「…」
学校からの帰り道。
私は部室に寄ることも無く、真っ直ぐに帰ってる。
どうも、行く気が起こらない。
(行ったとしても、バレるだろうしな)
テイルブレスが反応しないなんて…
こんな事は、今までなかった。
私の右手首にキッチリとはまっている。
でも、今の私にはただの飾りにしか見えない。
「色々と気になるけれど…」
そう呟くと同時に、お腹が…
うぅ、晩御飯どうしよう。
(財布はいよいよ。冷蔵庫も寂しいのよね…)
前はアドレシェンツァでカレーライスをおごってもらったよね。
でも、流石にもう一度はキツイわな。
さてさて、どうしたものやら---
「おい」
冷蔵庫の中には確か…
卵が3個、キャベツが1/4、後はトマト?
「無視かよ、おい」
いや、奥にベーコンが置いてあったはず。
お米はもう無かったよね。
「この… 俺様を無視する気か!?」
スーパーに寄りたいけれど、そうは買えないのよ---
「…へ?」
いきなり、私の横を何かが通った。
瞬間、奥に見えるアスファルトの道が壊れた。
ななな…
まさかと思って、後ろへ振り向く。
「久し振りだってのに、冷たい野郎だ」
銃口を私へ向けた、機嫌悪い唯乃が…
「って、唯乃!? 今までどこにいたの!?」
「んなもん、俺様の自由さ」
思いっ切り揺さぶっても、彼女は素っ気ないなぁ。
「それよりもだ…」
もったいぶってためると、私に脳天チョップをかましてきた。
私が人間であることから、威力はだいぶ弱めにしてあるらしい。
でも、痛いことに変わりないです…
「俺様は今、凄く機嫌が悪ィ!!」
そうですよね…
10人中10人がそう思うわ。
「そんなわけで、戦え」
今度も脳天チョップ…
違う、フェニックスラッシュ―ター!?
こればかりは本気で死ぬぅ!!
とっさに後方バックで躱す。
「…チッ」
私がいた場所は、先程の比ではない。
受けていれば、確実に死んでいた…!
「何で戦うの!? 仲間でしょ!?」
「利害の一致って奴だ。今の俺様にとって、お前は邪魔者でしかねぇ」
…不味い。
この変身できない状況、どうしよう。
取りあえず、心の中でテイルオン連呼しよう。
「直接叩かずとも、殺す事はできる」
早っ!!
瞬時に視界から消えたと思えば、私の前に来ている。
今度こそ終わりだ…!
「っむ」
フェニックスラッシュ―ターが振り下ろされた。
でも、それは地には付いていない。
(意外と、何とかなるもんだわ)
すんでのところで、起動してくれた。
調子が悪いのか、電撃が走っている。
四の五の言えないか。
左腕で受けているフェニックスラッシュ―ター、どうしよう。
「今の調子じゃ、駄目かも…?」
独り言を呟いていたら、本当に調子が悪くなったかも。
電撃が大きくなり、体がしびれてきた。
「何!?」
危険を察知したのか、唯乃は後ずさる。
もしかしたら、そこまで悪い状態だったの…?
あー…
そういえば、なんかコゲくさいわ。
「しゃしゃり出るな!!」
…誰が?
そう尋ねようとした時、意識がまたシャットダウンした。
久々にきたけれど、なんか慣れたような気がしないでもない。
ただ、この原因はなんだろうなぁ…
そんな呑気なことを考えながら、遠のいていく…
☆☆☆
明らかに様子が異なる。
テイルグリーンとなった伊織だが、全身から黒煙が立ち込める。
だからといって、別にどこかが焼けているわけでもない。
それに、放電していることも気にかかる。
「どうした、テイルグリーン!?」
その様子を、唯乃はただ見ていた。
だがそれでも、警戒は怠らない。
フェニックスラッシュ―ターを構えたまま、息をひそめる。
(おかしいとは思っていたが… これは)
少なくとも、先程までは話しかければ答えてはくれただろう。
だが今は、その気配すらない。
恐らく、テイルグリーンとしての意識はない。
彼女は徐々に前のめりとなり、地面へと伏せていく。
だが倒れはせず、獣のような構えをした。
(風が…)
風が、彼女の頬を伝う。
いや、激しく立てつける。
その中心は、テイルグリーンだ。
彼女から溢れ出す、ポニーテールの
それが風として、具現化されたのだ。
「GRRRRR…」
そして、彼女の姿も変化していく。
全身を黒煙が包み込む。
だが、黒煙と表現するには気味が悪い。
その上、黒煙には『色』が付いていた。
"怨み"を表現するかのような、紫色が…
「GYAAAAAAA!!」
咆哮。
それは、大気を揺るがせる。
先程の
人間態である唯乃には、影響は大きい。
体重が軽く、エレメリアンよりも柔軟性がある。
そのために、彼女は吹き飛ばされそうになっていた。
「…へぇ」
地面に足を踏ん張り続ける。
一瞬でも気を緩めれば、一貫の終わりだ。
「GRRRRR?」
咆哮が止み、再び静寂が訪れる。
それは元からある住宅街の閑静さとは異なる。
歪さがそこら中に蔓延している。
そして、黒き怪物と化したテイルグリーン。
彼女は獲物を捉えるかのように、周囲を見渡す。
(まるっきり俺様を無視か… 見えてねぇのか、それとも)
その反応に、唯乃はイラついていた。
仕方なく彼女は、レリーフをフェニックスラッシュ―ターへ接続した。
「テイルオン---!!」
彼女の体へ、
その奔流は、ようやく怪物に認識される。
「よぉ、グリーンの成り下がり。やっと気付いた?」
「…」
微動だにせず、しかし視線はこちらへ向けている。
唯乃がまとうテイルギアType-P。
それが有する
フェニックスラッシュ―ターの切っ先を向け、彼女は挑発する。
「俺様から、この鎧を剥ぎ取ってみな」
既に、怪物の姿は無かった。
逃げた…?
(いや---)
彼女の周囲が、揺れる。
その地面には、激しくくぼんだ跡があった。
まるで、何かの前準備かのような。
非常にワザとらしい行為である。
(テイルグリーンなら、無用な破壊はしねぇ。本当の獣なんだな)
そう確信した、唯乃。
その無邪気な笑顔は、誰もが思わず引くであろう。
「構わねぇよな--- 壊しても」
フェニックスラッシュ―ターを後ろへ向ける。
上空から襲おうとする怪物は、そこにいたからだ。
引き金を引かれたとき、唯乃は手ごたえを感じた。
「伊織には悪いが、ここが縁の切れ目だな」
距離を置いて着地した怪物。
その右手には、大穴が空けられていた。
十中八九、唯乃によるものであろう。
大穴であるものの、手としての機能は問題ないらしい。
右手を執拗に開閉させ、それを確認している。
「---(二ィ)」
まだ足りない。
そう言っているのか?
「UUUUUUU」
怪物は力をため込んでいる。
それが一目瞭然なほど、だ。
だが、唯乃が怪訝にしたのは別にある。
(引き寄せられている…?)
先程のは、
その威力に、唯乃は吹き飛ばされそうになった。
しかし、今度は逆だ。
それに、この力は
(これは、重力操作…! あの野郎、ホントは意識があるんだろ!?)
地面へフェニックスラッシュ―ターを突き立てる。
だが、地面を削るだけ。
圧倒的な力の前では、無力に等しい。
そしてついに、彼女は宙を舞った。
「やべ---!!」
頭が、ガッチリと掴まれた。
反撃しようにも、フェニックスラッシュ―ターは地面へ置いてきた。
「どうしようってんだ…?」
暗転。
いや、後頭部に激しい衝撃が来る。
遅れて、体にも衝撃が来た。
それでいて、彼女の頭から圧迫感は消えない。
拘束によるものに加え、圧縮された空気が肺を押し潰す。
(ただでさえ重力操作は厄介だってのに… 不味いぜ)
薄れた意識をかき集め、唯乃は打開策を練る。
今の威力から、完全に暴走しているわけではない。
唯乃がエレメリアンであることもある。
今以上の威力でも、倒れることはないだろう。
だが、本気であればテイルギアごと押し潰せたはず。
それをしないということは---
「(一発ぶん殴りゃ、治るかもしれねぇ)」
「GYUUUUU…」
だが、それができるのか?
未だに押さえつけられたままの状態で。
地面への衝突で体が、まだ麻痺している。
(あ~ぁ… ここへ来てから、散々だな)
唯乃は、死を覚悟しt---
「エグゼキュート・ウェーブ!!」
どこからか、そんな声が。
瞬間、おぞましい殺気を感じた。
逃げなければ殺される。
その使命感に似た何かが、唯乃を奮わせた。
「チィ!!」
テイルギアの出力を瞬間で最大にまで上げる。
その放出されたポニーテールの
さながら、太陽のフレアのような壮大でありながら、優美さを併せ持つ。
先程怪物がしたことを、唯乃は仕返ししたのだ。
その
その隙を彼女は逃さない。
地面を這う形で、彼女はブースターを展開させてその場から離脱する。
「GIYAAAA!!」
宙へ舞う怪物は、それを途中まで見た。
それは何故か??
「よくもアタシの邪魔をしてくれたわね!!」
怪物の腹部に、ウェイブランスが貫かれている。
先程の必殺技で受けたものだ。
その威力は正確に、捉えている。
人間の心臓を。
それは耐え難い痛みであるのか、怪物はのたうちまわる。
必死に抜こうとも、3つ又が反しとなって抜けない。
「邪魔だぁ? するってぇと、お前もコイツが狙いか?!」
「ムシ野郎が恐れるほどだもの。興味はあるわ」
その眼光は、確かに獲物を捉えていた。
「スタッグギルディは何かを考えていたらしいな。ここからでも確認はできたぜ」
「えぇ。甘酸っぱいラブコメを誘導して、
した…?
その語尾から察するに、失敗したということか。
「素人でもわかる程の、憎悪。逃げ出すのも無理ないわよ」
「狩りを邪魔したんなら、謝ろう。だが、コイツは譲れないな」
両者には、もう怪物は見えていない。
いや、見えていてもその認識を変えていた。
倒すべき『脅威』から、奪い合う『景品』へと。
その僅かな、僅かな油断は時として、地獄へ落とすもの。
「!?」
テイルブルーの背後に、影が。
彼女が振り向いた瞬間、腹部に激痛が走る。
ただ殴られるだけじゃない、肉を引きちぎられるかのような…
「GRRRAAAA!!」
まるで、後ろから落ちたような錯覚を覚える。
それは最早、ジェットコースターの比ではない。
考える間もなく、地面に似た感触を背中に受けた。
…似た感触??
「痛ツツ… どけよ!!」
「そんな… 無茶いうわね」
まさか、唯乃を押し潰していた!?
彼女は一刻も早く動きたいところらしいが、ブルーはまだ動けない。
指一本、まともに動かせる状態ではないからだ。
「ったく、しょうがない。---うりゃ!」
無理矢理テイルブルーを動かし、ようやく脱出できた。
色々と文句を言おうとした唯乃だが、彼女をみて驚愕する。
「なんだよ、こりゃ…!?」
ここで、ようやく事態を察した。
テイルブルーが微塵も動けない。
その理由が、あの一撃にあったのだ。
へそを中心に、大きな渦が描かれている。
皮膚を無理矢理ねじりこむ形で。
もうそれは、恐怖を通り越した何か。
ジッと見ていれば、吸い込まれそうな深紅と虚無。
(一歩間違えれば、俺様もあぁなっていたのか)
その威力による
その間にも、怪物はウェイブランスを引き抜こうと悪戦苦闘している。
あれはもう、自分の手に負えるものではない。
彼女はそう痛感した。
「逃げるも攻撃するも、今しかねぇ。どうする、俺様!?」
自分で自分を追い込ませる。
こうした危機的状況こそ、己を発揮する必要がある。
だが、それらを成せる材料が…
『!?』
怪物へ、数発飛んでいく。
奴にとっては痛みすら感じないであろうが、牽制にはなる。
横へ警戒していた怪物。
防御していた腕に、上から深く突き刺さる。
深紅ではない、赤きツインテールの遵守の象徴。
「ブレイザーブレイド!?」
それを使える者は、
「ブルー、無事か!?」
「ぜぇぜぇ… 返事してくださいまし!!」
援軍。
そのとき、唯乃は閃いた。
(ツインテイルズと共闘すれば、何とか)
人数も十分。
上手くツインテイルズが牽制を続ければ、怪物を倒せる。
彼女はそう睨んだのだ。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
怪物は今までで最大級の雄叫びをあげた。
大気を震わせ、耳を閉じていても鼓膜をも震わせる。
テイルギアの力によって強化された聴覚にとって、大ダメージは避けられない。
余りにも迫力あり、殺気がある。
誰もが、目を閉じずにはいられなかった。
「…?」
長い咆哮が終わり、静寂が訪れる。
テイルレッドは、恐る恐る目を開けてみた。
「---いない」
敵の逃走という、腑に落ちない結果に終わる。
だが、実際には敗北に近い。
☆☆☆
アルティメギル・前線基地。
スタッグギルディは、ようやく帰ってきた。
「遅かったな?」
優しく語り掛けるビートルギルディ。
だが、彼の様子がおかしいことにすぐに気付いた。
「…どうした?」
問いかけるも、彼は反応しない。
よく見れば、体が震えている。
「…僕らは、何者なんだろうな」
「---は??」
気でも狂ったのか?
ビートルギルディには、それがコミカルに聞こえた。
「冗談だな、我らはエレメリアン。人間にとっては怪物なのだぞ」
「じゃあ、ぁれは何なんだ!?」
笑い飛ばすが、スタッグギルディは怒りだした。
ここで、ようやく彼は冗談ではないことを知る。
「その様子じゃ、"ホンモノ"を見たらしいな」
「"怒り"、か…」
いつから盗み聞きしていたのか。
おもむろに立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩んできた。
「次がチャンスだ。ツインテイルズを滅ぼせなきゃ、俺達がお前らを喰うぞ。だがその
彼は笑い飛ばそうとしたが、途中でせき込んだ。
「あぁ、悪い。だが、首領はそこまで気は長くはない。せいぜい、あの方の信頼を潰すなよ」
それだけを言い残し、"怒り"は去る。
後に残されたのは、ビートルギルディ。
そして、戦意喪失したスタッグギルディ。
もう、自分達の退路は断たれた。
彼等の成すべきこと、それは---
☆☆☆
何処かの山奥。
その深いトンネルの中に、怪物はいた。
既に距離は取っているため、ブレイザーブレイドおよびウェイブランスは消失した。
それによるケガも、とうに回復している。
だが、あくまで身体的に過ぎないが。
「GRUUUU…」
怪物は、そこで休息を取っている。
いずれ来る、敵に備えて---