「.....こんなところか」
1時間程仮眠した後に調査を始め、端末の地図の建物のいくつかに印をつける。
歓楽街は金さえ払えば融通は効くが、ディルクを嫌っている連中は多いので協力は仰げない。人質と一緒に留まるならば、空いた建物が望ましく考えるだろう。1つに絞ることは出来なかったがこの中のどれかならば全く問題は無い。変装はせずに外に出た。
*
まずは1カ所目。客の一人が大暴れし営業出来なくなり、今は工事中のカジノだ。しかも、今は工事が中断されているとのことだ。入口の前まで歩いていくが、とある異変に気がつく。
(セキュリティが解かれている.....?)
セキュリティがかかっていることは予想がついていたのでハッキングなり何なりして入るつもりだったのだが、肩透かしを喰らったような気分になった。
工事が止まっているならセキュリティは普通作動している。それが解かれているということは———
(天霧達がここを特定した?どうやって?歓楽街まで絞れてもその先は手詰まりだと踏んでいたが.....)
いや、いい。どちらにせよ、1カ所目で当たりを引いたのだ。その事実を喜ぶべきだろう。
中に入り、扉を開ける。
「フンッ!」
大斧型
大男——レスターは理空に気が付き、入口に体を向ける。
「テメェ、《
「.....1回目の時といい、血気盛んな奴だ」
「ああ?」
最初に会った時は理空が変装していたため、何を言っているのかがわかっていない様子のレスター。
「何でもない。お前1人か?」
「沙々宮と刀藤がっ、いる!」
倒しながら話しているため若干喋り難そうだが、律儀に答えてくれる。
「下に行ったか?」
「それが、どうした⁉︎」
「いや?じゃあここは任せた」
「はぁ?———なっ⁉︎」
倒しても再生する技のようなので能力でまとめて消し去る。もちろん、すぐにまた人形は生み出されるがその前に
階段を降りて下へと向かった。
*
「綺凛!」
紗夜と綺凛は誘拐犯——『
——が、その影の刃が消え去る。
「......何?」
誘拐犯は、いや、紗夜と綺凛も呆然としていた。そこへ、淡々とした声と共に理空が入って来る。
「流石は『黒猫機関』、珍しい能力者がいるもんだ」
「雲崎理空?何故ここにいる?」
「さぁな。んで、お前何番だ?」
「何のことだろうな?」
カマをかけたのだが、惚けられる。プロなだけはあるようだ。
影の刃が足元から出されるが能力で消し去る。
(.......話に聞いていた通りの能力の様だ。厄介だな)
誘拐犯は内心舌を巻いていた。紗夜と綺凛だけでも手間取っていたというところにさらに自分の能力が効かない相手が来てしまい、任務の難易度が格段に上がってしまったためだ。
紗夜のところに人質がいる以上、それを盾にするのも難しい。
「オレにばかり集中してて良いのか?」
「ッ⁉︎」
意識を戻した綺凛の一閃が頬を掠める。このままでは不味い。一旦影に潜って距離をとろうとする。
「無駄だ」
理空の無慈悲な声がかかり影に潜れなくなっているのに気がつく。
「何だと⁉︎」
「はぁ‼︎」
動揺している隙に綺凛が両肩に斬撃を叩き込む。
「ぐ........大した剣技だが、詰めが甘いんじゃないのか?」
「——いいや、充分だ」
紗夜の煌式武装による砲撃が叩き込まれる。が、誘拐犯はすでにその場にはいなかった。
「....逃げられたか」
紗夜は悔しそうな声で呟く。
「沙々宮様、刀藤様!ありがとうございます!あと、ええと.....」
「気にするな」
「は、はい.....」
やはり綾斗達の誰かの関係者が拉致されていたようだ。《黒猫機関》の人間の能力を見ることに集中していたため、頭の隅に置いていたが。
「....それで?何故ここにいる?」
紗夜が警戒心を隠さない態度で理空に聞いてくる。
「別に?《
「なっ⁉︎どうしてそのことを.....⁉︎」
「へぇ、やっぱそうだったのか」
「え....?あ......」
誘導されたことに気がついた綺凛。元々理空に対しては畏怖の念を抱いていたが、それがさらに深まった。
「で?そのガキは何だ?」
「ユリスの国の人間。名前はフローラ・クレム」
「そうか」
見たところ10歳程度といったところか。ユリスの国ではこの歳からメイド服を着ているのか、と斬新に感じた。
紗夜は理空の返答に納得がいってないのか、態度を崩さない。
「まぁ、
理空から言われたのが癪ではあるが、その通りなので紗夜は端末を出してクローディアにフローラの救出報告をした。
*
《
試合が終わった後の取材でクローディアが誘拐事件について暴露し、
会場は大騒ぎになりインタビューの時間は延長されて、結果的に表彰式も大幅に遅れて開催された。警備隊が捜査をするそうだが、誘拐犯には逃げられたためディルクはまず処分を受けないだろう。
そんな感じの流れの後に表彰式が始まり、これはいつも通り終わった。
表彰式が終わり、理空は綾斗とユリスの控室に向かう。後日に話をしてもいいが向こうもこちらに聞きたいことがある以上、早いほうがいいだろう。
控室のインターホンを鳴らす。
『どうぞ』
クローディアの声とともにドアが開く。
綾斗達5人が椅子に座っていて、クローディアはいつも通り柔和な笑みを浮かべ、ユリスと紗夜は敵意を隠さず、綾斗と綺凛はやや緊張した様子だった。
「そこへかけて下さい」
「ああ」
「表彰式の後すぐに来るとは思っていませんでしたよ」
「早い方が良いと思ってな」
「そうですか。まずはお礼を言わせて下さい。フローラの救出の協力もですが、刀藤さんの危機を救ってくれたそうですね」
「別に良い。本題に入れ」
「では単刀直入に言います。どうやってフローラの誘拐を察知したのでしょう?」
準決勝第2試合で《黒炉の魔剣》を使っていなかったこと、終わった後に走って退場したこと、イレーネからディルクが《黒炉の魔剣》を潰そうとしていたのを聞いたこと、準決勝第1試合のときに殺気を感じたこと、それらから何かしらの脅迫を受けていたことを推測したといった旨を話すと、ユリスと綾斗と綺凛は驚愕の表情を浮かべる。
「なるほど、見事な洞察力ですね。ではあの建物と推測した理由は何でしょう?」
「.....それはむしろオレが聞きたいな。どうやってあの場所を特定した?」
「それは綾斗しか知りませんね」
「......天霧」
「えっと、イレーネに歓楽街が怪しいと助言してもらって....」
「歓楽街に絞ったのは納得がいく。問題はその先だ」
「ごめん、ちょっと言えなくて......」
「言えない?」
どういう事だ?綾斗が疾しいことをするとは思えない。そもそも綾斗だけで特定は出来ない。誰かに協力してもらった?そしてその人間に口止めをされた?探知系の能力者なんてそんなに都合よくは——
(....まさか《
それならば合点がいく。シルヴィアは《歓楽街》あたりを捜索していただろうし、あの能力ならば特定可能だろう。
「.....まぁ良い。オレは歓楽街の今現在使われていない建物を調べ上げただけだ。《
「そうですか。ではそこまでしたのは何故でしょう?」
「『黒猫機関』の人間を見ておきたかったんだよ。能力の性質上な。これ以上は無理だ。無闇に能力の詳細は知られたくないからな」
「いえ、ありがとうございます」
思っていた以上に話は円滑に進んだ。ユリスと紗夜辺りが突っかかって来そうだったが、しっかりと弁えてきたから楽だった。
「話が終わりならオレは帰るぞ」
「待って下さい」
「何だ?まだ聞きたいことがあるのか?」
「はい。———私と連絡先を交換していただけませんか?」
「......はぁ?」
これは予想外だ。警戒されていそうだったから、そういうことを頼んでくるとは思わなかった。
「....理由は?」
「今回のように《悪辣の王》から妨害や嫌がらせを仕掛けてくる可能性があります。その時にいち早く情報を仕入れたいのです」
「そうじゃない、
先程の話から推測するに、イレーネの連絡先を持っていてある程度の信頼関係は得られているのだろう。何故わざわざ理空にも協力を仰ぐのかが理解出来なかった。
「貴方が《悪辣の王》の手駒でないことが1つ、そして——」
クローディアは笑みを消して真顔となる。
「一時期あの《
「それは流石に過大評価だが.....まぁ良い」
理空はアドレスをクローディアに表示する。
「受けてくれた、ということでよろしいですね?」
「ああ、その代わりオレが欲しい情報を持っていたらオレに寄越せ」
「.....良いでしょう。ですがそれは可能な限り、で良いですね?」
「ああ。互いにな。じゃ」
その場から理空が消える。
「大丈夫なのか、クローディア」
「ご心配には及びませんよ、ユリス。実際、今回の件では助かったでしょう?」
「それは....そうなのだが......」
やはり、不安は拭えなかった。あの男はどこか得体が知れない。それは他の3人も同じ考えだった。
「そう心配しないで下さい、大丈夫ですから」
クローディアは依然として態度を崩さなかった。
*
会場を出て帰路についた後に再開発エリアの道を歩いて行く。歓楽街の情報を収集するためだ。
「..........?」
強烈な違和感に襲われる。ここは再開発エリア。加えてこの時間帯だ。人が少ないのは当たり前だが、それにしてもいなさすぎる。
「雲崎理空だな?」
後ろから声がかかる。振り向くとローブを深く被った人間がこちらを向いている。胸に膨らみがあることから女性だろう。
「ああ。で、お前は?」
「本来名乗る義理は無いが....まあいい、我はヴァルダだ」
「何の用だ?」
「ヴァルダではなくて私が君に用があるんだよ、雲崎理空君」
ヴァルダの後ろから歩いてくる顔の上半分に仮面をつけた男が歩いてくる。
初対面ではあるが、理空はこの男に見覚えがあった。あの試合で天霧遥を斬った張本人。その人間が被っていたものと同じだ。何より手に持っているものが特徴的だった。
「《
「ほう、私のことを知っていたか」
「これでも裏でそれなりに長く生き抜いてきたもんでね」
「なるほど、《
《処刑刀》は得心がいった様子でその手に《赤霞の魔剣》を弄んでいた。穏便に終わることは無さそうである。
(能力を本気で使うことになりそうだな)
柄にもなく、理空は気を張り巡らせていた。
ちょっと無理矢理でしたかね......。次話で何故こうなったのか説明しようと思います。