このヒキニート(女)にも祝福を!   作:オンライン2222

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 続き読みたいって感想に書かれたら、私は書くしかないじゃないか……!
(感想書いてくれた方々本当にありがとうございました。とても嬉しかったです)それと、お待たせして、申し訳ございませんでした。一ヶ月ちょっとも待たせてしまいましたね。のんびり書いてたので許してください……。あ、でも普段の三話分ぐらいの量あるんで……ゆ、許して……(懇願)


 内容は時系列は進み、2巻の話を執筆させていただきましたので、よろしくお願いします。

 あぁ……ほのぼのしたいんじゃぁ……。



二巻
この素晴らしいパーティーに祝福を!


 拝啓――お父さん、お母さん。

 

 お元気ですか? 私は元気です。

 

 日本から遠く離れた地にいますが、あなたたちの愛娘は元気に過ごしています。安心してください。

 私は現在、アクセルという街で、冒険者をしています。

 冒険者……? そんな荒くれ者の職業に就いて大丈夫なのか? と心配なさるでしょうが、大丈夫です。どうか心配なさらないでください。

 

 私は一人で冒険者をしていません。頼りになる仲間たちと仕事をしていますから。

 

 

 一人は、鉄壁を誇る女の子。

 いつもいつも、身を挺して危険から私を守ってくれます。

 

 

「ちょ、ダクネス!? ダメ! 行ったら絶対ダメだよ!? 絶対にダメだからね!!」

 

「くっ……カズミは、聖騎士である私にこの状況を黙して耐えろというのか……!」

 

「そう! そうだよ!! あなたは何にもしないで! わかった!?」

 

「む、無理だ……あぁ! もう我慢ならない! い、いってくりゅ!!」

 

「だから、行ったらダメって言ってるよね!? ねぇ、お願いだから、私の話を聞いてよぉ……!」

 

 

 私とあまり年齢が変わらないのに、とても落ち着いた子で、本当に頼りになります。毎回助けられちゃってます。

 それと、とっても仕事に真面目でもあります。

 自分勝手な行動なんて絶対にしません。

 

 

「……ねぇ、ダクネス? なんでさっき命令無視して一撃熊に突撃したの?」

 

「いや、すまない。……聖騎士として、あの危険極まりない雄を放っておくことが我慢できなかったのだ。……あぁ、素晴らしかったなぁ……」

 

「素晴らしかったなぁ、じゃないでしょ! もしかしたら、私たち全滅してたんだよ!?」

 

「そ、それは悪いと思ってる……。だ、だから、カズミが本気で怒ってるというなら……わ、私はどんな罰でも甘んじて受け入れるぞ……ハァ、ハァハァ」

 

「ムカッ……あんた、絶対に反省してないでしょっ!?」

 

「――ンッ!」

 

「……あ、ご、ごめん!? ほ、本気で頬を叩いちゃった……! ダクネス、本当にごめん!! だ、大丈夫……? だく、ね……」

 

「……あ、ありがとうございますっ……!」

 

「…………」

 

 

 そして、すごく清純な子なので、一緒にいてとても癒されます。卑猥な言葉なんて一度も吐いたことがありません。

 

 本当です。

 

 だから、私の自慢のお姉さんです。

 

 

 

 

 

 

 次に、凄腕魔法使いの女の子。

 いつもいつも、たったの一撃で全ての敵を排除してくれます。

 

 

「めぐみん? 絶対にここで撃っちゃダメだよ? 絶対だからね? 絶対にダメだからね? 絶対に撃っ――」

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

「――なっ⁉︎」

 

「――ふっ、紅蓮の炎に巻かれて……燃え尽きるがいい」

 

「だ、ダメって言ったよね!? 私、絶対に撃ったらダメって言ったよね!? ねぇ、なんで撃ったの!? ねぇ!?」

 

「紅魔族の直感に従ったまでです。それよりも、いいのですか? 見てください、カズミ。あそこから土砂崩れが起き始めてますよ?」

 

「めぐみんが起こしたんじゃないの!? あぁ、もうほんと! ほんとやだぁ……!!」

 

 

 私より、ちょっぴり年下の可愛らしい女の子です。

 それなのに、とても思慮深くて落ち着いた子でもあります。

 

 

「ねぇ……名前バカにされたからって、自分よりも小さい子と喧嘩するのやめてくんない? 私が署長さんに怒られるんだよ?」

 

「紅魔族は売られた喧嘩は絶対に買う種族なのです。無理です、諦めてください」

 

「……このガキッ……」

 

 

 あと、とても素直な子です。

 手を焼いたことなんて一度もありません。

 

 本当です。

 

 

「さぁ、カズミ! 今日も爆裂散歩に行きますよ! 今回は久しぶりにあのデュラハンのいた城まで行きましょう」

 

「……えぇ……今日も行くの……? 私、今日は身体重いからやめて欲しいんだけど……いや、一週間ぐらいはやめてほしいかも……」

 

「そうですか、では、街の近くで撃ってきます。怒られるのはどうせカズミですからね。それでは、行ってきます」

 

「…………今度本当にジャイアントトードに捧げよ……」

 

「何かいいましたか?」

 

「うんん、なんでも。やっぱり付き合うよ」

 

 

 そして、私のことを本当の姉のように慕ってくれています。なので、私も本当に妹ができたように可愛がっています。

 とっても仲良しです。喧嘩なんてしたことありません。

 だから、私の自慢の魔法使いさんです。

 

 

 

 

 

 

 最後の一人は、なんと女神様です。

 私には麗しくも気高い女神様が仲間としていてくださっているのです。

 いつもいつも、その慈愛の心で、傷ついた私を癒してくれます。

 

 

「お金が欲しい……」

 

「カズミ、何言ってるの? 誰でもお金は欲しいものよ? 馬鹿なの? ねぇ、カズミって案外馬鹿なの?」

 

「ねぇ、私がお金を欲しがっている理由わかる? アクア、あなたのせいなんだよ……?」

 

「わ、私っ⁉︎」

 

「そう、あなたが起こした洪水のせいなんだよ? わかる……? 私がお金欲しがっている理由は、あなたが作った借金のせいなんだからね? そのせいで、毎回毎回クエスト報酬が天引きされてるからなんだよ?」

 

「で、でもでも! 私がいなきゃ、あのデュラハンによって、もっと街に甚大な被害が発生してたかもしれないじゃない! だから、あれは仕方なかったのよ! ね? だから、カズミはもっと私を敬って? もっと私を甘やかしてよ! カズミぐらいしか私を女神扱いしてくれないんだから! ね、ほら敬ってよ!」

 

「……もうあなたとはやっていけません。借金の返済頑張ってください。さようなら」

 

「わあああ、待って、ごめんなさいっ! 謝るから、見捨てないでカズミさんっ! お願い、見捨てないでぇ!?」

 

 

 そして、突然、家族と離れ離れになった心細い私を常に励ましてくれます。

 彼女には感謝しかありません。

 

 本当です。

 

 

「カズミがぁ……カズミが私のことぶったぁぁ……!?」

 

「当たり前でしょ!? 何勝手に一緒に貯金してたお金の半分も使ってるの! ねぇ、馬鹿なの!? 本当に馬鹿なの!? しぬの!? 死にたいの!? このまま冬が来たら、私たち凍死するんだよ!? ねぇ、わかってる!?」

 

「もうやだぁぁぁ……! 天界にかえりたい……あ゛あああああ……!!」

 

「ねぇ、アクア! 泣きたいのは私なの!? 泣きたいのは、私!! 何であなたが泣いてるのよ!? ねぇ!?」

 

「あ゛あ゛あ゛あああっ……!!」

 

「……あぁ……ぁぁぁぁ……もうやだ……もうやだぁ……! ……グスッ……私だって、日本に帰りたいよ!」

 

「う゛わ゛あああああああん!!」

 

「……」

 

「あ゛あ゛ああああああっ……!!」

 

「…………あぁ、そうだ。いっそもう楽になってしまおうかなぁ……はっはは……はは……」

 

 

 彼女のおかげで私は遠く離れた地でも頑張れています。

 ですので、彼女は私の唯一無二の大切な相棒です。

 

 

 

 だから、安心してください。お父さん、お母さん。

 あなたたちの愛娘は、そんな素晴らしい仲間たちに囲まれ、異世界で素晴らしい日々を過ごしています。

 仕事もとても順調です。この前なんて、魔王軍幹部を撃退しました。まれに見るスピード出世だともてはやされています。

 あまりのリア充っぷりに、疲れや寂しさや憤りを感じる暇もありません。

 

 本当に……楽しいです!

 

 ですから、少しこの素晴らしい世界を楽しみすぎて、日本に帰るのが遅くなってしまっても心配なさらないでください。

 

 私は元気に過ごしていますので!

 

 

 

 本当です。

 

 

 

 本当ですよ?

 

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

 

 私がこの世界に転生してから、既に数ヶ月という月日が経っていた。

 

 季節は冬間近。

 身体を凍てつかせる冷たい風が外を支配する、元引き篭もりの私には厳しい時期がこの世界でも変わることなく到来していたのである。

 

「むぅ……マトモな仕事がない……」

 

 だがしかし、私は引き篭もることなく、ギルドに仕事をしにきていた。

 そして、現在、ギルドの掲示板を穴が開くほど見ていたのであった。正確には、掲示された依頼を吟味していた。

 

 本来の予定であれば、私は日本にいた頃と同様に、この時期は宿屋で引き篭もっていたはずであった。

 が、諸々の事情によって、五千万エリスという多額の負債を抱える身となってしまったがため、働かざるを得ない状況と化してしまっていたのである。

 

 そのため、こんな特に肌寒い早朝から、私はギルドに来ていた。

 

 のだが、……足を運んだのはいいが、中々いい仕事はなかった。

 いや、報酬が高めな仕事ならあるのだが……割に合ってないのだ。

 

 牧場を襲う白狼の群れの討伐、百万エリス。

 冬眠から覚めてしまった一撃熊の討伐、二百万エリス。

 

 まず、白狼の群れの討伐で百万エリスは流石に冒険者を舐めてるでしょ……。危険なモンスターの群れの討伐がたったの百万というのが割に合わなすぎるのだ。

 せめて、報酬が最低でも三倍ほどでなければ、やる気にはならない。

 次に一撃熊は一度やったことがあるが、これは論外である。

 以前エラい目に遭ったこともあるが、何より前回の依頼よりも報酬が安いのだ。さすがにそれは頂けなかった。

 

 私は、善行で冒険者をやってるわけではない、生活がかかっているのだ。多少悪いとは思うが、私の知ったことではない……というやつである。

 

 そうして、私がこうでもない、あーでもないと掲示板を凝視していると、

 

「ねぇ、カズミさんカズミさん! これを受けましょう! 雪精の討伐! これがいいわ! いいえ、今日は絶対にこれにしましょう!!」

 

 いつの間に馬小屋から来ていたのか、借金の女神――アクアが一枚の張り紙を嬉しそうに持ってきていた。

 その水色の髪と瞳を尻尾のようにプルプル震わせ、「褒めて褒めて」と依頼の載った張り紙を私に手渡してくれる。

 

 一応は女神、見てくれだけはいいアクアが甘えてくるので、ついつい褒めてしまいたくなるが…………絶対に調子に乗らせたくないので、私は褒めない、アクアから張り紙だけを受け取る。

 

「雪精の討伐。雪精とは、冬の到来を知らせる精霊……小さな白い大福のような姿で浮遊しており、一匹倒す毎に春が半日早く来ると言われるモンスターです。雪精は人に危害を与えることはありません……ただ……」

 

「カズミ、そんなことよりも報酬を見てよ! ほら、最後見て! 見て!!」

 

「えぇ……ちゃんと読んでおきたいんだけど……って、え!? 一匹十万エリス!?」

 

 弱いモンスターを討伐するだけで十万エリス……!

 私は破格の報酬に、羞恥心を忘れて、つい目を大きく見開いてしまう。そんな私の反応をアクアはうんうんと満足そうに頷いて見ていた。

 

「ね、どう? どう? いいクエストだと思わない? 受けるわよね? ね、受けるよね、カズミ?」

 

 それから、アクアはグイッグイッと私に顔を近寄せてきた。

 

 近い近い……この子、最近私との距離がないよ……。

 

 そんな彼女の青い瞳はキラキラと輝いており、私に期待の眼差しを送ってきていることが伺えた。

 

 

 はぁ…………しょうがないなぁ……。

 

 

 調子に乗って、ガチでウザい! ……ので、あまりしたくはなかったが……

 

「えへへ……」

 

 私は彼女の綺麗な青髪の上に掌を置き、それから優しく一撫でしてあげた。

 すると、アクアは気持ちよさそうに目を細める。

 頬をだらしなく緩ませ、私の右腕を嬉しそうに握る。その幸せそうな表情は見ていてとても癒されるモノがあって、

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 ……はっ、不覚っ……!

 

 

 ……とりあえず、このまま終わらせると、後で調子に乗って本当にうざいので……

 

「いったいっ!?」

 

「はい、終わり。それじゃあ、私はめぐみんとダクネスが来るのを待つから、アクアは装備の支度をしてきてね」

 

 アクアの頭を少し強めに叩いて、甘やかしタイムを強制的に終わらせる。

 そうして、涙目で疼くまるアクアを尻目に、私は残りの問題児たちが揃うのをギルドの入り口で待つことにした。

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 あれから、めぐみんとダクネスと合流した私たちは雪精討伐に出発し、今は、街から離れた所にある平原地帯にいた。

 

 街ではまだ雪は降ったことないのだが、平原には雪景色が一面に広がっていた。日本でも、東北の方以外では、あまり見ることのできないほどの真っ白な大地が広がっていたのだ。

 そして、そこに多くフワフワと浮いている、ハンドボールぐらいの大きさの丸い塊が、きっと雪精なのだろう。

 

 見るからに危険はなさそうであった……というよりも、可愛かった。

 とある某ゲームの何でも吸い込むピンクの丸いやつの世界に出てきそうなデフォルメであるのだ。

 

 しかし、心苦しいが……私は今からこの子達を討伐しなくてはいけない。

 私は自身に言い聞かせる。仕方がないのだ、生活には変えられないのだと。

 

 それにしても、なんでこんな可愛い子達を討伐するだけで、一匹十万エリスも貰えるんだろう?

 まぁ……細かいことを気にしてもしょうがないし……いっか。それよりも……

 

「……ねぇ、アクア? なんで虫網なんて持ってきてるの? 馬鹿なの?」

 

 アクアの格好に私は物申したかった。いや、服装自体に問題はないのだ。なんなら、彼女の格好は私と全く同じ白のコートであるからだ。

 

 ちなみにペアルックになってしまったのはわざとではない。これが一番安かったからである。決してそれ以上の理由はない。だから、変な勘違いとか本当にやめてほしい。私はノーマルである。

 

 そんなことはさておき、彼女の虫網と腰に設置された小さな瓶は本当にいったい何なのだろうか? もしかして、彼女は雪精を討伐するのではなく、捕獲する気なのだろうか?

 

 すると、アクアは聞かれたことを嬉しそうに私に答える。

 

「ふふん。実はね、これで雪精を捕まえて、この小瓶に入れておくの!」

 

 もしかしなくても、そうであった。この女神様は本当にアホである。

 

「それでね、それでね! 捕まえたら、そのまま飲み物と一緒に箱にでも入れておけば、いつでもキンキンのシュワシュワが飲めるって考えよ? つまり、冷蔵庫を作ろうってわけ! どう? 頭いいでしょ?」

 

 しょうもない理由と分かれば、聞く気はないので、私は無視をした。

 アクアの他にも問い詰めたいやつがいるからだ。

 

「で、貴女はどうしてそんな寒そうな格好なの? 防寒着は? そもそも鎧は?」

 

 それは、私の仲間のドMクルセイダーことダクネスである。私たちのパーティーの盾役であるはずの彼女が、鎧も付けずに黒のシャツの私服姿で、大剣だけを携えてクエストにいるのだ。ふざけているとしか思えなかった。

 そのため、私はそんなクエストを舐めているとしか思えない金髪の彼女に咎めるように問いかけた。

 すると、

 

「修行だ」

 

「……は?」

 

「修行だ」

 

「…………」

 

 理解に苦しむ返答が返ってきた。

 そもそも理解をしたくなかった。頭のおかしい変態に、私の瞳も気温と同様に冷めていく。

 

「んっ……! だ、大丈夫だ、鎧がなくてもアダマンタイト並みに硬い自信はある! だから、安心してくれ!」

 

 そして、その視線にダクネスは釈明の言葉を並べるが、その頬は火照っていた。何より、彼女の息遣いはハァハァと荒かった。

 それは、彼女が反省していることはなく、私の視線にも興奮していることが容易く伺えるものであった。

 

「…………はぁ、もういいや。とりあえず、雪精の討伐始めるよ?」

 

 そのため、これ以上、頭のおかしい変態に付き合うのが煩わしくなった私は、気を取り直して雪精討伐開始の合図を出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェハァ……ゼェゼェ……くっ、ちょこまかと……!」

 

 見た目に相応しいちょこまかとすばしっこい雪精に体力が貧弱な私は、ぜえぜえと肩で息をしていた。

 く、引き篭……万年帰宅部であった私では、素早い動きの雪精に攻撃を当てるのはかなりしんどいものがあった。……まぁ、一匹十万エリスなんて高額な報酬がついているのだから、これぐらいは当たり前なのかな?

 

 ……なんか、グリードアイランドでゴンとキルアがあのニョロニョロした素早い子を捕まえるのに苦戦していた理由が少しわかった気がする。当時……こんな雑魚も捕まえられないのかよこいつら、とか言って馬鹿にして、すいませんでした。

 そんなこんなで、なんとか私が雪精を一匹仕留めることができたことに安堵し、一休みしていると、

 

 

「ねぇ、カズミ、見てみて! 私もう八匹も捕らえたわよ! すごいでしょ!」

 

 

 腰の瓶に大量の雪精を詰めたアクアが嬉々とした顔で私に報告をしてきた。虫網を持ってきた時は、やる気ないのか? こいつ、あぁん? とか思ってしまったが、私も剣より虫網の方が良かったかもしれない……。

 

 というか……私が一匹を討伐したうちに、アクアは八匹も捕らえたのか……ふーん、そっか……なんか、ムカつく。私の討伐数が振るわなかったら、アクアの捕まえた雪精全部私が仕留めるから。

 え、そんなことしないで? ムリムリ、絶対に仕留めるから。泣いても無駄……って、あぁ!? もうわかった! しないから! 絶対にしないから、鼻水垂らしながら抱きつくのはやめて!?

 

 

 それから、数分ほど経ち、雪精の動きに慣れたこともあって、私もこの子たちを五匹ほど討伐することに成功していた。

 ちなみに言う必要が無いかもしれないが、ダクネスは0である。本当にいらない子ですね、ありがとうございます。

 ついでに、我がパーティーのポンコツ魔法使いことめぐみんは一匹であった。彼女は、杖を掲げて、雪精を追い回し……あ、今二匹目を討伐したね。

 

「カズミ……はぁはぁ……もうきついです。……ば、爆裂魔法でここら一帯吹っ飛ばしてもいいですか?」

 

 そうして、めぐみんを目で追っていると、額に汗を滲ませた彼女が荒い息を吐きながら、相談をしてきた。

 その相談に他のモンスターが爆発音で寄って来ない? と私は心配になった。が、敵感知スキルと呼ばれる、周囲の敵を検知してくれるスキルには何も反応はなかったため、私は彼女に許可を出すことにした。

 

 

「いいよ、めぐみん。まとめて仕留めて頂戴!」

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 

 私の応答と同時にめぐみんは嬉々として、彼女の必殺魔法を唱える。……いや、唱えやがった。

 白い雪原に真っ赤な爆炎が降り注ぎ、熱風が私たちの顔に襲いかかる。私は顔を覆うように腕を顔に巻いた。

 

 

 ……このガキ……。私のオッケーなんて関係なく、許可出さなくても撃つつもりだったよ……。まぁ、出したから良かったんだけどね? それでも相談した意味は何だったんですか? おい、ちょっとコラ、私の話を聞いてもらおうじゃないか?

 

 

「八匹! 八匹やりましたよ。レベルも一つ上がりました!」

 

 

 しかし、魔力を使い果たしためぐみんは、私の詰問を無視して、雪の中に埋もれながら、冒険者カードを掲げて喜んでいた。

 

 はぁ……まぁ、いいや。なんにしても、これで、私が五匹、めぐみんが十匹、現在討ち取った総数は十五匹。これにアクアが捕まえた八匹もいれれば、合計二十三匹で、二百三十万エリスである。

 四人で割っても一人五十三万エリス……! え、美味しすぎるでしょ? まだ一時間も経ってないのにこの稼ぎであるのだ。こんなに美味しい雪精の討伐を誰もやらないのが、私は不思議でしょうがなかった。

 

 

「出たな!」

 

 

 そうして、私がもう一匹目の前の雪精を仕留めようと剣を構えた時だった。私の疑問に答えるように、異変は突如始まった。

 雪精を討伐する私たちの前方に霧? 水蒸気? が何の前触れもなく、立ち込め、空が暗く曇り始めたのだ。そんな異変に、私が若干の恐怖を覚える中……ダクネスは、

 

「ワクワク!」

 

 ブレることなく平常運転であった。彼女は自慢の大剣(当たったことない)を前方に構えて、嬉しそうにほくそ笑む。

 頭のおかしい変態に呆れつつも、私は動けないめぐみんの安全を確保するため、彼女を抱き抱え…………こいつ……死んだふりを決め込んでるよ……。

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、ほかっとこ。

 

「カズミ! 何故、雪精討伐を誰も受けないのかその理由を教えてあげるわ。あなたも日本に住んでたんだし、天気予報で名前を聞いたことぐらいはあるでしょ?」

 

「はい?」

 

 そうして、モヤの奥から恐怖を感じた私がアクアの側に駆け寄ると、こんな状況にも関わらず、彼女は胡座をかいて余裕の笑みを浮かべていた。可笑しな話題まで出し始める始末である。

 私はアクアに付いていけず、小首を傾げた。しかし、アクアは要領の得ない私を気にすることなく、話を続ける。

 

「じゃあ、テレビで絶対に一度は聞いたことがあるとは思うわよ? 雪精達の主にして、冬の風物詩とも言われている……そう! 冬将軍のことをね!」

 

「はぁ!?」

 

 アクアの話の終わりに合わせたかのように、冬将軍は姿を表した。 

 その日本式の鎧武者が、私たちに姿を見せると、強い雪風が私たちの行為を非難するように冷たい冷気で身体を凍てつかせてきた。

 そして、冬将軍のその白い総面から見える蒼き瞳も鋭く輝いていた。私はその視線に鳥肌を立てながら、声を荒げる。

 

「あぁ!? もう、バカッ! ばかばかばか……!? ねぇ、なんで早くそれを教えてくれなかったの!? それを知ってたらクエストを受けなかったのに!?」

 

「だって、カズミさん喜ぶかなぁって思ったんだもの」

 

「あぁ、もう、本当……! 本当に……バカッッッ!!」

 

 白い冷気を纏う抜き身の刀を握り込み、冬将軍は私たちに襲いかかる。

 冬将軍は刀を水平に構え、低く姿勢を取ると、暗い雪原に白い閃光を煌めかせながら、ダクネスに斬りかかったのだ。

 

「はっ……!?」

 

 ダクネスは、それを大剣で受けようとしたが、冬将軍が彼女の前に到達したと同じくして、大剣のブレイドのほとんどが空中に舞っていた。

 そう、ベルディアという魔王軍幹部の猛攻にすら耐えたダクネスの剣が、あっさりと砕かれてしまったのである。

 

「ああっ!? わ、私の剣がっ!?」

 

 冬将軍は軽々とダクネスを無力化すると、総面の口からシュコォーと白い息を吐きながら、こちらに目をかけてきた。

 その圧倒的な佇まいに、私は足が震えてしまう。

 

「冬将軍はね。冬の精霊なの。精霊は、出会った人が無意識に発する思念を受けて、その姿に実体化するの。けど、冬に街の外を出歩くのは日本から来たチートもちの連中くらいだから」

 

「つまりこの鎧武者は、日本から来たどこかのバカが、冬といえば冬将軍みたいなノリで連想したから生まれたってこと!? なんて迷惑な話よ、それ!?」

 

 アクアの話を聞いて、私は、はっきり言って勝てる気が全くしない! 精霊が実体化しているというのならば、きっと私が斬りつけても無駄なのであろう。

 爆裂魔法という頼みの綱は、めぐみんが今日はもう撃ってしまっている。それよりも……あの子はさっきからずっと死んだふりを続けていた。……よし、あの子は後で雪原に埋めて帰ろう。

 

 そうして、悠長にしていると、冬将軍は何故かダクネスを素通りして、私とアクアの前で止まった。冬将軍は震える私をその蒼い瞳で見下ろしてくる。

 

 え、いやいや……いやいやいや……! 怖すぎるっ!!

 

 しかし、怯える私と対照に、アクアはとても落ち着いていた。そして、安心させるように私に言い聞かせてきた。

 

「カズミ、聞きなさい? 冬将軍は寛大よ! きちんと礼を尽くして謝れば、見逃してくれるわ!」

 

 言うと、アクアは腰の瓶の蓋を開け、せっかく捕まえた雪精を解放しだしたのだ。しかし、冬将軍もその光景を満足そうに眺めていた。

 なるほど……さすがは将軍という肩書きなだけあるようだ。

 それから、彼女は冷たい雪原に膝をつけ、そのまま綺麗な形でゆっくりとひれ伏した。

 

 

「土下座よ! 土下座をするの! ほら皆も武器を捨てて早くして! 謝って! カズミも早く、謝って!!」

 

 

 額を雪につけ、プライドなんかを何処かに捨ててしまった元なんとか様は、それはそれは見事な土下座を見せてくれました。

 しかし、冬将軍は、土下座をしたアクアから目を離そうとはしなかった。彼女をひたすらにジーッと穴が開くほど睨みつけていた。

 ……なんだろうか? と、私が疑問に思っていると、……分かった。それはアクアの小瓶の一つに雪精が一匹だけ、まだ取り残されていたからである。

 

 

「ちょ!? こら、アクア!? 何あんた一匹だけ隠し持ってるの!? ほら、冬将軍にあんたこそもっとちゃんと謝りなさい!!」

 

「あ!? ねぇ、待って!? 待ってカズミさん!? なんで言っちゃうの!? 冬将軍にバレちゃったじゃない!!」

 

「バカッ!! 元からバレてるのよ! ほら、早くその子も返しなさい!! ほら!!」

 

「いや! この子だけはいやっ!! お願い、この子だけは守ってよ!!」

 

「なんで、こんな時に限って、アクアはいつもワガママいうのかな!? いい加減にして! 私の苦労も考え――――」

 

 ――無用心であった。

 そう、いくら寛大な精霊といっても、危険なモンスターであることには変わりはないのである。

 アクアを気にかけずに私もとっとと頭を下げるべきであったのだろう。ザンッという鈍い音が肉を断った音であったことに気がついた時には、時はすでに遅し。私の目線は空に舞い――――ブラックアウトした。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「佐藤和美さん……。ようこそ、死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神、エリス。この世界でのあなたの人生は終わったのです」

 

 次に視界が開いた時には、私は駄女神と出会った場所と同じ、真っ黒な空間に、スポットライトが当たったように明るく照らされた場所にいた。

 そして、同じような台詞をアクアとは別の女神に告げられた。アクアが青とするならば、その女の子は白であった。

 白い羽衣に身を包み、長い白銀の髪と白い肌の少女は、アクアと同じく人間とはかけ離れた美貌を備えていた。

 そんなエリスと名乗った女神様は、どこか悲しげに私のことを見据えていた。

 

「そうですか……」

 

 ただ、私にできたことは呆然と呟くのみであった。またしても呆気なく死んでしまった現実を私は喉奥にグッと呑み込む。

 

「……あなたがこちらの世界の女神様なんですか?」

 

「はい。佐藤和美さん……せっかく平和な日本からこの世界に来てくれたのに、この様な事になり…………」

 

 私の質問にも女神様は、真摯に受け答えてくれる。しかも、彼女は本当に私のことを心配気にしてくれていて――

 あれ……? 女神様? 女神様かな? いや、女神様だったよ。あの駄目な子とは違う、本当の女神様だよ……!!

 

「女性の方なのに異世界から来た勇敢な人。せめて私の力で、次は平和な日本で、裕福な家庭に生まれ、何不自由なく暮らせるように転生させてあげましょう!」

 

「え……!? そ、そんなこと可能なんですか!?」

 

「あなたがそれを望むなら」

 

 女神様の言葉に私は喰いついてしまった。しかし、そんな貪欲な浅ましい姿にも女神様は慈母のような微笑みで私を見つめてくださっていた。

 もう、最高だよ! 最高だよ、この女神さま!! さすが、国教にもなってる女神様なだけあるよ、エリス様!!

 

 

「できれば、その、見た目は可愛くて、美男の幼馴染と義理のお兄ちゃん、妹がいる人生だとより一層嬉しいです!!」

 

「え、えっーと、……そ、そこまでは……」

 

 

 私はエリス様に鼻が当たりそうなほど顔を近づけて、彼女に自身の要望を熱弁した。それから、興奮冷めぬまま、元の椅子へと座り直す。

 

「はぁ…………よかったです……。今まで本当に散々な人生でしたからね……ほんと、最後に安心できました!」

 

「えぇ……私もあなたの生活を時々見ていました。大変な日々だったと思います」

 

 真っ暗な静かな空間の中、エリスは憂いのある表情で私の愚痴を静かに聞いてくださった。本当にあの駄女神とは比べものにならない、慈愛に満ち溢れた女神様だ。そのため、私の口は未だ止まらなかった――

 

 

「本当ですよ! ……転生特典で選んだ女神は、素直なんですけど……お馬鹿ですし。仲間募集しても、やって来たのは、小さい子相手にもムキになる一発屋魔法使いと硬いだけが取り柄の変態騎士ですからね?」

 

「えぇ」

 

「冒険者だっていうのに……バイトばっかやって……でも、バイト先の人たち皆いい人でしたし……。私、魔王軍幹部倒したんですよ? それでも、借金背負わされて……でも、ギルドの人たちご飯タダでくれたりして……そ、それが美味しくて…………あ、あれ?」

 

「――えぇ」

 

 

 ――そして、身体の奥から熱いものが込み上げて来たのを感じる。と、頬を何か熱いものが伝ってきたのも感じた。それは、私の瞳から流れ出た涙であった。

 

 ……あ、あれ、……お、おかしいな……? ど、どうしてなんだろうか? 私は別に……こんな訳の分からない不条理な世界のことなんて好きじゃないのに……。

 でも、私の考えとは裏腹に涙は止まることく流れ続けた。涙で顔がぐしゃぐしゃになっていったのだ。

 

 

「グスッ……あ、あれ? なんでだろ? おかしい……おかしいな……」

 

「……生まれ変わったあなたにまた善き出会いのあらんことを」

 

 

 そんな私をエリスは馬鹿にすることなく、悲しそうに目を伏せ、右手を私にかざした。

 ……そっか、私は意外にも大嫌いなはずのあの世界のことが、案外気に入っていたようだ。もう少しだけ……色んな冒険をしたかったなぁ……。

 そうして、私がエリスの放つ暖かな光に包まれようとしたその時――

 

 

「さあ帰ってきなさいカズミ! あなたが死ぬにはまだまだ早いわよ!!」

 

 

 突然、上からアクアの声がドップラー効果を伴って大音量で響いてきたのだ。

 

「え、な、なに!?」

 

 それに、私は驚きの声をあげた。そして、それは私だけではなく。

 

「なっ!? この声は、アクア先輩!? 随分先輩に似たプリーストだなと思っていたら、まさか本物!?」

 

 エリスも信じられないといった顔で上を見上げていた。

 

 

「カズミ? 聞こえてる? あなたの身体に『リザレクション』っていう復活の魔法をかけたから、もうこっちに帰ってこれるわよ! 今、あなたの前に女神がいるでしょう? その子に扉を開いてもらいなさいな」

 

 

 そうして、再び続くアクアの声。

 え、本当に……? すごいよ、あの子。久しぶりに……いや、初めてあのポンコツな子を女神って思ったかもしれない。

 そのため、私はアクアに届くのかわからないが、上に向かって叫び返した。

 

「わかったよー、アクア! 今そっちに帰るからねー!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! ダメですダメです、申し訳ありませんが、あなたはすでに一度生き返っていますから、天界規定によりこれ以上の蘇生はできません!」

 

 しかし、エリスが手をしどろもどろに慌てさせ、私の肩を掴んできた。

 ……えぇ……持ち上げられてから叩きつけられた気分だよ……。

 

「ねぇ、アクア、聞こえるー? 私って一度生き返ってるから、天界規定ってやつで、もう生き返ることできないんだってさー!」

 

 

「はぁー!? 誰よそんな馬鹿を事を言ってる女神は! ちょっとあんた名乗りなさいよ! 仮にも日本担当のエリートな私に、こんな辺境担当の女神がどんな口利いてんのよっ!」

 

 

 私が蘇生の不可能を伝えると、アクアは声を荒げる。ちなみに、その内容にエリスは、凄く引きつった顔をしていた。

 

「えっと、エリスって女神様なんだけど……」

 

 少しだけエリスに申し訳なく思いながら、私はアクアに教えた。すると、アクアは更に甲高い声で喚いた。

 

 

「エリス!? この世界でちょっと国教として崇拝されてるからって、調子こいてお金の単位にまでなった、上げ底エリス!? ちょっとエリス! その子は私の可愛い従者になる予定の子なの! あんたがそれ以上ゴネを捏ねるなら、あんたの一番嫌な秘密を言うからね? いい、カズミ? エリスはね、胸にぱっ――」

 

 

「わ、分かりましたっ! 特例で、特例で認めますから! 今、門を開きますからっ!!」

 

 アクアの言葉に引っかかる点があったが、どうやらエリスは折れてくれたようだ。彼女は、アクア先輩は相変わらず理不尽な……とぶつぶつ呟きながら、指を鳴らした。

 すると、転生した時と同じように身体が宙に浮き始めたのだ。そして、現世へと続くと思われる光の門が上に開かれる。

 

「さぁ、これで現世とつながりました。……はぁ、本当はこんなことないんですよ? ……カズミさんといいましたね?」

 

「はい?」

 

 現世へと続く光の門へ飲み込まれる直前に私はエリスに名前を確認された。私は不思議に思いながら、答える。そうすると、今まで、悲し気な目をしていたエリスは、困ったように頬をかいた後……

 

「この事は、内緒ですよ?」

 

 悪戯っぽく片目を瞑り、少しだけ嬉しそうに囁いた。

 その女神の可愛いらしい姿を最後に、私は眩い光の中へと包まれていった――

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ――呼びかける声が聞こえる。

 

「カズミ……! カズミっ! カズミ、起きてくださいっ!」

 

 目覚めると、めぐみん、ダクネス、アクアが私を覗き込むように見ていた。アクア以外の二人はその大きな瞳に涙まで溜めており、普段彼女たちから見られることのない不安気な表情までをも浮かべていた。

 

「あ、やっと起きたわね。ったくあの子は、相変わらず頭が固いんだから」

 

 それから、アクアと目線が合うと、私が目を覚ましたことに、めぐみんとダクネスが気がつき、二人は無言で私を抱き締めてきた。

 私が蘇ったことを喜んでくれることは嬉しいが……照れくさいし、何よりかなり重たいのでそろそろ退いてほしかったりする。

 

 

「ふふん、カズミ。どう? すごいでしょ? 私って女神様だから、あなたが死んでもすぐ生き返らせてあげれるのよ? これはもうカズミは私に感謝してアクシズ教に入るしかないわよね?」

 

 

 そんな身動きの取れない私を膝枕はしてくれている駄女神が得意気な顔でそんなことを言ってきたのだ。

 この子は本当になにを言っているのだろうか……? 意味不明なことを突きつけてくるアクアに私は頭を痛める。

 

 

「ねぇ? 私が死んだのアクアのせいなんだけど?」

 

「ギクッ……!」

 

「よくそんなことが言えるね……?」

 

「で、でもでも! カズミさんも無事に帰ってこれたんだからいいじゃない! い、いいでしょ……!? ね、ね? だから、カズミさんは私に感謝してもいいと思うの……? ね、ね?」

 

「ふーん……」

 

 

 口をもごつかせ、あたふた手を振りながら弁解しようとするアクアを、私はとても冷めた目で見てやる。

 端正な顔立ちを備える彼女が、その顔をバグらせながら、必死に言い訳を並べている姿はとても滑稽で見ていて気分が良かった。が、それ以上に劣等感にムカついた。

 私はアクアにポツリと呟く。

 

 

「女神チェンジで」

 

「うわあああ、待って、ごめんなさいっ! 謝るから! 私謝るから、見捨てないでっ!?」

 

 

 すると、アクアは私に縋り付くように私の首にしがみついてきた。

 い、意識が飛ぶ……!? そんな馬鹿力のアクアはダクネスが宥め、離してくれたため、なんとか私は窮地を脱した。

 あ、危ない危ない……。もう一度エリス様とご対面するところであった。そうして、アクアが離れてから私は上体を起こし、冬将軍に斬られた自分の身体の無事を確かめ始める。

 

「……具合は大丈夫ですか? どこか調子が悪いとかは?」

 

「うーん、大丈夫そうだよ?」

 

「そうですか。それは良かったです。……とてもひどい殺され方をしたので」

 

「え……?」

 

 めぐみんの言葉が引っかかった私は、やっと落ち着き始めたアクアの顔を見た。すると、私の目線に気がついたアクアが答える。

 

「ウグッ……グスッ……カズミさん、冬将軍に首チョンパされたのよ? でも、とても綺麗な切り口だったから、治療はとても簡単だったわ。だから、多少は血液も回復したけど、しばらくは激しい運動を起こすと貧血起こすからね? ただでさえ、カズミさん血が少ない方なんだから、気をつけなさい」

 

「首ちょ……!?」

 

 私は絶句し、思わず自分の首筋を手で撫でた。

 ……そして、その時もっとショックな事実に気がつく。私の腰まで届きそうな自慢の長髪の存在が感じられなかったのだ。

 どれだけ手で触っても、感触がないのである。その私の動作を三人も最初は不可解な顔で見ていたが、私の泣きそうな顔で勘づく。

 すると、めぐみんは首を横にフルフル振りながら、私にある残酷な事実を教えてくれた。

 

 

「カズミ……残念ながら……首の所で綺麗に斬られてしまいまして……」

 

「か、カズミ! 髪はいつかまた伸びる!! な、な? だから落ち着くんだ! そうだ、深呼吸をしよう」

 

「そ、そうよ、カズミ! それにショートも似合ってるわよ!? だから、安心して!!」

 

 

 言葉を濁しながら、彼女たちはその現実を紡いだ。その最悪な出来事に、

 

 

「うぅ……あ゛ああああっ……!? も、もうこの世界やだぁぁぁ……!!」

 

 

 私は泣き叫んだ。ただ泣き叫んだ。雪面に膝をつけ、癇癪を起こした小さな子のようにひたすら泣いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱり、この世界嫌い……。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私が冬将軍に殺された数日後。

 

「……やめて貰ってもいいですか?」

 

 私は怒りを抑えながら、立ち塞がる男に静かにお願いをした。

 前回、二度目の死を迎えた私は、数日ほど休養をとって心のケアを取っていた。正直、死んだショックよりも自慢の長髪が短髪になってしまったことの方がダメージが大きかったからだ。

 ちなみにあの後、手先が器用なアクアに整えてもらい、今の髪型はショートボブみたいな感じにして貰ったりしている。

 

 そして、話を戻して、本日。まだ激しい運動を禁止されている私は、軽くできる簡単な仕事が無いかと、ギルドの掲示板で探していたのだが――

 

 

「なんだよ? 荷物持ちの仕事なんかやるくらいだったら、俺が何か手伝ってやるって言ってやってんだよ。最弱職ちゃんよ?」

 

 

 ――なんか、酔っ払いのチャラ男に絡まれてしまっていたのである。

 

 

「……結構です。それじゃあ、失礼します」

 

「おい、ちょっと待てよ。こっちは善意で言ってやってるんだぜ? なぁ? それとも最弱職ちゃんは上級職以外とは組めないのか? ま、大方あんたが足を引っ張ってるからマシな仕事に挑戦できないことは想像つくがよ」

 

 そう言って、私の前を防ぐ戦士風のくすんだ金髪の男。

 

 我慢である。

 

 私は大人の女の対応ができる一端のレディだ。こんな、ナンパとも挑発とも分からない酔っ払いの戯言など本気にするわけがなかった。

 それに、この男の言う事も一理あったからだ。確かに私の仲間は、ブルーチーズのように癖のある子たちだが、それでも彼女たちは勇者候補と呼ばれる上級職であるのだ。

 それに、自ら選んだとはいえ、私の職業は最弱職の冒険者である。しかも、女の子である私が軽んじられることは、仕方のない事であった。

 だが、無言でいることを、その男は私が萎縮してしまい怯えてしまったと勘違いをしたらしい。

 

 

「おいおい、何か反応はしてくれよ最弱職ちゃんよ? ったく、何度も言うが俺は善意で最弱のあんたに冒険者がなんたるかを教えてやろうとしてるんだぜ?」

 

 

 そして、ギルド内に爆笑が巻き起こる……なーんてことはなく、静まりかえっていた。とりあえず、私はチンピラから視線を逸らし、顔を俯かせた。

 

 

「カズミ。相手にしてはいけません。私なら、何を言われても気にしませんよ」

 

「そうだカズミ。酔っ払いの言う事など捨て置けばいい」

 

「そうそう、どうしても許せないなら、この私が後でそこの男に天罰下しといてあげるからほっときなさいな」

 

 

 顔を俯かせる私を心配するようにめぐみんやダクネス、アクアが間に入る。だが、別に悲しいとか、悔しいからとか……そういう理由から私は俯いたわけではない。

 

 話すために少しだけ補足すると、私は冒険者ギルドの職員さんたちや、ギルドの酒場に飲みに来るお客さんとかなり仲が良かったりしたりする。

 それは、借金返済のためにクエストに行く以外の日は、ここでウェイトレスのアルバイトをさせていただいているからであった。

 そのため、私は、自分で言うのも何だが、若い娘で、現場の親っさんたちとも親しい事もあったりするため、ギルドの酒場にて人気者であったりするのだ。……だから、私は頭を悩ませていた。

 

 

「……ボキボキボキ!!」

「コォォォォ……!!」

「……オマエヲ……コロス!!……イマココデ」

 

 

 金髪の男の後方に見える現場の先輩方の目がとても人に向けてよいものではなくなってしまっていたからである。

 

 いや、いやいや、やばいよ……。あれ、絶対にやばいよ……! この後、もしも私がギルドから逃げるように出て行ったら、この人絶対に○されちゃうよね!?

 それに、なんか……ギルドの職員さんのルナさんって方から感じる背中の視線もなんか……なんか、凍てついてそうな感覚がするし……。えぇ……大事にされてるのは……本当に嬉しいけど……。

 え、これ本当どうしよう……? 絶対にこの後、殺傷事件案件だよね? しかも、テレレ〜テレレレレ〜のコナンの解決歌が完全犯罪の時点で流れちゃう感じになるよね? え……えっ……!?

 

 

 そうして、どうにか穏便に事を済ませられないかと私が頭を悩ませていると、悩みの原因の男の言葉から良いアイデアが思いついた。

 

 

「上級職におんぶに抱っこで恥ずかしくねえのか最弱職ちゃんよ? それとまぁーあとは、パーティーが女四人って危なっかしいぜ? なぁ、試しに俺とか加入させてみるってのはどうだ? 良い提案だろ?」

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいですよ?」

 

「……えっ?」

 

 私の返答にジョッキを片手にした男だけではなく、冒険者ギルドの中までも固まった。

 

「ちょ、か、カズミ!? 何を言ってるの!? こんなだらしなさそうな男をパーティーに加入させるなんて正気じゃないわよ!!」

 

 すると、一番最初に正常に稼働したのは、だらしない女神筆頭のアクアであった。彼女は私の両肩を掴み、鼻が当たるほど顔を近づけて大声で取り消せとばかりに訴えかけてくる。

 しかし、私は自身の発言を撤回するつもりはないので……、

 

「私は正気だよ?」

 

 自分で言うのも何だが、彼女の庇護欲を立てるように甘ったるく言い返した。すれば、今度はめぐみんとダクネスの二人も私に掴み掛かってきて、声を荒げる。

 

「私は! 私は認めませんよ、カズミ!! あんな男をパーティーに入れるくらいなら、ジャイアントトードをペットにした方が百倍マシです!!」

 

「そうだぞ、カズミ! あの男の下卑た目を見ろ!! あれは、正真正銘のクズの目だ。きっと、パーティーに入れたら私たち全員を性的に捕食する男だぞ! 深夜、嫌がる私たちの身包みを剥ぎ取りきっとあの男は……ンンッ!」

 

 そして、その本人がいる目の前で随分とボロクソに貶し始めたのである。一人、なんか満更でもなさそうな子がいた気がするが……まぁ、キモいので触れないでおいた。

 そんな彼女たちの言い草に、戦士風の男は顔を引き攣らせていたが、私を彼の目線に合わせると、男は目を輝かせて餌に食いつく。

 

「え、ほ、本当にいいのか? 俺があんたらのパーティーに加入しても!」

 

「はい、いいですよー。ただ、一つ条件があります」

 

 私は毒餌に喰らいついた間抜けに人差し指だけを立てて、男に指を差した。それから、なんだよ? と疑問そうにしている男に、その条件とやらを教えてあげた。

 

「今日一日だけ、お試しに私とパーティーの交換をしましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたがいねえのは……ちょっとだけ残念だが……でもいいのか?」

 

「はい、色んな冒険者の方と触れ合いたいので」

 

「そ、そうか。じゃあ、今度は最弱職ちゃんも一緒に行こうぜ。ということで、お前ら後の事は頼んだぞ!」

 

 戦士風の男はそう言って自身のパーティーへ事情を説明し、確認を取る。

 

「まぁ……別に今日のクエストはゴブリン狩りだし。俺は構わないが……」

 

「あたしもいいよ? でもダスト。あんた、そっちの方が楽だからもうこっちのパーティに帰ってこないとかだけは言い出さないでよ?」

 

「俺も構わんぞ。ひよっ子一人増えたってゴブリンぐらいどうにでもなる。その代わり、そっちのパーティでの面白い話、期待してるぞ?」

 

 すると、男の仲間たちからの許可は出たので、男は満足そうに私をその場に置いていくと、アクアたちの元へと駆け寄って行った。

 

 ……ふむ、ワトソン君。我ながら完璧な計画ではないかね? 戦士風の男は毒餌に掛かり、私は他の先輩冒険者たちから普段得られない経験を得られる。そして、私から提案を出したということもあり、周りも怒りづらくなった。正に皆ハッピーなパーフェクトワールドの完成であった。

 

「じゃあ、カズミ? あなたまだ今朝も貧血気味だったんだから、無茶だけはしないようにね?」

 

「うん、わかってる。それじゃあ、私の名前はカズミです。今日一日だけですが、よろしくお願いします!」

 

「「「は、はぁ……」」」

 

 私の自己紹介に男の三人の仲間達は若干戸惑い気味の返事をした。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 ヘッドバンドに重い装甲鎧を着込んだ男が、私を値踏みするように眺め回しながら言ってきた。

 

「俺はテイラー。片手剣と盾の通り、職業はクルセイダーだ。このパーティのリーダーみたいなもんだ。成り行きとはいえ、今日一日は俺たちのパーティーメンバーになったんだ。リーダーの言うことはちゃんと聞いてもらうぞ」

 

「勿論、聞きます。それに、普段は私が指示役をしているので、勉強させてください」

 

 その私の言葉にテイラーは驚いた表情をして、信じられないとばかりに問いかけてきた。

 

「何? あの上級職ばかりのパーティーで冒険者のカズミがリーダーをやってるってことか?」

 

「そうですが?」

 

 相槌を打つ私に、三人は絶句した。

 そうなんですよね……。それが普通の反応ですよね……うち、普通のパーティーじゃないですよね、すみません。

 しかし、いつまでも沈黙の間を続けるわけにもいかないので、続いて、青いマントを羽織ったもふもふ尻尾が目立つ少女が自己紹介をし始めた。

 

「あたしはリーン。見ての通りのウィザードよ。魔法は中級属性魔法までは使えるわ。まあよろしくね、ゴブリンぐらい楽勝よ。困ったら私が守ってあげるから、頼りにしてね冒険者ちゃん!」

 

 その子が、私を年下の後輩みたいに扱いながらにこりと微笑んだ。

 

 愛らしい……それよりも、その尻尾がどうなっているのか……気になる……気になる。……触ってみてはダメだろうか? ダメだね、うん、ダメそうだ。諦めよう。

 

 それよりも彼女は、私が切り捨てたウィザードであるようだ。ふむ……せっかく貯めたポイントで、とある必勝法(・・・)を覚えたが、もしも冒険者よりもウィザードの方が圧倒的に良ければ、転職も視野に入れてみよう。

 

「俺はキース。アーチャーだ。狙撃には自信がある。ま、よろしくな冒険者ちゃん」

 

 そして、片目の隠れた髪に青い服の弓を背負った男が最後に自己紹介をした。

 

「えっと、改めてよろしくお願いします。カズミです。クラスは冒険者です。えーっと……私もなんか得意な事とか言った方がいいですか?」

 

 そんな私の言葉に三人は吹き出した。

 

「いや、別にそんな気負わなくてもいい。そうだな、カズミは俺たちの荷物持ちでもしてくれ。ゴブリン討伐くらい三人でどうとでもなる。心配するな、ちゃんとクエスト報酬は四等分してやるよ」

 

 テイラーは私を小馬鹿にして、そう答える。

 それに一々、私も腹を立てることはなかった。なぜなら、とてもありがたかったからだ。荷物持ちだけで、クエスト報酬が貰えるのだ。

 そのため、一応まだ療養中の身である私は、彼らのご好意に遠慮なく甘えさせてもらうことにした。

 そうして、私がテイラーたちと話し合っていると、ギルドの掲示板の方からアクアたちの声が聞こえてきた。

 

 

「ええー? ゴブリン退治ー? 何で街の近くにそんなのが湧いてるの? もうちょっとこう、ドカンと稼げる大物にしない? いい? これはね? 私の元を離れたカズミさんに私という女神の偉大さを教える良い機会なの。わかったチンピラ? ほら、わかったなら、もう少しいいのに選び直しなさい」

 

 私に絡んできた男、名前はダストがアクアに難癖をつけられていた。

 

「い、いや、あんたらが実力があるのは分かるが俺の実力が追いつかねえよ。アークプリーストにアークウィザードにクルセイダー。これだけ揃ってれば、どんな所でも行けるだろうけどよ、まあ今回は無難な所で頼むよ……ところであんた、鎧も武器も持っていないが……まさかその格好で行くつもりなのか?」

 

「ああ、修行だ」

 

「は? へっ? シュギョウ……? は? ……ま、まぁいいか」

 

 頭のおかしい変態と理解したくないやりとりをしているダストは、どうやら今回は無難なところに行くようであった。

 まぁ、提案したのは私であるが……命を落とさないように是非とも気をつけて欲しい所である。

 そんな向こうの様子を私が気にしていると、テイラーがテーブルから立ち上がった。

 

「本当は、冬の時期は仕事はしないんだがな。ゴブリンの討伐なんて、美味しい仕事が転がってきたんだ。という訳で、今から行けば深夜には帰れるだろうから、山道に討伐しに行くぞ。それじゃ新入り、早速行こうか」

 

 そして、出発の号令を出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリン。

 

 それは、子供くらいの身長の小鬼のモンスターである。

 私の世界だけではなく、この世界でも知らない者はいないメジャーなモンスターであるそうだ。

 個体の力はそれほどでは無いが、基本的に群れで行動し、雑菌だらけの汚れた武器を使ってくるとのこと。故に民間人には意外と危険視をされているモンスターである。だが、知能は低いので駆け出し冒険者の美味しい相手とされている。

 

 そんな住み着いたゴブリンを討伐するため、私たちは山へ向かう途中の草原を、のんびりと歩いていた。

 

「しかし、なんでこんな辺境に住み着くかね。まあ、おかげでゴブリン討伐っていう滅多にない、美味しい仕事にありつけたわけだけどさ!」

 

 ゴブリン一匹で二万エリス。

 私はゴブリンの強さを知らないが、彼らが美味しい仕事と言うからには、群れていたところで、それほどなのだろう。

 

 若干、運動神経雑魚雑魚アンド雑魚の私には四人分の荷物を重いところがあって苦痛だが、それだけで分け前が貰えるのだ。私は少し、服の中に汗をかきながら、変な安心感に囲まれたまま、彼らの後ろをついていく。

 

 こんなに緊張感も無い楽な? 仕事は初めてかも……。普段なら、道中で必ずアクアたちが何か厄介事を起こしたものだが、今日は何の問題もなく、目的地の山に辿り着いてしまった。

 ここで、あの子たちと一緒であれば、こんなに問題もなくクエストがあっさり進むことに不安を覚えるところだが、今日は違った。

 まず、目的地へと辿り着くと、先頭のテイラーが地図を広げて足を止める。

 

 

「ゴブリンが目撃されたのはこの山道を登り、ちょっと下った所らしい。山道の脇にでもゴブリンが住み易そうな洞窟でもあるのかも知れない。ここからはちょっと気を引き締めてくれ」

 

 

 それから、パーティーリーダーの務めの一つである指示をする。それに対して、他のメンバーもしっかりと相槌を行った。

 そう、ちゃんとしたまともなパーティーであるからだ。それが私を安心させてくれていたのだ。

 全員が意識を高めるため、口数を減らす。そんなごく当たり前なパーティーの形に感動しつつ、私はテイラーたちの後ろを歩いた。

 

 山道は完全な一本道で、険しい岩肌の山を、這う様に細い道が伸びており、5、6人ほどが並んで歩ける程度の広さの道であるが、道の片方には壁の様な岩肌が、反対側は崖になっていた。

 その危なっかしい山道を歩いていると、私の中のレーダーに反応がかかった。

 

「あ、あのー、敵感知に引っかかって、何か一体だけ山道をこっちに向かって来てるんですが……」

 

 そう、万能危険探知機こと敵感知スキルに反応があったのだ。それを報告すると、三人は驚いた顔で私の方に振り向いた。

 

 

「カズミ、敵感知スキルなんて持ってるのか? それよりも、一体だと? それはゴブリンじゃないな。奴らは集団で行動するはずだ。こんな所に一体で行動する強いモンスターなどいないはずだが……。この山道は一本道だ。そこの茂みに隠れた所で、すぐ見つかっちまうだろう。迎え撃つか?」

 

「んー、茂みに隠れても見つかりませんよ? 私、潜伏スキルも持ってるので、それ使えば、やり過ごせますけど……。一応、危険なモンスターかもしれないですし、隠れときますか?」

 

 

 三人は私の言葉に驚きながらも、提案を呑んでくれた。それぞれ、私の身体を握りながら、潜伏スキルを起動して茂みに隠れる。

 

 すると、それはすぐに来た。

 

 一言で言うならば、一匹の猫科の猛獣がいた。それは虎やライオンをも越える大きさであり、黒い体毛に覆われ特徴的な大きな2本の牙を生やしていた。

 そのモンスターは、さっきまで私たちがいた山道を、執拗にクンクンと嗅いでいた。私の身体に触れている三人の手に力が籠る……痛い……ちょっと痛い。ただ、このベテランさんたちが緊張するということは、かなり危険なモンスターなのだろう。

 

 モンスターは、神経質に辺りを嗅ぎ終わると、やがて私達が登ってきた、街へと向かう道へ消えていった。

 

 

「……ここここ、怖かったあああっ! 初心者殺し! 初心者殺しだよっ!?」

 

「し、心臓が止まるかと思った……。あ、危なかった……。あれだ、こんな時期に、ゴブリンがこんなに街に近い山道に引っ越してきたのは、初心者殺しに追われたからだ」

 

「あ、ああ……。しかし、厄介だな。よりによって帰り道の方に向かって行ったぞ。これじゃ街に逃げ帰る事もできないな」

 

 

 リーンから皮切りにキース、テイラーも口々に話し始める。

 

「えっと、さっきのモンスターってそんなにやばいんですか?」

 

 私の言葉に三人が、なぜ知らないんだと、信じられない珍物を見るかのような目で見つめてきた。

 すいません、この世界での知識は赤ん坊と大差ないんです。許してくださいと伝えるばかりに首を縦に振って私は肯定した。

 

 

「初心者殺しっていうのは、さっきのような黒い体毛に覆われた大きな二本の牙を生やしたモンスターのことだ。あいつはゴブリンやコボルトといった、駆け出し冒険者にとって美味しい部類の弱いモンスターの傍をウロウロして、弱い冒険者を狩るんだよ。つまり、ゴブリンをエサに冒険者を釣るんだ。しかも、狡猾で休息している冒険者を闇討ちしたりするとっても危険なモンスターだ」

 

「……うへぇ」

 

 

 この世界でもやはり、亡者のような半端な知恵があるモンスターがいるようだ。

 全く、そのモンスターの脳みそとうちのアクアの脳みそを交換したいほどである。

 多分、アクアの脳みそってミジンコ以下だと思うの。うん、最近更にそう思うようになった。それよりも……あっちは大丈夫なのだろうか? ……心配だ。特にあのチャラ男が……。

 

 

「とりあえず、ゴブリン討伐を済ませよう。近づいてくればカズミの敵感知で分かるだろうし、帰ってくるかどうかも分からない初心者殺しに怯えて、いつまでもここで隠れているわけにもいかないしな。まずはゴブリンをとっとと討伐しよう。そして、すぐに帰還だ」

 

 パーティーリーダーの冷静な提案に私たちは茂みから出た。……と、リーンが私の背負っている荷物の一部を手に取ると、

 

「もし初心者殺しに会ったら、皆で逃げる時、カズミも身軽な方がいいからね。あたしも持つよ。そ、その代わり、潜伏と敵感知スキル、頼りにしてるよ?」

 

 リーンは自分の荷物を背負いながら、申し訳なさそうに言ってきた。

 その彼女の言葉を皮切りに、テイラーとキースも、慌てたように私の背中から荷物を取る。

 

「べ、別に、俺たちはカズミに頼りきってるわけじゃないからな?」

 

「そ、そうそう。やっぱ女の子だけに荷物持たせるのは男としてダメでしょって思っただけだからな?」

 

 何で頬を染めながら言うんですかね……。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 初心者殺しとの遭遇後は、特に問題も起こらなかった。私たちは順調に山道を歩き、地図通り、ゴブリンの目撃地点にたどり着いたのである。

 そこは躓けば、転げ落ちてしまいそうなほど、山道が急な下り坂となっていた。

 地面を強く踏みしめたテイラーがこちらに振り返る。

 

「カズミ、どうだ? 敵感知には反応あるか?」

 

「この山道を下っていった先の角を曲がると、いっぱいいますね……。あと、今のところは初心者殺しが近づいてくる気配はありません」

 

 それにしても多い。どれくらいかと聞かれれば、一匹見つけたら三十匹はいるといわれる黒光りの虫並みに多いのだ。

 

「いっぱいいるってならゴブリンだな。ゴブリンは群れるもんさ」

 

「……こんなに群れるもんなんですか? 探知できているだけでも数えきれない数の多さですよ?」

 

 軽い口調で答えるキースに私は警戒心を高める。なんたって、私は一応療養中の身なのだ。アクアもいないこの場では、下手な危険は起こせなかった。

 そんな私の様子にリーンも不安になったのか、

 

「ね、ねぇ、そんなにいるの? カズミもこう言ってるんだし、ちょっと何匹いるのかこっそり確認してから……」

 

 彼女は滾るキースを止めようとしたがもう遅い。キースは平気平気といった様子で弓に矢を番えて彼は山道を下って行ってしまったのだ。

 

「大丈夫大丈夫! 駆け出しの女の子ばかりに活躍させてちゃ面子が立たねえ! おっし、行くぜ!」

 

 リーンの制止など聞かずにキースはどんどんと坂を下っていく。それに続いてテイラーも角から飛び出し、そして二人同時に叫んでいた。

 

 

「「ちょっ! 多っ!!」」

 

 

 叫ぶ二人に続き、私とリーンも急ぎ角を曲がる。

 

 ――そこには本当に大量のゴブリンたちが群を成していた。

 

 これがあの有名なゴブリンか……うへぇ、なんか、生理的に受け付けないものがありますねぇ。……緑肌が気色悪い。

 身長は子供程度しかないゴブリンだが、その殆どが武器を持って、こちらを敵視してきていた。そのちょっとしたホラーな光景にリーンが思わず叫ぶ。

 

 

「言ったじゃん! だから、言ったじゃん! あたし、こっそり数を数えようって言ったじゃん!!」

 

 泣き言をあげるリーンとアーチャーのキースを後ろに庇うように、ゴブリンたちからじりじりと後退しつつテイラーが前に出た。

 

「ゴブリンなんて普通は多くても十匹ほどだろ! ちくしょう、このまま逃げたって初心者殺しと遭遇して、挟まれる可能性が高い! やるぞ!!」

 

 テイラーの決死の指示に、リーンとキースは悲観感を漂わせた顔で攻撃の準備を始めた。

 

「ギャギャッ! キーキー!!」

 

 しかし、それを見てゴブリンたちは奇声をあげて、こちらに向かって山道を駆け上ってきた。弓を構えているゴブリンも存在して、それは運悪くテイラーに当たってしまう!

 

「痛えっ! ちくしょう、矢を食らったっ! おいっ!? 弓を構えてるゴブリンがいるぞ! リーン、風の防御魔法を!」

 

「リーンが詠唱してるが間に合わねえよぉっ! 全員、なんとかかわせえ!」

 

 テイラーとキースが叫ぶ中、

 

 

「『ウインドブレス』ッ!」

 

 

 私が咄嗟に叫んだ風の初級魔法が、私たちに飛び来る矢を吹き散らした。

 

「カ、カズミっ! よ、よくやった!」

 

 テイラーが盾を構えて、私に一礼すると、リーンの魔法が完成したようだ。

 

「『ウインドカーテン』!」

 

 私たちの周りに渦巻く風が生まれた。その風はゴブリンたちから射出された矢を彼方の方向に吹き飛ばしてくれる。

 

 さすが、本物の魔法使いさんだ。うちのなんちゃって魔法使いとは比べるまでもなく頼りになる。

 私は少しだけ、ちゃんとしたパーティーの連携に感動しながら、地形を活かすため右手に魔力を込めた。

 

 

「この地形ならいけるでしょ! 『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

 

 そして、私は水の初級魔法を唱える。人並みよりは魔力の多い私は、それなりの魔力を注いで広範囲に水を生成した。

 テイラーが立ち塞がる前の坂道全てを濡らすために。

 

「カズミ!? 一体何やって……」

 

 背後からリーンの疑問の声を聞こえたが、無視して、

 

 

「『フリーズ』ッ!」

 

 

 私は、氷の初級魔法も撃ち放った。

 

 

「「「おおっ!!」」」

 

 

 私以外の三人が驚き、叫び、ゴブリン達は足元を凍らせて動けなくなっていた。

 それでも、無事だったゴブリンは、氷の上でプルプルと踏ん張ってこちらに攻め寄ってくる。が、そんな不安定な足場を登ってくるゴブリンをテイラーはしっかりとした足場を踏みしめて叩き斬る。

 

 そして、身動きが取れないゴブリンは後衛の二人が徐々に駆逐していった。ふむ……この状況なら、もう大丈夫だろう。私の奥の手も使う必要はなさそうだ。

 一安心した私は剣を引き抜くと、テイラーの隣に並び立ち、彼のサポートをすることにした。

 

 

「じゃ、あとはゴブリン達を綺麗に全滅させちゃいましょうか」

 

「で、でかしたカズミ! おい、お前ら、やっちまえ! この状況ならどれだけ数がいても関係ないぞ、ゴブリン達をやっちまえ!!」

 

「うひゃひゃひゃ、なんだこれ!? 楽勝じゃねぇーか! 蜂の巣にしてやるよ!」

 

「いくよ! 強力な魔法、ど真ん中に撃ち込むよーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ゴブリンの群れを討伐した帰り道。

 

「……くっくっ、あ、あんな魔法の使い方、聞いた事もねえよ! 何で初級魔法が一番活躍してるんだよ!」

 

「ほんとだよー! 私、魔法学院で初級魔法なんて、取るだけスキルポイントの無駄だって教わったのに! ふふっ、ふふふっ、そ、それが何あれ!」

 

「うひゃひゃひゃ、や、ヤバい、こんな楽なゴブリン退治初めてだぜ! いや、俺はあのゴブリンの群れを見た瞬間は、ここで終わったと思ったね!」

 

 私達は山道を街へ向かって帰りながら、先ほどの戦闘を振り返っていた。

 口々に先ほどの戦闘の話題で盛り上がる、未だにテンションの下がらない三人に、

 

 

「あ、戦闘終わったので荷物ください。今日の私の仕事、荷物持ちですもんね?」

 

 

 口元を嫌らしく歪ませて、私は皮肉を言ってやった。

 

 

「ちょ、悪かった! いや、ほんとに悪かったよカズミ! 謝るよ!! というか、女の子に持たせててマジですんませんでした!!」

 

「わぁぁぁ! ごめんごめん、カズミ! 謝るから、許して!!」

 

「おいカズミ、荷物よこせ! MVPなんだから、お前の荷物持ってやるよ!」

 

 

 途端に慌てた三人に、私は思わず吹き出した。

 吹き出した私を見て、冗談だと気付いた三人も笑い出す。そして、急にリーンが私に抱きついてきた。

 

「わっぷっ……ちょ、リーンさん?」

 

「敬語はやめて! カズミと私たちはもう友達でしょ?」

 

 すると、リーンは抱きつきながら、上目遣いで私を見上げてきた。

 その顔は、まだ幼い見た目の彼女にマッチしていて、とても庇護欲を掻き立てられた。それに、私もこの世界での同性の友達はまだまだ少なかったので、断る理由もなく、

 

 

「う、うん……え、えっと、リーン……?」

 

 

 久しぶりになんか友達というものを意識すると、上擦った声になってしまった。

 

 

「あぁ、もう強くて可愛いとか、カミサマ過ぎないカズミ? あぁ、もう最高だね!!」

 

「ちょ!? リーン!? や、やめっ……!?」

 

 

 そして、彼女は私の胸の中に顔を押しつけてきた。くすぐったいので是非やめてほしい!

 

 

「おい、テイラー。俺今日まで生きててよかったよ……って本気で痛感したよ」

 

「奇遇だなキース。俺もだ……つっ。いてて……」

 

 

 そんなことをしていると、テイラーが腕を押さえて顔を顰めていた。破傷風などになっては危ういので、私は引っ付くリーンを引き剥がす。

 それから、苦悶の表情のテイラーに近づき、彼に刺さったままだった矢を引き抜いた。その後、水の初級魔法で傷口の雑菌を少しでも洗い流す。

 

 

「テイラー大丈夫? 回復魔法をこの場で習得してもいいけど、消毒液がないからやめた方がいいよね? ……うーん、とりあえず、街に帰ったら、急いで消毒しよっか」

 

「あ、あぁ……」

 

 私は、手持ちに包帯がないため、自分の服の袖を破り、

 

「一応、止血だけはしとくね?」

 

「!?」

 

 テイラーの出血が酷い傷口をそれで覆い、本当に最低限の応急手当をした。そうして、申し訳ないが代替わりの布をテイラーの腕に巻いていると、リーンとキースがゴクリと喉を鳴らした。

 

「カズミ、か、回復魔法まで習得するの……?」

 

「か、回復魔法……。つ、ついに俺たちのパーティーにも回復魔法を使えるメンバーが……」

 

 そんな何かボサボサと呟く二人の言葉をテイラーが遮る。

 

「おいやめろ。気持ちはわかるが、カズミには、ちゃんと帰る場所があるんだぞ? 上級職ばかりのパーティーがな。……ったく、なぜカズミがあのパーティーでリーダーなんてやっているのかが、よく分かったよ」

 

 そして、私に笑いかけた。

 ……うーん、私はどうしてあの子たちの世話をしなければいけないのかわからないが、テイラーにはよく分かるそうだ。

 今度、是非ともリーダーの才がある彼には教えてほしい。

 

 そんなことを思いながら、私たちは山を降り終わり、街へと広がる草原地帯まで戻ってきた。

 そして、そこで思い出した。もっと注意を払わなければいけない存在がいたことを。

 

「あれ? 何かが、凄い勢いでこっちに向かってきてないか?」

 

 アーチャーの千里眼というスキルなのだろう。便利そうだ、今度教えてもらおう。

 それの存在に最初に気づいたのはキースであった。次に私も、敵感知によりその存在に気づく。

 山奥からとんでもないスピードで駆け降りてくる黒い獣の存在に。

 

「初心者殺し!」

 

 私の叫びを合図に、四人で一斉に街に向かって駆け出した。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はあっ……、はあっ……! くそっ、最後の最後でこれかよ!」

 

「はあっ、はあっ……。やばいよー、追いつかれちゃうよー!」

 

 キースとリーンの二人が荒い息で呟いた。……私? ちなみに私はもう喋れる余裕がなかった。

 

 運動能力は人並み以下の私は、横っ腹を押さえながら、なんとか三人についていけている。

 初心者殺しは、私たちのすぐ後ろにまで迫っていた。しかし、街まではまだまだ距離があった。このままでは逃げきれないだろう。

 

 主に私が……!

 

 もうマジ無理です。口の中が血の味でいっぱいで無理です! ……あぁ……もう奥の手を使うしかないかぁ……でもなぁ、あれ服が血でいっぱいになっちゃうからなぁ……。

 と、躊躇っていると、一番後方になりつつある私を案じたテイラーがクルリと振り向き、剣を構えて言い放つ。

 

 

「リーン! このままじゃ追いつかれる! お前はカズミ連れて街に逃げろ! 俺が足止め、キースは援護! 街に帰ったら、ギルドに駆け込んで、助けを呼んでくれ!」

 

「おおっ!? そ、そうだな! ま、ま、任せろ! そうだよな、男が胸を張るべき場面だよな!?」

 

 

 ……迷ってる暇なんてないか。ここはゲームのような世界であって、ゲームではないのだ。

 身勝手な振る舞いをしてしまえば、私のせいで人が危険な目に遭ってしまうのだ。なら、

 

「わ、わかった! ほら、行くよカズミ!!」

 

 震えた手のリーンが私に声をかけ、腕を掴んで走ろうとする。

 

 ――が、今日一日とはいってもこの人たちは私のパーティーメンバーである。そして、私の大事な友達だ。

 

 それを置いて行くって選択肢は私には無い。目と鼻の先まで迫っている初心者殺し。その標的は私たちを庇うように立つテイラーである。

 

「ちょ、ちょっとカズミ!? 逃げないの!?」

 

 私はリーンの手を振り解き、その場から動こうとしない私に戸惑ったリーンの慌てた声を耳に入れつつ、私は初心者殺しに気づかれないように小さく呟いた。

 

 

「『クリエイト・アース』」

 

 

 それは土の初級魔法。私の手のひらに、少量の土が生成される。

 

「お、おいカズミ! 危ないぞ、早く逃げろ!」

 

 慌てたキースの声を聞きながら、作り出した少量の土を握り締め、そっとテイラーの後ろに立つと。

 

 

「あらああああっ! かかってこいよ、この毛玉がっ!!」

 

 叫ぶテイラー。そのテイラーに飛びかかる初心者殺し。

 

「『ウインドブレス』ッ!」

 

「ギャンッ!」

 

 

 土の初級魔法を風の初級魔法で乗せて、飛びかかってきた初心者殺しに向けてやったのである。突然、真正面から襲いかかって来た砂粒の直撃を受けた初心者殺しは、蹲った。

 

 そのまま、目が見えないながらもこちらに向かって威嚇をしてきた。さて、ここからが私の秘奥義の炸裂である。逃げ走っている最中に詠唱は済ませているので、後は使用するだけだ。

 

 

「フシャーッッ!?」

 

「ちょっ!? えっ? ええっ!?」

 

「い、今のうちに逃げるぞっ……! って、あれ? カズミは!? カズミはどこに行ったんだ!?」

 

 

 唐突な出来事の連鎖に理解できていないテイラーたちを尻目に、光の屈折で透明になった私は潜伏スキルを使用しながら、屈み込む初心者殺しの背後に回り込む。

 すると、ちょうどそのタイミングで黒い獣は視界が回復してしまったようだ。私は急ぎ、剣を構える。

 

 

「フシャーッッッ!!」

 

「やばっ!?」

 

 

 きっと鬼の形相でテイラーたちを睨みつけているのだろう。初心者殺しは怒りによって身体が震えていた。

 

 その隙だらけの初心者殺しの肛門に私は、自身の剣をねじ込んだ。

 

 そう、卑怯な攻撃、不意を突いた致命の一撃(・・・・・)

 死にゲーにおいて、誰もが使用する最強のオトモ攻撃、『BACKSTAB(バックスタブ)』。

 

 

 

 通称、バクスタである。

 

 

 

 

「ガギャッー!? ガ……ガガッ……ッ!?」

 

 初心者殺しの断末魔が途絶えるまで、私は油断することなく剣先をぐりぐりしながらねじ込む。挿入箇所から多量の血潮が飛び出してきて、私はびしょ濡れにされるが、容赦はしない。

 

 そうして、初心者殺しが、本当に沈黙してくれた所で、ようやく私は安堵する。申し訳ないが、初心者殺しの亡骸を足蹴にして、剣を引き抜いた。

 そんな中、何が起こったのか、未だ理解できていないテイラーたちは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、汚れちった……て、てへっ」

 

 

 そのため、私に出来たのは甘えた声で誤魔化すことぐらいでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もちろん、この後ものすごい詰問されました。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 初心者殺しを仕留めた私たちは、街まで続く小川の近くで休息を取っていた。

 そして、現在私はリーンに顔についた血を取ってもらっていた。彼女は、小川の水を近くにあった桶で汲み取り、自身の服の一部で拭き取ってくれる。

 

「よし。もう顔の返り血は、ほぼ取れたよ?」

 

「ありがとうリーン」

 

 そんな優しい女の子に私はお礼をした。彼女は、照れ臭そうにえへへと笑うと抱きついてきた。

 私の服血塗れだから、くっつかない方が……え、気にしないの? あ、ほら、服に染み付いちゃってるよ!? え、ほんといいの? よくはないよね!? ……そっかぁ。え、今度一緒に? ……んー、お金に余裕ができたらいいよ?

 

 ――街まではまだ少しある。

 だが、私たちはのんびりと焚き火を囲んでいた。それは、初心者殺しを討伐した安堵に皆が浸っていたからだ。

 

 

「……にしても、まさかカズミが光を屈折させる上級魔法まで覚えてるとはな。俺は驚いたぞ?」

 

 リーンと戯れていると、燃える薪の世話をしてくれていたキースがニヤケ笑みで呟いた。それに同意するようにテイラーも、首を縦に振る。

 

「一体誰に教えて貰ったんだ?」

 

「えーっと、あの子……んーと、えーと……誰だったかな?」

 

 テイラーの疑問に答えてあげたいが、頭の片隅から出そうで出なかった。なんか、黒髪で目がめぐみんのように紅かったような……だけど、身体は私と大差ないくらいにデカかったようなぁ……うーん、だめ、思い出せない。

 そうして、私があれじゃないこうじゃないと考える人になっていると、

 

 

「……ふっ……、ふふっ……。ふへへへっ……」

 

 

 キースが、抑えきれないといったようにこみ上げてくる感じの笑いをし始めたのだ。

 え、えっ……? どうしたの? 頭打った? 大丈夫?

 しかし、私の心配は無意味なもので、キースに釣られた様に。

 

 

「くっ……くっ、くっくっくっ……」

 

「あはっ……あははははっ!」

 

 

 いつの間にか私も含め、焚き火を囲んだ皆が笑っていた。

 

 

「ねぇ、『ライト・オブ・リフレクション』まで使えちゃうなんて、カズミはすごいよ! ねぇ、本当にパーティーに入ってよ!!」

 

 リーンが私のお腹に両腕を回して、ギューと力強く抱きついてきた。初心者殺しの返り血がベッタリ付いてしまっているが、本当に大丈夫なのだろうか? 絶対生臭いよね? ……帰ったら、これは捨てよ。袖も片っぽないし。

 私はそんな上機嫌なリーンを抱き返しながら、テイラーたちの方に目をやる。

 

 

「まったくこんな冒険者がいてたまるかよ! うひゃひゃひゃっ! あー、腹いてえっ! 俺もダストよりもカズミに居て欲しいって思っちまったもんな!」

 

「まさか初心者殺しまで一人で倒しちまうとは……。こればっかりは俺もカズミがパーティーに欲しいって思ってしまったぜ」

 

「やめろぉ……急に褒め始めるのは……」

 

 

 すると彼らは口々に私を褒め始めた。それは、少し……いや、かなり、恥ずかしかった。私は褒められ慣れていないからだ。恥ずかしいことに自分の頬が熱くなっていくのを感じる。

 そんな私をニマニマとした目で見てくるリーンに、

 

 

「あーほんとカズミがパーティーに欲しい! ダストとかいうゴミなんてもういらないよー! ねぇ、カズミ、冒険者カードちょっと見せてよ!」

 

 

 そんな軽いお願いをされたので、私は言われるまま、彼女にカードを差し出した。

 

 

「あ、知力と魔力が人並みより高いねー! 他のステータスは、え、生命力低すぎるよ……大丈夫これ? って、高っ!? カズミ幸運値だけ、超高いっ!!」

 

 リーンの言葉に、二人もどれどれとカードを覗く。

 

「うおっ、なんじゃこりゃ!?」

 

「お、おい、今回こんなに都合よくクエストが上手くいったのは、カズミの幸運のおかげじゃねぇか? お前ら、拝んどけ! 幸運の女に拝んどけ!!」

 

 

 テイラーの言葉に、キースは私に手を合わせ拝み始めた。リーンは変わらず汚れた服を気にせず、私に引っ付いていた。

 是非とも皆やめてほしい。絶対幸運なんて関係ないもん! 私が幸運だったら、そもそもこの世界に転生してないはずだもん、うん。

 

 

「や、やめなよ……見苦しいよ……。そんなことより、コーヒーの粉だけ私持ってるんだよね。どう? 綺麗な水もあるし、趣のある火だってあるしさ」

 

 

 だから、私は照れ臭さを隠す様に、三人に笑いかけながら、マグカップを取り出した。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 冒険者ギルドに帰ってきた頃には、時刻は既に真夜中を迎えていた。ゴブリン討伐の報酬に初心者殺し討伐を上乗せした報酬も貰うために私たちは来たのである。

 あの後、結構のんびり過ごしちゃったこともあり、街中は人通りも少なく、ギルドからもいつもの喧騒さが感じられなかった。

 

 

「着いたああああっ! ねぇ、カズミ? 臨時でたまになら、また一緒にクエスト行ってくれるんだよね?」

 

「うん、逆にリーンたちはいいの?」

 

「臨時でも構わないよ! あー今日は本当に大冒険した気分だねー!」

 

 

 リーンの喜ぶ声を聞きながら、私たちは笑いながらギルドのドアを開け――

 

 

「ぐずっ……。ふぐ……、ひっ、ひぐぅ……! あっ……、ガ……ガズミっっ……!?」

 

 

 見慣れた光景が目に入ったので、私は勢いよくドアを閉めた。

 

 

「うわああああん! カズミ、カズミしゃん……!! あ゛ああああ!!」

 

 すると、閉められたドアからアクアが飛び出してきた。そして、そのまま私に縋るように抱きついてくる。

 

 あぁ……もう、鼻水が……いや、もうこの服捨てるからいっか。それよりも隣にいるテイラーたちの視線が痛い。そ、そうなんですよ、これが上級職パーティーの実態なんですよね……。

 

 困惑する表情を浮かべる三人に、私は苦笑いをした。それから、抱きつく、アクアの……ん? なんかこの子頭に歯型ない? ……ま、まぁ、いいや。私はアクアの背中をポンポンと叩いてあげながら、冒険者ギルドに入ると――

 

 

「いや、賠償金払えといわれても金が……あぁっ!? お前らようやく帰ってきてくれたのか!? なぁ、俺の話を聞いてくれよ!!」

 

「とりあえず、アクア離れて? ほら、私返り血でいっぱいだから。ね?」

 

「やだぁぁ……ヒグッ!」

 

 

 あの金髪のダストという男が疲労と焦燥感に満ちた顔をして、助けを請うてきたのだ。彼の隣では、恍惚した顔のダクネスが憔悴した顔色のめぐみんを背負っていた。

 私は彼の話を無視して、アクアに離れるようにお願いする。が、泣きじゃくる彼女は聞いてくれる様子はなかった。

 

 

「頼むよ! 聞いてくれよ!? 聞いてくれよ!? 俺が悪かったから聞いてくれっ!! いや、目的地に着いて、まず各自がどんなスキル使えるのか聞いたんだ。で、この子が爆裂魔法使えるって言うもんだから、そりゃすげーって褒めたんだよ! そしたら、我が力を見せやろうとか言い出してな? な!? 全魔力を込めた爆裂魔法とやらを、いきなり何もない草原にぶっ放したんだよ!? 頭おかしすぎねえか!?」

 

 

 私が無視を決め込んでもダストは半泣きで訴えかけてきた。私はアクアを宥めている風を装い、聞いていないふりをする。

 

 

「おい、聞いてくれって! そしたら、目的の一撃熊が突然現れたんだよ!? いや、そりゃあそうだろうよ!! 目的地で標的の近くに撃ったんだもな! そりゃあ、来るよな!? そしたら、その元凶の魔法使いはぶっ倒れるわ、逃げようって言ってんのにクルセイダーとアークプリーストは突っ込んでいくわ、それで、挙げ句の果てに……」

 

「はいはい、泣き止んでアクア? 私がご飯奢ってあげるから、ね? よし、じゃあ皆、まずはご飯でも一緒に食べよう。友達になれたお祝いをしよっか?」

 

「「「おおおおおおっ!!」」」

 

 

 私の言葉に賛同するように、テイラーとキース、リーンの三人が喜びの雄叫びを上げてくれた。

 あ、ダクネスたちもおいでよ。え、いいよいいよ。今日は私が奢ってあげるからさ。え? カズミなんか機嫌いいですねって? いーや、そんなことないと思うよ? ほら、お腹空いたことだし、ご飯食べよ食べよ?

 

 

「待ってくれ! 謝るから! 土下座でも何でもするから、無視をしないでくれぇっ!? 助けてくれっ!!」

 

 

 本気で泣き始めるダストを冷めた目で流し見し、

 

 

「今日一日は私は、テイラーたちのパーティーメンバーですので、あなたのことなんて知らないです。それじゃ、頑張ってください」

 

「待って! 待ってくれ、カズミちゃん!? カズミさまぁ……!! 今朝のことは謝るから許してください! み、見捨てないでぇっ!!」

 

 

 私は皆の後を追い、ギルドの酒場へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 あぁ……今日はほんとに素晴らしい一日だったよ……!

 

 

 

 

 

 

 ――と、このロクでもないはずの世界に少しの感謝をしながら

 




次回:多分書く……多分書きます。ネタは思いついてます。完璧な形になってるのが二つほど。
 ただ……そろそろ、『腐れ童貞ヤンキー』の方もせめて三章を終わらせないと……良いところで止めちゃってますし……。なので、僕がまたほのぼのしたくなったら書くと思うので、気長にお待ちください。

 今回も読んでくださった方々ありがとうございます! 感想など頂けると嬉しいです!!


 ここから下は設定集ですので、読みたくない方は飛ばしてください。

カズミ:人並みより知力と魔力が高い設定ですので、上級魔法の一つである光の屈折魔法を覚えることができている。そのため、潜伏スキルとライト・オブ・リフレクションを合わせることで、致命の一撃「バクスタ」をすることが可能になった。バクスタされた相手はけつの穴を鍛えていない場合、死ぬ。

ライト・オブ・リフレクションをカズミに教えてくれた人:黒髪で、めぐみんのような赤い目をしているそうだ。しかし、めぐみんと比べるとかなり色々と大きいらしい。一体誰なのだろう……?(すっとぼけ)

 ここまで読んでくださった方々誠にありがとうございました! 次回はネタはまだまだ5つほどありますが、あんまり期待せずにお待ちください!! ありがとうございました!!
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