学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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学園祭

「そういえばもうすぐ学園祭ですね」

「そうだな」

 

 高等部2年に進級し、プリシラとまたクラスメイトになった理空。昼休みになり、例のごとくプリシラがこちらへ来たので適当に逃げようとしたのだがあまり良い言い訳が思いつかなかったのとしばらくフェードアウトをし続けたことによるプリシラの押しに押し切られてしまった。

 

「理空さんはどこかに行くんですか?」

「んー.........」

 

 会話にほとんどなっていない。プリシラが何か話題を振って理空はそれに気のない返答をする。いつものパターン、というやつだ。

 このままでは埒があかないと思いプリシラは理空の興味を引く話題を頭の中から引っ張り出し意を決して切り出す。

 

「——今更になってしまいますけど理空さん、姉の一件、ありがとうございました」

「.......はぁ?」

 

 今日初めて、いやこの一年以上を含めても初めて、理空はプリシラに焦点の合った眼をむける。

 

「何の話だよ」

「《鳳凰星武祭(フェニクス)》前に姉に『力だけが全てじゃない』って言ってくれたことです」

 

 確かに内容的にそんなことを言った覚えがある。 

 それをどうして何を理空がイレーネに貢献したと取れるのだろうか。

 

「その一言が無かったら姉はあのまま呑まれてたかもしれないですから」

「どっちみち天霧とリースフェルトがどうにかしてただろ」

 

 実際、イレーネを《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》から解放したのはあの2人だ。

 

「いえ、姉が理空さんの一言がなかったら危なかったかもしれないって言ってましたから」

「.......」

「序列は下がっちゃいましたけどあれから少し変わったというか、戻ってくれたんです。理空さんのお陰でもありますからお礼を言っておきたくて」

「......もう好きに思えよ」

 

 どうでも良さそうに吐き捨てる。

 

「あと、もう一つ」

「まだ何かあるのかよ」

「学園祭で私、露店を出そうと思ってるんです。良かったら是非来てください」

 

 そう言って自分の席へと戻る。いつの間にか昼休みが終わりかけていたようである。

 

 

 

 

 

 

 学園祭最終日。大して興味もないので毎年のように自宅に引きこもっている。行くとすればレヴォルフでのカジノくらいだが、これも普段歓楽街(ロートリフト)に行っているのでわざわざ人が多い日に行く気は起きないため昨日までずっと自宅にいた。

 しかし今日に限って言えば、グラン・コロッセオというイベントがある分時間が潰せる。何せあの《万有天羅》が関わっているという情報もある。

 そういえば、綾斗は旅行の際にシルヴィアにデートの約束を取り付けられていたが........

 

(......目に浮かぶな。主にリースフェルトと沙々宮)

 

 絶対に不機嫌になっている。クローディアはニコニコしていながら内心何を考えているか分かったものではないし、綺凛は不機嫌とはいかないまでも平常心でやり過ごすのは無理だろう。さらに問題をややこしくしているのは綾斗の朴念仁ぶりだ。おそらく誰の好意にも気がついていない。

 シルヴィアはまだ友人感覚かもしれないが3日もあの女たらしと一緒にいるとなると────

 いや、やめよう。少なくとも直接的には理空と関係のない話だ。

 そう思いつつも、シルヴィアが落ちるのも避けられないような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 《星武祭(フェスタ)》でも使用されるシリウスドームのステージにはすでにグラン・コロッセオに出場する選手が集まっていた。

 正直、選手で目を引くのは綾斗くらいだと思っていたがステージを見るとアーネストとシルヴィアまで立っている。グラン・コロッセオに綾斗が参加するのは知っていたがアーネストとシルヴィアまで参加するとは思っていなかった。他にも有力な生徒としてイレーネと《天苛武葬》趙虎峰(ジャオ・フーフォン)がいるがこの2人は別に無視でいい。

 人数が減って綾斗達5人にまで減っていたが難なく最終フェイズまで到達した。

 元よりアルルカントが造った玩具に興味はない。《万有天羅》が何か出してくるとすれば最終フェイズだろう。それを心待ちしていたところ、強烈な寒気に襲われて思わず息を呑んでしまう。

 

(誰だ?このデカイ気配は.......?)

 

 オーフェリアのそれと遜色ない。つまり《万有天羅》范星露(ファン・シンルー)だろう。

 誰か気に障ることでもしたのだろうか。だとすれば馬鹿極まりない。最もあれの地雷など常人に予期できるようなものでもなさそうだが。

 最終フェイズの始まりが近づき二体の人形が出てくる。実況の声を無視して虎峰の唇の動きに注目して読唇する。

 

(『初代《万有天羅》が残した界龍の仙具』......?)

 

 読唇したところ本来界龍の外に出してはいけないものらしい。それを躊躇いもなく出してくるあたり何者にも縛られないというのは本当のようだ。

 

 最終フェイズが始まり仙具も動き出す。かなり俊敏な動きで《冒頭の十二人(ページ・ワン)》レベルの動きだ。

 シルヴィアの流星闘技(メテオアーツ)を関節部分に喰らっても平気なあたり相当に頑丈だ。一体どんな素材でできているのかぜひ解析してみたいものだ。

 仕切り直しとなったところでシルヴィアの表情がある一点を見たまま固まる。不審に思いその方向を見てみると理空の目が見開く。

 

「.......何でいるんだよ」

 

 見間違えるはずもない。ローブで素顔はよく見えないがあの大きいネックレスは。

 

(《ヴァルダ=ヴァオス》......!)

 

 すぐに席を立ちヴァルダが歩いて行った方へ向かう。割合すぐに追いつき陰から様子を伺う。

 

 見ればどういう状況かは知らないがヴァルダと綾斗が相対し綾斗の後ろにシルヴィアが座り込んでいる。ヘルガにメールを送信して姿を見せる。

 

「よう、久しぶりだな。ヴァルダ」

 

 挑発代わりに軽口を吹っかける。挑発だと分かっていてもヴァルダにとっては不愉快極まりない。

 

「雲崎理空......この左肩の傷と共に貴様を目にすると忌々しさが込み上げてくる」

 

(......オレからすりゃあれで仕留めときたかったっての)

 

 あの初見殺しで一人も殺せなかったのは中々に痛い。

 

「最初は貴様もこちらへ勧誘しようとも考えたが、どうせ来る気はないのだろう?」

「そうだな」

「......だろうな。能力を考えても貴様は計画の弊害にも程がある。ここで死んでもらうぞ」

「はっ。お前から死ね」

 

 口ではそう言うものの星辰力(プラーナ)の流れ的に恐らく限界寸前であろう綾斗と何故かは知らないが戦う気が感じられないシルヴィアを庇いながらヴァルダを仕留めるのは難しい。ヘルガが来るまで時間を稼げば済む話だ。

 とはいえ、死んでもらいたいのもまた事実。殺気を放ちながら短剣型煌式武装(ルークス)を起動する。そのあまりにも濃密な殺気に思わず綾斗もシルヴィアも息を呑む。

 

「........」

「........」

 

 両者共に動かない。ヴァルダが下手に動けば前回の二の舞以上に悲惨な結果に成りかねないし理空もそれを狙っている。

 

「───ッ‼︎」

 

 『相互移動』による斬撃、ではなく銃型煌式武装による理空の早撃ちを咄嗟にしゃがんで躱す。ヴァルダの後ろの壁には穴が開きしゃがんでいなければ額に直撃していただろう。短剣を2本持っていただけに意表を突かれた。

 星辰力を脚部に集中させて間合いを詰めて短剣を振るう。能力を隠しておきたい以上、『瞬間移動』は使えない。ヴァルダとしても、すぐにでも精神干渉を使いたいが理空の能力の本質が分かっていないため迂闊に使えない。今乗っ取っている身体のスペックが高いのが幸いだ。

 だがそれでも、情報の有無は大きい。

 

「がっ⁉︎」

 

 ヴァルダの左脇に直径数ミリの孔が空く。面ではなく線の『相互移動』。辛うじて心臓は避けたが深傷だ。理空はまたしても致命傷を与えられずに舌打ちしたくなるのを抑える。

 ヴァルダは理空の能力を知らないし《ヴァルダ=ヴァオス》の能力が割れていることも知らない。一対一で勝つのは当たり前だ。

 再度脚部に星辰力を集中させて前に出ようとした瞬間、思わぬ妨害が入る。

 

「──待って、理空君!」 

 

 シルヴィアが斜め後ろから腰抱きついてくる。理空は脚を止め、シルヴィアに細めた目を向ける。

 

「........何のつもりだよ?」

「この人は......ウルスラは私の探してる人なの!」

 

 その一言で大方の察しがついた。《処刑刀(ラミナモルス)》かディルクの手によって誘拐か拉致かはたまた脅迫か──とにかく彼らの策謀の一つとして使われているというわけだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「知るか。こいつはオレの敵だ」

「え........」

 

 自分の身に何が起ころうとも自己責任だ。こういう目に遭いたくないのならば、それ相応のやり方がいくらでもあったのだから。

 シルヴィアが固まっている間に視線を戻してヴァルダに向けて数発発砲する。弾はそれぞれ心臓、額、首、鳩尾、両目へと飛んでいくがそれらをヴァルダは辛うじて躱したが体勢が悪い。格好の的である。

 

(こっちにだけ意識が向いてて助かったぜ)

 

 思ったよりも苦戦せずに済んだ。 《処刑刀》クラスかと警戒してたが杞憂だったようだ。『相互移動』を行うために星辰力を練る。理空の周囲の万応素(マナ)が吹き荒れる直前にまたしても妨害が入る。

 

「理空、ストップ!」

「......今度はお前かよ」

 

 綾斗が間に割って入って来る。さっきシルヴィアが入ってきたあたりから薄々察してはいたがいざやられるとさすがに苛立つ。

 

「いくらなんでもやりすぎだよ。そりゃあ向こうから襲ってきたわけだけどこれ以上は......」

 

 そういえば綾斗達にはヴァルダが《処刑刀》の仲間、つまり遥の一件に関わっていると伝えていなかった。それがこんな形で裏目に出るとは思っていなかった。

 最も、伝えていたところでこのお人好しがこうしなかったとも思えないが。

  

「甘えんだよお前らは。次邪魔したらお前ごとやるぞ」

 

 銃口を向けるが引く気配がない。敵でなくともこういう時に厄介な人種だ。クローディアの方がよっぽど御しやすい。

 

「お前もだぞ、リューネハイム」

 

 身体をビクッと震わせるがすぐにシルヴィアもまた真っ直ぐな眼を向けてくる。これも綾斗と同じ人種だろう。 

 

「.......何だ、仲間割れか?ならば我はそのうちに引かせてもらうぞ」

「別に仲間ってわけじゃ────⁉︎」

 

 突然ヴァルダの首から黒い光が広がって3人に頭の中がかき乱されるような苦痛が襲いかかる。

 

(これが精神干渉か.......!『相互移動』の発動が遅れちまった.....!)

 

「殺すとか言っといてテメエから逃げんのか」

「安い挑発だな」

 

 流石に乗ってこない。純星煌式武装(オーガルクス)だけあって合理的だ。ここで仕掛けても返り討ちに遭うだけだ。止める手段は、ない。

 頭の中の苦痛がなくなったと気づいたころにはすでにヴァルダの姿はなかった。

 

(捜索は無理、か)

 

 千載一遇のチャンスを逃してしまい思わず溜息がこぼれる。

 

「ね、ねえ理空君」

 

 座り込んだシルヴィアに顔を向ける。

 

「何だよ」

「.......ウルスラのこと、殺すつもりだったの?」

「ああ」

 

 問いに対するあまりにも端的で残酷な答え。

 シルヴィア自身、理空に対してそこまで理想を抱いていたつもりはなかったが友人になれそうだと思ってた人間が自身の師を殺そうとするのをこの眼で見るのはやはりショックだった。

 

「で、でもさ殺すことはなかったでしょ、シルヴィの大切な人なんだし......」

「オレには関係ねえんだよ。綺麗事は通じる奴にだけ言っとけ」

「.......っ」

 

 本当にこの2人の言っていること、特に綾斗の言っていることは意味がわからない。

 

「それとさっきも言ったが、次オレの邪魔したら容赦しねえからな」

「───そこまでだ」

 

 威嚇のつもりで剣先を2人に向けたところで背後から声がかかる。声で誰だかはすぐに分かった。間が悪いというかなんというか、欲を言えばもっと早く来てもらいたかった。

 

「ヘルガ・リンドヴァル警備隊長⁉︎」

「初めまして、だな。雲崎君からおおよその事情は聞いている。急で済まないが話を聞かせてもらおう」

 

 理空に一瞬鋭利な眼を向けてくるヘルガ。

 仕方がないと言えば仕方がないのだが、これから長い取り調べが始まると考えると再び溜息をついた。

 

 

 

 

 

 




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