一先ずはご覧いただければと思います。おかしいところあったりしたら、教えてくだされば嬉しいです。
悲劇を乗り越えた俺達は、現場に駆けつけたヒーロー達が事後処理を終えた後に念の為ということで病院へと送られた。
目に見える怪我を考慮してではなく、心のダメージを考慮してのことだろう。
……当然だ。俺達は両親の死を目の当たりにしているのだから。人の死は、子供にとって――いや、子供に限った話ではないか。全ての人間にとって強烈に刻みつけられるものだ。人の死をきっかけにしてトラウマを覚えてしまったという人も少なくない。それは、子供にとって、より強烈に刻みつけられる。失った人が自分の身近であればある程に。
それを把握した上で気を遣ってくれる大人達は皆、暖かい人ばかりだ。
結論から言うと、大人達の備えは正しかった。医師の診断によれば……。今の所は何も問題ないようだが、蔦子姉さんが人の死や血に対してトラウマを抱えている可能性があるとのことだ。俗に言う、心的外傷後ストレス障害――通称、PTSDがこれから発症するかもしれないらしい。症状としては、発症の原因となった出来事の記憶が繰り返し
……ここで一つ言っておく。姉さんがトラウマを抱えていたとしても、これは彼女の心が弱いという訳では決してない。そうなるのは無理もない話だ。あのヒーロー達と事後処理を行っていた警察の方が呟いていたのを聞いたんだが、今回現れた
恐らくは、警察の方々も俺の対峙した筋肉の化け物とも言うべきシリアルキラーを長年追ってきたのだろう。
「凪がいなければ、死亡した人はこの
そんな虐殺事件を前にして、平然としていられる子供はそう居ないだろう。
敢えて自虐的な言い方をするが、俺がおかしいんだ。子供ながら前世の記憶を憶えており、
俺が例外なだけであって、誰も姉さんを責めることなど出来ない。そもそも、そんなことは俺がさせない。
閑話休題。もしもの時に備えて、俺達を診た医師は気分安定剤を処方した。俺に対し、「最低でも一ヶ月の間は、お姉さんの目に付く場所で側についていてあげなさい」とアドバイスをくれた。それと同時に「君自身も何かあったら遠慮なく教えてね」と俺のことを気にかけてくれた。
申し訳ない……と思うよりも、医師の心遣いに感謝した。
それはそうと。姉さんから聞いたんだが、戦いの最中には俺の右腕にあるはずの"痣"は左頬へと移動していたらしい。膨大な力が左頬へと転移し、全身に行き渡るかのような感覚がしたのはそれが理由なんだろう。右腕に腕輪のようにして巻き付いている時には、力を抑えているのかもしれないな。
更に、昔聞いた話によれば、炭治郎の"痣"は時折形を変えていたらしい。言われてみれば、炭治郎が鬼になった時にもいつもとは形が変わっていたように思う。俺の場合は、位置が変わるのかもしれない。……これでも"個性"ではないのだから、不思議で仕方のない話だ。
それともう一つ、気が付いたことがある。奴と戦闘している最中、一瞬だけ奴の肉体が透き通って見えた。筋肉、内臓、骨……。体を透かして、その全てを見ることが出来た。覚えている限りでは、頭が本当に透明になっていくかのような感覚がした後にそうなっていた。分かりやすく言えば、頭が自然と無駄なことを一切考えないような状態になりつつあった……と言ったところか。
俺とて、空手のような型のある武術を習う者の端くれ。全く同じでなくとも、似たような経験をしたことはある。最初こそ型を覚えきれていない状況なのだから、一つ一つを丁寧に覚え、思い出し、考えながら行う。そんな状況下では当然上手くいかないし、どっと疲れが押し寄せるものだ。
だが、何度も何度も動きを繰り返して「
そこから更に稽古を続けて精度を引き上げることで無駄な動きや力が削ぎ落とされ、疲れも溜まりにくくなる。考える必要が無くなったその状態でただ動きに集中していると、不思議なことに頭が真っ白になる現象が起きる。
視界が透き通って見えるようになるのは、それと同じような行動の果てに辿り着く境地なのだろう。そうなった原因は、考え得る限りだと水の呼吸の型を定期的に舞っていたおかげと言ったところか……?
前世、無惨との戦いの際に悲鳴嶼さんが「無惨の体を注視しろ!体が透けて見えないか!?」(意訳)といった
その境地に俺が踏み入れた原因が考え通りでなかったとしても、俺が水の呼吸の型を舞うことを思い付き、始めた際に考えていたことは何にせよ合っていたはずだ。これからも手を抜くことなく励もうと思う。
戦いの中での気づきを思い出しながらも、病院での診断を終えた俺達は、続いて事情聴取の為に警察署へと連れられた。
そして、警察署に着くなり、現場に駆けつけてきた二人のヒーローに両親の命の危機に間に合わなかったことを詫びられた。全身全霊を懸けて現場まで駆けつけてくれた二人を責めるというのはお門違い。それを俺も姉さんも分かっていた為、その場は何とか頭を上げてもらって事を次に進めることにしたが……。少なくとも、これが出来るということは彼らは金や名声目当てでヒーローをやっている訳ではないだろう。
閑話休題。その後の事情聴取はそれぞれ別室で行われ、俺の事情聴取を担当した警部の方は塚内直正と名乗った。曰く、彼はかのNo.1ヒーロー……オールマイトの親友に当たるらしく、これまでも幾度となく
事情聴取自体は滞りなく進み、思ったよりも呆気なく終わった。……終わったのはいいんだが、室内の空気が少し重々しい。
白塗りの壁に囲まれた中にポツンと置かれた、ヘッドライト付きの灰色の机に、俺と塚内さんが対面する形で置かれたパイプ椅子。こっちの気が滅入る程のシンプルな作りをした部屋。その中に居るのは、俺と塚内さんだけではない。現場に駆けつけた二人のプロヒーローもこの場にいる。そんな彼らに囲まれ、気分は罪状を事細かに暴かれている犯罪者だ。
まあ……ここから何をするのかは、俺自身も予想がついてはいるのだが。
「……うん、事件の詳細はよく分かった。思い出すだけでも辛かったろうに、細かく説明してくれてありがとう。さて……事件の話題はここまでにして、だ。本題に移ろう。事件のことを聞くのも大事っちゃ大事なんだが、君の今後を思えば、こっちの方が大事だと思うんだ」
朗らかに微笑みを浮かべた状態から一転。塚内さんは、真剣な面持ちになる。
この顔は……子供を説教する時の顔だ。
「冨岡君。……
「……はい」
尋ねられてるのは、俺があの筋肉の化け物を相手に立ち向かったことについてだろう。……そうだ、俺は全部分かった上でやったんだ。だが、危険だからと引き下がれば多くの人の命が奪われていた。それも分かっていた。俺の守りたいものを奪われたくはなかった。だから、動いた。
「……分かってる上で動いたのか。なら、その上で聞かせてもらう。お前を突き動かしたものは……何だ?」
駆けつけてきたヒーローの片方……どこか見覚えのある、見知らぬ他人から見れば小汚いという印象が第一に出てきそうな黒ずくめの男性の方が尋ねてくる。鋭く、俺を見定めんとする裁判官さながらの目で。
俺は、その目に臆さず答えた。
「危険なのは分かっていました。人は、いつ何が原因で死ぬのか分からない。現に実力派のヒーローであった父も死んでしまった……。子供の俺が危険を冒す必要はなかった。プロの貴方方からすれば、そう思うかもしれません」
プロヒーロー達が俺の考える通りの意見を持っていると仮定しよう。……その考えは正しい。その通りだと思う。
俺だって、鬼と命のやり取りを繰り広げる中で一般人が首を突っ込もうとしていれば「逃げろ」と制するし、怪我してまともに動けない隊士がいれば待機するように"柱"の権限を使って命令を下す。今世におけるヒーローや、前世における鬼殺隊。これらのような特定の脅威を退ける為の専門職が存在するのは、一般の人々を危険に巻き込まないようにする為だ。
俺が仮にプロヒーローであったのなら、同じように子供を説教するはずだ。
そんなことを改めて考えながら、俺は続ける。
「でも、あの場にはヒーローが必要でした。職業としてのじゃない。
述べた後で、黒ずくめのヒーローの目を見つめ返す。
自分のしたことに後悔はないとは言え、でしゃばったことをしたのも事実。その後で俺は頭を下げて謝罪した。
数秒間の沈黙が部屋を支配する。その沈黙を破ったのは、誰かのため息だった。
それを合図に顔を上げてみると、微かに目を見開く塚内さんと金髪のヒーロー、やれやれと言わんばかりに額を押さえる黒ずくめのヒーローが目に入った。
「本当の意味のヒーロー……か。はは、子供にしちゃでっかく出たな!」
「ったく……。考えが達観しすぎだろう……」
「まあまあ、イレイザーヘッド。それだけ彼の父親である凪が冨岡君を立派に育て上げたって証拠じゃないか」
金髪のヒーローは満足気に笑い、イレイザーヘッドと呼ばれた黒ずくめのヒーローはこれからが大変になりそうだ、と言わんばかりに天井を見上げ、塚内さんが彼を
直後に、金髪のヒーローが「根性ある奴だと思わねえか?イレイザー」などと言いながらイレイザーヘッドを肘で小突いた。小突かれた本人はというと、絡まれること自体に気怠さを感じているようななんとも言えない表情をしていた。
そして、彼のヒーロー名を聞いた時にやっと思い出した。イレイザーヘッドは……俺が4歳の時の個性診断で会ったヒーローだ。俺の"痣"が"個性"か否かを確かめる為に呼ばれ、"抹消"によって"個性"の消去を試みたあのヒーロー。成る程、どうりで彼に見覚えがあった訳だ。
ウザ絡みではないのかと思う程に絡む金髪のヒーローと、彼から目を逸らして無視の姿勢を貫くイレイザーヘッドとを交互に見ていると……。
「冨岡君」
こちらに向き直った塚内さんに声をかけられた。
しばらく俺を咎めた時の顔をしていたかと思えば、すぐに微笑みを浮かべて続ける。
「君の行動は、危険だとか無茶だと言われても仕方がない。君は"痣者"である影響もあって、ごく普通の無個性の人とは違って多少なりとも戦える力があったかもしれない。でも、一般人だということには変わりないんだ」
「今回ばかりは何かしなければ殺されていた状況下にあったとは言えど、自ら危険に身を投じる行為は褒められるようなことじゃない。勿論、『抵抗するな』とか『見捨てろ』とは言わないけれどもね。とは言え、相手に対抗して攻撃するんじゃなくて自衛やお姉さんを守ることに徹する手もあったんじゃないかな?冨岡君ならそれが出来たんじゃないかと思うんだけれど……違うかい?」
微笑みながらも塚内さんが尋ねる。実際はそんなことはないのだろうが何となく俺の本質を見抜かれている気がして、その問いには答えられなかった。
「一般人の君を危険な目に遭わせない為にも国家資格を取得して公に信頼されるプロヒーローがいるし、君が無茶な行動をすれば心配をする人がいる。それを分かっているから、僕はこうやって一人の大人として君を咎める。……そのことをくれぐれも忘れちゃいけないよ」
「……はい」
「僕の親友のようにだけはなっちゃいけないぞ」と笑いながら言う塚内さんを見ながら、この人は子供の扱いと説教が何たるかをよく分かっている人だと思った。
子供が悪いことをすれば、勿論叱るのも大事だ。ただし、ガミガミと叱ってばかりではひねくれて理解をしようとしない子供もたまにいる。それに、「説いて教える」と書いて説教だ。ガミガミと叱ることが説教ではない。教え導く為に言い聞かせることが説教だ。前者の方はただの叱咤でしかない。何でもかんでも叱れば、自然と説教になる訳ではない。そのことを塚内さんはよく分かっているのだろう。
「塚内さん、少し彼から時間を貰ってもよろしいですか?この子とは個人的に話したい」
塚内さんが話し終えたのを見計らっていたようにイレイザーヘッドが言った。
「私としては構いませんが。……冨岡君、大丈夫かな?」
塚内さんご自身は問題なしということで、確認を取ることもあって俺に視線を向けた。
取り敢えず、俺自身も何も問題はないので屈託なく頷いておいた。
「……冨岡君の方も大丈夫なようです」
「ありがとうございます」
時間に問題がないのを知ったイレイザーヘッドは、どこかホッとしたような雰囲気で頭を下げた。
イレイザーヘッドの様子を見た金髪のヒーローは、どこか楽し気な笑みを浮かべている。言うなれば、大スクープを見つけた時のマスコミのような。
「イレイザー。そいつのこと、余程気に入ったみたいだな」
金髪のヒーローが楽し気な笑みを浮かべたまま、イレイザーヘッドと一方的に肩を組もうとすると……。
「マイク。お前は昔から人の感情を勘繰るのが好きだったな。それで余計なことを口走って俺にボコられた回数を何回だと思ってる?……次に同じことをやってみろ。俺の捕縛布でお前の口を塞ぐぞ」
髪を逆立て、獲物を屠る狩人のような赤い眼光の走る鋭い瞳を向けたイレイザーヘッドが、威嚇するようにして金髪のヒーローの腕を鷲掴みにしながら言った。
「こ、こいつァ、シヴィー……!今度何か奢ってやるからそれで許してくれ……」
お怒りな様子のイレイザーヘッドを見た彼は、合掌したまま顔を真っ青にし、そそくさと部屋から出ていく。
「あはは……程々にしてあげてくださいね、イレイザーヘッド。それじゃあ、一足お先に」
塚内さんも、怒られるのだけは勘弁だと必死に謝罪する子供のような様子の彼を見送ると、苦笑しながら彼に続いて部屋を出ていった。
……まあ、何にせよだ。金髪のヒーローとイレイザーヘッドは仲が良いらしい。部屋を出て行く金髪の彼を見送りながらもため息を
「……済まんな、俺の知り合いが。
俺の反対側のパイプ椅子に腰掛けながらイレイザーヘッドは言う。大して気にしていない、と返しながら俺は言った。
「仲がよろしいのですね」
イレイザーヘッドは、俺の言葉を聞くと目を見開きながら固まる。「どうしてそう思った」と尋ねられている。口で聞かれなくとも、彼の目で分かった。
「絡まれたことによる呆れや疲れは感じられますが……心の底からの嫌悪感は感じませんので。それに、戦闘中のコンビネーションを一眼見れば分かりますよ。互いに信頼し合っていると」
俺は微かに笑いながら、先程思ったことと二人の戦闘を見ていて思ったことを述べた。
それを聞いたイレイザーヘッドは、呆気に取られたように何度も瞬きして一言。
「……最近の子供は観察眼にも優れてるのか……」
不思議な子供だ、と言わんばかりに頬をかくと、今度は彼の方が話を切り出した。
「俺のこと……覚えてるか?三年くらい前になるが」
「覚えてます。思い出したのは、貴方のヒーロー名を聞いてからですが」
「……そうか」
どうやら、彼としても覚えられているかが気がかりだったらしい。覚えられているのが分かった後は淡白な返事を返していたものの、ほんの少しだけ嬉しそうだった。彼もまたヒーロー。ヒーロー名で覚えられているのは嬉しくない訳ではないのだろう。
「……改めて謝らせてくれ。お前の両親をむざむざと死なせてしまって済まなかった」
数秒の沈黙が流れた後、イレイザーヘッドは再び頭を下げてきた。
やはり、人の死とは他人の記憶に強烈に刻み付けられるものだ。一言一句から、彼の自分の無力さに対する嘆きと現場に間に合わなかった後悔が感じ取れた。
……この人は、イレイザーヘッドは……父のように"良いヒーロー"だ。
そう確信しながら、俺も言葉を返す。
「……顔を上げてください。貴方方が現場まで必死に駆けつけてくださったのは判っています。確かに父は死にました。でも、それで間に合わなかったお二人を責めるのはお門違いですよ。人の命を救わんとしても、その手が届かなかった……。その苦しみや辛さは図り知れない。一番悔しいのがお二人なのは判ってます」
――それに、俺もそんな思いを何度もしてきましたから。
「一番悔しいのがお二人なのは判ってます」の後に紡ごうとした言葉は、俺自身の内心だけに留めておいた。
俺達は人間だ。全知全能の神ではない。体力や生きる年月に限界があるし、手の届く範囲にあるもの全てをその手で掴み取れる保証もない。
前世、"水柱"であった俺とて、そんな思いを何度もしてきた。友を……錆兎を失った時も。真菰が最終選別で死んだのを察した時も。しのぶの姉、カナエが死んだのを知った時も。いざ駆けつけたは良いが、炭治郎の家族は禰豆子しか残らず、残った彼女も鬼に変えられたのだと知った時も。煉獄が死んだのを知った時も。お館様が己の身を顧みず無惨を攻撃した時も。しのぶが、時透が、不死川の弟が、悲鳴嶼さんが、甘露寺が、伊黒が……。多くの隊士達が無惨との戦いの中で死んだと知った時も。
もはや数えきれない。下手をしたら、俺はイレイザーヘッドよりも人の死に触れてきたかもしれない。だから、彼の気持ちはよく分かる。
イレイザーヘッドは、俺に促された通りに顔を上げると……笑った。
「そう言われると救われるが……ませてんな、お前」
「ええ、俺自身が一番自覚してます」
彼の冗談とも本気ともつかない言い方に、俺も笑いながらそう返す。
対する彼は、再び真剣な面持ちになった。
「まあ、繰り返すようだが……お前の行動は危険そのものだ。塚内さんの咎め方は公としてのやつだな。個人的に話せる場だからこそ、今度は一人のヒーローとして言わせてもらう」
俺も、彼の雰囲気に自然と背筋を伸ばして姿勢を正しながら言葉の続きを待つ。
「誰かの命を救けたい。この場にいる人の笑顔を守りたい。その思いは正しい。発言からして、お前もヒーロー目指してんだろう。本当のヒーローって意味では行動も正しいかもしれんが……職業としてのヒーローからすれば、最善であれど正しくはない行動だ。だから、褒められないのさ。お前が思った通りの考え方がプロヒーローにない訳じゃない。だが、それは俺らプロヒーローが現場にいる場合の話になる。一般人の介入で事態が悪化するって可能性もある訳だからな」
大方、俺の考えていたことは合っていたようだ。机上で組んでいた手を組み替えながらイレイザーヘッドは続ける。
「塚内さんも仰ってたが、俺らからも『じっと見てろ』とは言わねえよ。特に、今回みたいなプロヒーローがいない且つ抵抗しなきゃ死ぬって場面ならな。俺らプロヒーローがいるってんなら、『自分達に任せればよかった』と叱るだろうが。ヒーロー志望にとっちゃ、身内や他人の危機に瀕しても動くなって言う方が無茶だ。……ヒーロー目指す以上、それが誤りだとしても正しい行動なら押し通さなきゃいけない時もある。ただ、正しくない以上は褒められない。それだけでも覚えとけ。どうせやるんなら、正しいやり方でやって信頼を勝ち取れ」
「とは言え、だ」
そう言うと、イレイザーヘッドは事後処理に向かった時のようにして荒っぽくも俺の頭を撫でてきた。
「お前が動いた責任は、もっと早く駆けつけられなかった俺達にもある。そこに関しては済まなかった。その一方で、お前が動いたおかげで助かった命がいくつもある。一個人のヒーローとしちゃ、感謝しなきゃいけない。俺達の代わりに多くの命を救けてくれてありがとうな。この恩は、亡くなったお前の父親の分まで人々を救けることで返そう」
プロヒーローとしての立場上、こうして個人的に褒めてやることしか出来ないことを申し訳なさそうに謝罪する彼の目は……暖かかった。
同時に、もう父や母からはこういった愛情を受けられはしないのだと痛感させられる。――涙は出なかった。だが、底無し沼のように深く、果てない喪失の痛みが心の奥深くを突いた。
悲しみの感情ばかりではない。人々を救けた事に対する感謝を述べられた嬉しさもある。失った痛みを塗り替えるようにして活力が湧き上がってきた。
この気持ちだけは絶対に忘れない。強くそう誓った。
「……相澤消太」
その声に、俺は自分の手元に下ろしていた視線を上げた。
「俺の名前だ。日常の中でもヒーローネームで呼ぶのは合理的じゃない。長いしな。……だから、名前の方で好きに呼んでくれりゃ良いよ」
「……分かりました、相澤さん」
ニヒルな笑みを浮かべながらそう言う彼に、俺も微笑んで返すと、イレイザーヘッドこと相澤さんはそれで良いと言わんばかりに微笑んだ。
その後、相澤さんとは軽く世間話をした。互いの好きなものだったり、ヒーローのことだったり、俺の父のことだったり。
話を通して、互いに気軽に話が出来るくらいの仲にはなったものの、この時の俺は……相澤さんとも長い縁になるとは知る由もないし、思いもしなかった。
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