ユウ---"怨み"を倒して、数週間。
世間では、クリスマスが目に見えるところに迫っていた。
「それにしても、急にエレメリアンが増えた気がするわ」
「クリスマス、大晦日が近いから、在庫一掃セールってわけか!?」
言い方は凄く酷いが、そう思えて仕方ない。
今回だって、現れたエレメリアンはベアギルディだったし。
まぁ、そこまで強くは無かったから助かったけれど。
『俺は、ネギを買いに来ただけだ---!!!』
いつも思うが、断末魔がそれって…
もう少し、マシな言葉を使ってもらいたい。
「たまにだけれど、強いエレメリアンは出てきましたわね」
「ですが、それ以外は特に突出した要素はありませんねぇ」
そうだな。
エレメリアンは世界各地で出没し、
それを俺達、ツインテイルズが殲滅する。
いつも通りの流れだ。
観客が逃げていくときもあれば、そのまま観戦するときもある。
「立て続けに来ると言うことは、アルティメギルの方針に変化はないかもしれないな」
もし、アルティメギルが何かの準備をしているのであれば、休止期間が設けられている。
もしくは、夏休み前のようなスクリーンでの宣言を行うだろう。
いずれにせよ、俺達は満足には戦えないかもしれない。
(まだ、左手に痺れがある。無茶な振り方でもしたのか?)
ベアギルディとの戦いでも、上手くブレイザーブレイドを振れなかった。
別に剣を落としたとか、攻撃が浅かったとかの話じゃあない。
(でも、俺自身の心配をするわけにもいかない)
そう、もっと重大な事がある。
「結局、テイルグリーンは来なかったわね」
彼女はあれ以来参加しなくなった。
どこか、異常でも出たのか?
「無理もないです。幹部エレメリアンと、あれだけの戦闘をしたのですから。寧ろ、生きて帰れてホッとしましたよ」
トゥアールには散々心配をかけたよな。
いつも俺は、ツインテールしか見ていなかった。
だからこそ、彼女がどう思っていたかなんて気にもしていなかった。
「いつもすまないな、トゥアール。俺達が無茶してばっかりで」
「まさか、総二様からねぎらいの言葉をかけられるとは!? これは嬉しい誤算!! さぁ、その感謝の気持ちを私に全力で---」
「させるか、ボケェ!! 調子に乗るとすぐこれだ」
トゥアールは白衣を脱ぎながら俺にルパンダイブをしようとした。
だがそれは、愛香のドロップキックに阻まれた。
「入るぞ」
そんなほのぼの(?)した空気に、割り込んできた。
桜川先生が無表情なあたり、もう慣れっこなのだろう。
「尊。職務はもう終えられたのですか?」
「はい。お迎えにあがろうとしたところ、アドレシェンツァにお邪魔していると伺ったため。その様子ですと---」
慧理那と軽く済ませると、俺達のもとに来た。
「なるほど、山を越えたようだな。顔つきが、微妙にだが違う」
顔つき?
そう思って愛香達にアイコンタクトを取るも、彼女達もわからないらしい。
「お嬢様。先程、"連合"から連絡がありました」
「わかりました。皆様、わたくしはこれにて失礼します」
先生の言葉で、慧理那は何かを感じ取った。
そう思えるが、先生で彼女が見えない。
とりあえず、挨拶だけはしておいた。
慧理那は手を振りながら、基地を後にした。
「戦闘の後だってのに… 慧理那は凄いわね」
「あれが、生徒会長だな」
☆☆☆
「…」
"怨み"との戦い。
あれがきっと、物語の節目なのかもね。
何て言えば、いいんだろう?
全身の力が抜けたような、ボーっとしたような…
(でも、それだけじゃない)
私の中に誰かがいる。
上手いことは言えない。
けれど、それは確かだ。
でも、全く知らない人でもなさそう…
(そりゃそうだ)
!?
心のつぶやきにしては、タイミングが上手い。
自問自答しているわけには---
「---せ、長瀬!!」
「は、はいぃ!?」
視界に映ったのは、前の席にいる男子クラスメイト。
見るからに面倒くさいような、怒っているような…
「おはよう」
「へっ?」
教壇には、先生が立っていた。
黒板には様々な文字が書かれている。
そこまで見渡して、初めてゾッとする。
「(---寝てた!?)」
イカン。
最近はあまり寝れなかったとはいえ、これでは言い訳できないじゃない!
「放っておこうと思っていたが… 寝言が五月蠅いのでな」
「…マジですか」
生活リズムが乱れたのか?
でも、どんな寝言を言っていたんだろうか。
気になるけれど、聞いたら赤っ恥だろうな…
「医務室に行くか?」
「---いえ、続けてください」
姿勢を正し、私は机に向かう。
いかんいかん。
私はまだ、勉強する立場にあるんだ。
(それでいい)
何かに熱中すれば、忘れられる。
---テイルグリーンに変身できないことを。
☆☆☆
「こ、これは---」
一人の科学者が、目を大きく広げている。
その反応からして、凄まじいものであろう。
「どのルートから、このような… 下手すれば、私は投獄の身ですぞ!?」
前進が震えている。
それは、自分の見たものを信じられないからか。
「心配ない。それはもう上も承知済みさ。おっと、ついでにこれも」
紺のスーツを着た中年は、誇らしげに言う。
足元に置いたカバンから、先程とは異なる書類を差し出した。
「いくらお前が優秀でも、一人ではできない。各研究機関に連絡を取るんだ」
「…まさか、本気で」
怯え顔で見つめる科学者。
手に持っている書類に、しわが入った。
いくら優秀であれど、結局は人間。
恐怖を抱いたとき、木偶に成り下がる。
その光景、彼は何度も見てきた。
(実に、滑稽だ。だからこそ、この仕事はやめられない)
不自然なまでに、口角が吊り上がる。
彼なりに気持ちを抑えているつもりでも、表情に表れてしまう。
「なぁ。もう嫌だろう、こんなところは。家族とは、随分と会っていないそうだな」
力なく、その場にへたり込んでしまう科学者。
ここで彼が脅かせば、失禁してしまうだろう。
だが、男性はそこまではしない。
彼はしゃがみ込み、優しく肩に触れる。
「お前ひとりに、地獄は渡らせない。いざというときには、私達が何とかする」
「…」
その優しい言葉に、科学者は動いた。
目の前が絶望となり、自分自身の価値も危うい。
このままでは、一生光を見ることはないだろうと。
そう思っていた。
(こいつなら、本気でできるかもしれない!!)
暗闇に光る、僅かな光。
もしかすれば、瞬きなのだろうか。
それでもいい。
進む方向は、これでわかった。
「…わかった。出来る限り、やってみよう」
「ありがとう」
科学者の顔が変わった。
不安げな様子は、もう見られない。
自信に満ち溢れた顔だ。
そして二人には、固く握られていた。
それは書類のサインだけではない、繋がりを得られた証拠なのだ。
☆☆☆
「嫌なもんだ」
成層圏。
恐らく、誰にも見つかる危険性が薄い場所。
そこに居るのは---
「せっかく、"黄金の拳闘士"が止めた歯車を動かしやがって」
フェニックスギルティ。
いや、
人間では生存はできない場所に、あえて人間態でいる。
それは、彼女の気まぐれに過ぎない。
(となれば、
あの部隊は、首領直属部隊とは異なる。
だからこそ、アルティメギル首領の指示を受けずに自由に動ける。
それが、彼女には疑念を置いていた。
「アルティメギルの裏切り者じゃ、どうしようもない」
だがそれは、あの部隊と比較すれば些細なものだ。
各部隊に紛れている、所属エレメリアンを見ればわかる。
(かといって、ツインテイルズに頼るのも癪だしなぁ…)
ライオギルディは、目的のためならば見境ない。
過去には、エレメリアンを直接葬ったことがあるのだ。
パンダギルディは、掴みどころがない。
飄々としている、だが奥底に何かを隠しているはずだ。
「適当なところで、現れるとするか」
人間の心から生まれた存在でありながら、彼等に尊敬しない。
むしろ、存在を成り替わろうとする。
アルティメギルの思想としては、非常に危険である。
(そうしなきゃ、アイツらに忘れそうだからな…)
☆☆☆
アルティメギル・前線基地。
|美の四心≪ビー・テイフル・ハート≫が所属するエリアにて。
「もう、限界だ」
「兄さん…」
二人して溜め息をつく。
「
しばらく沈んだままだったが、ようやくビートルギルディは動く。
「最早、猶予はない。こうなれば---」