「ちょっと!どういうことですの⁉︎アーネスト!《
アーネストを出迎えた少女——《
「ここに来る途中で彼に偶然会って昨日のお礼に招いたんだよ。うちの生徒を助けてもらったんだからお礼をした方が良いだろう?」
「それはそうですけど、生徒会室に入れるのはいくら何でも問題だと思います!もし、他の人間に見られたら.....」
理空の予想通りの反応をする。理空は普通の《
「どっちみちもう入ってるんだ。今更何か言ってももう遅いんじゃないか?《光翼の魔女》」
「何で事の張本人である貴方が言いますの⁉︎」
「声が無駄にデカい。人が寄ってくるぞ?」
「うっ...そ、それは.....」
「それにもう少ししたら試合が始まるんだ。揉めてる暇はないだろうよ」
自分がディルクと揉めそうになっていたのを忘れて(というかそもそも揉めそうだったと認識していない)、レティシアを宥める理空。レティシアも反論は出ないようで押し黙る。
「レティシアを言いくるめるとはやるね。そこにかけてくれるかな」
アーネストは感心したような様子で理空を椅子に座らせる。
「では会長。お茶とお菓子の準備を致します」
そこへ男装をした女生徒《
20年ぶりに《聖杯》こと《
「どうぞ」
パーシヴァルが紅茶を淹れ終わる。それを飲んでいると、《
「何か?」
「いやー。こうして間近で見ると物凄く顔立ち整ってるから、もし淑女だったら抱きしめたくなるなーって思って」
ガラードワースの人間にしては軽薄な性格と聞いていたが、それは本当のようだ。実際、理空は髪の短さと制服から男と分かるが女装をすれば美少女にしか見えないだろうからケヴィンの言っていることはそういう意味では間違っていない。
そのやり取りをみている、見るからに硬派な男———《
「相変わらず浮ついた男だ。少しは慎んだらどうだ?」
「おいおい、騎士たる者淑女の要請に応えるのも義務でしょうに。レオこそそこらへん、もう少し興味を持った方が良いんじゃない?」
「興味ないな」
「相変わらずお堅いなー」
「お前が軽薄すぎるだけだ」
2人は額を近づけて口論を始める。と同時に銃声が聞こえる。
「.....お二人とも、お客様の前ですよ?」
見ると、パーシヴァルが短銃型
「.....そのお客様の前で銃声を響かせないでもらいたいんだがな」
口論を発砲で止める人間がガラードワースに所属しているのはどこか新鮮だった。
「失礼しました。つい癖で」
パーシヴァルは無表情のままそう頭を下げるとレティシアは苦い表情を浮かべる。
「見苦しい所をお見せしまして申し訳ありません。この子の引き金は本当に軽くて学園の生徒会室の天井にも何度穴があいたことやら.....」
「...案外ガラードワースにも癖がある奴がいるんだな」
あるいはそういう人格だからこそ《聖杯》に選ばれたのかもしれないが。
「おっと、そろそろ試合が始まるね」
アーネストが言っている通り、この一連の流れが起きている間に試合が始める直前になっていた。ステージにはすでに2ペアが向かい合っている。星導館ペアは煌式武装を起動させるがそこに実況が反応する。
『あーっと⁉︎天霧選手《
『んー、《黒炉の魔剣》は気難しいことで有名っスからね。調整でもしてるのかもしれないっス』
実況が言っているように、綾斗は普通の剣型煌式武装を起動していた。持て余している以上、こちらの方が小回りが効くといった利点はあるが.....。
(防御不可の性能を捨てるほどのものか?)
不自然ではある。まぁそれでもまず勝てるだろうが......。疑問に思っているとアーネストが理空に話しかける。
「雲崎君はどちらが勝つと思う?」
「星導館ペア」
「即答ですのね.....」
バッサリとガラードワースの生徒会室の中でガラードワースペア側の勝利の可能性を切り捨てる理空にレティシアは引き気味に呟く。アーネストは穏やかな表情を浮かべたままさらに聞いてくる。
「解説願えるかな?」
「《
綾斗とユリスのことを敢えて二つ名で言って自分と深い関わりを持たせないような言い回しをする。
「軽くて窮屈?どういうことですの?」
「剣の質の話。実戦で打ち合ってみれば多分分かる」
自分の学園の後輩をこうも酷評されレティシアは苦々しい顔を浮かべる。
「質云々はよく分かんないけど、エリー達じゃ厳しいのは俺も同感だなー」
「そうだな。《叢雲》にはもう時間稼ぎも通じない以上、倒すのは至難の業だろう」
ケヴィンとライオネルも理空の意見に同意してしまい、レティシアはさらに顔を顰める。アーネストは相変わらず穏やかな雰囲気で、パーシヴァルはずっと無反応だった。
『《
もう一つの決勝枠を決める戦いの火蓋が切られた。
*
『勝者!天霧綾斗&ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルトペア!』
「本当に貴方の言った通りでしたわね.....」
レティシアは理空の観察眼に感心すると同時に折り合いの悪いレヴォルフの人間の言った通りになる歯痒さで複雑な気持ちを混ぜながら呟く。
そんなレティシアからの声は理空の耳に入っていない。綾斗とユリスは勝った直後、走ってステージを退場した。普通決勝を考えるのであればそんなところで走る必要はない。
————《黒炉の魔剣》が後々面倒なことになるんだとよ。
イレーネから聞いた情報が頭をよぎる。ディルクのことだ。脅迫で使わせないようにさせても不思議じゃない。それに、第1試合の開始1分ほどの時に僅かに殺気を感じた。
ということは、何らかの弱みを握られている可能性が高い。『綾斗の』ではなくとも、『綾斗の周りの』でもいいのだから。
「ちょっと、聞いていますの?雲崎理空」
レティシアの声で現実に戻される。
「ん?何だ?」
「何だじゃありませんわよ。私の声に全然反応してなかったじゃありませんの」
「ああ、少し考え事をしていてな」
「どうかしたのかい?」
「別に大した事じゃないから気にしなくていい」
理空の考えが正しいなら、綾斗達からしてもこのことを知られるのは不味いだろうから黙っておく。
「じゃ、試合終わったからオレは帰る」
「ちょっと!外に誰もいないことを確認してから——」
「その必要はない」
「?どういう——えっ⁉︎」
アーネスト達の目の前から理空は煙のように消えていた。
「....記録映像で見たことはあったけど、実際見ると摩訶不思議な能力だね」
「全くですわ。私やパーシヴァルとの相性が悪すぎます。まぁ、《
「悪い奴には見えなかったぜ?話は通じるし」
「そうだな。レヴォルフの中では異端な男だ」
「..........」
チーム・ランスロットのメンバーもまた、理空の能力と性格を頭に焼きつけた。
*
チーム・ランスロット5人を間近で見れたのは幸運だった。
話は変わるが綾斗の《黒炉の魔剣》について調べたところ、緊急凍結処理が行われていることが発覚した。十中八九ディルクが黒幕だろう。他に考えられない。
もう処理が終わっているのであれば急ぐ理由は無い。それに、星導館にはクローディアがいる。何らかの策を張り巡らせるだろう。
クローディアならば、処理をしているように装って弱みを回収しようとしそうだ。
そもそも何を取られた?
物は可能性が低い。替えが効く場合がほとんどだ。だとすれば周りの人間、つまり人質の可能性が高いだろう。そうなると取り戻すのはかなり難しい。どこに拉致したのかがわからないからだ。
ある程度絞ることは出来る。一般人や警備隊が入り辛い場所が一番だろうから、
場所さえ分かれば後は簡単だ。誘拐犯を倒せばいい。レヴォルフの諜報機関———『
さて、どうするか。本来手助けする理由は無い。綾斗達には興味はあるから絶対に手助けしたくないというわけでもないが....。
まぁ、今日中には見つからないだろうから明日考えれば良い。そう結論付けて瞼を閉じた。