冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

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第一話 ヒーローの形

 ……母が泣いている。いつもしっかり者で、慈愛に溢れた人で、俺達の前では徹底して強き人を貫いていた母が。

 

 「私のせいだ」と自責の念を募らせ、俺に許しを乞うように泣いている。父に縋りつきながら泣いている。泣き続ける彼女の背中はただただ悲しい。

 

 側にいる蔦子姉さんも悲しげな顔をしている。

 

 この際、隠したって何の意味もない。はっきり言ってしまおう。俺は病院にて受けた個性診断で無個性だと診断された。医者によると、俺は"個性"とやらのない人間の体の作りをしているらしい。

 確か……足の小指に関節があるかないかで"個性"持ちか無個性かを判断出来るという話だった。それで、俺は小指の関節が二つあって無個性の人間の型なんだと。人間が猿に近い祖先から進化していった時のように、使わない部位を取り除いていくという訳だな。

 

 そして、父も母も姉さんも。皆がそれを悲しんだ。

 

 ――けど、俺にはよく分からない。無情な言い方になるかもしれないが、彼らの悲しむ理由がよく分からない。俺が病気であった訳ではあるまいし。"個性"が無くて何が悪いんだろうか?

 何故そう思うのか。俺にとっては()()()()()()()()()だ。正直確信は持てないが、もし"個性"を例の"血鬼術"を彷彿とさせる異能だとすれば、彼らは鬼のようなもの。俺からしたら不気味で仕方ない。それを人々に与えて世界征服を企むような輩でもいるのではないかという懐疑心が溢れて止まない。

 

 言ってしまえば、俺と元からこの世界で生きる人々とでは"個性"に対する認識も認知度も違うのだ。

 

 2歳頃からか。俺は、世間のことを知るよりも家族や将来出来るであろう友、仲間……それと、これから会うことになるであろうしのぶを守れるように、強くなることを優先した。

 

 それで暇さえあれば、父さんが幼い頃や学生時代に読んでいたらしい、歳によって最適な体の鍛え方を記した本をこっそり取り出して読んだり――精神年齢は25歳の大人である為、理解は十分に出来た――、積極的に運動して体力づくりをしたり、水の呼吸の型を舞って正しい型の振るい方を模索したり――サッカーを繰り返し練習すれば、ボールを勢いよく蹴る方法や上手くシュートを入れる方法、ドリブルを巧みにやる方法などが体に染み付いて無駄なく出来るようになる。それと同じで、幼い頃から繰り返し型を振るっておけば、将来はその精度が上がるのではないかと考えた――、父さんの持っている木刀を借りては振るって、日々鍛錬を積んできた。

 日々の食事もしっかり取り、夜はぐっすりと寝て疲れを取る。そんな生活を繰り返していた為、テレビニュースとやらを見る機会もなく、俺は世間に疎い自覚がある。

 

 特集番組の類で"個性"の解説も行っているのかもしれないが……結局見ていないので分からないことが多い。

 

 前世の記憶を持つ俺と元からここに生まれた人間とでは明らかに事情が違う。それで、俺は素直に父に尋ねた。

 

「……父さん。"個性"が無いことで何か不便なことがあるの?"個性"が無くったって同じ人間。普通に生きられる」

 

 疑問をそのまま口に出すと、父は俺の方を振り向いて考える素振りを見せた。

 

 そして、俺が世間に疎い所があるのも当然だとでも思ったのだろうか。蔦子姉さんに母のことを頼むと、自分の部屋に俺を招いた。

 

「そうだな……。義勇、まずはお前に"個性"のことを教えておこう。僕の知る限りのことだけど」

 

 机を挟んで向かい合うように座った父が話を切り出した。……背中まで伸ばした無造作な髪を首の辺りでまとめる。瞳は光の差さない深海のような青。白い肌に場合によっては女性かと勘違いされそうな整った顔。別に自分の顔が良いとかいう自覚がある訳ではないが、前世の自分とそっくりな姿だ。ほんの少しだけ奇妙な気分になる。

 

 取り敢えず、それは置いておくとして……。まず、"個性"とはこの世界にいる総人口の八割が持った特異体質だそうだ。体質とは言え、俺が感じていた通りに異能として扱われていた時期もあったらしい。異能が目覚めたとある少年が迫害を受けていた時、彼の母親が異能のことを「これはこの子の"個性"です」と主張したのをきっかけにそう呼ばれるようになった……という逸話もあるんだとか。

 

 そして、その"個性"は大きく三つの型に分けられる。

 まず、自分の意思で能力を発動でき、その種類の多さから系統ごとに更に分割がされるという発動型。

 次に、通常の人間の肉体から自分の意思でどのような形であれ、肉体を変化させる変形型。

 最後に、生まれた時から常時"個性"が発動している異形型。

 因みにそれらの三系統のうち、二系統以上の特徴を持つ複合型もあるらしい。

 

 それで、父の"個性"は"凪"。自分の肉体から凡ゆる事象を鎮静させる無のエネルギーを発生させる。エネルギー自体は許容量とかは無く、無制限に出せるようだ。これによって炎や攻撃の威力を弱めたり、痛みを抑えたり、精神を鎮めたり出来る。姉さんもまた、父さんの"凪"が遺伝している。一方で、母は俺と同じ無個性だ。

 

 ついででしかないだろうが、母は小学生の頃からそれを理由に揶揄(からか)いやいじめを受けており、父はそれを庇い続けた。それが何年も続いているうちに自然と恋をし、中学生時代にお付き合いを始めて今の仲になったのだという話も聞いた。

 

 父は「鎮静ヒーロー・凪」として活動しているのだが……言われてみれば、ヒーロー活動している時に落下する瓦礫の速度をゼロにしたり、突進してくる(ヴィラン)の動きを止めたりと色々やっていたように思う。成る程、それも"個性"のおかげだったという訳か。

 

 "個性"は、後天的に授かった異能ではなく、先天的に授かった体質。後学の為に覚えておこう。――余談ではあるが、"個性"によってヒーロー向きやら(ヴィラン)向きやらを勝手に決めつけるような愚かな輩もいるらしい。父もそれを嘆いていた――

 

 では、本題だ。別に"個性"があっても不便ではないようだ。ただし、"個性"がなければヒーローにはなれないと言っても過言ではない、と父は言った。前例がないんだろう。……そもそも、俺にはヒーローが何なのかすら理解し切れていないのだが。

 

 一先ず、そう告げた父を真っ直ぐに射抜きながら、俺はヒーローをこう仮定した。「父のように他人を命懸けで救ける職業」だと。

 

 そう仮定した上で……俺は父の考えているであろうことを否定した。

 

「父さん、()()()()()()()()()()()()()()()()。父さんみたいに沢山の人を救けたい訳じゃないんだ。俺が強くなろうとするのは、家族や友達……。身近にあるものを守りたいからだ。父さんみたいに利他的なことは考えてない」

 

 俺の答えを聞いた父は、意外そうな顔をした。

 

 ……当然だ。この世界においては、見ている限りだと警察は(ヴィラン)と戦う訳じゃない。かつての俺達、鬼殺隊のように(ヴィラン)を取り締まる専門家的な意味でヒーローが存在しているからな。――とは言え、逮捕した後の処置は警察や裁判所が行うようだが――

 何が言いたいのかというと、ヒーローを目指すこと以外に強くなる為の理由がないってことだ。

 

 そもそも。ヒーローとは……俺のように、前世で人を喰らう化け物に変化したとは言え、元々人間である鬼を情け無用で平然と殺せるような輩が務められるような職業じゃないように思う。

 

 ここまで来ると、家族が悲しんだ理由がなんとなく分かった。"個性"がなくば、ヒーローになれないと言っても過言ではない社会。それ故、無個性であるせいで俺の夢が潰れてしまったと考えたのだろう。母さんが自分のことを責めるのも分かる気はするが、そんな必要はない。俺が無個性として生まれたのは母さんや父さんのせいじゃないし、俺は無個性として生まれたことを恨んじゃいない。新たな力に振り回される必要がないから安心して暮らせるし、良かったとさえ思ってる。

 

「だから、悲しまないでほしい」

 

 俺は父を安心させられるような微笑みを浮かべながら、再び父を真っ直ぐに射抜いて言った。

 

「……そうか。うん、ありがとう。少しだけ気が楽になったよ」

 

 父もまた、微笑みを返して言う。

 

 そして俺は、ふと思い立った。人々を救ける職業……ヒーローの由来とはなんなんだ、と。

 

「ん?どうした、義勇」

 

 微かに目を見開いて固まった俺を見て、父は尋ねた。

 

 思い立ったことを行動に移す為、俺は父に頼む。

 

「父さん、()()()()()()()()()

 

「…………えっ、辞書?いいけど……」

 

 年相応とは思えない俺の頼みに対し、父は唖然としながら、どこかはっきりとしない返事を返すのだった。

 

 ……困惑させてごめん、父さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前。人の名前にも、物の名前にも、ある現象の名前にも……。全ての名前には由来があるものだ。勿論、ヒーローにも。

 俺の知る限り、大正時代には「ヒーロー」なんて単語は存在しない。俺の知らない言葉がこの世界にはあるのかもしれないと思い、辞書を借りて調べている最中という訳だ。

 

 因みに、好奇心で俺の名前に使われている「義勇」の意味を調べてみたのだが、これには二つの意味があった。

 一つは、忠義。若しくは正義と勇気。

 もう一つは、正義の心から発する勇気。若しくは自らすすんで公共の為に力を尽くすこと……だそうだ。

 

 俺の名前に込められた意味。口下手な自分なりに考えてみるとすれば……。

 「忠義や正義の心から発する勇気を持ち、すすんで社会の為に力を尽くせるような子になってほしい」……だろうか?もし、そうだとしたら明らかに予想がついてしまうな。両親は俺が生まれた時から俺が立派なヒーローになれるよう祈っていたんだって。

 

 閑話休題。その後に本当に調べたいことを調べてみた訳だが……無事に見つかった。

 ヒーローとは、この世界における「()()」としてのものと、元来存在していた「()()()()()」で意味が分かれているようだった。

 

 「職業」としてのヒーロー。これは、"個性"を利用して人々を救ける職業だ。職業である以上、当然経済活動や競争は起きる。実際、ヒーローの活躍度を示したランキングだとかもあるし、収入も入ってくるようだし。同時に、高い職業倫理を持って匿名の人々を救ける救済者でもある。

 俺の仮定は大体合っていたようだ。逆に言えば、父が在るべきヒーローの姿を俺に見せてくれているという事実にもなる。なんだか誇らしい気分になった。まるで、前世において他人に自分の妻の容姿を褒められた時のように。

 

 そして、「一つの単語」としてのヒーロー。恐らくは、これが「職業」であるヒーローの名前の由来だと思われる。意味としては、英雄、神話や物語の主人公のことを指すらしい。彼らの多くは並みの人を超える力・技術・知識を持って、それらを用いることで一般社会に有益とされる行為を行う。()()()とも言い換えられる訳だ。端的に言えば、空想の存在。

 

 "個性"……なんともまあ便利で恐ろしい力だ。こんな力を持てば、それを邪な方向に使う輩が現れることも容易く予想出来る。人間は欲深い生き物だとよく言われるしな。――欲が全くない人間などいない。大事なのは、それを如何に抑制したり、良いことに昇華させるかだ――

 そんな輩が溢れ返って社会は混乱。そんな中にいずれはヒーローと呼ばれるようになる者の元祖が現れたのだろう。混乱した社会の中で治安の為に力を振るい続けて他人を救けたその行為は確かに「英雄」だと言えるかもしれないな。そうして、空想の存在が現実になった。

 

 しかし……意味を知ってから、疑問に思う。ヒーローとは、何を以ってヒーローと定義づけるのだろうか……?

 

 本来ならば、ヒーローとは救世主。救世主には悪も正義もないのではないだろうか。

 

 例えば、家族を守る為に犯罪に手を染めた男がいるとする。家庭を養うお金が必要だとか、自分の背後に隠れる更なる凶悪犯の手から家族を救うだとかの理由で。そうしたら、世間から見て「悪」に値する。でも、彼の家族からすれば救世主であるかもしれない。

 そんな視点から考えれば、無惨だってそうかもしれない。鬼は日光や日輪刀による頸の切断以外では死なない。不死身な上に病気にもならない。不治の病にかかった者からすれば、自分を不死にしてくれた無惨は救世主であるに違いないだろう。――とは言え、奴は鬼になるメリット・デメリットも話さずに(話さずして当然だが)他人の思いを平然と利用する外道。奴を討ち滅ぼしたことには何の後悔もない。はっきり言うが、二度とこの世に現れないでほしいと思う――

 (ヴィラン)にも同じことが言えるのではないだろうか。初めは純粋な悪事に手を染めていたが、"個性"をきっかけに捨てられた子供を見つけ、その子供の為に更に手を汚すような(ヴィラン)もいるかもしれない。そうしたら、その(ヴィラン)は子供にとって立派なヒーローなんだ。

 

 それだけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()で、ヒーローには誰だってなれる……と、俺は思う。

 

 いじめられている子供がいるとしよう。その子供を庇って、いじめっ子達を撃退したまた別の子供がいるとする。そうしたら……いじめられている子にとって、いじめっ子達を撃退した子は立派なヒーローだと言えると思わないか?

 孤独でいる子に手を差し伸べて、「一緒に遊ぼう」と誘った子も孤独な子にとってのヒーローになるに違いない。

 単純な話をしてしまえば、警察だってそうだ。日々街の平和を守って、どんな小さな事件にも関わって平和を思いやる。その姿勢は立派なヒーローのそれじゃないか。

 家庭を守る父親は他の家族にとってのヒーローだし、彼らの子は自分達の疲れを吹き飛ばしてくれる可愛げのあるヒーロー。

 

 ……挙げだしたらキリがない。

 

 つまり、俺は何が言いたいのか。

 

「…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これ一つだけだ。

 

 人それぞれに価値観があるから、善と悪が定められるのも仕方ない。人の中に暗黙の了解として共通の価値観もあるから、ヒーローと(ヴィラン)とで垣根が出来るのも分からなくはない。

 

 だが……職業としてヒーローが定められてしまったから、父が言ったような無個性はヒーローになれないと言った風潮が生まれるのではないか。"個性"によって、人の生き方を勝手に定めるような馬鹿な輩が生まれるのではないか。

 

 結局、本当のヒーローを突き詰めていくと誰かにとっての英雄的な行動をした人全てになるのだろう。だからこそ、ダークヒーロー、アンチヒーロー、スーパーヒーローのように「ヒーロー」と一言で言っても複数の定義がある。

 

 ならば俺は……。

 

「――家族や友にとって……いや、それだけじゃないな。()()()()()()()()()()()()()()()()になろう。職業としてのヒーローじゃなく、本当のヒーロー。……それが俺の目指すものだ」

 

 目指すものが決まった。"個性"のことだけじゃなく、解決したことが多い。とても心地良く、心が晴れたようだ。

 歴史上には数多の学者や哲学者が存在する訳だが、彼らは何か一つの問題が解決する度にこんな気持ちになっていたのかもしれないな。

 

 ふと思い立つ。母は大丈夫なのだろうかと。俺はヒーローのことだけじゃなく、その他諸々をメモした紙を学習机の端に貼り付け、自分の部屋を出た。

 

 父に辞書を返した後、リビングに戻ってみると……母は依然泣いていた。姉さんがずっと彼女を慰めながらその背中を撫でていた。

 

 俺の気配にでも気がついたのか、姉さんが振り向く。

 俺に任せてほしい、という意味を込めて頷くと姉さんは申し訳なさそうな顔をしながら母の側を離れた。

 

 二人きりにしてくれたのはありがたい。口下手な俺なりに、母に伝えよう。俺の目指すものを。

 

「……母さん。自分を責めないで」

 

 俺の声に、母は体育座りの姿勢で膝に埋めていた顔を上げた。……涙でぐしゃぐしゃの顔だった。頬には涙が伝った跡があり、目は充血していた。その目には、幼子のような不安が宿っている。

 

 母の涙を拭ってやりながら俺は続けた。

 

「あのね、母さん。俺がここまで強くなろうとしてきたのは、父さんのようなヒーローになる為じゃないんだよ。母さんや姉さん、父さん……。家族や友達を守りたいから。()()()()()()()()()()()()()()になりたいからだ」

 

「俺、思うんだ。ヒーローの形は一つじゃないって。力や資格なんて必ずしも必要じゃない。誰かにとってのヒーローなら、その人は十分なヒーローだ。やり方は違っても、誰だってヒーローになれる。今の父さんはヒーローって仕事に就いてる。でも、母さんにとって、父さんはずっと前からヒーローだったんじゃない?」

 

 涙を拭われながら、母は言葉なくも頷いた。

 

「……そういうことだよ。俺は仕事としてのヒーローに拘らない。俺が目指すのは本当のヒーロー。力も資格もなくったって、誰かの小さな救けになれる人だ。だから、俺の努力次第でどうにでもなる。俺の夢は絶対に潰れない。潰させない。だから、悲しまないで。俺は大丈夫だ」

 

 俺は違和感のないくらいに口角を上げ、目尻を下げて微笑みながら言い切る。

 

 すると、母も空色の瞳をした垂れ目に安堵を浮かべながら、儚げ美人とも言うべき微笑みを浮かべて俺を抱きしめた。

 

「義勇……。義勇は強い子ね……。私のせいで夢が潰れたんじゃないって分かって、安心した。ありがとうね、義勇。貴方は……私のヒーローだよ。本当のね」

 

 母の胸に抱き寄せられた俺が顔を上げてみると、母は再び泣いていた。でも、今度は嬉し泣きだ。

 嬉し泣きだって分かって、俺も物凄く嬉しくなって母を抱きしめ返した。

 

 その後、母は見事に元気を取り戻し、「義勇の誕生日なんだし、今日は鮭大根ね!」と張り切った様子で買い物に出かけた。

 

 彼女を見送った後。"個性"の診断に行ったことでもう一つの収穫があったことを思い出し、俺は青いのシャツの右袖を捲った。

 

 露わになった右腕。その一の腕と二の腕の境目辺りには……()()()()()()()()()()()()()()()()が巻き付いていた。(とぐろ)を巻く蛇……いや、龍のようにして。

 

「"痣"……。何故発現しているんだ……」

 

 その青い紋様は俺にも馴染みがある。前世、俺の左頬に出ていたらしい"痣"そのものだ。

 

 "痣"には発現条件があったはず。全集中の呼吸を一定以上極める、心拍数が二百を超える、体温が三十九度以上になるの三つだ。

 

 そのうち満たしているのは体温だけ。父や母曰く、俺には生まれつき"痣"があったらしい。それで常に体温が高かった為、熱があるのでないか、風邪をひいているのではないかと度々慌てたらしい。とは言え、俺自身には何も異状がないので心配しないよう心がけていたそうだが。

 

 ……非常に申し訳なくなってきた。迷惑かけてごめん、父さん、母さん。

 

 "痣"が発現した者は、身体能力が飛躍的に上がると共に怪我の治りも恐ろしいくらいに早くなる。

 考えてみれば、擦り傷などは鬼さながらの勢いで回復していたな。それに、今世はどれだけ運動しても疲れない。何日でも、ぶっ通しで走れてしまうのではないかと思う程だ。それらも"痣"の影響なのだろう。

 

 因みにだが、"痣"は断じて"個性"ではない。事実、俺の体は寸分の疑いもなく無個性の人間の型だからな。それに……何と言ったか。確か"抹消"という"個性"を消せる"個性"を持つプロヒーローの方に協力を仰いで、その方がいつもやる要領で俺の"個性"を消そうとしたが、"痣"は消えなかったし、体温もそのままだった。それが何よりの証拠だろう。

 それと、寿命が縮む心配もない。理由は知らない。だが、医者によれば心拍数は平常な数値に収まっているらしく、早死にするようなことはないだろうとのことだった。

 

 そうやって生まれつき"痣"があった例は、これまでにもほんの僅かだけならばあるらしく、俺のような体質は"痣者"という名前で登録されているらしい。因みにだが先程話したプロヒーローの方には、"痣者"のことと俺の体の型が無個性の人間の型であることを承知いただいた上で協力を仰いだようだ。……異世界だというのに、俺の生きていた時と同じような現象が起きるのか。いや、もしかすると…………。

 

「――まだ確信は持てないな」

 

 数秒考えた後に呟く。

 

 何にせよ、俺が生まれつき"痣"を発現させ、前世の記憶を持って生まれたのには何か意味があるのかもしれない。

 

 俺は今よりも強くなることを誓いながら、"痣"を覆うようにして右腕を握ったのだった。

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