「実技、総合成績出ました!」
時は、受験生達に試験の合否が明かされた日から数日前。雄英に勤める教師達は、狭き門に挑んできた少年少女を査定する会議を行っていた。
事務に関する処理を担当する教師の声と共に会議室前方のスクリーンに上位10名の生徒達の成績の詳細と氏名が映し出される。
暫し、その一覧に目を通し……一番最初に声を上げたのは、赤と黒を基調とした薄手のボディースーツに身を包み、背中から伸びる白い管が繋げられた手甲を備えた、下顎から突き出た牙と左頬の十字傷が特徴の筋肉質なヒーロー、ブラドキングだった。
「しかし、今年の受験生はレベルが高いですね。
「そうですね。しかも、
そんな彼の発言に、ノースリーブのヒーロースーツに身を包んだ直方体の顔とセメントを思わせる肌のヒーロー、セメントスがしみじみと頷きながら同意する。その顔には、彼らの未来に期待するかのような朗らかな笑みが浮かんでいた。
「1位に、2位の2人。いずれの受験生達と比べても
続け、宇宙服に身を包んだヒーローである13号が発言した。
更に、ボンテージに素肌と同じ色の薄手のタイツという年頃の少年達にはあまりにも刺激的すぎる戦闘服を身につけたヒーロー、ミッドナイトが眼鏡のブリッジを持ち上げるかのようにしてSMマスクを持ち上げながら言う。
「いずれにせよ、例年と比べて
その表情は、惚れ惚れとしていて頬が染まっており……至極
彼女がとんでもないことにならないうちに話を切り上げ、早速生徒1人1人の評価に移っていく。
そうする中で、やはり目を惹くのは――
「1位の冨岡義勇君。0Pを破壊した受験生の1人」
「
「加えて、
言わずもがな、首席を勝ち取った義勇の存在だった。
「シカシ、何度見テモ……ヒーローニトッテ必要ナ力ノ付キ方ガ逸脱シテイマスネ」
「ああ。我々が試験の中を通じて炙り出そうとしていた、情報力、機動力、判断力、戦闘力。いずれも他の受験生達の追随を許さないレベルに到達している」
彼の総合的な実力に目を付けたのは、耳まで裂けた口が特徴的で立襟付きのダブルボタンマントや禍々しいフェイスマスクを着用したヒーロー、エクトプラズムと、ドレッドヘアーにガスマスクを彷彿とさせる仮面を取り付けた荒野の中のガンマンを彷彿とさせる風貌のヒーロー、スナイプだった。
試験開始の合図が出された瞬間、彼は誰よりも早くその場を飛び出した。そして、向かってきた1Pを瞬殺すると驚異的脚力でビルの頂上に飛び乗り、試験会場全体を大まかに見て把握。
――そこからの彼は、凄まじかった。人間では視認出来ない速度で会場中を駆け回り、次々と仮想
「これだけ会場中を走り回って息一つ乱さないとは……何というスタミナの多さだ」
「まさしく無尽蔵、って感じよね」
どれだけ超人的な力を持っていようが、自分達は人間。走り続けていればいつかは疲れるし、息が乱れるものだ。だが、試験中の様子を見る限りではそれが一切見られない。
仮にこれが意図的に疲れを見せないように振る舞っているとしても、本当に疲れていなかったとしても、どちらにせよ頼もしいことこの上ない。
ヒーローとは、常に他人に安心を
特に、雄英に勤めるヒーロー達はその典型的な例を知っている。自身の負った重傷のことを世間に知らせず、必死でヒーローとして在り続けようと足掻く男――平和の象徴、オールマイトを。春から雄英に勤めることになった故、彼の怪我のことは教師達の間で共有する秘密となっていた。
教師一同はそんなことを考える。続いて、黒ずくめの戦闘服に身を包み、首元に長い布を巻きつけた相澤消太ことイレイザーヘッドが発言した。
「市民の平穏を守る為に必要とされる四つの能力。冨岡のそれは、いずれも他と比べても逸脱しているのは確かですが……特筆すべきは、判断力でしょう」
周りの教師達も、試験中の様子を見ながら頷いた。
彼の一挙一動。その全てからは迷いが見られない。義勇の速さと洗練な一太刀。それを生み出すのに、この尋常ならざる判断力も貢献しているのだろう。
「その判断力が功を奏しているのは、戦闘の面だけじゃないよ。救護って面でも同じさね。冨岡が施した応急処置。そのおかげで、怪我をした子達には何の問題もなかった」
会議を静観していたリカバリーガールもまた、そう言った。彼女の発言に従って映し出されているのは、義勇が怪我をした受験生達に応急処置を行っている場面。怪我によって精神をすり減らしてしまった者を彼なりの言葉で鼓舞し、安心させられるように微笑むその姿は……ヒーローに相応しかった。
「……こんなにでっかくなった冨岡を見てるご両親も嬉しいだろうな」
プレゼントマイクがフッと笑う。ヒーロー達は、彼が両親を亡くした事件を知っている。それ故にしみじみと頷いた。
(義勇少年、君は着実に歩んでいるんだね。''本当のヒーロー''への道を、一歩一歩)
骸骨のように痩せ細った姿――通称、トゥルーフォームの状態で、とても目立つ黄色いスーツに身を包んだオールマイトも、会議の様子を見学しながら満足気に微笑む。
これまでも……いや。今もなお続けていることだが、生活費を送り続けている以上、オールマイトは義勇達の親代わり。勿論、本来の両親に比べれば付き合いは短い。だが、彼が親のような暖かい感情を抱くのも当然のことだった。彼らの両親の葬式以降、ずっと見守ってきたのだから。
因みに、そんな感情を持ったのはオールマイト1人に限った話ではなく――
「なぁ、相澤君よ。随分と嬉しそうだな?生徒に対する肩入れとか
「煩え」
プレゼントマイクに肩を組まれ、絡まれている相澤も同じことだった。
嬉しそうだと指摘されたが、それは事実だ。相澤の場合、義勇を4歳の頃から見知っている。彼が凪の子供だと知ると、彼の将来を案じて気にかけるようになった。勿論、それは今でも変わらない。8歳の身で
両親を失う事件があったあの時から、プロである自分達が舌を巻き、逆に学ばされてしまう程の覚悟を持っていたが……ここに来るまでにそれは更に強固になりつつあるようだ。その背中もかつてより大きく、偉大に。
(でかくなりやがって)
そんなことを思いつつも、相澤は義勇の成長に対する喜びを顔に出してしまった己を恥じて、首元に巻きつけた布に顔の口元から下を埋めた。
ここで、雄英高校の校長であり、会議の進行役でもある根津が笑みを浮かべつつ言った。
「皆、冨岡君に関して話しても話し足りないという感じだね。僕も皆も、彼に対して期待しているのは同じこと……か。気持ちは分かるけれど、彼1人の評価に全ての時間を割く訳にもいかない。そろそろ次にいこうか」
彼の言葉を受け、教師達は同時に頷いて次の受験生達の評価に移る。
「それじゃあ、お次は同率2位の緑谷出久君に爆豪勝己君。0Pを破壊した残りの2人ね」
ミッドナイトの声と同時に緑谷と爆豪の試験の様子が映し出された。
『
前者の緑谷出久は、その全身から緑色に輝く火花を激しく散らして疾走。続けて、0Pの振るってきた金属の剛腕を足場にして脅威的な脚力で前方に向けて跳躍。そのまま一筋の眩い閃光と化して、0Pの丈夫で巨大な胴体をぶち抜き、風穴を開けた。
前転のように空中で回転しながら受け身を取って着地し、0Pの爆発による逆光を受けながら天高く左腕を掲げるその姿は……まさしくオールマイトを彷彿とさせるものだった。
『
後者の爆豪勝己は、地面を蹴って同年代の少年少女を遥かに逸脱する速度で0Pに向けて突撃する。その最中、''個性''である''爆破''を最大出力で発動させて掌からバチバチと派手な火花を散らしながら、放った爆発の反動で錐揉み回転して爆炎と暴風を纏った。そして、炎の竜巻と化した彼は0Pの胴体を一直線に突き抜け、爆ぜさせる。
着地後、右腕を天高く掲げる彼の背後で機能を停止して佇んでいた0Pの、文字通り爆ぜて消し飛んだ上半身と下半身の境目が……朱色の光を放ちながら、溶岩のようなドロリとした粘性の高い液体となっていた様子は、まさに彼の''個性''の最大出力の凄まじさを物語っていた。
「いやはや……揃いも揃ってとんでもない逸材だと言う他ないですね。一位の冨岡君と比べると少し見劣りするが――」
「緑谷君は、
教師一同は、入試用に提出された書類一式に目を通しながら、セメントスの発言を引き継ぐようにしてスナイプが発した言葉に同意する。
彼らもまた、行動に迷って足を止めることがなかった。両者共に各々の試験会場で他の誰よりも早く飛び出し、仮想
緑谷は、碧色に輝く稲妻を纏って試験会場を駆け回り、目に付く仮想
爆豪は、試験の前半で派手な爆音を響かせながら仮想
前者は、オールマイトのような眩しいにこやかな笑みを。後者は、兄貴分のような頼もしさに満ちた不敵な笑みを浮かべて受験生の前に姿を現している。
その姿に誰しもがオールマイトを重ねた。
「救ける相手を安心させる為の意図的なものか、無意識のものかは定かではないが……笑うとは大したもんだ。他人を安心させる存在。それこそがヒーローだと解っている」
ヒーローが生半可な志で務まる仕事ではないことを知っている相澤は大抵の場合、受験生達を厳しい目で見て、それに相応しい評価を下す。だが……実際はどうだ。彼の口からぽんぽんと高評価が飛び出すではないか。即ち、彼のお眼鏡にかなう程に彼らが優秀だということになる。
「……今年の卵達は、質の良い子が多そうだ。気が早いようだが、今から楽しみだね。彼らがヒーロー達の筆頭に立ったその時が。……君もそう思わないかい?オールマイト」
「ええ……同じくです、校長先生」
(期待しているぜ、未来のヒーロー達!)
会議は続いていく。受験生達一人一人の合否などを決める為に会話を交わす教師達の表情は真剣そのもの。未だ入り口にも立てていない無精卵達を心から思うが故に表れるその表情を見た根津は微笑み、オールマイトは受験生達の試験の様子を映した映像にしっかりと目を通していくのだった。
★
そして、現在。ヒーロー達が次の世代を育成するにあたっての準備をしている中……悪意もまた、虎視眈々と動き始めていた。
「おおっ……!素晴らしい、素晴らしいぞ……!儂の想像以上だ!昔と同じ……いや、それ以上に満ち溢れる生命力じゃないか!」
殻木が感嘆の声を上げながら不敵に笑う。ゴーグルの下で目を輝かせ、最高の発明品が完成したかのようなこの上ない喜びを体現している。
「っはは……!おいおい!こいつァ凄えぞ!!!身体中の細胞が震え上がってやがる!」
「これが……
黒霧とマスキュラーは、その視線の先にある人物を目にしながら、体の芯からゾワゾワと押し寄せてくる本能的な恐怖を感じ取る。
前者はその気配に圧倒されつつも、帝王の復活に心を馳せ、自分の夢見る未来はそう遠くないであろうと喜ぶ。
後者は、いつしか自分もあのような存在になって弱者を嬲り殺し、誰よりも強くなって自分の気の赴くままに、気が済むまで人間を殺し続ける未来を夢見る。
そして、もう1人……目の前にいる人物の復活をこの場にいる誰よりも、心の底から喜ぶ人物がいた。
「先生……!先生が……戻ってきた……!俺達の先生が……!」
子供のように目を輝かせ、歓喜に震える彼は黒一色に統一された長袖のベストと長ズボンというラフな格好をしていた。体格は痩せ型で病的な印象がある。だが、何よりも異端なのは、顔面を始めとした身体中に取り付けられた手であった。
彼の名は、死柄木弔。幼い頃に目覚めた未知の''個性''によって帰るべき場所を失い、とある男と出会って手を差し伸べられたことで、新たな運命を定められた男。破壊の快感を覚えたことで普通に生きられなくなり、救いの手を差し伸べるヒーローを求めても、そんなヒーローは誰一人として現れなかった。そんな哀しい人生を生きてきた男。
そんな彼の目は、救世主たるヒーローを目の前にした時のように輝いていた。
その視線の先には……逞しく鍛え抜かれた肉体を持った男がいる。宿敵に頭を殴り潰されたことで無くなったはずの鼻や目、白い髪が元通りになっていた。晒された上半身はかつて以上に筋骨隆々になり、腕の筋がはっきりと浮かび上がっている。そして、その赤い瞳には、縦一直線に黒い瞳孔が刻まれていた。
「ははは……これは素晴らしい。かつて以上の凄まじい生命力が溢れてくるようだ……!成る程、これが本場の鬼の力という訳だね。本当によくやってくれたよ。黒霧、マスキュラー」
その男の正体は――オールフォーワン。かつて、平和の象徴によって撃破され、重傷を負ったはずの男。だが、何故だかオールマイトに負わされた傷の全てが完治している。彼の側にある、太陽光を擬似的に再現したライトが取り付けられたショーケースの中には、
「長い時を遡り、平安時代。後に鬼の始祖となった病弱な男をほぼ不死身の超越生物へと変貌させた薬の原料がこの花……か。いやはや、自然の力というのは素晴らしいものだね」
壊れ物を扱うかのようにそっとショーケースを撫でる手は実の子を撫でる時のそれのように優しく、目も同じくだ。
20代前半ほどの若々しい肉体から溢れるのは、暴力的で荒々しい生命力。それを本能的に感じ取ったのか、マスキュラーが体をワナワナと震わせて興奮気味に言った。
「なあ、ボス!俺にも分けてくれよ、鬼の力って奴をよ!約束するぜ、あんたの力になることを!」
そんな彼を見たオールフォーワンは、子供の成長を喜ぶ父親のように微笑むと同時に彼を
「気持ちは分かるが、待ちたまえ。僕自身も鬼の力に慣れなくてはいけない。それに、一気に血を分け与えたところで君自身の体が耐えられない。最初は血の量を少なく。そして、そこから徐々に増やしていこう。その時までの辛抱さ」
「ちぇっ、分かったよ」
口を尖らせ、まさに子供のような拗ね方をして
「さて、ただ鬼になっただけで満足してはいけないね。人間を喰らって力を蓄えなければ意味がない。これから僕の食料が人肉になると思うと少し気が引けるが……まあ仕方あるまい。何事も経験だ」
顎に手を当て、薄く口角を上げて不敵に笑いつつ、オールフォーワンは黒霧とマスキュラーに何人か食料となる人間を連れてくるように指示し、加えて殻木には青い彼岸花のことをより研究して鬼を上手く改良出来るようにと頼んだ。
真っ暗闇な空間の中にオールフォーワンと死柄木、たった2人が残る。死柄木が己の慕う男の側にしゃがみ、ショーケースの中の青い彼岸花を吸い込まれるように見ながら尋ねた。
「なあ、先生。どうして鬼の改良なんて頼んだんだ?重傷も完治してさ、あんたが怪我の影響で使えなくなっていた''個性''も使えるようになったろ?じゃあさ、あんた1人で全部片付けられるだろうよ。世間にゃ、鬼のことを覚えてる奴も数少ねえ。オールマイトだって、あんたに風穴開けられて重傷。……じゃあ、手駒無しでも全部潰せるじゃねえか」
それに対し、オールフォーワンが微笑む。生徒に教えを授ける教師のように優しく語り始めた。
「ははは、弔の言うことは
昔通り……否、それ以上の悪意を持った先生が戻ってきた。その事実は、死柄木の体を歓喜によってどうしようもなく震え上がらせる。
オールマイトを見るガキ共も、皆揃ってこんな気分になるんだろうかと考えつつ、死柄木は立ち上がって果てない先の未来を見据えるオールフォーワンを見た。
「勿論、その社会の実現には……君の存在も不可欠だよ。君は僕の後継者だ。期待しているよ、弔」
「……!ああ。先生の期待に応えられる、社会の脅威になってみせるよ」
今や存在しないと言われていた青い彼岸花は、御伽噺のような存在。それが目の前にあるのが相当に物珍しいのだろう。死柄木は、再びそれを吸い込まれるようにして凡ゆる角度から観察し始めた。
そんな彼を微笑ましく見守りながらも、オールフォーワンは頭を回す。
(後継者とは言えど、未だ未熟。僕も近々全盛期以上に戻れるだろうし……弔の意思のみならず、彼自身も育てるべきか。僕直々に全てを叩き込む形で。それに、今後弔の邪魔になる可能性のある目は僕自身で摘んでおかないとね)
「――それならまずは、潰しておくか。
目的を決め、口の端を吊り上げて不敵に笑う。オールマイトのように白い歯を見せて笑っている点は共通していると言えど、その性質は全くもって違う。オールマイトの人々に希望を与える善なる笑みに対し、こちらは……人々に絶望を下す邪悪な笑みだ。
――悪の帝王、オールフォーワン。ここに完全復活。共に、第二の鬼舞辻無惨、ここに再誕。最悪の未来は、足音を響かせて少しずつ近づいている……。
因みに、実技試験の順位は以下の通りです。
1位 冨岡義勇(敵ポイント175P、救助活動ポイント294P。計469P)
2位 爆豪勝己(敵ポイント113P、救助活動ポイント87P。計200P)
2位 緑谷出久(敵ポイント96P、救助活動ポイント104P。計200P)
4位 切島鋭児郎(敵ポイント89P、救助活動ポイント58P。計147P)
5位 拳藤一佳(敵ポイント64P、救助活動ポイント68P。計132P)
6位 葉隠透(敵ポイント60P、救助活動ポイント54P。計114P)
7位 常闇踏陰(敵ポイント54P、救助活動ポイント34P。計88P)
8位 麗日お茶子(原作のポイント数と変動無し)
9位 塩崎茨(原作のポイント数と変動無し)
10位 飯田天哉(原作のポイント数と変動無し)
圧倒的ポイント数で義勇さんが首席に躍り出て、爆豪君から常闇君までの全員が獲得ポイント数が大幅に増加してるって感じです。特にそれが顕著なのは、出久君、爆豪君、拳藤さん、葉隠さんの全集中の呼吸会得組ですね。切島君がここまで稼げた理由は後日解き明かしましょう。(皆さま、大方察しはついているでしょうが……)
冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?
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このままで続けてほしい
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義勇さんだけが活躍する作品の方が見たい