冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

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本来一話にまとめていたものを二つに分け、連続投稿となります。今話の最後にはアンケートを取りますので、是非ともそちらにご協力いただければと思います。


第三十一話 退けろ、悪意

 火花が夜の闇の中で派手に弾ける。水を纏った剣閃がマスキュラーの攻撃を(ことごと)く防ぎ、受け流す。緑色の稲妻を纏った拳撃と蹴撃が死柄木を一方的に押さえ込む。そして……全身を捻った構えを取っている少年から、発せられる闘気が可視化されて炎のオーラが溢れ出す。

 

「死ね死ね死ねェ!血を見せやがれ、冨岡義勇!」

 

 隕石の如く降りかかる二つの剛腕。義勇は、隙一つない自然体の構えを取り、己に降りかかる剛腕を見据え――

 

「水の呼吸・拾壱ノ型、凪」

 

 自身の上方に対して、無拍子且つ視認不可能な速度の無数の斬撃を繰り出してその剛腕を弾ききった。

 

「……は?」

 

 何が起こったのか理解が出来ない。振り下ろした剛腕が弾かれたと思えば、マスキュラーの視界に入ってきたのは揺らぎ一つない無風の海面だった。

 

 義勇が無風の海面に波紋を発生させながら滑るように歩き……消えた。

 

「ッ!?」

 

 戸惑いを露わにし、マスキュラーは周囲を忙しなく見渡す。

 

(まただ、また消えやがった!)

 

 あの日も、こうして消えた彼が知らぬ間に自分の懐に潜り込んでいて、攻撃を叩き込まれた。

 

(どこからだ……!どこから来る!?)

 

 最大限に辺りを警戒し、身を固めていたマスキュラーだったが……その攻撃は、予想だにしない位置へと放たれた。

 

「い"っ!?」

 

 爆撃と激流を纏った木刀による殴打が、マスキュラーの膝裏と大腿に炸裂する。

 

 人体の構造上、筋肉で増強出来ない部位とどれだけ肉体を鍛えようとも急所に変わりない部位に攻撃を叩き込まれたマスキュラーは、堪らず膝をついた。

 

 膝をついたマスキュラーに対し、義勇と爆豪は更なる追撃を叩き込む。

 

「水の呼吸・肆ノ型、打ち潮」

 

「爆の呼吸・参撃、爆炎砲!」

 

 義勇がすれ違い様にマスキュラーの鳩尾と両肩口の三箇所に目掛けて、陸に激しく打ち付ける波のような淀みない連撃を叩き込み、爆豪が掌の一点に集中させた爆破を徹甲弾の如く貫通力の高い弾丸として、マスキュラーの顔面めがけて撃ち込んだ。

 

「うがあっ!?」

 

 人体の急所に叩き込まれた攻撃は、マスキュラーを悶えさせるには十分だった。息苦しさに堪え、動かそうにも動かせない腕をプルプルと震わせながら、顔の皮膚がジリジリと焼けつくような感覚を感じ取る。

 

「……はは、いいじゃねえか。いいじゃねえか!そうこなくちゃなァ!!!」

 

 地面を見つめるように伏せていたその顔には、火傷の痕がある。まさしくたった今、爆豪の放った爆撃弾によって生じたものだった。

 

 片手を右肩に添えつつ、ぐるぐる回す予備動作を目にした爆豪は、舌打ちをして掌から激しく火花を散らした。

 

「しぶとい筋肉だなあ、オイ!大して喰らってねえってか!上等だ、それなら……叩き込み続けるだけだ!作戦通りいくぞ、()()()()冨岡!」

 

「ああ、任せるぞ」

 

(爆の呼吸・肆ノ型、爆裂瞬進ッ!)

 

 爆豪が叫ぶと同時に義勇がうねる龍の如く刀を回転させながら、ぐるぐるとマスキュラーの周囲に渦潮を巻き起こすかのように移動を始める。

 

 それを見兼ねた爆豪は、掌から爆破を巻き起こし、推進力を得てマスキュラーの懐へと猛進した。

 

「お?なんだなんだ、なんか楽しそうなことやってん――」

 

 そして、義勇の方を興味深そうにジロジロと見て自分から意識を逸らしている、マスキュラーの腹部に爆破を叩き込んだ。

 

「俺のこと忘れてんじゃねェよ、脳味噌も筋肉で出来てんのか!?」

 

「そうだったそうだった、お前も居たんだったな。一先ずテメェをさっさと片付けて……冨岡義勇相手に楽しませてもらうぜェ!」

 

 爆豪の存在を思い出したマスキュラーの殺意に満ちた瞳が彼を見下ろし、筋繊維の鎧を纏った剛腕が振り下ろされる。

 

(遅ェ)

 

 だが、彼の攻撃速度が爆豪を捉えられるはずがなかった。……当然だ。この日に至るまで、爆豪はずっと義勇を相手に己を鍛え上げてきたのだから。己の足で更なる高みへと進む為に。

 

 地面へ向けて爆破を放った爆豪の体が華麗に宙へと浮かび上がる。その推進力を利用してマスキュラーの背後に回り込んだ爆豪は、凄まじい体幹で己の体勢を整えて身を翻し、最大出力の爆破をその背中に解き放った。

 

「ぐうっ!?」

 

 腕を振り抜きながら放ったそれは、爆破でマスキュラーの肉体を呑み込むと共に、鎌鼬状に変化した爆風でその筋肉を切りつけた。

 

「やるじゃねえか、あのガキも……!」

 

 黒い爆炎が立ち込める中で、ズボンに付着した砂塵を払いながら立ち上がる。いざ、反撃だと意気込んで顔を上げた瞬間――微かに隙間の出来た両掌をマスキュラーの眼前に突きつけ、その隙間でバチバチと爆破を起こす爆豪の姿が目に入った。

 

(しまっ――)

 

「爆の呼吸・陸撃、爆撃閃」

 

「うおおっ!?」

 

 次の瞬間、爆破が襲いかかると同時にマスキュラーの視界を真っ白な閃光が覆い尽くす。彼の視界に広がったのは、どこまでも広がる眩い光。目の前の景色が塗り替えられ、彼は動揺しながら目を覆った。

 

「ぎぃやあああああッ!?目が!目がぁぁぁ!」

 

 そう、爆豪が両掌から放った爆破により生じた閃光によって目を潰されたのだ。

 

「くそぉっ!何処だ、何処にいやがる、ガキがぁっ!」

 

 闇雲に腕を振り払うマスキュラー。だが、視界を塞がれた状態の攻撃が当たる訳などない。相当感覚が鋭いか、気配を読める等の類の''個性''や技術がない限りは。

 

 無論、マスキュラーにはそんな手段などなく。振り払った剛腕は、爆豪の手で次々と(かわ)されていく。

 

 爆豪も爆豪で、自ら居場所を教える必要もない。オールマイトのように技の名を唱え、気合十分に打ち込みたい。そんな気持ちを抑えて、心の中で型の名を唱えた。

 

(爆の呼吸・弐撃、絨毯爆撃!)

 

「ぐうっ!?(あち)ィッ!?」

 

 腕をブンブンと振り回すマスキュラーの懐に猪のような低い体勢で潜り込んだ爆豪は、無防備なその鳩尾に連続で爆破を叩き込む。地域一帯に絨毯を敷き詰めるように行う隙間ない爆撃。それと同じく隙の生じぬ連続爆破だ。

 

 ここに来るまでに義勇を死ぬ気で追いかけてきたお陰で、汗腺は十分に開いている。爆豪はフルスロットルの状態にあった。

 

 腕の回転数がみるみる上昇し、爆破を叩き込む速度が上がる。彼自身の高まるボルテージに比例し、爆破の威力も高まる。

 

(あのガキ!攻撃の威力が上がってやがる!)

 

 マスキュラーは攻撃を一方的に喰らいつつも、それを感じ取って冷や汗を流した。

 

 このままでは、あの時の繰り返しになる。悟ったマスキュラーは、負けてたまるかという強い意志と共に爆豪に対する激しい殺意を抱き、ありったけの筋繊維を解き放った。それを纏い、己の防御力を更に高めようとしたその時。

 

「ゴフォッ!?」

 

 マスキュラーの後頭部を強烈な衝撃が襲った。引き続き、こめかみ、鳩尾、肩口、膝、脛、大腿。人体の急所にあたる部位に、より威力を増した衝撃が押し寄せる。

 

(い、痛えっ……!なんだ、これ……!脳が、揺れ、て……っ!)

 

 衝撃によって脳震盪を起こしたことに加え、凄絶な痛みによるショックが生じ、マスキュラーの真っ白な視界がぐわんぐわんと揺れる。意識が飛びかけ、再び膝をつく。解き放った筋繊維と纏っていた筋繊維が、全て巣に逃げ帰る蛇のように己の体に収まっていく。

 

 光で潰された目がようやく周囲の景色を認識出来るようになったその時、目の前に広がったのは……水神の如く、身の毛をよだたせる気迫を放ち、水の龍を纏った木刀を構えて肉迫する義勇の姿だった。

 

 体中を駆け巡る、ゾッとした感覚。それは、自分を屠らんとする目の前の相手への恐怖。マスキュラーが思わず後ずさる。だが、逃げられない。一度喰らいついた獲物の肉を決して離さない獣の牙のように、義勇の一撃が炸裂する。

 

「水の呼吸・漆ノ型、雫波紋突き」

 

 水の呼吸の型の中で、史上最速を誇る技。水面を穿ち、波紋を発生させて威力を浸透させる突きがマスキュラーの額を強打した。

 

「ぐああああっ!?」

 

 悲鳴を上げ、額を押さえる。再び脳が揺らされ、殺人鬼としての強靭な精神力でなんとか失わずに済んだ意識を再び失いかけ、とうとう体を覆っていた筋繊維の全てがその体に収まってしまった。

 

 爆豪がマスキュラーを相手している間、義勇はマスキュラーの狙いが定まらないように、水の呼吸の玖ノ型、水流飛沫・乱の要領で周囲を高速移動しつつ、拾ノ型、生々流転を使用した。うねる龍のように木刀を回転させたのはそういうことである。

 

 何よりこの型の利点は、動きを止めない限りは高めた威力が継続されることにある。それは、他の型に関しても同じこと。生々流転の動きによって高めた威力は、雫波紋突きにも反映されて、マスキュラーの意識を飛ばしかけるに至るという訳だ。

 マスキュラーの戦闘意欲、若しくは意識を失わせ、''個性''の使用を一瞬でも中止させる。それが義勇と爆豪の作戦だった。――因みに、マスキュラーの後頭部から始まり、彼の急所を襲った衝撃の正体は、生々流転によって大幅に威力が高まった義勇の繰り出した打ち潮だ――

 

 今こそ好機。義勇は、爆豪に後退するようにアイコンタクトで合図を出すと、己も跳び退きつつ叫んだ。

 

「今だ、煉獄!」

 

「よもやよもや……!これはまた丁度いいタイミングだ!後は任せろ!」

 

 その背中から露わになったのは、全身を捻った構えを取る杏寿郎の姿。その逞しく鍛え抜かれた肉体からは轟々と悪を滅する炎のオーラが溢れており、彼の発する気迫がその周囲を渦巻く豪炎として可視化されていた。

 

「さあ、これで終わりにするぞ!炎の呼吸、()()()()・拾ノ型――」

 

 瞬間、彼の肉体が炎の球体に包まれ、飛び出す。人間の視認出来る限界の速度を遥かに凌ぐ速度で殺人鬼の元に肉迫する球体は――神鳥と化した。

 

(まずい、まずい!来るな!来るなぁっ!!!)

 

 マスキュラーは、必死になって意識を保ち、再び''個性''を発動する。新しく与えられた''筋肉操作''によって大量の筋繊維を一つに束ね、極太の鞭として振り放った。だが、捉えられない。いくら相手が加減していたと言えど、かつて上弦の参と渡り合った男をマスキュラー程度が捉えられる訳がなかった。

 

 そして、神鳥は天空から舞い降りる。

 

「――迦楼羅焔(かるらえん)ッ!!!」

 

 マスキュラーの頭上を取った杏寿郎は、振りかぶった拳を鉄槌の如く強かに振り下ろす。

 

「うぉごっ!?」

 

 神鳥、ガルーダの吐き出す金色の炎を彷彿とさせる聖炎を纏った拳がマスキュラーの巨躯を地面に叩きつけ……巨大な炎柱を立ち昇らせた。

 

「これは凄まじいな」

 

「うおッ……!?凄ェ……っ!」

 

 吹き荒れる暴風。押し寄せる土煙。それらを凌ぎながら、義勇は薄く笑みを浮かべて感心し、爆豪は子供のように目を輝かせた。

 

 辺りを静寂が包み、突如吹いた一陣の風が土煙を晴らす。そして露わになったのは、白目を剥いて地面に伏せるマスキュラーと、膝をついた状態から立ち上がり、義勇達に向けて溌溂(はつらつ)とした笑みを向ける杏寿郎の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 そして、同時刻。緑谷の方の戦いも終わりが近づいていた。

 

「光の呼吸・弐ノ型、閃々!」

 

「あがっ!?」

 

 すれ違い様に叩き込まれた5連撃の乱打が、レーザーのように死柄木の病的で細い肉体に叩きつけられる。それでよろけた彼に対して、出久は右脚の回し蹴りを叩き込んだ。

 

 腕の力の3倍以上を誇ると言われる足の力で繰り出した一撃は、死柄木を木の幹まで吹き飛ばした。木の幹に体を叩きつけられた痛みに悶える死柄木を見つつ、緑谷は油断なく構える。そして――

 

「キィィィィィッ……!」

 

 小さな光が徐々にその輝きを強くしていくかのように甲高い呼吸音を響かせ、地面を蹴った。

 

 結論から言って、緑谷は死柄木に対して終始優位に立っている。その理由は、無論彼が積み重ねてきた義勇との特訓の成果もありきだが……一番は、自分の背中に守るべき人達がいて、応援の声を投げかけてくれているからだった。

 

 「頑張れ!」と典型的であれど心強い応援の声を投げかける須磨と雛鶴。「やっちゃえ!」「そこだ!ぶちかませぇ!」とスポーツの試合さながらの応援をするまきをと葉隠。ただ微笑んで見守る耀哉。

 誰かからの応援がどれだけの力を引き出すものか。彼はそれをよく分かっている。彼女達の応援もあって、今の彼はフルスロットルだ。

 

 そして――

 

「そのままやっちゃえ、緑谷君!」

 

 葉隠の一声と共に、辛くも起き上がった死柄木の眼前に肉迫し、決着の一撃を繰り出した。

 

「光の呼吸・肆ノ型、陽光降ろし!」

 

「っがっ……!?」

 

 鋭い眼光を発しながら繰り出したのは、"ワン・フォー・オール"と"全集中の呼吸"で増加した身体能力を()っての踵落とし。青く晴れ渡る空に浮かぶ太陽から降り注ぐ、悪を滅する陽光が如き聖なる一撃だ。

 

 垂直方向に押し寄せる衝撃は、死柄木の脳を激しく揺らして脳震盪を(もたら)す。彼の視界の中で、白い火花がチカチカと弾けた。

 

 意識を失う瀬戸際。

 

(このまま捕まってたまるか……!俺は、先生に期待されてるんだ……!こんなところで、終われ、ない……っ!俺は、決めたんだ……。とにかく気に入らないもんをブッ壊すって……!)

 

 自分の望む未来を実現したいという望みと、オールフォーワンから期待されているんだという自覚を糧に最後の気力を振り絞り、死柄木は呟いた。

 

「黒……ぎ、り……っ」

 

 次の瞬間、黒い靄が死柄木の体を全て覆い尽くす。

 

「っ!?」

 

 捕まえるという思いよりも警戒が先に働いた緑谷は、咄嗟に距離を取る。そして、靄が晴れた時には死柄木の体が忽然とその場から消え去っていた。

 

「消えた……?」

 

 未だ油断なく周囲を警戒する緑谷。辺りを見回していると、マスキュラーの肉体も死柄木と同じように黒い靄に呑み込まれている光景が目に入る。

 

(逃げられる!)

 

 相手が逃走を試みているのだと予感したのは、マスキュラーを相手した3人も同じようで、これから悪意を振り撒く種を摘み取る為に緑谷、爆豪、義勇、杏寿郎が同時に飛び出しかけるも。

 

「皆、もう十分だよ。深追いは避けよう」

 

 耀哉の穏やかな声が彼らを制した。振り向くと、その声に相応しい微笑みを浮かべて歩み寄る彼の姿があった。

 

 その隙に、マスキュラーもまた死柄木と同じように靄と共に忽然と消えてしまう。その光景を前にして戸惑う緑谷と爆豪を見た耀哉は、微笑みを絶やさずに続けた。

 

「今回の敵は本物の(ヴィラン)。彼らがアジトに何かを仕掛けている可能性もゼロじゃない。それにね、一番恐ろしいのは彼らのバックに控えている巨悪だ。あの体中に手を取り付けた男は、巨悪の一番弟子と言ってもいい。彼が成長するのも恐ろしいけれど……ここで彼が捕らえられれば、何をしてくるか分かったものじゃない。それが一番恐ろしいんだ」

 

「勿論、それはマスキュラーについても言えることだよ。彼は、嬉々として表社会を渡り歩くシリアルキラー。自分の悪意を知らしめるには都合の良い存在だからね」

 

 「少なくとも私はそう思うよ」と話を締め括る耀哉。爆豪と緑谷、義勇と杏寿郎でそれぞれ顔を見合わせる。考え込む緑谷達であったが、自分達より遥かに戦術眼に優れているであろう2人が戦闘態勢を解いたのを見て彼らに従い、緊張の糸を切ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりそう簡単にはいかなかったか」

 

 黒霧からの報告を聞いたオールフォーワンが動揺もなく呟く。何より恐ろしいのは、彼の報告に耳を傾けつつも、鬼に変化したことで伸縮自在となった腕を手持ち無沙汰のように振り回して巌勝を始めとした相手を淡々と迎え撃っている点だ。

 

「産屋敷耀哉の先見の明……。この行動がそれによるものだとしたら、末恐ろしいものです」

 

 目を細め、ターゲットの始末に失敗したことを嘆かのような様子の黒霧曰く、死柄木やマスキュラーは学生と思わしき者達に敗北したらしい。2人は見知らぬ少年達。もう2人は、オールフォーワンの前に立ち塞がっているヒーローの1人、炎神の息子。それと、マスキュラーが命を奪ったかのヒーロー、凪の息子と思わしき少年だったとのこと。

 

(ヒーローの卵にすらなっていないとは言え、流石は鬼舞辻無惨を滅ぼした代の鬼殺隊の''炎柱''と''水柱''の家系というところだね)

 

 いくつもの''個性''を付与し、バネのように縮めた腕が元の形に戻るのを利用して風圧を解き放ちながら考える。

 

 正直、オールフォーワンにとって、耀哉を殺せなかったことは悔いる程のことではない。今回はあくまで宣戦布告。彼の両親や兄弟達を殺せた……それだけで十分だった。耀哉を殺せなかったことを悔いるより、死柄木とマスキュラーが捕らえられずに逃げおおせたことによる安心の方が大きかった。――まあ、2人が捕まったところで、彼らを収容した場所を自身で出向いて叩き潰すことは容易い為、何の痛手でもないのだが――

 

「取り敢えず、よくぞ弔とマスキュラーを連れ戻してくれたね。大手柄だ」

 

 依然として黒霧との会話を交わすオールフォーワン。即座に撤退を決め、彼にゲートを展開するように促そうとしたが……彼の方に意識を向けた故に気が付かなかった。

 

「DETROIT SMASH!!!」

 

 日本の平和の崩壊を、人々の心の平穏を破壊することを企む悪を悉く粉砕してきた聖なる拳が迫っていたことに。

 

(おやおや……参ったな。衰えたとは言え、平和の象徴は伊達じゃないね)

 

 右頬に強烈なストレートパンチを喰らって言葉を発せないオールフォーワンは、代わりに内心で呟いた。その視線の先には、憤怒の表情を浮かべたオールマイトの姿がある。

 

 狛治や巌勝、悲鳴嶼が切り拓いた道を突き進み、気配を消して宿敵の元まで辿り着いたオールマイトの一撃は見事にオールフォーワンに炸裂。その一撃が、ここまで膠着状態にあった戦いに変化を齎した。

 

「一瞬……!僅か一瞬の隙だが、彼にはこれで十分だ!人々を守る為に戦うヒーローを甘く見るなよ、オールフォーワンッ!」

 

 拳を握りながらオールマイトが叫ぶ。次の瞬間、地面に人影が出来た。同時に、オールマイトが地面を蹴って後退する。

 

(上――)

 

「月の呼吸・玖ノ型、降り月・連面」

 

「っぐうっ!?」

 

「先生ッ!」

 

 人影に気付き、オールフォーワンが頭上を見上げて腕を交差させるのと、その頭上を取った巌勝が背中に構えた刀を前方に振るい、天空から降り注ぐ複雑な軌道の斬撃を無数に放ったのは、ほぼ同時だった。

 

 ――鮮血が舞う。満月を過ぎて次第にかけていく月輪の刃は、オールフォーワンの四肢を見事に斬り落とした。

 

(頸を狙ったつもりだったが……)

 

(危なかった……!''受け流し''の''個性''がなければ、頸を断たれていたね)

 

 ''受け流し''で斬撃を急所から逸らしたことで、危機を逃れた。斬り落とされた両腕と両足を再生させるオールフォーワンを見ながら、黒霧は血の気が引いた気分で声を荒げる。

 

「先生、ここは逃げましょう!今、私がゲートを――」

 

 自身が黒く巨大な靄のゲートと化して、主を逃がそうと画策する黒霧だが……甘い。

 

「アグォッ!?」

 

 黒霧の首辺りの部分に取り付けられた、金属のガードの部分に凄絶な衝撃が押し寄せる。空気を強制的に吐き出されたかのような部下の声にオールフォーワンが振り向くと、その部位に飛び蹴りを叩き込んだ狛治の姿があった。

 

(いつの間に……!?)

 

 微かに目を見開くオールフォーワン。そんな彼を見ながら黒霧の金属のガードの部分を踏み付けた、紅梅色の髪の狛治は薄く笑みを浮かべた。

 

「俺を見て呆けていても良いのか?」

 

 その笑みに、オールフォーワンの第六感が働いた。嫌な予感が光の如く脳裏を過り、振り向く。そこには、紫色に輝く刃を抜刀する天から遣わされた執行人のような覇気を発した男の姿があった。

 

「月の呼吸・壱ノ型、闇月・宵の宮」

 

「がっ……!?」

 

 咄嗟に体を仰け反らせ、頸を斬撃が放たれた位置から逸らす。しかし、月輪を纏った神速の居合斬りはその頸に傷をつけた。喉に斬撃が命中したことで声帯をも斬りつけられ、声を出せなくなってしまった。

 

(成る程、前世で継国縁壱の兄だっただけはある……。この場にいる者達の中でも実力は一番上か)

 

 一度命中させ損ねたのなら、もう一度試みて命中させるまで。巌勝は即座に踏み込み、振り抜いた刀を切り返した。

 

(速い!)

 

 攻撃を終えたところから、即座に次の行動へ移る反射神経の良さ。それは、オールフォーワンの肝を冷やさせるには十分だった。

 

 このままでは頸を断たれるという確信にも近い予感と共に、''伝心''の''個性''で自身の中に生じた危機感を、ここ数週間で見つけた新たな部下に対してそのままに伝えた。

 

 その直後、夜の闇の中で琵琶の音が響き渡った。そして、オールフォーワンと黒霧の真下の地面に何処からともなく襖が現れる。同時にそれが開いて黒霧とオールフォーワンが落下していき……襖と共に跡形もなく消え去った。

 

「あの襖……」

 

「鳴女か……。中々厄介な者を味方に付けられているようだな」

 

 オールフォーワン達が消え去った場所をじっと見つめる巌勝と狛治の脳裏には、ある鬼の姿が浮かんでいた。

 

 和服を身につけた女性の鬼。長い黒髪をしていて、その前髪で階級を刻まれた大きな一つ目を覆い隠している。そして、その手に握られた琵琶をかき鳴らして鬼達の根城であった無限城を自在に操っていた鬼。

 半天狗亡き後に、その空席を埋める者として上弦の肆の階級を与えられた鬼――鳴女。

 

 自分達の活動の幅を広げられるオンリーワンと言っても過言ではないその能力が、どれだけ重宝するものであったか。利用する側であったからこそ利便性を理解している。加え、それが敵に回った時の厄介さも。

 

「南無……。あの襖は、前世での決戦が開幕した時に我々を鬼達の根城へと招いたもの。今回は逃げられた……ということですね」

 

「うむ……」

 

 武器を納め、嘆きによる涙を流しながら数珠をジャリジャリと鳴らす悲鳴嶼に、巌勝は肯定を返しながら''個性''を解く。黒い瞳を鬼が復活したことへの憂いを湛えるものへと変化させながら、妖しく輝く月を見上げた。

 

「鬼が復活したのは地味に恐ろしいが、一先ずは退散してくれて良かったってところですかね……」

 

「そうだな、深追いは避けよう。鬼に関する十分な知識を持つものが少ない今、他以上に奴らのことを知る我々が一掃されては元も子もない。今は戦力を集うことを優先した方が良いだろう」

 

 同じく武器を納めて言葉を交わす宇髄と槇寿郎は、未だに頬を伝う冷や汗を拭いながら、ゆっくりと息を吐き出した。まるで生きた心地がしなかったと言わんばかりに。

 

「お館様はご無事だろうか……?杏寿郎達は……」

 

 続けて、槇寿郎が腕を組みながら呟く。どうやら前世のこともあってか、余程心配らしい。そんな彼を見兼ねて狛治が口を開いた。

 

「案ずるな。あのような能無しの殺人鬼と子供大人に負ける程、杏寿郎は弱くはあるまい。お館様共々ご無事だろう」

 

「狛治殿……。そう、ですね」

 

 一同の肩の力がようやく抜ける。だが、相手の撤退を素直に喜ぶことは出来ない。彼らの胸中は、鬼の復活と仕える主の家族を守りきれなかったことによる複雑な気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 父や母の仇であるマスキュラー――母はマスキュラー本人に殺された訳ではないが、母が殺されたきっかけの事件を引き起こしたのは奴なのだから、仇も同然だと思う――と、顔を始めとして体中に大量の手を取り付けた不気味な男を撃退した俺達は、ようやく肩の力を抜くことが出来た。

 

 ここでようやく互いに再会を喜び合えるタイミングが出来、雛鶴さん、まきをさん、須磨さん、煉獄と再会を喜び合って握手を交わした。どういう関係なのかと聞かれたが、無理もない。取り敢えず、この場は小さい頃に会ったっきりの知り合いだと話をでっち上げたが、4人も見事に話を合わせてくれた。彼らの優しさには感動する他なかった。本当にありがとう。

 

 そして――俺達は、鬼が復活したことを聞かされた。

 

「鬼……!?」

 

「鬼っつーのは……"個性"っスか?それとも……」

 

「大正時代に滅びたはずの本物……ですか……!?」

 

「その通りだよ、緑谷出久君」

 

 緑谷の言葉にお館様がお答えになった。お館様が仰られることには……5年前、社会の影に追いやられたはずの巨悪が鬼として復活したとのこと。最悪なことに何らかの方法で青い彼岸花を見つけて。そして、人の手の届かない所で密かに花を咲かせていたものを採取したのだろうと付け加えなさった。

 

 真剣な表情を崩し、微笑みをお浮かべになったお館様。その微笑みを俺にお向けになった。

 

「義勇。鬼殺隊、最後の"水柱"。その家系の者として、鬼の知識を正しく蓄えてきた者として君の力が必要になる時が来るだろう。その時は……どうか、君の力を貸してほしい」

 

 お館様は、深々と頭をお下げになる。それがあまりにも恐れ多いことで俺は恐縮しまくった。

 

「お、お館様……!顔をお上げくださいませ!俺は、いつでも覚悟は出来ております。鬼を滅することで多くの人を救けられるのなら、誰かにとっての本当のヒーローとなれるのならば……喜んで悪鬼の頸を断つ刃となりましょう」

 

「……ありがとう」

 

 顔をお上げになったお館様の暖かい微笑みで俺はホッとした。ヒーローになると決めた時点で他が為に力を振るうのは必然。その時から覚悟は出来ていたことだ。断る道理などなかった。

 

「……あの!」

 

 緑谷が決意をしたかのような表情で声を上げる。グッと拳を握りしめながら続けた。

 

「……僕達にも、何か出来ることはないですか……?鬼殺隊の家系でもないし、ヒーローの卵ですらないですけれど……将来、誰かを守る為に救ける為に出来ることがあるはずなんです」

 

 続けて、爆豪も自分の掌を見つめながら呟いた。

 

「下手すりゃ、人間を滅ぼせる化け物。そんな奴らを相手に勝って救けることが出来るようになる為にすべきこと、やれることがあるんなら……今のうちからやっておきたいんス。戦力の増強は必要っスよね」

 

 お館様は、そんな2人を目線のみで交互にご覧になる。そして、それを続けること数秒後。嬉しそうに微笑みを浮かべなさった。

 

「いい目をしているね。鬼のことを信じることすらもしない人が多い中で、私の言葉を信じてくれたこと……。まずは、それが嬉しいよ。そして、鬼のことを真剣に受け止めて、やれることを探そうとしてくれていることもね」

 

 その後、お館様は2人にこう仰った。

 

「最初に大切なのは、鬼のことを正しく理解すること。"個性"ではない()()()()のことを。呼吸を扱う以上、大方は知っているんだろうけれど、それだけじゃ足りない。今以上に理解を深めておくれ。そして、実力を磨くことも大切だよ。けれど、一番大切なのは……残酷な命の奪い合いに挑む覚悟を養うこと」

 

「今のところ、鬼を人間に戻せる方法は確立していない。薬を使うことで人間に戻れた鬼の少女の記録は残っているが、それは彼女が特別だったからこそだ。つまり、どうしなければならないのか。それは察しがつくかな?それを承知した上で自分達に何が出来るのか、何をすべきか。それを真剣に考え、各々なりの答えを出してくれると嬉しいな」

 

 ……と。

 

 その言葉を受けた所で、今日は夜も更けてきている故に別れることとなった。

 

 煉獄を始めとした4人とも再会を誓い合い、透にも「ピンチの時はまた呼んでくれ。すぐに駆けつける」と約束した。その時の彼女の笑顔がとても眩しく、花のようで微笑ましいものだった。……そんな気がした。

 

 無事に危機を乗り越えたと思うと、肩の力が抜けて一気に疲れが押し寄せてきた。これも、夜は寝て朝に起きる普通の生活を繰り返せているからこその影響だろうか。戻ったらもう一眠りすることを決めて、巨悪に立ち向かう決意を新たに、俺達は夜道を歩いたのだった。




本当に意思がブレブレのへなちょこなもので大変申し訳ないのですが……前書きの通り、アンケートを取らせてください。

昨日、金曜ロードショーでヒロアカの映画1作目が放送されましたね。言うまでもなく素晴らしかったです!こちらの心まで熱くなる程に。それを見ていて私は思ったんです。「他の鬼滅キャラの介入無しで、己の道を切り拓いていく義勇さんが見たい!」と。

簡単に言わせていただくと、拙作「疾きこと風の如く」のように……鬼滅の刃からの登場キャラは義勇さんのみ。その作品に登場する呼吸を始めとした技術を使用するのも義勇さんのみ、という形での作品を執筆したいと思ったんです。何より、他作品キャラが複数登場すると扱いが難しい!というのが本音でして。そちらの作品を書き進めていく中で、やっぱりクロスオーバー先のキャラは基本的に1人の方が魅力的なのかなと考えました。

そこで、今回のアンケートです。こちらの作品を続けてほしいか、鬼滅キャラは義勇さん単体の作品を見たいか。良ければ皆様の意見をお聞かせください。「冨岡義勇英雄伝:再編集」の今後に関わることですので、どうかご協力お願いします!期限は2週間にしようと思います。

冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?

  • このままで続けてほしい
  • 義勇さんだけが活躍する作品の方が見たい
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