あれは、暑い夏の日のことだった。僕は誕生日を迎えた後で8歳になっていた。その日は休日。家族で出かけたり、自分の好きなことをやったり……そんなかけがえのない日。僕の場合は、お母さんと幼馴染の爆豪勝己君――僕はあだ名でかっちゃんって呼んでるけど――とその家族を交えてテーマパークに出かけてた。そこは、国内有数の場所で通称"夢の国"だなんて呼ばれてたりする。
その頃には、既に無個性なのともっと幼い頃にあった、
大方、彼の母親である光己さんに無理矢理連れてこられたんじゃないかな。あの時は。
僕を嫌ってたのは事実だけれど、両親の前ではいつも通りの振る舞いをする訳にもいかないらしかった。だから、僕達は普通に遊び倒した。
それは久しぶりのことで……嫌な奴なんだけれど、幼馴染なのは変わりないし、何より僕は何でも出来て夢を叶えられるステージに立った彼を「凄い奴」だって尊敬していたから、正直言って嬉しかった。嫌な奴で度々マウントを取ってくるけれど、まだ本心からかっこいいって思えていた、昔のかっちゃんが戻ってきた気がしてた。
そんな僕達に悲劇が舞い込む。約1年と半年程前に、ウォーターホースを殺した極悪な指名手配犯……マスキュラーとその一団がテーマパークを襲撃したんだ。
「
誰かの声で、僕達も慌てて逃げ出した。
「ああっ!?
ヒーロー志望らしいけれど、かっちゃんに至っては威勢よくそんなことを言い出した。そんな勇敢で負け知らずなところも尊敬してるけど、今回ばかりは行かせる訳にはいかなかった。
「駄目だよ、かっちゃん!相手は
でも、かっちゃんは素直に聞いてくれない。神経質な獣みたいに苛立ちに満ちた赤い瞳を向けて、僕の手を払った。
「命令すんな、クソデク!俺を見下してんのか!?」
「ち、違うよ!見下すなんて、そんなこと……!」
昔からそうだった。かっちゃんにとっては、僕の心配が見下すのと同義らしくて、
いや、今は置いておこう。かっちゃんに血走った目で怒鳴られて僕が萎縮した直後。かっちゃんの頭に拳骨が炸裂した。
「出久君が心配してくれてるってのにあんたは何を言ってんの!どこがあんたのことを見下してるっての!?普段からあんたがやってるガキ同士の喧嘩とは訳が違うんだよ!」
意地を張るかっちゃんに拳骨を喰らわせたのは、やっぱり光己さんだった。かっちゃんの気性の荒さは、彼女譲りなんだろうな……とたまに思う。
「いってえな!叩くんじゃねえよ、ババア!」
「2人共、落ち着いて……!」
逆ギレするかっちゃんと揉める光己さん。彼らを
「鎮静ヒーロー・凪!ここに参上!皆さん、
その声の主は、鎮静ヒーロー・凪だった。この頃には既にヒーローオタクだったから、知っていた。ヒーローのランキングでは40位から50位以内を常にキープし続ける実力あるヒーローだってことを。彼なら大丈夫だって安心した。
「……ほら、プロヒーローが来てくれた。あんたも大人しく逃げな」
「……チッ」
かっちゃんは、昔から頭が良い。その道のプロが駆けつけてきたのなら、業界経験のある彼らに任せるべきだってことは理解していた。だから、しぶしぶながらも、かっちゃんも逃げた。僕は自分の子供らしき男の子と言葉を交わす凪を一瞥してから、かっちゃんの背中を追うようにして走り出したのだった。
結果から言って、事件は容易く解決……しなかった。僕も詳しいことは知らない。けれど、マスキュラーの手下らしき
その
目の前にいる人々が次々と血を吹き出して倒れていく。中には、致命傷を負ったり、即死の人だっていた。僕らは絶句して、いつの間にか希望の出口に向かっていたはずの足が止まっていた。
「そんなっ……」
こんなに大量の血を見たのは初めてのことだった。体中から血の気が引いて、冷え上がっていくのが分かった。そして、一気に凄惨な光景を目にした反動が口の中に込み上げてきた。
「おえっ……!」
僕は膝から崩れ落ちて、情けないことにも胃の中のものを全て吐き出してしまった。
「い、出久!?」
「っ!?おいっ、しっかりしろ、デク!おいっ、大丈夫か!?」
お母さんが僕の背中をさすってくれて、かっちゃんは心の底から心配してくれてた。だって……かっちゃんにしては、珍しく声が震えてたんだもの。こんな非常事態に彼に心配されるのが嬉しいって思うだなんて、僕はおかしいのかもしれない。
そんな中、更なる絶望が僕らを襲う。
僕らは、白いイタチ姿の
青空のように澄んだ蒼い瞳をした艶やかなロングヘアーの女性。垂れ目でふわふわした印象があったけれど、すぐそばにいる同じ目の色をした三つ編みロングヘアーの女の子を守り通そうとする母親としての強さが感じられた。でもって、その女の子は彼女と同じ瞳の色をしていて……後頭部の薄い桃色のリボンが特徴的だった。
そして、もう1人。2人とは一味違って、動揺を一切移さない凪いだ水面のような青い瞳を持つ男の子がいた。首辺りまでの長さの無造作な黒髪のショートヘアー。彼の右腕には、龍のようにして巻きついた模様のようなものがあった。
――そう。その男の子こそが、冨岡君だったんだ。側にいる女の子は彼のお姉さんである蔦子さんで、女性は彼らのお母さんだった。
「な、なんて酷いことを……!」
お母さんやかっちゃんのご両親も彼女が一方的に
子供にとっては、親が世界の全て。僕だってそう思う。無個性だと判明した日の夜、あの質問をしたけれど、母さんが望んだ答えを返してくれなかった時……世界そのものに見捨てられた気がしてたから。
当然、冨岡君達もそうだった。自分の母親を見捨てることは出来ず、蔦子さんが彼女に駆け寄っていく。冨岡君自身もその背中を追う。そこから感じられるのは……2人とも守りたいという強い意志だった。
でも、
「ッ、姉さん!!!!!」
「ああっ!」「逃げろォォォ!」
僕らの声が届いていたのかは分からない。それでも、僕もかっちゃんも危険を知らせようと咄嗟に声を上げていた。
そこから、冨岡君の判断は早かった。
冨岡君の放った豪速球ならぬ、豪速石は真っ直ぐに突き進んで
だけど、不幸なことに、蔦子さんが救かった代わりにその行動は
――次の瞬間、鮮血が舞った。
でも、それは冨岡君のものじゃない。冨岡君のお母さんのものだった。僕にも何が何だか分からなかった。風が逆巻くような音が聞こえたと思ったら、彼女が急に
「……!!」
蔦子さんが「死なないで」と必死に請うも、その願いは叶わず……。自分の子供達に最期の言葉を遺して、彼女は死んでしまった……。
僕達は同時に声にならない声を上げる。僕とかっちゃんは、奇しくも幸福であるべき日に人の死を目の前で経験してしまった。そのショックで開いた口が塞がらなかった。お母さんと光己さんは開いた口を両手で覆って涙を流し、勝さんは呆然としていた。
――絶望は終わらなかった……!
地震が起きたように地面が揺れる。その原因となったのは、この場にやってきたマスキュラー。そして、その手で……血だらけでボロボロになった状態の凪の首を鷲掴みにしていた。
そこからは早かった。もう動くことすらもままならなかったんだろう。凪もまた、無抵抗のまま首をへし折られて呆気なく死んでしまった……。
まだまだ絶望は終わらない。
「酷すぎる……。なんであんなことが平然と出来るの……?」
お母さんが膝から崩れ落ちて呟くのと同時に、かっちゃんが痺れを切らしたようにして一歩踏み出した。
「かっちゃん!?何する気なの!?」
僕は、咄嗟にその腕を掴んで彼を止めた。振り返ったかっちゃんの目には、逃げることを提案した時と同じように怒りの炎が灯っている。でも、それは……正義の心から来た怒りだって、なんとなく分かった。
「止めんな、デク!ここで人質救けなきゃ、2人共死ぬ!それどころか全員死ぬ!俺が……俺が救けなきゃなんねえんだ!オールマイトを超えるヒーローになる俺がッ!!!」
まさに、かっちゃんは義憤に駆られたらしかった。このままズンズンと突き進んでしまいそうなかっちゃんを見て、お母さんや光己さんも彼を必死になって止め始めた。
「やめて!やめて、勝己君!気持ちは分かるけど、堪えて!勝己君まで、あの子達のお母さんや凪のように死んでしまったら……!」
「止めねえでくれ、おばさん!誰かを救けるヒーローが誰一人この場にいねえんだぞ!?誰かがやらなきゃ駄目なんだ!」
「ふざけるのも大概にしな、勝己!プロを気取ってんじゃないよ!あんたがそう思うのは立派だけれど、志だけじゃ務まらないんだよ!まだ子供のあんたがでしゃばる場面じゃない!」
「なら、黙ってこれ以上人が殺されるのを見てろってか!?ふざけんじゃねえ!」
言い争う光己さんとかっちゃんを呆然と見ながら、僕は思った。
考えてみれば……かっちゃんが、
そうしている間に、勝さんが悲痛な声を上げた。
「ま、まさかあの女の子……弟君の為に、自分が死ぬ気なんじゃ!?」
その声に僕らは弾かれたように目の前を見る。
僕らが目にしたのは、迷いない力強い足取りでマスキュラーへ向けて歩いていく蔦子さんの姿だった。
彼女が死ぬ覚悟を――命を賭けて冨岡君を守る決意をしたのは明らかだった。
彼女がマスキュラーの前に立ち、冨岡君の方を向いて何かを呟いた瞬間……!マスキュラーが、筋繊維を纏わせた丸太のような腕を振りかぶった。
これから起こる未来を察した僕とかっちゃんは――
「「やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」」
声を枯らしてしまう程に力強く叫んだ。だけど……!その未来は現実にならなかった!
冨岡君が無数の波を纏った、澱みない動きで繋がれた乱打。恐らくは、水の呼吸の肆ノ型である打ち潮を放って、マスキュラーを吹き飛ばしたんだ!
僕らと同い年くらいの男の子が2m超えと思われる身長の敵を吹き飛ばした事実は、僕らにとって雷同然の衝撃――まさに、青天の霹靂だった。
「君達、立てる?お姉さんと一緒に逃げましょう」
目を点にしたまま固まっていた僕らは、蔦子さんにそう促されたことで正気に戻って、何とかテーマパークの外まで逃げ切ることが出来た。
でも……当時の僕は、冨岡君のことが心配だった。本物の
「あの……」
「なあに?」
「あの子は……大丈夫なんですか?」
「あの子……。さっき
「は、はい」
僕は、人質に取られていた女性の抱えていた赤ちゃんを女性に代わって抱えている蔦子さんに尋ねた。そう思っていたのはかっちゃんも同じらしく、視線だけで同じことを彼女に訴えていたらしかった。
蔦子さんは、赤ちゃんを母親である女性に返した後に凛と微笑んだ。
「大丈夫。あの子は……私の弟、義勇は強いもの」
弟である冨岡君のことを強く信じているからこその微笑み。真昼の太陽に眩しく照らされた彼女の中に、僕は固い絆を感じた……。
結論として、冨岡君はプロヒーローであるプレゼントマイクとイレイザーヘッドが到着するまで見事に持ち堪えた。傷一つなく戦い抜いて、自分の後ろにいる人々全員を守り抜き、救けた。
僕は、冨岡君の人々を救ける姿に、それを為せる強さ、流麗に型を振るうその背中に、無性に憧れたんだ。冨岡君こそ、僕がオールマイト以来に強く憧れたヒーローそのものだった……!
その帰り道。事情聴取もあったから、帰る時には辺りはすっかり夕方になっていた。沢山の人々の死を目の前にした傷は癒えなかったけれど……僕は、どうしてもかっちゃんに言いたいことがあって口を開いた。
「あの子……かっこよかったね」
勿論、あの子っていうのは冨岡君のことだ。かっちゃんもそれが分かっていたのか……黙って頷いた。でも、薄く口角が上がっていて、その赤い目は初めてオールマイトを知った時のように輝いて、憧れに満ちていた。薄く笑っていた彼の顔を、夕陽が淡く橙色に照らしていた。プラチナブロンドの髪が光に照らされて、眩く輝いていた。
かっちゃんが僕の意見を頭ごなしに否定することなく、同意してくれた。そのことで久々に心が通じ合えた気がして、僕は無性に嬉しかった……。
★
僕は、あの戦いで現実を知った。ヒーロー達が対峙する
……じゃあ、将来の為のヒーロー分析ノートなんてものを作って、現実から目を逸らしてヒーローの追っかけだけをやっていた僕がヒーローになったって、簡単に死ぬだけじゃないか!
オールマイトみたいに、沢山の人を笑顔で救けちゃうヒーローになんてなれる訳ないじゃないか!
やっと気が付いた。勇気が出た。あの残酷な事件は、奇しくも僕に一歩踏み出す勇気をくれた。僕の殻をぶち破ってくれた。
何かしなきゃ……!何かしなくちゃ!
僕は必死だった。今からでも変わらなくちゃ、とヒーローについての検索で手に入れた凡ゆる情報網を駆使して、体の鍛え方を探して、将来に備えて計画を立てた。その一部は、自分の年齢や体の成長に合わせて早速実践し始めた。
そんな生活を続けるきっかけになった、あの事件から数週間後。
「……部屋入れろ」
「え?」
「いいから入れろ。おばさんに迷惑かけたくねえ」
「う、うん」
どこか雰囲気が柔らかくなったかっちゃんが、突然家に押しかけてきた。そんな様子の彼を戸惑いながらも自分の部屋に招いて……扉を閉めた次の瞬間。
「……
「え……?」
突然、今までに聞いたことのないようなトーンの声を発したかっちゃんに土下座された。
「か、かっちゃん!?どうしたの、突然……」
出久って名前で呼ばれたのもそうだけど、あの傲慢で唯我独尊なかっちゃんが……自分の言うこと為すことは全て絶対だって姿勢のかっちゃんが他人に頭を下げるというのが一番衝撃だった。しかも、その相手が僕だなんて……。
「……今まで散々いじめてきたことだよ。いつもお前を見下して、無個性だから生意気だって制裁して、蔑称付けて……。笑えねえよな、気に入らねえからっていじめてばっかでよ。ヒーローを目指す奴のやることじゃねえよ……」
かっちゃんは、ぽつりぽつりと語り始めた。
いくら気に入らない人間が相手だからって、将来は自分が救けるべきである、何も持たない人間をいじめる自分の弱さを棚に上げて、目を逸らしていたと。何も出来ない僕が「勝つこと」の先にある「救けること」に憧れていたのが、一気に差をつけられたようでムカついたと。
「――こうやって謝っただけで許されるもんじゃねえって思ってる。それくらいの溝がお前との間に出来ちまった。許してくれなんて言わねえ……。けど、俺はこっから真っ当にヒーロー目指すから」
「かっちゃん……」
そりゃ散々いじめられたし、無個性のことでも馬鹿にされ続け、苛まれ続けた。でも……僕は、彼が謝ってきたことを何を今更だなんて思わなかった。少しでも本音が知れて嬉しかった。僕は、自然とかっちゃんを許すことが出来た。
「出久……俺が話したいのは、これだけじゃねえんだ。あのな、出久。この世にはな……!無個性でも、何も出来なかったとしてもヒーローになれる術があるんだ!」
かっちゃんは、ゆっくり立ち上がると一冊のノートを突き付けながら必死で語りかけてきた。
そのノートこそ、"全集中の呼吸"まとめノートだった。当時の僕は"全集中の呼吸"のことなんて微塵も知らなかったから、戸惑った。本当にそんなものがあるの?って疑った。
戸惑ったままの僕にかっちゃんは続ける。
「彼奴も……!
かっちゃんは耳も良く、冨岡君も発していた風が逆巻くような音を根拠にして、彼の扱っていた呼吸が水の呼吸であったことも教えてくれたんだ。
その術が現実にあったことが何よりも驚きの事実だった。これを使って、彼のように強くなれるなら、救けられるようになるのなら……と僕の中で希望が持てた。
かっちゃんは歯を食いしばった後、覚悟を決めたように赤い瞳で僕の目を射抜いた。僕が彼の目から発せられる強い何かでビクッと肩を跳ねさせた直後、溜まりに溜まった不満をぶちまけるようにして言葉で畳み掛けてきた。
「あのなァ、出久!俺はな……!俺はな!自分の無個性っつー身の上を全く頭に置いてねえお前の考え方が気持ち悪かった!現実も見ないで夢見がちなお前が不気味で仕方なかった!」
僕の胸倉を掴んで引き寄せながら、かっちゃんは続ける。
「本気でなりてえんなら、それ相応の努力をしろや!自分は夢見がちな木偶の坊じゃないって証明してみせろ!!!"個性"や戦い方ばっか分析して、目ェ逸らして!それ以上に必要なもの学ぼうとしねえで!
そっか……。これがかっちゃんの本音だったんだ……。
かっちゃん自身の口から聞けた彼の本音。僕らは、この8年間で一度も本音で話し合ったことがなかった。僕は、ここに来て初めてかっちゃんを知った。つもり積もってつもり病……なんて言葉を誰かが言っていたけれど、本当にその通りだ。
かっちゃんが真正面から向き合おうとしてくれてる。じゃあ、僕も本音でぶつからなきゃ――!
僕も、負けじと自分の胸倉を掴むかっちゃんの腕を鷲掴みにする。その行動に対して微かに目を見開いて驚く彼も気にせず、赤い瞳を射抜き返して僕は言った。
「分かってるさ……!本当は、僕の行動は現実から目を逸らす為だけのものだって分かってた!全部自覚してた!残酷だったけど、あの事件は僕に最初の一歩を踏み出す大きな勇気をくれた!僕は、君と比べても、他の人と比べても出遅れてる」
「でも!それでもっ!僕はオールマイトみたいに、皆を笑顔で救けるヒーローになりたい!
そして、そう啖呵を切ると同時にかっちゃんの胸倉を掴み返した。
掴み返されたことに再び目を見開いたかっちゃん。直後、額と額がぶつかってしまうくらいに距離を詰めて、より一層畳み掛けてくる。
「その目だ!その目が気に入らなかったんだ!自分が無個性だってのを頭に置かねえで、本気で俺を超えようとしてやがるその目が!オールマイトみてえになろうとしてるその目が!そのくせ、やることはヒーローの追っかけばっかじゃねえか!気色
「超えたきゃ、必要な努力積んで……死ぬ気でついて来いや!モタモタしてっと、容赦なく置いていくぞ!」
「……やってやるさ!あの子みたいに、自分が背負ってる命を全部救けられるようになるのなら、何だってやってやる!ただ君の後ろをついて行くだけのデクはもう終わりだ!」
僕だって本音を曝け出して、怯むことなく言い返した。その時、かっちゃんの視線が僕の後ろの方に向く。すると、そのまま安心したように笑って僕の胸倉から手を離した。僕も彼に釣られて手を離す。そして、かっちゃんは僕の頭を優しく撫でるとそのまま背中を向けて部屋を出ていこうとする。精々頑張れって意味も込めて、僕を撫でたのかな?
でも、彼が出て行く前にどうしても聞きたいことがあって――
「かっちゃん!」
僕は慌てて彼を引き止めた。
「僕でも……っ、無個性の僕でもヒーローになれるかな……?」
尋ねたのは良いけれど、どんな返事が返ってくるか不安で……息を呑んだ。心臓が高鳴った。また否定されたらどうしようって思った。でも、かっちゃんの返事は否定でも僕が期待したものでも何でもなかった。
「……知るかよ、んなもん。
全ては自分次第。夢を否定されてばかりで言われたこともなかったし、僕もヒーローになれるって断言してもらうことしか考えてなかった。
そりゃあ……そうだよな。僕の未来のことを他人が断言出来る訳がない。自分の未来は、僕ら自身が切り拓くものなんだ。だから、僕達はより良い未来を掴む為に努力する。当たり前なんだけれど、視界が狭まっていて気が付かなかった。
そう教えながら、白い歯を見せて幼い頃のようにニカッと笑ったかっちゃんが凄く輝いて見えた。
その後、かっちゃんは''全集中の呼吸''やそれを会得するまでの道のりをまとめたノートを置いて帰っていった。
「うう''っ……ああああっ……。かっちゃんっ……」
一番身近にいた凄い奴が僕を認めてくれた。そんな彼とようやく分かり合えた。その事実に、僕は久々に嬉し涙を流したのであった……。
★
「――そして、中学1年生の時には冨岡君に、中学3年で貴方に出会ったという訳です」
「そうか……そんなことがあったのか。少なくとも仲の良さそうだった爆豪少年とも昔は拗れた仲だったとは……いやはや、驚いた!」
こうして、僕は自分語りを締めくくった。オールマイトがしみじみと頷きながら尋ねてくる。
「緑谷少年。初めて出会ったあの日、私は君に酷なことを言ったね。『プロは皆、命懸けだ。とてもじゃないが、''
僕は、頷きながら答える。
「冨岡君って前例があったのもそうですけど……一番は、かっちゃんが『出久次第だろうが』って言ってくれたおかげです。一番大事なのは自分自身で道を切り拓くことだって分かってましたから」
答えを聞いたオールマイトは、いつものニカッとした笑みとは違って、そっと微笑んだ。その顔を、海の方から差す太陽の光がギラギラと照らしていた。
「本当に……君はいい幼馴染を持ったな」
「はいっ。かっちゃんは、僕の誇りです」
僕も、精一杯笑いながらそう返す。
そうだ……!それはそうと、気になることがあったんだ。オールマイトも特訓が一段落付いたら教えるって言ってたはず!
「あの、オールマイト!約束ですから、教えてください!オールマイトも''全集中の呼吸''のこと、知っているんですか!?」
僕が詰め寄りながら尋ねると、オールマイトは思い出したようにして右拳を左掌にポンッと打ちつけた。
「そうだったね!うん、約束は守ろうじゃないか。いきなりぶっちゃけちゃうけど……知ってるよ。だって、
「ええっ!?つ、使ってたんですか!?」
「Yes!そりゃあ使うとも。学生時代の私は、この国を支える
「因みに反復動作に関しては
オールマイトの新たな秘密を知れたし、自分の原点を話しているうちに体が疼き始めてたところだった。少しでも強くならなくちゃ……って!
「いい土産話が聞けちゃった……!冨岡君にも教えてあげなきゃ!それじゃあオールマイト。三度目の組み手、行ってきます!」
「ああ、頑張りたまえ!」
気合入れていけよ!とばかりに僕の背中を叩くオールマイトに見送られ、僕は三度目の組み手に向かったのであった。
「冨岡君!三度目、よろしく!」
「……ああ。気合は十分だな」
「えへへ……ちょっとね」
「それじゃあ、いくぞ少年達……!始めッ!」
僕らの特訓はまだまだ続く……!雄英入試に向けて実力を伸ばす為に!夢を形にする為に!
冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?
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このままで続けてほしい
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義勇さんだけが活躍する作品の方が見たい