした。
いや、刺さっている何かに向けて、だ。
「ぐあああ!!」
「やはり。この程度では、僕は満足できない」
その何かをいじくらないでほしい。
痛みがぶり返すから…
「怨まないのなら、悲鳴を聞かせてくれ」
まるで、ユウがユウでなくなったみたい。
でもそうか、彼はエレメリアンだった。
(この…)
反撃に出たい。
でも、体が言うことを効かない。
そして、徐々に視界も効かなくなった。