冨岡義勇英雄伝:再編集   作:白華虚

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第三話 今世の親友は女の子

 俺が無個性だと判明してから、四ヶ月と数日が経過した。

 今や季節は6月。5月5日頃から梅雨入りまでの期間が初夏に相当する訳だが、今がまさにそうだろう。昼くらいになると陽光から伝わる暑さが少し鬱陶しく感じてきてしまう。雨の時期も増えてきているし、梅雨入りも近いのだろうな。

 雨の時は雨の時で湿気が多く、心地の良くないじめじめした空気感があるのであまり好きではない。

 

 それに、雨の時だと室内でしか過ごせないのでな。やれることが限られる。いつも体力づくりの為に遊具をアスレチック代わりとしてパルクール(もど)きをやっている訳だが、雨に濡れる中でそれをやっては健康を損なう。

 その分は、元から設けられている大きな体育館代わりのホールで幼稚園の子供達とやる鬼ごっこ辺りで補う他ない。――俺が鬼にいる時には大きなハンデが設けられる為、丁度いい。例えば制限時間30秒とか、俺が捕まえる人数を制限するだとか。何度も本当は無個性ではないんじゃないかと疑われはしたが、その度に体質の影響だと返している――

 後は……それが無い日には、代わりに柔軟運動を行っている。自分の思うがままに体を動かし、より良いコンディションを引き出すには柔軟性も重要だ。それに、余計な怪我をしなくて済むようにもなるからな。

 因みに柔らかさはどれくらいかと言うと……。開脚した状態で床に腕をつけられるくらいだ。

 

 閑話休題。俺が無個性だと判明してからというものの、友達は逆に増えたように思う。

 

 俺の無個性が判明する以前から、保育園の先生方に隠れて(ヴィラン)向けだとかヒーローに向かないと言われがちな"個性"を持った子供達をいじめていたマセガキ軍団は、揃いも揃って俺を「兄貴」と慕うようになった。他の男の子達からも尊敬の目を向けられているような……気がする。――俺自身、自分に慕われるような器はないと思っているのは内緒だ。嬉しくない訳ではないのだがな――

 

 彼らにいじめられている際に庇った子供達ともアドバイスを通して仲良くなったし、更に言えば……最近では、女の子達が鍛錬をする俺に差し入れをくれるようになった。

 

 飴だったり、水だったり……色々な。夏が近づいている今のタイミングだと汗をかいて水分を消耗するし、水は特にありがたい。

 それと塩分も。だから、たまに塩飴なんかを持ってきてくれる心優しい子もいるのは感謝してもしきれない。

 熱中症を防ぐには、水分・塩分……両方の補給を欠かさないように心がけるのが大切だ。スポーツドリンクや経口補水液を飲むとお手軽だが、水やお茶に食塩を少量溶かして飲むのもいいという話も聞いたことがある。

 

 それはそうと……。考えてみれば、俺は皆に与えられてばかりだ。与えられてばかりではいけない。差し入れをくれる彼女達に対して、俺なりに何か返せればいいのだが……どうすればいいのだろう?俺はその辺には疎い自覚がある。姉さんや母さんに聞いてみるのが一番か。

 

 さて。余談はここまでにして、本題に入ろう。

 

 俺達、鬼殺隊の剣士……その中でも"柱"級の強力な剣士になれば、気配で鬼の存在や強さを感知・判別出来るのだが、それは人間においても例外じゃない。

 ――そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 

「……?」

 

 木の枝を木刀代わりにして水の呼吸の型を舞っている最中、俺は何者かの気配を感じ取った。おまけに俺へと向けられた視線も感じる。

 

 水の呼吸の型を順番に舞う中で、参ノ型の流流舞いの構えに入った時に、丁度何者かの気配を感じた俺は動きを止め、蛞蝓のようにして頬を伝う汗を拭った。

 

 気配を感じた方向を振り向けば誰もいない。しかし、気配はある。誰かがそこに居るのは確かなんだ。

 

「誰かいるのか?」

 

 俺が気配を感じた方向に向けて声をかけると……。

 

「なんで分かったの!?」

 

 鈴を転がしたかのような、何とも聞き心地が良く可愛らしい声が聞こえた。恐らくは女の子のものだと思われるが……やはりそこに姿はない。

 

 姿が無いながらも聞こえてきた声に俺が驚愕していると、彼女は「ちょっと待ってて!」という声と共にいそいそと服を着始めた。

 

 ……その中には、どう見ても下着らしきものもある訳で。誰かに言われずとも分かる。彼女は全裸で、何一つも身に纏っていなかったらしい……。

 多分、姿を隠せる類の"個性"の持ち主なのだろうが……姿が見えないとは言え、男の前で堂々と着替えるのは如何なものか……。

 

 男のいる前で平然と着替え始める彼女を見て、俺は唖然として肩を跳ねさせると同時に、顔が熱りを持つ感覚を覚えながら反射的に顔を彼女から逸らした。

 

 赤くした顔を逸らしたところから察したのだろう。

 

「あーっ!きがえてるところ、ちょっと見たでしょ!エッチ!」

 

 女の子(正確にはそう思われる声)は、俺に向けて揶揄(からか)うような物言いをしてくる。

 

「っ、ごめん……そんなつもりはなかった……」

 

 そんな彼女の物言いに、顔を赤くしたままながらも素直に謝って振り向く俺。

 

 振り向いたその瞬間……御伽噺に出てくる姫君のような美しい顔立ちの少女が目に入った。

 その艶やかな黒いロングヘアーは、まるでかぐや姫。顔立ちは、現実的に例えるなら世界三大美女の一人として謳われる楊貴妃。――彼女が楊貴妃の輪廻転生した姿だとか言われても何の違和感もない――俺に最も馴染みのある例えをするなら、しのぶの妖艶な美しさに甘露寺の純粋な可愛らしさを足して2で割った感じだろうか。

 垂れ目と吊り目の中間くらいの目には空色の瞳が宿る。今の天気は晴れ。雲一つない晴天。それが彼女の瞳の中に鏡写しになっているようだった。

 

「ふふ、いいよいいよ。けっきょくは見られてないし。おこってないよ!じょうだん!」

 

 美人の顔立ちながらも白い歯を見せて笑う彼女には、天真爛漫さを感じさせるギャップがある。

 

 彼女は、葉隠透と名乗った。"個性"は"透明化"。光の屈折率を操ることで透明になれるらしい。要は、光の屈折率を操ることが本命ということだな。互いに自己紹介し合った後、葉隠は俺が幼稚園に通っている時に毎日体を動かす理由を尋ねてきた。

 

 それに対し、俺は家族や友達……。身近なものを守る為だと答えた。

 

 俺の答えに対して葉隠がこう思うのも当然なことで――

 

「ぎゆう君は、ヒーローになりたいの?」

 

 小首を傾げ、空色の瞳をこちらに向けながら彼女は訊いた。

 

 俺は首を振る。

 

「俺は、葉隠の思うようなヒーローになりたい訳じゃない。俺がなりたいのは、家族や友達……身近なものにとっての()()()()()()()。讃えられる必要もない。目立って他人を救ける必要もない。俺は、誰かにとっての本当の救いとなれればいい」

 

 彼女の隣に腰を下ろしながら自分にとってのヒーロー像を話して彼女の方を振り仰ぐ。

 

 すると、彼女は空色のくりくりとした瞳を何度も瞬きしていた。

 

 ……4歳の子供には難しい話だろうな。結局、最初にこの話をした母もれっきとした大人だからこそ、俺の理想を理解出来た訳で。今の彼女にはまだ十分な理解力はないだろう。……もしや俺は、失礼なことを考えているのか?

 

 固まったままで瞬きを繰り返す彼女がどうにも可笑しく、俺は失笑しながら笑みを向けた。

 

「まだ葉隠には難しいか」

 

「しょうじき、よくわかんなかった!」

 

 悪びれもなく答える彼女。その素振りから、彼女が心の綺麗な少女であることが(うかが)えた。

 

 しかし。

 

「でもね、かくごがちがうのはよくわかった!」

 

 直後に彼女は美少女に相応しい微笑みを浮かべ、俺にペットボトル入りの水を手渡してきた。

 

 俺が葉隠からペットボトルを受け取り、口に流し込む一方。彼女は立ち上がった。

 

 立ち上がる彼女に視線を向けながら流し込んだ水は、微かな塩の風味がある。どうやら食塩を混ぜた水らしい。

 

「だからこそね、ぎゆう君。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思うの!」

 

 俺が口に流し込んだ水を飲み込むのを待ってから、葉隠は俺に顔を近づけてそう言った。それも俺の進路を提案する進路指導の教師さながらの様子で。

 

 俺が微かに目を見開いて固まる一方で、彼女は続けた。

 

「ともだちやかぞくをまもりたい……。ヒーローになるには、りっぱなりゆうだよ!それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしたらさ、ぎゆう君みたいにかっこいいヒーローがふえると思うの!」

 

 目の前に広がる空。それを包み込もうとするかのように腕を広げて彼女は言う。

 

「……かっこいいのか、俺は」

 

 ふと俺は呟いた。

 

「うん、かっこいいよ!ぎゆう君がいじめられている子をたすけてること、知ってるもん。だれかのためにつよくなろうとしてるのも、今知った!だれかのためにつよくなるって考え方ね、そうかんたんにできることじゃないと思う!」

 

 呟きに対して、葉隠は可憐に咲き誇る桜のような笑みを浮かべて答えた。そして、ペットボトルを持っていない、俺のもう片方の手を両手で握ってきた。

 

「ぎゆう君、一緒にヒーローになろう!わたしもね、ヒーローになりたいの!見えないところにいる人をたすけるヒーローに!」

 

 「(ヴィラン)をとりしまることもかぞくやともだちをまもることにつながるよ!それに、無個性でヒーローになれたら、無個性の人のきぼうにもなれる!」と付け加える彼女の目は、希望に満ち溢れていて眩しかった。

 

 (ヴィラン)を取り締まることで家族や友達を守る……。無個性の俺が職業のヒーローになって、無個性の人々の希望に……。そうか、そんな考え方もあったのか。

 

 葉隠の発想力に感心した後、俺はペットボトルの水をもう一口流し込んでから立ち上がった。

 

()()()()()()()()()……か。そうだな。本当のヒーローを目指すなら、必要なことか」

 

「それじゃあ……!」

 

 俺の言わんとすることを察したのか、葉隠は年相応に目を輝かせた。

 

「ああ、共に目指そう。ヒーローを」

 

「うん!」

 

 俺と葉隠は笑顔で握手を交わす。それと同時に、俺達の間に金属繊維で出来たかのような固く切れない絆が結ばれたような……気がした。

 

「そうだ、ぎゆう君。葉隠なんてよそよそしいよびかたじゃなくて、透ってよんで!」

 

「!分かった、透」

 

「それでよし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは、透も体力づくりの特訓に参加するようになった。

 

 ある時は鬼ごっこ、ある時はサッカー、ある時はアスレチックやパルクール感覚で遊具遊び。動ける時に動いて体力づくりを繰り返した。

 

 無論だが、透には"痣"を発現した状態の俺についていける程の身体能力はない。だから、俺の方が彼女の方に合わせるようにしている。

 一人で黙々ときついことをこなすのはあまりにもハード過ぎる。俺は慣れているからいいが、並みの人間がこなすのは無理と断言出来る。しかし、一人では無理だと思うことでも、友達と一緒ならば乗り越えられる気がするものだ。マラソンの時、友達に「一緒に走ろう」と誘うのは、そういった気持ちからもくるのかもしれないな。――そういう時に限って、誘った相手が途中から自分を置いていくというのもあるあるである――

 

 それでもなお、透にとって俺の行う体力づくりがハードであることに変わりはないだろうに……。彼女は必死になって俺に着いてきた。弱音を吐こうが、折れることは決してなかった。透がどれだけ本気でヒーローを目指す気であるのか。それがよく伝わる日々だった。

 

 彼女が俺と共に行う体力づくりに慣れてきたところで、休日には彼女を連れてアスレチックにも出向くようになった。――アスレチックとは言え、子供用のそれである――

 

 アスレチックに通うようになって1週間程が経過した頃。計五つあるアスレチックのうちの一つを終えたところで、肩で息をしながら透が尋ねてきた。

 

「ぎ、義勇君、速いねえ……。本当に無個性なの?」

 

 すっかり5歳の誕生日を迎えた影響で、ほんの少しだけ幼さが抜け始めた喋り方をする透。

 幼稚園児としての時間の終わりが近いことを自覚しながらも、俺は正真正銘の無個性だと答えた。

 

「何度も言っているけど、俺の身体能力は体質の――主に、右腕にある"痣"の影響だ。俺の体質は"痣者"と名付けられた体質らしくてな。生まれつき模様は違えど、これと同じような効果のある紋様を持っている者がそう定義されるって。俺の体の構造はちゃんと無個性の人のそれだし、"()()"()()()()"()()"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、"()"()()()()()()()。だから、"個性"とはまた違った体質だよ」

 

 そして、右腕に龍のようにして巻きつく"痣"を見せながら説明を加えた。

 「分かりやすく言うなら、寒がりとか暑がりとかいうタイプの体質と同じ」と例えを出すと、透も納得した様子で握り拳で掌をポンと叩く。

 

「成る程!特殊と言えば特殊だけど、"個性"とはまた違う訳か!でも、そっか……体質かあ。無個性でそんなに動けるのが羨ましいなあ……。私、"透明化"無しだと無個性同然だもん。義勇君みたいに動けるようになりたいな……」

 

 透は息を整えてから感心すると同時に、心底羨ましそうに言った。

 

 強くなる為の……他人を救ける為の力を渇望する透を見た俺は、彼女にいつかは"全集中の呼吸"を教えてあげたいと思った。

 

「……無個性が"個性"持ちや俺と同じくらい動けるようになる(すべ)。あるにはある」

 

「ほんと!?」

 

 俺が独り言のようにして言うと透は期待に満ちた目を向けて、その目を輝かせる。

 

 その術とは、"全集中の呼吸"のことだ。しかし、俺は痛い程に分かっている。それを会得するまでに歩む道の辛さが。血反吐を吐く程の鍛錬が必要になるということが。

 

 だから、俺は今一度手を差し伸べながら尋ねた。

 

「透。(すべ)を会得するまでには、血反吐を吐く程の……今以上にきつい鍛錬が必要になるぞ。その(すべ)の為ならば、俺は余計に手を抜けない。俺がスパルタ気質なのは透がよく分かっているはず。……それでも、やる気はあるか?望みは変わらないか?変わらないのなら、俺の手を取ってくれ」

 

 俺の問いに対し数秒間、透は何度も瞬きをした。

 

 とは言え、結論を出すまでには長い時間を要さなかったらしい。

 

「上等だよ」

 

 透は白い歯を見せながらニカッと笑って、左手で俺の差し出した右手を握った。

 出会った頃から変わらない天真爛漫な笑顔。それを浮かべたまま、彼女は言う。

 

「ここに来るまでにハードな道は辿ってきてるもん!やり遂げてみせるよ!」

 

「……ごめん」

 

 ……やはり、俺の鍛錬はきついのだろう。彼女の本気とも冗談ともつかない言い方になんだか申し訳なくなり、俺は謝った。

 

 謝る俺を目にすると、透は慌てたようにして手をブンブンと振りながら「自分で選んだ道だから気にしてない」と言う。

 

 本人がそう言うのならまだいいんだが……今度からはもう少し気にかけてやらないとな……。

 

「さてと……行こっか、義勇君!次のアスレチック!いつまでも休んでられないし、これからもっとハードになるなら今のうちに体力つけとかないと!」

 

「……ああ、そうだな」

 

 額の汗を拭いながら、透は笑みを浮かべた。真夏の日差しのような眩しい笑みを。

 

 本当に日差しに照らされているような気がして、日差しを遮るようにして額に手を添えた俺は、彼女に促されて次のアスレチックの元へと移動を開始した。透の心の強さは尊敬すべき点。俺も見習わなければ。

 

 "全集中の呼吸"……。今世は一度たりとも扱っていないんだが、俺の中には「自分なら使える」という確信がある。扱っていたのは前世のことだというのに。これこそ、体が覚えているというやつなんだろうか。

 

 何にせよ透にこれを教えるのなら、俺自身が使えるようになっておかねば示しがつかない。

 

 時間はまだまだある。教えるべき時が来るまで、俺自身も鍛え上げよう。そして、きちんと使えるようになっておかないとな。更に言えば、透の適正が水の呼吸以外の流派にある可能性も無きにしも非ず。教えられることなら、水の呼吸以外も教えるべきなんだろうが……俺に出来るんだろうか……?

 

 この世に"全集中の呼吸"の資料があるのなら話は別だが、ある訳がない……しな。

 

 とは言え、為せばなるとも言う。水の呼吸を教えれば、透もそこから我流の呼吸を生み出すかもしれない。

 

 気は早いかもしれんが、透の将来が楽しみだな。




最初に会う原作キャラ、親友枠の女の子も葉隠ちゃんに変更となりました!葉隠ちゃんと義勇さんとの絡み、これから楽しみにしていただければと思います。

では、また次回!

冨岡義勇英雄伝:再編集をこれからどうしてほしいですか?

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