冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

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第二十三話 雄英入試当日

 ……寒い。とても寒い!マフラー、手袋、そして、寒い冬のお供、ホッカイロ。出来るだけの防寒はしてるんだけどなあ……。自然って凄いんだね。

 

「ふうっ……。今日は本番か……!」

 

 心臓で高鳴る心臓を落ち着かせる為に深呼吸する。寒さで真っ白な息を見ながら、私は今日の日付を思い描いた。

 

 2()()2()6()()。2月の終わりが近いけれど、まだまだ寒い今日こそが……!待ちに待った、雄英高校の入試本番なんだ!

 

 不安はない訳じゃない。元に凄く緊張してるし。でも、義勇君と何度も筆記に備えて勉強したし、ヤオモモと緑谷君も交えて何度も実技に備えて特訓してきたんだ!絶対に大丈夫。後は……自分の全部を出し切るだけ!

 

「……行ってくるね、お兄ちゃん」

 

 平安時代の有力な貴族の住まう寝殿造の屋敷みたいにとんでもなく大きな、和風のそれに会釈する。砂利の敷かれた地面や、あちこちに植え付けられた植栽に池。この広すぎる典型的な日本庭園にポツンと私の声だけが響くのはちょっと寂しい気もするけれど、お兄ちゃんもお兄ちゃんで自分のやるべきことがあって頑張ってるんだから、多くは望まない。そもそも、両親を失った私を拾ってくれたってだけで凄く嬉しいんだ。

 

 お兄ちゃんには「義勇にもよろしく伝えてね」って言われてるし、ちゃんと教えてあげなきゃね。お兄ちゃん達だって、義勇君を応援してるんだって!

 

 義勇君とも合流しなきゃだし、そろそろ家を出ないと。

 

 そう思って、足を踏み出したその時――

 

「丁度向かうところだったな」

 

 背後から声をかけられた。

 

 音もなく背後に現れてそうするものだから、私は何の遠慮もなしに大きく肩を跳ねさせてしまう。そして、振り向けば……私の恩人達の姿があった。

 

「宇髄さん、悲鳴嶼さん!」

 

「おうおう、どうしたどうした。嬉しそうにしやがって。地味に寂しかったのか?」

 

「そ、そんなことないです!」

 

「それにしちゃ、俺らが来た途端にあからさまに笑ってたけどなあ?」

 

「うぐっ」

 

 私の頭をくしゃくしゃと撫でながらそう言う、銀髪で高身長。しかも、色男な彼は宇髄天元さん。私に''全集中の呼吸''のことを色々教えてくれた張本人だ。義勇君に本格的に教えられないままでそれを扱えたのは、間違いなくこの人のおかげ。

 

 因みに、宇髄さんの言ってることは図星。正直、見送り無しで行くのは寂しかったから……否定はしない。

 

「……そうですよ、嬉しかったです」

 

 私は、ニヤニヤと顔を覗き込む宇髄さんから目を逸らして、口を尖らせながら、そう言った。

 

「南無……。子供は素直なのが一番だ……」

 

 拗ねたような言い方をした私を(なだ)めるようにして優しく撫でる、宇髄さん以上の高身長と筋骨隆々な肉体を持つ男性は、悲鳴嶼行冥さん。家族を奪われたあの日、人間を喰らう凶悪な(ヴィラン)から私を救けてくれた正真正銘のヒーロー。なんとなく威厳があって、仁王像のように思える人だけれど……真っ直ぐな優しさがあって、真っ当な慈悲もある。まるでお坊さんみたいに優しい人なんだよ。物凄く涙脆くて、ことある度に泣いてるのはちょっとだけ面白いなあって思ってる私がいる。因みに、悲鳴嶼さんは猫が好きなんだって。今も片腕に屋敷で飼ってる猫を抱えてるし。

 

「えへへ……」

 

 お父さんみたいに逞しくて暖かくて、優しい人。それが悲鳴嶼さん。撫でられてると自然に気持ちが和らいで、頬が緩む。悲鳴嶼さんに撫でられてる猫ちゃん達もこんな気持ちなんだろうなあ、と彼の撫でを甘んじて受けた。

 

「雄英の入試……。いよいよね。頑張ってね、透ちゃん」

 

「折角受けるんだから、合格勝ち取ってこいよ!」

 

「葉隠さんなら絶対大丈夫です!私達の天元様に仕込まれたんですもの!」

 

「雛鶴ちゃん、まきをちゃん、須磨ちゃん!3人共ありがとう!」

 

 続いて、3人の女の子が駆け寄ってきて、それぞれ私の手を握って応援してくれた。3人共、私の大切な友達なの。

 

 まず、前髪を上げて一つ結びをした髪型をしていて、左目の下にセクシーな泣き黒子(ぼくろ)がある、冷静で判断力のある筆頭格――雛鶴ちゃん。私や義勇君と全くの同い年!

 次に、前髪の部分が金髪で無造作に跳ねた黒髪を後頭部でまとめていて、勝ち気で活発な3人の中の次女ポジション――まきをちゃん。私達の一歳年下!

 最後に、サラサラの黒髪を長く伸ばしていて、泣き虫なんだけれど神経が太いところもある、末っ子ポジション――須磨ちゃん!私達の二歳年下!

 

 彼女達は3人共、宇髄さんの妻になる予定なんだってさ。実際、婚約指輪付けてるし……。宇髄さん、色男としての魅力を存分に発揮してるね。……義勇君がこうならなくて良かったとは思うけども。

 

 同い年の雛鶴ちゃんも雄英の入試を受けるんだ。私達とは違って、普通科だけどね。

 

 もう2人、あのにっくき人喰い(ヴィラン)のせいで両親を失った私を気にかけてくれる人がいるんだけれど、彼らは多分、()()()()()()()()()。代わりに昨日の夜に応援のメッセージをくれたし。毎日毎日お疲れ様ですって言ってあげなくちゃね。

 

 皆が見送りに来てくれたのが嬉しくて、不思議な力が湧いてくる。私は、今ならなんだって出来るって……そんな気がしてた!

 

「皆……ありがとう!それじゃ、行ってきます!先に行くね、雛鶴ちゃん!」

 

「ええ、私も後から追うわ」

 

「気をつけてな」

 

「筆記で地味な凡ミスすんなよぉー!」

 

 こうして、私は彼らに温かく見送られて義勇君との合流の為に元気よく家を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

「……良かったのか?一緒に行かなくて」

 

「いいんです。やっぱり、冨岡さんとは雄英に入学してからお会いしたいので。だから、透ちゃんとは出るタイミングをズラしたんです。そうしたら、鉢合わせの可能性も少なくなりますから。私だって天元様と同じ気持ちなんですよ。……それでは、私もぼちぼち行って参ります」

 

「ん、派手に行ってこい!」

 

「雛鶴ー!頑張れよー!」

 

「健闘を祈ってます〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英入試当日の朝。蔦子姉さんと、雄英の入試だということを把握なさったのか、わざわざ狭霧山から俺達の自宅にまでおいでになった鱗滝さんに見送られ、俺は家を出た。

 前日には、根津さん、オールマイト、ナイトアイ、相澤さんに山田さん……。他にも、様々な方から直接メールや電話をいただいたり、姉さんを通して間接的に応援の声をいただいたりと、沢山の人々が俺に期待を馳せているのだと実感出来た。前世、鬼殺隊の最終選別に向かった時よりも、やる気と覚悟が満ち満ちているように思う。

 

 更に道中で透とも合流し、俺達は雄英高校に辿り着いた。校門の前に立ち、目指すべき場所を見上げる。

 

 アルファベットのHのような形のガラス張りの建物。天高く聳え立つその高さは、都会のビルどころの話ではない。まるで巨大な山が目の前にあるかようだ。

 

「おっきい……!中学校とは比べ物にならないよ……。首痛くなりそう……」

 

 雄英の校舎を見上げながら透が言う。きっと空から差す朝の日差しの眩しさに目を細めていることだろう。

 

「ああ……。受かった暁には、ここが俺達の学び舎になるんだな」

 

 校舎に向けていた視線を、校門に立てかけられた「国立雄英高等学校入学試験」の文字が書かれた看板に向ける。こうして文字を目にしたことで、今日が雄英の入試なのだと改めて実感出来た。

 

「気合入れていかないと!絶対受かるぞ、義勇君!」

 

「勿論だ」

 

 胸の前で両手の拳を握るような仕草をする透に微笑みつつ同意する。彼女の目は、未来への希望とやる気に満ち溢れていることだろうな。

 

「あっ、冨岡君と葉隠さん!おはよう!」

 

「緑谷君と爆豪君!おはよー!」

 

 丁度その時、緑谷も雄英にやってきた。こっちに歩いてくる彼の隣には爆豪の姿もある。

 

 「ごめん、かっちゃん。先に行ってて」と促された爆豪は、ズカズカと俺の前まで歩いてくると、スッと拳を差し出した。

 

「落ちんなよ、冨岡。俺は、お前と相見えんのを楽しみにしてここまで来てんだからよ」

 

「……心配するな。ここまで積んできた努力は伊達じゃない。健闘を祈る」

 

「へっ、そうこなくちゃな」

 

 俺も拳を差し出し、互いの拳を合わせる。爆豪の浮かべた不敵な笑みとその赤い瞳から、地獄の業火のように燃え盛るギラついた闘志を感じ取った。

 

 俺と拳を合わせた右手を見つめ、満足そうに笑いながら、爆豪は雄英の校門をくぐって校舎に足を踏み入れた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんとも軽い足取りだった。よく分からないが、相当ご機嫌らしかったな。

 

 まあ……それとは反対に、彼の背中からは合格するどころかトップを狙ってやるという凄まじい向上心とやる気を感じたのだが。

 

 その背中を見て、「僕も負けてられない!」と緑谷もまた意気込んでいた。爆豪に次いで、緑谷もやる気満々のようだな。いい影響が次から次へと(もたら)されているようで何よりだ。

 

 そんな緑谷を横目にしつつ、透が尋ねる。

 

「そういえばさ、緑谷君!我流の呼吸を作り上げようって、いつも頑張ってたよね!……どうなったの!?」

 

 額同士が当たりそうになる程にずいっと近づいてきた透に驚きつつ、緑谷は問題無しと言わんばかりに笑って、サムズアップした。

 

「やっと見つけたんだ、僕だけの''全集中の呼吸(答え)''!葉隠さんや冨岡君。それと、ここにはいないけれど八百万さんも。皆が協力してくれたおかげだよ。本当にありがとう」

 

 これこそ、出会ってから2年の間で共に鍛え上げてきた甲斐があるというもの。

 

 雄英入試まで1ヶ月を切ってからは、緑谷に更に気合が入った。俺達もそれに応える為に気合を入れ直して共に励んだが……それが見事に功を奏し、緑谷は我流の流派の呼吸に辿り着くことが出来た。

 

 あの海浜公園の特訓の最中、オールマイトの見守る中で会得したのだが、その時の緑谷の達成感に満ち溢れた眩しい笑顔を忘れることは決してないだろう。身長は伸び、肉体も更に鍛え上げられ……。本当に逞しくなったものだ。

 

 特訓の成果を聞いた透は、嬉しさを堪えるようにして体を振るわせ、思い切り緑谷に抱きついた。

 

「は、葉隠さん!?ちょっ、どうしたの!?急にこんなこと……!注目浴びちゃってるから!」

 

 途端に緑谷は何度も瞬きして戸惑う。これは、透なりの心の底から信頼する相手に対するスキンシップだ。何度もやられてるからか、多少は慣れたらしい。やられた当初は毎回顔を赤くしていたが。

 

 いつの間にやら、緑谷のことも心の底から信頼出来るようになったらしい。俺は少しだけホッとした。

 

「上手くいかなくて何回も悩んで、焦って……それでもずっと頑張ってたもんね」

 

「へ……?な、なんで知ってるの?」

 

「そりゃあ……()()()()()()()()()()()()()()からねぇ」

 

「???」

 

 いたずらっぽく笑いつつ、緑谷を撫でる透がやたらと大人びて見えた。

 

 だが……確かに、透はそういうことに対しては大人なのかもしれないな。恋する乙女とは一体……?

 

 その時。俺達の方に駆け寄ってくる、ポニーテールの少女の姿が目に入った。

 

「緑谷さん!冨岡さんに葉隠さーん!おはようございます!」

 

「えっ、や、八百万さん……!?どうしてここに!?」

 

 その少女の正体は、俺達もよく知る八百万だ。彼女も雄英の入試を受けはしたが、一般の入試を受ける俺達とは違って、推薦入試を受けた。推薦入試があったのは1ヶ月ほど前のこと。無事に合格したという報告も受けたし、雄英に用はないと思うのだが……。

 

 八百万は、手の甲で額を拭いながら、ふうっと一息ついた後で言った。

 

「皆様が入試をお受けになる日でしたので、激励のお言葉をお送りしなければと思いまして」

 

「ええっ!?それでわざわざここまで来てくれたの!?」

 

「はいっ」

 

 透が驚きを露わにしながら言うと、八百万は花のような笑顔で答えた。

 

 何と他人思いな少女だろうか。彼女を友達に持てた俺は幸せだな。

 

「お三方とも、頑張ってくださいまし!応援してますわ!」

 

 笑顔で言った八百万の周囲から、ブワッと桜の花が舞い散ったような気がした。麗しくも華やかな笑みと共に送られた激励で、心が温かくなった。

 

「ア、アリガトウゴザイマス」

 

「あはは、こんな美人な子に応援されたら落ちるなんて許されないよね〜?頑張ろうね、義勇君」

 

「ああ」

 

 ん?緑谷は、どうして顔を真っ赤にして片言になっているんだ……?

 

 ふと腕時計に目を落としてみれば、受付締め切りの時間が刻々と近づきつつあった。

 

「八百万、俺達はそろそろ行く。応援ありがとう」

 

「!お力になれたようで嬉しいですわ!健闘を祈っております」

 

 俺が礼を述べると、八百万は嬉しそうに目を輝かせ、神に祈りを捧げるシスターのように微笑んだ。

 

 こうして、八百万に見送られた俺達は、勇んで雄英の敷地に足を踏み入れるのだった。

 

 ……何だ?周囲の視線が凄い……。俺を嫌っていた頃の不死川のような刺々しい視線が突き刺さってくる……。お、俺はこんなに大多数の人に嫌われてしまったのか……?何が原因なんだ……。

 

「ねえねえ、緑谷君。……ヤオモモの制服姿、やっばいね!

 

「う、うん……。じゃなくてっ!急に何言ってるの!?や、やめてよ……!

 

「へえ……否定はしないんだ!いいこと知っちゃったぞ!緑谷君。近頃、ヤオモモ見てめっちゃドキドキしてるでしょ?そりゃあ、ヤオモモに恋してるの!鈍いのも困り者だよ。早く告っちゃえ!

 

「こ、恋っ……!?」

 

 ふと後ろを振り向けば、透に何かを耳打ちされた緑谷が、胸の辺りを押さえながら硬直していた。……本当に何があったんだ?

 

 そんな緑谷を見て、クスッと笑った透が駆け寄ってくる。そして、俺の耳元で囁いた。

 

「義勇君。お兄ちゃんがね、『私達は義勇のことをいつも見守っているからね。入試も頑張るんだよ』だって」

 

「……!」

 

 お館様……。お館様も、俺の合格を願ってくださっている……!

 

 俺の脳内は、咄嗟に透の言った言葉をお館様のお声で再生した。

 

 そのお声を目の前で聞いた時と同じように、不思議と心が落ち着いて、高揚する。

 

 これは……受からねばならない理由がもう一つ出来たな。

 

「透。戻ったら……『ありがとうございました』と、そのお方に伝えてくれ。必ずや合格を持ち帰ろうな」

 

「オッケー!やる気満々だね!」

 

 ハイタッチを交わし合い、透は「先に行くね!」と張り切って受付を済ませて筆記試験の会場となる教室へと向かっていった。

 

 ……緑谷が固まったままだ。声をかけてやらなくては。

 

 そう思った俺は、彼の肩を叩きながら尋ねる。

 

「……緑谷。さっきからちょくちょく固まってるが……緊張しているのか?」

 

「はひっ!?あっ、うん……そ、そそ、そんな感じ」

 

「緊張しすぎることはない。肩の力を抜くんだ。今までの成果を思い出せ、俺達ならやれる」

 

「!……そうだね。ありがとう、冨岡君。よし、頑張ろう……!こんなんじゃ、かっちゃんに怒られちゃう」

 

 うん……瞳にやる気が戻ったな。これなら問題なさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。筆記試験を終え、俺達は実技試験の説明を行う大講堂へと集まっていた。

 

 試験を終えた後で見直しを繰り返したし、日々の学習のおかげもあって合格ラインはしっかり超えているはずだ。緑谷や透も学習の成果を発揮出来たようで良かった。

 

 用意された何十列もの席に、多くの受験生達が集まっていた。辺りを見回せば、人、人、人……。人気歌手やバンドグループ、アイドルなどのライブ会場もこんな感じなのだろうか?改めて、雄英高校ヒーロー科がどれほどの人気を博するのかを実感した。

 

 席は受験番号など関係なしに皆が自由に座っている。折角なので、俺と透も隣同士で座った。

 

 実技試験の内容がどんなものになるのかを話し合いながら、試験概要の説明が始まるのを待っていると――

 

「うわっ、凄え数の人だなあ……!つか、ここしか空いてねえし!わ、悪ィ、ここの席二つって空いてるか?」

 

 透と話を交わしていた俺の耳に、慌てたような声が入ってきた。振り向けば、メラメラと燃える正義の炎のような朱色に近い赤い瞳を持った少年がいた。髪の色は黒く、髪型は俺とそっくりなショートヘアーだ。ギザギザした歯と、右目の上にある小さな切り傷が何とも特徴的だ。

 

 透とも視線を交わし、頷き合う。

 

「ああ、空いてる。座ってくれ」

 

 ヒーローとは、常に救け合うもの。相澤さんやオールマイトだって、そう仰っていた。空いた席を譲らない道理はない。

 

「おおっ、サンキュな!おい、芦戸!ここ二つ空いてるって!」

 

「マジでー!?良かったぁ!キミ達もありがとね!」

 

 少年が呼びかけた先からやってきた芦戸という少女は、明るいピンク色の癖毛の髪をしており、肌も同じようにピンク色だった。目も本来白色であるべき部分が黒く染まっており、頭に2本の黄色い触覚がある。

 

 「宇宙人みたいで可愛い」と呟いた透に、内心で同意した。

 

「いやあ、流石は雄英だぜ……!どこを見ても人がワラワラだ」

 

「本当にね!ねえねえ、2人はどこ中出身?」

 

「毛糸中学校!東京の方にあるんだ!」

 

「へえ、東京か……。大都会だな!」

 

「2人はどうなんだ?」

 

「結田付中。千葉県から来てんだ」

 

「千葉!?夢の国あるところじゃん!羨ましいよぉ!」

 

「えー?大都会の東京に住んでる2人も羨ましいぞー!このやろー!」

 

 席に着くなり、芦戸が俺達に話しかけてきた。その人当たりの良さが中学校の人気者なのだろうなということを簡単に悟らせる。少年も少年で、明朗な印象があって親しみやすそうだ。――少年の方は切島鋭児郎、少女の方は芦戸三奈と名乗った――

 

 切島と芦戸を相手に話をしている内に、山田さんことプレゼントマイクが壇上に登壇する。その瞬間、受験生達は、指揮者の指示を受けた合唱団のようにして一斉に静まった。その息ぴったりさには、思わず笑いそうになってしまった。

 

「リスナー諸君、今日は俺のライブへようこそ!Everybody say HEY!」

 

 お馴染みのハイテンションで、自分がパーソナリティを務めるラジオ番組のように挨拶を催促するものの、会場にいる者は誰一人声を上げない。

 

 ここにいる者達は真剣にヒーロー科入学を目指している訳だし、そんな余裕もない者がほとんどだろう。それを考えれば、この状況は仕方ないとも思える。

 

「こいつァシヴィー!!んじゃ、受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!Are you leady?YEAH!!!

 

 結局は、そのハイテンションを貫いたまま自己完結してしまった……。彼のメンタルの強さは見習いたいものがあるな。俺も流石にこの空気感の中で呼びかけに答える勇気はなかった。滑らせてしまったようで、何だか申し訳ない。

 

 だが、彼がこんなノリを貫くのも俺達の緊張を解きほぐす為かもしれないので、その好意はありがたく受け取っておこう。

 

 閑話休題。こうして概要が説明された訳だが、その内容は、各自に指定された試験会場での模擬市街地演習だとのことだ。

 

 やることは簡単。制限時間10分の間に、仮想(ヴィラン)を何らかの手段で行動不能にする。それだけだ。

 仮想(ヴィラン)は、1〜3Pが存在して攻略難易度ごとに異なるポイント数が割り振られている。自分の実力に合わせて相手を選ぶ。それも、ヒーローには必要な資質。無謀な戦いを挑んで救けるべき市民の前で死んでしまうようでは、逆に心を追い詰めかねないから。

 勿論、他人を故意に妨害することを初めとしたアンチヒーローな行為は禁止。アイテムも持ち込み自由らしい。この制度なら、念の為に持ってきたあのアイテムも使えそうだ。

 

 一番注目すべきは、3体の(ヴィラン)以外にもう一体……0Pの仮想(ヴィラン)が存在すること。プレゼントマイク曰く、レトロゲームに登場する無敵のお邪魔ギミックのようなものらしい。だが、場合によっては破壊すべきだろうな。こいつが周囲や人々に大被害を与えかねない存在ならば、容赦無く破壊するとしよう。ギミックだからと背中を向けるのは''真のヒーロー''に相応しくない。

 

 説明が終わると、受験生達は着替えを済ませてから各々の試験場へ向かうバスへと乗り込んでいく。その前に透、芦戸、切島と試験会場を確認し合った。

 

「義勇君、試験会場どこなの?私はD!」

 

「俺は……Cだ」

 

「あたしはF!」

 

「俺はB。俺は芦戸と、冨岡は葉隠と受験番号連番なのに、会場違うんだな」

 

「恐らく、同じ学校の出身同士で協力させない為だろう。その方が公平性がある」

 

「おおっ、流石は義勇君!」

 

 会場を確認し合ったところで、俺は拳を差し出した。

 

「切島、芦戸、透。健闘を祈る」

 

「義勇君もファイト!まあ、心配はないと思うけどさ!」

 

「おーっ、ありがと!頑張るよ!」

 

「……!はは、サンキュー!やるからにはここにいる全員合格目指そうぜ!」

 

 合格を誓い合い、俺達は拳を合わせてそれぞれ更衣室に向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……凄いな……」

 

 白を基調とした、襟の端の部分に青いラインが入ったジャージ一式を着用し、その腰に黒色のウエストポーチを身につけ、手には父がヒーロー活動の際に愛用していた木刀を握っている義勇は、唖然としながら呟いた。

 

 雄英高校ヒーロー科の試験会場は……とてつもなかった。

 

 城門のような高さの各会場を囲う仕切りから顔を覗かせるのは、大小様々なビル群だ。3階建てから5階建て、果てには10階建てなど、その高さはよりどりみどりである。受験生達がバスから降りた後、真正面にある巨大な城の扉のような大きさの門が開かれてその全容が露わになる。

 凹凸もなく整理された道路や、道の端に綺麗に配置された街路樹、横断歩道に信号、道路の上を横切る歩道橋……。自分の住んでいる東京都の街並みのうちの一つを''個性''か何かで丸々持ってきたのではないかと、義勇は思った。

 

 手首や足首をほぐしながら、準備運動をする義勇。彼は、その見た目の良さや父親の鎮静ヒーロー・凪にそっくりな顔つきで周囲の受験生達の目を惹きつけていた。

 

 「体育教師みたい」だとか、「彼奴、全く緊張してないぞ」だとか、彼らはヒソヒソと話し合っている。義勇は、そんな周りの様子に一度は首を傾げるも、今は念入りに準備をしておこうと準備運動に戻った。

 

(鎮静ヒーロー・凪にそっくりだ……。彼の息子なのか?実力者に違いない)

 

 義勇より頭一つ抜ける程の身長を持った少年が、義勇の素振りを見ながら思う。顔が隠れてしまう程の銀髪のリーゼントや、髪で隠れた目元から覗く三白眼の鋭い目付き、常に口元を隠すマスクなどはかなり威圧感がある。そして、驚くべきことに彼の両腕の付け根からは、2対の触腕が伸びていた。

 

(何だ何だ、彼奴。周りも全く気にしねえで……。冷たそうな奴だなあ)

 

 また別の少年が、義勇の揺らぎない水面のように凪いだ表情を見ながら思う。黒目が小さく、眉毛が隠れる程にバサバサしたまつ毛やかき上げてバックにした銀髪は、なんともワイルドな見た目だ。一見すると人が悪そうである。

 

(冷静沈着……。静かなる水面のようだ。まさに歴戦の剣士)

 

 またまた別の少年が義勇の雰囲気を感じ取りながら思う。獲物を射抜く獣のような鋭い目付きをしており、闇の中でも光を発するのではないかと思うような赤い瞳が宿っていた。顔付きはそのまま烏のそれである。黒一色に統一された服装が、俺は闇に溶け込みし者だと示しているかのようだ。

 

 誰もが義勇に注目する中、彼を興味深そうにじーっと見つめる少女の姿がある。

 

 オレンジ色の髪のサイドテールと、凛とした顔付きが特徴的な彼女の名は、拳藤一佳。鍛え上げた己の拳と肉体を以ってヒーローを目指す少女の1人である。

 

「ふーん……。あの、深海みたいな凪いだ瞳……彼奴が冨岡義勇、か」

 

 彼をじっと見つめ続けながら、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()の言葉を思い出す。

 

『声が小さくて聞き取りづらいところがあったが……とてつもない努力家だ!何せ、水の呼吸の新たな型を自力で作り上げたのだからな!俺が今まで見てきた水の呼吸を扱う剣士の中でも、一番の実力者だと思うぞ!

しかし、友達は沢山出来たのだろうか?いつも、自分は嫌われていない、と1人であることを気にしていた節があったからな……。まあ、幸せに生きてくれていれば問題は無し!はっはっは!』

 

 少し笑えてしまうところまで思い出してしまったが、少年曰く、その冨岡義勇という少年はとてつもない実力者らしかった。

 

「その実力……この試験で拝見させてもらうよ」

 

 口の端を薄く吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた彼女は拳を鳴らしつつ、気合を入れていた。

 

 その時。

 

『はい、スタート』

 

 マイクの類を通してか、淡々とした合図が試験会場中に響き渡る。

 

 突然の声に、受験生達は唖然として突っ立っていた――否。たった1人、誰よりも先に飛び出した者がいた。

 

 冨岡義勇である。スタートの合図を聞いた瞬間、彼は予め足に溜めていた空気を一気に爆ぜさせて、稲妻の如く飛び出したのだ。

 

 義勇の目の前に、車輪を回転させながら1Pの仮想(ヴィラン)が現れた。それを目にした瞬間、義勇は1Pに肉迫しつつ、両腕を交差させる。

 

 そして、それが義勇にターゲットを絞り……。

 

『ブッ――』

 

 盾のように丈夫な部品を取り付けた機械の両腕を、物騒な言葉と共に振り下ろそうとした瞬間――交差させた腕が勢いよく振り抜かれ、水平に一閃。義勇の放った、一切の揺らぎもない水面を纏った斬撃は、言葉が完全に紡がれるよりも前にその体を両断した。

 

「――水の呼吸・壱ノ型、水面斬り」

 

 義勇の振るう木刀は、容易く1Pを破壊した。飛沫が舞うと共に宙に浮かんだ1Pの上半身が地面に落下する。

 

 木刀で鉄塊を叩き斬った。その芸当を為せるだけの技量がある義勇の姿は、ヒーローへの()()()()()()()()()()()()で雄英に挑んだ者達を余計に怯ませた。

 

 真っ先に飛び出して標的を叩き斬った義勇の姿を見た、夜に溶け込むかのように全身真っ黒なコスチュームを着て、首元に長い布のような物を何重にも巻きつけた、無造作に伸ばした髪と無精髭が特徴的な男は、薄く笑いつつも非合理的な受験生達に向けて声をかけた。

 

『おい、何を固まってる。実戦にカウントなんざ存在しない。目の前だけを見て非合理的に動くな。将来を見据えて、合理的に動け。試験は始まっているんだぞ。時間を無駄にするな』

 

 男に急かされた受験生達は、その声をした方を一斉に振り向く。続けて、真っ先に飛び出した義勇の方を見る。義勇は、ビルの上に飛び乗ると忍のような軽い身のこなしで次の標的を探しに向かっているではないか。

 

「はは、凄いやつだな。私も……負けらんない、ねッ!!!」

 

 その背中を見た拳藤は、後れを取り戻そうと、あの少年に続こうと、()()()()()()()()()()()()()()を発し、出遅れた受験生達を出し抜くようにして地面を一蹴りして飛び出したのであった。




最後の呼吸音に関しては、筆者オリジナルです。実際のものは判明しておりません。

冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?

  • このままで続けてほしい
  • 義勇さんだけが活躍する作品の方が見たい
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