学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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リーゼルタニア

「......さすがに眠いな。朝になるまではやり過ぎたな」

「そ、そうですね。今日の夜はしっかりと休みましょうね?」

「.......」

 

 翌朝。朝まで綾斗を問い詰めていた影響でユリスは欠伸をしており、綾斗、綺凛も差はあれど眠そうにしていて、紗夜に至っては立ちながら寝るという器用な芸当をしている始末だ。

 クローディアはというと、深夜の侵入者について何か思うところがあるのか、時折真剣な顔をしていた。

 創一曰く、動物と言っていたが、それについて思うところがあるということは襲われる原因に心当たりがあるわけで。そんなことを考えていると門の前に黒塗りの車が停まる。

 

「皆さま、お迎えに来ました!」

 

 車の扉が開くとフローラが降りて正面に立つ。

 

「相変わらず元気だね。フローラちゃん」

「あいっ!それが取り柄ですから!」

 

 そのやり取りを見ているとフローラがこちらに歩いてきてペコリと頭を下げる。  

 

「雲崎様、《鳳凰星武祭(フェニクス)》の時はフローラを助けていただいて本当にありがとうございました!」

「......別に良い」

 

 《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の使い手云々で動いたわけだし、フローラのことはあの時も今もどうでもいい。

 

「それじゃ、創一おじさん、香夜さん。お世話になりました」 

「あ、姫様と天霧様は後ろの席でお願いします」

 

 綾斗が挨拶をし、車に乗ろうとすると、フローラが席を指定してくる。2人は不思議そうにしながらもそれに従う。

 

「では、出発しまーす!」

 

 フローラの声を合図に車が発進する。

 

「そういえばユリス、どれくらいで着くの?」

「そうだな......ここからなら車で2、3時間といったところだな」

「思ったより近いのですね」 

「リーゼルタニアはドイツとオーストリアの境にある山国だからな。まあ、時間もあるし簡単に我が故国について説明しておこうか。約1名、下手をすれば私より詳しいかもしれん奴がいるが——」

  

 ユリスの視線がクローディアへと向けられる。

 

「ふふっ、誰のことでしょうね」

「はぁ........」

 

 相変わらずのクローディアの態度に思わずため息をつくユリス。

 

(......確か統合企業財体の傀儡国家だったか)

 

 記憶が正しければ特一等級ベルティス隕石を狙って造られた統合企業財体の箱庭だったはずだ。

 それについての具体的な説明をユリスからされた。

 

 

「......つまり、傀儡国家?」

「身も蓋もなく言ってしまえばそうなるな。......ん?」 

 

 ユリスは説明を終えると、違和感を感じているような声を上げる。

 それと同時に、理空も車の速度が極端に落ちていることに気がついた。 

 

「どうしたの?」

「あ、いや王宮へ行くのならこの道は遠回りになると思ってな。どういうことだ、フローラ?」 

「えっと、これも陛下から仰せつかってますので」 

「兄上から?」

「あい。ちょっと待ってくださいね」

「えーと、『せっかく帰ってきたんだから、ついでに凱旋パレードをよろしく』だそうです」

「なっ......?」

 

 ユリスが愕然としていると大歓声が巻き起こる。《星武祭(フェスタ)》のそれに匹敵するほどだった。

 沿道には人が溢れ、皆口々にユリスの名前を叫んでいる。空からは紙吹雪が舞い散り、街のあちこちにユリスの写真が付いてあるポスターがある。フローラが席を指定した理由が分かった。

 

「くぅ.......!兄上め、覚えていろ.....!」

 

 そう毒付きながらも笑顔で手を振っている。堅物故に営業スマイルは出来ないのかと思っていたが、意外とそうでもないらしい。

 その後綾斗まで手を振る羽目になり、ユリスの機嫌はさらに悪くなるのだった。

 

 

 予想以上にパレードが長引き、ようやく王宮に着いた。終わった後もユリスは明らかに不機嫌であり、事実今もズンズンと王宮内を歩いている。

 

「兄上!一体どういうことだ!」

「ああユリス、おかえり」

 

 ユリスが勢いよく部屋の扉を開けると、ソファの上に寝転がり、ふわふわとした巻き毛の女性に膝枕をされている男性がいた。トレーナーを着ていて、王宮内の雰囲気に合っていなかった。

 濃い赤色の髪で、瞳の色はユリスにどこか似ている。ということは、この男性がリーゼルタニアの国王なのだろう。どう考えても政治などに興味を持っていなそうだが。

 

(傀儡国家だからボンクラの方が都合が良いんだろうな)

 

 あるいはそれを分かっていてこうしているのかもしれない。

 

「初めまして。今回は不躾な招待を受けてくれて嬉しいよ。僕はユリスの兄でヨルベルト。一応この国の国王をやっている。で、こっちは妻のマリア。ああ、ここは僕の私室なので君達も寛いでくれて構わないよ」

 

 やはり国王だったらしい。クローディアとユリス以外は呆気に取られた顔を浮かべている。

 その後、ユリスはヨルベルトにつっかかるが飄々とかわされていた。まあ、性格的にそうなるだろう。

 ようやく収まったところで、ヨルベルトがこちらを向いた。

 曰く、フローラのお礼をするために夜会を開くらしく、それに是非出てもらいたいそうだ。衣服は好きなのを貸してくれるらしいし、女子4人はともかく、綾斗と理空は着替えれば終わりだ。

 それについても聞いていなかったらしく、ユリスがまたつっかかっていったが、上手くあしらわれていた。

 

 

 あの後男女で別れ、綾斗と理空は礼服を着るだけなのですぐに終わった。理空はしなかったが、綾斗はワックスでオールバックにしていた。

 

(似合わなすぎだけどな)

 

 普段長めの髪を下ろしている人間がオールバックにするのは違和感だらけだった。

 

「それにしても......長えな、女は」

「あはは、まあ仕方ないよ」

 

 男子側が終わってからすでに1時間は軽く越えていた。身だしなみだのオシャレだのそういうことに疎い理空は服にここまで時間をかける理由が思い当たらなかった。

 夜会についてもあまり気が進まないし、食事等は適当に振る舞われるのが丁度良かったというのが本音だ。

 

「天霧はこういうのに乗り気なのか?」

「俺?うーん、あまり慣れないけど...まあ別に良いかなって」

「はぁ、善人が......まあ適当に気配消してりゃいいか」

「ちょっと不味くない?それ」

「いいんだよ。レヴォルフの生徒がいるって思われるのもあれだろ。...それに、オレの情報取りたがる人間の対応をするのもめんどくさい」

「.........」

 

 急に黙ってしまった。何か思うところでもあるのだろうか。

 

「何だよ?」

「......気配で思い出したんだけど昨日紗夜の実家で夕食食べてる時に時々気配消してたよね?」

「ああ、それがどうかしたか?」

 

 お人好しらしく、好ましく思っていないのか、という懸念を綾斗は裏切ってくる。

 

「いや、凄い巧いなって......理空って序列四位だよね?上の3人は理空よりも強いの?」

「《吸血暴姫(ラミレクシア)》程度なら余裕だな。一位、二位を()()()()()ってなるとかなり厳しいけどな」

 

 ——イレーネは、強い。体術もさることながら、《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を使われたらいかに燃費が悪いと言っても綾斗1人では苦戦は免れないだろう。

 それを目の前の序列四位は"余裕"と言った。第三者からすれば大言壮語にしか聞こえなかっただろう。

 だが、綾斗はそうは思えなかった。身のこなし、星辰力(プラーナ)の制御技術、そして正体不明の消滅させる能力。あの能力を他者の能力にも使えるのならある意味反則とも言えるだろう。

 

「オレは序列には興味ないから関係ないけどな」

「《星武祭》に出たりとかは?」

「今のところする予定はない。力を見せびらかす趣味もないし、

 

 

 

 

 

 ————殺したらダメとか、面倒すぎる」

 

 

 

 全身が、総毛立つ。綾斗は何か得体の知れないモノが見えた気がした。それが何かはわからない。だが、気を抜くとそれに呑まれてしまいそうな——

 

 ピリリリリッ。

 

 携帯の音が鳴る。クローディアからだ。ボタンを押し、空間ウィンドウを開く。

 

『綾斗、こちらの方も準備が終わりましたよ』

「......」

『綾斗?』

「え?ああ、うん。今からそっちに行くよ」

 

 そう言って通話を切る。

 

「んじゃ、行くか」

 

 背筋が凍った。この平坦な声のたった一言でだ。もしこのままあの空気を吸い続けていたら、自分はまともでいられただろうか。

 関われば関わるほど。

 知ろうとすればするほど。

 理空に対する得体の知れない恐怖が膨らんでいくのを綾斗は感じた。

 

 

 

 

 

 

(無駄に金かけてんなあ........)

 

 夜会が始まり、離宮のホールに入ると目に映ったのは煌びやかなシャンデリア、高級そうな飲み物や軽食、かなりの数の人間だった。おそらくほぼ全員が統合企業財体の者だろう。

 気配を消しているのでいちいち人を避けなければならないのが面倒だが、質問攻めに遭うよりはまだマシだ。

 実際にあの5人はそれをされており、クローディアとユリスは慣れた様子で、紗夜は相変わらずのマイペースっぷりで対応していたが、綺凛は見るからにオロオロし、綾斗もかなり四苦八苦しているようだった。

 

(.........んん?)

 

 1人の老人が目に入る。一見普通の紳士に見えるが身のこなし方が普通ではないし、星辰力も感じる。 

 何より時折綾斗達に視線や意識を向けていた。

 綾斗、紗夜、綺凛が外に出るに従って老人も外に出て行った。

 理空もその老人を尾けて外に出る。

 その瞬間、老人から剣呑な雰囲気が発せられる。

 

「「「っ⁉︎」」」

 

 3人ともそれを感じ取ったようで即座に下がる。

 数秒前まで穏やかな雰囲気だったが、老人が何か言った瞬間にそれが変わったらしい。会話を聞くために耳を澄ます。

 

「どう———意味——うか」

「いえいえ、簡単な——すよ」

 

 夜風のせいで上手く聞き取れない。もう少し近づこうとしようとすると、次の発言ははっきりと聞こえた。

 

「貴方達がエンフィールド嬢のチームに入ると困る方がいらっしゃるのです」

 

 チーム?《獅鷲星武祭(グリプス))の?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「......断ると言ったら?」

「仕方ありません。子供を手にかけるのは忍びないですからな。この子に任せるとしましょう」

 

 老人の足元に魔法陣が現れ、巨大な何かが出てくる。

 

「グルルルルル.........!」

「......キマイラ、か?」

 

 獅子の頭部、胴体に翼、尾に蛇。まさしく伝説の生物とそっくりだった。

 ただの万応素(マナ)の塊にもみえるが。以前襲ってきたトカゲもどきに似ているような気もする。

 あの老人は召喚してすぐに逃げたようだ。

 先程の老人の言葉を振り返る。クローディアと組むなということはクローディアと組まなければ《獅鷲星武祭》に出てきてもいいということだ。つまり、クローディアが誰かにとって何か困るわけで。

 

(..........ダメだな。情報が少な過ぎる)

 

 まずはあれを退けることから、と考えていると綾斗が中庭で素手で戦っている。

 手を出す必要は無さそうだ。

 

「咲き誇れ、六弁の爆焔花(アマリリス)!」

「どどーん」

「ガアアアアアアア!」

 

 大爆発が起こり断末魔の絶叫が響き渡る。炎の中でキマイラはゆっくりと溶けていき、それに伴い高濃度の万応素が周囲に四散していった。

 今回仕留められなかったことはあの老人も把握しているだろう。つまり、また来るということだ。

 

(休暇旅行どころじゃなくなっちまったな)

 

 どうやらこの旅行もただじゃ済まなそうだ。内心やや毒づきながら理空は明日以降のことを考えていた。

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