真っ白な天井。目を開けて最初に映ったものだ。周りを見渡せばローボードの上に小さめのテレビとベッドが一つがあるだけの殺風景な部屋。 そのベッドの上で理空が仰向けで寝ている状態だった。どうやら治療院の病室にいるらしい。あれだけやられた身体も傷一つないどころか痛みもない。どれだけ経ったかはわからないが治癒能力者によるものだろう。
(...こりゃ治療費と入院費が
金を稼ぐつもりで外出したつもりが金を消費するきっかけを作っているというのはなかなかに笑えない。
───────想像の幅を広げろ。
星露の言葉を反芻する。癪だが聞き入れるが吉だろう。今の自分ではヴァルダはともかく《
まだ自分の能力を引き出しきれていない、ということか。
「ん?目を覚ましていたか」
いきなり病室の扉が開き眼鏡をかけ頭がほとんど禿げ上がった偏屈そうな老人が入ってくる。
「......初めまして、ヤン・コルベル。何しに来た?」
アスタリスク治療院の最高責任者にして世界最高の医師。それほどの存在がわざわざ様子を見に来たということは痛みがないだけで何らかの後遺症が残るほどの重症なのだろうか。
「案ずるな。別におまえの怪我についてはもう心配いらん。見つけたときは瀕死に近かったがな」
「どこでオレを見つけた?」
「......?見つけるも何も
確実に星露の仕業だろう。どうせなら中まで運んで事情まで説明してもらいたかった。
「まあいいわい。怪我よりも不可解な点があったからな。...
「また?」
「数ヶ月前に同じような嬢ちゃんが入院していたぞ。最近の若者はすぐに無茶をする。こっちの身が持たんわい」
また美奈兎か。
「少しデータをとらせてもらう。もう一日二日泊まっていくがいい」
ヒルダをもってしてもかなりの時間をかけて調べた体質だ。データを取ったところで大して変わらないとは思うが特段断る理由はない。
「それと、警備隊長が一回来ていたぞ」
ヘルガ?何か進展でもあったのだろうか。ポケットから端末を取り出そうとして今は病衣を着ていることに気がつく。
「そういや、オレの端末は.....」
「粉々になってポケットに入っておったぞ。一応保管はしてあるがどうする?」
「...いや、いい。処分しといてくれ。」
当たり前といえば当たり前だ。あれほど激しい戦いをしたというのに無事なはずがない。
いずれヘルガも来るだろうが情報は早く取得しておきたい。
「警備隊長と通信させてもらえるか?」
「む、まあいいだろう」
ポケットから端末を取り出し、空間ウィンドウを開く。音声通信だがすぐにつながった。
「よう、警備隊長殿?」
『......雲崎君か?もう目覚めたのか?星辰力が切れていたと聞いているが......』
「その話は後にしろ。何か用があったんじゃないのか」
『ああ、その通りだ。通信で言えるようなものではない。今すぐにそちらへ向かうから待っていてくれ』
通信が切れる。どうやら、休息もろくにとらせてくれないらしい。
*
「すまない、待ったか?」
「10分ぐらいな」
そこは『別に待ってない』と言うべき場面なのだが、理空はそういう人間だともう充分知っているので特に気にしない。
「オレが寝てる間に一回来たのは本当か?」
「電話もメールも繋がらなかったからな。君はいつもすぐに反応するだろう。何かあったのかと思って捜索能力をもった能力者に探してもらったんだよ。治療院前と聞いた時は耳を疑ったがね。君を治療院送りにできる人間はそう多くないと思っていたが......」
事実その通りだ。勝ち目が薄いとわかれば『瞬間移動』で適当な場所に逃げればいいのだから。異空間なんてものを展開されでもしなければ今回も確実にそうしていた。それを加味すれば理空を単体でここまで追い込める人間はこの六花にも精々片手の指で足りる程度だろう。
「《万有天羅》と少しな」
「.......《万有天羅》だと?」
「前々から目をつけてたそうだ。遭遇したのは偶然だと思うけどな」
「あまり関わらないことを薦める。あれは別種の存在だ」
「分かっている」
向こうが勝手に絡んできただけだ。自分から関わる気など毛頭ない。
「それで、何の用だったんだよ。急を要するものだったのか?」
「ああ、見てもらいたいものがある」
「今からか?」
すでに日も沈み辺りはすっかり暗くなっている。
「ああ。急いでくれ。あまり時間は取れない。ああ、着替える必要はないぞ」
「......?」
色々と聞きたいことがあるが後にしよう。病衣でいける場所なんてそうそうないし、それにどこかヘルガの機嫌が悪そうだ。
(院長室......?)
「ふん、来たか」
ヤンが座って待っていた。空間ウィンドウが開き操作をすると扉が開き通路が見える。明らかに普通の場所ではないことがわかる。
「ついてきてくれ」
ヘルガの声に従い進む。途中途中で患者が目に入る。どうやら表に出せないような人物が大怪我を負った際に運ばれる場所らしい。道理でヘルガの機嫌が悪いわけだ。警備隊としては非常に不本意な事実だろう。
ヤンが足を止めると同時にとある方向を向く。つられて理空も見る。
思わず息を呑んでしまった。
カプセルの中で死人のように眠っている女性。紫色の髪。どことなく綾斗と似た雰囲気を持っている。
眼鏡はつけていないが見間違うはずがない。あの時《処刑刀》に斬られた人間。天霧遥だ。
「これをオレに見せて良かったのか?」
「ああ、申請が受理されたからな」
「何のために見せた?」
「君の記録映像には他者の能力を消滅させるものがあったからな」
その一言で察した。奇しくも綾斗とヘルガは同じ発想に至ったらしい。
「単刀直入に聞こう。君の能力でこれを解くことは可能か?」
「........不可能じゃないだろうな。けど少なくとも今はやる気が起きない」
綾斗達にも言ったことだがリスクが大き過ぎる。下手に『移動』させようとすると能力が暴走して遥の命を断つかもしれない。こんな重労働をした上に何のリターンも帰ってこないのは御免だ。よしんば成功したとしても《処刑刀》が何をしてくるか全く読めない。少なくとも《
「...何か考えがあるんだな?」
「ああ」
「まさかまた────」
「その類のものじゃない」
「...そうか」
納得、とまでは行かないまでも受け入れてはもらえたらしい。
「見つかった時期は?」
「冬季休業の時だ」
「いくらなんでも早すぎないか?」
ヘルガは痛いところを突かれたのか、苦虫を噛み締めたような表情になる。
「ああ、天霧君には悪いが早く見つかりすぎて悔しく思ったくらいだ。《
「捜索ポイントを指定してきたのはマディアス・メサだったよな?」
「ああ。.......君も同じ考えか?」
「どこまで関わってるかは知らんが元々あいつから胡散臭さは感じていた」
《処刑刀》の正体の有力候補にはなる、というかほぼ理空の中では確定している。辻褄が合ってしまうのだ。《ヴァルダ=ヴァオス》の能力を使ってまで正体を隠さなければならないほど有名で尚且つあれほどの戦闘能力を有している人物。
───────何より《
しかしそうなると目的が尚更見えてこなくなってくる。もしマディアスが《処刑刀》なら理空がこの場に入る許可を与えるメリットはないはずだ。
理空の方にもあまりメリットはないが、それにしても手間を考えたらやる意味はない気がする。
「お喋りなら余所でやっとくれ」
ヤンがぶっきらぼうな声を浴びせてくる。だがまだこの老人には聞きたいことがある。
「一つ聞きたいんだけどよ」
「なんだ」
「あんた、なんでこの女の治療を続けてるんだ?誰かに依頼されたのか?」
この返答次第じゃヤンも怪しくなってくる。
「前《
「?もう死んでるだろ。やる義理ないんじゃないのか?」
「そこまで落ちぶれとらんわ。ダニロが死のうとも契約自体はまだ生きとる」
(いや、生きてねえと思うけど......)
自分ルールというやつか、はたまた良心がそうさせているのか。どちらにせよ、理空の懸念は杞憂のようだ。
今理空がすべきことはマディアス・メサという人間を捕らえることだ。それは尻尾の先すら全く見えない胡散臭いでは済まないであろう人物を掴まなければならないというとてつもなく大きい難関に直面しているということを再認識した。
ちなみにわざわざここに入る許可を与えたのは遥の封印を解いてくれるという微かな期待からです(誰がとは言いませんが)。
原作でも意味のないであろう行動をしていたためこういう展開にさせていただきました。
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