学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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チーム・赫夜

 地下の訓練室にて。理空と美奈兎達5人———チーム・赫夜は向かい合っていた。

 

「理空くん、本当にいいの?」

「別に一本やるくらいどうってこともない」

「いや、そうじゃなくて......」

「何だよ?」

「いくら何でも5対1って.....」

 

 どうやら、美奈兎は5対1というルールに引け目を感じているようだ。例の決闘ではチーム戦でとはいえクインヴェールの序列七位を倒している。まぐれとも言えるがそれでも相手も5人だった。

 序列四位でも、5人でかかるのは不公平だと感じているのだろう。理空から持ちかけたルールなのだから気にする理由はよくわからないが。

 

「気にするな。お前らこそ、フロックハートの能力は詳しく聞いたのか?」

「.....一通り話したわよ。発展途上もいいところだけれど」

 

 むしろ理空からすればこれでもハンデが足りないくらいだった。もっと時間を費やしていたならともかく、急造もいいところのチームに負けるとは思えない。連携の部分はクロエの能力で補うのだろうが、すぐに出来るというものでもない。

 そこら辺はクロエも分かっているのか、それとも理空を警戒しているのか、美奈兎のように後ろめたさは感じていないようだ。

 

「それでは初めてください。私もあまり時間がありませんので手早くお願いします」

 

 訓練室の外、ガラス越しからの声が響く。予想外のことが立て続けに起こり、精神的な疲労があるのだろう。そんなペトラの側に堂々と立っているシルヴィアは中々に肝が座っている。理空としても早くやることに異論はない。

 

「クインヴェールの理事長殿もああ言ってるんだ、さっさと始めるぞ」

「......羨望の旗幟たる偶像の名の下に、我らチーム・赫夜は汝雲崎理空に決闘を申請する」

 

 ニーナを除いた全員が煌式武装(ルークス)を起動する。美奈兎はナックル型、柚陽は弓型でかなり珍しい。

 

「受諾する」

試合開始(バトルスタート)

「はぁっ!」

 

 機械音声が響くとともに、美奈兎が真っ直ぐに飛び込んでくる。

 左手に構えた拳銃型煌式武装を発砲するが、柚陽から放たれた矢で撃ち落とされる。

 

「"九轟の心弾(ナイン・バレット)"!」

 

 ニーナの周辺の万応素(マナ)が反応し、ハート型の光弾が放たれるがそれを回避する。

 

「玄空流———“旋破"!」

 

 美奈兎の拳も躱した瞬間、

 

「そこです.....!」

 

 柚陽から数本の矢が放たれる。タイミングは申し分ない、が。真っ直ぐに飛んでくるものを避けるのは難しくない。

 それらも全て避け、柚陽の目が丸くなる。

 

「はああ!」

「やあっ!」

 

 ソフィアの剣と美奈兎の蹴りを短剣で防ぎ切り、2人を弾く。ソフィアの剣技はアーネストに匹敵するが、校章しか狙ってこないのならば捌ける。

 

「へぇ.......」

 

 理空は余裕を持ってクロエを見据える。予想以上にあの能力の恩恵は大きいようだ。連携が上手い。口にするよりも遥かに早いのだから当然だが、今日初めて能力を体験していることを考えるとかなり質が高い。

 反対に美奈兎達は動揺していた。5人がかりで攻めて、一撃も入らなかったのだ。前に倒したことがあるのはクインヴェールの序列七位。目の前にいる男はレヴォルフの序列四位である。

 他学園とはいえ、三つしか序列が違わないのにここまで差があるものなのだろうか。だが、このまま逃げるわけにもいかない。

 再度、美奈兎とソフィアは前に出て攻撃を仕掛け続ける。援護が面倒なので、理空は他の3人の間に必ず2人がいるような位置取りをし、捌き続ける。ニーナの周辺の万応素がまた揺らめく。先程よりも反応する数が多い。

 美奈兎の拳が空を切ると同時に視界から理空が消える。

 

『上よ!』

 

 クロエの声が4人の頭に響く。理空は星辰力(プラーナ)を脚に集中し10メートルほど跳躍していた。美奈兎とソフィアの攻撃はどうやっても届かない。だが、後衛にいた3人は別だ。

 

『ニーナ!今よ!』

「"女王の崩順列(クイーン・ハイストレート)"!」

 

 巨大な光弾が理空目掛けて放たれる。美奈兎とソフィアを盾にされていたことでさっきまでは放てなかったが、空中にいる今ならば、躱すことが出来ない今であれば当たるはず。

 そう、絶好のチャンスだ。だからこそ、クロエはニーナに指示した。

 だが、クロエは忘れていた。

 この男の二つ名を。

 その名前の由来を。

 光弾が理空に届く前に。それは跡形もなくなった。

 

「え.......?」

 

 美奈兎達は呆然としてしまう。攻撃が躱されるでもなく、防がれるでもなく、消滅してしまった。こんなもの目の前で見たことがあると言う人間の方が圧倒的に少ないだろう。

 その間に星辰力を再度脚に集中し、空中を蹴って高速でニーナとの間合いを詰めて、校章を切り裂く。

 

『ニーナ・アッヘンヴァル、校章破損(バッジブロークン)

 

 その機械音声ではっとし、柚陽が矢を放とうとした瞬間。

 

「えっ」 

 

 柚陽が立っている場所に突然穴が空く。それに従って柚陽は落下するが、落ち切る前に校章を撃ち抜く。

 

『蓮城寺柚陽、校章破損』

 

 2人が落とされ、クロエが1人後衛で孤立している。当然、そんな隙を見逃すわけもない。

 クロエに接近し、右手に持った短剣を振り上げる。

 

『クロエ・フロックハート、校章破損』

 

 《獅鷲星武祭(グリプス)》のルールと違い、チームリーダーが倒されれば終わりというものではないから続行される。

 後衛の人間がいなくなったので、銃をしまいもう1本の短剣型煌式武装を起動する。

 美奈兎とソフィアが近づいてきて2人がかりで攻撃を仕掛けてくるが、先程に比べると連携がかなり雑だ。連携の元であるクロエが落とされてしまったのだから当然だ。攻撃をするまでにタイムラグが起きたりしていて、むしろ1人1人別々に来た方が強いのではないかと思うほどだ。

 だからこそ、読みやすい。ソフィアの右足が踏み込もうとしている場所に能力を使って穴を開けソフィアの体勢を崩し、短剣を振るう。

 

『ソフィア・フェアクロフ、校章破損』

 

 残るは美奈兎ただ1人。最早詰みと言っていい状況である。美奈兎の近接戦闘能力は確かに高いが、ソフィアの方が数段上手だ。クロエがいた時の連携を捌き切れたのだから、美奈兎1人にやられる要素はない。それに、見たところ美奈兎の星辰力は極端に少ない。理空も言うほど多くない、というか、平均を下回っているが美奈兎のそれは理空のそれよりもかなり少ない。理空のように精密な制御が出来るわけでも無さそうだから、能力を使うまでもない。星辰力が切れるまで攻撃を捌き切ればいいだけだ。

 その状況がわからないほどに頭が悪いのか、諦めの悪さは一級品なのか、美奈兎の眼はまだ死んでいない。ナックルが膨らむ。流星闘技(メテオアーツ)だろう。このままじゃジリ貧だと察するだけの判断力はあるようだ。

 直進ではなく、ジグザグに俊敏に動きながら突っ込んでくる。星辰力を使っていない割にはかなりの速度だ。普通に見切れる範囲の中だが。

 繰り出された右の拳は理空の左手の短剣によって防がれていた。

 

「う.....く......」

 

 美奈兎は苦悶の表情を浮かべている。どうやら、星辰力が底をついたようだ。このまま倒れ込むかと思いきや、理空にとっても想定外のことが起こる。

 

「おおおおおおおおおお!」

「なっ......⁉︎」

 

 空になったはずの星辰力が急回復しており、再び星流闘技を施した左のナックルで攻撃を仕掛けてくる。初めて理空の表情が驚愕に染まる。

 理空の校章に向かったその拳は。

 短剣を手放した右手によって掴まれていた。

 

(そ、そんな.......)

 

 美奈兎は呆然としてしまうが、理空はそんなものは視界に映っていない。

 

「.....お前、その体質........」

 

 さすがに()()()()()()()()()()星脈世代(ジェネステラ)を見るのは初めてだ。

 美奈兎は理空が言っている言葉がよく分からずに困惑している。というか、それどころではない。今度こそ美奈兎はもう動けないのだから。

理空に拳を掴まれていることで倒れずに済んでいるという状態だった。

 

「.....まあ良いか」

 

 理空は思考を切り替え、美奈兎の校章を切り裂く。美奈兎は手を離され、うつ伏せに倒れる。

 

『若宮美奈兎、校章破損』

『勝者、雲崎理空』

 

 決着を告げる機械音声が鳴り響き、地面に落ちた短剣を拾いしまう。

 能力を使ってその場から変えようとする矢先。

 

「——少し待っていただけないでしょうか、雲崎さん」

 

 するりと、穏やかながら、真剣な声が入り込んでくる。声の主は柚陽だ。

 

「......何だ?」

「美奈兎さんのこの体質について何かご存じなのでしょうか?」

 

 そういえば、例の試合の記録映像でも美奈兎は星辰力切れで倒れていた。その際にも似たようなことが起きたのだろう。何か知っているのであれば教えてもらうことに損はない、という意図が読み取れる。

 

「教えてやる義理はない」

 

 返されたものは突き放すような冷たい言葉だった。

 この決闘とて、大サービスだったのだ。これ以上する気は起きないし、教えたところでどうにかできるものでもない。

 

「じゃあな」

「あ、ちょっと!」

 

 ソフィアの制止も虚しく、理空は姿を消した。

 反応がもうイエスと言っているようなものだ。可能ならば、教えてもらえるとありがたかったが、あそこまでしてもらっておいてそれは虫が良すぎる。

 

「お疲れ様〜」

 

 シルヴィアが訓練室の中に入ってくる。ペトラはどこかへ行ったようだ。ガラスの向こう側にももういない。

 

「理空君は.....もういなくなっちゃったか....」

「?何か言いました?」

「ううん、何でもない」

 

 シルヴィアの独り言が漏れる。総評も言わないとは、まぁ、理空らしいと言えば理空らしい。ただ、シルヴィアからすれば終わった後に連絡先を交換するつもりだったので当てが外れてしまった。

 

(ぶっきらぼうだなぁ......)

 

 苦笑しそうになるが、切り替える。生徒会長としての務めも果たさなければならない。

 

「消化不良なところもあると思うけど見つけられたものもあると思うから、頑張ってね」

「はい!」

 

 横たわったままながら、美奈兎は元気良く返事をする。

 自身の夢を叶えるための道のり。その達成は、まだまだ遠い。 

 

 

 自宅に戻り、思案していた。あの体質を持つ者がこの六花にいる可能性は否定していなかったが、こんな形で見つかるとは思っていなかった。それを抜きにしても、あのチームは中々に興味が惹かれるところがあった。

 記録映像を見たときも感じたが、かなり癖が強いチームだ。それぞれの得意分野と苦手分野がはっきりしている。

 それ故に崩れれば脆いが、ハマれば強い。それでもルサールカに勝てるかと言われれば厳しいと言わざると得ないが。だが、仮に出場が出来ればそれなりに楽しませてくれそうではあった。

 そんな期待をしていると携帯の着信音が鳴る。また知らない番号だ。空間ウィンドウを開くと見知った顔が浮かぶ。

 

『雲崎、今大丈夫か?』

「リースフェルト?何か用か?」

 

 クローディアから理空のアドレスを貰ったのか、ユリスの顔が空間ウィンドウに映る。心なしか、いつもよりも不機嫌そうだ。

 

『.....ああ、少しな』

 

 珍しく歯切れが悪い。いつもはっきりと物事をいうタイプだというのに。そして、その不満そうな表情を浮かべたまま用件を理空に告げる。

 

 

 

 

『———冬季休暇の予定は空いているか?』

 

 




 戦闘描写難すぎ。

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