ヘルガとの対面からしばらく経ち、自宅でくつろぐ。あの襲撃以降、
『ああ、良かった。合ってたね。いきなりごめんね』
「......何でオレの番号を知っている?《
連絡先を交換してもいないシルヴィアの顔が映る。前回とは違い変装はしておらず制服姿だったが、前回とは違いいつになく真剣な表情だった。
「いや、聞かないでおく」
『そうしてもらえるとありがたいかな。ところで、今大丈夫?』
「今?別に暇だが.......」
だから何だというのだろうか。
『今からクイーンヴェールに来てくれないかな?』
「はぁ?」
すでに空は暗くなっている。たとえそうでなくとも、何か用件があるのならクイーンヴェール以外の場所でもいい。いや、むしろそっちの方が良いだろう。
それが顔に出ていたのか、シルヴィアは微笑みを浮かべ返してくる。
『私の用件だけならわざわざ来てもらう必要もないんだけどね。来てもらわなければ困る人もいるの』
「..........」
よほど重要な話らしい。となればここで断ったら断ったで面倒になりそうだ。どうせ暇を持て余していたところだ。あの2人組がクインヴェール付近で襲撃してくるとも思えない。
たが、タダ働きされられるのも癪ではある。
「1つ条件がある」
『うん、何かな?』
「——————」
『.....わかった。かけあってみるよ』
*
クインヴェール女学園。六花唯一の女子校である。戦闘能力よりも容姿を重視するため、前シーズンは最下位と結果は振るわないがシルヴィアや序列二位の《
その学園の門の前に着き、門の端の方を向く。
「気配を消してないで早く説明しろ、《戦律の魔女》」
「......凄いね。こっちから声をかけるつもりだったんだけど」
流石と言うべきか、シルヴィアは気配を消して立っていた。《
シルヴィアは入校許可証を理空の端末に送る。
「とりあえず、中に入ってくれるかな?」
「......分かった」
2人は校門を通り一緒に中に入った。少し進んだ後に、シルヴィアがベンチに座り、理空がその前に立つ。建物の中に入らなくて良いのかとは思ったが、いちいちそこを指摘するのも面倒なのでスルーする。
「まずは私の用件からかな。———襲撃されたのは本当?」
「.......耳が早いな」
一体どうやってその情報を手にしたのか興味は出てくるが、今回の話には関係がない。
「私の探している人が《
「...なるほどな」
そういうことか。理空を襲撃してきた人間が《蝕武祭》に関わっているとは限らない。だが、仮にも一学園の序列四位が仕留められなかったということは(状況的にそれも知られていると考えるのが自然である)少なくとも只者ではない。事情は知らないが余程大事な人間らしいので、可能性を捨てきれなかったといったところか。
「結論から言うと、関与している奴らだ」
「本当⁉︎」
シルヴィアは腰を浮かせる。それを理空は冷めた目で見つめながら続ける。
「落ち着けよ」
「あ....うん、ごめん」
「オレを襲撃したのはとある2人組でな。その内の1人の方は《蝕武祭》に出ていたのを見たことがある。もう1人の方は初めて見たが、そんな奴と一緒にいた以上、関与していたと見ていい」
「......その2人組の特徴は?」
「1人は大きいネックレスをつけた女。もう1人は《
理空の口から《赤霞の魔剣》という言葉を聞き、シルヴィアは目開く。
「《赤霞の魔剣》は封印処理がされているはずじゃ.......」
「そこら辺はオレもはっきりと分かっていない」
これで話せることは大体話した。そう思っているとシルヴィアから予想外の質問が飛んでくる。
「その2人組はどれくらい強い?」
負けず嫌いなのか、そういうことは気にはなるようだ。どういう風に答えるか。前回の紗夜達の例もあるから一応言葉は選んでおいた方が——
「はっきり言っていいよ」
そんな意思を感じ取ったのか、するりと声を入れてくる。そう言われれば理空としても気が楽だ。
「オレが闘ったのは《赤霞の魔剣》の使い手の方だけだが、そいつはお前よりも強い」
「......なるほどね。腕、磨かないとなぁ.......」
少し落ち込んではいるが、それでも足がかりとなる情報を得られたことによる喜びもある様子だ。
「お前の用はそれで終わりか?」
「うん、ありがとう」
これでシルヴィアの用件は終わり。そして、もう一つ。
「で?ここに来ないと困る奴ってのは?」
「あ、うん。そうだったね。こっちに来て」
さらに奥に進み、灯りの下にあるベンチに座っていたのは赤髪の少女だった。
*
「ごめんね、待たせちゃったね美奈兎ちゃん」
「い、いえ、大丈夫です!」
小柄で赤髪、頭に兎のようなカチューシャをつけた少女はシルヴィアの言葉に元気に反応する。
「シルヴィアさん、この
「男だよ」
「えっ⁉︎す、すいません!」
そのやり取りをみてくすくすと笑うシルヴィア。実際、今は男子生徒用の制服ではなく、Tシャツにジーパンといった格好なので女子に見えなくもない。
「さっき言った助っ人だよ」
「何のだ?というか、誰だこいつ?」
「あー、まずはそこからか。ほら、美奈兎ちゃん自己紹介自己紹介」
「は、はい。若宮美奈兎です」
「若宮美奈兎.......ああ、例の50連敗か」
聞き覚えはある。入学して以降、決闘に挑み続けるも連敗に連敗を重ねある意味歴史上に残る大記録を打ち立てた1人の生徒。
「49連敗です!」
「大して変わんないだろ」
もっと言うならどうでもいい。
「理空君も、ほら」
「....雲崎理空だ」
「理空、君?さん?」
「好きに呼べ」
普段は物怖じしない性格の美奈兎であるが、シルヴィアがこの場にいることや最初に性別を間違えてしまった負い目からか、若干緊張している。
「で?こいつの手助けもしろと?」
「うん。まぁ、美奈兎ちゃん
「どういう状況なんだ?」
美奈兎が言うには、最近できた友人———クロエとの連絡が途絶え調べようとしたところで理事長に呼ばれクロエがクインヴェールの所有物であること、ベネトナージュの一員であること、それらを踏まえこれ以上関わるなと宣告されたそうだ。
別にそういうことは珍しいことでもない。ウルサイス姉妹なんかが良い例だ。そんなことを何故気にするのかも分からないが、表しか知らない人間からすれば納得がいかないのも仕方がないといえば仕方がない。
「それで、クロエは《
「.....一応聞くが、他の奴じゃダメなんだな?」
「クロエじゃないとダメなんです!」
「....そうか」
美奈兎に一通り話は聞いたがどうも引っかかる。ベネトナージュの一員を目立たせなくないというのはわかる。だが、そんなもの本人に出るなと言えばそれで終わりだ。プライベートまで制限する理由がわからない。
「クロエって奴は何をやらかしたんだ?」
「えっ?」
「いくら諜報機関の一員つっても、あくまで一生徒だ。普通ここまで制限は厳しくはならない」
「そ、それは......」
難しいことを考えるのが苦手な美奈兎といえど、これを言うべきかどうかは迷ってしまう。理事長はクロエの能力は貴重と言っていた。チームメイトの1人はその能力を体験し、美奈兎にも伝わっている。話そうと思えば話せるがそうなれば自分のせいで理空にも学園の手が伸びてしまうのではないかという不安が膨らむ。
そんな不安を見透かしたのか、理空は別の質問をしてくる。
「質問を変えるぞ。いつから、連絡が途絶えた?」
「こ、この間の試合のあとから.....」
「その試合の記録映像はあるか?」
「あるけど......」
「安心しろ、別にお前の口から情報を引き出すわけじゃない。オレはただ1つの試合をたまたま見ただけ。だろ?」
屁理屈かもしれないが、確かにそれなら美奈兎の懸念は解決する。シルヴィアは微笑みながら理空を見つめる。
「何だよ?」
「いや、やっぱり君は優しいなと思って」
「....お前が対価を用意しなかったらそもそも来なかった」
「........?」
美奈兎は2人のやり取りの内容をいまいち掴めないのか、首をかしげる。
「ああ、こっちの話だよ、美奈兎ちゃん。それよりもほら、記録映像」
「は、はい!」
空間ウィンドウが浮かぶ。決闘にしては珍しいチーム戦のようだ。ルールは《獅鷲星武祭》の同じ5対5でリーダーを倒せば勝ち。
ほとんど一方的と言っていい内容で、向こうのチームのリーダーは美奈兎のサポート役をしている人間を嬲っている。
「クロエってのはどいつだ?」
「この、常磐色の髪の...」
今のところ、大した働きはしていない。相手の遠距離タイプの《
試合は終盤。相手のリーダーが美奈兎に意識が向いた途端に、クロエの周りの
そして、そのサポート役が見事なタイミングで大技を放ち、試合が決まった。
「理空君、何か分かった?」
シルヴィアが声をかけてくる。
(なるほどな、確かにこれは隠したいし変えは効かないな)
かなり珍しいタイプの能力だ。それに、今調べたところによるとクロエは《魔女》の登録もされていないようだ。
学園側が重宝するのも納得がいく。
「理空君?」
「ん、ああ。まぁ、ある程度は」
「それで、どうすれば.....?」
「今日は帰る」
「えっ⁉︎」
理空のそのあまりにさらりとした言動に口が閉じない。
「今日行ってもどうしようもない。ここは少し時間を置いた方がいい」
「で、でも....」
「時間を置くっつっても明日とかでいい。もうこんな時間だしな」
あの宣告をした直後だ。警戒心は最大となっているだろう。なら、多少なりとも時間は開けた方がいい。
「んー、じゃ何時にする?」
「放課後とかでいいだろ」
「じゃ、明日の夕方あたりに連絡するね」
「ああ」
その一言を最後に理空はその場から姿を消した。
「消えた....?」
「彼の能力だよ」
「理空君は一体.....?」
「少なくとも、美奈兎ちゃんたちの敵じゃないってくらいの認識でいいと思うよ」
シルヴィアとしても理空のことをそれほど多く知っているというわけではない。今の認識は『悪い人では無さそう』程度だ。
だが、シルヴィアからすればそれで十分である。少なくとも、このアスタリスクでは。
*
理空はベッドに寝っ転がり思案する。一応、材料は揃えた。果たして上手く出来るか。こういうことをするのも何年ぶりだろうか。
———クインヴェール女学園理事長 ペトラ・キヴィレフト。
統合企業財体の幹部でもある。以前簡単に言いくるめられたレティシアとは比べ物にならない。
まぁ、シルヴィアもいることだし大丈夫だろう。良い暇つぶしの一環になりそうだ。
明日に備え、瞼を閉じた。