紗夜と綺凛の初戦の相手はリスト外の
『刀藤選手はついこの前陥落したものの、元序列一位!いやー、こうして見ると小さいながらも泰然自若とした態度が——』
『ナナやんナナやん!そっちはパートナーの沙々宮選手!刀藤選手はこっち!』
『ええぇー?マジで?あれで高校生ってヤバくない?』
観客席から笑いが出てくる。理空もかなり驚いていた。身長は良いところ150cm程度しかないだろうし、スタイルも考えると小学生と言われても違和感がない。
『えー、それは大変失礼をば!』
紗夜は見るからに不機嫌になり、綺凛は苦笑いしている。とはいえ、試合がすぐそこにあるのですぐに切り替えてはいる。
理空が見たこともないような巨大な銃型
見たところ普通のマナダイトが埋まっているので
綺凛も刀を抜く。
『《
開始と同時に四者が前に駆け出す。界龍の拳士と綺凛が、青龍刀使いと紗夜がぶつかる。
綺凛の左切上を弾き、拳士は肘打ちをしかけ綺凛はそれをかわす。高段蹴りを拳士が放った直後、
————一閃。
『
『一瞬の攻防を制したのは刀藤選手ー!』
『ナナやんこっちも面白いことになってんで!』
『おー⁉︎何だあれは⁉︎』
剣に対して紗夜は剣型煌式武装ではなく、最初に起動した巨大な銃型煌式武装で打ちあっていた。
連続の突きを全て捌かれた界龍の生徒が跳んだ瞬間、
「バースト」
大砲のような威力の弾が打ち出され、直撃する。
『校章破損』
『決まったー!勝者星導館学園、沙々宮紗夜&刀藤綺凛ペアー!』
(へぇ.......)
普通のマナダイトを使っているにも関わらず、純星煌式武装にも劣らない威力。どういう仕組みになっているのか詳しく見てみたいものである。撃つまでにそれなりに時間をかけていたためインターバルを取る必要がありそうだが、紗夜は近接戦闘もある程度心得ているようだ。リスト外という情報だが、恐らく実力はユリスと互角程度のものはある。下手な《
会場を移動して正解だった。この後には
*
「雲崎?」
自販機の前でコーヒーを飲んでいたら後ろから開会式の後に初めて聞いた声が聞こえる。
「沙々宮?お前も飲み物を買いに来たのか?」
「そう。私と綺凛の初勝利祝いに」
「そうか。ん?いや、でも.....」
今二人がいる自販機の前は紗夜と綺凛の控室からも、星導館の生徒会室からも遠い。なぜわざわざここの自販機に?と疑問が湧いてきた後にとある考えが横切るが流石に無いだろう。
「どうした?」
「いや、何でもない。そういえば天霧たちも勝ったらしいな。天霧が瞬殺したそうだ」
「知っている。流石は私の綾斗だ」
さりげなく『私の』と入れるあたり、紗夜は綾斗に惚れているのだろうか。余程女子を落とすことに長けているらしい。理空から見てもユリスと綺凛も惚れているだろう。さらに、前に調べたところ綾斗はクローディアが権力を使って無理矢理特待生枠にねじ込んだと聞いている。クローディアの《パン=ドラ》は未来予知があるそうだが.....いや、流石に考え過ぎだ。憶測で決めつけるのは良くない。
「じゃ、オレは観客席に戻るわ」
「待った」
煌式武装について聞こうと思ったが《鳳凰星武祭》中に煌式武装の造りについて聞いても答えてくれない可能性が高いので戻ろうとすると、紗夜に止められた。
「何だ?」
「私は方向音痴だ」
「......それが?」
「ここから帰ることが出来ない」
「............」
さっきの考えが当たってしまった。まさか方向音痴といえども会場内の道もろくに分からないとは思わなかった。
「そうか、頑張れよ」
「私を置いていくのか、この薄情者」
「端末の地図を使えば良いだろ」
「地図は駄目。言う通りに進んでいるのに何故か別の場所に着く」
「............」
最早呆れ果てるしかなかった。地図があっても別の場所に進んでしまうとは。方向音痴と同時に機械音痴も持ち合わせているのだろうか、目の前の少女は。
「行く先は?」
「ここ」
端末で示してくる。
「ここに着けば良いんだな?」
「そう」
「行くぞ」
「ありがとう」
「別に良い。というか、良く一人で出ようと思ったな」
「えへん」
「褒めてない」
溜息を吐きつつも紗夜を案内した。
*
綾斗たちは生徒会室の椅子に座っていた。間もなくアルルカントの擬形体の試合が始まるからだ。
しかし、最も興味があるはずの紗夜がいなかった。飲み物を買いに行くと行ったっきり帰ってこない。もしかしたら、会場内で迷子になっているのかもしれない。そう思い綾斗は端末を取り出して電話しようとすると、
『開けて』
聞き慣れた幼馴染の声がインターホン越しに聞こえてきた。幼馴染の方向音痴は直ってきているんだ、なんて考えながらドアを開けると
「ここまで良いだろ?」
「うん、ありがとう」
理空と一緒にいる紗夜の姿があった。
綾斗、ユリス、綺凛と反応に差はあれど驚きの表情が浮かぶ。
「あらあら、珍しい人物が来ましたね」
クローディアですら、驚いた声を上げる。
「よう」
「え?どうして紗夜と理空が一緒にいるの?」
「自販機で飲み物買ってたら沙々宮が迷子になっててここまで案内してくれって頼まれたんだよ」
「あ、あはは......」
前言撤回である。どうやら紗夜の方向音痴は直っていない。
「じゃ、オレは観客席に戻るわ」
「どうせなら雲崎君も一緒に見ませんか?」
「レヴォルフのオレを入れるのは不味いんじゃないのか?」
「いえいえ、我が星導館学園の生徒を三度も助けてもらっていますからこれくらいは安いものですよ」
これは建前だとすぐに分かった。そもそも依頼されてやったことでもないのだからわざわざ礼をする必要も無いことくらいクローディアも分かっているだろう。情報の少ない理空を観察したいのだろう。
この誘いは断ろうと思えば断れるが.......
(まぁ、こっちも天霧と《パン=ドラ》の使い手を観察できる。おまけに
乗ることを選択することにした。
「んじゃ、お言葉に甘えて」
「ええ、ゆっくり貢いで下さい」
「紅茶を注ごうか?」
ユリスが紅茶を用意しようとしてくれている。堅物ではあるものの、義理は返す性格のようだ。
「ああ、頼む。そういや紅茶で思い出したが沙々宮は飲み物は買わなくて良かったのか?」
「あっ.......」
理空に言われて思い出したようだ。結局紗夜はここから出て迷子になってどうにか戻ってきただけという結果になってしまった。紗夜は理空に対し非難の眼差しを向ける。
「何故今頃言う」
「迷子になっていて助けてもらった奴の台詞じゃないな」
「迷子じゃない、道に迷っただけ」
「それを迷子って言うんだ」
「何故一人で出たのだ......」
「それはオレも言った」
「「あ、あはは......」」
理空とユリスは呆れ、綾斗と綺凛は苦笑いし、クローディアは相変わらず柔和な笑顔を浮かべていた。
そんなやり取りをしている間に試合の時間になっていた。
*
エルネスタとカミラが出した二体の人形——その内の一体は戦闘用擬形体に類似した姿をしていた。ただし通常運用されているようなそれよりも二周り大きいだろうか。二メートルを優に超える身の丈と、甲冑を纏ったようなフォルムは、機械で作られた騎士のようだった。そしてもう一体の人形は対照的に、ほとんど人間と同じような——それも、人間の女性と見分けがつかないような外見をしていた。顔貌は完璧すぎるほど整っており、しなやかな体躯をメタリックのスーツのような装甲で包んでいた。
大きい方の名前が自律型擬形体パペット試作AR-Dこと通称アルディ、女性の方が自律型擬形体パペット試作RM‐Cこと通称リムシィ
対戦相手はレヴォルフ黒学院の序列十二位《
だが、アルディとリムシィは宣言通り1分間攻撃せずにモーリッツ達を一蹴した。
アルディは物理障壁という『力』でモーリッツの攻撃を、リムシィはモーリッツの舎弟の射撃の弾を同じく射撃で撃ち落とすという『技』で見事に完封してのけた。結局、丁度いい当て馬にされてしまったのだ。
確かに今まで見てきた擬形体とは出来が違う。そもそも今まで擬形体には意思は無いに等しかった。故に《
———とはいえ、それでも開会式の後にエルネスタに言った言葉を取り消すほどではないが。正直、余裕を持って勝つことが出来ると理空は感じた。と、そこへ穏やかな声が入り込んでくる。
「雲崎君はあの擬形体についてどう思いますか?」
クローディアである。相変わらず柔和な笑みを浮かべながら質問をしてくる。柔和すぎて仮面じみているとも感じる。こういうタイプの人間は相当に腹黒い。何も言わないのも不自然だと思って個人的な見解を述べる。
「そうだな、まずあの物理障壁を破壊出来るとすると出場者の中では《
これもまた本音であった。先程余裕を持って勝てると感じたのは実力よりも相性が大きい。理空の能力は決闘において機械とすこぶる相性が良い。
理空の言葉に僅かに表情が強張る一同。
「私達もそう簡単には負けないぞ?」
「優勝したければ天霧の封印をどうにかするんだな。良いところ五、六分程度しか持たないだろ?今現状沙々宮と刀藤の方がお前らより勝ち目がある」
「あのさ、封印については——」
「誰にも言ってないし言うつもりもない」
綾斗は安堵の表情を浮かべた。が、反対にユリスは険しい表情を浮かべる。
「......何故綾斗の封印についての情報を漏らさない?」
それがまず最初に出てきた疑問だった。理空は星導館ではなく、レヴォルフの生徒なのだ。自分の学園のために動く、とまではいかないまでも他学園の有力生徒を潰せる。少なからず理空にとってメリットはあるだろう。もしや他に思惑があるのでは、と警戒を解けない。
「どっちみちいずれはバレるだろ?それにバレたところで時間稼ぎ出来る人間も限られる。それに———」
「それに、何だ?」
「仮に封印が完全に解けたとしても大して変わらないだろ。自分の武器も持て余しているんじゃな」
それもまた本音で同時に事実だった。《黒炉の魔剣》は
「......あまり綾斗を馬鹿にするな。本来の綾斗の実力はこんなものじゃない」
「紗夜さん.....」
「おいおい、オレは質問に答えただけだぞ?」
理空はともかく紗夜は熱くなり始めていた。例え質問に対する返答だとしても綾斗のことを過小評価されていると感じたからだ。そんな昂りも知らずに理空は淡々と言葉を続ける。
「本来の実力をオレが見誤っているとしても、今のままじゃ優勝が厳しいのは事実なんじゃないか?全試合を制限時間内に終わらせようなんて甘すぎる」
「.........」
紗夜はさらに顔を顰める。理空といえどそれには気づいているが気にせずに続ける。
「天霧だって分かってはいるんじゃないか?その封印について遅かれ早かれ向き合わなきゃならな———」
「皆さん、他の出場選手の記録映像をみておいた方がよろしいのでは?」
そこへするりとクローディアが入り込んでくる。ここでトラブルになるのは不味いというのと、紗夜達と同様、綾斗の酷評は決して気分の良いものではない。
例えそれが事実だとしても。
「雲崎君、質問に対する返答ありがとうございます。参考にさせていただきますね」
「そうか」
「ですが、言う内容は選んでいただくと助かります。意外と星導館には血気盛んな人間がいますから」
柔和な笑みを浮かべていたが、眼が全く笑っていない。これは怒っているのだろう。
「善処することにする。観たい試合無くなったからオレは帰るわ。精々頑張れよ」
そう言って理空は生徒会室から消える。綾斗、ユリス、綺凛は以前も見たから大して驚きはしなかった。紗夜、クローディアも見たことはないが三人から話は聞いていたというのもあるが、別のことが印象的だったため消えたことに大しては驚きは出なかった。
「......掴みどころが無いな」
そう紗夜が呟くが他の人間も同感だった。ユリスが警戒を向けた時も、紗夜とクローディアが怒りをぶつけたときも理空は平坦だった。人の感情に対してあそこまで無関心な人間は初めて見る。
レヴォルフ黒学院序列四位《
紗夜はその名前を頭の中に強く焼き付けた。
紗夜達の初戦の会場とアルディ達の初戦の会場は違っていたかもしれませんが、そこら辺は大目に見て下さい。あくまでも『基本』原作沿いなので.......