突如、真下の地面から押し寄せた強い衝撃。それに対して、何事かと驚いた次の瞬間には、遠くから地鳴りが轟き渡り、自然が
「きゃっ!?なっ、何……!?地震!?」
咄嗟のことでバランスを崩しかけた拳藤が忙しなく辺りを見回す。義勇は、バランスを崩しかけた彼女を支えてやりながら、冷静に状況を分析した。
(地震……?いや、違う。本当の地震ならば、相当の緊急事態。強制的に試験を中断せざるを得ないはずだ)
ヒーローとして、大人として、子供の命を守るのが最優先のはず。緊急事態であれば即座に何かのアクションを起こすものだろう。それがなく、静観しているままだということは――
「これは……予め、仕組まれていた試験の一環か!」
「えっ?どういう――うわっ!?」
推測を立てた義勇は、揺れがある程度収まってきたタイミングで跳躍。ビルの上に乗って、忍さながらの様子で辺りを見回した。
すると、数十、数百mほど先のビル群の向こうに、それらを遥かに凌ぐ大きさのロボットが姿を現しているではないか。3階建てのビルの高さは、大体12から15m。そのロボットの大きさは、それらの高さのビル2つ分を遥かに凌ぐほどのものであった。10階建てのビルもあるというのに、それすらもその巨大なロボットの手の置き場にしかなり得ない。
その様子は……まさに街を踏み潰しながら進撃する、金属らしく鈍い輝きを放つ緑色の皮膚を持った怪獣そのもの。それが拳を振り下ろす度に、ビルを覆い隠す程の砂煙が舞い上がっていた。
「ねえ、冨岡!何が見えたの!?まさか……0P!?」
「そうだ!奴は俺が破壊する!拳藤、他の受験生の避難を頼んだ!」
「えっ!?ちょっ、待っ――」
声を張り上げて尋ねる拳藤。義勇は、彼女の質問に端的に答えると、消えるような速度で0Pの元へと向かっていってしまった。
「は、速っ!?人間が視認出来ない速度で……!」
拳藤からすれば、義勇が消えたかのようにしか見えない。あのような速度こそが、疾風迅雷と例えるのに相応しいんだろうなと考えた。
彼の速度にしばし唖然としていたが……それもここまで。パンッと頬を強めに叩いて気合いを入れ直した拳藤は駆け出した。
「ともかく、私もやれることをやろう!彼奴ならそうするし、ここで行かなきゃヒーローの名が廃る!」
やはり、ここでも脳裏に浮かんだのは、常に
★
いざ、0Pを見上げられる位置まで辿り着いてみれば……脅威たり得るそれから必死で逃れようと、多くの受験生達が脱兎の如く逃げ惑っていた。
誰もが0Pから逃げる為に必死になっている。誰一人として周りのことを気にしない。我先にと逃げ出してばかりだ。他が為に自分の身を投げ出すのはそう簡単じゃない。
だが、それをやってのけるからこそ、ヒーローは
分かってはいた。それを行動に移せる資質を持って雄英に挑んできた者達は少ないんだ。残念だが……これが現実だ。
人間というのは不思議な生き物で、身近にあるもののことに関しては返って気が付かない。それが……他人が向けてきた恋心も然り、隠してきた心の傷もまた然り。これを例えたことわざを、灯台下暗しと言う。
そのことわざが、今まさに現実となりつつあった。逃げ惑う受験生達は、誰一人として自分の視線より下の存在に気が付かない。
「ノコッ!?」
その無情な振る舞いによって、しのぶと同じくらいに小柄で、茶色のロングボブの髪型をした少女が転倒しかけた。
転倒しかけた彼女を支え、抱き止めながら思う。そういえば……しのぶもこれ程に小柄で軽かったのだな、と。
「怪我はないか?」
「君が支えてくれたから何ともないよ。ありがとね。こんなので転んじゃうなんてダメキノコだね、私」
ヒーロー志望なのに転んだことが情けないと思ったのか、少女がはにかみながら笑う。転んで乱れた前髪からは……椎茸の花切りのような形状の瞳が顔を覗かせていた。いや、見方によっては、光を受けて眩く煌めく琥珀とも言えそうだ。
「お前に悪いところは何一つない。ヒーロー志望だというのに、周りを気にせず我先に逃げ始める方が悪いんだ」
彼女に謝ることもなく逃げ続ける受験生を見ながら、せめて謝ることの一つくらいやったらどうだという意味も込めて、恨めしげに俺は言う。
すると、少女はくすくすと笑った。
「ふふふ。確かに本当のダメキノコは、自分最優先で逃げてる人達かもね。私達がなるのは……ヒーローなんだから!ありがと、ちょっと元気出たノコ!」
言った通りに元気を取り戻した笑顔の彼女を見て、ホッとした。白い歯を見せながら目を細めて笑う彼女は、どこか小悪魔のようだ。これが、いたずらっぽい笑みというものなんだろうか。
「冨岡っ!やっと追いついた……!その子、どうしたの!?」
そこに、ずっと俺を追ってきていたらしい拳藤がやってきた。「慌てて逃げてた人達は、まとめて入り口の方に避難させてきた」とウインクしながら言う彼女は、一切息を乱していない。流石は……あの男らしき人物に鍛えられた少女だというところか。
「逃げ惑う受験生の波に揉まれて転びかけてな。咄嗟のところで支えたから怪我はないが。取り敢えず――」
俺は、立ち上がって倒すべき脅威のいる方向を見据える。
「見ての通り、この辺には未だ混乱して逃げ回っているものが多くいる。二人は、彼らの避難を頼んだ」
目線だけを向けて一言。すると、二人は……。
「任せて」「任せるノコ!」
見事に即答した。何も出来ずに逃げ惑うしかない者達を避難させる。これもまたヒーローに必要なことだと理解しているからこその反応。
そうだ、それでいい。俺は満足気に微笑む。そして、いざ0Pの元へ向かおうとすると――
「そうだ、冨岡。私は他の人の避難が終わったら、また戻ってくるからね」
拳藤から思わぬ言葉が放たれ、地面を蹴ろうとしていた足を止めた。
「本気か……?」
「本気さ」
振り返ってみれば、拳藤は口角を上げてニッと笑い、拳を鳴らしていた。そのまま、彼女は続ける。
「0Pを完全に破壊することは出来なくたって、私にだって出来ることがあるはず。何よりさ、あからさまに周りに被害与えそうな奴を放ったらかしにして逃げるなんて出来る訳ないだろ?勿論、あんたの実力を信頼してない訳じゃないけど――」
「あんた1人に全部任せるのも違うだろ?」
再びウインクしてから、彼女はそう言い切った。
ふふ……これは、頼もしいことこの上ない。こう言うのは些か早すぎるかもしれないが、彼女はいいヒーローになるに違いない。
「……分かった」
俺が頷くと、拳藤は嬉しそうに笑った。突然の脅威の出現に混乱した頭にされるがままで逃げ惑う受験生達を一喝し、彼らを先導する彼女の姿がやはり彼と……煉獄と重なった。
拳藤ともう1人の少女――彼女は、小森希乃子と名乗った――と別れた後、俺は0Pの元へ向かっていた。未だ、その足元にはまばらに人が残っている。
たった今、0Pの振り下ろした剛腕によって凄まじい土煙が上がったところだ。足元にいる複数人のうち、1人は逃げる素振りを全く見せていなかった。……非常に不安だ。急がねばな。
速度を上げようとした瞬間――
「誰かッ!誰か、救護の術を持つ者はいないか!?怪我人がいる!いるのであれば、力を貸してくれないか!?」
「うう……。ごめん……あんたもポイント、稼ぎたいはずなのにっ……」
「今はポイントを気にしている場合ではない……!怪我人を見捨てるなどヒーローの所業に在らず!待っていろ、必ず救けを呼ぶ!」
ピリついた叫びが聞こえた。まさしく、災害時に周囲の人々に避難を呼びかける時のような、そんな声が。そんな声を無視する訳にはいかない。俺は、すぐに声の主の元へ向かった。
その声の主は――入試の最中に遭遇して救けた、烏の頭部を持つ鋭い目付きの少年だった。
「どうした!?」
「!お前は……流麗なる水の剣士!再び会えて嬉しいぞ。だが、今は再会を喜ぶ場合ではない。この少女が怪我を負っているのだ……!あの鉄塊の振るった拳によって散らされた瓦礫が、頭部に命中した!意識はあるが、頭部から出血している」
その少年から大方情報を仕入れつつ、背負われている少女を見れば……髪型は短めのボブカットで、耳たぶが何より特徴的な形をしていた。プラグになっている耳たぶ。こんな耳たぶを持つ少女を、俺はたった1人しか知らない。
「耳郎……!?」
「あれっ……?冨、岡……?」
耳郎響香。緑谷の特訓に付き合う中で、丁度海浜公園の掃除が終わったぐらいの時期に知り合った少女。初めて会った時は……受験勉強の息抜きでそこを訪れていたんだったな。息抜きする為のいい場所を作ってくれてありがとうと感謝されたのをよく覚えている。
彼女は、長らく自分の進路に悩んでいた。大好きでもあり、趣味でもある音楽の道か。幼き頃に憧れたヒーローの道か。緑谷と一緒になって、悩む彼女の相談に乗ったことは一度や二度ではない。最終的に、彼女はご両親とも話し合った上でヒーローの道を歩むことを決めたそうだ。
実技試験の会場が同じだったとは……。少し驚くが、再会に浮かれてる場合じゃない。大切な友達なんだ。救けねば……!
「一先ず、安全な場所に移動しよう。極力、0Pが起こす振動が伝わらない場所に」
「御意」
「耳郎。俺が来たからには、もう大丈夫だ。あとちょっとだけ頑張れるか?」
「うんっ……」
「よし。強いな、お前は」
薄目で俺を見ながら、ふにゃりと笑った耳郎を壊れ物を扱うかのように振動を与えないよう……そっと、そっと撫でる。精神年齢が大人である俺からすれば、彼女は年下で、子供であることに変わりはない。大人の俺が責任を持って守り、安心させてやらなくてはな。
烏の頭部を持った少年を連れ、耳郎を安全な場所へ運ぶ。勿論、彼らを先導すべく速度は合わせた。
都会を再現しているだけあって、周りはビルが多い。それらが0Pが動く影響で脆くなっていることを考えると……やはり、一番安全なのは試験会場の入り口だった。
怪我人を連れてくると、他の受験生達が狼狽えてざわつき始める。突き立てた人差し指を口元に添え、静かにするようにとジェスチャーで指示を出すと、彼らは瞬く間に静まり返った。彼らの協力に感謝しながら、何度か折りたたんだタオルを地面に敷き、耳郎を連れてきた少年と協力して彼女をそっと寝かした。
……丁度、額の辺りか。
最初に出血部位を把握した後、ウエストポーチから清潔なガーゼや、包帯。更に、タオルから始まり、その他応急処置に必要な物がしまわれたカプセルを取り出す。俺は早速カプセルを放り投げて、道具一式を出現させた。
洗面器にペットボトルに入れた清潔な水を注ぎ、タオルをつけて、次は出血部位を洗う。強く押さえつけるのではなく、洗顔を行う時のように優しくそれを傷口に当てながら。
そして、耳郎と目線を合わせるようにしながら尋ねた。
「耳郎。いくつか質問をするから、答えられるなら答えてくれ。無理なら黙ったままでいい。5秒間沈黙が続いたら、答えられないと判断して次の質問にいくから」
頷く耳郎を確認したところで、質問に入る。質問と言っても、大して難しいものじゃない。比較的簡単なものだ。
「自分の名前は?」
「耳郎響香……」
「誕生日は?」
「8月1日……」
「今いる場所は?」
「雄英高校……。実技試験の会場で……会場C」
うん……比較的、受け答えははっきりしているようだ。俺はホッとしながら微笑むと、後のことを烏の頭部を持った少年に託した。
「清潔なタオルやガーゼ、包帯も用意しているから、それを使って患部を手で押さえてくれ。大体、5分ほど。止血が終われば、寝かせたまま安静にさせて様子を見てやってくれ。姿勢はしばらく寝かせたままでな。5分計測するのは……俺の腕時計を使っていい」
「何から何まで済まんな。感謝する」
俺が腕時計を手渡すと同時に少年が薄く笑みを浮かべる。そんな彼を見ながら、俺は感謝していた。
というのも……ここまで応急処置を素早く出来たのは、中学校でいじめに遭っていた子達に対して同じことを施していただけではない。前世、しのぶが色々と教えてくれていたんだ。
「貴方は鈍臭い上に、傷は放ったらかしにするんですから……。自分で応急処置くらいは出来るようになっててください。私、心配です」
……なんて言われて、懇切丁寧に教えてもらったのだったか。
……本当にありがとう、しのぶ。
さて――俺は、もう一仕事こなさなければな。
「いけるな?拳藤」
「ああ、勿論だ」
俺の声に、闘志に満ち溢れた凛然たる声で拳藤が答える。
俺達のやらんとすることを察してか、少年が声を上げた。
「まさか……奴を、0Pを討つ気か!?」
「ああ」
肯定すると、周りの受験生達が再びざわつき始める。
「無理に決まってる」だとか、「あんな理不尽な奴、放っておくしかないんだ」とか、「無謀だよ」だとか。
気持ちは分かる。彼らはまだまだヒーローに憧れるのみの精神の未熟な子供。あれほどに強大で困難な壁が立ち塞がれば、心が折れるのも無理はないだろう。だが――
「そんな
そう言いつつ、強く木刀を握りしめる。俺の言葉で、周りはしんと静まり返った。
沈黙を破ったのは……烏の頭部を持った少年。
「ふ……敵わんな。他を救ける為にこの会場中を駆けただけはある。……俺の名は、常闇踏陰。なあ、流麗なる水の剣士よ。真のヒーローに相応しき輝きを放つお前の名を知りたい」
少年――常闇が薄く笑みを浮かべて、手を差し出す。
「……冨岡。冨岡義勇だ」
その手を握り返して握手を交わし……目で会話を交わした。
――頼んだぞ。
――ああ、任せろ。
託された常闇の思い。それを背負い、俺は拳藤と共に踵を返して0Pの元へ駆ける。
「さて、0P――
★
「ぐぅおおおっ……!」
「ッ……ぐっ……!!!」
0Pの足元にて、それが振り下ろしてきた腕をこれ以上振り下ろさせまいとして必死で支え、道を阻む者達がいた。
1人は、その肉体を金属化させて、体全体から銀色の鈍い輝きを放つ少年――鉄哲徹鐵。
そして、もう1人は、受験生の中でも飛び抜けて恵まれた体躯を持ち、肩から生えた2対の触手を己の鍛え上げた剛腕に変化させた少年――障子目蔵。
彼らは、0Pの齎す脅威をこれ以上広げない為に動いた者達だ。0Pの拳は、コンクリートを豆腐のように叩き割った。それによって飛び散った瓦礫が1人の少女に怪我を負わせた。そんな彼女に、0Pは無情にも拳を振り下ろさんとしていた。
それを見た鉄哲は……突き動かされた。ワイルドな容姿と反対に、その性は仲間思いで正義感が強く、真っ当なヒーローに相応しいものであったのだ。受験生同士、そりゃあ蹴落とし合うのも仕方がない。だが、それとこれとは話が違う。
(ここで見捨てたら……俺は、一生後悔することになるッ!)
確信にも似た予感がした鉄哲は、少女と0Pとの間に割り込んで、体を金属に変化させ、その腕を受け止めた!
その現場に居合わせた障子もまた、ヒーローに最も必要である自己犠牲の精神を持つ少年。彼もまた鉄哲の行動と少女を救けなければという思いに突き動かされ、腕を複製しつつ、彼に力を貸した!
そして、そこに常闇が駆けつけて少女を連れて離脱し、今に至る。驚くべきことに、今も彼らは持ち堪えていた。だが……もう限界が近い。腕に上手く力が入らず、生まれたての小鹿のように震え始める。酷使している腕の筋肉も痛み始める。
当然だ。何せ……何十、何百トンもあるであろう鉄の塊をたった2人で支えているのだから。
それでも、2人は歯を食いしばって耐えるが、このままでは2人まとめて潰されるのは明らかだ。体を金属に変化させられる鉄哲はまだいいが、障子が潰されてはただでは済まない。
自身のことを単細胞の馬鹿だと自負している鉄哲ではあったが、そのくらいのことははっきりと分かっていた。
実を言うと、鉄哲も''個性''を維持出来る時間の限界が近い。それでも、せめて隣にいる熱い心を持った少年を逃がさなければと思い、彼は強がって口を開いた。
「お前だけでも……逃げてくれ!」
「なっ……!?そんなこと出来る訳が――」
「このままじゃ、俺もお前もぺしゃんこになっちまう……!俺のことなら気にすんな……っ!俺は鉄、硬ェ金属だ……!ちょっとやそっとじゃ怪我なんかしねえからよ……!」
隣にいる少年を心配させないが為に、"個性"の影響で銀色に輝く歯を見せつけてニカッと笑う。
無理をしているのは明らかだが、それでも笑う彼を見て、障子は歯痒さで鼻まで覆い隠したマスクの下の歯を食いしばった。何も出来ない自分の無力さを悔やみながら。
――その時だった。
「ッ!?お前っ……!」
「しまっ……!?」
鉄哲の腕にヒビが入り、そこから体全体に綻びが生じる。彼の肉体を覆っていた金属は、鎧のように砕け散ってしまった。
(金属疲労……!今が一番踏ん張らなきゃいけない時だってのに!)
ここに来て、とうとう鉄哲の"個性"が解けてしまった。己の肉体を金属に変化させる"スティール"。それが彼の"個性"だが、その持続力や強度は彼自身の体内に蓄積された鉄分量に左右される。
体内の鉄分が不足してこれ以上は"個性"の発動を維持出来ない状況下で、継続的に応力を受けたことでその強度が著しく低下。結果として、"個性"が強制的に解除されてしまったのだ。
例え、如何に優れた集中力を持っていようと、想定外の事態が起きた瞬間、そちらに気を逸らされてしまうもの。
0Pの腕を支えることだけに注いでいた集中力があっという間に霧散し、そのおかげで幾分が紛らわすことが出来ていたはずの疲労が一気に鉄哲の体を襲う。
「うぐっ……」
膝から崩れ落ち、もはや立ち上がれるだけの体力も残っていない鉄哲。柱が崩れた家が崩壊を始めるのと同じように、支えを無くした0Pの拳がグンッと押し寄せる。
「ぐうっ!?」
鉄哲の支えが無くなった分、障子1人に押し寄せる重量と負担は更に大きくなる。流石の彼でも、堪らず大きく後退させられた。
その拍子に手を離してしまい、道を阻むものが無くなった0Pの腕が鉄哲へと迫る。
「っ……!俺のことはいいから逃げろ!」
「悪いが、黙って逃げられる程の単純な人間じゃない!」
必死に叫ぶ鉄哲と、彼を庇うように立つ障子。
(駄目だ……!これじゃ、俺達2人とも潰される!何か出来ることはないのか!?何か、何か……!)
手を握り締めながら、打開策を探す。馬鹿な鉄哲なりに必死で頭を回したが……それが何もないと気がついた時。
(……潰される……!)
思考回路という名の糸がプツンと切られたかのように察してしまった。
鉄哲が覚悟を決めて痛みを紛らわそうと目を閉じ、障子が腕を構え、腰を深く落として再び0Pの拳を受け止めようとした瞬間――
「炎の呼吸・肆ノ型、盛炎の……うねりっ!」
2人の間に一つの影が割り込み、渦巻く炎が巻き起こった。放たれたのは上段回し蹴り。その軌道に沿って巻き起こった炎のような蹴撃が、前方広範囲を薙ぎ払う。少女――拳藤が放ったその一撃は、見事に0Pの腕の進行を阻んだ。
突然の出来事に呆然とする鉄哲と障子。彼らの無事を確認すると、拳藤は「そういう無茶、嫌いじゃないよ」と言わんばかりに口角を上げてニッと笑い……0Pを屠る者の名を呼んだ。
「冨岡!」
名を呼ばれた少年は、両腕を含めた全身を捻った構えを取ったまま、地面を蹴って跳躍。その凄まじい脚力で、体を回転させながら空中へ高く跳んだ。
体を回転させると共に、彼の握る木刀も回転して威力が上昇していく。体を回転させる少年の周囲には激流が纏われ、凄まじい渦潮が巻き起こっていた。
脚を停めて気を練り上げ、全身を捻った構えを取るに加え……回転を重ねることによって、斬撃の威力を更に跳ね上げる。
十ある水の呼吸の型のうち、最強の技。これは、それを極めた先にある型。その名は――
「水の呼吸・拾ノ型"
その身に纏った激流を斬り払うように現れた義勇。その手に握られた木刀に激流が纏われ、龍の形を象った海神の姿を形成する。そして、それと共に0Pを襲ったのは、洗練された一閃だった。
激流一閃。静かに滾り、荒む波のような一撃は、0Pの頭部を綺麗に斬り落とした。
頭部の接着面がズルリとずれ、地面へと真っ逆さまに落下していく。それが地面に落下すれば、更なる弊害が発生するだろう。そこまで悟っていた義勇は……落下していく0Pの頭部を自身の間合いに入れて、自身が作り上げた水の呼吸の型を繰り出す。
「全集中、水の呼吸・拾壱ノ型――」
――凪――
彼を目にした者達の目に映ったのは、義勇を中心として、渦を巻きながら荒波が巻き起こる光景。そして、彼が型の名を詠唱した瞬間――水面に一滴の雫が打ちつけられ、辺り一帯の波が鎮まり返った。まさしく、無風の海面。
「おお……」
誰かがその光景に感嘆の声を上げた。ふと気がつけば、彼の間合いに入っていた0Pの頭部は粉微塵に斬り刻まれていた。
「い、一体……」
「何が起こったというんだ……!?」
動じることなく水鳥のように華麗に地面に降り立つ義勇の背中を見守りながら、鉄哲と障子が呟いた瞬間。
『試験終了だ』
雄英高校の実技試験が終わりを告げたのであった。
障子君が出久君やお茶子ちゃんと試験会場が一緒なのをすっかり忘れておりました。この作品限定の改変ということでご了承ください。
冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?
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このままで続けてほしい
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義勇さんだけが活躍する作品の方が見たい