冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

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第二十七話 結果や如何に?

 緊張を覚えつつ、入試を受けた当日から結果を待つこと1週間。

 

「義勇!義勇ー!通知、届いてたよ!」

 

 とうとう、自宅に合否通知が届いた。

 水色の縦縞のセーターと緑色のパンツ姿の蔦子姉さんが封筒を手にして、嬉しそうに俺の部屋にやってくる。

 

 姉さんから封筒を受け取り、自分の部屋に移動して結果を見ることにした。

 

 封を開けようと手を掛けた瞬間、緊張で息を呑んだ。隣には姉さんもいて、家族の勘というやつなのか、その時に姉さんも全く同じことをした気がして彼女のいる方を振り向いた。すると、見事に目が合う。姉さんも同じことを考え、同じことをやったのだろう。

 

「ふふっ……なあに?」

 

「姉さんこそ」

 

 それがなんだか可笑しくて、2人で顔を合わせて思わず笑ってしまった。

 

 緊張がほぐれたところで、覚悟を決めて封を開ける。その中から出てきたのは……丸く薄い機械だった。厚さは2mm程の機械。その見たこともない摩訶不思議な機械を、デッサンを行う時のように360度から舐め回す勢いで見る。

 

「こんなに技術が進歩してるのね……。電話もそうだったけど、どんな機械でも持ち運びが楽な仕様になってるのかしら……?」

 

 俺も姉さんと同じようなことを思う。今や普通に使っているスマホだが……初めて見た時は、訳が分からなかったものだ。科学や技術の進歩、それを考え抜く人間の考え方の進歩とは末恐ろしいとさえ思える。

 

 その機械をじっと観察し続けて数分。スイッチらしき場所を見つけてそれを押すと――

 

『私が投影された!』 

 

「「オールマイト!?」」

 

 我らもよく知る、強面で筋骨隆々な姿のオールマイトが、黄色いスーツを身につけた姿で投影された。

 

 どうしてオールマイトが雄英にいるのか。その疑問はすぐに解決した。

 

『義勇少年。ああ、それと……蔦子少女も!私ね、4月から雄英に勤めることになったのさ!()()()()()!』

 

 まさかの、オールマイトが教師デビューするとのことだった。緑谷の出身である県の方に来ていたのもそれが理由らしい。近頃は雄英に勤める為の諸々の準備で忙しく、連絡が取れなかったことを謝られた。

 

「オールマイトが教師なんて……!凄いわね。今年の新入生は恵まれてるわ」

 

 姉さんはニコニコと笑って嬉しそうだが、俺はただただ心配だった。オールマイトにヒーローとしてのいろはを教えていただけるのは、光栄かそうじゃないかと聞かれたら、前者の方だ。

 

 だが、あの人は……他人に教えることが絶望的に下手だ。天才であるが故に。

 

 オールマイトが雄英の教師……。本当に大丈夫なんだろうか?注目度的にも。

 

 その後も色んな話をしたかったらしいのだが、後がつかえているようで名残惜しそうに話を中断して結果発表に入った。

 

『もっと沢山話したいことがあるんだが、上からの指示だし仕方ない!早速、結果発表だ!まずは筆記試験。全教科で8割以上の点数を取れていたから……勿論、文句無しの合格!』

 

 筆記試験は問題なしのようだ。

 

「お友達と一緒に沢山勉強した甲斐があったわね!本命は……次ね」

 

「うん」

 

 筆記試験の結果に満足を覚え、軽くガッツポーズを取りつつも、俺の両肩に手を添えながら喜ぶ姉さんの言葉に頷く。

 

 次が本命の――

 

『実技試験の結果は……!獲得(ヴィラン)ポイント、175Pでぶっちぎりの合格!文句無しの首席だ!因みに、受験生で唯一の150P超え!おめでとう!!!』

 

「……首席……!?」

 

「沢山の人が雄英を受けた中で一番になっちゃうなんて……流石は私の弟ね!おめでとう、義勇!」

 

「うん……ありがとう、姉さん」

 

 結果は、文句無しの首席。蔦子姉さんは、俺のことを誇りだと言わんばかりに抱きしめ、自分のことを鞭打つかのような勢いでここまで頑張ってきた俺を労るように優しく撫でる。

 そうされてもなお、雄英の狭い門を見事に潜り抜け、自分がその頂点に立てたという自覚が湧かない。妙な脱力感があって、ふわふわとした感覚がする。まるで夢の中にいるようだ。そんなことを思った時。

 

『喜ぶのは早いぞ、義勇少年。首席合格に変わりはないが……我々が見ていたのは、(ヴィラン)ポイントのみならず!』

 

 腕でばつ印を作っているオールマイトから、俺達には知らされていなかった新たな事実が告げられた。

 

 どうやら、ヒーローの本質である救けることに注目する為に、受験生達の行った救助活動に値する行動の点数を評価する……救助活動(レスキュー)ポイントというものが設けられているようだった。結果的に、ほぼ俺の予想通りだったという訳だ。

 

『ヒーローに必要なのは強さだけじゃない。人救けをした人間を排斥するヒーロー科など、あってたまるかって話さ!救助活動(レスキュー)ポイントは、その為に設けられている制度だ。試験会場中を駆け回り、目に留まる受験生達を全員救けた。ヒーローの本質を捉えた君の行動は、間違いなく評価されたよ!綺麗事?いやいや、上等!ヒーローってのは、命を賭して綺麗事を実践するお仕事さ!』

 

 白い歯を見せつけ、ニカッと笑いながら言うオールマイトに対し、尊敬の念を覚えた。

 

『そういう訳で!義勇少年の獲得した救助活動(レスキュー)ポイントは……294P!そして、合計ポイントは……469P!次席と2倍以上の差をつけての首席合格だ!(ヴィラン)を倒すのみがヒーローではない。君自身がそのことを良く判っている証拠さ』

 

 ここに来て、ようやく合格した実感が湧いてきた。思わず頬が緩む。

 

『来いよ、義勇少年。ここが君の……ヒーローアカデミアだ!

 

「はい……!」

 

 返事が向こうに聞こえる訳がない。それでも、無意識のうちにオールマイトの言葉に答えていた。彼の差し伸べた大きな手を握るかのように手を伸ばしていた。

 

 入学に必要な書類をまた後日郵送するということを付け加え、結果発表は終わった。

 

 ふと気付けば、穏やかであれど、少しだけ激しく……心臓が高鳴っているのが分かった。入試の結果を待ち侘びた時の緊張が余韻として残っているんだろう。

 

「義勇……。義勇は、本当に凄い子。他の誰かの為に真剣になれて、ずっと頑張ってきた。何を言われても不貞腐れることもなくて、自分の信じた道を歩き続けて。それで……ここまで大きくなった」

 

 蔦子姉さんが愛おしげに、俺と額を合わせながら言う。

 

 姉さんの言葉はいつも暖かい。気分が安らぐ。結果発表を待っていた時の緊張が徐々に和らいでいくのを感じながら、俺も言葉を返し、微笑みつつ姉さんを抱きしめる。

 

「俺は凄くなんかないよ。ここまで折れずにやって来れたのは、守るべきものがあったから。誰かにとっての本当のヒーローになるって目標があったからだよ。俺がこうなれたのは、蔦子姉さんがいてくれたからだよ」

 

 そうだ……。元を辿れば、家族や友達。他の誰かの本当のヒーローになるのが俺の夢だった。

 その為に、''ヒーロー''という仕事を目指す必要はなかった。最終的に透と話をして、新しい考え方を見つけて……''ヒーロー''って仕事を目指すようになった。無個性じゃ無理だと馬鹿にされることもあったが、こうやって歩き続けられたのは、目標があったから。守るべき人がいたからだ。

 

 いつも守るべき人が、姉さんがいた。父さんと母さんは俺達を守って死んでしまった。けれど……姉さんは、今でも見守ってくれてる。姉さんが常に力をくれたんだ。

 

 その時、姉さんが言った。

 

「私は何もしてないよ。そうしたくて頑張ったのは、義勇自身の意志でしょう?だから、義勇自身が凄いんだよ。自分を卑下しなくたっていいの」

 

 そして、俺を抱きしめた。姉さんがこんな風に言ってくれるから頑張ってこられたんだ。やっぱり……今の俺があるのは、姉さんのおかげだ。

 

 そうされつつ、俺は思わず呟く。

 

「父さんと母さんも……見てくれてるかな?」

 

「……うん。きっと見てくれてるわ」

 

 数秒の沈黙。辺りの雰囲気が少ししんみりしている。

 

 直後、姉さんはそんな雰囲気を振り払うかのように笑顔を浮かべると、手を合わせながら立ち上がった。

 

「明日は存分にお祝いしなきゃ!奮発しちゃうわよ……!ほら、義勇にはまだやらなきゃいけないことがあるでしょ?お友達に、鱗滝さんに、炭治郎君と禰豆子ちゃんにも。合格したって教えてあげないと!」

 

「うん、そうする」

 

 こうして、俺は雄英への切符を勝ち取った。早速、鱗滝さんと炭治郎達に向けた手紙を書いたが、これは、明日にでも届けることにしよう。そして、スマホの通知音がして目を向けてみれば、志を同じくして雄英のヒーロー科を受けた友達全員から連絡が来ていた。透や緑谷のような旧知の仲から、拳藤や常闇など試験中に新しく知り合った仲まで。届いたメッセージを隅から隅まで確認してみれば……全員が合格したことが分かった。八百万にも合格の旨を伝えると、自分のことのように喜んでくれた。

 

「そうか、全員受かったのか……!良かった……」

 

 ようやく肩の力が抜けた俺は、ホッとして息を吐きながら、窓を通して夜空に輝く見上げた。今日の月は……満月だった。

 

「錆兎、真菰、しのぶ。見てるか?俺は、一歩ずつ進んでるよ。お前達が幸せに生きられる社会を創る為に。お前達が笑って生きられるようにする為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっしゃオラァ!受かった!」

 

 ここにも1人、雄英からの通知を受けてガッツポーズを取る、プラチナブロンドの髪の少年がいた。

 

 自分の目標の為に通るべき通過点。そこに到達出来た喜びは、彼に幼き頃のような無邪気な笑みを浮かべさせた。オールマイトをも超え、あの少年と同等になり得る、勝って救けるヒーローを目指す少年の名は――爆豪勝己。

 

「冨岡も受かったんだな。まあ……当然か」

 

 心底嬉しそうに口の端を吊り上げた彼の赤い瞳には、夏の日差しを彷彿とさせるギラついた闘志が宿っていた。

 

()()()()()()()(はぜ)の呼吸……。こいつを見せんのが楽しみだぜ。なあ、冨岡。お前は……どんな反応してくれんだ?」

 

 自分の掌を見つめるその瞳。そこに宿るのは、未来への期待である。

 

 

 

 

 

 

「ふうっ……なんか、一気に力が抜けたな……」

 

 沢山のオールマイトグッズが博物館の展覧会のように丁寧に飾られた部屋の中で、スタンドライトの眩い明かりに照らされた学習机に向き合い、天井を見上げる少年がいた。サイドや襟足を短く刈り上げた、もさもさの緑髪の少年――緑谷出久だ。

 

「本当に夢みたいだ。ずっと憧れていたオールマイトから''個性''を受け継いで、オールマイトの母校の入試に受かって……。しかも、そこにかっちゃんと冨岡君もいるなんて」

 

 思い出されるのは、無個性の身でありながらもヒーローを夢見つつ、何も出来ずにいた弱い自分。

 

 そこから、他人の死を目の前で経験し、新たな憧れの背中を目にしたことで一歩を踏み出した。緑谷の人生は劇的に変わった。

 

 身近にいた凄い奴と、自分が一歩を踏み出すきっかけの一つになった憧れ。彼らと同じ道を歩めることになるとは思いもしなかった。幼い頃の自分に、自分がオールマイトの母校に通うことが決まっただとか、爆豪と仲良くしているだとか伝えたところで信じないのだろうなと思う。

 

「オールマイトみたいに、沢山の人を笑顔で救けて勝つヒーローを目指すんだ……!そして、冨岡君みたいに、背負う命全部を救けられるように!でも……背中はまだまだ遠い。頑張らなきゃ」

 

 学習机に置かれている本棚の中から、様々なヒーローの''個性''や戦い方を分析したノートを取り出す。憧れる背中は未だ遠い。そのことを思うと、ノートを握る手に自然と力が入る。自分なりに出来ることを少しずつ積み重ねようと考え、それをめくる彼の目は確かな大志を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

「マジか……受かっちまったよ……!夢じゃねえ、よな……?」

 

 右目の上に小さな切り傷を持った少年が自分の頬をつねりながら、呆然と呟く。朱色に近い赤色の瞳とショートヘアーの黒髪に、ギザギザとした歯。その瞳に熱い正義の炎を灯す少年の名は――切島鋭児郎。

 

 つねった頬に痛みを感じ、雄英に合格したことが現実なんだと実感すると同時に嬉しさを噛み締めた。

 

「まさか……雄英で冨岡と一緒になるなんてな。()()()()()()、漢らしかったもんなあ」

 

 両手を組んで頭の後ろに置き、呟く彼の脳裏に浮かぶのは……ある日のテーマパーク。そこに現れた筋繊維の鎧を纏う殺人鬼に立ち向かい、後ろにいる人々にこれ以上血を流させることなく、それを撃退した少年の姿だ。

 

(彼奴が立ち向かった瞬間から、その後ろに血は流れなかった。誰一人死ななかった)

 

「踏み出せなかった俺と違って、踏み出してんだもんなあ。あの時の俺よりも幼いってのに。やっぱ凄えよ、彼奴」

 

 微かな後悔を感じさせる表情の切島。だが、それを振り払うかのようにかぶりを振ると、己の右腕をガチガチに硬化させた。

 

「もう、情けねえ自分とは決別すんだ。その為にも、俺は雄英を受けた!絶対になってやるんだ、守れるヒーローに!」

 

 少年の中に宿る漢気が燃える。かつてのような後悔を二度と繰り返さない為に。人々を守れるヒーローになる為に。

 

 

 

 

 

 

「合格したよ、お兄ちゃん!」

 

「うん、知っているとも。おめでとう、透」

 

 世界三大美女のうちの1人だと言われた、楊貴妃にも引けを取らない程の妖艶さと可愛らしさを兼ね備えた顔立ちの少女、葉隠透が耀哉に駆け寄って抱きつく。

 

 沢山褒めて欲しいと言わんばかりの様子の彼女を見た耀哉は、クスッと笑って、その艶やかな黒髪を何度も撫でた。その手付きは慈悲に溢れた優しいもの。その姿は、まさしく、女房を寵愛する平安時代の帝のようだった。

 

「これでまた一歩進んだ。よく頑張ったな、透」

 

 2人を見守る悲鳴嶼も、両手を合わせてジャリジャリと数珠を鳴らし、涙を流しながら仏のような微笑みを浮かべている。

 

 人懐っこい猫を彷彿とさせる様子で素直に撫でられている葉隠を見て、大層微笑ましそうにしながら、耀哉は言った。

 

「透。君の夢は……目に見えない人々を笑顔に出来るヒーローだったね」

 

「……!うん」

 

 彼の言葉に対し、葉隠は彼の体から離れて正座の姿勢を取る。そして、真剣そのものな凛とした表情で語り始めた。

 

「物理的に見えないって人というよりは、普段から自分の目の届かないところにいる人や、ヒーローの手が行き届かないところにいる人。そんな人達を救けたいの」

 

 俯きつつ、膝の近くに乗せた手をグッと握りしめて続ける。

 

「私の両親を喰べた男は、夜に紛れて活発に動ける''個性''を持ってるって……お兄ちゃん達が教えてくれたよね。今、こうしてる間にも彼奴に沢山の人が喰べられてるかもしれない。そうすることが出来る''個性''を利用して、ヒーローの手が届かない範囲まで好き勝手に暴れてるかもしれない。救けを求めても誰も来てくれない。そんな残酷な事実を突きつけられて、泣いて、苦しんでるかもしれない。そう思うから……私、もっと強くなりたいの」

 

 顔を俯かせ、両親を失った時の辛さを思い出してしまったのかと思いきや……顔を上げた彼女の瞳は、力強いやる気に満ちていた。

 

 そんな彼女を見た耀哉は、変わらず微笑みを浮かべつつ問うた。

 

「仇を討ちたい、とは思わないのかい?」

 

 その一言を受け、数秒間考えた葉隠だったが、苦笑するように微笑んだ。

 

「お兄ちゃん達に引き取ってもらった当初こそそんなことも考えたけどさ……年々、ヒーローらしさの増していく義勇君を見てると思ったんだよね。『私は1人の人間である以前にヒーローなんだ』って。『沢山の人が私を見て、模範にするんだ』って。そうなったら、やっぱり……私欲よりも、他の誰かを優先しなくちゃ。それが、幼い頃の義勇君から聞いた本当のヒーローのやるべきこと。そうでしょ?仇討ちは、ただの葉隠透として戦う時にやるべきものかなって」

 

(根っからのヒーロー気質……。本当に心の綺麗な子に育ったね、透は)

 

(優れた容姿故に人を簡単に信じられない。それは未だ残ってはいるものの……間違いなく、彼女は良いヒーローになる)

 

 葉隠の言葉を受け、悲鳴嶼も耀哉も同時に微笑んで感心する。同時に、常に真のヒーローとしてあり続けようとする義勇の存在が彼女の近くにある。そのことに感謝した。

 

 

 

 

 

 

『うむ、見事に受かったのだな!おめでとう!一佳!』

 

「あはは……ありがとね」

 

 スマホの向こうから聞こえる溌溂(はつらつ)とした声の賞賛に、オレンジ色のサイドテールをした少女、拳藤は苦笑する。

 

 今となってはこの声量に慣れたものだが、声の主と初めて会った当初こそ、年上ながらも驚かされたものだ。

 

「そうだ。あんたが言ってた冨岡とさ、入試で会ったよ」

 

『む、そうか!……して、どうだった?』

 

 まるで友の安否を確かめるかのような様子で声の主の少年が尋ねる。

 

「あんたの言う通りさ、凄い奴だったよ。剣技の一つ一つが流麗!無駄一つなかった!それに、一つ一つの判断が早くてさ。迷いがなかったんだよ。それに、水神みたいで神秘的だったし、一太刀一太刀の威力から彼奴が途方もない努力を積んできたんだって分かったよ!」

 

『……そうか、そうか』

 

 試験中に型を振るう義勇の姿を思い浮かべる拳藤は、畳み掛けるように熱弁する。自分もあんな風に安心感を(もたら)せる人物になりたいと願って。

 

 そんな彼女の話を、少年は懐かしむように相槌を打ちながら聞く。普段の彼からは想像も出来ない程の優しい声だった。

 

(そうか……元気そうだな、冨岡!)

 

 「うむ!」と満足そうに頷いた少年は、いつもの調子に戻って再び尋ねる。

 

『一佳!冨岡には……沢山の友人がいるのか?1人ぼっちではないか?』

 

 実の兄とも言わんばかりの様子に、拳藤は思わず失笑した。

 

「何の心配してんの。彼奴だって春から高校生なんだからさ、心配ないよ。『小学校の時から、自分を慕ってくれる友達が沢山居てくれる』ってさ」

 

『む、そうか!それは良かった!』

 

 拳藤が義勇の言った言葉をそのまま伝えると、少年が嬉しそうに言った。そんな風に素直に喜ぶ彼がなんとも微笑ましく、拳藤も釣られて嬉しくなった。

 

「そうだ。彼奴と連絡先交換したんだけどさ……どうする?」

 

『……いや、いい。彼奴もまた、君と同じように雄英に通うのだろう?ならば、また会えるはずだ。雄英体育祭でな!』

 

 『雄英にはそういう行事があるんだろう?()()()()()()()()()()()()()()』と付け加える少年。その言葉を聞いた拳藤は、「あんたらしいね」と笑った。

 

「なあ、私のこと……もっと強くしてくれないか?雄英体育祭までにさ」

 

『ん?それは勿論!言われるまでもなく、これからも君が強くなることに尽力させてもらうつもりだが……どうしてだ?』

 

「ど、どうしてって……。そりゃ、あんたの背中はまだまだ遠いしさ。そ、それに……さ。年下だってのに、ずっとヒーローらしい彼氏のあんたの隣に自信持って立てるようになりたいんだもん……」

 

 恥ずかしさからだろうか。後半になるにつれて、拳藤の声が小さくなっていく。そんな彼女が、少年には可愛らしくて仕方がなかった。

 

()いっ!!!』

 

「わあっ!?ちょっ、急に大きい声出さないでよ……!」

 

『ははは、済まん!しかし、君は……本当に健気で強い人だ。俺としては、既に君のことを自信を持って彼女だと言える訳だが……君自身が望むなら、俺はとことん力になろう!』

 

「!……うん、ありがとう。()寿()()

 

 

 

 

 

 

「響香、受かったんだってな!おめでとさん!」

 

「ありがとう、宇髄さん。雛鶴も受かったんだよね。おめでとう!」

 

「ふふ、ありがとう。響香ちゃん」

 

「こうやって身近な人達から雄英に合格した人が出ると、なんかこっちまで誇らしくなってくるね」

 

「本当ですよ!葉隠さんも受かったみたいですし!」

 

 宇髄、それと彼の嫁候補である雛鶴、まきを、須磨の4人に揉みくちゃにされている、プラグに変わった特徴的な耳たぶを持つ短めのボブカットの少女、耳郎もまた、雄英の試験に受かった者の1人。彼女の胸中は、凄まじい達成感で溢れていた。

 

「にしても……」

 

 直後、宇髄は耳郎の頭部を恨めしそうに見つめながら、彼女の額に軽くデコピンをかました。

 

「痛っ!?」

 

「地味に心配させやがってよぉ!入試で頭を怪我したって聞いた時は、肝冷やしたぞ!」

 

「そのことについては、何回も謝ってるじゃないですか……」

 

「そういう問題じゃなくてだな……。ヒーロー志望である以前にお前は女だろうが。傷が残ったらどうするってんだ」

 

 「他人を救けるってのは派手にカッケェことだけどな。生きてる奴が勝ちなんだから、無理はすんな」と付け加えつつ、宇髄が耳郎の頭をくしゃくしゃと荒っぽく撫でた。

 

 それに対して、耳郎はムスッとしたような顔をする。そんな彼女を見て苦笑しつつ、雛鶴が口を開いた。

 

「それにしても。冨岡さん……試験中にも関わらず、他の誰かを気にかけて手を差し伸べるだなんて。素晴らしいことですね」

 

 彼女の顔には微笑みが浮かんでいた。

 

 彼女に同意し、まきをと須磨も笑顔で答えた。

 

「本当にね。そういうことが自然と出来るヒーローって、今となっては少しずつ減ってきているのに」

 

「天元様、いつも愚痴ってますもんね。『どうしてろくでもないヒーローばかりが溢れ返ってるんだ』って」

 

 須磨の一言に、組んだ両手を自分の後頭部に置きながら宇髄は言う。

 

「だってよぉ、どいつもこいつも金とか名声とかばっかじゃねえか。果てには、"個性"が通じないと知ればすぐに諦めやがるし。その結果が、春頃に静岡の方で起きたヘドロ事件って訳だ。勇気ある地味な見た目の坊主のおかげでなんとかなったが……そもそもな、カタギの人間に飛び出させんなって話だぜ」

 

 そんな風に悪態を()いた後、耳郎を優しく撫でながら誇らしげに笑った。

 

「こんなろくでもない大人が溢れてる中で、冨岡の奴はしっかりヒーロー目指してやがる。大したもんだよ。んでもって……借りが出来ちまった。可愛い後輩を救けてくれたっつー、どデカい借りがな」

 

(冨岡。来いよ、雄英に。俺はそこで待ってるからな)

 

 その派手な赤い瞳に満ちるのは、かつての友との再会を待ち望む思いだった。

 

 

 

 

 

 

「常闇よ……。雄英に受かったそうだな……」

 

「ありがとうございます」

 

 武士のような、どこか威厳のある口調の男の言葉に対し、深く頭を下げる烏の頭部の少年、常闇踏陰。彼もまた雄英に受かったことで、その胸は凄まじい達成感に満ちていた。

 

()()()()、聞いてください!先の入試にて、とてつもない男に出会ったのです!"全集中の呼吸"、その流派の一端である水の呼吸を扱う剣士に!」

 

「ほう……?」

 

 興奮気味に声を上げ、幼い子供のように目を輝かせる常闇。師と呼ばれた男は、彼が普段は寡黙で冷静沈着な男であることを知っている。そんな彼がここまで興奮するのは非常に珍しい。強いて言うなら、自分の扱う剣技や己の"個性"とサポートアイテムとして扱う刀を見せた時だけだ。

 

 男は、常闇をそうまでさせる少年に対してとても興味を唆られ、彼の話に耳を傾けた。

 

「彼は、ヒーローたるに相応しい男でした。俺の居た試験会場中を駆け回り、他の受験生達を全て救けたのです。何より……!彼の振るう剣技の何と流麗なことか!彼が入試で扱っていた木刀から色濃く、明確に水流が見えました!その一太刀の威力も圧倒的で――」

 

 常闇の熱弁。その勢いは、とどまる所を知らないらしい。男もまた楽しみが尽きず、彼の語る少年に対して更なる興味が湧いてきた。

 

「常闇。その少年の名は……何と言う……?」

 

 己の師の問いかけに対し、常闇は夢の中から覚めたかのような反応をし、勢いに任せて話してばかりだった己を恥じるかのようにして答えた。

 

「冨岡……!冨岡義勇と、そう名乗っておりました」

 

「…………ふむ……。冨岡……義勇……」

 

 その名を鸚鵡(おうむ)返しにしながら、男は立ち上がり……静かに夜を照らす月を見上げつつ、思い出していた。

 

(お館様が去年の年の暮れ……。ヒノカミ神楽を見に行かれた時にお会いしたと言う少年の名だったな。それに、()()がやたらとその名を口にしていた。『今度は、俺の正しき拳と彼奴の流麗な剣とでぶつかり合ってみたいものだ』と)

 

 その総髪の形状にまとめた長い黒髪が月の光に照らされる。その出立ちは、まさに戦国時代の武士のようだ。

 

 そんな師の背中を見ながら、常闇は請う。

 

「我が師よ……!これ程までに素晴らしい剣技を見せられては、男として魂が震えるというもの!どうか俺にも、"全集中の呼吸"をご教授いただきたい!」

 

「……!」

 

 その声に振り返ってみれば、常闇の瞳は……熱意に満ちていた。どんな困難にも耐えてみせる。あれ程に素晴らしい剣技を振るうことで誰かを救けられる人材になりたい……と。心の底から本気で望んでいた。

 

 これは、ヒーローとして……誰かの夢を守る者として、その思いを無碍にする訳にはいかないというものだ。

 

「……良かろう……。私が直々に教えてやる……。"全集中の呼吸"を。遥か昔に、悪鬼を屠る為に生み出された技術を……」

 

「!ありがとうございます!」

 

「雄英には、体育祭があったな。そこまでに仕上げるつもりで叩き込む。……ついてこい。何があってもな」

 

「無論です……!」

 

 何でも来いと言わんばかりの常闇を見て、男は微笑む。そして、己の弟子の今後の成長に。彼をここまで昂らせた剣士との出会いに心を躍らせたのであった。

 

 この日、雄英を受けた幾人もの受験生達のうち、そこの狭き門を見事にくぐり抜けた者達が現れた。その数、計36名。ここから始まるのである。彼らの、彼女らの――ヒーローアカデミアが。

冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?

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