「…またか」
もう何度目?
そんなツッコミすら、もう出ない。
変化がなさすぎで、つまらない。
あの時の悪夢?
「…やっぱり夢?」
自分の頬をはたいても、痛みが感じられない。
だけれど、今回は少し違う。
これが『夢』だと、ハッキリしていることだ。
「夢なら、勝手に覚めてくれる」
誰に言ったのか。
自分に言ったのか。
それすらも、あやふやで。
私は歩き続ける。
燃え盛る車、森。
オイルか水たまりか、地面が濡れている。
そんなこと、私にはほとんど興味ない。
足裏に、ジワリと感触がある。
そんな妙な感覚に、初めて違和感を感じた。
(私、こんな服持ってたっけ?)
でも窮屈どころか、フィットしている。
愛香さんにとっては、ぶかぶかなんだろうな。
姿を確認しようと、壊れた車へ近づいた。
運転席に近いガラスを見て、ハッとした。
「これ… もしかして」
もしかして、じゃない。
夢の中で見た、幼い私が着ていた服だ。
サイズこそ違うが、このワンピースは間違いない。
でも、何で…
「それが、分岐点だからさ」
わわわ!?
誰なの、と問いかけるも姿は見せない。
「君は今、迷いがある。それが君自身をここへ導いた」
「その声は--- "怨み"!?」
正体がわかったとき、初めて彼は私の前に来てくれた。
でもそれは、エレメリアンではなく『擬態』した姿で。
「酷いなぁ。ここでは『ユウ』と呼んでほしいな」
おちゃらける彼だけれど、私の頭(?)はパニックだ。
私の夢であるなら、どうして彼がここにいるの?
「私は---」
「ポニーテールに自身がない、そう言いたいんだろう?」
そうかもしれない、でもそうじゃない。
テイルブレスは、私に答えてはくれなかった。
それは恐らく、私自身のポニーテール属性に問題がある。
でも本当にそれだけなのか?
『テイルグリーン』に変身できない時から、残っている。
「確かにそうかもしれない。でも、私はもっと別にあると思う」
「ふぅん」
彼は興味なさげに返答する。
予想通りの回答が得られず、少々不機嫌になったか。
「---1つ、聞きたいの」
一呼吸置いた。
もしかしたら、彼は呆れるかもしれない。
でも、これで疑念を払拭できるなら---
「"感情"って何?」
そう。
ユウ---"怨み"もそう。
そしてそれは母性のような当たり前では、生まれにくい。
今までに出会ったエレメリアンは、曲がっていた。
それは、一言でいえば『趣味』だ。
でも、彼は違う。
この地球で、人間のみが持つことを許された。
それが、感情。
「何でエレメリアンは、その
不思議でしかなかった。
「…さぁね」
ユウは、あっけなかった。
私の真剣な質問に、軽くあしらわれてしまう。
「それは、君が一番知っていることだと思うが---」
「はぁ…」
あやふやにされて、今度は私が不機嫌だ。
「もし取り込まれそうなら、今度は逆に取り込んでしまうことだ。それが感情を知る
…ものっそい、わからん。
何を言いたいんだか。
☆☆☆
ツインテイルズ基地。
医務室には、テイルブルーが---
いや、愛香が横になっている。
桜川先生が率先して、面倒をみると言ってくれた。
たぶん、大丈夫だとは思うが。
「今回確認されたものですが---」
トゥアールは、画像解析に勤しんでいた。
初めはぼんやりとしたものだが、やがて鮮明になっていく。
それがハッキリしたとき、正体がわかる。
「エレメリアンではなく、何らかの亜種かと」
そうとしか思えない。
エレメリアンでも、意思疎通ができるほどの知能はあった。
でも、コイツにはそれがなかった。
ただ、目に見えるものを破壊している。
それを『怪物』と呼ばずに、どう表現できるか。
「5kmも離れた場所でも、威圧感を感じました。とてもエレメリアンが出すものでは…」
俺も同意見だ。
人を襲い、
それを目的とするアルティメギル。
そのメンバーたるエレメリアンが放つには、不合理だ。
あれでは俺達はおろか、一般人ですら逃げ出すだろう。
「さて、別の意見も取り込みたいところですね」
トゥアールは椅子を回転させ、俺達とは別方向を向く。
そこには、俺達と同じように立っているリン先輩。
そして、壁にもたれかかっている唯乃がいた。
彼女は本来はツインテイルズ基地へ招待させないのだが、リン先輩がいれば大丈夫か。
「ウチは知らんで。どこぞの芋虫が、勝手に湧いただけやろ」
「えげつないな、先輩…」
だが、この戦闘には関与はしていない。
たった一言で、それをわからせる。
ある種、凄すぎる。
「そもそも、エレメリアンと尺を計るのはアカンわ。ちょいとしか見てへんけれど、あの凄み… ただもんやあらへん」
呆れつつも、正確な視点を挙げてくれた。
俺もそこはわかっている。
でも、何か引っかかる。
テイルブルーがあっさりと倒されたのも、だ。
あれ程の強者が、重体を負うだなんて。
何か別の理由があるとしか思えない。
「唯乃さん、いえ--- フェニックスギルディさんはどう思われますの?」
テイルギアを解除し、本来の姿へと戻った慧理那。
たとえエレメリアンでも臆する事無く問い詰めるその姿は、もはやあの時とは違っていた。
俺とは違う場所で、彼女もまた成長しているんだと実感した。
「知ってるぜ」
回答は簡単だった。
自分が特権を得ているかのように、彼女は嗤う。
「なっ---」
「ただし、俺様の作戦がある。それに従うんなら、バラシてもいい」
…交渉か。
しかし、『俺様の作戦』だと?
場合によっては、俺達が不利に立たされることもある。
テイルブルーが再起不能である今、大博打を打てるのか?!
「総二様…」
「…」
トゥアールは、俺の顔を覗き込む。
この様子じゃ、不安げなのは隠しきれないか…
横目でリン先輩を見ると、姿勢を崩していない。
まるで、練習を厳しく見るトレーナーのようだ。
…俺自身の決断が、全てか。
「---わかった。条件を呑もう」
「…マジ!?」
「この俺様が、この期に及んで冗談を言うと思うか?」
トゥアールですら、信じられないといった表情だ。
事実、俺も驚きを隠せない。
「あの怪物は、伊織なの?」
慧理那も、両手で口に当てている。
リン先輩は、それでも動じない。
まさか、これを予測していたのか…
「簡単に言えば、『テイルギアの
伊織先輩が行方不明になる以前から、不調だった。
だから、俺達が出撃しても来ることはなかった。
まさか、そんな理由があっただなんて…
「リン、てめぇが作った一級品の模倣だ。どこかでガタが来てもおかしくなかったろ?」
「さてね。ウチが作ったテイルブレスには、何の不備もあらへん。むしろ、あっちには別の問題があるんと違うか??」
今、サラリと大事なこと言わなかったか?
リンと唯乃、トゥアールが揉めに揉めてくれた。
お蔭で最後は会議じゃなくなったよ。
「えぇ、つまり… 今はすることは無いと?」
「アルティメギルは必ず仕掛けてくるはずだ。でなきゃ、ここまでする理由もないしな」
お互い、肩で息をしながらそうまとめる。
いい加減、良い感じでまとめようぜ…
「それまでに、愛香さんの回復とテイルギアの強化を急ぎます」
「愛香さんは私が」
トゥアールはそう言い残し、モニタールームから出ていった。
慧理那も、医務室に向かう足音が聞こえた。
やがて、その足音も消えていく。
さて、これで別の話題に切り替えることができる。
「お前らに聞きたい。俺達と手を組まないか?」
「はぁ!?」
「…」
俺が聞きたいのは、これだ。
唯乃は驚き、リン先輩は無反応のままだ。
「それは、『線』の関係を築きたいという意味?」
その質問へは、返答しない。
する理由がない。
俺達ツインテイルズと、リン先輩達は奇妙な位置にいる。
仲間でもあり、敵でもある。
最近になって、伊織先輩が味方となってくれた。
だが、彼女は純粋にそうしたのか?
今回の
ある時を境目に、彼女との繋がりが途切れたように思える。
それが余計に、俺を迷わせる。
『本当はどうなんだ!?』
俺が求めるもの。
それは---
「そうだ、とすれば?」
出来る限りの、スマイル。
これが、通用するのか?
「くだらねぇ!!」
壁を激しく叩く音が聞こえた。
「今回は俺にも落ち度がある。だが、それ以上のなれ合いは危険だ」
「…」
「それでも、俺達にからもうってのか、えぇ!?」
唯乃は、俺に異常なまでに、近づいてきた。
顔が整っているだけに、凄みがある。
どうやら彼女には、ハッタリだと思われたらしい。
「お前は、一匹狼だ」
「あぁ!?」
「アルティメギルの反逆者。そうやって、お前は独りで戦い続けるのか?」
ずっと、孤独だった。
もちろん、俺達が知ったことではない。
どれだけ苦しく、辛いかなんて…
「…ケッ」
捨て台詞を残し、唯乃は去った。
結局、俺の質問には答えてはくれなかった…
「ウチなら、大丈夫」
「ありg---」
「これも、1つのビジネスやからな」
…純粋に、喜べないなぁ。
正直と言えばそれまでなんだが、もう少しオブラートに包んでくれないかな?
「今は待つ。それだけ」
そうだ。
戦うには、まだ早い。
テイルブルーが---愛香は、当分目を覚まさない。
アルティメギルも、あの怪物---テイルグリーンに対して何らかの策を講じるだろう。
今はまだ---