イレーネのことは別に嫌いではありません。最初にそれだけは言っておきます。
『随分と久しぶりですね。あなたから連絡が来るとは珍しい』
「ついさっき《
『きしし。筆頭のいない派閥などそんなものですよ、雲崎理空』
端末に映っている人間は独特な笑い方をしながら理空と会話する。
《超人派》会長 ヒルダ•ジェーン•ローランズ である。
この二人は仲の良いとも友人とも言えないが、旧知の仲だ。傍から見れば歪過ぎる関係ではあったが。あの場から離れた後ヒルダに連絡をして現在の《超人派》の現状を聞こうとしているところだったが、そもそもヒルダは部下のことを気にする人間ではなかったので無駄足だと悟る。ただの無駄足にするのは癪なので興味もないことを聞いてみる。
「そういえば、あの実験の鍵はまだ見つかってないのか?」
『ええ。ペナルティは予想以上に手痛いものでしてね。オーフェリア・ランドルーフェン以外の成功例がありません。それにあなたのところの
《
「取られたお前が悪い。要件は無くなったから切るぞ」
『随分とせっかちですね。他に聞きたいことは無いんですか?あなたには今も感謝しているのですよ?何せあたしにとって未知の素晴らしい研究をさせてくれたのですから』
「互いの利害が一致したからだろ?それに何年前の話だよ。じゃあな」
通話を切る。
本来、あの時切れる関係だった。もう理空が提供できるものは無くなったためだ。しかしヒルダの気まぐれか、今も自分の質問に可能な限り答えてくれるため未だに連絡先も関係も切っていない。理空から見ても頭のネジは外れていると思うが、それでもあの頭脳は高く評価している。何よりああいうタイプをそこまで嫌っていないというのが大きいだろう。まぁ、助け合うだとか協力関係だとかそういった綺麗な関係ではないことは確かだが。
そういえば、綾斗の姉である天霧遥は確か今仮死状態だが、ヒルダなら或いは————。綾斗が一番手を借りたくないタイプの人間だろうが、果たして綾斗はどうするのだろうか。理空もどこで遥は眠っているのかは知らないから助言は出来ない。推測することは可能だがそれでも部外者の理空に確認することは難しいだろう。どちらにせよ、綾斗は
《
*
あの後、綾斗と綺凛は再度決闘をしたらしく綾斗が新序列一位になっていた。綺凛は負けたがどこか吹っ切れたような表情をしていたから恐らく更なる高みへと登るだろう。
その証拠に《
イレーネ・ウルサイス
プリシラ・ウルサイス
どう考えても解せなかった。《
*
薄暗く陰気な廊下を無言で進む。この場所は一般の生徒には立ち入りが許されない区画だが、それを一切気にしないで歩き続ける。
レヴォルフ黒学院には『強者への絶対服従』という唯一絶対のルールがある。理空は序列四位、つまりレヴォルフで四番目に強いことになっているので大抵の要求は通る。
理空は序列四位になった時に与えられた権限を使ってセキュリティチェックをパスして奥に進む。
今回向かっている場所は懲罰教室。レヴォルフの中でも特に凶暴凶悪の学生が集められている牢獄の様な場所だ。理空が話したい相手はその場所にいる。
入口に着いた理空は警備員に話しかける。
「おい。イレーネ・ウルサイスの部屋に案内してくれ」
「イレーネ・ウルサイス?既に釈放されましたけど......」
「入れ違いになったか....」
結局自分で探すしかなさそうだ。どうせあの女のことだ。どこかしらで暴れているだろう。イレーネの持つ
小さくため息をついて歓楽街に向かった。
*
ビルの屋上から屋上へと飛び移りながら探索する。騒ぎになっている場所にいる確率が高いと考えていたが、珍しく騒ぎを起こしていないようだ。こういうときに限ってすぐに起こしていないものだから中々見つからない。そんなことを考えながらも探索を進めるととある光景が目に入る。
レヴォルフの制服を着崩してマフラーを首に巻いている女子生徒と男数人が乱闘している。その女子生徒はイレーネであった。以前暴れられたカジノの職員達がイレーネに絡んだのだろう。ほとんど一方的な展開ではあるが。体術で大きく劣っているのに純星煌式武装まで使われていてはいくら人数がいてもほとんど同じである。みるみるうちに数が減っているので終わるのも時間の問題だろう。
そんなことを考えながら見ていると最後の一人にイレーネの蹴りが入り乱闘が終わる。物音を出し気づかせる。
「誰だ⁉︎」
「相変わらず血気盛んだな、《吸血暴姫》」
「チッ、テメエか.........」
舌打ちをされる。自分に対して陽気に接して来る人間はレヴォルフではロドルフォくらいのものだからこういう反応には慣れているが。
「聞きたいことがあって来た」
「何だよ?」
「いや、なんで《鳳凰星武祭》に出るのかって思ってな」
「仕事だよ。わざわざプリシラを巻き込むわけねぇだろ」
イレーネはぶっきらぼうな態度を崩さない。が、それについては予想していたのでさらに踏み込む。
「そうか。で、どんな内容なんだ?」
「.....星導館の序列一位を潰せって内容だよ」
「《疾風迅雷》を?」
「《叢雲》だよ。わかってんだろうが」
敢えて知っていることを知らない風に装い、イレーネの口から言わせる。
「へぇ.....?確かに強いは強いがそこまでこだわるほどでもないと思うがな」
「あたしが知ったことじゃねぇよ」
理空が思っていた以上にイレーネは冷静だった。《覇潰の血鎌》の影響でもう少し感情的になっていると思っていたのだが。
しかし、何故綾斗を狙うのだろうか?先程言ったようにディルクがこだわるほどの強さではない。他校の序列一位に比べるとどう見ても劣ってしまうだろう。封印が完全に解けていれば話は別かもしれないが....。
では、現段階の実力以外のものだろうか?綾斗についての情報はそこまで出回ってないはず。それ以外ですぐに分かることで警戒するもの.....
使用武器くらいのもの———
《
「何でそいつを潰すのか聞かなかったのか?」
「チッ....聞いたよ」
「で?」
「《叢雲》が持ってる《黒炉の魔剣》が後々面倒なことになるんだとよ」
「なるほどな」
あの試合をディルクも見ていたのは覚えている。その試合の中ではそれほど危険なところは見られなかった。その前に《黒炉の魔剣》で妨害を喰らったのだろう。それならば合点がいく。
「けどよ、お前一人でどうこうなる相手か?パートナーは《
「.......一人じゃねぇよ」
イレーネの声に怒気が含まれ始める。
「そうか?ならなんで妹に戦う術を教えないんだ?」
「うるせぇ.....」
「あの二人ならともかく、
「うるせぇ.............!」
「いくら高い質の
「うるせえって言ってんだろ‼︎」
我慢の限界を迎え、イレーネは《覇潰の血鎌》で理空の立っている場所に過重力をかける。
理空はそれを冷静に能力で対処する。
「オマエに何が分かるってんだ⁉︎」
イレーネは叫ぶ。その形相は今にも理空を襲わんとしそうである。しかし、理空の一言で一気に冷める。
「何も分かりやしねえよ」
「は.......?」
「オレは疑問を投げかけただけだ。正直、何でお前が《鳳凰星武祭》に出るのかだけを聞きに来るつもりだったしな。その過程で疑問が出て来たから聞いただけだ」
「..........」
そうだった。この男はそういう人間だった。以前プリシラ絡みで喧嘩を吹っかけた時も同じような反応をしていた。
他人が激怒していようと同じように感情をあらわにするでもなく、楽しむでもなく、ただただマイペースに返してくるのだ。
「......結局のところテメエは何がしたいんだよ」
「何って言われてもなあ。今回に限って言えばさっき言った通りだ」
この言葉に嘘は無い。実際のところ、理空にとってウルサイス姉妹のことなんてどうでもいいのだから。
「ただまあ、気まぐれで言わせてもらうなら力はあくまでも手段の一つってことくらいだ。精神侵食の影響かは知らんが本質が見えなくなってきているお前が滑稽に見える」
「....そうかい」
侮辱されているとも取れる言葉ではあるが、怒っても無駄なのだからイレーネはかえって冷静になる。
「情報提供感謝するぜ。じゃあな」
その言葉を残して理空はイレーネの目の前から消える。
どうも、イレーネは理空と会話するとペースが狂う。理空が何を考えているのかが分からないのもそうだが、内面の異端さにだ。
いくら考えてもわからないことだからペースが狂ってしまうこと自体は諦めてはいた。
今まではそれで良かったが、今回の理空の言葉はイレーネの奥深くに突き刺さった。
「どうしろってんだ.........」
そう呟くイレーネの声は誰にも聞こえない。
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