学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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《時律の魔女》

 ホテルに1週間留まったが、あれから特に何も進展は無かった。理空は学生なので当然ながら門限というものを守らなければならないのだが、そこは《冒頭の十二人(ページ・ワン)》の特権で学外に寮をとっていたため、全く問題にならなかった(そもそも守る人間もレヴォルフの中では少数だが)。こういう特権があるものだから返上するのが惜しくなってくる。

 そんなこんなで襲撃から2週間ほど経ち、そろそろ頃合いと判断しとある場所へと向かうために外に出る。

 支度を済ませた後に星猟警備隊(シャーナガルム)の本部へと向かった。

 

 

 星猟警備隊の本部の入口付近、に着いたのだが2人の警備隊員に声をかけられた。

 

「おい、君。何をしている?その制服.....レヴォルフのものだろう?」

「まさかここで問題を起こそうとしているのか?」

 

 気配も絶たずにレヴォルフの制服を着ている人間が警備隊本部に近づいていれば声がかけられるのは当然ではあるが、理空は元々私服のレパートリーが少ないし気配を絶っていてもあの警備隊長には気が付かれ益々怪しまれるため仕方がないと言えば仕方がなかった。

 なので、端的に要件を告げた。

 

「ヘルガ・リンドヴァルに会わせて欲しい」

「......それを我々が受理すると思うのかね?」

 

 予想通りの返答。が、理空とてそれで引き下がるつもりもない。

 

「オレがレヴォルフの生徒だから警戒するのも分かるが、あの警備隊長殿なら特に問題はないだろう?」

「だとしても、会わせる理由はないな」

「仮に君が問題を起こしたとしても警備隊長の手を煩わせるまでもない」

「.......とりあえず、名前だけでも通してくれ。まずはそこからだ」

 

 意外と頑固なため理空も譲歩する。このままだと平行線で終わってしまう。

 

「.....まぁ、良いだろう。名前を教えてくれ」

「レヴォルフ黒学院高等部一年、雲崎理空」

「警備隊長が会う意思が無かったらお引き取り願うぞ」

 

 厳しい口調で理空に忠告する1人の警備隊員。それもそのはずで、レヴォルフの生徒は乱闘騒ぎやら何やらで度々警備隊は働かされる。マフィアの中ではレヴォルフの現役学生で構成されているものもあるので警戒せざるを得なかった。

 

「ああ、それで構わない。日を改めるとする。それと、そこの警備隊員」

 

 2人の内の1人に目を向ける理空。向けられた警備隊員は怪訝な表情を浮かべながら聞く。

 

「何かね」

「いや?()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「っ⁈」

 

 理空がそう言った相手は先程「警備隊長抜きでも理空に対処出来る」と言った人間だった。警備隊に入るには警備隊長が設定した試験を突破してしなければならない。要するに、手練の人間のみで構成されており、この隊員もその例外に漏れていないのだが、その手練ならではの勘が告げている。

 

 ———この男は危険だ、と。

 

 それはもう1人の方も感じ取ったが先程名前は通すと言ってしまった。もう話を警備隊長に通すしかない。話を通すために1人が中へ入った。

 

 

 とある一室にて。  

 

「警備隊長、失礼します」

「どうした?」

「いえ、雲崎理空と名乗る人間が警備隊長と会いたいそうです」

「雲崎理空だと.....?」

 

 ヘルガはその名前に聞き覚えはあった。あのレヴォルフの序列四位だ。レヴォルフの生徒にも関わらず、警備隊の世話になるような話は一切入ってこない異端な生徒。

 今まで目立った行動をしていなかったのに、何故ここへ?

 ヘルガは思案し、返答する。

 

「.....分かった。中に入れてくれ」

「本気ですか⁉︎」

 

 ただでさえ、《鳳凰星武祭(フェニクス)》の閉会式時に発覚した誘拐事件で普段よりも多忙となっている。

 「断る」と言えば済む話ではあるが、向こうに何か目的があるのは明らかだ。そう簡単には引き下がってくれないだろう。そうなれば今日帰らせてもまた後日来られて結局いたちごっこになる。

 

「呼んできてくれ」

「.......了解」

 

 警備隊員は気が進まないながらもその命令に従った。

 

 

 警備隊長は受諾してくれたようで2人に中へ案内された。警備隊長は聡い。ここで断っても早いか遅いかの違いでしかないと判断したのだろう。そしてそれは正しい。理空は断られてもまた来るつもりでいたのだから。

 案内された部屋に入る。

 

「君が雲崎理空君か」

 

 凛とした面立ちの美人で、均整の取れた引き締まった肉体を警備隊の制服に包んだ女性がこちらを向いて立っていた。

 

「ヘルガ・リンドヴァルで合ってるか?」

 

 ———ヘルガ・リンドヴァル。

 星猟警備隊の創設者にして、現在も隊長を務める女性。《王竜星武祭(リンドブルス)》を二連覇した最初の人物で、学生時代の二つ名は《時律の魔女(クロノテミス)》。自らの周囲の時間を操る能力を持ち、アスタリスクの歴史上最強の魔女(ストレガ)との呼び声が高い。年齢を含めた肉体の時間も操作可能であり、重傷を負っても時間を巻き戻して一瞬で完治できる。姿が一定ではないため、一応確認を取る。

 理空が敬語を使わないことに何か思うところあるのか、案内をした警備隊員は眉を顰める。が、ヘルガは気にせずに返す。

 

「ああ。初めまして」

 

 そう言って手を差し出してくる。手を取ると凄まじいほどに研ぎ澄まされた星辰力(プラーナ)を感じた。

 

「警備隊ってよりはあんた個人に用があるから他の人間には席を外してもらいたいんだが」

「貴様!いい加減に———」

「分かった」

「警備隊長!」

 

 理空の態度についに激昂しかけた隊員を制するヘルガ。

 

「しばらく外に出ていてくれ」

「.........」

 

 無言で部屋を出て行く隊員。苦虫を噛み潰したような表情をしていたが、そんなことはどうでも良い。

 

「そこにかけてくれ」

 

 ヘルガに促され、椅子に座りヘルガも机を挟んで向かいに座る。

 

「正直、意外だ。流石にこれは渋られると思っていたんだが」

「私自身も君には元々興味があったからな」

「へぇ?ただの序列四位を警備隊長殿が?」

()()()序列四位ならそこまで強い関心は出てこないさ」

 

 噂通り、いや、噂以上に鋭い人間だ。人の本質を見抜くことに長けている。

 

「まぁ、それは置いておくとして........どういう要件かな?」

「とある情報を伝えにきた」

「情報?」

 

 ヘルガは怪訝そうな表情を浮かべるが、理空の一言でそれが全て吹き飛ぶ。

 

「———《処刑刀(ラミナモルス)》」

「っ⁉︎」

 

 ヘルガの目が一気に見開く。

 

「......何故君がその名を知っている?」

「《蝕武祭(エクリプス)》を観たことがあるからな」

「.........成程。それで、わざわざここに来たということは何らかの情報をこちらに提供してくれるということかな?」

「話が早くて助かる。2週間前に《処刑刀》に襲撃された」

「何⁉︎」

 

 ヘルガは思わず立ち上がってしまった。《蝕武祭》の専任闘技者であり、自身が長年追っている人間。そんな人間が一学生を襲うのは完全に予想外だった。

 

「もう1人来ていたが、そっちはヴァルダと名乗っていた」

「.......そうか」

「《処刑刀》は封印処理がされているはずの《赤霞の魔剣(ラクシャ=ナーダ)》を持っていた。どこかで見たことがある印象の人間だったが、思い出そうとすると靄がかかったような感覚になった。顔は上半分しか隠れていなかったのにだ」

 

 変装としては雑だったんだがな、と付け加えて理空は肩を竦める。

 

「まさか....精神操作系の能力者?いや、だとしても星脈世代(ジェネステラ)に干渉出来るはずも.....純星煌式武装(オーガルクス)か?」

「オレも同じ考えだ」

 

 《ヴァルダ=ヴォアス》のことは敢えて口にしないでおいた。あれは『銀河』の最上級機密事項だ。それを理空が知っていると漏れるのはリスクが大きい。

 

「《蝕武祭(エクリプス)》には精神操作系の能力者が関与している可能性も考えていたが.....そういうことか」

「ヴァルダ本人も認識阻害という言葉を口にしていたからな。やたら人がいなかったし、人を寄せ付けない領域も作れるってことだろうよ。《蝕武祭》では見なかったが《処刑刀》と一緒にいた以上、関与していると見ていい」

 

 認識阻害から人払い。だとするなら人の記憶を改竄するなり洗脳するなり出来ると見て良いだろう。星脈世代にあそこまで効くというのは驚きだが。

 

「ところで、襲撃されたと言っていたな?」

「ん?ああ」

「襲撃された理由に心当たりはあるかな?」

「ああ、それか。別に、オレが例の誘拐事件の妨害をしたことがバレたらしい。黒幕は《悪辣の王(タイラント)》だろうから、恐らく手を組んでいる」

「......何故君が関与していたと知られたんだ?」

「何らかの方法で向こうは感じ取ったらしい。そういう能力者がいるんだろうな。その上《悪辣の王》のところには《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》がいる。厄介過ぎる」

 

 ヘルガ自身が想像していた以上に《処刑刀》は危険な存在なようだ。封印処理がされているはずの《赤霞の魔剣》の所持、精神干渉系能力者、果てには《悪辣の王》とその手駒。この情報が無かったら危なかったかもしれない。が、

 

「それで、君の要求は?」

「.....何がだ?」

「これほどの情報をただで渡すような人間には思えないからな」

「......本当に鋭いな。その通りだ。——《処刑刀》に関する情報を可能な限りオレと共有して欲しい」

 

 要するに、自分と手を組めということだろう。

 

「学生である君がこれ以上関わる必要もないだろう?」

「オレとしてもそれが最善ではあるとは思っている。ただ、向こう側がそうしてくれないような気がしてな」

「だとしても、これは我々警備隊の仕事だ。君が危険を冒す必要はない」

「.....何か勘違いしてないか?ヘルガ・リンドヴァル」

 

 一旦区切って正面からヘルガを見据える理空。

 

「オレはあいつらを正義感から捕まえたいわけじゃない。オレにとって敵だから排除しておきたいだけだ」

「........」

「それに今さらオレが蚊帳の外に逃げるなんてそんな甘いことは出来ないってあんた程の人間なら気づいているだろ?」

 

 それでも、一学生を巻き込むというのは気が引けた。だが、理空の言っていることもまた事実。ヘルガは腹を括った。

 

「アドレス.....ってことはオレの要求を呑んでくれたってことでいいんだな?」

「ああ、何か進展があったら報告しよう」

「感謝する。それじゃ」

 

 それを終わりに理空はヘルガの目の前から消えた。

 

「ああ、もう入ってきて良いぞ」

 

 外に出ていた警備隊員が中へ入ってくる。

 

「大丈夫でしたか、警備隊長」

「ああ、有益な情報提供をしてくれた」

「それで.....あの男は?」

「消えた」

「は?」

「いや、それよりも仕事を再開しよう。まずは誘拐事件の調査からだ」

 

 話を逸らして誤魔化す。()()()()()()()()()()()のだ。あれは実際に見なければ信憑性が薄いし、伝わりづらいだろう。異質なのは能力だけではなかった。本人はさらりと言っていたが《蝕武祭》を見たことがあるということは十歳前後の時から殺し合いを見ていたということになる。

 何より、あれは学生が向ける眼ではない。

 一体どういう風に育てばあんな眼が出来るのか。

 

(雲崎理空、か。調べてみるとしよう)

 

 今日も警備隊長は多忙だ。

 




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