学戦都市アスタリスク 消失の魔術師   作:ネタバレOK派

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《悪辣の王》

 《鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝当日。歓楽街(ロートリフト)から自室に帰ってきたときにはもう2時を過ぎていたため精々2時間程度しか寝ていないが、()()()()()()()()()なので痛くも痒くもない。が、シルヴィアに言われた言葉が未だに頭の中でぐるぐる回り続けている。それに最後の言葉。クローディアといい、シルヴィアといい、生徒会長というものはどうも意味深な言動を残していくらしい。

 まぁ、これ以上考えても無駄だろうから様子を見るのが無難だろう。そんなことを考えている間に綾斗&ユリス対黎沈雲(リー・シェンユン)&黎沈華(リー・シェンファ)の試合の時間になっていた。

 

 

 結果から言うと、綾斗は制限時間を克服することに成功したらしい。一度制限時間を過ぎて封印にかかってしまったが、ユリスが時間を稼いでいる間に何かをしたようだ。その証拠に、姿を消していた《幻影霧散》とその呪符が視えていた様子だった。その上、星辰力(プラーナ)が今まで外にダダ漏れしていたのが内側に溜まっていた。その力を存分に発揮し綾斗1人であの双子を撃破した。それでも、身体能力そのものは以前の封印解除時と変わっていなかったので完全に解けたわけでは無さそうだった。

 何にせよ、これであのペアの優勝の確率は一気に上がった。明日の準決勝の試合で面白くなりそうなのは紗夜&綺凛対アルディ&リムシィだろう。もう一つの方は勝負は見えている。あの1分間をどう使うのか、あるいは使わないのか、見ものだ。

 

 

 会場出て歩いて行き曲がり角を曲がる。すると次の目的地である大型のスーパーが見えてきた。

 スーパーの入り口付近までやって来たが———そこで騒ぎが起こっているのを目に入った。

 

「や、やめて下さい。私達が何をしたって言うんですか」

「そ、そうです。ぶつかった事は謝ったじゃないですか」

「あぁ! そりゃねぇぜ、お嬢ちゃんたちよ。お前さん達がぶつかったせいで、こいつは怪我したんだぜ。見ろよ、この痛そうな顔を。こりゃ大怪我だぜ」

「あぁぁっ! 痛てぇ! こりゃ骨折してるかもしれねぇぜ」

「おぉ、それは大変だ。これは慰謝料を要求しなきゃいけねぇな」

 

 2人の見慣れない少女の姿が見えた。胸元にはガラードワースの校章をした少女達。そして彼女たちを10人の男達が取り囲んでいた。モヒカンなどの特徴ある髪型に、ガラの悪い服装の数々。それを見れば、男達が何処の所属かは一目で分かった。言うまでもなく、レヴォルフの生徒である。

  

「おい、テメエ何見てやがる?」

 

 レヴォルフの生徒達も理空に気がついたらしく、突っかかってくる。

 こういう時に変装していると面倒だ。瞳の色で気がつく人間もいるがそうじゃない人間もいる。

 いつものように、髪の色を元に戻す。

 

「テ、テメエ!雲崎理空か!」

 

 この反応ももう見飽きてきた。男達は焦燥感を顔に浮かべる。

 

「ど、どうするよ?」

「引き上げるか?」

「バカ、ビビってんじゃねえ。レヴォルフの意地をみせるぞ!」

 

 ........理空もレヴォルフの生徒なのだが。

 というか、何故こちらに突っかかるのだろうか。たまたま視界に映っただけなのでそのまま素通りするつもりだったというのに。

 男達が一斉に襲ってくる。煌式武装(ルークス)を持ってはいるが余りにも稚拙すぎる動きだ。2人の顔面に拳を叩き込み、3人の鳩尾には蹴りを入れ、倒す。男達はさらに顔を青ざめる。

 

「ひ、ひるむな!やっちまうぞ!」

 

 1人が突っ込んできたので、腕の関節を極めて折る。

 

「ぐあああああああ!」

 

 悲鳴をあげるが理空は気にしない。残りの4人も大したことがなく、適当にやって戦闘不能にした。

 ガラードワースの女生徒2人は最後の1人が吹っ飛ばされているところに目を釘付けられ数秒呆然としていたが、すぐに現実に戻り、反対側に視線を向ける。

 

「あ、あの!ありがとうございま、ってあれ?」

「ど、どこに.......?」

 

 しかし、理空はその場から既に姿を消していた。

 

 

 予定が狂ってしまった。まさか、路地裏や再開発エリア、歓楽街ならともかく、スーパーの前でこんな揉め事に巻き込まれるとは思っていなかった。いつものように髪の色を戻せば大丈夫だと思っていたが、何をどう考えたのか知らないが襲われる羽目になった。警備隊が来て捕まると、長い事情聴取されるので能力を使ってしまった。

 多少遠回りではあるが、コンビニに寄って夕飯を買った。

 帰宅して食べた後に珍しく早めに寝た。

 

 

 翌日。《鳳凰星武祭》準決勝1試合目。

 

『聞くがよい!今回も貴君らには1分の猶予をくれてやろう。我輩たちはその間、決して貴君らに攻撃を行う事はない。存分に仕掛けてくるがよい!』

 

 相変わらず傲慢な態度を崩さないアルディ。だが、口だけではなくここまでの全試合それをやりながら勝利を収めている。

 リムシィの方は2人がかりでいけば一撃まぐれで当てられるかもしれないが、アルディの方は物理障壁がある。破壊力だけならレヴォルフトップクラスと言われているモーリッツの攻撃を受けて傷一つつかなかったことから力任せでは難しい。

 だが、綺凛なら攻撃を入れるのは可能だと理空は見ていた。勿論、あの日本刀で斬れるとは思わないが、物理障壁を展開する位置を誘導出来れば可能だ。今までの試合から見るに、あの物理障壁は全方位に展開するのは難しいだろう。

 果たして、綾斗&ユリスと戦うのはどちらのペアか。

 

『《鳳凰星武祭》準決勝第1試合、試合開始(バトルスタート)!』

 

   

『試合終了!勝者、エルネスタ・キューネ&カミラ・パレートペア!』

 

 アナウンスが流れ、第1試合が終わる。 

 試合序盤は綺凛がアルディを抑え、紗夜が特殊な煌式武装でリムシィにダメージを与えたが、リムシィのパーツがアルディに追加され合体してからは逆転した。

 リムシィのパーツを取り込んだアルディは紗夜の煌式武装の大砲も押し負けるほどのパワーの攻撃を繰り出した。

 先日、紗夜と綺凛は一番の当たりくじを引いたと思っていたがある意味では一番の外れくじだったのかもしれない。あの合体は行っている間は隙が生まれる。知っていると知っていないのでは大きな差があるだろう。反対に、綾斗とユリスはある意味では幸運だったのかもしれない。

 ステージの修復をしている間にトイレに行くことにした。

 

 

「ひゃっ⁉︎」

 

 トイレから出て曲がり角を曲がると、1人の女生徒とぶつかる。女生徒は大量の書類を持っていたためそれを全て地面に落としてしまった。

 

「樫丸、か?」

「く、雲崎さん.....?」

 

 レヴォルフ黒学院生徒会長秘書 樫丸ころな。

 

「す、すいませんよそ見をしてまして.....」

「別に良い」

「あ、ありがとうございます.......」

 

 そんなやり取りをしながらもころなは落ちた書類を拾っているのだが、2回もまた何枚か落としている。

 どう見ても鈍臭くて仕事も出来ない人間だが、あの《悪辣の王(タイラント)》が秘書に任命したということで理空もころなの事を覚えていた。といっても、ごくたまに顔を合わせるだけでお互いに認識は浅いが。

 何故あのディルクがころなを手元に置くのかは謎だが、何かしら魅力的な能力を持っているのだろう。ディルクは能力でしか人を判断しない。《魔女(ストレガ)》として登録はされていないようだが.....例外が存在する場合もある。例えば特定の条件下でしか発現しない能力も———

 

「おい、ころな。どんだけ待たせんだよ?」

 

 そこに苛立ちが混じった声がころなの後ろからかかる。

 

「か、会長.....」

 

 レヴォルフ黒学院生徒会長 ディルク・エーベルヴァイン。

 上司が来たようなので観客席に戻ろうとする、が。

 

「おい、待ちやがれ。雲崎理空」

 

 声をかけられたので振り返る。

 

「何だ?《悪辣の王》?」

「テメェ....クローディアと接触したらしいな。何を企んでやがる?」

 

 敵意を込めた声と眼光で聞かれる。しかし、返答に困る質問だった。

 

「街中で偶然会っただけだ。企むも何もない」

 

 嘘ではない。少なくとも今のところは。生徒会室に入ったことはあるがそれっきりだ。

 

「他学園の生徒会長と偶然?そんなわけねぇだろうが」

「少なくともオレは知らん。向こうに聞いてみたらどうだ?」

「.......」

「.......」

 

 意地の悪い返答をする。そもそもそれで聞けた、あるいは聞けそうなら理空に聞かなくても済む話だ。

 理空とて、仮に何かを企んでいたとしても正直に言う気はない。

 そんな意思を読み取ったのか、ディルクは理空のことを睨んでくる。理空は臆せずに真顔で目を一切逸らさない。

 その状態が数十秒続くと理空の背後から穏やかな声がかかる。

 

「こんな所で揉め事は控えてもらいたいね。双剣の総代に《消失の魔術師(ヴェイカント)》」

 

 聖ガラードワース学園生徒会長 アーネスト・フェアクロフ

 

「別に揉め事になっているわけでもない。仮にそうでもガラードワースの人間には関係ないことだと思うが?」

「そういう訳にはいかないんだよ。秩序の守護者たるガラードワースの代表として、そしてこの聖剣を預かる《聖騎士(ペンドラゴン)》としてもね」

 

 騎士の模範回答のようなことを言ってくる。流石、あの《白濾の魔剣(レイ=グラムス)》を使いこなすだけのことはある。

 どうするか。膠着状態だ。そんな状態を終わらせたのはディルクだった。

 

「チッ....行くぞ、ころな」

「は、はい」

 

 ディルクが背を向け、プレッシャーで涙目になっていたころなも立ち去る。

 

「....面倒事を終わらせてくれて感謝する」

「気にしなくていいよ。僕は僕の務めを果たしただけだから」

 

 相変わらず穏やかな表情を浮かべながら返してくる。クローディアとは似て非なる仮面に見えた。

 

「ただ、こう言ったことは控えて欲しいね」

「状況によるが善処する」

「そう言ってくれるなら僕はこれ以上その事に関しては言及しないよ。ところで、雲崎君」

「何だ?」

 

 二つ名ではなく名前で呼ばれたことに若干驚くが、自然に返す。

 

「昨日、うちの生徒が世話になったみたいだね」

「ああ、スーパーでの件か」

「そう。こちらからはお礼を言いたいと思っていたんだ。もし良ければだけど、生徒会室で一緒に試合を見ないかい?お茶と菓子は振る舞うよ」

「.....それこそ気にしなくて良いと思うけどな。向こうが襲って来なければ無視するつもりだったんだから。というか、レヴォルフのオレを入れるのはどうかと思う」

「けれど、君はすぐに立ち去ってしまってお礼を言えなかったと聞いているからね。僕以外の人間もお礼をするべきだと言っていたしね」

「.....」

 

 能力を使って即座に切り抜けたことが仇となったようだ。しかし、理空としてもこの誘いを特に断る理由もない。

 

「んじゃ、お邪魔する」

「ありがとう。それじゃ、こちらについてきて」

 

 アーネストが行く道に沿って歩く。目的の場所の階層に行くためにエレベーターに乗る。

 

「........」

「........」

 

 お互いに無言である。話題も出てこないし、今日初めて顔を合わせたのだから当然と言えば当然だが。

 

「それじゃ、ここがうちの生徒会室だよ」

 

 そう言って扉を開けると1人の女生徒が声をかけてくる。

 

「お帰りなさい。アーネスト。挨拶回りは終わった、ってええ⁉︎」

 

 理空に気がついたらしく、女生徒は驚愕の声を上げる。

 他にも3人いたが反応は多種多様である。

 1人は目を細め、

 1人は愉快そうに口笛を吹き、

 1人は無表情だった。

 アーネストを含めた5人はチーム・ランスロットのメンバーである。

 そんな空気の中、理空はマイペースに「結構見やすいな」と呑気なことを考えていた。

 

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