その戦い方は例えるなら舞踏が相応しいだろう。
海面を滑るように飛行し、セイレーンの艦隊から放たれる光学兵器や実弾をかわし、ビームマントでいなし、ビームレイピアで斬り払う。その姿に、遠方から見ていたZ23は思わず見とれてしまっていた。
「すごい…(私たちKAN-SENは艦…つまり、海での戦闘が基本となる。なのに彼女は空を飛んで、かつ数少ない光学兵器をあんな簡単に──)」
Z23が魅了されている中、ベルファストは砲弾の雨を抜け、スマッシャーに肉薄した。
「───ッ!」
スマッシャーはほぼゼロ距離で砲撃。しかし、ベルファストは華麗なステップとスラスターの調整で避けてみせ、あろうことか敵艦隊の十数メートル上空でホバリングしていた。
「ごきげんよう、セイレーンの皆様方。そして──さようなら」
ビームレイピアの光刃を消し、柄を左腕装甲のホルダーにマウントしたベルファストは背中のバスターライフルカスタムを抜き、それを分離させたバスターライフルと小型ライフルを構え、体を回転させながら引き金を引く。
一見乱射しているように見えて、その光弾は敵艦の主砲や重要機関を的確に撃ち抜いていた。無論、その対象はスマッシャーも含まれており、その黒い艤装は半スクラップ状態。もはや使い物にならないだろう。
「お覚悟をッ!」
両手の銃を組み合わせ、バスターライフルカスタムの一撃を放つ。
高出力で放たれた一撃はセイレーンの艦の装甲を難なく溶かし、跡形もなく消し炭にする。ベルファストは出力を維持した状態で回転し、次々に敵艦を破壊していく。
漸く射出が終わり、残るはスマッシャー一体。
ベルファストはバスターライフルカスタムを戻し、再びビームレイピアを抜く。
「これにてフィナーレでございます」
片翼を広げ、スマッシャーに突撃するベルファスト。武器を潰され、艤装がまともに機能しないスマッシャーに逃げる術など無く、ベルファストのビームレイピアはその首を焼き斬った。
爆発するセイレーン。後に残ったのは爆煙と爆炎。そして、それらを背にし、ビームレイピアを納刀するベルファストだけだった。
戦闘を終えたベルファストは未だに惚けているZ23の元へ向かった。
「大丈夫ですか、
「は、はい…」
「そうですか。お手を御貸ししましょうか?」
「い、いえ。大丈夫です。一人で立ち上がれます」
「なら、お早めに。間もなく到着するとの連絡が入りましたので」
「到着? 一体何が──」
Z23の問いかけを遮るかのように、突如辺りが暗くなる。恐る恐る振り返り、空を見上げてみれば、そこに
「な、何ですか、あれッ…!?」
「移動拠点ネェル・アーガマでございます。そして、改めて…
──ようこそ、Z23様。特殊艦隊ファイターズへ。我々はあなた様を歓迎いたします」
●●●●●●●●●
ベルファストに抱えられ、ファイターズの拠点兼母艦『ネェル・アーガマ』に乗せられたZ23はベルファストに案内され、ブリッジへと向かっていた。
Z23はベルファストの背を見て、その立ち振舞いに見とれてしまう。
(綺麗な人…顔に大きな傷があるっていうのに、それを隠そうとしていない。寧ろ堂々としていることでその傷跡が彼女をより一層輝かせている)
そう。ベルファストの顔左側には額から顎にかけて大きな傷跡があり、その性なのか、左右で目の色が違っていた。だが、そこには謎の美しさがあった。本来なら欠点とも言える部分を気にしているようには見えず、そんな彼女にZ23は劣等感を覚え、無意識に視線が右肩へ向き、そこから先が無い自分の体に対してより負の感情が募っていった。
Z23は『いけないいけない』と頭を振り、考えを他所に向けるため、窓の外へ視線を向ける。
(本当に浮いている。さっきの艤装擬きといい、ずば抜けた技術、まさか──)
「どうかされましたか?」
「すいません。まさかとは思ったんですけど、この母艦やあの艤装に──」
「おそらく、そのまさかでしょう。この母艦、及び私が使った艤装には一部だけセイレーンの技術を応用しております」
「……隠さないんですね。この艦隊はアズールレーン所属。つまり、レッドアクシズのようにセイレーンの技術を取り入れることはあまり良しとされない筈では無いでしょうか?」
「確かにそうでしょう。しかし、そうせざるえない理由があるのです──と、着きましたよ。この扉の向こうがブリッジで御座います」
スライド式の扉の前に立ち止まったベルファストは横にあるタッチパネルを操作し、入室許可を取る。
プシュウ…と音を立てて開く扉。その向こうに広がっていたのはSFアニメ等で見るような近未来的なブリッジだった。
饅頭たちが忙しなく操作し、休み無く稼働している左右に設置された幾つものディスプレイとコンソール。部屋の中央の大きな空中ディスプレイには近辺の海図は戦局、航路が示されている。そして、出入り口のすぐ近く。指揮官席には軍服を身に纏った中肉中背の男性が空中ディスプレイを操作しながら通信を行っていた。
「オッケー。任務は終了だ。今日は新人の歓迎会を行うから早めに帰ってこいよ。それじゃあ……さて。君が今日から配属される子かな?」
「はい。本日付けで当艦隊に配属されました1936A型駆逐艦の長女Z23と申します」
「よろしくな。ここの指揮官を務めてるエンドウだ。さっきはすまなかったな。本来なら港で合流すべきなのに、そのせいで君を危険な目に会わせた」
「その件に関して質問があります。何故、太平洋で待ち合わせだったのですか? このような移動拠点を持っているのでしたら港の方がよろしかったはずです」
「じゃあ、逆に質問。ベルファストの戦い、あれを見てどう思った?」
「…素直にスゴい、と。あの技術が全ての艦隊に施されれば、セイレーンなんて敵では無いのではと考えました」
「…その考えに至るか」
Z23の答えに対して、エンドウの顔に僅かだが落胆の色が見えた。Z23は間違った答えを言ってしまったのかと焦るが、エンドウは間違っていないと教える。
では、何故落胆していたのか。それはZ23の答えが
「確かにニーミのいう通り、この技術があれば、今の戦局を大きく変えることが出来るだろうな。だけど、あの武装はお前らの艤装…つまり、お前らの体を弄っているんだ。
普通なら怖くて仕方ない。だけど、お偉いのバカ共は違う。アイツらは自分たちさえ良ければ、それでいい。KAN-SEN達が拒否しようが、権力という理不尽を振りかざして強制してくるだろう」
「つまり、あまり港に停泊しないのはそのような権力者の息がかかった者たちから逃げるため、ですか?」
「正確には信頼していない人が運営している港にだけど。質問の答えはこれでいいか?」
「納得は出来ませんが、理解は出来ました」
「それでいいよ。他に質問は?」
「では、最後に一つだけ…
──例の武装を使えば、片腕の無い私でも戦場に立てますか?」
真剣な。しかし、極僅かに恐怖が込められた眼差しでZ23はエンドウを見つめる。
彼女は所謂『欠艦』と呼ばれる存在だった。
KAN-SENはメンタルキューブを使い、誕生させる。だが、そのメンタルキューブ事態がブラックボックスな為、極稀ではあるが、体の一部が無かったり、言語機能障害を患って至り等、異常を持ったKAN-SENが生まれる事がある。
その存在を、軍は軽蔑の意を込めて『
普通なら欠艦は生まれてすぐに解体か、運が良ければ事務などに配属される。Z23も本来なら解体される筈だったのだが、ある軍人が待ったをかけ、彼女を引き取ったのだ。しかし、周りのKAN-SENは危険な戦場へ出撃しているのに、自分だけは安全な鎮守府で待機。そんな状況に情けなく、悔しく感じていた。
「そんな時、私はここの噂を聞きました」
「改造するの、怖くないのか?」
「怖いです。それでも私は変わりたいんです」
二人の視線がぶつかり、そのまま静寂が続くこと十数秒。エンドウはふと笑みを浮かべ、Z23の頭を撫でた。
「なッ!? 急になにをッ!?」
「いや? 小さいのに立派だなと思ってな。ラルさんの言ってた通りだ」
「小さいは余計ですッ──て、ラル中将をご存知なのですかッ!?」
「おう。昔ちょっとな。それと、うちに所属しているのはニーミみたいに生まれながら障害を持っていたり、戦場で深手を負って戦場に戻れなくなって、それでも戦いたいって奴等の集まりだ。お前だけじゃない。そうなんでも背負い込もうとするなよ」
「…分かりました。お心遣い、感謝します」
「よろしい。それじゃあ、今日は
「了解しました」
敬礼が出来ないZ23は直立で答えるのだった。