《処刑刀》
理空は警戒心を最大限に張り巡らせていた。理由は目の前にいる2人組———ヴァルダと《
「お前らが《
「ふん、惚けるな。今まで目立った行動をとっていなかった貴様が本格的に妨害してきたのは明らかになっている」
妨害?誘拐事件の件か?何故自分が関与していることがばれている?あの場に気配は感じなかった。
「そう身構えないで欲しいかな。我々は忠告しにきただけなのだから」
「忠告?」
「そう、これ以降妨害が入れば君に容赦はしない。オーフェリア嬢に対抗出来る能力者だとするならば、計画に支障が出かねない」
「計画?何のだ?」
「それを言う義理は無いね。君がこちら側に来てくれるのであれば話は別だけれど」
おかしい。この男の正体を知っている気がするのだが、靄がかかってしまっている。顔は上半分しか隠れていない。ほとんど変装にはなっていないのだが.....
「無駄だ。この領域は我の認識阻害がかかっている。《
思考中にヴァルダの声が入り込む。ヴァルダをよく見ると首元にはウルム=マナダイトが埋め込まれたネックレス型
(いや、待て。覚えがある。ラディスラフ・バルトシーク教授が造った《翡翠の黄昏》の元凶となった
このことは口にしない方が良いだろう。余計に警戒を強めさせてしまう。
「さっきの忠告だが...約束も保証も出来ないな」
「そうか.....なら仕方がない」
———刹那。《処刑刀》が懐に飛び込んできて袈裟斬りを仕掛ける。それを回避した後すぐに短剣型
「ふう......危なかった。能力ばかりが目立っているけど、体術や短剣術も相当なものだね」
「よく言う。ヴァルダを参加させていない以上まだまだ余裕はあるんだろ?」
理空は内心毒づいていた。可能なら今の攻防で仕留めるまではいかなくてもダメージは負わせておきたかった。
「それにお前も全力を出していない。いや、
「.....何のことだろうね」
《処刑刀》もまた、毒づいていた。《蝕武祭》での試合を見られているということは自分の闘い方のみならず、遥にかけられた封印まで知られているということだ。反対に理空の情報はほとんどない。
だが、理空も《処刑刀》もこのまま斬り合いが続けば不利となるのは理空の方だと見抜いていた。《
故に、理空は次の一手を打った。
「ぐあっ‼︎」
「チッ」
いきなりヴァルダ(厳密にはヴァルダが乗っ取っている身体)の左肩から左胸にかけて出血する。悪寒を感じ咄嗟に身を引いたのがヴァルダにとっては幸いだった。その影響でローブで隠されていた素顔が明らかになるが、知らない顔だ。理空としてはこれでヴァルダを仕留めて《処刑刀》の正体を暴くつもりだったので、思わず舌打ちしてしまう。が、それでも《処刑刀》の意識は逸らせた。
《処刑刀》が次に意識を戻したときには、理空はその場から消えていた。
*
理空はとあるホテルに避難していた。この状況で自分の家に帰るのは不味いと判断したためだ。あれ程の強敵と戦った経験は思い出すのが難しい。あの時尾けられていた気配は感じなかったということは、理空の来る道がわかっていたということ。誘拐事件が起きた後にいつもの道で
(何らかの能力者、樫丸あたりが怪しいな)
そうとしか考えられない。でなければ何故樫丸を秘書にするのかが分からない。《パン=ドラ》のような未来予知能力をもつものがある以上、そういった感知能力者がいてもおかしくない。
誰かに今回の件を話すか?綾斗達はあの2人と無関係というわけではない。むしろ、特に綾斗は関係が大ありだ。だが、はっきり言ってまだ早すぎる。今の綾斗ではなす術なく殺されて終わりだろう。では、
今、理空が取れる選択肢は4つ。
①警備隊長にこの事を話す。
②綾斗達にこの事を話す。
③①、②両方の行動をとる。
④誰にもこの事を話さない。
④は論外。おそらく理空1人で太刀打ちするのは難易度が高すぎる。①は一番無難ではある。が、《処刑刀》は綾斗が遥の弟であることを知っているだろう。綾斗に接触しても不思議じゃない。《処刑刀》の情報は綾斗だけにでも話しておいた方が良い、のだが、綾斗が下手に挑んでしまわないかが懸念材料だ。別に綾斗1人死んでも何とも思わないが、向こう側は《
とりあえず、これから数日はここに留まりじっくりと考えることにした。
*
「......凄い傷だね。大丈夫かい?」
「大丈夫.....とは言い難い。あの男が放った正体不明の攻撃は侮れん」
《処刑刀》が言うようにヴァルダの左肩から左胸にかけてザックリと抉れている。咄嗟に身を引き急所を外れたのが幸いだった。
「鋭利な刃物で斬られたような傷跡.....これも彼の能力ということかな?二つ名に準えて言うのなら『消撃』といったところか」
『結局奴についちゃ何も分からずじまいかよ。せっかく部下に占わせて妨害を事前に発覚させたってのによ』
端末のモニターに映る男———ディルク・エーベルヴァインは苛立ちをヴァルダと《処刑刀》にぶつける。
「そう言わないでくれ。彼自身も相当な手練だったんだ。能力を間近で見れたことを僥倖と思った方がいい」
『あんたについての情報は漏れているのにか?警備隊長辺りと手を組んでもおかしくねぇぞ』
「元はと言えば君の乱暴な一手が招いた結果だ。もう少し自重してくれ」
『.......チッ』
結果的に見ればそうなってしまうので、ディルクとしても反論の余地はない。
「雲崎理空については警戒を高めた方がいいだろう。裏に精通している点も含めてな」
「オーフェリア嬢とも旧知の仲と聞いているしね。彼女から彼の能力については聞かされていないのかい?」
『聞いたならとっくに知らせている。知らないとしか返されねぇよ』
「ならば雲崎理空をこちらに引き込むのはどうだ?計画の内容を話せば協力してくれるかもしれんぞ」
「そうなってくれれば良いんだけどね......」
ヴァルダは《処刑刀》のあまり乗り気ではないその反応を見て溜息をつく。乗り気ではないというよりも不可能に近いということを彼は感じていた。あれは
3人は頭を悩ませていた。容赦なく殺しにくる分あの警備隊長よりも厄介となる可能性が高い。人質をとっても無駄だろう。迷わずに切り捨てる光景が目に浮かぶ。
明確な目的も持たずに自分を見失わず、敵を排除するために手段を選ばないというその理空の異端さを垣間見た気がした。
ディルクがころなに理空の妨害がないか占わせたということがこの稚拙な文章で伝わっていれば幸いです。