学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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《獅鷲星武祭》編
舞台裏の陰謀


 《獅鷲星武祭(グリプス)》開会式当日。本来行く必要もないイベントだが、マディアスをこの目で見るためには足を運ばざるを得ない。すでにマディアスによる演説が行われている。

 出場チームを見るとチーム・赫夜の名前もあった。驚いたことにルサールカに勝ったらしい。あの短期間ではいくらなんでも無理があると思っていたが、想像以上の成長率を持っていたらしい。 

 

 シリウスドームの観客席に座りステージを見下ろすと大型改修により最早別物に変わっていた。噂では次の《王竜星武祭(リンドブルス)》に統合企業財体の最高幹部が来るという話がある。そこまでこぎつけさせたのもマディアスだとか。

 

 その辺りの裏事情を考慮すると今回のマディアスの演説は詭弁にしか聞こえない。綾斗も同じなのか、《鳳凰星武祭(フェニクス)》の時以上に冷静だ。

 

 マディアスと一瞬目が合ったような気がした。その人の良さそうな顔の裏には自分と同じような空虚さが垣間見える。やはり胡散臭くてしょうがない。何かへ向かって今の立場を確立し、それを最大限利用しているように感じられる。少なくとも他人に尽くすタイプには見えないのだ。

 

(何を企んでいる?マディアス・メサ)

 

 

 

 

 

 

 観客席の最上段に座っている紺髮の少年を見据える。やはり、自分たちの計画に引き込めるとは思えない人材だ。かつての自分にそっくりだ。

 

 他人のことをどうでもよく思い、物事や人物を害か無害で判断する。

 

 かつて自身が二代目《万有天羅》に指摘された鬼気の欠如。

 

 自分と似たような生を送って来たとするなら無理もないだろう、と思う。自分とて自身が唯一愛した人間が消されなければその身に宿すことはなかったのだろうから。

 とはいえ、打算を優先するのであれば引き込む事はできなくとも手を引かせる事は可能かもしれないと考えたところで一旦頭の中にストップをかける。

 今は演説中だ。一点を見続けるのは不味い。

 この演説を終えたら自分の同志達とともに検討をすればいい話だ。同志の一人は二度にわたって深手を負わされているのだ。これ以上刺激するのも得策ではないだろう。

 

 男は自身の野望の実現のために頭を回転させ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 理空は久しぶりに面食らっていた。チーム・エンフィールドは危なげなく一回戦を突破した。ここまではいい。問題なのはその後だ。試合後の取材でクローディアが自分の願いを暴露してしまった。しかも銀河の最大級の汚点であるあの教授と面会するという内容をだ。間違いなく銀河が動く。こんな何の生産性もない行動をとった人間が空間ウィンドウに映し出されていて、理空はその人間を細めた目で見据えていた。

 

「お前は一体なにを企んでるんだ?」

『ふふっ。あのタイミングが最善だと判断したまでですよ』

 

 こうして通信が出来ている以上襲われてはいないようだが時間の問題だろう。

 

『ですがこれ以降通信は控えた方がいいでしょうね。雲崎君も巻き込まれるでしょうから』

「すでに手遅れな気もするけどな。それで何もしなくていいんだな?」

『ええ。ここまできたら雲崎君にしてもらうことはなにもありません』

「んで、お前の本来の願いは?」

 

 一瞬クローディアの笑みが消えて真顔になる。

 

『何のことでしょう?』

「すっとぼけてんじゃねえよ。例の教授と面会したいだけならバラすことにタイミングも糞もないだろうが。何か裏があるって考えるのが自然だ」

『大丈夫ですよ。全てが順調に進んでいますから。心配はいりません。では』

 

 色々と聞きたいことがまだあったのだが、勝手に切られてしまった。思わずため息がこぼれる。

 

「.......死にたいなら勝手に死にやがれっての」

 

 放っておきたいがヒルダには遥を目覚めさせてもらいたい。そのためには綾斗達の《獅鷲星武祭》の優勝が必要不可欠だ。もちろん、クローディアも。

  

 端末─────特殊改造したものを取り出し、銀河の情報にアクセスしようとした瞬間に着信音が鳴り響く。通常の端末の方だ。

 

 操作すると空間ウィンドウに黒バイザーをつけた女性が映し出された。

 

『久しぶりですね。《消失の魔術師(ヴェイカント)》』

「......ペトラ・キヴィレフトか。何か掴めたのか?」

 

 あの交渉をしてから数ヶ月が経っている。クインヴェールの情報網を持ってしても掴めないほどなのかと思っていたが、やはりかなりの諜報能力を持っている。

 

『《処刑刀(ラミナモルス)》という人物はかつて《蝕武祭(エクリプス)》で専任闘技者を務めていた男です』

「へえ」

 

 自分が見たのはあの一試合だけだったがあの強さを見れば専任闘技者を務めていたというのも納得がいく。

 

『《処刑刀》との戦いは名前の通り、試合ではなく処刑をされるということを意味するほどに強かったそうです。姿を現すことは稀だったようですが』

 

 つまりあの試合はかなりレアだったという事になる。

 

『彼は常に仮面をつけていてその正体は未だに不明です。最も、実力からしても有名な人物であった事は間違いないでしょうね』

 

 仮面をつけていたところで正体は隠せるものではない。これが意味するのはその当時から、あるいはさらにそのずっと前から、《処刑刀》と《ヴァルダ=ヴァオス》は手を組んでいたという事が確定事項になる。

 

『それと、金枝篇同盟という組織に聞き覚えはありますか?』

「...ないな」

『私もです』

「はあ?()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな組織は警戒するまでもない小物がほとんどだが、今回に限っては話が別だ。

 

『《処刑刀》という人物はその組織に所属しているそうです。最近になってその名前が引っかかるようになったんです。これはシルヴィアの例の行動が深化した時期と重なります』

「......それをオレに言ってよかったのか?」

 

 自分の学園の生徒会長の動向をわざわざ他学園の人間に、それもレヴォルフの人間に話すのは普通に考えれば悪手もいいところだ。

 

『元々シルヴィアのあの行動は知っていたのでしょう?それにこの情報を漏らせばあなたもただでは済みません』

「優秀なこって」

 

 確かにそんなことをすればクインヴェールは大打撃を喰らうがそれは同時にペトラが理空との手を切る充分な理由にもなりうる。貴重な情報源が消えてしまうのだ。総合的に見ればクインヴェールが一番の貧乏くじを引くことになるのだろうが、理空にとっては旨味が一つもない。何ならW&W(ウォーレンアンドウォーレン)が理空を始末しようとしかねない。

 

『話を戻しましょう。金枝篇同盟という組織のその他の詳細は一切不明。直接的になにかがあったわけでもありません。ですが......おそらく相当に危険な組織でしょう。あなたが警戒する《処刑刀》という人物が関わっているとなれば尚更』

「ほとんどが勘か?」

『不満ですか?』

「いいや、オレも同感だ。勘だがな」

 

 人間の直感というものは案外バカにできない。実際に理空もそれに助けられた経験があるのだから。

 

『今回伝えられる情報は以上です。念のために言っておきますがシルヴィアがあのような場所に頻繁に行っていることは漏らさないようにしてください。これはお願いではなく警告です』

「オレじゃなくてあいつに釘をさしたほうがいいんじゃねえの?」

『.........とにかく漏らさないように。では』

 

 空間ウィンドウが消えて部屋が暗くなる。

 

(銀河に金枝篇同盟、か)

 

 思った以上に問題が多い。恐らく金枝篇同盟は数年、いや下手したら十数年以上の時間をかけて計画を進めてきている。それに加えて銀河だ。《鳳凰星武祭(フェニクス)》とは比べ物にならないほどの陰謀が渦巻いている。半分以上がクローディアが蒔いた種であるのがやや腹立たしいが、自分から首を突っ込んでいる身だ。引き際を間違えれば死ぬだろう。

 

(諜報活動だけ、といきたいところなんだが果たしてそう上手くいくか?)

 

 恐らく理空とクローディアが協力関係にあることは銀河に漏れている。実働部隊に来られたら厄介だ。まあ、他学園の生徒を始末しようとするとなるとかなりのリスクがあるから実働部隊までは動かさないだろうが。

 何も起きないことを希望しつつも内心無理だろうという考えも頭の片隅にあった。

 

 そして後にこの懸念は当たる事になる。 

 

 

 

 

 

 

 

 星導館の敷地内で制服を着崩した男子生徒が複数人の黒装束によって身体を押さえつけられ、それを木の枝の上から老人が見下ろしていた。

 

「よいか、愚息よ。我々の邪魔をしようとしてくれるなよ」

「......はいはい、わかっていますとも。俺も自分の命は惜しいんでね」

「良い心がけだ。それと、一つ仕事をやろう」

「......はい?」

「《消失の魔術師》が何やら嗅ぎ回っているとのことだ。それの監視と必要があらば足止めをしておけ。『影星』を何人か貸してやる。必要とあらば────分かるな?」

「........」

「不服か?」

「いえいえ、喜んで受けますとも」

「......ふん」

 

 黒装束達と老人は姿を消す。思わず男子生徒は舌打ちをしてしまう。あれの言いなりになるのはひどく気が進まない。

 だが、正直なところ《消失の魔術師》には前から興味はあった。ただ、情報が少なすぎて危険度が未知数なため今まで手を出してこなかったのだ。クローディアと繋がっていることを考えればあの内容も理解出来る。それらを含めれば今回の仕事は"納得"して実行できる。それは任務を受ける際にこの男子生徒が最も重視する点だ。

 

「あーあ全く、新聞部の仕事がまた溜まってくじゃねーか」

 

 

 そんな軽口を叩きつつも、その男子生徒は調査へと足を運ぶのだった。

 




 おそらくこの章はあと一、二話で終わりなので過去編は《獅鷲星武祭》編が終わったら書こうと思います。アンケートに参加してくださった方々、ありがとうございました。

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