Dolls' Girls Diary   作:あみだ

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Rainy day(前)

しとしとと雨が降り注ぐある日の事だった。

私ことM16A1は副官として、指揮官や後方幕僚ことカリーナと共に執務室での仕事に勤しんでいた。

雨が降り注ぐ音、ペンを走らせる音、キーボードの音。紙をめくる音。三者三様に黙々と目の前に積み重なった仕事の山を切り崩して行く。

 

一言で言えば指揮官は多忙だった。S09地区に配属され、離ればなれになってしまったAR小隊を回収してからは特に鉄血の動きも活性化してきている。

さらにグリフィンは民間軍事会社だ。ただ私達を指揮して戦果を勝ち取ればいいって物でもない。綿密な戦略計画に作戦計画の立案。収支、損耗の報告。細々した依頼の受領。そんなものがあれよあれよと舞い込んで積み重なった結果、文字通り山のように仕事が溜まってしまったと言うわけだ。

 

「……あっ」

 

その声に反応して顔を見上げてみたら、指揮官が卓上カレンダーを見ながらハッとした顔をしている。

 

「どうした?指揮官。カレンダーなんて見ても、残念ながら休みが増えたりはしないぜ?」

 

「あぁ、いや……しまったな、すっかり忘れてた……」

 

だいぶ焦ってるようだ。口許を手で覆いつつなにかぶつぶつと言っている。

珍しい。作戦中でもこんなに取り乱すことなんて滅多に無いのに。

事態がよく分からない私とカリーナは顔を見合わせ、首をかしげた。

 

「デートの約束でもすっぽかしちまったか?こんな良い女二人と仕事しといていい身分じゃないか」

 

果たしてどんな用事だろうか。好奇心かイタズラ心か、ニヤリと笑みを浮かべながらそんな事を言ってみる。これでデートだなんて言い出したら酒瓶でひっぱたいてやろう。

 

「そんな浮わついた話じゃねぇよ。ただ……外せない、大事な予定があったのをうっかり忘れてたんだ」

 

デートではない。その言葉に何でか安心を感じてしまった自分の事はとりあえずすみに追いやっておこう。

彼は執務室のカーテンを開け、雨が降りしきる外を見つめている。横顔は憂いを帯びたものだった。

 

「カリーナ、悪いが午後から少し外す。急ぎの案件は崩したから問題はないよな?」

 

「うぅん、確かに急ぎの書類は頂きましたけど……どうしても外せない用事、なのですか?」

 

書類の束を受け取りつつも不服そうなカリーナからの問いかけに指揮官は振り向かず、ゆっくりと頷いた。

 

「友人達にな、挨拶に行かなきゃならないんだ」

 

─────

 

友人、という単語が指揮官の口から出てきたのが驚きだった。

正確に言えば彼のプライベートの一部が露見されたことへの驚きだが。

 

彼は優秀な指揮官だ。この基地に所属する人形はもちろん、私や妹達、さらには404が信頼を寄せる程度に。

優秀故に彼はプライベートを見せたがらない。

データベースを漁っても過去の経歴はほとんどNot foundだ。昔は正規軍にいた。しかし何時から何時までなのか、どんな任務に就いていたのかがすっぽり抜け落ちている。

以前酒に誘ってその勢いで根掘り葉掘り聞いてやろうと思ったが見事にはぐらかされてしまった。酔ってる癖にのらりくらりと避けやがるんだあいつは。

「M16、護衛が欲しいんだが……頼めないか?勿論、礼はするぞ?飯くらいなら奢ってやるからさ」

 

故に、この言葉を聞いたとき私は柄にもなく小躍りしそうになった。ようやく彼の人間らしい一面が垣間見れるというものだ。

いっそその友人とやらにも彼のことを聞いてやろう。彼がこうなる前はどんな人間だったのか。色んな事を聞いてやるんだ。

出かける準備を終えて、集合場所に向かう途中でAR-15に出くわした。どこに行くのかと聞かれたから冗談で指揮官とデートするんだと伝えたら物凄い顔をしていたのはここだけの話にしておこう。

 

「悪い、待たせたな指揮か……ん?」

 

機嫌よく待ち合わせ場所である基地玄関前まで来たのだが、彼の服装は街に出かけるにしては随分と堅苦しいワイシャツに黒のネクタイ。そしてスラックス。

まるで、葬儀とか墓参りとか。そんな感じの装いだ。

 

「友人に会いに行く、にしてはお堅い服だな。どうしたんだ?」

 

「まあまあ、来てくれればわかるさ。M16は助手席に。俺が運転してく」

 

またはぐらかされた。やきもきとしつつ、車に乗り込む。

そういえば助手席側を手前に停めてたな。濡れないように気を使ってくれたのか。

外観もそうだったが中も相当綺麗になっている。手入れがよく行き届いているらしい。

 

「まさか指揮官とドライブデートだなんて、中々洒落てるじゃないか。んで、何処まで私を拐ってくれるんだい?」

 

「デートってお前なぁ……なんてこたぁ無ぇよ、市街地外れの祈念公園だ」

 

拐う訳じゃねぇよ、なんてため息混じりに否定する指揮官の姿に笑みが漏れる。からかってみると生来のものと思われる不器用さが垣間見れるのが彼の面白いところだ。

 

セルモーターが回り、エンジンが始動して唸りを上げる。出発の時間らしい。私がシートベルトをしめて腕組みするのを見た彼は、車を軽快に走らせ始めた。

隣を見れば執務の時とはうって変わって穏やかな顔付きでステアリングを握る指揮官が見える。運転する時間は仕事と違って心地がいいらしい。

 

「ずいぶんと楽しそうじゃないか」

 

だからつい、声をかけてしまう。

彼をもっと知りたかった。上司としての彼ではなく、一個人としての彼を。

 

「まぁな。前の職場……そうだな、お前は知ってるか。正規軍から飛び出してグリフィンに拾われる前もこうやって一人で車を走らせてたもんだ。最近は随分と忙しくなったからそうもいかないがね」

 

「なるほど、それがその楽しそうなにやけ面の理由か」

 

「え、そんなにだらしのない顔をしてたか?」

 

ステアリングからは手を離さないものの納得いかないように首をかしげてる彼を見てると笑いが込み上げてくる。

なるほど、この少し抜けてるのも根っからなのか。ちょっと安心したかもしれない。

 

「にしても、自分の車の助手席に誰か乗せる日が来るなんてなぁ」

「……え、もしかして……?」

「おう、お前さんが第一号。この車の初めての乗客って訳だ。」

 

意外も意外だった。友人が居る程度には社交性もあって基地でも──まぁ、人形からの、なんだが──それなりの人気もあるこの唐変木が。

事もあろうか初めて人を自分の車に乗せたなどと。しかも、護衛とはいえ私を誘ってだ。

柄にもなく顔が熱くなりそうなのをごまかす様に窓の外に目を向ける。生娘のような下手なごまかし方しかできなくなってる自分がなんとも恨めしい。

窓の外には荒れ果てた市街が広がっている。都市部はまだまだ人が賑わう街らしい様相を保っているが、郊外まで来ると戦火にさらされて無惨な様相のビルや民家が残っている。

中ではスラム街のように闇市や人身売買が横行し治安は最悪……らしい。又聞きの話だからいまいち信憑性には欠けるがこうして実際に目にしてしまうとそう思ってしまうのもしょうがない気がしている。

 

「あぁ、そうだ。ちょっと花屋に寄るぞ」

「花?おいおい女連れて女に会いに行くわけじゃないだろなぁ?それとも私にくれるのか?」

「バッカ、そうじゃねぇよ。祈念公園だぞ?献花の一つや二つするだろうさ」

 

……なるほど?こりゃあ昔の戦友と墓参りってところかな?

指揮官の車は予告通り花屋のすぐ目の前で停まった。

ここで待ってろと言われたので車の中から彼が花屋で買い物する姿を眺める。店員の女と談笑しながら花を買う姿を見てると、こう何故か思考にノイズが走るようなそんな気分になる。一体どうしちまったんだろうな、私は。

 

「悪い、待たせたM16……ん?どうした?」

「別に何でも」

 

つい、ぶっきらぼうに答えてしまった。

軽い自己嫌悪に陥りながらも指揮官に視線を向けると彼は困ったような笑みを浮かべつつハンドルを握っていた。

また、ゆっくり車が走り出す。車の中でそれ以上会話が弾むこともなく私はそっぽ向いて窓の外の流れゆく景色を眺めるだけだった。指揮官も何も言わない。そうすることがベストだとわかっているからろう。

そんな時間がしばらく続いていたが、遠くに目的地が見えてきた。

 

外は相変わらずしとしとと雨が降っている。さて、コイツの友人とやらがどんな顔なのかとくと拝ませてもらうとしよう。

 

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