Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.87【暴走(オーバーロード)】

「…」

 

学校からの帰り道。

私は部室に寄ることも無く、真っ直ぐに帰ってる。

どうも、行く気が起こらない。

 

(行ったとしても、バレるだろうしな)

 

テイルブレスが反応しないなんて…

こんな事は、今までなかった。

私の右手首にキッチリとはまっている。

でも、今の私にはただの飾りにしか見えない。

 

「色々と気になるけれど…」

 

そう呟くと同時に、お腹が…

うぅ、晩御飯どうしよう。

 

(財布はいよいよ。冷蔵庫も寂しいのよね…)

 

前はアドレシェンツァでカレーライスをおごってもらったよね。

でも、流石にもう一度はキツイわな。

さてさて、どうしたものやら---

 

「おい」

 

冷蔵庫の中には確か…

卵が3個、キャベツが1/4、後はトマト?

 

「無視かよ、おい」

 

いや、奥にベーコンが置いてあったはず。

お米はもう無かったよね。

 

「この… 俺様を無視する気か!?」

 

スーパーに寄りたいけれど、そうは買えないのよ---

 

「…へ?」

 

いきなり、私の横を何かが通った。

瞬間、奥に見えるアスファルトの道が壊れた。

ななな…

まさかと思って、後ろへ振り向く。

 

「久し振りだってのに、冷たい野郎だ」

 

銃口を私へ向けた、機嫌悪い唯乃が…

 

「って、唯乃!? 今までどこにいたの!?」

「んなもん、俺様の自由さ」

 

思いっ切り揺さぶっても、彼女は素っ気ないなぁ。

 

「それよりもだ…」

 

もったいぶってためると、私に脳天チョップをかましてきた。

私が人間であることから、威力はだいぶ弱めにしてあるらしい。

でも、痛いことに変わりないです…

 

「俺様は今、凄く機嫌が悪ィ!!」

 

そうですよね…

10人中10人がそう思うわ。

 

「そんなわけで、戦え」

 

今度も脳天チョップ…

違う、フェニックスラッシュ―ター!?

こればかりは本気で死ぬぅ!!

とっさに後方バックで躱す。

 

「…チッ」

 

私がいた場所は、先程の比ではない。

受けていれば、確実に死んでいた…!

 

「何で戦うの!? 仲間でしょ!?」

「利害の一致って奴だ。今の俺様にとって、お前は邪魔者でしかねぇ」

 

…不味い。

この変身できない状況、どうしよう。

取りあえず、心の中でテイルオン連呼しよう。

 

「直接叩かずとも、殺す事はできる」

 

早っ!!

瞬時に視界から消えたと思えば、私の前に来ている。

今度こそ終わりだ…!

 

「っむ」

 

フェニックスラッシュ―ターが振り下ろされた。

でも、それは地には付いていない。

 

(意外と、何とかなるもんだわ)

 

すんでのところで、起動してくれた。

調子が悪いのか、電撃が走っている。

四の五の言えないか。

左腕で受けているフェニックスラッシュ―ター、どうしよう。

 

「今の調子じゃ、駄目かも…?」

 

独り言を呟いていたら、本当に調子が悪くなったかも。

電撃が大きくなり、体がしびれてきた。

 

「何!?」

 

危険を察知したのか、唯乃は後ずさる。

もしかしたら、そこまで悪い状態だったの…?

あー…

そういえば、なんかコゲくさいわ。

 

「しゃしゃり出るな!!」

 

…誰が?

そう尋ねようとした時、意識がまたシャットダウンした。

久々にきたけれど、なんか慣れたような気がしないでもない。

ただ、この原因はなんだろうなぁ…

そんな呑気なことを考えながら、遠のいていく…

 

☆☆☆

 

明らかに様子が異なる。

テイルグリーンとなった伊織だが、全身から黒煙が立ち込める。

だからといって、別にどこかが焼けているわけでもない。

それに、放電していることも気にかかる。

 

「どうした、テイルグリーン!?」

 

その様子を、唯乃はただ見ていた。

だがそれでも、警戒は怠らない。

フェニックスラッシュ―ターを構えたまま、息をひそめる。

 

(おかしいとは思っていたが… これは)

 

少なくとも、先程までは話しかければ答えてはくれただろう。

だが今は、その気配すらない。

恐らく、テイルグリーンとしての意識はない。

彼女は徐々に前のめりとなり、地面へと伏せていく。

だが倒れはせず、獣のような構えをした。

 

(風が…)

 

風が、彼女の頬を伝う。

いや、激しく立てつける。

その中心は、テイルグリーンだ。

彼女から溢れ出す、ポニーテールの属性力(エレメーラ)

それが風として、具現化されたのだ。

 

「GRRRRR…」

 

そして、彼女の姿も変化していく。

全身を黒煙が包み込む。

だが、黒煙と表現するには気味が悪い。

その上、黒煙には『色』が付いていた。

"怨み"を表現するかのような、紫色が…

 

「GYAAAAAAA!!」

 

咆哮。

それは、大気を揺るがせる。

先程の属性力(エレメーラ)は、何と小さなものか。

人間態である唯乃には、影響は大きい。

体重が軽く、エレメリアンよりも柔軟性がある。

そのために、彼女は吹き飛ばされそうになっていた。

 

「…へぇ」

 

地面に足を踏ん張り続ける。

一瞬でも気を緩めれば、一貫の終わりだ。

 

「GRRRRR?」

 

咆哮が止み、再び静寂が訪れる。

それは元からある住宅街の閑静さとは異なる。

歪さがそこら中に蔓延している。

そして、黒き怪物と化したテイルグリーン。

彼女は獲物を捉えるかのように、周囲を見渡す。

 

(まるっきり俺様を無視か… 見えてねぇのか、それとも)

 

その反応に、唯乃はイラついていた。

仕方なく彼女は、レリーフをフェニックスラッシュ―ターへ接続した。

 

「テイルオン---!!」

 

彼女の体へ、属性力(エレメーラ)が集中する。

その奔流は、ようやく怪物に認識される。

 

「よぉ、グリーンの成り下がり。やっと気付いた?」

「…」

 

微動だにせず、しかし視線はこちらへ向けている。

唯乃がまとうテイルギアType-P。

それが有する属性力(エレメーラ)を感じたのだろう。

フェニックスラッシュ―ターの切っ先を向け、彼女は挑発する。

 

「俺様から、この鎧を剥ぎ取ってみな」

 

既に、怪物の姿は無かった。

逃げた…?

 

(いや---)

 

彼女の周囲が、揺れる。

その地面には、激しくくぼんだ跡があった。

まるで、何かの前準備かのような。

非常にワザとらしい行為である。

 

(テイルグリーンなら、無用な破壊はしねぇ。本当の獣なんだな)

 

そう確信した、唯乃。

その無邪気な笑顔は、誰もが思わず引くであろう。

 

「構わねぇよな--- 壊しても」

 

フェニックスラッシュ―ターを後ろへ向ける。

上空から襲おうとする怪物は、そこにいたからだ。

引き金を引かれたとき、唯乃は手ごたえを感じた。

 

「伊織には悪いが、ここが縁の切れ目だな」

 

距離を置いて着地した怪物。

その右手には、大穴が空けられていた。

十中八九、唯乃によるものであろう。

大穴であるものの、手としての機能は問題ないらしい。

右手を執拗に開閉させ、それを確認している。

 

「---(二ィ)」

 

まだ足りない。

そう言っているのか?

 

「UUUUUUU」

 

怪物は力をため込んでいる。

それが一目瞭然なほど、だ。

だが、唯乃が怪訝にしたのは別にある。

 

(引き寄せられている…?)

 

先程のは、属性力(エレメーラ)の放出。

その威力に、唯乃は吹き飛ばされそうになった。

しかし、今度は逆だ。

それに、この力は属性力(エレメーラ)に飲まれているだけでは発動はできない。

 

(これは、重力操作…! あの野郎、ホントは意識があるんだろ!?)

 

地面へフェニックスラッシュ―ターを突き立てる。

だが、地面を削るだけ。

圧倒的な力の前では、無力に等しい。

そしてついに、彼女は宙を舞った。

 

「やべ---!!」

 

頭が、ガッチリと掴まれた。

反撃しようにも、フェニックスラッシュ―ターは地面へ置いてきた。

 

「どうしようってんだ…?」

 

暗転。

いや、後頭部に激しい衝撃が来る。

遅れて、体にも衝撃が来た。

それでいて、彼女の頭から圧迫感は消えない。

拘束によるものに加え、圧縮された空気が肺を押し潰す。

 

(ただでさえ重力操作は厄介だってのに… 不味いぜ)

 

薄れた意識をかき集め、唯乃は打開策を練る。

今の威力から、完全に暴走しているわけではない。

唯乃がエレメリアンであることもある。

今以上の威力でも、倒れることはないだろう。

だが、本気であればテイルギアごと押し潰せたはず。

それをしないということは---

 

「(一発ぶん殴りゃ、治るかもしれねぇ)」

「GYUUUUU…」

 

だが、それができるのか?

未だに押さえつけられたままの状態で。

地面への衝突で体が、まだ麻痺している。

 

(あ~ぁ… ここへ来てから、散々だな)

 

唯乃は、死を覚悟しt---

 

「エグゼキュート・ウェーブ!!」

 

どこからか、そんな声が。

瞬間、おぞましい殺気を感じた。

逃げなければ殺される。

その使命感に似た何かが、唯乃を奮わせた。

 

「チィ!!」

 

テイルギアの出力を瞬間で最大にまで上げる。

その放出されたポニーテールの属性力(エレメーラ)は美しさを持っていた。

さながら、太陽のフレアのような壮大でありながら、優美さを併せ持つ。

先程怪物がしたことを、唯乃は仕返ししたのだ。

その属性力(エレメーラ)に、怪物は弾かれる。

その隙を彼女は逃さない。

地面を這う形で、彼女はブースターを展開させてその場から離脱する。

 

「GIYAAAA!!」

 

宙へ舞う怪物は、それを途中まで見た。

それは何故か??

 

「よくもアタシの邪魔をしてくれたわね!!」

 

怪物の腹部に、ウェイブランスが貫かれている。

先程の必殺技で受けたものだ。

その威力は正確に、捉えている。

人間の心臓を。

それは耐え難い痛みであるのか、怪物はのたうちまわる。

必死に抜こうとも、3つ又が反しとなって抜けない。

 

「邪魔だぁ? するってぇと、お前もコイツが狙いか?!」

「ムシ野郎が恐れるほどだもの。興味はあるわ」

 

紐属性(リボン)を用い、空を舞うテイルブルー。

その眼光は、確かに獲物を捉えていた。

 

「スタッグギルディは何かを考えていたらしいな。ここからでも確認はできたぜ」

「えぇ。甘酸っぱいラブコメを誘導して、恋愛属性(ラブ)を集めようとしたわ」

 

した…?

その語尾から察するに、失敗したということか。

 

「素人でもわかる程の、憎悪。逃げ出すのも無理ないわよ」

「狩りを邪魔したんなら、謝ろう。だが、コイツは譲れないな」

 

両者には、もう怪物は見えていない。

いや、見えていてもその認識を変えていた。

倒すべき『脅威』から、奪い合う『景品』へと。

その僅かな、僅かな油断は時として、地獄へ落とすもの。

 

「!?」

 

テイルブルーの背後に、影が。

彼女が振り向いた瞬間、腹部に激痛が走る。

ただ殴られるだけじゃない、肉を引きちぎられるかのような…

 

「GRRRAAAA!!」

 

まるで、後ろから落ちたような錯覚を覚える。

それは最早、ジェットコースターの比ではない。

考える間もなく、地面に似た感触を背中に受けた。

…似た感触??

 

「痛ツツ… どけよ!!」

「そんな… 無茶いうわね」

 

まさか、唯乃を押し潰していた!?

彼女は一刻も早く動きたいところらしいが、ブルーはまだ動けない。

指一本、まともに動かせる状態ではないからだ。

 

「ったく、しょうがない。---うりゃ!」

 

無理矢理テイルブルーを動かし、ようやく脱出できた。

色々と文句を言おうとした唯乃だが、彼女をみて驚愕する。

 

「なんだよ、こりゃ…!?」

 

ここで、ようやく事態を察した。

テイルブルーが微塵も動けない。

その理由が、あの一撃にあったのだ。

へそを中心に、大きな渦が描かれている。

皮膚を無理矢理ねじりこむ形で。

もうそれは、恐怖を通り越した何か。

ジッと見ていれば、吸い込まれそうな深紅と虚無。

 

(一歩間違えれば、俺様もあぁなっていたのか)

 

その威力による()()に、唯乃は慄いた。

その間にも、怪物はウェイブランスを引き抜こうと悪戦苦闘している。

あれはもう、自分の手に負えるものではない。

彼女はそう痛感した。

 

「逃げるも攻撃するも、今しかねぇ。どうする、俺様!?」

 

自分で自分を追い込ませる。

こうした危機的状況こそ、己を発揮する必要がある。

だが、それらを成せる材料が…

 

『!?』

 

怪物へ、数発飛んでいく。

奴にとっては痛みすら感じないであろうが、牽制にはなる。

横へ警戒していた怪物。

防御していた腕に、上から深く突き刺さる。

深紅ではない、赤きツインテールの遵守の象徴。

 

「ブレイザーブレイド!?」

 

それを使える者は、()()しかいない。

 

「ブルー、無事か!?」

「ぜぇぜぇ… 返事してくださいまし!!」

 

援軍。

そのとき、唯乃は閃いた。

 

(ツインテイルズと共闘すれば、何とか)

 

人数も十分。

上手くツインテイルズが牽制を続ければ、怪物を倒せる。

彼女はそう睨んだのだ。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

怪物は今までで最大級の雄叫びをあげた。

大気を震わせ、耳を閉じていても鼓膜をも震わせる。

テイルギアの力によって強化された聴覚にとって、大ダメージは避けられない。

余りにも迫力あり、殺気がある。

誰もが、目を閉じずにはいられなかった。

 

「…?」

 

長い咆哮が終わり、静寂が訪れる。

テイルレッドは、恐る恐る目を開けてみた。

 

「---いない」

 

敵の逃走という、腑に落ちない結果に終わる。

だが、実際には敗北に近い。

 

☆☆☆

 

アルティメギル・前線基地。

スタッグギルディは、ようやく帰ってきた。

 

「遅かったな?」

 

優しく語り掛けるビートルギルディ。

だが、彼の様子がおかしいことにすぐに気付いた。

 

「…どうした?」

 

問いかけるも、彼は反応しない。

よく見れば、体が震えている。

 

「…僕らは、何者なんだろうな」

「---は??」

 

気でも狂ったのか?

ビートルギルディには、それがコミカルに聞こえた。

 

「冗談だな、我らはエレメリアン。人間にとっては怪物なのだぞ」

「じゃあ、ぁれは何なんだ!?」

 

笑い飛ばすが、スタッグギルディは怒りだした。

ここで、ようやく彼は冗談ではないことを知る。

 

「その様子じゃ、"ホンモノ"を見たらしいな」

「"怒り"、か…」

 

いつから盗み聞きしていたのか。

おもむろに立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩んできた。

 

「次がチャンスだ。ツインテイルズを滅ぼせなきゃ、俺達がお前らを喰うぞ。だがその(てい)では、できんだろうがな!! あひゃひゃはy」

 

彼は笑い飛ばそうとしたが、途中でせき込んだ。

 

「あぁ、悪い。だが、首領はそこまで気は長くはない。せいぜい、あの方の信頼を潰すなよ」

 

それだけを言い残し、"怒り"は去る。

後に残されたのは、ビートルギルディ。

そして、戦意喪失したスタッグギルディ。

もう、自分達の退路は断たれた。

彼等の成すべきこと、それは---

 

☆☆☆

 

何処かの山奥。

その深いトンネルの中に、怪物はいた。

既に距離は取っているため、ブレイザーブレイドおよびウェイブランスは消失した。

それによるケガも、とうに回復している。

だが、あくまで身体的に過ぎないが。

 

「GRUUUU…」

 

怪物は、そこで休息を取っている。

いずれ来る、敵に備えて---

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