《
しかし、綾斗&ユリスは一番の外れくじとも言える場所を引いた。四回戦では早くもウルサイス姉妹と、五回戦と準々決勝は
そこで一旦考えるのをやめた。これ以上はいくら考えても答えは出ない。時間が時間のため夕食を食べに行くことにした。
*
夕食を済ませて、歩いて帰る。と、そこへ見知った二人組と鉢合わせる。
「天霧にリースフェルト?何でここに?」
「それはこちらの台詞だな。何故お前がここにいる?」
「夕飯を外で済ました後の帰り道だよ。オレの寮はここら辺だからな」
強い眼光を向けながらユリスが返してくるが理空はそれを意に介さない。そもそも何故こうも敵視されているのかが理解出来なかった。
その理由が先日の生徒会室での自分の発言によるものだと理空が知る由もなかった。
「お前達は?ここら辺はレヴォルフの人間が多くいる。星導館の生徒がくる場所じゃない」
「あ、うん実は———」
綾斗は説明した。まとめるとこうだ。
①再開発エリアでイレーネに恨みを持つ人間たちにプリシラが追われていた。
②綾斗がそこを助ける。
③そこへイレーネが来て借りが出来たからウルサイス姉妹の家で夕食を食べないかと誘われた。
④その帰り道
「......本当にトラブルに縁があるんだな」
「そ、そう?」
転入初日からユリスと決闘になり、サイラスに狙われ、綺凛と決闘をし、綺凛と一緒にアルルカントが作った生物に襲われて、更に再度綺凛と決闘をして序列一位になると普通とはかけ離れている。
「リースフェルトは付き添いか?」
「ああ。私のタッグパートナーに何かあっては困るからな」
ウルサイス姉妹は小細工が出来るタイプではないから平気だとは思うが、次の対戦相手の家に行くのだから妥当な判断だろう。
「で、天霧は何でそんな浮かない顔をしてんだ?」
「えっ、そ、それは」
「まさか感情移入したか?」
「そうじゃなくて、いやそうなんだけど.....」
「釈然としないな。どうした?」
「あのさ、理空に聞きたいことがあるんだけど......」
「何だ?」
理空は怪訝そうな表情を浮かべた。何を聞いてくるのだろうか?イレーネについてはそこまで知らないが.....
「《
「《覇潰の血鎌》?何でそんなことを?」
「プリシラさんが言ってたんだけど、イレーネは《覇潰の血鎌》を使っている時は物凄く凶暴になるって...」
「オレも《
ただまあ、《覇者の血鎌》は相当に我が強いな」
「我?」
「
「精神侵食⁉︎」
「これ以上はオレも純星煌式武装を使ったことがないから何とも言えない。同じく純星煌式武装を使っている奴に聞いてみたらどうだ?例えばエンフィールドとかな」
「なるほど......アドバイスありがとう。またね」
そう言って去って言った。ユリスは最後まで理空のことを睨んでいたが気にせずにいた。
それよりも、《覇潰の血鎌》について聞いてきたということは綾斗はイレーネを救けるつもりなのだろうか。正直———
「理解出来ないな........」
何故敵を救うことなど考えるのだろうか。イレーネが自分で蒔いた種なのだから放っておけば良いものを。そうすれば恐らく苦戦はするだろうが勝てる。譲れない意思や目的があるのならば他人の事情など無視すれば楽なのに。
「オレには関係ないけどな」
理空にとってデメリットがあるわけでもないから放っておくことにした。
*
綾斗&ユリス対ウルサイス姉妹の戦いは綾斗&ユリスの勝利で幕を閉じた。案の定、イレーネが《覇潰の血鎌》に乗っ取られて暴走しプリシラは血を吸われすぎて
ここまでならただのハッピーエンドで終わるのだが制限時間を大きくすぎたせいか、綾斗は封印が中継で伝わってしまった。今回の試合時間から大まかな制限時間が推測されるだろう。こうなると、あのペアの優勝はかなり厳しくなった。バラストエリアでの一件から推測するに一度制限時間を過ぎると次すぐに封印を外すのは難しいだろう。五回戦は戦略次第では勝てるかもしれないが準々決勝はそうはいかない。あの界龍の双子は相当に性格が悪い。絶対に徹底的な時間稼ぎをされるだろう。ユリス一人で勝つなんて不可能だ。
まぁ、先日の理空の言葉をただの侮辱と捉えるほど馬鹿ではないだろうから封印とは真剣に向き合うのだろう。もしも、試合前もしくは試合中に封印を完全に解く、とまではいかないまでもあの実力を発揮できる時間が増えれば優勝の可能性は跳ね上がるだろう。
「希望的観測ではあるけどな......」
天霧遥が《
*
翌日。綾斗とユリスは界龍第七学院序列二十位
力押しではなく戦略による勝利だったのだから、見事と言えるだろう。初めてタッグ戦らしい試合が見られた。だが、次の相手である《幻映霧散》と《幻映創起》はそうはいかない。徹底的な時間稼ぎやら嫌がらせをするのが目に見えている。果たして、どう太刀打ちするのか。次の試合も期待出来そうだった。
*
夜中になったため、久しぶりに
「あ?」
「おっとと.....」
理空の方が歩いていただけだからそこまで衝撃ではなかったが、少女の方はそれなりの速度で走っていたため避けられなかった。少女が走ってきた方向からサングラスをかけたスーツ姿の男二人がこちらに近づいてくる。状況から見るに、少女は追われていたようである。男二人組は薄く笑いながら一人が理空に向かって言ってくる。
「おい、お前。そこの女をこっちに渡せ」
「ああ」
理空もまた、シンプルに即答した。特にこの少女と関わりがあるわけでもないのだから。男二人組はさらに顔を邪悪な笑みに歪め、少女の方は若干焦燥感を見せる。
「素直で良いねぇ、ヒーロー気取りしないところも好ましいぜ、お前」
「別にオレがどうこうする必要もないからな。何せ
—————
これもまた事実。関わりがないことも手助けしない理由ではあったがそれ以上に必要ない。理空の考えが正しければこの男二人組では、否、むしろ
男二人組は額に青筋を浮かべる。
「テ、テメェ......!」
「どうした?オレが言ってることは事実だぞ?」
堪忍袋の緒が切れたらしく二人同時に襲ってくるが一人の鳩尾に拳を、もう一人の首に蹴りを入れ吹き飛ばす。
「ガッ.....」
「あ....ぐ...」
男二人組は呻き声を上げた後にピクリとも動かなくなった。どうやら、気絶したようだ。
「バカか、力量差くらい把握すれば良いものを.....」
そんなことを呟いていると、少女が拍手している。
「凄い、凄い。記録映像じゃ能力の方が目立っていたけど体術も一級品だね」
そんな声をかけてくる。外見を見ると栗色の髪に大き目の青いベレー帽に少し飾りのついたブラウス、白いソフトジーンズ風のパンツルックだが、全体的には地味な印象である。だが、理空はこの少女を知っていた。最初は瞳と僅かな声に覚えがあった程度の印象だったが、今聴いた声と
「別にお前も瞬殺出来る相手だっただろ?《
「ありゃりゃ、やっぱり気づいてたんだ。《
「結果的に助けてやったんだから文句を言われる筋合いは無い。そもそもお前の問題だったろうが」
「.....まぁ、否定はしないけど」
《戦律の魔女》シルヴィア・リューネハイム。
クインヴェール女学園序列一位にして生徒会長。世界の歌姫でありながら《
「で?何でお前がこんなところにいる?歌姫様が来る場所じゃないぞここは」
理空が気がつくのに遅れたのはそこにある。シルヴィアではなくともクインヴェールの生徒が来る場所ではないだろう。
「うん、私ね、人を捜しているんだ」
「人?お前が捜している人間は歓楽街に来そうな奴なのか?」
「........」
理空が率直な疑問を投げるとシルヴィアは僅かに表情を曇らせる。その反応から見るに事情があるのだろう。
「悪い。これ以上は深入りしない」
「ううん、大丈夫。私の捜している人は《蝕武祭》に関わっていたみたいなの」
若干驚いてしまった。予想以上に特殊な事情だった。
《蝕武祭》はルール無用の闘いで死ぬ確率も低くない。そういうことに関わっている人間がシルヴィアの関係者にいるとは思わなかった。
「.....そうか。最後に一つ良いか?」
「うん、何かな?」
「何でオレがあの二人を倒している間にここを離れなかった?」
そこが大きな疑問だった。シルヴィアの立場を考えればすぐにそうするのが無難だっただろう。ましてやレヴォルフの生徒である理空にここまで事情を話すのは正気の沙汰とは思えなかった。
「助けてもらったんだからそんなことはしないよ」
「だが、ここまでオレに話す必要はなかった」
「ああ、それね」
どんな返答が返ってくるのだろうか、取引でもしたいのだろうか。そんな想定を裏切る返答をしてくる。
「———君、根は優しそうだったから」
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまう。それほどに予想外な言葉が返ってきた。
「言葉はぶっきらぼうだし、表情もほとんど動かない。眼もどこか無機質だけど、瞳の奥に暖かさがある気がしたの」
「........」
「だから、別に話しても問題にはならないかなって」
「...そんな簡単に人を信用するべきじゃないと思うけどな。とりあえず、返答感謝する。お前とここで会ったことは黙っておく」
「うん、ありがとう。
シルヴィアの視界から能力で消える。
———根は優しそうだったから
あの場では平静を装ったものの、未だに理空は困惑していた。
自分が優しい?ありえない。
普通のレヴォルフの生徒とは比べ物にならないほど自分勝手で外道だ。人を殺したことも多々ある。そんな人間が優しい?
『ありえない』、そう頭で考えながらもカジノで遊んでいる時もシルヴィアの言葉が何故か頭から離れなかった。
※この作品に恋愛要素はありません。