学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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ギュスターヴ・マルロー

「ここは.......?」

「目が覚めたか」

「そうか、あれから気を失って......」

 

 王宮内の綾斗にあてがわれた部屋に理空がいた。

 ベッドの上には眠っている紗夜と綺凛もいる。ユリスの姿がないようだが.......

 

「ああ、目が覚めたのか」

 

 部屋の扉が開き、ユリスが入ってきた。

 

「えーと、何でこうなっているのかわからないんだけど....」

 

 紗夜と綺凛へと視線が向く。

 

「お前、どれくらい目を覚まさなかったと思う?」

「え?」

「3日だ」

「3日も⁉︎」

「この2人も余程心配なのか付きっきりだった。後で労ってやれ」

 

 実際、2人はすやすやと寝息を立てている。

 

「それと.....すまない、助かった。ギュスターヴまで来たとクローディアから聞いている」

「ああ、別に大丈夫だよ。ていうか、ほとんど理空がやってくれたし」

 

 若干驚いたのか、ユリスの目が見開く。

 

「そうなのか?」

「向こうが引いてくれただけだ。オレがやったのは例の幻獣の始末だけ」

「......そうか」

 

 ユリスが理空に対して静かな態度を取るのは些か新鮮だった。

 

「それで、ユリス。教えてくれないかな?——オーフェリア・ランドルーフェンとの関係を」

「......そうだな。こうなってしまった以上、お前にも知る権利があろう」

 

 ユリスはオーフェリアとの過去を話し始めた。

 理空はほとんど知っているのと、聞いても特に何も湧いてこないので聞き流していた。

 

 

 

*

 

 

 

「だから綾斗、これは私とオーフェリアの問題だ。余り手を出そうとしないでくれ」

「......了解」

「そこで狸寝入りをしている2人も口出し無用で頼むぞ」

 

 紗夜と綺凛がゆっくりと起きる。

 

「...ばれていたか」

「あ、あはは......ごめんなさいです」

「気にするな。それよりも今はギュスターヴ・マルローのことを優先せねばな」

「あれ?そういえばクローディアは?」

「あいつなら一足先に帰国したぞ」

「えっ?」

「寄る場所が出来たといっ言っていた。詳しくは教えてくれなかったが.....」

 

 理空に顔を向ける。

 

「雲崎、お前何か知っているのではないか?」

「エンフィールドに聞け。ここから無事に帰れりゃ本人から言うだろうしな」

「やはり何か知って———」

「ギュスターヴ・マルローの方を優先するんじゃなかったか?」

「......そうだな」

 

 上手く丸め込まれてしまったが、理空の言っていることも間違いではない。それにしても——

 

「理空が一緒にいるなんて珍しいよね」

 

 理空の性格上、どこかでぶらついていそうなものだったが.....。

 

「そこのバカ姫に言われたんだよ」

 

 面倒くさそうに親指でユリスを指さす。

 

「この状況で単独行動をされてはこっちが困るからな」

「元はと言えばお前がオーフェリアに挑んだのが原因だろうが。力量差も弁えずに突っ込みやがって」

「ぐっ.........」

「理空、さすがにそれは.....」

 

 言い過ぎだ、という言葉を飲み込んだ。オーフェリアの力は破格中の破格だ。それに特に準備もせずに挑むのは確かに無謀と言えた。

 それでも身も蓋もないその言い方に紗夜がジト目で理空を見る。

 それに気が付いていないのか、興味がないのか、マイペースに言葉を紡ぐ理空。

 

「次に襲ってくるとすれば帰り道か、それとも———」

「た、たたた大変です!姫様!」

 

 理空が自身の予想を言い終わる前にフローラが慌てた様子で部屋に入ってきた。

 

 フローラ曰く、大人1人と同じくらいの大きさのトカゲ(?)がかなりの数飛んでいるらしい。街はパニック状態に陥ったそうだ。

 

「やっぱそう来たか」

「え?」

「どういうことだ?」

 

 理空の言葉に首を傾げる4人。

 

「陽動だよ。警備を街に集めさせる腹だろうよ」

「いや、でも....」

 

 いくら傀儡国家とはいえ今回派遣された警備の数は相当なものだ。必要な主要施設には人員は割いているはずだ。

 

「......なるほど、そういうことか」

 

 苦々しい表情を浮かべながらユリスは舌打ちする。

 

「貧民街の方の警備はもういないな。統合企業財体からすればあの場所を守る理由は何もない」

「そして私達を釣ろうということか。———くそっ!」

 

 ユリスはテーブルに拳を叩きつける。顔が怒りに染まっており、万応素(マナ)が揺らめいている。

 

「姫様.......」

 

 フローラの一言ではっと我に帰る。

 

「ユリス......」

「......大丈夫だ」

 

 大きな深呼吸をする。今この場にはフローラもいる。動揺を見せてはいけない。

 というか、フローラがいる前で平然とこんなことを口にできる理空の神経を疑う。 

 髪を掻き上げて綾斗達に向き直った。

 

「恐らく、ギュスターヴはこの陽動に気が付かれる前提で動いている。それでも私は行かなければならない。理由は——先程言ったな?......一応言っておくが、お前たちが来る義務はないぞ?」

「今更何を言っているのさ」

 

 紗夜と綺凛もそれに頷く。

 

「オレも行くか」

「...何を考えている?」

「例の幻獣をもう少し見ておきたくてな」

 

 本当にこの男はブレない。だが、戦力にはなるだろう。貧民街をどうこうするつもりもなさそうなので止める理由はない。

 

「私に考えがある。その通りに動いてもらえるか?」

 

 

 

*

 

 

 

 空中を蹴って湖上を通る。冬ということもあって夜風は冷たかった。

ユリスは綾斗を抱えながら炎の羽を背中に生やし飛行していた。

 なにやら少しユリスは顔を赤らめているが、綾斗は何故それに気が付かないのかが不思議だった。

 

(誰を選ぶことになるのやら)

 

 綾斗は1人も気づいていないという朴念仁ぷりを発揮し続けている。

 そんなことを考えていると、貧民街付近の湖畔に1人の男が待ち構えているかのように立っていた。

 

「ギュスターヴ・マルロー......!」

「きっと来ていただけると思っておりましたよ」

「孤児院には手を出していないだろうな」

「ご安心を。正直に申し上げれば——がはっ⁉︎」

 

 突然ギュスターヴの胸から血が溢れ出る。

 

「喋ってる余裕があるならもう少し警戒しろよ」

「くっ、《消失の魔術師(ヴェイカント)》.......!」

 

 急所にまでは届いていないものの、深傷には違いない。理空とて、命を奪る気はないのだが。

 

「一応聞いておくが、依頼主は誰だ?」

「...私もプロの端くれ。そればかりはご容赦を」

 

 有能かどうかは置いておいて、そこまで小物でもないようだ。

 

「——ですが、私の最高傑作をご紹介致しましょう」

 

 巨大な魔法陣が現れ、湖面から9つの首が現れる。

 おおよそ、40メートルといったところだろうか。

 

「こいつはヒュドラか.....!」

「その通りですよ。王女陛下」

 

 傷を押さえながら嬉々とした声で頷く。

 

「私の作品を説明出来ないのは惜しいですが、これで私は失礼致します」

 

 ギュスターヴは闇の中に姿を消した。

 それと同時にヒュドラの1つの首が大きく口を開き、膨大な量の万応素が渦を巻く。

 その光線はコンクリートを抉るように吹き飛ばす。

 

(...威力は沙々宮の煌式武装と同じくらいか)

 

 綾斗が何かユリスに言っており、それに反発するが綾斗の案に乗ったようだ。ユリスが再度炎の羽を生やし飛び去る。

 綾斗が理空の隣まで来る。

 

「リースフェルトは?」

「住民の避難に向かったよ。紗夜の準備もそろそろ終わるだろうけど、理空、サポートを頼める?」

「連携なんてやったことないから期待はすんな。けどまああの光線の対処くらいはしてやるよ」

「充分......!」

 

 民家の屋根に飛び乗り、光線を掻い潜って1つの首を斬り落とす。

 

「え.....?」

 

 ———が、その斬り落とした首がぼこぼこ泡立ちながら元通り再生した。

 

「倒す条件は知らんが全部仕留めるしかなさそうだぞ?」

「......だね」

 

 神話通りなら中央の首を落とせば終わりだがそれをやるにしても他の首が邪魔だ。

 理空の能力で瞬殺出来はするが、それではわざわざ来た意味がない。

 

 綾斗が再度構えたかと思うと急にあさっての方向へ動き出した。

 何やっているんだと思い見てみると、腰が抜けている女性がいて、今にも瓦礫が崩れ落ちそうになっている。

 その瓦礫を蹴飛ばす隙に1つの首が綾斗の前に回り込んでおり、その口が開かれる。能力を使い対処しようとした瞬間、その頭部が炸裂する。

 綾斗の空間ウィンドウが開いている。どうやら紗夜の狙撃だ。

 何か話した後に綾斗が動き出す。先程よりも多少強引に斬り落としにいっているが、そこは紗夜の狙撃と理空の能力で埋めていた。

 順調に進んで、残り3つの内の2つを流星闘技(メテオアーツ)で綾斗が薙ぎ斬る。その隙に中央の首から光線が放たれるが理空によって対処される。

 綾斗が最後の首を落とそうとした瞬間に再生を終えた別の首から光線が放たれ、光線ごと斬ろうとするが無理があり屋根に叩きつけられる。

 

(再生を1か所に絞ったのか)

 

 もう充分にこれを見たので理空が2つとも仕留めようとすると、聞き慣れた声が上から降る。

 

「——よくやってくれたぞ、お前たち。お陰でこちらの仕掛けも完了した」

 

 見上げるとユリスが空中で両腕を振り上げている。

 

「綻べ———大輪の爆耀華・二輪咲(ラフレシア・デュオフロース)!」

 

 巨大な魔法陣が複数重なり、ヒュドラを包むかのような大爆発が起こった。

 

(......脳筋な。また威力重視か)

 

 ため息をつきながらも収まってきた炎の中で蠢(うごめ)いている白い何かを真っ二つにする。

 骨からも再生するようだ。

 神話へのこだわりが強い。どうもアルルカント関係の人間はそういう性格の者が多いらしい。

 その骨は溶けるように消えた。

 

 

 

*

 

 

 

 あの後、ギュスターヴは綺凛によって気絶されられその身柄を警察に引き渡した。あの傷を負っていたのでそう遠くには行けなかったらしく、すぐに見つけられたそうだ。

 事情聴取もされそうになったので理空は早々に王宮へ戻りベッドで寛いでいた。元々、理空はギュスターヴのターゲットではなかったので今回ばかりはユリスも紗夜もなにか言いたげな様子はなかった。

 

 翌日は王宮内に全員集まったらしい。らしいというのも理空はそれもすっぽかして自室で寛いでおり、持ってきていた適当な本を読んでいた。

 綾斗はその日に急用が出来たと先に帰国してしまった。内容ははぐらかされたが、十中八九遥関係だろう。見つかるにはやたら早(・)す(・)ぎ(・)る(・)とも感じるがそれが1番有力だ。

 

 その3日後、理空達も帰国することになり、行きと同じリムジンに乗っていた。

 いつもうまく理空と折り合いをつけるクローディアと綾斗がいないため、車内はかなり静かで特に誰も何も喋らずにいた。

 外をぼーっと眺めていると、ユリスから声をかけられた。

 

「雲崎」

「何だよ」

「今回の件、礼を言う」

「別にお前らとかこの国のために動いたわけじゃないから気にするな」

「それでも、だ。オーフェリアの一件の時といい、世話になった。———ありがとう」

 

 そう言って頭を下げた。

 少し驚いてしまった。理空のことを良く思っていなかったユリスがこうして頭を下げてくるとは。紗夜も綺凛も目を見開いている。

 

 特にその後も飛行機の中でも何も起こらなかったが、理空は妙な感覚を感じていた。

 

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