冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

3 / 33
第二話 無個性だからって気にしない

 2日後の月曜日。義勇が幼稚園に向かうと、既に彼が4歳の誕生日を迎えたことを知っている幼稚園の友達は、一斉に彼に詰め寄った。

 

 皆が皆、彼の"個性"が気になって仕方ないらしい。この年頃の子供達は非常に好奇心旺盛。世の中の凡ゆることが気になり、興味を持つ時期なのでこうなるのも当然のことである。

 子供達のみならず、義勇に詰め寄る子供達を諌める先生達も気になっている様子であった。

 

 ――それだけに収まらず、義勇の容姿の良さから浮かぶ、「この人ならばかっこいい"個性"を持つに違いない」という独断と偏見もあるかもしれないが――

 

 そんな彼らに対し、義勇は素直に無個性だと答えた。

 

 すると……。

 

「ええっ?ぎゆう君、むこせーなの?かわいそう!」

 

「"こせい"がないんだって。おもしれー!」

 

「ぎゆう君だけなかまはずれだ!」

 

 子供達の多くが義勇の境遇を笑った。その中には、ごく僅かだが彼に憐れみの目を向ける子供達もいる。彼らは心の底から義勇を可哀想だと思っているだろう。しかし、笑いながらそれを言った子供達は、可哀想だなんて微塵も思っていないのが分かる。

 

 まるで、知っていて当然のことを知らないのを理由に馬鹿にするかのようだ。例えば、箸の握り方や挨拶の仕方だとか。

 

(()()()())

 

 くすくすと笑ってはヒソヒソと話し合う子供達を見ながら、動揺も悔しさも何もない、凪いだ水面のような瞳で義勇は思った。

 

 "個性"を世界総人口の八割が持つようになった。……だから何なのだ。別に"個性"を持つことが義務じゃあるまいし、特殊な能力を持つか持たないか。違いはそこだけで、根本は同じ人間。笑う必要などないはずだ。

 これでは、無個性の人間は障がい者も同然だ。

 

 他人より優れた力を持てば、見せつけたくなる。だからこそ何らかの形でそれを振るう。

 そして、無意識下で自分より優れていない者を見下す。悲しいことだが、感情を持つ以上は避けられない。人間とはそういう生き物だ。

 

 それを何かをきっかけにして気づけるか否か。大事なのはそこである。

 

 「気にすることないわよ、義勇君」と慰めるように義勇の頭を撫でる幼稚園の先生。彼女の暖かみを感じながらも、義勇の瞳は依然凪いでいる。

 

 自分達の言葉になんの反応も示さないのが余程つまらなかったのだろうか。

 

「おい、なにかいえよ!」

 

 義勇を嘲笑っていた子供のうちの一人、ウルフヘアーに獣のような鋭い瞳を持つ少年がずんずんと歩み出てきて、義勇の肩を小突く。

 

 自分の肩を小突いてきた少年を、凪いだ瞳のまま射抜く義勇。

 

 彼は淡々と言った。

 

「無個性で何が悪いの?笑ったり馬鹿にする意味がどこにあるの?無個性の人達だって、皆と同じ人間じゃないか。それに、俺にとっては()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その場にいた全員が口を半開きにし、唖然として義勇の言葉を聞いた。彼の子供とは思えない冷静な反論と、二割ほどしかいないはずの無個性の人間を当たり前だと言う義勇の異端さ。その両方が原因だろう。

 

 勿論、彼が無個性であることを気にしないのは、彼が"個性"が存在しない世界を生きた故だ。

 

 余談だが、義勇の肩を小突いた少年はヒーローになることを夢見ている。しかし、ガキ大将やいじめっ子の気質があり、これまでもヒーローとしては考えられないような"個性"を持つ子供達を揶揄(からか)ってはいじめていた。しかも、なんとまあ卑劣なことにも先生の目が一切ない場合に限って。要するに、普段は猫をかぶっている訳だ。自分がそういうことをしている場面を見た子供達については脅し、先生に言いつけることが出来ないようにしていた。

 だからこそ、自分をものともしない態度を取る義勇が気に入らなかった。

 

「むこせーのくせになまいき言いやがって!"こせい"なんてもっているのがとうぜんだぞ!思い知らせてやる!むこせいは、"こせい"をもつやつの前じゃ、何もできないってことをな!」

 

 そして、彼はたった今……その本性を表した。顔や手があっという間に体毛に覆われ、口が左右に大きく裂ける。鼻は尖り、牙は肉を引きちぎれる程に鋭く。その爪もまた、肉を抉り取れるように鋭利になる。体格も一回り程大きくなったように見える。

 自分の"個性"である、"狼"を発動させたのだ。

 

「おい、お前ら!やっちまうぞ!」

 

 狼少年の呼びかけに応え、更に二人の少年が歩み出てくる。

 

 一人は、その長い髪を後頭部でまとめて一つ結びにした少年。まとめた部分の髪は、何故だか龍の尾を思わせる。ニコニコと浮かべた笑みは偽りの仮面のようでどこか不気味だ。しかし、彼が目を開いた瞬間、その笑みはこれから弱者を痛ぶれることによる狂喜に満ち溢れたものへと変化した。

 同時に、人のものであったはずの右手が瞬く間に龍のそれに入れ替わっていく。"龍爪"。それが彼の"個性"だ。

 

 もう一人は、女性のようにサラサラとした金髪ショートヘアーの少年。彼が人差し指を立てると、その先に蛍の放つ光程の小さな光球が灯る。

 この少年の"個性"は、指先のそれを光線として発射する"レーザー"である。

 

 因みに、3人には共通点がある。それは……"()()"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

「!?ちょっと3人とも、やめて!義勇君は無個性なのよ!?それに、ここでは"個性"を使わないって約束したでしょう?」

 

 保育園の先生も3人を制止しようと声を上げるが、彼らはそんな声が耳にすら入っていないかのように義勇へと歩み寄っていく。耳に入っていないというより、わざと無視しているのだろうが。

 

 何より、無個性を痛ぶることをヒーローらしいことだと勘違いしている。

 それが、義勇にはなんとも腹立たしい。

 

 彼らの他にも義勇の態度が気に入らなかった子供達がいるらしく、その子供達は義勇に歩み寄るいじめっ子達を応援し始めた。

 

「ははは!おい、ぎゆう!お前のみかたはいないってよ!よーし、まかせとけ。なまいきなむこせー野郎は、俺たちがぶっとばすからな!」

 

 観客の歓声を浴びているボクシング選手のように狼少年は拳を掲げる。

 

「義勇君、逃げて!私がなんとかするから!」

 

 子供を守るのもまた大人の義務。幼稚園の先生が義勇を庇うようにして3人の前に立ち塞がるも、やはり止まらない。彼女を傷つけてでも義勇を痛い目に遭わせたいらしい。

 

(とんだマセガキ共だ)

 

 先生に気付かれないほどに小さく、義勇はため息を()く。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 4歳の子供だというのに、ここまで精神が拗れるとは……人間が持たざる力を持った影響は相当らしい。

 

「せんせー、そこをどいてくれよ!俺はぎゆうに現実を分からせたいだけなんだ!」

 

「どく気がないなら、ケガするのは先生だよ」

 

「退かないわ……!ヒーローを目指す貴方達に誰かを傷つけさせる訳にはいかないもの!」

 

「どく気がないのはよくわかったよ、先生。よし、やっちゃおう!」

 

「おう!」

 

 彼らの将来を思って立ち塞がる先生も3人の少年の前では単なる障害物にしか過ぎず、彼らはなんの躊躇もなく"個性"を使っての攻撃を開始する。

 

 金髪の少年は闇の中を駆ける一筋の光のようにレーザーを指先から発射する。

 長い髪を一つ結びにした少年は、龍の手と化した右手を振りかぶる。

 狼少年は床を踏みしめ、狼の驚異的な脚力で一直線に突っ込む。

 

 彼らが行動を開始したのを見た瞬間、義勇もまた反射的に動いた。

 辺りを見回し、ふと目に入った椅子の元まで移動し、それを手にしたまま駆けて先生の前に立つと、椅子を盾にして金髪の少年が放ったレーザーを防ぐ。

 

 この場において自分達を止められる者は誰もいないと確信していた故か、3人は唖然として動きを乱した。

 

 前世、人ならざる者と命のやり取りを交わしてきた義勇がその隙を見逃すはずはない。

 

 一撃目。地面を踏みしめて、狼が塵も同然に見える程の脚力でレーザーを放った少年に近づき、その首に手刀を叩き込む。

 

 二撃目。レーザーを放った少年を床に寝かした後、音も立てることなく龍の爪を振るう少年の背後に立ち、彼の首筋に両側から両手の手刀を叩き込む。

 

 そして、三撃目。狼少年の目の前に立ち、鳩尾に拳を叩き込む……ことなく、寸止めにする。

 

 三撃目を終えるまでのその時間――たった1秒。"痣"によって増加した身体能力。その片鱗を義勇は見せつけた。

 

 "個性"の発動によって生物としての本能が増したのだろうか。唯一、気絶させられることのなかった狼少年は息を荒くして、その瞳を揺るがせていた。義勇から同い年の子供とは思えない気迫と威圧感を感じ取ったのだ。

 

「くぅ〜ん……」

 

 狼のはずなのに、犬のような情けない声を上げて狼少年は尻尾を巻いて逃走した。そして、終いにはロッカーの影に隠れてしまった。

 

「公のルール一つさえ守れん輩がヒーロー志望を名乗るな。腹立たしい」

 

 ヒーローらしさを勘違いした彼らに対する怒り。それを眼光を放たんばかりの鋭い瞳に宿しながら、義勇は拳を鳴らして言う。彼は、怒りのあまりに年相応の振る舞いを忘れていた。

 

 4歳の子供とは思えない義勇の姿に、室内は静まり返るも……その次の瞬間。

 

「ぎ、ぎゆう君……かっこいい!」

 

「凄え!かんぜんにヒーローだったよな!」

 

 戦いというレベルには満たない光景ながらも子供達の興奮を掻き立てるには十分だったらしい。呆然と見守っていた子供達は、目をキラキラと輝かせるようにして笑顔を浮かべると義勇の元に猪のような勢いで押し寄せて、口々に彼を持て囃した。

 

「せんせいを守ったの、かっこよかったよね〜!」

 

「かわいそうだなんて言ってごめんなさい、ぎゆうくん」

 

「ごめんな、なかまはずれとか言って!ぎゆうは悪いやつじゃないもんな!」

 

「う、うん……。謝ってくれたなら、それでいいよ」

 

 詰め寄ってきた子供達に戸惑うような笑みを返す義勇。

 

 子供の単純さというか、純粋さというか。それに驚かざるを得なかった。

 あるヒーローに憧れていたとしても、それよりも強かったり、かっこいいヒーローが現れると子供の好みはより良い方に移りゆく。それを義勇は目の前で体感した。

 

(しかし……裏を返せば、心が綺麗だということか。彼らにはこのままでいてほしいな)

 

 姿は子供でも精神年齢は立派な大人。一人の大人として、義勇は彼らが純粋さを忘れないことを祈った。

 

「あ……。ごめんなさい、先生。椅子、壊しちゃいました……」

 

「えっ?あっ、い、いいのよ。先生を守ってくれてありがとう、義勇君」

 

 その後、子供達の輪から解放された義勇は、先生にレーザーを防いだことで椅子を壊してしまったことを謝罪するのだが……それを壊したことを気にせずに感謝の笑みを向ける先生にとっては、椅子を壊されたことが霞む程に義勇の優れた思考力や体術の方が気掛かりだった。

 

(義勇君のお父さんは「鎮静ヒーロー・凪」だったわね……。きっと英才教育を施されてるのね。彼の行動にも納得がいくわ)

 

 とは言え、彼に前世の記憶があるといった考えが一般人に思いつく訳もなく。義勇の優れた思考力や体術は、現役プロヒーローである彼の父親のおかげなのだと彼女は結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 義勇の幼稚園生活は少し異端だ。

 

 どういう点で異端なのか。それは、やはり()()()()()()()という点である。

 

 何しろ義勇は、幼稚園での自由時間……そのほとんどを鍛錬に使うからだ。――ただし、皆と一緒に何かやらねばならない時はそちらを優先するし、昼食や昼寝もしっかり摂る――友達に「遊ぼう」と誘われればその輪の中に入るが、自分からは決して誘うことはしない。

 体に筋肉をつけるというにはまだ早すぎるので、その鍛錬は運動神経を磨くのと体力づくりをするためのものだ。無論、その鍛錬は彼が本物のヒーローになるための将来全てに繋がるものである。

 ――運動神経のいい人は、端的に言えば「自分の体を思うまま自在に操れる人」のこと。運動神経がいいか悪いかは、それをやる上で必要な動きを如何に練習して、脳の神経回路をどれだけ沢山作ったのかで決まる。つまりは、後天的な環境の違いで決まる訳だ。幼い頃から外遊びで様々な動きを経験し、複数のスポーツを楽しむことで動きのバリエーションを蓄えておくことは、凡ゆる運動の基礎となる「神経回路」を育むことに繋がる――

 

 具体的な例を挙げれば、遊具をアスレチックのように利用して動き回ったり、木の枝を木刀代わりに使って水の呼吸の型を舞ったりというような鍛錬を行っていた。

 

 そんな義勇の生活は、ヒーローという職業を目指す中学生や高校生並みのストイックなものにしか見えない。自分が無個性であることが判明してからは、その鍛錬のストイックさは更に増していった。

 日々鍛錬に励む彼を見た幼稚園の子供達は、彼の夢をなんとなく把握した――とは言え、彼らが義勇の目指すものを職業としてのヒーローだと思っているうちは把握し切れているとは言えないのだが――のか、極力邪魔になるようなことは避けていたし、少年達は彼に労りの言葉を掛けたり、尊敬の目を向けるようになった。一方で少女達は、水やら甘いお菓子やら塩飴やら……差し入れを持っていくようになった。

 

 もしかすると、彼女達の中には義勇に心惹かれている子もいたかもしれない。しかし、悲しきかな。義勇は、死後の世界でしのぶと出会い、約束を交わしてから彼女を必ず見つけ出して愛することを決めており、彼女に一途な男だ。故にその恋が叶うことはない。

 とは言え、夢にひたむきな彼の邪魔になってはいけないと思ったのか、仮にそういった子がいたとしても誰一人想いを告げることはなかったのだが。

 

 義勇の生活がそうして異端さを増していく中、彼の生活に本物のヒーローを目指す少年らしさも加わっていく。

 

 義勇の無個性が幼稚園の子供達に知れ渡ったあの日以来。義勇によって一蹴されたいじめっ子達は、義勇の強さを思い知ったのか、はたまた彼に恐れをなしたのかは定かではないが……彼らはいじめや揶揄(からか)いの対象を、世間に(ヴィラン)向けだとか言われたり、ヒーローに相応しくない地味な"個性"を持つ子供達へと戻した。

 

 彼らは今まで通りに先生から隠れて陰湿な行為を続けていたが、その本性を知った義勇が少年達を見逃すはずがなかった。

 

 毎度のことながら、義勇は彼らの間に割って入って理不尽な目に遭う子供達を庇い続けた。

 

 実力行使は最終手段。大抵いじめっ子達を退けたのは、義勇の放った言葉の刃である。

 

「お前達はヒーローになりたいんじゃなかったのか?こんな風に他人をいじめるような真似をする奴らがヒーローになれると思うなよ。考えてもみろ。お前達の憧れるヒーローが(ヴィラン)を相手にして、そいつをいじめるような真似をするか?しないだろう。

そんな行為を続けていれば、いずれ馬鹿にされるのはお前達の方だ」

 

 言葉の刃と言っても、正論という名のそれである。

 

 単に言っても分からないなら、彼らの憧れるヒーロー……具体的な理想像を提示してやればいい。それによって、理想像と自分の違いを明確に認識することになる。無論、それが悪い方向に効果を(もたら)すこともあるのだが、少年達の場合はこうでもしないと止まらない。

 

 言葉が一番の凶器になり得るとはよく言ったものであり、義勇の言葉は少年達の心に深く刻み付けられる。

 無個性の人間にヒーローになれないと遠回しに言われたのが余程悔しかったのか、彼らは感情に身を任せて、義勇に"個性"を使った攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかし、結果は分かりきっている。義勇が一撃も彼らの攻撃を喰らうことなく彼らを容易く一蹴してしまうのだ。

 ――そんな日々を繰り返しているうちに、少年達は義勇を「兄貴」と呼び、慕うようになった――

 

 彼らを撃退して終わりではない。いじめられた子供達のケアも忘れずに行う。

 

 口下手な彼なりに子供達を励まし、時間をくれるようにお願いすると帰宅してから世間的な目線における"個性"のいい使い方を調べたり、自分なりに考察したりして子供達に教えることを繰り返した。

 世間から(ヴィラン)向けだとかヒーローに向かないと言われるような子供達にとっては、義勇が自分にとってのヒーローとなったのは言うまでもないだろう。

 

 結論から言うと、義勇の行動は無事に功を奏した。義勇の通う幼稚園からは、徐々に"個性"云々による差別が撲滅されたのだ。幾分かヒーローを夢見る者達として相応しい振る舞いが行えるようになった子供達を見て、義勇はホッとしていた。そして、自分がこれからも彼らにとっての良い目標である為により励まねばと意気込んだ。

 

 そして。義勇の影響が及んだのは、何も子供達だけではない。子供達を送り迎えする親にも言えたことだ。

 

 ある日、こんなことがあった。

 

「冨岡さん、貴方のところのお子さん……無個性なんですってね。可哀想に……。あら?そういえば、冨岡さんご自身も無個性だったかしら?無個性の人から無個性の子が産まれるなんて。義勇君が旦那さんの"個性"を受け継いでいればねえ。義勇君も貴方のことを恨んでいるに違いないわ。

それに反して、私の息子は"レーザー"なんていう"個性"を受け継いで……なんて優秀なのかしら!」

 

 そんな無情な言葉が義勇の母に向けられたのは、その日の帰り。迎えが来た時であった。

 

 義勇の母に向かって無情な言葉を投げた女性は、触り心地の良さそうなサラサラとした金髪ショートヘアーであり、目は水色。まるで西洋人であるかのような美しさであった。因みにだが彼女は……(くだん)のいじめっ子軍団の一人である、サラサラとした金髪ショートヘアーのレーザー少年の母親である。

 

 この頃には、レーザー少年は改心して義勇のことを「兄貴」と慕うようになっていたので、母親の振る舞いに対して複雑というか、恥ずかしいというか……。なんとも表現のし難い顔をしていた。

 

 なんと(たち)の悪い母親だろう。その振る舞いは、まるで子供。自分の得意なゲームでそのゲームをプレイした経験のない相手をボコボコにしてふんぞり返っているかのようだ。

 

 義勇は、その振る舞いを見ながらレーザー少年のいじめっ子気質はこの母親が原因だと確信した。

 

 チラリと母を一瞥してみれば、申し訳なさに満ち溢れた顔をしていた。義勇の視線に気が付いた彼女は心配をかけさせまいとしたのか、彼に笑顔を向けた。しかし、その笑顔にはどこか疲れが見える。彼女としてもあのような言い方をされたくないのだろう。

 

 息子がそんな母親の顔を見て、見過ごすような真似をする訳がない。

 

「無個性だからって何が悪いのでしょうか。俺の母を馬鹿にしないでいただきたい」

 

「え?」

 

 突然ながら義勇は口を挟む。子供である且つ義勇自身に口を挟まれるとは予想だにしなかったのか、レーザー少年の母親は呆けた声を上げて口を半開きにした。

 唖然とした彼女をよそに、義勇の口撃は続く。

 

「貴方が子供の前でそのような態度を取るから、お子さんが他人の"個性"を馬鹿にするような真似をしていたのではないかと。他人と関わりのない頃の子供にとっての一番の手本は親です。当然、生きる為の指標として子は親の言動を真似する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですよ」

 

 どこが口下手なんだとツッコまれること間違いなしな口撃を続ける義勇は、レーザー少年の両肩に手を置きながら、怒りを覆い隠す仮面としての役割を果たす貼り付けの笑みを浮かべた。

 

「……ああ、ご安心ください。この子の行動は、俺が責任を持って矯正しました。残るは貴方だけ。そのままでは、お子さんが将来ヒーローになった時に蔑まれますよ。『このヒーローの親は性根が腐っている』って。貴方自身とお子さんの将来の為。是非ともやめていただきたい」

 

 義勇の口から放たれる最後の一撃は、見事にレーザー少年の母親にとどめを刺した。心臓にまで深く刃が突き立つように、彼女の脳裏に深く義勇の言葉が刻み付けられる。

 

 子供は純粋。だからこそ、彼らが悪意なしに放った言葉は誰にとっても――特に大人には、一番ダメージが大きい。

 例を出すなら、実年齢はまだまだ若いのに、見た目や雰囲気のせいで小さい子供に「おじさん」若しくは「おばさん」呼ばわりされた時とか、大人に相応しくないみっともない行為をしていて、子供から「恥ずかしい」や「子供っぽい」といった言葉を言われた時とか。

 

 義勇の笑顔の仮面の下に隠された鬼神のような怒りを感じ取ったのか、レーザー少年の母親は顔を引き攣らせたまま肩を跳ねさせる。

 

「あっ、えーっと……し、失礼します!おほほほ……」

 

 彼女は非常に気まずそうに上品な笑い声を上げながら、レーザー少年を抱えてそそくさと去っていった。

 

 一方で、当のレーザー少年と義勇はというと……二人で笑顔を浮かべ、サムズアップを交わしている。

 

 レーザー少年を見送った後、義勇は自分の母へと笑顔を向ける。

 「大丈夫だよ、俺が守る」と言わんばかりの優しい笑みのおかげで、義勇の母は自分の中にあった自責の念や嘲笑われる日々によって生まれた疲れが消え去っていくのを感じた。

 

「ありがとう、義勇」

 

「父さんがいない時は、俺が母さんを守るように任されてるから」

 

 息子の成長に感極まったのか、母は半開きになった口を両手で覆いながらも目を輝かせ、義勇を抱きしめた。人前ゆえに恥ずかしさもあるものの、義勇の方も素直に彼女を抱きしめ返す。

 

 暖かい親子のやり取りを前にして、保育士達は自分の胸もまた暖かくなっていくのを感じると共に義勇の大人びた対応や精神力に感心せざるを得なかった。

 

 そんな日々が続くこと数ヶ月。義勇に転機が訪れる。

冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?

  • このままで続けてほしい
  • 義勇さんだけが活躍する作品の方が見たい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。