このヒキニート(女)にも祝福を!   作:オンライン2222

1 / 7
 あぁ……心がほのぼのしたいんじゃあ……。

 


一巻
この娘たちの異世界生活に祝福を!


「ぐすっ……、う、うえええええええっ……あぐっ……うぐっ……!」

 

「ねぇ! ちょっと泣き止んでよ!? わ、私が悪かったから! 悪かったから! ね、ねぇってば!?」

 

 私は滝のように涙を流した。……悔しい。そこまでボロクソ言わなくてもいいじゃないか、と。

 水浸しになる瞳で私は目前の視界に映る少女を精一杯睨み付けた。

 淡く透き通った水色の長髪に、陶器のように美しい白い肌を兼ね備えた美少女に怨念の込めた視線を向けてやったのだ。

 そうして、少女を再度よく見ると私は思い知らされる。その青髪の美少女の有象無象とはかけ離れた容姿との差を。

 それがより一層私を惨めにさせた。

 

 

 ……悔しい。許せない。

 

 

 だけど、私に勝てる部分なんて何一つなかったし……情けないことに煽り返すこともできなかったのだ。

 だから、私は今はもう泣くことしかできなかった。

 

 

「うぐっ……そんな、……死に方バカにするなんえ……ひっどいよおおぉっ!」

 

「あぁ、もう謝るからっ! 私、謝るからっ!! お願いだから泣き止んでっ!?」

 

 

 ……あぁ、本当に不甲斐ない……。

 ただ、私が泣くことで目の前の女神が慌て取り乱し、同じように泣き始めそうになっていることは少しだけ私の心を軽くさせてくれた。

 

 

 ……私は、……すごく可笑しな話ではあるが、私が生きていた自身の生前を思い出す。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

「はーい、お疲れ様でーす。失礼しまーす」

 

 電子時計の時間を見れば、時刻は4時半ほど……。

 私はネット上のフレンドにお別れの挨拶をし、ゲーム機の電源を落とした。それから、頭にかけていたヘッドホンを外す。

 

 

 ……ムキになってやりすぎた……ううっ……耳が痛い……。

 

 

 私が先程までプレイしていたゲームは端的に言えば死にゲーと呼ばれるジャンルのゲームである。

 とてつもなく強いモンスターを相手に何度も何度も挑んで、覚えた行動パターンをもとに勝利を掴むというゲームである。

 

 私はこの手のジャンルのゲームが大好物であるのだ。

 理由は簡単にクリアできないので長く遊べる……だから、新しくソフト買わなくていい……という無粋な理由であるが、……それでも好きなものは好きなのだ。

 そのため、今日はフレンドの力も借りてようやく追加されたボスに勝つことができ、この時間に終わったのである。

 

 ……まぁ、その追加コンテンツのボスに勝てなさすぎて、コントローラーを壊しかけるほど熱中してしまったが……それは若気の至りというやつなのだ。

 だから、私は悪くない。制作会社が悪い。

 

 そうして、私は自分自身に言い訳をし、下着のまま外出をするわけにもいかないので手近にあった中学時代のジャージに着替えた。

 緑に細い黒のラインが引かれた質素なデザインであるが、肌触りが良いので私はニー……げふんげふん! 女子高校生になっても重宝している。

 

「スンスン……んっ……た、多分、大丈夫……一応……一応! JKの服だし……!」

 

 ジャージの匂いを確認し、私は手早く着替えると、腰ほどまである長髪が邪魔にならないように後ろで束ねた。それから、出掛けるための準備をする。

 ニー……こ、高校生である私は普通であれば今すぐ寝なければいけない、もしくは朝の準備をしなければいけない、のだが……どうしてもっ……どうしても今日も私は学校を休まなければいけない理由があった。

 

 それは、本日発売の新作ゲーム機を手に入れるためである。しかも、私がいつも行くお店は先着500名様限定であるのだ。

 私はやる時はやる女である。……田舎のお店であろうと油断はしない。転売屋はいついかなる場所であろうと潜んでいるのである。

 

 私は家族を起こさないように忍び足で慎重に玄関を出た。

 

 東の山の隙間の奥が青みがかかっているのが目に入る。山中は霧が立ち込めており、ジャージ一着で外出した私は肌寒さに後悔した。

 が、もう遅い。静粛が支配する薄暗い田舎道を私は少しばかりの恐怖心とドキドキを抱きつつ歩を進めた。

 目指すはバスの始発である!

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

「あつぅ……」

 

 時刻は昼前……いや、お昼真っ只中かな?

 燦々と照りつける太陽がジリジリと私の頭を炙る……。アニメの世界であれば頭頂部からプスプスと煙が出そうなほどに。

 引きこもりのオタクには厳しいものがあった。恐るべき……太陽……。

 

「でもプヘステ7は無事に手に入れられたしね……やった……!」

 

 だがしかし、無事に購入できたゲーム機がそんな私を励ましてくれる。ずっしりとした重みがある紙袋を私は両腕で大事に抱えた。

 あぁ、神様ありがとう……!

 ……それにしても、先着500名様限定なんて……お店もひどいことをするよねー、私がニー……が学生じゃなければ買えなかったよ?

 まぁ、買えたんだから万事オッケーかな? 久しぶりに出たくもない外に出されたのは最悪だけどさ。

 そうして手持ち無沙汰な私が脳内で独り言を呟いていると……

 

「あっ…………」

 

 目の前から歩いてきた女子学生と目が合ってしまった。慌てて私を目を伏せる。

 それから袋を握りしめる力を強くし、私はその学生の横を逃げるように早足で通り過ぎた。気持ちの悪い嫌な汗が背中と額に湧き上がる。

 

「……?」

 

「ギクッ……⁉︎」

 

 一瞬、凝視された気がするが……どうやら向こうは私が誰なのか気づかないでくれたようであった。

 彼女は私という元同級生に気がつくことなく、自身が手に持つ携帯に視線を戻す。そして、そのまま私の横を通り過ぎて行ってくれた。

 次第に私の涙腺と汗も引っ込んでいく。

 

 ……あ、危ない……危ない……。あの子、私と同じ制服着てた……し、しかも、同じ色のリボンしてたから……同学年の子だったよ……!

 ほんとうに気づかれなくてよかったぁ……。

 

 ……いや、そもそも、自意識過剰か……。二ヶ月ちょいで学校行かなくなったやつなんて気づかれるわけがないよね……。

 

「……はぁ…………」

 

 緊張で張った肩の力は抜けたが……魂も同時に抜けてしまいそうなほど……気分が滅入る。

 

 

 …………。

 

 

 

 …………はっ、や、やめだ、やめだ! 今日はこの子で遊ぶためにわざわざ徹夜したんだから……。

 そんな嫌なことを思い出しちゃうのはやめよう!!

 家に帰ったら、ゲーム三昧といっちゃおう!

 

 ……世間では私みたいな学校に行かず家に引き篭もってゲームばかりしてる子をネトゲ廃人や……社会不適合者と呼ばれている。

 ……誰だって好きで逃げたわけじゃないのに……。世の中は冷たい。……私だって……私だって、逃げたくて……学校から逃げたわけじゃないんだから。

 

 

 

 この時、そんなことを思ってしまったのが間違いだったと私は後悔することになる。

 

 ふと、……ふと、私は振り返った。通り過ぎた女の子がとても眩しくて、羨ましくなってしまったからだ。

 

 再度、私の視界に入った女の子は先程と変わることなく携帯を弄っていた。

 信号が青になったのを確認し、その子は、そのまま左右を確認することなく横断歩道を渡っていく……その時、女の子に迫る大きな影に私は気づいた。

 

 

「あ、危ないっ!?」

 

 

 私は気がつけば、購入したゲーム機を投げ捨て無我夢中で女の子を突き飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「佐藤和美さん、ようこそ死後の世界へ」

 

 真っ黒な部屋の中、スポットライトが当たったように明るく照らされた空間で、突拍子もなくそんな残酷なことを告げられた。

 ……脳の理解が追いつくわけがなかった。

 しかし、私のそんな意思など関係ないとばかりに、目の前の美少女は話を紡ぐことをやめてはくれない。

 

「あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わったのです」

 

 透き通るほど美しい青色の長髪を兼ね備える少女は淡々と事務仕事を処理するように続ける。

 だが、私は……目覚めると突然場面が切り替わっているのだ。彼女の言葉を理解することも困難になりそうであった。

 

「私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神です」

 

 ……しかし、人間とはかけ離れた美貌をもつ少女の言葉は、そんな私の混乱する意識を落ち着かせていった。

 そして、同時に私は……実感した。自分が本当に死んでしまったのだと。……心がそう受け入れ始めてしまっていた。

 

 あぁ……お母さん、お父さん……弟よ……親孝行なんてロクに何もせず、先に逝ってしまう親不孝な娘をお許しください……。

 ……本当、引きこもりなんてならずに学校から逃げなければよかった……。

 

 学校…………そういえば、……私が助けた女の子は無事なのだろうか? いや、私がその尊い命を捨ててまで助けようとしたのだ。助かってもらってなければ困る。

 

「……一つだけ聞いてもいいですか?」

 

 なので、私は美少女に尋ねた。

 美少女は私の問いかけに静かに頷く。さすがは女神様寛大である。

 

「どうぞ?」

 

「……あの女の子……。私が突き飛ばした女の子は、生きてますか……?」

 

 私にとって大事なことだった。

 私の命を対価にした人生最後の善行であったのだ。

 命懸けで助けたのにも関わらず、結局助けられず死に損なんて……家族に申し訳ないし……悔しすぎる。

 

「生きてますよ? ただ、足を骨折する大怪我を負いましたが」

 

「よかったぁ……」

 

 ……私の死は無駄ではなかったんだ。少しはお父さんとお母さんに最後だけでも顔向けできたかな?

 私は胸の奥がスゥーっと軽くなっていくのを感じる。しかし、そんな私のほっとする様子を見た女神様は、小首を傾げていた。

 

「まぁ、あなたが突き飛ばさなければ、あの子は怪我もしなかったんですけどね」

 

「…………へ?」

 

 

 ちょ、……は? 今なんて!?

 

 

「あのトラクターは、本来ならあの子の手前で止まったんですもの」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってください……!」

 

 私の制止に女神さまは不思議そうに首を前に出す。

 

「なんです?」

 

「と、トラックじゃなくて、トラクターなんですか……⁉︎」

 

「はい、トラクターですけど。あの女の子だって、大型トラックであれば流石に気づいて逃げてますよ」

 

 

 え、えぇ…………。なんか少しダサいんですけど……。

 

 

「じゃ、じゃあ、……あれですか? 私の死因はトラクターに耕されたってことですか?」

 

「いいえ、ショック死ですけど。トラックに轢かれたと勘違いして」

 

「ショック死っ!?」

 

 

 え、嘘……? 嘘でしょ……⁉︎ 私ただ勝手にでしゃばって、勝手に死んだだけなの? え、嘘だよね?

 女神様の言葉に私は唖然としてしまう。あんまりであると。

 だがしかし、そんなセンチメンタルになる私を容赦なく女神様は嘲笑する。

 

 

「ぷ、あっはははは! わ、私、長くこの仕事をやっているけど、こんな珍しい死に方したのはあなたが初めてよ? ……プークスクス!」

 

 

 え、なにこの女神……。え、ほんとに女神……? 邪神じゃないの?

 ……どうしよう本気のグーで殴りたいんだけど。

 

 

「あなたはトラクターに轢かれそうになった恐怖で失禁! 近くの病院に緊急搬送! 医者や看護師に鼻で笑われながら、心臓麻痺でっ……プークスクス!」

 

「や、やめてえええ! 聞きたくない聞きたくないから……!!」

 

 あまりの現実に私は慌てて耳を塞いだ。目頭が熱くなっていくのも感じる。

 

 

 ……最悪である。あまりにも最悪である。

 お父さんやお母さんに顔向けするどころか、顔に泥を投げ付けるレベルの親不孝を最後にやってしまったではないか……!

 あぁ……ああああ、もう、あああああっ……⁉︎

 

 

「現在あなたの家族が病院に駆けつけ、悲しむよりも先に、その死因に家族さえも思わず吹き出し……」

 

 さらに、女神は瞼に涙を溜めて耳を塞ぐ私のことなんて知らずに最悪な言葉を私の耳元で告げてきた。

 

 

 

 プッツン!っと何かが私の頭の中で切れる音がした。

 

 

 

「あ、ああああああああああああああーっ!?」

 

「ちょっ! な、なによ、やめてよ!? ねぇ、ちょっと!?」

 

 

 叫ぶと同時に、私は泣きながら女神に掴みかかった。

 許せない。許せなかった。

 私は女神の胸元を掴むと、ユサユサと力強く身体を振ってやる。

 

 

「ちょ、わ、悪かったから! 泣かせるつもりはなかったから! ほら、謝ったから離して!?」

 

「うぅぅっ……! うわあああああああああああんっ…………!」

 

 

 私は火がついた赤ん坊のように大粒の涙を大量に流しながらも女神の首を絞めようとした。

 が、さすがにミジンコレベルの私の運動能力では、女神に鬱陶しそうに簡単に手を振り払われてしまうだけであった。

 

 

「ちょ、女神に手をかけようとするなんて罰当たりもいいところよ……!? あんた地獄に落とされたいのかしら!」

 

「…………いいよ、地獄でも何処でも落とせよぉ……馬鹿女神ぃぃっ……!」

 

「……え、……お、思ってもない返しをされちゃったんですけど……。ね、ねぇ? わ、私が言いすぎたわ。そ、その、謝るから……とりあえず、泣き止んでくれないかしら?」

 

 私は女神の脅しに屈することなく、泣きながら大の字に倒れ込み、盛大にバタバタと取り乱してやった。

 プライドなんてものはない。私にできることはこいつを困らせてやることだけだ。

 

「ぐすっ……、う、うえええええええっ……あぐっ……うぐっ……!」

 

「ねぇ! ちょっと泣き止んでよ!? わ、私が悪かったから! 悪かったから! ね、ねぇってば!?」

 

 私は涙の雫が溢れ出る目で女神を一睨みしてやる。

 そうして、少女を再度よく見ると私は思い知らされる。その青髪の美少女の有象無象とはかけ離れた容姿との差を。……私との差を。

 それがより一層私を惨めにさせた。

 

 ……悔しい。許せない。

 

 

 

 ……困らせてやる。

 

 

「うぐっ……そんな、……死に方バカにするなんえ……ひっどいよおおぉっ!」

 

「あぁ、もう謝るからっ! 私、謝るからっ!! お願いだから泣き止んでっ!?」

 

 私は腰まで長い自慢の茶髪を振り乱し、女神のいる間にて小さな子供のように泣きじゃくってやった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……よ、ようやく泣き止んでくれたわね……」

 

 数分程経ち。私は泣き止んでいた。

 女神が自身のために用意していた午後のデザートを私に献上してきたからである。

 だがしかし、そんな簡単に躾けられる私ではない。

 ケーキをフォークで一口サイズになるよう口に運びつつ、女神を一睨みする。

 

「……グスッ……ケーキ如きで私が買収できるとは思うなよ……」

 

「……文句があるなら返しなさいよ」

 

「うぅ……美味しい……」

 

「あんたねぇ……」

 

 女神は呆れた眼差しで私を見るが、知ったことではない。

 私は悪くないのだ。

 私は女神を敬うことをせず、ただ与えられたものを頬張る。そんな私の態度に女神の表情はイラついていたが、何かを諦めたのか溜息を短く吐いた。

 

「はぁ……まぁ、いいわ。私も少し言いすぎちゃったからね。……ねぇ、理由はさておき、死んだあなたはいつまでもここに居られるわけではないことは分かるわよね?」

 

「……ねぇ、女神? 私に生き返れるって選択肢はないの?」

 

「ないわよっ! しかも今、疑問系じゃなかったかしら!? あんた本当に地獄に叩き落とすわよ!!」

 

 ……むぅ、ダメか。

 駄々をこねれば、ワンチャン行けるかと思ったが……どうやら、そういうわけにはいかないようである。

 

 はぁ……しょうがないか。

 

 これ以上泣き喚いても無意味なことを理解した私は黙って女神の話を聞くことにした。

 

「いい? 死んだあなたには、二つの選択肢があるわ。一つは日本で人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。そして、もう一つは、天国的な所で永遠におばあちゃんみたいな暮らしをするか」

 

 

 ……なにその、究極的な選択。私という意識が消されるのは嫌だし……天国かなぁ……?

 

 

「……今あなた、天国にしようって思ったでしょ? あのね、実は天国ってあなたたちが想像しているような素敵な所じゃないのよ。テレビが無ければ、漫画やゲームもない……死んでるから食事も必要ないし、睡眠も必要ないの。しかも肉体がないから、あなたが好きな人が出来てもえっちいこともできないわ。永遠に、植物のように日向ぼっこするだけの場所なのよ」

 

 

 なにそれ……なに地獄の間違いとかじゃないでしょうか……?

 となると、赤子になって一からやり直すしかないじゃないですか……でもなぁ……それはもはや、私ではないし……。私は消えちゃうのと一緒だし……。

 

 

 そうして、私が悩んでいると女神は満面の笑みをして近寄ってきた。

 

「うんうん、天国なんて退屈な場所行きたくないわよね? かといって、今までの記憶を失って一からやり直したくもないわよね? そこで! そんなあなたにちょっといい話があるのよ!」

 

 女神は私に鼻先が当たりそうなほど顔を近寄せて聞いてくる。

 彼女の整った顔に同性でありながらも見惚れそうになるのと同時に嫉妬の炎が焚き付けられる感覚に私は陥った。

 

 

 ……なんだろう。とてもしょうもない提案であったら、引っ叩いてあげようかな?

 

 ……よし、右掌は健在だ。聞いてあげようじゃないか。

 

 

 

 だがしかし、女神から紡がれた言葉は意外なものであった。

 

 

 

「……ねぇ、あなたってゲームは好きでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………嫌いではないです。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ね、どう? 悪くないでしょ?」

 

 女神の話を要約すると、正にゲームの世界の一言であった。

 

 ここではない世界に転生する……つまり、異世界に転生するのだ。

 そして、その世界では、魔法があり、モンスターがいて。そして、……魔王がいるそうだ。

 つまり、人類にとって明確な敵がいるファンタジー世界である。

 

 そのため、死んでしまった人はそんな恐ろしい世界に再度生まれ変わることを拒否してしまい、人口が減っていく一方であるとのこと。

 

「だから、それなら他の世界で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまうのはどうか? って提案が出てね。で、どうせなら若くして死んだ人たちを肉体や記憶をそのままで送ってあげようって事になったのよ」

 

 すーっごい移民政策。しかも……

 

「それで、さっきも言った通りだけど。すぐ送って死なれても意味がないから、何か一つだけ。向こうの世界に好きなものを持っていける権利をあげているの。それは強力な武器だったり、とんでもない才能だったり。何でもだわ!」

 

 ……そう、これである。

 私の肉体と記憶は保持され、さらに最初からチート級能力を持って転生することができるのである。

 悪くない……なんなら、とても美味しい話であった。

 普通であれば、日本に赤子から転生するか、天国(地獄)に行くしか選択肢はないのだ。

 

 本当は生き返って家族に会いたいところであるが……死んでしまったのは私自身の責任である。

 

「……どう? あなたは、異世界とはいえ人生を一からやり直せる。異世界の人にとっては、即戦力になる人が来る。ね? 悪くない話でしょ?」

 

 女神は笑顔でカタログのような紙束を手渡してくれる。そこには、異世界に転生するにあたる注意事項やらが書き連ねられていた。

 

 私は彼女の話に耳を傾けつつ、それらに目を通す。

 パラパラとめくって確認していると、赤文字で書かれていた部分がふと目に入った。

 

「……えーっと、言語は神々の親切サポートによって心配ありません。異世界に行く際にあなたの脳に負荷をかけて、一瞬で習得できます。へー、すごい。…………ん? ただし……運が悪いと脳のキャパオーバーで廃人に……」

 

「安心して。その先にはなにも書かれていないわ。だから、後は次のページですごい能力か装備を選ぶだけよ」

 

「ねぇ、なんで隠すの? 今結構重大なことが書かれてたから読みたいんだけど?」

 

「安心して。なにも書かれてないわ」

 

「いや、廃人に……」

 

「書かれてないわ」

 

 私の追求に女神は目を逸らして答える。

 

 ……こいつ…………まぁ、いっか……。

 

 もしかしたら頭がパーになってしまうかもしれないが、自慢ではないけど運の強さに関しては、私は子供の頃から自信がある。そうそう最悪な事態にはならないであろう。

 なら、後は女神に言われた通り強力なアイテムを選ぶだけだ。

 

 私はカタログのページをめくり、記載された強力な神器を見ていく。

 ……そこには《馬鹿力》《名刀小烏丸》《帯電能力》《影炎》……その他色々な名前が記されていた。

 

 

 むぅ……これは悩む。

 

 

 ゲーマーの勘でしかないが……ここをミスると多分……やばい。

 

 なぜなら、私がこれから転生する世界はゲームみたいな世界ではあるが、ゲームではないのだ。

 つまり、私が好きな死にゲーのような無限にコンテニューなんて出来ないし、育成をミスった場合にキャラクターのステータスの振り直しなんてものもできるわけがないのだ。

 

 

 となると、ここはやはり応用性が高く失い難い身体能力を……。

 

 

「ねー、早くしてくれない? どうせ何選んでも一緒よ、一緒。引き篭もりのゲームオタクに期待はしてないから、なんか適当にサクッと選んじゃってよ」

 

「ムカッ……ゲームオタクじゃないし……。華のJKだから引き篭もりでもないから……!!」

 

 私の抗議に、女神は髪の毛を弄りながら、興味無さそうに言い放つ。

 

「学校行ってないんだからヒキニートと一緒よ。……まぁ、そんなことはどうでもいいから早くしてよ。あなたが泣き喚いたせいで、この後に他の死者の案内が、沢山溜まってるんだからね?」

 

 そして、女神は私に「早く仕事終わらせて帰りたいんだから」と愚痴を付け加えると椅子に腰掛け、お菓子をポリポリと口に入れる。

 

 

 …………なんだろ、こいつ。……本当になんなんだろ? こいつ……。

 

 

 少しばかり私より可愛いからって、さっきから調子に乗ってるし……。女神のくせに慈愛の心で包むこともせず、私の死因を悪びれもなく馬鹿にするし。

 

 

 デリカシーもモラルの欠片も無さすぎませんか? あぁ……イライラしてきた……!

 

 

 

 ……いいよ。そんなに早く決めて欲しいなら、決めてあげるよ……。

 

 

 

「…………じゃあ、あなた」

 

 

 私は人差し指で女神を指した。

 真っ直ぐに。人生で一番綺麗に指差しをした。

 

 

 女神は何を言われたのかまだ完全に理解できていないのだろう……可愛らしくキョトンとした顔で私を見て、未だにスナック菓子を食べ続けていた。

 

 

「……それじゃあ、この魔法陣の中央から出ない様に…………」

 

 女神は転生の準備を進め、私の足元に魔方陣を出現させる。そして、そこになって、ようやく私の言葉に違和感を覚え、彼女は動きを止めた。

 

 

 

「……今なんて言ったの?」

 

 

 

 と、その時だった。

 

 

「承りました。では、今後のアクア様のお仕事は、この私が引き継ぎますので」

 

 何もない暗闇から、白く輝く閃光とともに神々しいエフェクトを伴って翼を生やした金髪美女が出現した。

 ……神話などや、空想上のおとぎ話に出てくる天使そのものであった。

 

「えっ」

 

 女神は呆気に取られているが、もう時既におすし……。

 私の足元の魔法陣が女神の足元にまで拡大され、巨大な一つの魔法陣となる。

 そして、それは徐々に蒼く輝き始め、今にも何かが発動しそうであった。

 

 

「ちょ、え、何コレ? う、嘘でしょ……いや、いや、いや! ちょっと、あの……おっかしいから、女神を連れてくなんて反則だから! 無効でしょ! こんなの無効よね!? 待って! お願い、待って!?」

 

「行ってらっしゃいませアクア様。後のことはお任せを。無事魔王を倒された暁には、迎えの者を送りますので」

 

 涙目でオロオロしながら、滅茶苦茶に慌てふためく女神。しかし、女神の代理の天使は、まったく聞く耳を持たなかった。

 すると、魔法陣が完成したのかな? 突然、私と女神の身体が宙に浮き始めたのだ。

 

 

 なにこれ……すごい……!

 

 

 しかし、私の興奮とは裏腹に女神は未だに泣き叫んでいた。

 

「待って! ねぇ待ってよ!? 私、女神なんだから癒す力はあっても戦う力なんて無いんですけど! 魔王討伐とか無理なんですけど!?」

 

 その姿はあまりにも滑稽で、私を満足させるには充分すぎた。

 私は仕返しとばかりに口元に手を当ててクスクスと見下しながら、泣き喚く女神は嘲笑ってやる。

 

 

「ふふふ……ねぇ……? あなた今どんな気分? ねぇ、どんな気分? 散々馬鹿にしてた女の子に、仕返しされるってどんな気分なの? ふふ……残念だけど、あなたは私が持っていく"者"に指定されたのよ……!! 女神なんだから、精々その女神パワーで私を楽にさせてよね!」

 

「いやぁ! こんな子と一緒に異世界行きだなんて、いやあああああああっ!」

 

 女神はプライドを捨てたのか、手足を四方八方に振り回し、暴れようとした。

 だが、既に私たちの身体は地上から数十メートルほど離れているので、その抵抗は虚しく終わる。

 そして……

 

「さあ、勇者よ。願わくば、数多の勇者候補達の中から、貴方が魔王を打ち倒すことを祈っています。さすれば、神々達からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう」

 

「え、本当ですか!?」

 

「むわぁぁぁ――っ! 私の台詞ぅ――っ!?」

 

 異世界へと続く光の門へ飲み込まれる直前に、天使から重要な情報がもたらされる。

 つまり、それは異世界とやらにあきたら……日本に帰って家族にまた会うことができるということだろうか?

 

 そして、例えば、異世界での暮らしに飽きたら、日本に帰って、お金持ちになって、親孝行もして、私に一途で私に優しいイケメンと結婚もできるという素晴らしい夢を叶えることができるということなのだろうか!

 

 

 

 

 これは……否が応でもやる気がでてきてしまう……!

 

 

 

 

 やる気に満ち溢れた私は、今も泣き喚く女神と共に眩しい光へと包まれ……そして……!

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 眩い光から解放されて、瞼を開くと……石造りの街中を、馬車が音を立てながら私の目の前をちょうど通り過ぎていった。

 

 

「……異世界だ。……すごい、本当に異世界だ。……え、本当にこれから私はこの世界で魔法とか使ってみたり、冒険とかするんだ……!」

 

 

 私は目の前に広がる光景に、興奮した。

 そこは、レンガ作りの家が立ち並んでおり……その家々の間には小川が流れていた。

 もちろん、自動車や自転車も走っておらず、電柱なんて科学的な建造物もなかった。

 正に王道ファンタジー世界の街並みである。

 

「あ……あ……あああああ…………」

 

 街は理想通りの百点満点であった。では、次はこの世界に住んでいる人々を見てみよう。

 これは意外に大事なことである。もしもこれで、ガスマスクやら、銃火器を所持している様な世紀末人たちの集団であったら、雰囲気ぶち壊しであるからだ。

 私はキョロキョロと街中を見渡した。行き交う人々を観察するためだ。

 

「獣耳だ!獣耳の子がいる! あ〜可愛い!! 頼んだらモフらせてくれないかな? 超可愛いんだけど〜! え、あれ、エルフじゃないの? すごい、エルフじゃん! あー、素晴らしいよ異世界! この世界なら、私、引き篭もることないよ!」

 

「ああああ……ああああ……ああああああああああ!」

 

 

 ……うるさいなぁ……。

 

 

 さすがに喧しいので、私は隣で頭を抱えて叫び声をあげている女神の方を振り向いた。

 

「ねぇ、静かにしてくれない? 私まで頭のおかしい子って思われたらどうするの? それよりも、こういった時に私に渡す物とかあるはずでしょ? ほら、見てみてよ今の私の格好。ジャージだよ? せっかくの異世界なのにジャージ一丁だよ? ここは女神である貴女が私に装備を……」

 

「うへあああああああああうへへあああああ! あうへあああああああああああ! ふへあああああああ!!」

 

 叫ぶと同時、女神は泣きながら私に掴みかかってきた。

 

「ちょっ! ちょっと、やめてよ! 私これしかないんだから、服を引っ張らないでよ⁉︎ あぁ、もうごめんって! そんなに嫌だったなら、もう帰ってくれていいよ! 後は私一人でどうにかするから」

 

 首を絞めて殺しにかかってくる女神を私は振り払うと、面倒臭そうにシッシと手を払った。

 すると、女神はプルプルと手を戦慄かせ不安をぶつけてきた。

 

「あんた何いってんのぉ!? 帰れないから困ってるんでしょ! あんた、どうすんの!? ねえ、どうしよう! 私これからどうしたらいい!?」

 

 そして、うおーん、うおーんと、まるでサイレンの様に女神は泣き始めてしまった。

 ……女神の体裁なんて忘れて……正直見てられなかった。

 さすがに連れてきたのは私であるため、……放置するのは可哀想である。

 

 

「ねぇ女神、落ち着いて。とりあえず、ギルドに行きましょう? こういう時の定番はまずは冒険者たちの酒場よ。酒場に行って冒険者登録を始めるの。それがファンタジー世界での定番よ」

 

「なっ……! ただのヒキニートだったはずなのに、どうしてこんなに頼もしいのかしら?」

 

「ムカ……ヒキニートはやめて。引き篭もりとニートを足さないで。とりあえず、行くよ女神」

 

「あ、待って。女神様と呼んでくれてもいいけど、この世界でも一応私、崇められている神様の一人だから、騒ぎにならない様に出来れば、アクアって呼んで。私も貴女のことカズミって呼ぶから」

 

「……そうだ。女神なら冒険者ギルド的な場所がどこにあるのか知ってるんじゃないの?」

 

 よく考えれば、女神であるアクアならばこの世界について詳しいはずであるのだ。

 彼女に聞けばいいじゃないかと私がアクアに尋ねると、彼女は可愛らしいキョトンとした表情で。

 

 

「? ……女神なのよ? そんな下々のこと一々知るわけがないじゃない」

 

「……」

 

 

 

 うわぁ……この女神使えない……。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 《冒険者ギルド》

 

 様々なゲームに必ず出てくる、冒険者に仕事を斡旋したり、もしくは支援したりする組織。

 つまり、冒険者たちにとってかけがえのない存在。

 

 私とアクアは少しだけ道に迷いながらもその場所に辿り着いたのだ。

 

「どうやらここみたいだね」

 

 そこは他の建造物に比べると大きな建物で、中からは冒険者たちの喧騒の声が聞こえてきた。

 中にはきっと沢山の荒くれ者たちがいるのだろう。女だから舐められるかもしれない。

 だがしかし……

 

「よし、アクア行こっか」

 

 恐怖心を忘れるほど、私の心は昂っていた。

 窓から飛び出してきた酒瓶に「おっかねぇ……」と引け腰になるアクアの手を取り、冒険者ギルドの中に入ると……。

 

「いらっしゃいませー! お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へどうぞー!」

 

 丁度、入り口付近にいた可愛いらしいウェーブのかかった金髪のウエイトレスさんが元気に案内をしてくれた。

 ギルドの中は、酒場が併設されており、鎧を着ている明らかな冒険者っぽい人以外にも、普通に食事に来ている一般人も見かけられた。

 

 

 うんうん……よきかなぁ……よきかなぁ。

 

 

 そうして、私がギルドの中を吟味していると……。

 

 

「おい! ……見かけねえ顔だな」

 

 半裸のモヒカン男が私たちに声をかけてきた。男は酒を流し込みながら、私とアクアを見据えており、その顔はかなりの強面であった。

 

「……ヒッ!」

 

「それになんだその妙な格好は」

 

 アクアは完全に臆してしまい私の背中に隠れてしまう始末である。

 

 ……はぁ……しょうがないなぁ。

 

 女神が全く役に立たないので、私は自ら男の座るテーブルに近づいた。それから、強面の男に怯えることなく、テーブルに座る男の真横に並ぶ。

 

「ごめんね、おじさん。私たち実は遠くの国から、冒険者になるためにこの街に来たばかりなの」

 

「お嬢ちゃんたちが? ふっ、冗談だろ? 大怪我をする前にやめときな」

 

「……おじさん、人は見かけに寄らないんだよ? こう見えて、私たちは本気で魔王討伐を目指しているんだから!」

 

 モヒカン男の嫌味に私は真っ直ぐな言葉を返してやった。

 すると、男は鳩が豆鉄砲を食ったように目をパチパチとさせると……。

 

「……あぁ、そうかい。すまなかったな、お嬢ちゃん……いや、命知らず! ようこそ、地獄の入り口へ! ギルド加入の受付ならあそこだ」

 

 盛大に私たちを歓迎してくれた。

 しかも、ギルドの受付まで教えてくれた。見かけがとてもパンクだが、すごい優しいおじさんである。

 私は軽くお礼を言い、ギルドの受付へと向かうと、後ろをちょいちょい付いてくるアクアが、ちょっとした尊敬の眼差しを交えながら感嘆の声をあげた。

 

 

「ねぇねぇ、あの咄嗟の作り話とか、なんで貴女はそんなに手際がいいの?」

 

「いい、アクア? 今日はギルドへの登録と泊まるところの確保まで進めるからね?」

 

「……う、うん。ゲームのことは知らないけど、こういった世界でのお約束ってヤツね」

 

「そういうこと。じゃあ、行くよ」

 

 

 私はアクアを引き連れ、真っ直ぐギルドの受付へと向かう。

 すると……

 

「ねぇ待って! ……こんなにできる女な感じなのに、なんで彼氏も友人もいない引き篭もりのオタクだったの? なんで毎日閉じこもってヒキニートなんかやってたの?」

 

 アクアは尊敬の眼差しとは裏腹にとんでもない暴言を言ってきたのだ。私の顳顬がピクリと反応してしまう。

 

 

 ……さっきヒキニートって言うなっていったはずだよね? この子もう忘れたのかな……?

 

 

 また怒るのもめんどくさかったので私は彼女を無視して、受付へと足を進めることにした。

 

 

 

 

 

「初めての方ですね、本日はどうされましたか?」

 

 営業スマイルが眩い金髪のお姉さんは……いや、胸デカっ……!?

 じゃなくって……。

 

「えっと、冒険者になりたいんですが……」

 

 私は受付のお姉さんに自分たちの目的を伝えた。

 お姉さんはおっとりとした大人の雰囲気のまま対応をしてくれる。

 

「そうですか。えっと、では登録手数料が掛かりますが、よろしいですか?」

 

「はいはい……登録…………手数料……?」

 

「はい、お一人様千エリス頂戴します」

 

 え、お金取るの……? 嘘ぉ……どこの世界に登録で金を取るギルドがあるんだろうか。……え、普通支援してくれない? だって私たち魔王軍と戦うために身体張るんだよ?

 

 だがしかし、ここでお姉さん相手に喚くわけにもいかないので、私は後ろに振り返る。

 

「……ねぇ、アクア。お金って持ってる?」

 

「あんな状況でいきなり連れてこられたんだから、持ってるわけないでしょ?」

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 この女神……ほんとに使えない……。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ご注文は?」

 

「……ごめんなさい、今考えてます」

 

「……ごゆっくり」

 

 私は近づいてきた短髪赤毛のウエイトレスのお姉さんに俯きながら答えた。

 お姉さんは何かを察したのか私たちを追求はせず、そのまま何処かに行ってくれた。

 

 私たちは一旦受付から離れ、ギルドの酒場のテーブルにて作戦会議をしていたのだ。

 

「……ねぇ、どうしよう。いきなり躓いたんだけど。ゲームだったら、普通は最低限の装備を揃えるお金や、生活費だって手に入るはずなんだけど」

 

「いきなり頼りがいが無くなったわね……。まぁ、ヒキニートだったんだし、しょうがないわね」

 

「……だから、ヒキニートって言わないでって言ってるよね? 本当に怒るよ?」

 

 私が、ヒキニート呼ばわりしてくるアクアにそろそろ本気で怒ってやろうかと考慮していると彼女は、そんな私の機嫌を気にすることなく勢いよく立ち上がった。そして……。

 

「いいわ、次は私の番ね。まぁ、カズミさんはちょっと見てなさいな。女神の本気を見せてあげるから」

 

 私に力強くそう告げると彼女は堂々とあるテーブルへと歩みを進めた。

 彼女の向かうその先には神官とでも言うのか、だらっとした白衣のような装束を身に纏ったプリーストが座っている。

 

 アクアは、自信たっぷりにその男に近づいていき、

 

「そこのプリーストよ、宗派を言いなさい! 私はアクア。そう、アクシズ教団の崇める御神体、女神アクアよ! 汝、もし私の信者ならば…………お金を貸してくれると助かります!」

 

 そう言って頭を下げてお願いした。上からなのか下からなのか、よく分からないお金のせびり方である。

 

「…………エリス教徒ですが」

 

「!?」

 

 

 …………あっ、これは気まずい……。

 

 

「あ、そうでしたか、すいません……」

 

 どうやら違う宗派だったようだ。

 アクアはお爺さんから気まずそうにして、トボトボとこちらに帰ってこようとした。すると、そのお爺さんはアクアを呼び止めた。

 

「あ、お嬢さん、アクシズ教徒なのかな? 女神アクアと女神エリスは先輩後輩の間柄らしい。これも何かの縁だ、さっきから見てたが、お嬢さんたち手数料が無いのだろう?」

 

 そう言ってお爺さんは懐から硬貨を数枚差し出してくれた。

 なんて、善人な人なんだろう。私は感謝で胸がいっぱいになりそうになった。ただ……。

 

「ほら、お嬢さん持っていきなさい。エリス様の御加護ってやつだ。でも、いくら熱心な信者でも女神を名乗っちゃいけないよ」

 

「あ……は、はい、すみません……。ありがとう……ございます……」

 

 それは、本当の女神であるアクアへ多大なる精神的ダメージを与えた。

 当初の予定通り、お金を恵んで貰えたはいいが……虚ろの涙目でアクアは私の前に帰ってきた。

 

「あは……あはは……私女神なのに……女神だって信じてもらえなかったんですけど。……ついでに言うと、エリスは私の後輩の女神なんですけど。……私、後輩の女神の信者の人に、同情されてお金もらっちゃったんですけど」

 

「……そ、その、身体張ってくれて……あ、ありがとね」

 

 異世界生活早々に何か大事なものを失ったアクアを私は励ましつつ、彼女が手に入れてくれた硬貨を手に持ち、

 

「…………あの……お金持ってきました」

 

「は……はぁ……。かしこまりました……少々お待ちください」

 

 お姉さんのいる受付にそれを持っていた。

 

 

 その時……お姉さんは私たちと目を合わせたがらない気がしました。

 

 

 

 

 

 

「では、お二人とも、改めてご説明をさせていただきます。まず、冒険者には職業というものがございます」

 

 気を取り直したお姉さんは先程と同じ営業スマイルで説明を始めてくれる。

 そして、次にお姉さんは、免許証ほどの大きさのカードを取り出した。

 

「次にこちらの冒険者カードをご覧ください。このカードに登録すると冒険者がそのモンスターをどれだけ討伐されたのかも記録されます。モンスターを倒して、レベルが上がると、スキルを覚えるためのポイントが与えられるので、頑張ってレベル上げをしてくださいね」

 

 ふむ……正にゲームである。

 経験値を貯めていくと、レベルアップする。そして、そのレベルが上がれば新スキルを覚えるためのポイントが手に入る。

 お姉さんの説明を聞く限りまんまゲームの世界であった。

 

「それでは、お二人ともこちらの水晶に手をかざしてください」

 

 それから、お姉さんはあらかた説明を終えると、私たちに水晶の付いた独特な装置に手を差し出すように促した。

 

「こうですか?」

 

 私が言われた通りに手をかざすと……それと連動するように装置は青の光彩を放ち、自動で稼働し始めた。

 すると、装置の下に挟み込んである登録カードに向かってレーザー光線を放ち、意識的にカードの全面を光で覆うように動き出した。

 

「……すごい……」

 

 思わず、感嘆の声を私はあげてしまう。

 ……なるほど、科学が発展していない代わりに、魔法がすごい発展しているんだ。

 

「これで、あなた方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。選んだ職業によって、経験を積む事により様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでくださいね」

 

 そして、青光りの光線を照射し終えると、無記名だった冒険者登録カードには、私のステータスが記載されていた。

 完成したカードを手に取るとお姉さんは内容を確認し始める。

 

「……はい、ありがとうございます。サトウカズミさん、ですね。ええと……。筋力、生命力に器用度、敏捷性……が平均以下ですか。ただ知力と魔力がそこそこ高いですね。あれ? 幸運が非常に高いですね……。まぁ、冒険者に幸運ってあんまり必要ない数値なんですが……。ただこれなら、基本職の《冒険者》以外に中級職の《ウィザード》が選べますけど……。どうしますか?」

 

 ……違いが分からない。

 

「えーっと、職業の違いが分からないんですが……」

 

「そうですね……まず、冒険者なんですが、唯一全ての職業のスキルを習得し、使うことができます。ですがスキルの習得には大量のスキルポイントが必要になりますし、他の職業なら得られる補正がありませんので、威力は本職には及びません。……ですので、その……私は中級魔法を主に使う魔法使い職である《ウィザード》をオススメします」

 

 お姉さんは必死に言葉を濁しているが、冒険者を卑下していることが言葉の端々に滲み出ており、隠し通せていなかった。

 

 ふむ……なるほど。

 

 ……たしかに、ここは……お姉さんの忠告通り素直に中級職にするべきだと思う。

 だがしかし、もしも私が本気で魔王討伐を目指すのであれば……。

 

 

「ええと……冒険者でお願いします」

 

「えっ!? ほ、本当にいいんですか? レベルを上げてステータスが上昇すれば上級職である《アークウィザード》になれるかもしれないんですよ?」

 

「はい、……冒険者でお願いします」

 

 お姉さんが心配そうに尋ねてくるが、私の意思は変わらない。

 身体能力も才能のない私がしなくてはいけないことは、それは絡め手であるからだ。

 だから、スキルポイントが沢山必要であっても全てのスキルを覚えることができる職業《冒険者》……つまり、器用貧乏は私にとって魅力的であった。

 

 納得いかない顔のお姉さんから私は《冒険者》と記されたカードを受け取る。

 最弱職の職業が記されているため、他の人には価値のないものに見えるが……私にはそれで充分であった。

 ゲームに出てくる様な冒険者に実際になったのだ、それが私を感慨深くさせてくれたからである。

 

 そして、私の登録が終わり、次はアクアの番である。彼女は同じように水晶に手をかざした。

 ひとまず、水晶の作動が終わるのを待つ。すると、完成したアクアのカードを見たお姉さんが驚いたような声を上げた。

 

「はっ!? はあああっ!? 何です、この数値!? 知力が平均より低いのと幸運が最低レベルなこと以外は全てのステータスが大幅に平均値を超えてますよ!?」

 

 目を白黒させてお姉さんは素っ頓狂な声を上げていた。

 それにより、ギルド内もざわつき始める。

 

「特に魔力と、魔力容量が尋常じゃないんですが、あなた何者なんですかっ!?」

 

「え、なになに、私が凄いってことかしら? ふふん、まぁ私ぐらいになればそりゃあね?」

 

 ……アクアの得意気な表情がかなりムカつくが……さすがは腐っていても女神であるようだ。

 ……というよりもせっかく特典に選んだのだ。ステータスが低かったら地面に埋め立てていたところである。

 

 

「す、すごいなんてものじゃないですよ!? 知力を必要とされる《アークウィザード》は無理ですが、それ以外なら何だってなれますよ……。《クルセイダー》、《ソードマスター》、《アークプリースト》……最初からほとんどの上級職が選択できます!」

 

「そうね、女神って職業が無いのが残念だけれど……。私の場合、仲間を癒すアークプリーストかしら?」

 

「アークプリーストですね! あらゆる回復魔法と支援魔法を使いこなし、前衛に出ても問題ない強さを誇る万能職ですよ! では、アークプリースト……っと」

 

 

 アクアの選択に受付のお姉さんも同意する。

 お姉さんはアクアの職業を登録すると、にこやかな笑みを浮かべた。そして、お姉さんだけではなく、アクアの周りには他の冒険者たちの野次馬までできており、

 

 

「それでは、冒険者ギルドへようこそアクア様! スタッフ一同、今後の貴女様の活躍を期待しています!」

 

「いきなりアークプリーストなんて、とんでもないですね!」

 

「あんたみたいな奴が、案外、魔王を倒しちまうのかもなぁ!」

 

「頑張れよー、この命知らず!」

 

「いやー、どーもどーも!」

 

 

 彼らは各々好きなようにアクアに賛辞をおくった。

 その一つ一つにアクアは、頬をだらしなく緩ませながら、笑顔で応える。そして、一通りチヤホヤされて満足したアクアは私の方に振り返ると……。

 

 

「さぁ、今日から冒険者生活よ! 頑張りましょうカズミ!」

 

 

 転生初っ端に嫌がっていたのが嘘のようなほど、屈託のない笑顔を私に浮かべた。

 

 

 

 

 はぁ……まったく……とんでもなく現金な女神である。

 

 

 

 まぁ、何にしても。

 

 これから始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 私の異世界での冒険者生活が!

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーし、カズミちゃん、アクアちゃん、ご苦労さーん! 今日はこれで上がっていいぞー! ほら、今日の日当だ」

 

「どうもです! ありがとうございます!」

 

「ありまーす!」

 

 親っさんの仕事の終了の合図で、私とアクアは日当を受け取ると挨拶と共に頭を下げる。

 それから、お給料の入った封筒を開封し、中身を確認した。

 

 

 …………ん? これ、いつもよりも多くない……?

 このまま、貰ってしまってもいいが……それは何か疚しさがある……。

 

 そのため、私は親っさんを呼び止めた。

 

「親っさん? これいつもの日当よりも多いですよ? 間違えてませんか?」

 

「いいや、間違えてねえよ。カズミちゃんとアクアちゃんは毎日毎日ほんとによく働いてくれていたからな。今日のお給料は俺からのちょっとしたボーナスさ」

 

「お、親っさん……!」

 

「気にせず、好きに使いな!」

 

「「ありがとうございます!!」」

 

 

 親っさんの懐の広さに私たちは感動し、感涙と共に感謝した。

 そして、笑顔でサムズアップする親っさんに私たちは笑顔で手を振りながら、現場を後にした。

 

 

 あぁ……今日もいっぱい働いたよぉ……。

 

 

 良い汗をかくって素晴らしいんだねぇ……労働サイコーだ。

 

 

 ほんと引き篭もりの頃の私では考えられない話である。

 

 

 私とアクアはボーナスの入った日当を握り締め、街の大衆浴場へと向かった。

 

 

「見てカズミ! 今日は私たちの貸し切りよ! やったわね!」

 

「お、本当だ。ラッキーだね」

 

 大衆浴場は日本の銭湯と変わりがない施設で、数十人が余裕で入れるほどの広さがある。

 

 そして、本日は運が良かったのか、私とアクアの貸し切り状態であった。

 私たちは隣に座り合い、各々身体と頭を洗う。それから、ほぼ同じタイミングにお互いに湯船に浸かった。

 

 

「「あー…………生き返るぅぅ……!」」

 

 

 私とアクアは熱い湯船に身体を伸ばし、羞恥心など捨てた濁声を喉奥から吐き出した。

 中世のような世界なので……異世界ではお風呂なんて贅沢品だと思っていたが、そんなことはなく、ほぼ日本の銭湯と変わらないお値段であったのは嬉しい誤算である。

 

 

 う――ん…………仕事の疲れが吹っ飛ぶぅぅ……!

 

 

「ねぇ、カズミ? 貴女お腹」

 

「ねぇ、アクア? それは本当のタブーって私言ったよね? 最初の日に言ったよね? ねぇ、どうしてそんなことまたいうの? ねぇ?」

 

 隣のアホのせいで良い気分が台無しであった。

 暖かい湯船に浸かっているはずなのに、私の体温がさーっと引いていくのを感じる。

 

 それから、私は冷めた瞳でアクアにグイッと詰め寄った。

 すると、彼女は慌てて、首を横に精一杯振り否定する。

 

「違うから!? 太ってるって言いたいわけじゃないの! カズミさんのお腹が前と比べて締まってきてるなぁって思っただけだから! 痩せた? って聞こうとしただけだからっ!」

 

「……ほんとに?」

 

「ほんとうよ!? ねぇ、信じてよー!」

 

 涙目でアクアは私に抱きついて、許しを請うてきた。

 

 ……この場合、本当にそうなのであろう。

 

 さすがに半月も一緒に寝食を共に過ごすと、アクアがどんな子なのかが嫌でもわかるようになってしまっていた。

 

「……はぁ、ごめんごめん……。疑ってごめんね?」

 

 私は泣き喚くアクアの首に手を回す。それから、胸の中央に抱き寄せ、彼女を宥めるようにその頭に手を置いた。

 そうして、彼女が泣き止むまで、その綺麗な青髪を撫でてあげる。

 すると……

 

 

 

「……この後シュワシュワ奢ってくれなきゃ許さない」

 

 

 ……この始末である。

 

 

 はぁ……現金な女神だ、まぁ……今回は私が悪いから奢ってあげるけどさ……。

 

 

 

 

 

 そのあと、私たちは風呂から上がると、夕食をとるためギルドの酒場へと向かった。

 

「ねぇ、今日は何食べる? ボーナスもらえたし今日は奮発して私、スモークリザードのステーキがいい。あとカズミはキンキンに冷えたシュワシュワを私に奢るの忘れないでよね!」

 

「はいはい……私もお肉食べたいし……。それじゃあ、酒場に着いたら今日は奮発してステーキ頼もう」

 

「異議なし!」

 

 アクアと私は、親っさんのご好意のボーナスを有り難く使わせてもらった。ギルドの定食の中でも高価なステーキを注文し、二人してそれを平らげた。

 

 それから、現場から遅れて夕食をとりにきた親っさん、現場の先輩方と流れで合流したので一緒に酒飲みをすることになった。

 現場のみなさんは、いい人たちなので、私たちにセクハラもしないし、私たちがいる時は下賤なネタ話もせず、配慮しつつ面白おかしく宴会を盛り上げてくれる。

 私はまだ半月しかこの世界に滞在していないが、もう既にこの街の人達が大好きになっていた。

 

 だがしかし、今夜は飲み過ぎたアクアが路地裏で嘔吐をしてしまったので、彼女に肩を貸して途中で馬小屋に帰ることにした。

 

 馬糞がついていない藁を選び、塊を作る。それから、最近買った白のシーツを広げて、まずはグロッキー状態の駄女神を横にしてあげる。

 それから、私もその横に寝転がった。

 

「ううっ……ありがとね、カズミ……お休み……」

 

「はぁ……寝ゲロしないでよ? お休み」

 

 隣でうんうんと魘されるアクアを尻目に私は心地よい疲れとともに、深い眠りへと着こうとしていた。

 

 

 

 

 お父さん、お母さん……私この世界で立派に働いてるよ。

 最悪パパとママが養ってあげるなんてもう二度と言われない立派な自慢の娘になれたかな? うんん、慣れてるよね。

 

 弟よ……お姉ちゃんは一生もう彼氏できないだろうから、立派な学者になってお姉ちゃんのこと一生養ってあげるって言ってくれたけど、もうそんな必要ないからね。

 お姉ちゃんこの世界で立派に働いてるから、なんならアウトドアだから。

 だから、貴方はそろそろ姉離れしてください。本当に、マジで。

 

 

 みんなに私のこの立派な姿を見せることができないのが心苦しいですが……心配しないでください。

 

 

 

 

 私は立派な労働者として…………

 

 

 

 

 

 

 

 …………ん? 労働者として?

 

 

 

 

 

 

 

 ……私が異世界にきた理由って…………違くない?

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、ちょっと待って」

 

 

 私はムクリと身体を起こした。

 気分が悪そうであるため、アクアを起こすのは心苦しいものがあるが、……だが、気づいたこの事実を早く彼女にも知らせなくてはいけない。

 

「……うぅ……どうしたの? 寝る前のトイレ行き忘れたの? 気分悪いけど、さすがに夜道に女の子一人行かせるのは怖いし……ついて行ってあげようか?」

 

「……違う、そうじゃないの……! ねぇ、アクア、気づかない? 私たち労働者やりにきたんじゃないんだよ? 魔王討伐しに来たんだよ!?」

 

 吐かれても困るので、揺らすことはしないが、アクアの両肩に手を置く。それから、私は彼女に訴えかけた。

 

 私の言葉に、アクアは最初、なんの話だ? といった感じで思い至っていない様子であったが、徐々に……目を見開き始め、

 

「おおっ、そうよ! 労働に夢中になって忘れてたけど、カズミに魔王を倒して貰わないと、私帰れないじゃないの!」

 

 とんでもない返事をして、先程までの具合の悪さが消し飛んでいる様子であった。

 

 えぇ……この子……マジかぁ……。

 

 そういえば、初日に受付のお姉さんに、知力のステータスが人より低いって言われてたなぁ……。

 

 アクアの記憶力の低さに私は呆れた笑いをするほかなかった。ただし、一方アクアは当初の予定を思い出したため、文字通りやる気に燃えていた。

 

 

「いいわ、カズミ! 明日から討伐に行きましょう! 討伐に! 大丈夫、安心して! この私がい……」

 

「うるせーぞこら! しばきまわされてーのか!」

 

「「す、すいません!!」」

 

 

 だがしかし、熱くなりすぎたため、周りの冒険者から罵声が飛んできた。私とアクアは相手から見えないが罵声の方向に頭を下げる。

 

 

 駆け出しの冒険者は貧乏である。

 

 

 冒険者なんて言うなれば、フリーターであるのだ。

 毎日、収入が得られるクエストがあるわけではないし……毎日宿に寝泊まりすることなんてできるわけがないのだ。

 そのため、私たちのように馬小屋で雑魚寝している冒険者がたくさんいるのである。

 

「アクア、今日はもう寝よう……? 明日また話そっか」

 

 なので、これ以上騒いで怒られるのは勘弁であった。

 私はアクアに優しく語りかける。すると、アクアも同じ意見なのか、彼女は涙目でコクコクと小さく頷くと素直に隣で横になった。

 

 

 

 街の近くに住んでいたモンスターは、とっくの昔に軒並み駆除……モンスターがいなければ、採取クエストをわざわざ人に頼む必要もない。

 

 そのため、素人の冒険者でも見分けがつく薬草を採取しただけで、その日の生活費が稼げる……なーんて、美味しい話はないのだ。

 ……ゲームのような世界でもゲームではないと分かってはいたが……。

 

 

 ……ここまで辛い現実があるなんて思わなかったよ。

 

 

 

 

 ……はぁ…………色々問題はあるが今日はもう寝よう。

 

 

 

 

 

 ……明日の私がきっとどうにかしてくれると信じて。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……で、どうする? 私たち、労働者をやりにきたわけじゃないんだよ?」

 

「ねぇ、カズミ。昨日も言ったけど、やっぱり討伐クエストにいきましょう! 討伐クエストに!」

 

 翌朝、今日も私たちは現場で労働をしていた。ただし、いつもよりも口数は多かった。

 それは、これからの自分たちの方針を話し合っていたからである。しかし、半月も働いていれば手慣れたもので、レンガを積み重ねる手は止めることはない。

 

「……私たちレベル1なんだよ? 未だに装備も揃ってないのに……」

 

 そう、私とアクアが現場でのバイトを始めたのは、必要最低限の冒険用の道具や装備を揃えるためであったのだ。

 昨夜の今まで、その本当の目的を私たちは忘れてしまっていた。

 だがしかし、安全な土木作業のバイトを半月していたが、未だに装備一式を揃えるほどは貯金できてはいなかったのであった。

 しかし……。

 

「大丈夫! この私がいるからには、どんなクエストだって、さくっと終わるわよ! だから、カズミは安心して私に期待してちょうだい!」

 

「……はぁ、ものすごく不安なんだけど……?」

 

「私を誰だと思ってるの? 水の女神よ?」

 

 それでも、アクアは胸を叩いて力強く宣言した。

 その青い瞳は妙にキラキラと輝いており、見ていて、私も心が惹かれてしまった。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……しょうがないなぁ。

 

 

「そうだよね。……アクアは一応女神なんだもんね。じゃあ、親っさんに事情を話して、明日から討伐クエストに行こっか」

 

「うん、任せて!」

 

 

 こうして、私たちの冒険は半月の時を経てようやく始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ……、うっ、うえええええええっ……、あぐうっ……!」

 

「……はぁ、はぁ、はぁ、アクアを食べてる間……カエルが動かなくて助かった……!!」

 

 

 

 

 拝啓――お父さん、お母さん。

 

 

 

 

「ううっ……ぐずっ……あ、ありがど……、カズミっ、あ、ありがどね……! うぐっ……うわあああああああんっ…………!」

 

「ちょ、生臭い……っ!? アクア、生臭いっ!」

 

 

 

 

 転生特典で選んだ美しく気高い女神さま(自称)は、どうやらカエル以下だったようです。

 

 

 

 女神は両生類以下の弱小種族でした。

 

 

 

 

「うわあああああああんっ…………!」

 

「…………そんな泣かないでよ……」

 

 

「あ゛ああああああっ……!!」

 

「……も、もうやだ……グスッ……お家に帰りたい……」

 

 

 

 

 ですが、安心してください。

 

 

 

 私は元気に過ごしています。

 

 

 

 無事に魔王を倒して、日本に必ず帰りますので待っていてください。

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああん!! お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あんっ…………!」

 

 

「……ううっ…………ウエッ、うええええんっ……! ……ヒッグ……うええええええんっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……本当に日本に帰りたいです。

 

 

 

 愛娘のカズミより




 
 ここまで読んでくださった方々ありがとうございました。
 このssはもう一つ執筆している「この腐れ童貞ヤンキー」に行き詰まったがために書いただけですので……短編という形で投稿させていただきました。続きはまたもう一方のssが行き詰まった時に書くと思います。

 定期的に連載しないなら投稿するなという批判があるかもしれませんが……承認欲求が人並みより強いので、申し訳ございません……お許しください。

 それでも、ここまで読んでくださった方々に感謝しかございません。
 本当にありがとうございました。感想など頂けると嬉しいです!


 ここから下は一応設定集です。読みたくない方は飛ばしてください!

佐藤和美:身長160センチ、体重()、年は16、茶毛長髪に茶色目。彼女が引き篭もるようになった理由は、結婚を約束していた幼馴染の少年を高校で奪われたからである。
 しかも、最悪なことに少年から「だって、お前いつまでもヤらせてくんねぇーんだもん」と吐き捨てられたからであった。そのため、彼女は引き篭もるようになってしまった。また、男への評価もかなり厳しくなった。条件がまず自分に一途で優しいということが最優先となったのである。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。