冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

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第三章 雄英入学編
第三十二話 入学式にさよなら!?


 街路樹の側を歩けば例外なく桜が咲き誇り、暑くも寒くもないその中間の心地よい微風が頬を撫でる時期になった。

 

 4月某日。今日は……いよいよ雄英の入学式の日だ。雄英指定の真新しい灰色を基調にした真新しいブレザーの一式に袖を通す。1週間と少し前に鬼の復活を聞かされてからというものの、己を磨き上げることに全身全霊を尽くす激動の日々を繰り返していた。それ故に、4月からはもう高校生なのだという自覚がどうにも湧かなかった。

 

 こうして制服に袖を通して、ようやく雄英に通う自覚が湧いてきた。ここから、俺は新たな一歩を踏み出すのだと。

 

 時間をかけて、前世の自分に近づきつつある顔立ちをした鏡の中の自分をじっと見つめる。そして、鏡の前でくるりと軽く回ってみた。気分は、ファッションショーに出演した大人気のモデルだ。

 

 とは言え――

 

「……何をやってるんだ、俺は」

 

 途中で正気に戻って気恥ずかしくなり、羞恥を誤魔化すようにして肩掛け式の通学鞄を手にし、そそくさと自分の部屋を出た。

 

 そして、玄関に行けば、涙を流しながら制服姿の俺をスマホで撮りまくる蔦子姉さんと、感慨深そうに何度もしみじみと頷きなさる鱗滝さんのお姿がある。

 

 今も天狗の面を身につけておられる故に表情は見えないが……恐らく、泣いていらっしゃる。俺には分かる。伊達に前世で彼から剣を教わっていないからな。

 

「ごめんね。義勇がこうして生きてくれてて、幸せな日々を過ごしながら大きくなってくれたことが嬉しくて」

 

「義勇よ、本当に大きくなったな……。きっとご両親もお前の門出を祝っているだろう」

 

 姉さんは微笑み、鱗滝さんは天狗の面を外してから、それぞれ涙を拭う。

 

 亡くなった父と母にも今の俺の姿を見てほしかったという気持ちが湧いて、ほんの少し寂しさを感じた。けれど……この瞬間に、さりげなく鱗滝さんの素顔が見られたのは嬉しく思う。

 強面の天狗の面とは真反対の、優しく穏やかなお顔立ちだった。さながら、今の季節の木漏れ日のような。

 

 少なくとも俺が幸せに生きてこられたのは、姉さんや鱗滝さんのおかげだ。彼らが俺を見守っててくれたから。その恩返しとして、これからの高校生活に一生懸命に励もう。

 

「もっと義勇の制服姿を目に焼き付けておきたいけれど……あまり引き止めすぎてたら、透ちゃん達を待たせちゃうわね。名残惜しいけど、いってらっしゃい」

 

「気をつけるんだぞ」

 

「いってきます」

 

 そうして、俺は2人に見送られて自宅を出た。踏み出した一歩はとても力強く、希望に満ち溢れたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通学の途中で透と雛鶴さんと合流し、とうとう雄英に辿り着いた。都会のビルを縦に二つほど積み重ねた相変わらず巨大な建物を前に圧倒されつつ、校舎の中に足を踏み入れる。透は慣れてるらしいが、遥か昔を生きた俺と雛鶴さんからすれば、やはり慣れない。こんな巨大な建物を見たことなど何度もないことだから。

 

 靴箱で上靴へと履き替えて視線を上げる。そこにあったのは、大量の名前が載せられた紙を貼り付けた黒板だ。そして、その前に3人の知り合いの背中があった。

 

「お、冨岡。葉隠に雛鶴もおはよう」

 

 一足先に気が付いたらしい、その中の1人であるオレンジ色のサイドテールが特徴的な少女――拳藤が軽く片手を上げながら挨拶をしてきた。

 

「おお、冨岡!久しぶりだな、会いたかったぜ!」

 

「鉄哲は朝から元気良すぎノコ。おはよ、冨岡」

 

「ああ、おはよう」

 

 続けて挨拶をしてきた無造作な銀髪が特徴的な熱血少年の鉄哲と、茶髪ロングボブの少女、小森にも挨拶を返す。

 

 そして、真横で拳藤に思い切って抱きつく透を横目にしつつ、俺は雛鶴さんと会話を交わした。

 

「拳藤とは知り合いだったんだな」

 

「ふふ、言ってなかったですものね」

 

 俺に対して微笑んで返す雛鶴さん。抱きついてきた葉隠を受け止めている拳藤が続けた。

 

「忙しくて言う暇なかったもんなー。取り敢えずさ、葉隠がお館様に引き取られたのは知ってるだろ?んでもって、私の師匠は知っての通り杏寿郎だ」

 

「……成る程、煉獄家は代々産屋敷一族に仕えてきた家系。逆に関わりがない方が不自然というものか」

 

「そういうこと。勿論、お館様にお仕えしてるヒーローの人達とも知り合いだよ。その辺を伝っていくうちに葉隠や雛鶴とも知り合ったんだよね」

 

「義勇君が緑谷君や爆豪君と頑張ってる間、一佳ちゃんにバリバリ鍛えてもらったからね!前よりも確実にレベルアップしてるから楽しみにしててよ、義勇君!」

 

「楽しみにしておこう」

 

 その後、普通科に入学する雛鶴さんと別れて、5人でヒーロー科の教室に向かって校舎の中を歩いた。ヒーロー科での授業や、クラスメートはどんな人がいてほしいか。他には、互いの趣味や好きなものとか。他愛もないことを話した。

 

 因みに俺と透はA組で他の3人はB組らしい。3人は俺と別のクラスになることをとても残念がっていた。俺も知り合いとクラスが別になるのは寂しいが……別に永久の別れという訳ではない。同じ学び舎(場所)に通うのだから、会える機会はいくらでもある。そう思えば、自然と元気が出てきた。

 

 少しでも親交を深められた。それは良かったのだが……。

 

 

 

 

 

 

「……ま、迷ったぁぁぁ!!!」

 

 頭を抱えながら鉄哲が叫ぶ。彼の叫び通り、俺達はとてつもなく広い雄英の校舎の中で迷ってしまっていた。

 

 というのも、憧れの場所に入学出来たという嬉しさからか、鉄哲が探検家も驚きな勢いで校舎中をズンズンと歩き回ってしまったのだ。何とも、真っ直ぐな性根の鉄哲らしい猪突猛進っぷり。俺の脳裏に猪の被り物をしていた炭治郎の同期であった、嘴平伊之助の顔が(よぎ)った。

 

「もう、あの馬鹿……」

 

「猪突猛進にも程があるノコ……」

 

 呆れて顔を覆う拳藤と苦笑する小森。そのテンションには見覚えがある。中学生辺りの年齢の少女にありがちな、同い年の男子の幼すぎる言動に呆れる他ないという時のあれだ。

 

「まあまあ!雄英の校舎をあちこち見れたし、ちょっと得したって思おうよ。それに、こういうことがあってこそ早く来た甲斐があったってものじゃない?」

 

 ニパッという擬音が飛び出るほどに笑う透。彼女のポジティブさを見習いたいと思いつつ、俺も念の為に早く来て正解だったと心の底から思った。

 

「……どうしよっか」

 

「集合完了の9時まではまだ時間があるが……」

 

 自由奔放な弟を呆れながらも見守るような表情の拳藤に対し、俺は腕時計を見ながら返す。

 

 今の時刻は8時。7時45分くらいに雄英に到着したはず。どうやら、15分間もここを彷徨っていたようだ。

 

 ともかく、このまま歩き続けてもキリがないのは間違いない。先輩や先生方に尋ねでもしないと、ただ時間が過ぎ去るのを待つだけになる。

 

 一先ずは先輩や先生方を探す旨を伝えようとしたその時だった。

 

「よぉ、新入生達。さては……校舎が広過ぎて迷ってるってところだな?」

 

 俺達の背後。しかも、上の方から声が降りかかってきた。少なくとも俺は、とても聞き覚えのある声。

 

 ――()()()()、雄英に居たのか。

 

 俺は正体を疑うことなく振り向いた。

 

「え、宇髄さん!?どうしてここに!?」

 

「いやあ、雛鶴も迷っちまったらしくてな。さっき普通科の教室に案内してやったところなんだよ。もしかしたら、透も迷ってんじゃねえかなって思ってよ、ここまで来たって訳」

 

 俺を遥かに超えた身長。下ろした銀髪が太陽の光に照らされて虹色に輝いてすら見える。両耳の金色のピアス、左目の花火のような派手な化粧。赤い瞳の伊達男。見た目が多少変わっていても間違えるはずがない。

 

 宇髄だ。紛れもなく、元"音柱"の宇髄天元だ。俺の知る宇髄だ……!

 

 透の疑問に答えてから俺をチラリと見て、左目と左手をアピールしてニカッと笑う。

 

 「今度はちゃんとあるぜ、安心しろ」と言わんばかりの様子の怪我ひとつない宇髄の姿を見て、涙腺が緩みかけた。

 

「宇髄……!?あの宇髄天元!?ほ、本物だ!」

 

「しょ、初日からとんでもない先輩に会っちゃったノコ!」

 

「流石、元"音柱"の家系。初対面の人達をこんなに騒がせるなんて」

 

 涙が出ないようにと(こら)える一方、疑問を持った。拳藤が宇髄のことを知っているのは分かる。お館様と関わりのある透と知り合いな訳だし、先程の動作から前世のことを全部覚えているのは察したから、宇髄がお館様に仕えているのも自然。そこから煉獄家と関わりがあって、それを通じて拳藤とも……というのは考えられるから。

 

 ただ……赤の他人の鉄哲や小森が彼を知っている理由がよく分からない。

 

「……宇髄、さんは、それほどの有名人なのか?」

 

 さん付けにとてつもない違和感を覚えながら尋ねると……。

 

「と、冨岡!?知らないノコ!?」

 

「マ、マジかよ!?めちゃくちゃ有名人だぞ、この人!」

 

 小森と鉄哲に詰め寄られた。そこから、畳み掛けるように2人は続ける。

 

「宇髄天元、ヒーロー名は"祭神"!並のヒーローじゃ太刀打ち不可能な凶悪(ヴィラン)や、金とか名声目的で目の前の人を救けることもしないろくでなしのヒーロー達を罰する、ダークヒーロー的な家系の生まれの人なんだ!雄英体育祭じゃ、1()()()()2()()()()()()()()()()()()()伝説の男なんだぜ!?」

 

「それにそれに、1年の時に仮免を取得して2年でプロヒーロー免許取得!学業を兼ねながら、プロヒーローとしても絶賛活躍中ノコ!家系の中でも唯一メディア露出を(いと)わない人で、その指揮能力やオールマイトを彷彿とさせる笑顔、ド派手な啖呵は知らない人がいないくらいなんだよ!今や、産屋敷一族の方が設立した事務所で黒死牟を筆頭に活躍するヒーローとして多くの人に認められてるの!」

 

 そこまで言い終え、2人揃って肩で息をしていた。余程興奮していたようだ。……それにしても、宇髄がメディアに取り上げられる程の有名人だったとは。現在進行形でプロヒーローにもなっているらしいし、文字通り先輩という訳か。

 

 一先ず、耳郎の言っていた先輩は宇髄で間違いないだろう。ムフフ、俺の予想通りだったな。

 

「……あれ?その様子だと、冨岡ってさ……雄英体育祭見たことない?」

 

 拳藤が尋ねてくる。

 

「……ない」

 

 俺が屈託なく答えると――

 

「「「えええええっ!?」」」

 

 宇髄と透を除いた3人の叫びがこだました。……そんなに驚くことなんだろうか?正直、その重要性が分からない。だが、これだけは言える。

 

「小さい頃から、家族や友の為に強くなることを重視して鍛錬ばかりしてきたからな。テレビを見るにしても必要最低限だった。天気予報とかニュースとか……。それに、マスメディアには良い印象を持ってないから」

 

 地面を見下ろすように目線を移動させながら思い出す。2歳頃から続けてきた、結果的には鍛錬に繋がることばかりに夢中になった日々を。何ヶ月もの間、ウォータホースや父の殉職を伝えるニュースが報道されていたことを。

 

 結局、市民に最も必要でまともな情報を発信してくれるマスメディアなど、ごく一部しかないんだ。金になりそうなネタを見つければ、すぐさまそれ目当てに突き進む。鼠を追いかけ回す猫のようにそれ一つに必死になる。本当に必要な情報が他にもあるだろうに。

 それを知って以来、元からなかった彼らへの興味は更に失せ、彼らへの信頼も消え失せた。

 

 故に雄英体育祭を見たこともない。強いて言えば、ヒーローオタクな緑谷から話を聞いたくらい。

 

「……義勇君らしいですね」

 

「ああ。全く変わりなさそうで安心したぜ」

 

 ふと顔を上げてみれば、顔を見合わせて苦笑する透と宇髄の姿があった。

 

 そして、ハッとしたような顔の拳藤、鉄哲、小森の姿も。

 

「……どうした?」 

 

「いや……ごめんな。辛いこと思い出させたみたいで」

 

「拳藤は悪くないノコ。元々、私が持ち出しちゃった話だし……。メンゴね、冨岡」

 

「俺も……ごめん!似てるとは思ったけど、そういうことだったんだな……」

 

 尋ねてみると、3人はどこか申し訳なさそうな顔をする。その瞬間、彼らが俺の父のことを思い出したのだとなんとなく理解した。

 

「悪気はないのは分かってる。拳藤も鉄哲も小森も……単なるネタとして父さんの死を報道したマスコミとは違う。だから、大丈夫」

 

 勿論、悪気がないのは承知の上だ。だから、俺はすんなり彼らを許せる。

 

 ……辺りに沈黙が流れた。こういう時は妙に気まずくなる。そんな沈黙を破ったのは宇髄だった。

 

「おいおい、新入生。入学初日から地味にシケた面してんなよ。気持ちは分かるけどな……本人が大丈夫だって言ってんだから、気にしすぎんなよ。お前らが善人だって証拠だが、気が滅入っちまうぜ?気持ちが分かるからこそ、ヒーローは笑ってなきゃなんねえってもんだ!ほれほれ、行くぞ」

 

 明るく振る舞い、俺達を先導せんと歩き出す宇髄。その背中は……''音柱''であった頃と何一つ変わりない。

 

 その背中に微笑みつつ、俺は後ろを振り返って言った。

 

「行こう。宇髄は歩くのがとても速い。ぼーっとしてると置いていかれるぞ」

 

「そうだね……って、もうあんな遠くにいるだけど!?背中見えなくなっちゃうよ!ほら、皆も行こう!」

 

「うわっ、本当だ!鉄哲、小森、行くよ!」

 

「お、おう!」

 

「さ、3人も歩くの速いノコ!待ってぇ〜!」

 

 拳藤達も元気を取り戻したことに安堵しつつ、全員で慌てて宇髄の背中を追った。初日からこれまでにないくらいドタバタしている充実感に、思わず頬が緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇髄について行き、校舎を歩くこと数分。A組の教室に無事辿り着いた俺達。B組の拳藤、小森、鉄哲、それとここまで連れてきてくれた宇髄と別れ、透と並んで教室の巨大なドアを見上げていた。

 

「はあ……ドアもでっかいね……」

 

「異形型にも対応したサイズってところか。バリアフリーだな」

 

 ざっと見積もっても、俺2人分くらいはある。こうまでドアを大きくしなければ生活に支障が出る者がいると思うと、人類の進化をしみじみと感じる。生物の進化を突き詰める学者達でも、こうなることは予想出来なかっただろう。

 

 「いざ、参らん!」と武将のような不思議なテンションの透がガラッと音を立てながら、勢いよく教室のドアを開ける。その音に、既に教室にいた3人が反応してこちらを向いた。

 

 1人は八百万。もう1人は、右半分が白髪、左半分が赤髪の派手で縁起のいい髪色が特徴的なショートヘアーの少年。更にもう1人は……どこか見覚えのある眼鏡をしたツーブロックの少年だった。

 

 そうだ、眼鏡の彼は実技試験の概要説明で質問をしていた少年だ。

 

 そう思い出すも、それ以前に似た人を見たことがある気がして、モヤモヤした感覚があった。

 

「むむ、おはよう!」

 

 そんな彼が妙にカクカクした動きで挨拶を投げかけて歩み寄ってきた。

 

「おはよう」

 

「おはよう!」

 

 見知らぬ人に元気に挨拶。当たり前のようで素晴らしいことが出来る彼に感心しつつ、俺達も挨拶を返すと眼鏡の彼が手を差し出しながら名乗った。

 

「ぼっ……俺は、私立聡明中学出身の飯田天哉だ。ヒーローを目指す者同士、共に励もう!」

 

「おー!よろしく、飯田君!私は毛糸中学の葉隠透だよ!」

 

 透が自ら飯田の手を握り、姿が透明の彼女に飯田が驚く。そんなやりとりを横目に、俺は1人納得していた。

 

 成る程、()()……か。どうりで見たことがある訳だ。蔦子姉さんがあちこちのヒーロー事務所に事務所理のアルバイトに行っていた影響で俺も色々なヒーローと知り合った。勿論、それは目の前の少年の兄、飯田天晴さん――ターボヒーロー・インゲニウムも例外じゃない。

 

「同じく毛糸中学出身、冨岡義勇。冨岡蔦子の弟だ」

 

 俺も名乗り、飯田の手を握り返す。すると、飯田はハッとしたように目を見開いた。

 

「蔦子さんの!?そうか、そうだったのか……!だから似ていると思ったんだ。君のことは蔦子さんから色々聞いているよ!同じクラスになれて光栄だ!これからよろしく頼む、冨岡君!」

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 俺も微笑みながら握手を交わす。飯田の目がヒーローを見る幼子のようにキラキラと輝いているようにすら思えた。それが何とも微笑ましい。

 

 そうして自己紹介をした後、自分の席を確認してみると……俺の席は緑谷の隣だと分かった。周りにも知り合いが沢山なのは、素直に嬉しいな。

 

「冨岡さん、お久しぶりですわね」

 

「!八百万か。久しぶりだな」

 

 そして、自分の席に着いていると八百万が話しかけてきた。こうしてみると、直接会うのは本当に久しぶりだ。雄英の受験日以来か。

 

 春休みは緑谷と爆豪の特訓に集中していたものだから、八百万の鍛錬を見てやることが出来てなかったなと思い、俺はそれを謝罪した。だが、彼女は気にしていないと笑った。

 

「葉隠さんや、新しくお友達になった拳藤さんとご一緒に懸命に励みましたから。問題はありませんわ!それに、()()()()()()()()()()()()()()()にも指導を受けることが出来ましたの。期待していてくださいませ!特訓の成果は、近々お披露目しますわ!」

 

「楽しみにしてる」

 

 グッと拳を握り、ぷりぷりと可愛らしく張り切る彼女を見ながら思う。

 

 同じような呼吸。明らかに花の呼吸に違いないが……俺が絞り込める候補は2人。炭治郎の同期で、後に彼と結ばれた栗花落カナヲと……しのぶの姉、胡蝶カナエ。

 

 宇髄が雄英の3年生らしい上、あの事件の時に再会した煉獄は俺の一つ年下で前世通りの年齢差。炭治郎も俺と6歳差になるから、可能性が高いのは後者か。

 

 もしかしたら、しのぶも八百万の身近に……?

 

 そう考えていた時だった。

 

「あ、あの……冨岡さん。葉隠さんからお聞きしたのですが、冨岡さんは毛糸中学校で生徒会長をやられていたそうですね」

 

「ああ、間違いないが……」

 

 少し聞きにくそうにしながら聞いてきた八百万の声に振り向けば、彼女は微かに頬を染めて俺の方をチラチラと窺いながらもじもじとしているではないか。見たこともない彼女の様子に驚きつつ、続きに耳を傾けた。

 

「多くの方々のお悩みを聞いて、アドバイスなさったりしていたのだとか……。そ、それで、ですね……。恋に関するお悩み相談も可能、でしょうか……?

 

「……成る程。正直、大したアドバイスは出来そうもないが。それでも構わないか?」

 

「!お話を聞いていただけるだけでも凄くありがたいですわ!ありがとうございます!」

 

 中学の頃も、こんな風に恋愛相談を受けることがあった。やはり、年頃の少女は普通に生きていられれば誰しもが恋をするものなのだろうか。そんなことを思いつつ、お互いが落ち着いてから改めて話をしようと決めた。

 

 その後も、同じA組の生徒達が続々と集まってきた。耳郎、常闇、障子、芦戸、切島、爆豪、緑谷……。皆、元気そうでよかった。言うて、緑谷と爆豪とは最近まで共同生活を送っていたが。

 

 特に驚いたのは、切島の変わりっぷりだった。

 

「おおっ、冨岡と葉隠も。もう来てたんだな!」

 

「おはよう、切島君!……んん!?」

 

「どうしたんだ、その髪……」

 

 懐かしい明朗な声が耳に入って振り向けば……真っ赤な髪の切島がいた。しかも、受験の際に下ろしていたであろうその髪が鋭く逆立っているではないか。

 

「前までいかにも――」

 

 恐らく、透が続けようとした言葉は「地味で真面目そうな感じだったのに」だろうが、それが口に出されることはなかった。それ以前に切島が立てた人差し指を口元に当て、言わないでほしいという仕草をしたからだ。

 

 切島が小声で囁く。

 

「まあ……色々あってな。とにかく、地毛が黒で、今の俺が髪染めてんのは俺らだけの秘密にしてほしいんだよ。頼む、この通りだ!」

 

 何があったのか気にならない訳じゃないが……手を合わせて頭を下げ、懇願されては約束を破る訳にはいかないだろう。

 

 透と顔を見合わせ、頷く。

 

「そこまでお願いされたら仕方ないね。オッケー、もう何も追求しないよ!」

 

「俺達だけの秘密だな」

 

「おおっ、助かる!サンキュー!」

 

 入学初日からクラスメートとの秘密が出来た瞬間だった。自分達だけの知る秘密というのは、何とも青春している感じがする。秘密が出来たことに楽しげな芦戸と透を見ながらそう思った。

 

 そして、茶髪で麗らかな雰囲気の少女が緑谷と話をしているタイミングでふと気配を感じた。

 

 教室のドアの前。……相澤さんの気配だ。

 

 他にも何人か気配に気がついている者がいるらしく、教室のドアの方を凝視している。勿論、話をしている最中で硬直してしまった緑谷もその1人。

 

 当然、硬直した緑谷が気になって俺も顔を覗かせてみることにした。

 

 すると、黄色い寝袋にくるまった相澤さんの姿があるではないか。……成る程、黄色い芋虫のよう。硬直するのも無理はない。

 

「……お、おはようございます」

 

 その寝袋姿よりも彼の()()()()()()()に驚きつつ、先に声を掛けてみた。

 

「「オ、オハヨウゴザイマス」」

 

 すぐ隣にいる緑谷と少女も片言ながら挨拶をした。

 

「おはよう。……気配は極力殺していたが、何人かは気がついていたか。取り敢えず、冨岡。その珍しいものを見るかのような目をやめてくれ」

 

 相澤さんがぶっきらぼうに返しながら、寝袋を出て立ち上がる。

 

 申し訳ないが、そりゃあ珍しいものを見るような目をしたくなる。何せ、今の相澤さんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「お前の姉さんにやられたんだよ。俺の母親か何かかってんだ……」と独り言のように呟く彼を見つつ、内心で蔦子姉さんを褒め称えたのは内緒だ。

 

「ムフフ、何にせよ……これで相澤さんが不審者扱いされる心配はないな」

 

「校舎で寝袋に入って寝とる時点で不審者ちゃうかな……?」

 

「麗日さん、ざっくりいくな……!?思ってても言っちゃダメなやつだよ、それ……!」

 

 そんなやり取りをする俺達を横目に華麗にスルーし、相澤さんはA組の教室に足を踏み入れた。黄色い寝袋を片手にした上下黒一色の服をした男性。そんな彼を、他のクラスメート達が訝しげに見るのも無理はないだろう。

 

 相澤さんは、ぐるりと教室を見渡してから話し始めた。

 

「……全員いるな。俺は相澤消太。今日から君らの担任になる者だ。よろしくね」

 

 その瞬間、「この人が担任なのか!?」というクラスメート達の心の声が聞こえた気がした。初日から息ぴったりで仲良しだな、と場違いなことを考えていると――

 

「宇髄、いるんだろう?」

 

 目線だけを後方に向けつつ、相澤さんが言う。

 

「勿論居ますよ、相澤先生っと」

 

 その声に答え、ジャラジャラとしたアクセサリーを身につけているのに反して音も立てずに宇髄が姿を現した。

 

 教室は騒ついた。宇髄の容姿やその正体、突如として姿を現したその芸当に対する驚きや感動で。やはり、宇髄はとてつもない人気者らしい。流石だな。

 

「……段ボール箱?」

 

 ただ、妙だ。宇髄がその手に抱えているのは大きな段ボール箱。この後、入学式もあるはずなのに……。何故、そんなものが必要になるのだろう?

 

 そんなことを考えているうちに、相澤先生の指示で宇髄がそれを教卓に置いた。

 

「さてと、早速で悪いが――全員、体育服(これ)着てグラウンドに出ろ。更衣室とグラウンドの場所は宇髄に案内してもらえ」

 

 そして、相澤先生が箱の中を漁り、一着の体育服を取り出しながら宣言した。そのまま相澤先生は「時間は有限だ。無駄にするなよ」と言い残し、そそくさと教室を去ってしまった。

 

 数秒考え込み、俺は思い出した。A組の教室に辿り着くまでに宇髄から聞いた話を。

 

「ね、ねえ、義勇君……!宇髄さんが言ってたのって……」

 

「ああ」

 

 話しかけてきた透も同じことを思い出したようだった。

 

 ここに来る途中、宇髄が確かにこう言ったんだ。

 

「あ、そういや……お前ら1年の担任って、例年どっちかが必ずイレイザーヘッド――相澤消太さんだよな。がっかりしねえように前もって教えといてやる。あの人が担任になったなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……と。

 

「そうか、こういうことだったのか」

 

 宇髄の言葉に対する疑問が解決し、頭の中の靄が消え去って晴れやかになったかのような気分だ。

 

 こうなったら、腹を括る他あるまい。これから入学式のはずなのに、と困惑して騒つくクラスメート達。彼らを宇髄の手拍子が制した。

 

 段ボール箱から袋詰めにされた新品の体育服を取り出し、生徒達一人一人に手渡しながら続ける。

 

「ま、お前らが困惑すんのはよーく分かるぜ。俺だって地味にポカンとしたからな。けどな、緊急事態に対して普段通りに対応してこそヒーローってもんだ。周り見てみな、既に腹括ってる奴らが何人もいるぜ?ここで引き下がってたら、地味にカッコ(わり)ィったらありゃしねえ」

 

 そして、宇髄は白い歯を見せつけながらニカッと笑った。

 

「ま、心配すんな!軽い気持ちじゃなく、真正面から真剣に派手な気持ちで挑みさえすりゃあ、何も問題ねえよ。死にゃしねえ。そんじゃ、早いとこ行くぞ!イレイザーは時間に煩い。遅れたら、ネチネチと地味にどやされんぞ!この宇髄天元様について来い!」

 

 入学式を放り出さなければならないのは、少し残念だ。だが、相澤先生の選択がこうであるなら、何か意味があるはず。あの人は意味のないことはしない人。覚悟を決め、俺達は宇髄の背中を追うのだった。




うーむ、やっぱりごちゃごちゃ感があるのが否めない……。それに加えて、ここ最近忙しいのもあったりして何となく更新のモチベーションが下がっちゃってますね……。

アンケートの結果により、このまま続けていこうとは思います。ですが、ここから先は更新速度が落ちる可能性大です。楽しみにしてくださってる方々、本当に申し訳ありません。趣味でやってるとは言え、ある程度は評価とかUAとか感想とかがモチベに関わるタイプの人間なんだなと実感しております。

良かったら感想等々、よろしくお願いします。やっぱりクロスオーバー作品は、クロスオーバー先のキャラは基本1人に絞った方がやりやすいかな……と思う次第でした。
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