辺りは閑散としていた。
彼女---ウィッシュが去り、残っているのはツインテイルズだけだ。
だが、テイルグリーンはエレメリアンの爆発に巻き込まれた。
未だ燃えている地面に、彼女はうつぶせに倒れていた。
「グリーン!!」
ブルーとイエローは、彼女の安否確認に走る。
だが俺は動けない。
ダメージの蓄積と、
(やっべぇ… もう限界だわ)
ここまで無茶をしたのは、初めてかもしれない。
全身が筋肉痛以上だ。
これは、テイルギアの力でも治りは厳しいかもな。
俺も早く、彼女のところへ---
『不味いですよ!? 周囲に、敵が』
何!?
いつの間にか囲まれた、って事か?
「ブルー、イエロー!!」
俺は叫んだ。
彼女達に、危険を知らせないと。
だが、既に攻撃にさらされていた。
全身に火花が飛び散っている。
これは、エレメリアンじゃない!?
「(まさか… 人間が)」
だが、何故今だ?
俺達が弱ったところへ、一気に叩くつもりか。
「十字砲火!? なんで」
「ふ、防ぎきれませんわぁ~」
イエローは相変わらず喜んでる。
マゾッ気も、ここまで来ると称賛するぜ。
「回収してくれ、早く!!」
『ダメです、これでは---』
「ほな、ウチの出番や」
トゥアールの通信を遮るかのように、誰かが出てきた。
「テイルホワイト!?」
「せや、久し振り」
彼女はエレメリアン出現ですら、滅多に見ない。
メディアですら、彼女の存在は全く公表されることもない。
そんな彼女が、なんで!?
「ほな、さっさと終わり」
上空に幾つもの空間の裂け目が。
それに生じて、突風が吹き荒れる。
というか、吸い込まれるぞ…
「んなああ!?」
森に隠れていたと思われる、武装した人々が上空へ飛ばされていく。
どこに、これだけの人が…
そしてある程度の人々が吸い込まれると、裂け目は閉じた。
どうやら、役目は終えたらしい。
「…何で先輩が?」
「積もる話は後や。さっさと転送しい」
俺の質問を後回しにして、トゥアールへ通信する。
随分と後味の悪い戦闘だが、何か理由があるのか?
「お疲れ様です、皆さん」
ツインテイルズ基地。
そこへ転送されると、トゥアールに出迎えられた。
勿論、テイルホワイトもいる。
ちなみに倒れたテイルグリーンは、ブルーに担がれていた。
しかも片手で。
「グリーン---伊織を医務室に移してからや」
ホワイトも彼女の容態を察したのか、グリーンの回復を優先させた。
ブルーはトゥアールにグリーンを預け、彼女は指令室から出た。
…その間、何で司令官が座るべき椅子に座ってんだ?
「説明しなさい。さもなくば---」
ブルーは臨戦態勢だ。
ウェイブランスの切っ先を、ホワイトの喉元に突きつける。
だが、ホワイトは動揺しない。
「力押しできるほど、ウチは弱くはないで」
ウェイブランスに異変が起きた。
先端から曲がり始め、槍の意味を失い始めた。
ブルーがそれを手放すと、更に曲がる。
遂には、1つの塊へと変貌を遂げる。
「---何をしたの?」
「その槍を、クシャッと潰しただけのこと。人に頼む態度やないわ、ホンマ」
力の差は歴然。
それを知覚するに、値するものだった。
ブルーも、それ以上は加圧するのを止めた。
「この空気はアカン。ここは、ティータイムと洒落こもうや」
テイルホワイトはテイルギアを解除、リン先輩へと戻った。
彼女は俺達以上の力は持つが、今は争う意思はないと示しているのか…
「そうですわ。優雅にしましょう」
イエローはいつの間にか、慧理那へと戻っていた。
それに習い、俺と愛華も解除する。
それぞれ席に着き、ようやくティータイムができる。
まぁ、お茶やお菓子はないけれど。
「ウチとしては、エレメリアンの件について追求したいとこやけど---」
リン先輩は、虚空をぼんやりと眺めた。
彼女は確か、スタジアムで出会ったくらいだもんな。
「わけわかんない! 何で守るべき人間が、アタシたちを襲うわけ!?」
愛香は癇癪を起してきた。
無理もない、エレメリアンを倒した直後だったからな。
今まで俺達を援護するんじゃなかったのか?
「あんなぁ… アンタらみたいな存在、いつまでも放っておくか? 珍しい動物やったら、普通はコレクションしたいやろ?」
「宝石とかでしたら、確かにそうですが…」
コレクション、か…
確かに、エレメリアンに対抗できる存在としては珍しい。
諸外国も擁護してはいるが、本来ならばそうはしないはずだ。
「今、こうしてティータイムができるんは?」
「---わたくし達の正体が、露呈されていないからですわ」
リン先輩は、慧理那に目配せして答えを促せた。
恐らく誰でも推測できたことだが、敢えて俺達に言わせたって感じだ。
…でも、回答者が俺でなくて良かった。
正直、答えられる自信がない。
『普段はツインテールを推していないからか?』
『おのれは何を、言うてんねや(怒)』
俺だったら、こうやって回答していた。
そして、絶対に突っ込まれただろうね。
「それでなくとも、テイルギアと言う存在は危険や。パンドラの箱と差し支えない」
「…あの~」
得意げにリン先輩は説明する。
だが、それに付いていけるのは慧理那だけ。
俺や愛香には、突拍子すぎる。
「全然わかんない」
その言葉に、思いっ切り椅子から転げ落ちた。
「ったく… ええか? 多分、最初にトゥアールに説明を受けたと思うわ。そのテイルギアの各要所要所は、現代科学を大幅に増進させることができる。競争が支配する現代社会、その技術は誰もが喉から手が出るほど欲しいねん。それが戦争スレスレの方法でも。今回の奇襲は、その一例。多分あれが成功してたら、どっかの国に"ご招待"されてたはず」
すげー早口。
でも、これで言いたいことがわかった。
「狙いは、俺達のテイルギアか…」
「トゥアールさん以外に生産できない以上は、それが最善の方法ですわ」
慧理那の言葉に、俺達も納得できる。
「むしろトゥアールさんの様に、1人の科学者が独占できるとは思えません」
「そこらへんは、アルティメギルの作戦の一環としてやろな。だからこそ、トゥアールの星は潰れたんやから」
…そうだったのか。
でも、何でその事に疑問が浮かばなかったのか。
「となると… 最後にわたくし達を襲ったのは、テイルギアを狙う第三者?」
愛香は、話には割り込んでいない。
こういった話は、彼女は理解し難いからな。
リン先輩は、慧理那の推測に否定や肯定はしない。
ただ黙認を続けていた。
(でも、当たりって言っているようなもんか。でも、正体がわからないんじゃ…)
俺だけじゃ、これが限界か。
リン先輩は知っているようだが、答えてはくれないし…
後でトゥアールに確認してみるか。
「いずれにせよ、エレメリアン幹部を倒したんや。アルティメギルにも何かしらの動きは出るはずや」
「そ、そうね。第三者も注意は必要だけど、アルティメギルもまだいるんだから!!」
それ以降は、話題を変えた。
流石に暗いままでは、気分が悪いからな。
☆☆☆
「う~ん…」
エレメリアン、ユウとの戦いから数日経った。
その反動は、私の体に少なからず影響を与えていた。
ユウとの戦いの直後、"ちょっとしたドタバタ"があったらしい。
そこについて私は説明を要求したけれど、上手いこと躱された。
あと、ツインテイルズ基地まではテイルブルーが運んでくれたらしい。
そこはキチンと感謝しておいた。
「いおりん、なんか変わった?」
「そうそう、顔つきも前とは違うし」
「でも、綺麗になったと言うよりは… 凛々しくなった?」
で、戦闘の翌日はずっと医務室に監禁?
というか、動けなかった。
テイルギアを極限まで使い果たし、体にまでダメージが通っていた。
…まさか、この年齢で寝たきりを味わうとは。
その日が休日で助かった。
「えぇ、そうかな?」
「絶対そうだもん!! 身体中に傷だらけだし」
それでも、完全回復とはいかなかった。
この包帯やガーゼ、絆創膏がそれを示している。
ハイソックスを履こうと思っても、巻いている包帯でできないしね。
顔にも付いているから、隠しようがない。
教室に着くまでに、同級生や先生に何度言われたか…
「なんだか、カッコイイよ!?」
「そうかな…? ありがと」
カッコイイ、か…
こんな自分でも、そう言ってくれるんだ。
そう思うと、ちょっと照れくさい。
「まぁ、カッコイイのは今に始まったことじゃないけれど?」
「そうだよね… 部活動を始めた辺りからかな」
そうなの?
自分の顔って、そう意識はしないかな。
ニキビがないとかのチェックはするけれど。
顔つきまでは、普通は気にしない。
「もしかして… 何かあった? 彼と」
…はぃ?
観束君のことかな。
「…無いと思う。」
「嘘ォ!?」
正直に答えただけなんだが…
そこまでのオーバーリアクションはひどすぎない?
「有り得ないでしょ、それ!? もしかしたら、できちゃってたと思ってたのに」
「いおりん、相当な奥手…?」
そう言われましても…
部活仲間としては、大切に思ってはいる。
そして、ツインテイルズの頼れる仲間だとも。
でも、彼女達が聞きたいのは"恋愛"に関してなんだろうね。
「奥手も何も、これまでに何の変化もないってば!! できちゃったと思われても困るから!!」
これはまた、こじれそうだ。
そう思っていたら、丁度チャイムが鳴る。
(あり? 足立先生じゃない!?)
数学なんだけれど、別の先生だ。
たしか、別のクラスを担当していたはず。
「(知らない? 足立先生、数日前から行方不明なんだよ)」
「(マジすか!?)」
それは初耳だ。
まぁ、あの厳しい授業が受けなくて済むのは助かる。
(悪い意味で、有名になってるからねぇ…)
だけどそれで、数学の成績が良くは---
「ならんわな」
☆☆☆
アルティメギル。
その一角、
「久々に戻ってみれば… 閑散としておるのぅ」
「まぁ、皆は闘技場にでもおるやろ」
全体会議などで使用される広い空間。
古参のエレメリアンは、ここを"魔窟"と呼ぶ。
中心には円状の機会が置かれており、ここから立体映像が出せる。
そして、この空間の奥に長い階段が。
それは果てしなく長く、先が見通せないほどにだ。
「皆が自らの責務を全うするならば、良いのだが…?」
ダークグラスパーがそう呟く。
その時、地揺れが起こった。
「何じゃ、敵の襲撃か!?」
「それやったら、何かしらの警報が鳴ってるはずや!!」
メガ・ネの言葉通り、警報は発令しない。
その不審さに、彼女はますます困惑する。
地面に四つん這いとなり、収まるのを待つエレメリアンもチラホラといる。
(どういうことじゃ? まず、ここで"揺れる"という感覚自体は起こらぬはず…!)
そう、彼女達がいる場所は現実世界とは少しずれている。
人間が容易に入り込めない、特殊な空間に存在する。
即ち、この空間にて異様な出来事が起こりつつあるということである。
「な、なんやコレ!?」
地面に目を落とせば、紫に光る線が地面を走る。
それも一本だけでなく、十数本の規模で。
それが向かう先は、階段。
いや、正確にはその左側である。
その光が、左側へ集束を始める。
それと同時に、地面から巨大な水晶の柱が生えてきた。
完全に出で来ると、水晶は紫色を示す。
「…何じゃアレは!?」
ダークグラスパーの一言が、この場にいるエレメリアンの意見を総意させていた。
あれが何かは、誰もわからない。
エレメリアン達は互いに、その正体について話し合う。
騒然とした空間に、突如雷鳴が走る。
「ガハハハハ!! 遂にやりやがったか、あのキザ野郎!!」
「お主は、確か…」
「あぁ、"怒り"やったわな、確か」
その姿は、まさしく雷の神。
身体中に帯電させていることが、雷鳴を打ち出した当人である証拠だ。
「やりやがった、って?」
「決まってんだろ、"怨み"が死んだのさ」
その驚愕の言葉に、更に動揺するエレメリアン達。
無理もない。
今までに幹部エレメリアンは倒されたものの、彼なら心配ないと言われた逸材である。
その彼が倒されたとなれば、今まで以上の疑心を招く恐れがある。
「だがそうと、何故わかる? 報告も何もないのに」
「あの柱がそうさ」
ダークグラスパーに問い詰められ、"怒り"は水晶を指す。
「俺達『感情の四神』は、エレメリアンが持つ
サラッと重大なことを話す"怒り"だが、話題をダークグラスパー達へ向ける。
「そのことによって、俺の部隊が本腰を上げた。今頃、前線基地へ
これは予想以上の事態になった。
アルティメギルの首領直属部隊の2つが、同じ場所にいる。
それはつまり、片方の部隊は用済みであることを指す。
「ダークグラスパー、てめぇもだ。"怨み"という後ろ盾が無くなった以上、どうするかは俺次第って訳だ。今のうちに、身の程をわきまえるべきだな」
そう言い残して、高笑いと共に彼は雷となってこの場を去る。
行き場のない怒りを、ダークグラスパーはこらえるしかない。
「イースナちゃん…」
この時、何をかければ良かったのか。
ダークグラスパーの相棒として、イースナのおせっかいなオカンとして。
メガ・ネは、わからなかった。