翌日。学園に行き、普通に授業を受ける。
理空はレヴォルフの生徒の中では比較的まともな人間という認識をされている。他校とも揉めたことはない上に授業もほとんど出席しているからである。実際のところ、授業なんてほとんど聞いていないのだが。
国語や社会はともかく、数学や理科については
なので暇つぶしに使っているだけである。今日も適当に流して午前中が終わった。昼休みになったので寝る体制になったその時である。
「理空さん。ちゃんと授業聞かないとダメですよ?」
「.....ウルサイスか」
プリシラ・ウルサイス。今年度クラスメイトになって以降、何故か自分によく話しかけてくる人間である。レヴォルフの中では珍しい真面目な生徒だ。理空のように授業を聞き流すということもしない。大して興味もないので最初は顔も名前も覚えていなかったが、何回も来るため名前と顔は覚えてしまった。
...余談だがそのことを知った姉である序列三位が理空に喧嘩を吹っかけてきてその時初めて姉妹だと知ったがそれは別の話。
「理空さん、聞いてますか?」
「聞いてない」
「もう.....」
不満げな声を立てるが一切耳に入っていない。どうせほとんど会話にならないから立ち上がる。
「どこに行くんですか?」
「購買」
嘘である。本当は昼食を持ってきているがこのまま無視し続けると面倒そうなので外に出ることにした。
*
「さて.....」
パンを齧りながら考える。あの件はどう進んでいくだろうか。堂々と襲ったということはおそらく襲撃犯側も余裕がなくなってきているということだろう。それに、星導館の生徒を複数人怪我を負わせるのはアルルカントの生徒だけでは無理がある。星導館の生徒を引き込んでやらせているのだろう。アルルカント側は
(昨日の集団は人形だった可能性もあるな)
仮に、人形を動かすことが可能な能力者なら遠隔操作をすればアリバイは確保できる。あくまで『仮に』だが。
どっちにしても、また近いうちに襲撃犯が動くだろう。そうなれば、綾斗の実力を見ることも可能だ。ユリスだけが襲われた場合でも綾斗は動くだろう。あれは相当なお人好しだ。
結論付けたところで教室に戻った。午後の授業も聞き流した。
*
放課後。夕飯を買う為にコンビニに寄る。適当な弁当を取りカゴに入れる。会計を済ませ、外に出ると知った顔が前を通りすぎた。
(何で天霧がここに?)
綾斗だった。コンビニに寄るのだったらまだ分かる。だが、真っ直ぐに通りすぎたのは解せなかった。走って行った方角は再開発エリアだったからだ。どう見てもそういう場所に無縁の人間が向かって行ったということは———
「襲撃犯が動いた、か」
そうとしか考えられない。そして綾斗の実力を見たい理空としてはこれはチャンスだ。綾斗を尾行することにした。
*
再開発エリアに到着した。廃ビルが立ち並ぶ。弁当をどうするかでもたついている間に綾斗を見失ってしまった。
「やっちまったな....」
そう落ち込んだ時。巨大な
根拠はないが、この星辰力は綾斗のものだと直感した。急いで向かうと、昨日の大男の取り巻きの一人である痩せた男と綾斗と綾斗にお姫様抱っこされているユリスの姿があった。
このことについては大して驚きはしなかった。しかし、綾斗があの
「——《
《黒炉の魔剣》。『四色の魔剣』の一振りで星導館が保有する純星煌式武装の一つ。全てを焼き切るとも言われている剣で純星煌式武装以外では防御不可とされている。
「ふ、ふふ、しかし使い手があなたでは宝の持ち腐れですね。不意打ちにも限度がありますよ?」
「黙れ。不意打ちしかできないのはあなただろう、サイラス」
「.....言ってくれますね。その発言を後悔しろ!」
そう言って100体以上の人形が綾斗に攻撃をする。数の力で押し切ろうという魂胆なのかもしれないが.....。
(ほとんど単純な動きしかしてないな。完全に自由に動いているのが6体、ある程度パターン化した動きをするのが16体、残りは腕を振ったり引き金を引いたりしているだけ。.....不意打ちしかできないって言ってる天霧が正しいな。こんな粗末な能力ネタがバレればもう通用しない)
理空が見抜いたことを綾斗も気付いていたようで挑発気味にそれを指摘する。
「くそがぁぁぁぁぁ!潰れろ!潰れてしまえ!」
そう言ってサイラスは一斉攻撃するが綾斗は冷静に回避しながら《黒炉の魔剣》で次々と人形を真っ二つにしていく。その動きは昨日のそれとは比べ物になっていない。サイラスの表情が徐々に絶望に染まっていく。ついに綾斗が最後の一体を切り裂き、《黒炉の魔剣》の剣先を向ける。
「ゲームはおしまいだよ、サイラス」
「まだだ!まだ僕には奥の手がある!」
そう叫んだ直後、巨大な人形が出て来る。
「やってしまえ!僕のクイーン!」
「五臓を裂きて四肢を断つ、天霧辰明流剣術中伝——『九牙太刀』!」
そう綾斗が叫んだ後は一瞬だった。巨大な人形の両手足が斬り落とされ胴体も抉られていた。
「ひっ、ひいいいいいい!」
サイラスは慌てて逃げようと人形の上に乗って上空に逃げて行く。
———のを理空が阻止する。乗っていた人形が消えてサイラスは地面に落下する。
「がはっ......な、何が起きて....」
「逃げたって無駄だっての。諦めろ」
「理空⁉︎どうしてここに?」
「お前が走って行ったのを見たからな。来てみたんだ。にしても、王子様とお姫様みたいだな」
「こっこれは違くて!」
「そっそうだ!変な言い回しはやめろ!」
「ハイハイ」
適当に揶揄っている隙にサイラスが逃げようとした瞬間に理空が能力を使用して地面の一部に穴が空けサイラスの両足がはまってしまう。
「お前らしかいないのか?」
「いや、下にクローディアがっ、ぐっ!」
「綾斗?どうした?」
綾斗の周辺に
自分の能力を使用しているのであればここまで苦しむのは不自然すぎる。
「がああああああああ!あっ...」
「綾斗?しっかりしろ!」
鎖のようなものが綾斗に絡みついたかと思えば気絶してしまった。理空はこの能力に見覚えがあった。
(そういうことか。天霧はあの女の——)
合点がいった。他にも気になることはあるが、まずは綾斗の介抱が先だろう。
「リースフェルト。天霧を治療院に、は無理か。お前も怪我してるし。天霧の側にいてやれ。こいつの引き渡しはやっとくから」
「....いいのか?」
「ああ。まずはこいつの両足を抜かないとな」
はまっている両足を無理矢理引っこ抜く。鈍い音が聞こえる。おそらく足首から先の骨と肉がズタズタだろう。
「ああああああああ‼︎」
「おい、やり過ぎじゃないか?」
「これで逃げられないだろ?」
「それは.....そうだが」
「まあ、お姫様には刺激が強かったかもな。じゃ、オレはこれで」
「あっ、ああ」
*
路地裏にサイラスを連れていた。色々と聞きたいことがあるからだ。
「ひっ、《
「いくつか聞きたいことがある。裏にいたのはアルルカントか?」
「は、はい.....」
「どの派閥の人間だ?」
「そっそれは.....」
「答えろ」
「そこまでにしていただけませんか?《消失の魔術師》」
高い声の元の方向に視線を向ける。凶々しい双剣を持った金髪の少女がいた。
「《
「いえいえお気になさらず。ですが彼の扱いについてはこちらに任せていただけないでしょうか?彼にはまだ利用価値があるので殺されてしまっては困ります」
「別に構わない」
理空の返答にクローディアは意外そうな顔をする。
「正直、渋られると思っていましたが?」
「最低限知りたいことは知れた。後は好きにしろ。そいつに運んでもらうといい」
柱の陰から男が現れる。
「いやー。まさか気付かれるとはなー。さすがレヴォルフの序列四位」
「その気配の絶ち方.....『夜吹』か?」
「驚いたぜ....。俺は里を抜けた身だから関係ないけどな」
「そうか。じゃあな」
「今日のことは、」
「他言無用だろ?わかっている」
「ええ、では
踵を返し角を回り能力を使ってその場から離れる。やはり今日綾斗について行ったのは正解だった。綾斗の情報のみならずアルルカントの情報。さらには『夜吹』の一人をお目にかかれた。
また、おそらく綾斗とユリスはタッグを組んで《
そして、クローディアの最後の言葉.....近いうちに接触してくると見て良いだろう。惰性で生きている自分にとっては程よい暇つぶしにはなるかもしれない、と理空は少し期待した。