学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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沙々宮家にて

 北関東多重クレーター湖上のフロートエアポート。

 その特別ラウンジにて搭乗時間を待っていた。ガラス越しには側面に複雑な国章が描かれた飛行機の姿があった。

 ユリス曰く。先日のフローラの一件でユリスの兄がどうしても国に招きたいと言い出したそうだ。それで、綾斗達4人はその誘いを受けたらしく、一緒に待っている。

 

「それにしても、雲崎君が来るとは意外ですね」

 

 クローディアに声がかけられる。その言葉はごもっともである。

 ただでさえ煌式武装(ルークス)の持ち出し申請をしなければならない上に国王陛下からの招待となると、何かしら面倒そうだ。理空はそういうことを好むタイプではない。

 

「まぁ、どうせ暇だったからな。それに———」

「それに、何です?」

 

 ユリスの故郷であるリーゼルタニアには多少ながら縁がある、とは言わない方がいいだろう。

 

「いや、沙々宮の煌式武装の製作者には興味はあるからな」

「なるほど」

 

 一応は誤魔化せたようだ。紗夜の煌式武装に興味があるのは本当だから理由の一つではあるが。

 

「オレが来るって聞いてお前らは良い気分じゃなかったんじゃないか?特にリースフェルトと沙々宮」

 

 実際に、今日理空が来た時に先に待っていた2人は理空の顔を見るなり、顔を顰めていた。ユリスに至っては電話をかけてきたときから不機嫌な様子で、他の奴に言ってもらえば?と思ったレベルだ。

 

「ええ、それはもう。ですが、誘拐事件で助力してくれたのは事実ですからね。沙々宮さんも渋々ながら納得してくれました」

「お前は?」

「はい?私ですか?協力者が来ることに文句はありませんよ?」

「『協力』、ねぇ.......」

 

 という名の『利用』の間違いだろう。どうせ、何かしら理空について知りたいからすぐに了承したという魂胆だろうに。

 そんなことを考えていると、綾斗の携帯が鳴った。どうやら電話らしい。のだが、かけてきた人間の名前を見るなり、綾斗の顔が固まる。

 

「綾斗、どうした?」

「いっ、いや、何でも——って、あ!」

 

 紗夜から手元を隠そうとした弾みでボタンに指が触れてしまう。

 

『やっほー、綾斗くん、今ちょっといいかな?』

 

 その瞬間、空間ウィンドウに朗らかに笑ったシルヴィアの顔が浮かぶ。理空は即座に気配を消して向こうの空間ウィンドウに映りようがない場所に移動する。

 こっちに気付かれて声をかけられたらどうなるかわかったものではない。

 その後、シルヴィアが綾斗にデートの誘いをした後に通話を切られ、他の4人の視線が綾斗に突き刺さっていた。

 

 

 離陸した後に5人は別の部屋に移動していた。理空はもともと座っていたリクライニングシートになっている通常座席にいる。シルヴィアの件で色々うるさく言われていそうだし、横になるのならこっちのほうがいい。

 シートを思いっきり倒して横になった。

 

 

 

「きしし。そろそろ時間ですよ、雲崎理空」

 

 .......ああ?もうそんな時間か。

 

「珍しいですね。いつもはキミから来るというのに」

 

 たまにはそういうときもあるだろうよ。それに、オレが行かなかっただけなんだからスルーしてもよかったんだぞ?

 

「ちっちっち。それではギブアンドテイクが成り立たないでしょう?あたしはちゃんと約束は守りますよ」

 

 .....そうか。オレから持ちかけた話だからな。きっちりと受けさせてもらう。

 

「ええ、そうですね。それでは今日教える分野ですが......

 

 

 

 

 今日の分はこれで終わりです。明日は授業ではありませんからそのつもりで」

 

 やっとかよ。さっさと部屋に戻るか。

 

 

 

「理空?終わったの?」

 

 ああ。まあな。お前は今日は無しか。オーフェリア。

 

「今日は理空の方に付きっきりだったから、さすがにないわよ」

 

 ふーん。まぁ、精々頑張れよ。

 

「.....他人事ね。あなたも似たようなことされるのよ?」

 

 しょうがねぇだろ。オレにとっては必要なことだったんだから。じゃあな、オレは戻る。

 

「.....することもないのに?」

 

 それはお前もだろ?

 

「ええ、だからお話しましょ」

 

 ......話すことなんかないんだけどな。

 

「じゃあ私の話を聞くだけでもいいから」

 

 まあ、どうせ暇だから別にいいけどよ。

 

 栗色の髪の少女と紺色の髪の少年は壁に寄りかかり、初めて会話をした。意外にも、これはそれなりに長く続いていた。

 お互いにとって、小さな習慣になる程度には。

 

 

「———空!理空!」

 

 声がかけられて眼を開けてみると、綾斗が理空の側に立っていた。どうやら寝ていたらしい。

 

「何だよ、天霧?」

「もう着いたよ?」

「ん、そうか」

 

 綾斗が少し不思議そうな顔を浮かべてこちらを見つめている。

 

「何だよ?」

「ちょっといつもと様子が違うな、と思って.......何かあったの?」

 

 返答に困る質問をしてくる。しかもあながち的外れでもないから余計に困る。

 

「別に何もねえよ。少し珍しい夢を見ただけだ」

 

 嘘ではない。あれに何か思い入れがあったわけではないのだから。

 

「他の4人はもう降りたのか?」

「うん、外で待っているから急いで」

「その前に、天霧」

「?何だい?」

「——歌姫様の生歌が聞けて良かったな」

「えっ⁉︎」

 

 綾斗の顔が青褪める。シルヴィアの件について理空から何も言われなかったことで内心ホッとしていたのだが、今こんな形で言ってくるのは予想外だった。綾斗からすればあの件は隠し通せていると思っていたのだから。

 理空は《鳳凰星武祭(フェニクス)》の閉会式の日の時点で見抜いていたわけなのでその努力は無駄だったわけだが。

 

「別にスキャンダルに興味はないから安心しろ。確かめたかっただけだからな」

「う、うん......」

 

 それに頷きつつも、やはり不安が膨らむ。理空以外の人間にもバレている可能性が出てしまった。そんな不安を見透かしたかのように理空が言葉を続ける。

 

「これは推測だが、その件に気づいているのは多分オレだけだ」

「えっ?で、でもレヴォルフの諜報機関って情報網が凄いんじゃ....」

「《悪辣の王(タイラント)》を嫌っている連中は至る所にいるんだよ。あの場所なら尚更だ。反乱分子をどうにかすることに意識を割いているからそんな細かい情報は手に入り難い」

 

 なるほど。筋は通っている。特に歓楽街(ロートリフト)の人間にも嫌われているという点が。

 

「仮に入っていたとしたら、何かしらのアクションを起こすだろうよ。けど、あの歌姫様は普通の様子だったろ?お前の懸念はただの思い過ごしだ。少なくとも今のところはな」

 

 確かに、空間ウィンドウに映っていた顔は初めてあった時と変わらない朗らかな笑顔だった。

 

「これをオレのいい加減な意見か適当な嘘と取るかはお前の自由だけどな」

「ううん、ありがとう」

「んじゃ、降りるか」

 

 2人は飛行機から降りて、その際に紗夜に文句を言われたがいつものごとくスルーした。

 

 

 空港から電車で1時間。紗夜の実家に到着した。一見普通の一軒家だが、そこら中にセキュリティが配置されていて、厳重な警備がされているのが分かった。

 

「.......ただいま」

「おや、ようやくお帰りかい、馬鹿娘」

 

 紗夜がセンサーとロックを解除してドアを開けると、顔立ちが紗夜そっくりな女性が出てくる。紗夜とは違い身長は綾斗と同じくらいあり、かなり高い。母親が男である理空よりも高いのに、紗夜の身長が小学生並みなのは不思議だ。

 

「香夜さん、お久しぶりです」

「ああ。久しぶりだね、綾斗。いい男になってきたじゃないか」

 

 綾斗は紗夜と幼馴染だけあって親しげに話している。紗夜の母親は香夜というらしい。

 

「沙々宮夫人、本日はお世話になります」

「ご丁寧にどーも。星導館の生徒会長さんだね?」

「はい。クローディア・エンフィールドと申します」

「あ、あの、私は——」

『まあまあ、そんなとこで立ち話もなんだろう。とにかく中へ入りなさい』

「ひゃあっ⁉︎」

 

 綺凛が挨拶しようとした瞬間、半透明の男性が現れる。

 見たところ、ホログラフのようだが.......

 

「紗夜のお父さんの創一さん。昔事故で生身の身体を失ったんだよ」

 

 綾斗が耳打ちしてくる。なるほど、それならば半透明——実体がない事も頷ける。

 綾斗自身、実態がない姿を見るのは初めてなのか、何とも言えない表情を浮かべている。

 

『ははっ、そんな顔をするな、綾斗くん。確かにわしは生身の身体を失ったが、別に不自由しとらん。むしろ煌式武装の制作にはこの方が適しているくらいだからの』

「......はい」

「........」

 

 あっけからんと言う創一に思わず苦笑して返す綾斗。

 頭のネジが飛んでいる研究者は2人知っているが、これはこれで中々のマッドサイエンティストだ。

 

「まあ、創一さんの言う通りこんなところで立ち話もなんだ。とりあえず入って入って。大したもんじゃないけど、晩ご飯も用意してあるから」

 

 そう言われ案内されてリビングに通される。中央に置かれたテーブルの上には、ずらりと料理が並んでいた。

 

「普段は自分の食べる分しか作らないからね。久しぶりに腕を振るう機会が出来て嬉しかったよ。ほら、座った座った」

 

 香夜に促されテーブルに着くと、ユリスと綺凛が改めて自己紹介をする。

 

「ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトです。紗夜.....さんには、先日身内が大変お世話になりまして、感謝しています」

「まさかうちにお隣の国のお姫さんがやってくるとは思わなかったよ。狭い所だけど寛いでいっておくれ」

「あ、あの、刀藤綺凛です。私も《鳳凰星武祭(フェニクス)》では本当に紗夜さんに助けていただいて......」

「あはは、そんな畏まらなくていいよ。寧ろうちの子が迷惑をかけなかったかい?」

「い、いえそんな.....」

 

 自分以外が挨拶し終えたため、一応自己紹介しておく。

 

「......雲崎理空。一日よろしく」

「ああ、ゆっくりしていってくれ。......それにしても両手に華どころじゃないね

 

 何か最後に呟いた気がしたが、スルーしておこう。

 その後、賑やかな食事が始まったが、理空は会話が面倒なので適度に気配を消しながらつまんでいた。 

 その度に紗夜がこちらを睨んでいたことは言うまでもない。

 

 

「さて、それじゃ部屋の方に案内しようか」

 

 夕食を終え、しばらくしたところで香夜がそう言って立ち上がった。

 

「2階に来客用の部屋が2つあるから、紗夜の部屋を入れて各部屋2人ずつでいいかい?」

「はい。問題ありません」

「ただねえ.....部屋割りはどうする?」

「部屋割り?俺と理空が一緒の部屋でいいんじゃ......?」

 

 綾斗の言う通りだ。というか、それが一番無難だろう。

 

「何だい、綾斗はそういうタイプが好みだったのかい?」

「え?」

 

 益々意味がわからない。好み?何の話だ?

 

「だって男子は綾斗1人だろう?」

 

 疑問が解けた。何やら、勘違いをしているようだ。

 

「香夜さん、理空は男ですよ?」

「えっ.......?ほんとに?」

 

 理空は無言で自分の学生証を見せる。そこにははっきりと『男』と明記されている。

 

「えーっと.....悪いね」

「別に良い」

 

 特段珍しいことでもない。この前美奈兎にも間違えられた。

 何も気にしていなかったのだが、他の4人はチャンスを逃したかのような表情を浮かべていた。

 

 

 時刻はすでに深夜。眠気は全く湧いてこなかった。普段あまり寝ないのに飛行機の中で昼寝をしたのだから当然だ。

 綾斗も何故か眠れないようで、未だに目が開いている。

 

「理空、起きてる?」

 

 こちらに声をかけてくる。無視しようかとも思ったが別に相手をすることに問題はない。

 

「ああ、起きてるぞ」

「眠れないの?」

「それはお前も同じだろ?」

「あはは....まあね。......あのさ」

「何だよ?」

 

 一瞬言うかどうか迷った様子だったが、切り出す。

 

「飛行機降りるとき、どうしたの?」

「.....随分と踏み込んでくるな」

「いや、協力するってことだからお互いを知った方がいいんじゃないかなって」

「......」

 

 綾斗の方に向き、見据える。いつもと同じとぼけたような様子だ。

 正直なところ、ある意味理空は綾斗やシルヴィアのことを苦手にしていた。

 こと、駆け引きにおいて。

 利益を優先するクローディアのようなタイプの方がよっぽどやりやすいが、綾斗のようなタイプはそういう打算が少なすぎて読みづらい。

 

 

「別に、昔のことを思い出しただけだ」

「昔の?」

「古い知り合いだ。別に仲良くもなかったけどな」

 

 端的に告げる。これ以上話すことはない。

 

(相変わらずよく分からない奴だ)

 

 何故そんなことを知りたがるのか全くもって理解出来ない。所詮、利用し合う関係だというのに。

 そんなことを考えていると扉が開き、反射的に2人は身体を起こす。

 が、入ってきた人物を見てすぐに警戒を解く。

 

「何だ、紗夜か。どうしたのさ、こんな時間に」

「んんー.......」

 

 どうやら寝ぼけているらしい。そのままふらふらとやってきた紗夜は綾斗のベッドに潜り込む。

 

「ちょ、ちょっと待った紗夜!それはマズいってば!」

 

 面倒になりそうなので部屋の扉へ向かう。

 

「じゃ、天霧。幼馴染の世話頑張れよ」

「いやいや!起こすの手伝ってよ!」

 

 それを無視して外に出る。どうせ寝ないのだ。なら布団に入っている必要もない。

 廊下の壁に寄りかかり、夢の件を思い出す。何故今さらあんな夢をみたのだろうか?

 リーゼルタニアに向かっているから、というのは流石に無理があるか。おそらく偶然だろう。

 あの変わり果てた知人は敵になる可能性がある。その時はどうするか、なんて考えているといきなり甲高い音が鳴り響く。

 

 全員が部屋から出てくる。ユリスと綺凛は眠そうに目を擦っている。

 理空を含めて誰も状況を掴めていないようだ。

 

『おー、すまんすまん。驚かせてしまったの』

 

 ホログラフが現れ、音も止まる。

 

『裏庭に侵入した輩がおったようだが、すぐに逃げてしまったようでの』

「侵入者、ですか?」

『うむ。今は痕跡などを解析しておるところだ。まあ、我が家の警備システムはそうそう破れん。安心して休んでくれていいぞ』

 

 そういうと、ホログラフは搔き消えた。

 

「........」

 

 いつになく、クローディアが真剣な表情をしているのを理空は見逃さなかった。

 綾斗も気付いたようだが、その前にユリスからピリピリした声がかけられる。

 

「ところで綾斗。1つ質問があるのだがな」

「うん?」

「おまえと紗夜が同じ部屋から出てきたのはどういうことなのだ?」

「.....あ」

 

 部屋と言われると理空にも矛先が向いてきそうである。それは面倒なのと悪戯心が湧いてきたので敢えて語弊がある言い方をしてみる。

 

「ああ、そういえば沙々宮が天霧の布団に潜り込んでいたな」

「理空⁉︎」

「ほう......じっくりと話を聞かせてもらおうか」

 

 結局綾斗は誤解を解くのに朝までかかり、綾斗が女難から逃れるのは相当に難しいというのがわかった時だった。

 

 

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