冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

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第三十話 第二ラウンド

「おお……!なんてカッケェ乱入をしてきやがる!いい度胸だな、小僧!」

 

「っぐっ……!」

 

(こいつ、なんてパワーだ……!)

 

 力と力を押し付け、競り合う丸太のように太い筋繊維を纏った腕と、見た目の美しさを兼ね備えつつも筋が浮き出る程にしっかりと鍛え抜かれた腕がぶつかり合う。

 

 未来の平和の象徴、緑谷出久と人を嬲り殺すことに快感を覚える殺人鬼、マスキュラー。前者の後ろにいる少女を守って救ける意思と、後者の少女を嬲り殺すという意思の張り合い。互いが決して譲らず、凄烈な鍔迫り合いが繰り広げられていた。

 

 しかし。そもそもの話、2人の筋肉量が明らかに違う。当然ながらマスキュラーの方が筋肉量は遥かに上。次第に、緑谷の方が少しずつ押され始める。

 

「カッケェ登場したのはいいが……1人じゃあ限界があるんじゃねえのか!?そのまま後ろの嬢ちゃん諸共潰してやるからよォ!血ィ見せてくれや!」

 

「ッ!?」

 

(相手の力が更に増したっ……!?)

 

 片腕の拳を全身全霊で押し付けていた形から、マスキュラーの拳を両手で受け止める形に切り替えて、決死で踏ん張る。マスキュラーの力が上から押し付けられ、その方向から力がのしかかる。地面が陥没し、亀裂が入って巨大なクレーターが形成される。

 

 ――このままじゃ、一方的に潰される!

 

 悟った緑谷の額から、冷や汗が垂れた。

 

「お兄さん……!私のことはいいですから、逃げてくださいっ!このままじゃ、2人とも潰されちゃいます!」

 

 緑谷の後ろで腰を抜かしている須磨も、そんな未来を察してか、涙ながらに訴える。

 

 そんな彼女の表情を見て、緑谷は自分の無力さを痛感する。それでも尚、彼はヒーローに憧れるきっかけをくれたオールマイトの笑顔を想起して……笑った。

 

「大丈夫……!君のことは絶対に救ける!だから、泣かないで……!2人揃って、無事に帰ろう!」

 

 白い歯を見せつけるように、ニカッと笑ってみせる。そうすると、目の前の巨悪の発する殺意に対する恐怖が、一方的に潰されるかもしれないという弱気な考えが、不思議と吹き飛んでいく。

 

(そうか……。オールマイトも、こんな風に怖いって気持ちを紛らわす為に笑ってるんだ……!)

 

 オールマイトが笑う理由を自分自身で改めて理解した瞬間、マグマのように勇気が煮えたぎり、湧き上がってきた。

 

「――ははっ……!後ろに泣いてる女の子がいるっていうのに……男の僕が、弱音を吐いてなんていられないよなっ!!!」

 

(ワン・フォー・オール、フルカウル……4()0()()ッ!)

 

 上昇した出力は5%。たった5%。されど5%かもしれない。だが……!

 

「うおっ!?何だ、急に……パワーがっ!?」

 

 救けたい、守りたいという意思に呼応して、そのパワーが急激に引き上がる。実際に出力しているのは40%のはずなのに、それを上回る出力が発揮されたかのように緑谷には思えた。

 そして、そこに上乗せされる反復動作。

 

 自分の原点(オリジン)、オールマイト。ずっと身近にいた凄い奴の爆豪。彼と和解出来た瞬間。最後に、自分に一歩を踏み出す勇気をくれた義勇。

 

 それらを想起し、緑谷の体内の血の巡りが加速する。心拍数が上昇し、集中力が極限まで高まる。それで()って、瞬間的にマスキュラーを圧倒する怪力が引き出された。

 

「でぇやぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

「うおおっ!?」

 

 マスキュラーの剛腕が押しのけられ、その巨体が仰け反る。その隙を見逃さず、緑谷は追撃を試みた。

 

「光の呼吸・伍ノ型、光柱天穿ち!」

 

「がはあっ!?」

 

 地面の砂塵を大きく巻き上げる風圧を伴う、体のバネを最大限に活かしたアッパーカット。それは、地面から湧き上がり、空を穿つ命の光が集まって形成された光の柱を幻視させた。

 

 緑谷より、二回り以上も膨れ上がったマスキュラーの巨躯が空中に打ち上げられる。その刹那――

 

「ジリィィィッ……!」「ヒュウウウゥゥゥッ……!」

 

 風が逆巻く音と導火線が着火した音が聞こえた。

 

「あ……?」

 

 自分の真上から聞こえてきたその音に、マスキュラーは呆けた声を上げながら視線を上へと移す。

 

「体勢まで崩すとは……上出来だ、緑谷」

 

「空中に打ち上げてくれたおかげで……遠慮なくブチかませる!」

 

 その視線の先にいたのは、静かに闘気を滾らせる水神と、悪を殲滅する意思に満ち満ちた核弾頭。

 

(いつの間に!?)

 

 その2人、義勇と爆豪の繰り出さんとする一撃を丸太のような剛腕で防ごうとしたマスキュラーだったが、叶わず。

 

「水の呼吸・捌ノ型――」「爆の呼吸・伍撃――」

 

「滝壺!」「対空烈破!」

 

 高所から降り注ぐ滝のような重く鋭い義勇の一太刀と、高所の敵を撃ち落とす砲弾のような爆撃が脳天に炸裂。その巨躯を爆風を伴いながら地面へと叩き落とした。

 

 巻き上がる爆煙と土煙。須磨の危機を退けた乱入者達が繰り広げた濃密な攻防に唖然とする他ない。

 

 危機を退けた者達の背中は……どうにも眩しい。葉隠には、そう思えた。

 

 突然のことで何度も瞬きを繰り返していた須磨であったが。

 

「……須磨さん、怪我はないか?」

 

 月の光に照らされる、女性なのではないかと思う程に白く綺麗な肌。月の光を受け、美しく照り映える凪いだ海面のような蒼い瞳。一度耳元で囁かれてしまえば、間違いなく恋する乙女としてのハートを撃ち抜かれるに違いない淡々とした美声。

 

 何もかもが懐かしい目の前の少年に無事を尋ねられると気が抜け、ボロボロと大粒の涙を流してしまった。

 

「!?」

 

「ううっ……冨岡ざん"ん"ん"!ありがとうございますぅぅぅ!!!死んじゃうかと思いましたぁぁぁ!それと会いたかったですぅぅぅ!」

 

 そのまま、彼女は義勇に抱きついて泣いた。それはもう泣きまくった。大方、お嫁に行けなくなるのではないかと心配になってしまうくらいにみっともなく。

 

「ともかく……怪我がないようで良かった」

 

 (なだ)めるように須磨をポンと軽く撫でる義勇。そうしつつ、自分の判断が間違っていなかったことにホッとした。

 

 ここに真っ先に辿り着いたのは緑谷だったが、これは義勇の判断によるものだった。この現場に辿り着くまで残り1kmくらいのタイミングで、義勇は緑谷に先に行くように促した。

 

 というのも、緑谷の扱う我流の呼吸、光の呼吸は雷の呼吸が源流。故に、要となるのはその脚力。その本領を発揮する為には、足に空気を溜め込んで爆発させるというだけではなく、常人以上に足を鍛える必要がある。緑谷もまた、光を彷彿とさせる速度を物にするために地道かつ真面目に足を鍛え続けてきた。

 その甲斐あって、今や直線の移動速度に限った話ならば、普段の義勇を抜けるようになった。

 

 それを頭に置いた上で、純の案内の元で全速力の緑谷を先行させ、義勇と爆豪がその背中を追うという形を取った。それで、緑谷が間一髪の所で須磨の危機に間に合うことが出来て今に至る。

 

「ここまでやれりゃあ上出来だ。流石は出久。やっぱ出来るやつだぜ」

 

「か、かっちゃん……撫ですぎだよ……!ただでさえモサモサな髪が、もっとモサモサになっちゃうよ!」

 

 そんなことを言いつつじゃれ合う緑谷と爆豪を見る。改めて、2人の成長速度に驚かされた。

 

「須磨!」

 

「雛鶴さん、まきをさん〜!怖かったですぅぅぅ!」

 

 駆け寄ってくる雛鶴とまきを。須磨に手を貸して立たせ、彼女達の元に行かせてやる。2人にも抱き着き、生きていることを喜び合っているのを微笑ましく見守っていた時だった。

 

「冨岡義勇ぅぅぅぅぅッ!!!!!」

 

 大気を震わせ、残酷な殺人鬼の叫びが響き渡った。

 

「……来る」

 

 義勇が呟いた瞬間。マスキュラーが獰猛な笑みを浮かべて、上空から隕石のように降ってきた。その巨体が地面を震撼させる。

 

「ガキの頃以上に強くなってやがんな!驚いたぜ!でもそうこなくちゃ面白くねェよなァ!」

 

「ぎゃあっ!?気絶すらしてないんですけど!?」

 

「あの筋繊維が見た目通りに鎧の役目を果たしてるんだね。多分、それに覆われた本体に思いっきり叩き込まないと倒せないよ」

 

 マスキュラーが狂喜的な笑みを浮かべる。そんな彼を見て、怖がることに全力を尽くすと言わんばかりの様子で騒ぐ須磨の頭を、まきをの平手がペチンと叩いた。

 

(再会を喜ぶ暇も無さそうだ)

 

 2人を一瞥した後、再び戦闘態勢を取る義勇。それに伴い、緑谷と爆豪も自然と戦闘態勢を取った。

 

「おおっ、3人まとめてかかってくるのか!?いいぜいいぜ!楽しくなってきやがった!」

 

 口角を釣り上げ、マスキュラーが不敵に笑う。襲い来る殺意にも怯まず、一歩たりとも後ずさることのない義勇、緑谷、爆豪を見た彼はとても楽しそうだ。

 

「チッ、生意気なガキどもが……!次々と乱入してきやがって……。(ヴィラン)の恐ろしさを思い知らせてやる。産屋敷、覚えてろ!あのガキ共の次はお前だ……!」

 

 流石にこれ以上の邪魔が入るのは煩わしいと思ったのだろうか。死柄木は、マスキュラーに加勢して義勇達を始末することを優先したらしい。

 

 苛立ちを露わにズカズカと歩いていく死柄木の背中を、耀哉はいたずらっ子のような微笑みで見送りながら呟いた。

 

「ふふ……やれるものならやってごらんよ。その3人は強いよ。悪意と向き合うことに対する覚悟が違うからね」

 

 ズカズカと歩みを進め、マスキュラーの隣に立った死柄木が首元をガリガリと引っ掻き、手の形をしたマスクの下の赤い瞳を見開いて声を荒げた。

 

「おい、マスキュラー!さっさとこのガキ共を殺して、ゲームクリアするぞ!こいつらと、そこの炎神の息子さえ殺してしまえば、後はヌルゲーだ!」

 

「む、俺もか!よもやよもや……!甘く見られたものだ」

 

 そんな彼を見たマスキュラーが愉快そうに笑う。彼の笑いは、死柄木の不快感を掻き立てた。とうとう、その殺意をマスキュラーにも向け始めてしまう。

 

「何がおかしい!?」

 

「おお、落ち着け落ち着けェ。産屋敷の坊っちゃんを殺せなかったせいで殺意衝動が増幅してるって感じだな!大したもんだよ、あんたは」

 

 だが、真の殺人鬼であるマスキュラーが彼の殺意に怯むはずもない。癇癪を起こした子供を宥めるようにして話し始めた。

 

「ただ、まあ……()()()()()()()と思ってな。気持ちは分かるけどなァ、俺はやめておいた方が良いと思うぜ?こいつらは単なるガキとはレベルが違う。今のあんたじゃ一方的にボコされて終わりだね」

 

 マスキュラーの指摘は的を得ている。だが、現実を見ない子供が現実的な指摘を受けても受け入れるはずもない。やはり、死柄木はまだまだ子供だった。

 

「煩え!大人に敵う子供なんざそうそういねえ……!俺をナメんな!」

 

「やれやれ……やっぱりガキだぜ。まあいいや、あんたがどうなろうが知ったこっちゃねえしな!」

 

 自分の指摘を受け入れない死柄木に呆れたのか、元から期待していないのか。どちらか定かではないが、あっさりと目の前のターゲットとの戦いに気持ちを切り替え、マスキュラーは拳と首を鳴らした。

 

「……煉獄、いけるか?」

 

 木刀を握りしめ、義勇が問う。悠然と歩みを進めて彼の横に立った杏寿郎は答えた。

 

「うむ、任せておけ!ただ、肋を何本か持っていかれたから、長期戦は期待出来ないぞ。だが、安心してくれ!()()()()1()()()なら十分余力がある!」

 

「究極奥義……?成る程、昔を超えるべく鍛え続けてきたのは俺だけじゃないということか」

 

「そうらしい!」

 

 2人だけにしか理解し合えない、昔という言葉の意味。拳を合わせて、彼らは笑い合った。

 

「なんか楽しそうなこと話してんのな!ほらほら、早く始めようぜ!テメェと戦いたくて仕方ないんだよ、冨岡義勇!」

 

 狂喜的だというのに、どこか子供のような無邪気さも感じさせる歪な笑みだ。そんな笑みを見ても、義勇は無機質な鉄仮面のような無表情を変えない。

 

「そう焦るな、俺はきっちりお前の相手をしてやる。爆豪と煉獄も俺と共にマスキュラーの相手、緑谷はあの手だらけ男の相手を頼んだ」

 

「よし、任された!」

 

「いいぜ。お前の親父さんの命を何食わぬ顔で奪いやがったクズ筋肉にきっちりぶちかましてやらァ」

 

「分かった……!任せて!3人のところには絶対に近づけさせないよ!」

 

「それと……透、雛鶴さん、まきをさん、須磨さん。4人は、お館様を頼む」

 

「っっ……任せといて、義勇君!お兄ちゃんのことはきっちりお守りするからね!」

 

 今、戦いの準備が整った。

 

「大人相手に子供1人……。ナメられたもんだな」

 

「ナメてるかどうかはすぐに分かる!」

 

「3人相手!殺りがいがあるな!おっしゃあ、来やがれェ!」

 

「行くぞ」

 

「「おうっ!!!」」「うんっ!」

 

 迫る悪意に対し、敢然と立ち向かう。本当の悪意との一歩も退けぬ戦い。その第二ラウンドが幕を開けた!

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