このヒキニート(女)にも祝福を!   作:オンライン2222

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 意外に今週で3本も投稿することができました。あとランキング20位にランクインしてました。
 これも感想書いてくださった方々、評価してくださった方々のおかげです。ありがとうございます、モチベMAX MAXでした。
 でも、さすがに今週はもう無理です笑。本当に本当の今週はこれがラストですので、お願いいたします笑
 そんなことよりも、アルカンレティア行ったら皆さんは何します? 僕はもちろん混浴にい(以下略)


この素晴らしい旅に祝福を!⑶

 

 

 

「来たっ! 来た来た来た来たぁ!! 今度こそは、今度こそはもうダメだ! あぁ、ぶつかるうぅ!!」

 

 両手足を拘束され、膝立ちをするダクネスに、頭を低くして突撃してきた走り鷹鳶が、そのまま突っ込み激突する……と思われた瞬間に、背面跳びの体勢でダクネスの上スレスレの位置を高速で通過していった。

 そして、それが連続して行われたのだ。

 こちらに駆ける走り鷹鳶は、ダクネスにぶつかる寸前でどんどんと彼女を飛び込えていったのである。

 

 

「カズミ!? これは焦らしプレイの一環なのだろうか!? このギリギリでのお預け感が堪らん……! なんて事だ、私の体の上を次々と発情した雄達が通り過ぎていく……!!」

 

 

 その走り鷹鳶の行動に、ダクネスは焦れてモジモジとしながら、理解したくない言葉を呟き、わざわざこちらへ報告をしてきた。

 ……やめてほしい、人目もあるのだから、是非ともやめてほしかった。

 しかし、一応はパーティーメンバーの一人である彼女に怪我をさせるわけにもいかないので、

 

「アクアやって」

 

「『ブレッシング』!」

 

「あぁ……!? お構いなく……!」

 

 私は隣のアクアに指示して、一時的に運が良くなる支援魔法『ブレッシング』をダクネスに掛けさせた。

 それに対して、絶体絶命のはずのダクネスが何か抗議した気がするが、私は一々気に留めない。

 褒めてとばかりに、近寄ってくるアクアを雑に「すごいすごい、ありがと」と褒めて、現状を打開するために少しずつでも、

 

「『狙撃』っ!」

 

 弓で確実に走り鷹鳶を仕留めていく。

 そうして少しずつ仕留めていこうと他の冒険者たちも魔法を唱えて応戦し始める。

 

「『ライトニング』!」

 

「『フリーズガスト』!」

 

「『ファイアーボール』ッッ!!」

 

 迫り来るモンスターへと、次々と魔法が直撃した。

 しかし、そこで仕留めても、速度が出てしまっているため、走り鷹鳶たちは慣性の法則に従って、私たちの方に転がってきた。

 

「あぶなっ!?」

 

 私が狙撃スキルで倒した走り鷹鳶も例外なく、その亡骸を突っ込ませてきたので、私は紙一重でなんとかそれを避ける。

 そして、周りを見渡せば、走り鷹鳶の亡骸によって、冒険者や馬車は少なくはない損害を受けていた。

 さらに、それだけではなく、悪いことは続く。

 

「えぇ……まだ来るつもりなの……?」

 

 生き残った走り鷹鳶たちは、速度を落とさず、そのまま大きく旋回すると、再びこちらに真っ直ぐ向かってきたのである。

 その光景に、私も他のみんなもうんざりした。

 

 

「――よしっ!」

 

 しかし、ただ一人だけ場違いに喜んでいる子がいた。

 その頭がお花畑なお嬢様の眉間に、私は今すぐ矢を射ちたい想いに駆られたが……何とかそれをグッと堪える。

 

 そうして、モンスターの標的にされ、頬を真っ赤に染めて瞳を輝かすダクネスを視界に入れていると、私はある考えがふと閃いた。

 考えが纏まれば、後は悠長にしている余裕はなかった。私は御者台に座ったまま不安そうに成り行きをみる御者のおじさんに、声を掛ける。

 

「ねぇおじさん! この辺りに崖とかはない!?」

 

「そんなもんないよ! あるのは、雨除けに使える洞窟くらいだ!」

 

「……洞窟……? うん、そこでいい! そこでいいから連れてって!! めぐみん、アクア、急いで馬車に乗って!!」

 

 私は周りに指示を出し、走り鷹鳶の標的のダクネスの元へと駆け出す。

 そして、身動きの取れないダクネスを馬車に乗せるため、動かそうとしたが……、

 

 

「うぐぐぐっ……だ、ダメ……重すぎてピクリとも動かない……!」

 

「お、重すぎてとか言うな! ちゃんと私の鎧が重すぎてと言い直せ! ロープか何かで私を馬車に縛り付けて引っ張ってくれて良い! 緊急事態だ! 仕方がない! 遠慮するな! 仕方がないのだから!!」

 

「……は?」

 

 

 無理だったため、ダクネスがとんでもない事を口走り始めた。

 

 この子は本当に何を言っているのだろうか……?

 あなたが提案したそれは、市中引き回しの刑と呼ばれる過去に私の故郷で死刑囚に用いられてた処刑法なんだよ?

 

 さすがの私もそれは鑑みられず、何とかしてダクネスを動かそうと彼女のポニーテールまでも引っ張るが、それでも無理であった。

 私が貧弱な体であることもあるが、いったいこの子はどんな筋肉をしているのだろうか?

 そして、

 

「お嬢さん、急いでくれ! もう限界ですよ!」

 

 とうとう切羽詰まった状況となってしまった。走り鷹鳶の群れがもうすぐそこまで迫ってきていたのだ。

 馬車を近くまで寄せてくれた御者のおじさんに感謝はしつつも、私はもう考える事をやめる。

 

「あぁもう知らない!! どうなっても知らないからね! ただ、痛かったら、すぐ言うんだよ!! わかった!?」

 

 罪悪感や、道徳など知った事ではない! 私は期待の眼差しを送ってくる変態の希望通りにしてやることにした。

 しかし、私の葛藤を知る由もなく、ダクネスは身体を熱らせながら、これから自分の身に起こる蛮行に期待をしていて……!

 

 

「あぁ……! 縛られたまま、引き摺られてしまうんだ……! そして、そんな状態の私を追いかけてくる、飢えたオガァッ……!

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

  

 

 

 本当に私の心配を返してほしい。

 

 馬車に牽引されたダクネスは、官能的な声音をあげながら、地面を楽しそうに泳いでいたのだ。まるで活きのいい魚である。

 

 ただ時折、いい、いいぞっ! この物扱いされてる感じ、などと私が発案したような台詞を吐くのだけには殺意が湧いた。が、今はダクネスを繋げたロープを断ち切り、彼女を荒野に置き去りにする心の余裕はない。

 

「お嬢さん! このままじゃ追いつかれますよ!?」

 

 そして、御者のおじさんの悲痛な叫びを耳にした私が馬車の窓から後方を確認すると、走り鷹鳶がもうすぐそこまで迫ってきていた。

 

 やばい、やばい……! 爆走する馬より速いとか速すぎない!?

 

「まずい、まずい……! おじさん、洞窟は……!?」

 

「まだだ!!」

 

「もうダメだ……。うぅ……しょうがない、ダクネスにはここで犠牲になってもらおう」

 

「あなたは鬼ですか!?」

 

 鬼じゃないよ? 女の子だよ? 花も恥じらう乙女だよ?

 ……あ、コラ、邪魔しないで!? ダクネスだってここで侮辱される末路を辿るのが本望だと思ってるよ?

 ほら、見てあの幸せそうな顔……あ! ちょっと私のナイフ返してよ!?

 

 そうして、絶体絶命の状況の中、錯乱した私とめぐみんがキャットファイトをしていると、

 

 

「『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 突然、馬車の後方に巨大な真っ黒な沼が出現し、先頭を走っていた走り鷹鳶の群れの一部が、そのまま沈んでいったのだ。

 その魔法を発動してくれたのは、ポンコツ店主ではなく、頼れるリッチーのウィズであった。

 追いつかれると即座に判断して、魔法の準備をしてくれていたようだ。

 

「助かったよウィズ! ありがと!」

 

 そんなとても素敵なお姉さんにお礼をしつつ、未だダクネスを追ってくる走り鷹鳶の群れの数を少しでも減らすため、私も迎撃するための準備をする。

 

 

「『ヒール』、『ヒール』ッ! ダクネス頑張って!」

 

「カズミ! 洞窟が見えてきました! 私の方は、いつでも魔法が撃てますよ!!」

 

「わかった! じゃあ、私が合図したらお願いね! おじさん! 洞窟が見えたら、そのわきに馬車を止めて! 後アクア! 私にも筋力増加の支援魔法だけお願いっ!!」

 

 そして、それぞれに指示をしてから、私は馬車の窓から身を乗り出し、狙撃がしやすいように馬車の屋根上へと移動する。

 それから、弓に矢を番えて、

 

「特別サービス、残りの矢全弾上げる! 狙撃狙撃狙撃狙撃狙撃ッッ!!」

 

 残りの本数を気にせず、次々と矢を放った。

 それは迫り来る走り鷹鳶の頭部に直撃をしてくれる。

 こんな便利なスキルを教えてくれたキースには今度一杯奢ってあげよう。

 

 そうして、私は全ての矢を惜しみなく撃ち放ち、数匹の走り鷹鳶を絶命させた。が、それでも群れの勢いが弱まることは決してなかった。

 

 

「「「ピィーヒョロロロロロッッッ!!」」」

 

 

 なんなら、さっきよりも勢いが増しているような気がした。

 走り鷹鳶は、絶命し転がってくる仲間を避けつつ、こちらに走りながら翼を広げて、甲高い威嚇までする始末であったのだ。

 

 そして、その叫びで私はようやく彼らが走り鷹鳶と呼ばれる理由に納得ができた。

 今のところ、頭だけが鷹のダチョウだったからね。と、呑気に私がスッキリしていると、洞窟がやっと目前まで迫ってきてくれていた。

 

「お嬢さん! しっかり掴まっていてくださいよ!!」

 

 そして、御者のおじさんの言葉を合図に、全員が手近な物に掴まる。

 それから、馬車はドリフトをしながら、洞窟の脇へと急停車をする。

 

 後方には、怒りで速度を上げた走り鷹鳶が土煙を上げながら、もうすぐそこまで迫っていた。

 私はアクアの支援魔法で筋力がかなり強化されているので、屋根上からそのままダクネスのいる場まで飛び降りる。

 

 

「よいっしょっ……と!」

 

 

 続いて、強化された腕力でダクネスと馬車を繋いだロープを引き千切ると、一回転し遠心力を高めてダクネスを洞窟前へと放り投げた。

 

 

「あぁぁぁ……!? 悪くない! 悪くないぞカズミッ!! 本当に何故お前は雄じゃないのだ!? 散々ひきまわっじ……!?

 

 

 ゴキャッ!と。

 頭から地面に激突したダクネスは、洞窟前にて静かになった。さすがの彼女でもかなり痛かったようだ。

 それでも恍惚とした様子なのは、もはや一周回って素晴らしかった、絶対に褒めはしないが……。

 

 また、同時に、何とか間に合ってくれたようだ。

 

 走り鷹鳶の群れは、倒れ伏すダクネスをギリギリで躱しながら、行列を為して、どんどんと洞窟の中へと突っ込んでいき……!

 そして、最後の一匹が洞窟の中へと踏み込んだその瞬間に、私は詠唱を済ませているめぐみんに指示を出した。

 

 

「めぐみん! やって!」

 

「『エクスプロージョン』ッッ!!」

 

 

 一筋の閃光が走り……!

 

 全てを破滅へと導く、必殺の爆裂魔法が雨除けの洞窟へと降り注いだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽は沈み、物影も何もない吹きさらしの荒れた土地の中、

 

「さあ、どうぞどうぞ! 遠慮はいりませんからね!」

 

 私たちは商隊の方達から、高待遇な扱いを受けていた。

 冬明けとはいえ、まだ季節は冬の名残があり、夜風はそれなりの肌寒さを感じるはずなのだが……。

 何故か、何故か! あの後、英雄として扱われた私たちは、多くの焚き火に囲まれた一番優遇された真ん中の位置を頂き、とっても身体は温まっていたのだ。

 

「良い部分が焼けましたので、ぜひ! ぜひ召し上がってください!!」

 

「い、いえ、大丈夫です……大丈夫ですから、気にしないでください」

 

 心だけはまるで雪山に置いてかれたかのように、冷え冷えであったが……。

 そのため、私は、出来立ての何かのお肉を持ってきてくれた商隊のリーダーのおじさんに謙虚に接していた。

 ……のだが、中々にいい体格のおじさんは何をご謙遜を、と笑うと

 

「しかし……お見事でした! まさか、爆裂魔法をお使いするほどの大魔法使いがおられたとは! しかも、あれだけの負傷者を簡単に治療してしまったアークプリースト様! 走り鷹鳶の群れに一歩も引かず、それらを一身に引き受けた勇敢なクルセイダ様に、上級魔法である泥沼魔法での咄嗟の足止め……! あ、お嬢さん方どうぞ! どうぞもっとお食べください」

 

 芝居が掛かっているのではないかと疑いたくなるほどに、私たちを持ち上げる言葉を並べてくださったのだ。

 ……が、喜べるわけがなかった。私の仲間のクルセイダーが呼び寄せた原因であるからだ。

 にもかかわらず……! 私以外の面子は……!

 

「いやいやー、それほどでもあるわよねー! だって、私女神ですものぉー! あ、お酒のおかわりお願いしまーす!」

 

「ふっふふ、ようやく時代が私に追いついたようですね。あ、すみませんー、お肉のおかわりお願いします!」

 

 このバカどもがっ……!!

 

 自分たちが原因の種だと知っているにも関わらず、何も気にせず尊大な態度で歓待を受け入れていたのだ。いや、受け入れすぎていた。

 そんな心臓に毛が生えている彼女たちの態度に、私は背中に冷や汗がブワァッと溢れ出る。

 

「す、すみません、すみません……! うちの馬鹿たちがご迷惑をお掛けして本当にすみません……!!」

 

「いえいえ、何をおっしゃいますか。あなた方は我々の救世主なのですから! そんな遠慮する必要はないんですよ? あなたも! あなた様もお若いお嬢さんなのに、軍師のような見事な判断で敵を洞窟へと導いたその機転! いや、お見事でした! さぁ、どうぞどうぞもっと召し上がってください」

 

 ほんとに勘弁してください……。

 ……私たちのせいなんです。とは、後ろめたさから言えず、私は肩を縮こませ、顔を俯かせた。

 しかし、

 

「心ばかりのお礼です。どうぞどうぞ!」

 

「い、いっやいやいや! ほ、本当に結構ですから!? それよりも他の冒険者の方に支払ってくださいっ!!」

 

 さすがに護衛の報酬を払うと言われてしまえば、慌てて止めるしかなかった。

 私は両腕で受け取らない姿勢を取り、揺れに揺れた瞳で商隊のおじさんと目を合わせる。

 

 ひやぁ……! ボロが出そう……!!

 

 

「何を言われるのですか……? 走り鷹鳶の群れを倒したのはあなた方ではないですか!」

 

「ぼ、冒険者であれば……! お、女子であってもた、戦いに参加するのは当たり前ですよ!!」

 

 

 そして、私は震えた言葉を紛らわすため、両拳を握り込み、少しでも力強く主張をした。

 マッチポンプでしかないこの状況、これで報酬を受け取るれるほど、私の心は錆びていない。

 だが、このリーダーのおじさんは何故か瞳に涙を溜めて、感動で身を震わせると、

 

「お若いのに……何という方だ! この世知辛い世に、まだあなた達の様な本物の冒険者がいたとは……!! ク、クゥゥ……わ、私にもあなたほどの年頃の娘がいましてね……! ほんと、ほんとに! お身体には気をつけてくださいね……!」

 

 

 ……そんな労りの言葉を掛けられてしまった。

 

 

 や、やめてください。

 それは、両親を思い出して、罪悪感でとても死にたくなりますので……! ほ、本当にやめてください!

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、続いては! そこの幸薄そうな子から噴水が吹き上がりますよー!」

 

 アクアの言葉とともに、他の冒険者たちからの喝采が聞こえてくる。

 彼女は他の焚き火の元で何やら宴会芸を披露しているらしく、なぜかそれにウィズまで付き合わされていた。

 アクアに何をされたのかわからないが、ウィズは真っ赤にした顔を両手で隠していたのだ。

 

 ……お気の毒に。

 

 その光景を流し見しつつ、私は傷だらけになってしまったダクネスの鎧の修理をしていた。

 人体から鳴ってはいけないゴギャッという音に対しては、本人は至って軽症であったため、ダクネスは現在私の隣で、自分の鎧が修理されるのをジッと見つめてきていた。

 そして、何故か……

 

「あの……すごくやりにいくんですが……」

 

 めぐみんまでもその作業を私の隣で眺めていたのだ。

 そのため、私はヤスリを磨く手を止め、ジッと見守る彼女達にボソッと苦言を漏らした。

 

「いや、器用に修理をするものだなと思いまして」

 

「……うん、なんだか、自分の鎧が目の前で綺麗になっていくのを見ているとワクワクするな」

 

 しかし、めぐみんに続き、ダクネスまでもそんな事を言ってきた。が、今回は純粋に気兼ねのないお褒めの言葉であったため、私は素直に彼女達の言葉を受け取る。

 

「商品開発のために習得した鍛治スキルが役立ってよかったよ……。まぁ、あとは昔から手先は器用だったからね」

 

「そういえば、カズミは料理も得意でしたね。普段ぐうたらの癖に変に家庭的な一面がありますよね」

 

「ぐうたらは余計だってーの」

 

 料理も裁縫も……いい女になるために、物心というか、あの糞野郎と結婚の約束をした日からずっーと練習してたからね。

 まぁ……その意味も……っていかんいかん! そんなとうの昔の黒歴史にいつまでも浸る暗い女に私はなりたくはない!

 そうして、私は残りの工程を素早く済ませ、ダクネスに修理した鎧を渡してあげる。

 すると、彼女はパァーッと顔を輝かせ、愛らしい笑顔で、

 

「すまない、ありがとう」

 

 感謝をしてくれた。

 それが少しだけむず痒くて、私は彼女からそっぽを向いてしまう。この世界に転生して、かなり経つが、未だに正面からお礼を言われることに私はまだ照れ臭さを感じずにはいられなかったのだ。

 そして、ダクネスから視線を逸らした私の先には、

 

「ナーウ」

 

 とても愛嬌のある声で鳴く、黒い毛玉がちょこんと座り込んでいた。

 

「え、ちょむ……!?」

 

「はい、連れてきました」

 

 それは、我が家の飼い猫(?)である、ちょむすけであった。

 まさか連れてきているとは思わず、私は目を大きく見開きめぐみんとちょむすけを交互に見た。それから、小さく嘆息し、ちょむすけを自身の手の内に手招きした。

 

「猫って……お風呂嫌いじゃなかった?」

 

「この子は他の子と違って、お風呂に入るのが好きなんですよ。ですから連れてきました。一人だけ置いていくのもかわいそうですし」

 

「まぁ確かに置いてくのはかわいそうだよね……って、あ、こら……ちょむ? 私ももう眠たいからそこで寝ないで?」

 

 私の組んだ足の中で丸くなる黒猫にそうお願いするが、ナーウと小さく鳴かれただけで聞く耳は無さそうであった。

 そんな勝手なちょむすけに私は呆れつつも、その黒毛を繊細な手つきで優しく撫でてあげていると、

 

「……む、カズミは本当にちょむすけには甘いですね」

 

 何故か隣にいる紅娘が嫉妬の炎を燃やしていた。

 めぐみんは頬をぷくーっと膨らませて、その真っ赤な瞳をギラギラと輝かせていたのだ。

 

「はぁ……ほら、ちょむ? あんたのご主人様が嫉妬してるから行ってあげな?」

 

 それに呆れた私は、膝上で丸まったちょむすけに片手で促す。

 すると黒猫は仕方ないと一度短く「ナーウ」と鳴くと、テクテクとめぐみんの足元へと歩いていき、今度は彼女の元で丸くなってくれた。

 

 ふむ、こいつは将来必ずたらしになるな。あざとい、あざとすぎる……まぁ、雌なんだけどね?

 あれ、つまりビッチ……? 私の敵?

 ……いや、いやいやいや、猫如きに私は何敵対心を燃やしてるんだろうか。

 ちょーダサ。と私が自分自身に嫌気がさしていると、

 

「……別にそういう意味ではなかったのですが」

 

 未だにめぐみんは不服そうに唇を尖らせていたのである。

 えぇ……本当に謎なのだが……。何が気に入らなかったのだろう?

 そうやって私が訝しんでいると、めぐみんは小さく鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまった。

 

「……?」

 

 そのため、私は頭に疑問を浮かばせる事しか出来なかった。

 隣にいるダクネスに助けの目線を送っても彼女は困ったように頬を掻くのみであったため、役立たずであった。

 それを伝えると身体をピシリと固めてしまったが、今回の事の騒動はこの子が原因なので、私は謝るつもりはない。

 ま、とりあえず、めぐみんも本気で怒っているわけでもないので、私は追求せずに放っておくことにする。

 

 そうして、もう寝ようかなと私が横になる中、アクアが宴会芸を披露している焚き火の方から歓声が聞こえてきた。

 

「もう一度! アクア様、今の芸をもう一度!!」

 

「金なら払う! なので、ぜひもう一回お願いしたい!」

 

 耳をすませば、これだけの賞賛を商隊の方たちが興奮気味に言っていた。

 その一つ一つの歓声をアクアは満足そうに胸を張っていたが、絶対にお金は受け取らないのが彼女らしい。

 おひねりはやめてください、と言うアクアを横目にしながら、私はそろそろ寝るねとめぐみんたちに告げて瞼を閉じる。

 

「……あ、寝るのはいいですが、いつでも起きられる様にはしていてくださいね」

 

 ……と、そんな事を言われたが、疲れから私は気にすることなく夢の中へと意識を投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んっ」

 

 ――闇夜。

 何かの物音で目が覚めると、そこには真っ黒な空間が広がっていた。

 見張りの冒険者たちはいるものの、彼らの持つ松明が少しの光源となっているだけで、月が隠れてしまっていたからだ。

 隣を見ると、めぐみんとウィズがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

 アクアとダクネスの姿が見えないが……私はなんだかすごーく嫌な予感がしてきた。

 

「ねぇ、起きてめぐみん。ウィズも起きて……!」

 

 そのため、私はめぐみんの肩をユサユサと揺する。が、彼女は気持ちよさそうに涎を垂らしているだけで、反応が何一つない。

 

 ……いらっ。

 

「……めぐみん、起きて。起きてくれないとこの前の仕返しするよ? いいの? いいんだね? よしっ、あんたの顔に頭のおかしなロリ子兼知能がゴブリン以下って書くからね? いいんだね?」

 

「いい訳あるか。何をしているのだお前は」

 

「うわぁっ!?」

 

 し、心臓に悪い……!?

 突然背後から声をかけられた私は、素っ頓狂な声を荒げてしまった。どうやら、ダクネスは私の隣で仮眠を取っていたようだ。

 振り向けば、彼女は呆れた顔で私に顔を近づけてきていた。その端正な顔立ちが羨まし……げふんげふん、そんな事を言っている場合ではなかった。

 私はダクネスが目視できるように彼女の目前で指を使って軽くジェスチャーをして、意思疎通をとりながら二人で周囲の確認をする。

 

「……ん?」

 

 そうして、バリケード代わりの馬車にダクネスと寄ると、敵感知スキルに反応が走る。

 それと同じくして、見張りについていた盗賊職の冒険者も敵感知スキルに反応があったのだろう。彼は仮眠を取る人たちを起こすため、声を荒げた。

 

「おい、何かいるぞ! 全員起きろ!」

 

 その声に次々と冒険者や商隊の人が飛び起きる中、

 

「スピー……エクス、プロー……ン!」

 

 こんな状況でも眠っていられる大物がいた。

 

 こ、こいつ……。本当に油性インクで顔に落書きしてやろうか……?

 

 そんな大物なめぐみんに私は呆れつつも、彼女の身の安全を守るため、その場から千里眼スキルを発動させる。

 すると、バリケードの外側には結構な数の人影が夜の荒野に蠢いていた。

 

 

 え、野盗? でも、動きは鈍い……。

 

 

 そして、馬車上で見張りについていた盗賊職の冒険者が、とうとうバリケードの向こう側を確認するため、光源の松明を反応のある方に投げつけると……!

 

 

 そこには、灯りに照らされ蠢く、無数のゾンビがいた……!!

 

 

「「「うわあああああああーっ!!」」」

 

 

 松明に照らされた無数のゾンビたちは、ところどころ肉が剥げ落ちていたり、飛び出る目ん玉が腐っていたりと……うぇ、大分グロテスクであった。

 その姿が突然現れたので、私も含めて皆一様に悲鳴をあげてしまった。

 

 鎧のない状態ではあるが、ダクネスはこれでも聖騎士である。なので、私はこの場はダクネスに任せて、

 

「ここはお願い! 私はアクアを呼んでくるね!!」

 

 私はこういう時にはとても頼れるアクアを呼びに足を進めた。

 

 今こそ、皆さんに借りを返すとき……! 昼間はダクネスのせいで多大な迷惑をかけちゃったからね……!

 正直に言えないのが私の悪いところだけど、ここでイーブンにしてスッキリしたいのだ!

 そうして、私が暗闇の中、アクアは探そうと周囲に視線を巡らせていると……!

 

 

「ふわぁぁぁぁー!? 何事っ!? なんで私、目が覚めたらアンデッドにたかられてるの!? カズミ!? カズミはどこっ!?」

 

 

 酒瓶を抱いて寝ていたらしいアクアが叫声をあげていた。その彼女の周囲には、ワラワラと無数のゾンビたちが彼女を囲むように……。

 

 

 って、あれ? ……これって、も、もしかして……。

 

 

「寝込みを襲撃なんて、やってくれるわねアンデット! ――迷える魂たちよ、眠りなさい! ――『ターンアンデッド』!」

 

 

 アクアがそう叫び、両手を構えると巨大な蒼の魔法陣が展開される。そして、そこから邪気を祓う聖なる光が解き放たれ……!

 

 

「「「ボエエエエエーッ!!」」」

 

 

 

 

 

ホエッー!?

「あぁ……!? しっかりしろウィズ!? だ、誰か……! ウィズが!」

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 アクアの放つ光に触れた、ゾンビは次々と浄化され……断末魔を上げながら昇天していった。

 その中に見知った人物の断末魔までも聞こえてしまった気がするが……今の私はそれを気にしていられる心の余裕がなかったのだ。

 私の心中に今あるのは、ただ一つ――

 

 

 

 ――すみません、という感情だけであった。なんなら、その感情に押しつぶされてしまいそうであった。

 

「すごい!? ゾンビを一瞬で浄化してしまうなんて!」

 

 しかし、それを見た人々は、瞳を輝かせ尊敬の眼差しでアクアに歓声を送る。

 

 ――す、すみません。

 

 

「あっはは、この私がいる時に出くわしたのが運の尽きね! さあ、片っ端から浄化してあげるわ!」

 

「なんて美しいプリースト様……! まるで女神みたい!」

 

「あのクルセイダー様のお連れの人だよ! あの方は!」

 

 

 ――す、すみません、すみません……。うちのアホどもが次から次へと……ほっんとにすみません……!

 

 

「ゾンビの襲撃なんて珍しい事もあるもんだが、丁度あのプリースト様が居合わせてくれてよかったな!」

 

 

 ――す、すみません……。ウチの馬鹿がいなかったら、多分このゾンビたちはわざわざ寄ってきませんでした。

 

 

「あ、カズミ! 無事でよかったわ。ねぇ、ねぇ? どう? カズミどう? 私、この旅の間、活躍しっぱなしじゃないかしら? これは私に報酬があってもいいと思うのよ。報酬はね、この旅の間、カズミは私とおんなじベッドで寝るってだけでいいわよ? ね、妥当でしょ?」

 

 

 全てのゾンビを浄化し終わるとアクアは、すぐに私の所へと駆け寄ってきては、こんな事を言う始末であった。

 ……アンデッドを呼び寄せる体質だから彼女に悪意がないことは分かっている。分かってはいるが、どうしようもない殺意を走らせてしまいそうであった。……が、堪える。

 そうして、堪えていると礼金をジャラジャラと持った商隊のリーダーのおじさんが私たちの元へとやってきた。

 

 

「いーやー、また助けられてしまいました! 今度こそは礼金を受け取って頂きますからー!」

 

「すいません! 絶対に頂けません!!」

 

 

 ……ので、私は泣きながらお断りした。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 ――翌日。

 

 昨日は様々なモンスターの襲撃があった事もあり、私は馬車の中で落ち着きもなくソワソワとしていたが……今のところは何一つ問題が起きる事がなかった。

 ガタガタと馬車は順調に道を進んでいき、そして……

 

 

「あ! カズミみて! みてみてあれっ!」

 

 

 隣のアクアに促された方を見ると、洞窟を超えた向こうの先には。

 

 

「ふわぁぁー!」

 

「ふふっ、そうよカズミ。ここが、水と温泉の都アルカンレティアよ!」

 

 

 言葉を失うほどの情景が広がっていたのだ。

 

 街は全体が青を強調した造りがされており、街を囲む山脈からは常に透き通った綺麗な水流が流れ出てきていた。

 そして、洞窟と街を結ぶ橋の下を流れる小川は、太陽の光を反射して、宝石のようにキラキラと眩く輝いていて、見るものの心を奪う美しさがあった。

 また、商店街へ進むと、そこでは金髪のエルフと図太く小柄なドワーフが何やら口論する姿が見られたりもして……正にそのファンタジーな光景に、私は……

 

「ね、ね! アクア! みてみ……っ、な、なんでもない……!」

 

 珍しく舞い上がってしまった。

 不思議そうに小首を傾けるアクアから目を逸らし、私は馬車の中の皆の様子を伺う。

 

「景色もアクセルとは全然違うな。……ん、空気もうまい」

 

「あれは名物のアルカン饅頭ですね。中々の美味と評判です。仕方がないので、帰りにでもあのぼっちにお土産として買っていってあげましょうかね」

 

 その美しい街並みに私だけではなく、みんな一様にテンションが高まっていたようだ。

 彼女たちもそれぞれ近くの窓から顔を出しては、流れるアルカンレティアの街を眺めていたのである。

 

 アクセルの街もいいけど……こんな美しい街があるなら、もっと前から色んな街に行ってみればよかったかも……。

 

 穏やかな空気に浸りながら、私はそんならしくないことを思った。

 そして、馬車が停留所に止まることを待ち遠しいとも思ってしまうほど、私の胸は高まったのだ。

 

 あぁ……いい旅行になりそう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、お嬢さん。良い休日を!」

 

「ありがとうございました! おじさんも気をつけてねー!」

 

 ここまで連れて来てくれた御者のおじさんは、私たちに一礼すると手綱を引いて、去って行った。

 それを私は感謝の言葉を伝えつつ、手を振って送り出す。

 すると、御者のおじさんも姿が見えなくなるまで、振り返し続けてくれた。

 

 本当にいい人であった。これからの旅も是非気をつけて欲しい、と心の底から思えるほどに。

 そうして、馬車の姿が見えなくなるまで見送っていると……

 

「ああ……。じゃりっぱ……! じゃりっぱが行ってしまいました……うぅ……」

 

 めぐみんが名残惜しそうにおかしな名前を反芻していた。

 

 ……。

 

 

 

 

 

 さては、この子あのレッドドラゴンの赤ちゃんにまた変な名前を付けたな……? 

 はぁ……元の飼い主さんはお気の毒に……。それにしても……

 

 

「ほんと綺麗な街だね……。住みたいぐらいだよ」

 

 

 街の神聖さにいつまでも私は虜になってしまっていたのだ。

 ダクネスが背負っているウィズが透明になってないか気にしながら、私は飽きることなく街の中を見渡す。

 

 そんな私の様子が気に入ったのか、何故かアクアが得意気に胸を張っていた。それから、彼女は自信満々にこう言い放ったのだ。

 

 

「そうでしょ? そうでしょカズミ? なんたって、この街は私の加護を受けたアクシズ教の総本山なんだからね!」

 

「……は?」

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……は?

 

 




 カズミちゃん、ようこそ楽園へ。きっと優しい女神様ととても紳士な司教様が旅先での最高の思い出を作ってくれますよ?(白目)

 今回も読んでくださった方々ありがとうございました! 感想など頂けると励みになりますので、もしよろしければお願いいたします!

 次回の更新は多分遅い……! 多分遅いですからね……! 数日中に投稿されるのは期待しんといて下さいね!! なるべく頑張りますけど!!

 
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