TSロリエルフTSロリエルフTSロリエルフ   作:Do善処

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TSロリエルフvs人間/竜人/竜人とエルフの混血

 迷いの森には妖精さんがいる。

 

 そんな噂が囁かれ始めたのは、今から凡そ1000年前の事。あいや10年くらい前の事かもしれない。

 物語として語られるとき、最初はある冒険家の男性……の息子のラビット君が森で迷子になった所からになるだろう。出身村では猟師をしていたラビット君の父親は、初めて見つけた大物も大物な猪を前に大興奮。

 ラビット君をその場に待機させ、大猪を追いかけていってしまった。

 困ったのはラビット君だ。彼も狩りはしたことがあるとはいえ子供も子供。いつだって傍にいたお父さんがいなくなって、見知らぬ森で、怖くないはずもない。

 

 次第に涙がポロポロ出てきてしまったラビット君が蹲っていると、そんな彼に手を差し伸べた存在があった。

 

 緑のワンピース。金の髪。尖った耳。

 ラビット君と同じくらいの年齢の、可愛い可愛い女の子。

 君は誰? とラビット君が問えば、女の子は指を唇に当てて、うーんうーんと悩んでから言う。

 

 私は妖精さん、かな。

 

 それが、この物語の始まり。噂の始まりで、伝説の始まり。

 

 迷いの森の妖精さん。出会うと森から出してくれる。

 迷いの森の妖精さん。可愛い可愛い、妖精さん。

 

 

 

 

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「らしいんだわ」

 

 蜂蜜酒の瓶をカポっと開けて、ラッパ飲みをする少女。いや、年の頃は幼女と表現できる程だろうか。

 浅葱色のワンピースは光の加減によっては緑になったり青になったりを繰り返し、風で波打ちキラキラ光る。

 

「ネリエ……それ、何本目? 身体に悪いよ?」

「だぁって飲まなきゃ勿体ないだろ、献上品だぜ? いつも助けてくれてるお礼ってさ。その好意を無下にして酒を飾っとくなんて出来っこないよ」

「別に今日飲まなくてもいいじゃないか。明日でも明後日でも……」

「わかってないねぇ、宵越しの酒は持たねえ! それが酒飲みのメソッドだよ」

「バラッドじゃなくて?」

「そうとも言う」

 

 吐いた溜息は爽やかな風に抜けていく。

 穏やかな木々のせせらぎの中で、小さな切り株にちょこんと……ううん、大きく股を開いて座る彼女に、僕はもう一度溜息を吐いた。

 

「それで、さっき話してくれたの、『迷いの森の妖精さん』……ネリエの事なんだよね」

「らしいなぁ。確かにちびっこ外に出してやったのは覚えてるけど、んー、いや覚えてないわ。人違いじゃね? 人じゃないけど」

「エルフ、だっけ。今でも信じられないけど」

「おいおい、この耳が見えないのかぁ? と言いたいが、ここらにゃエルフいないもんな。まぁ安心しろよ、ラビット君曰く海を超えた向こうの大陸にゃあそれなりの数がいるらしいぞ。お前も旅をしろ旅。そうすりゃもっと変な種族にも会えらあよ」

「やっぱり人違いじゃないじゃないか」

「ん? んー、そうかもな!」

 

 ネリエ。ネリエ。

 エルフのネリエ。僕がこの迷いの森に迷い込んで出会った可愛い女の子。エルフらしく、尖った耳や人間とは明らかに違う風貌が、どこか神秘的なものを感じさせてくれる。でも大酒飲みでだらしがないから、小一時間でも接したら神秘的なものとかいうベールは簡単に拭い去られてしまうだろう。

 ネリエはこの森に一人で住んでいる。住んでいた、が正しいかもしれない。今は僕も住んでいるから。

 ああ、住んでいるというよりは、通い詰めている、が正しいかもしれない。そうなるとやっぱり一人なんだろう、ネリエは。何が正しいのかはわからないけど、これは事実だと思う。

 

「それで?」

「それで、って?」

「伝説に語られる『迷いの森の妖精さん』に出会った感想だよ、あるだろ?」

「いや僕、その伝説知らなかったし……」

「かーっ、これだから若者は! ちょいと前に来た女の子は目を輝かせて"本物ですの!?"とか言ってくれたのによぉ」

「それ、いつの話?」

「んー、一昨日とか?」

「一昨日は一日中一緒にいたじゃないか……」

「じゃあ四日目くらいだよ。もう、どうでもいいじゃないか、いつとか、今とか。細かい細かい!」

「そうかなぁ」

 

 この森には暦を知る術が存在しないから、忘れてしまうのも無理はないと思う。

 けど、多分だけど、ネリエの言う"ちょいと前"は数十年か数百年前の事なんだ。多分ね。

 彼女はずっと、ずっとずっと、本当にずっと……長い間を生きている。エルフとはそういうものだって常識は僕にもあるけど、それはファンタジーの話。彼女言う通り僕がものを知らないというのも勿論あると思うけど、彼女は御伽噺そのものなエルフで、ずっとずっと生きている。すっごくファンタジーな存在なんだ。

 

 見た目は小さな女の子なのにね。

 

「あ、そろそろ時間だ。僕、帰らなきゃ」

「おう。また送ってってやるよ、出口まで」

 

 からん、ころん。蜂蜜酒の瓶をその辺に放り投げて、ひょこっと立ち上がる少女。立った所で僕の背に追いつくわけもなく、けれど堂々と歩きだす姿に自然と嘆息してしまう。

 彼女はこの森の王様なのだ。支配しているわけじゃないし、何か権力があるわけでもないけど、なんだろう、彼女は"森に好かれている"……といえばいいのかな。ファンタジーだけど。

 この迷いの森は彼女が大好きだ。だから彼女がこの森で迷う事は無い。そんな彼女についていけば、絶対に迷うことが無い。

 

 うーん、ファンタジーだなぁ。

 

「おぅい、時間ないんじゃないのか?」

「あ、今行くよ、ネリエ!」

 

 追いかける。追い縋る。森を歩いていく彼女の背を、手を伸ばして。

 

 ──これが、僕と彼女の、大事な大事な、小さな記憶。

 

 

 

 

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「それではこれにて、議会を終了いたします。……マクダイン議長……議長?」

「ん? あぁ、すまない。一瞬だけ、ぼうっとしていたようだ」

「大丈夫ですか? 最近体調が優れないとかで、マスコミに抜かれていましたけど……」

「心配は無いさ。なんせ、とてもいい夢を見ることが出来た。久しぶりに向かいたい場所が出来たよ」

「はあ。ええと、それでは私はこれで、失礼いたします」

 

 白く伸びた髭を撫でる。随分と、長い時間……否、短い時間だけ眠っていたらしい。

 議題のつまらなさはともかくとして、どうしてこんな小さな思い出が浮きあがったのかを考える。

 そうしてポンと手を打てば、その手に一つ影が差した。

 

「マクダイン議長。お初にお目にかかりますわ」

「おぉ、君は……」

「御機嫌よう。海の向こうで男爵位を頂いております、ダウィンスウィールと申します」

 

 優雅なカーテシーはまさに"サマになっている"という言葉がしっくりくる初老の女性。皺の刻まれた頬は柔らかい笑みを浮かべ、その瞳は深い森のような思慮を感じさせてくれる。

 議会は滞りなく終わったように思うけれど、何用だろうか。

 

「ええ、とっても個人的なお話ですわ」

「聞こうじゃないか」

「ありがとうございます。それで、議長、『迷いの森の妖精さん』という御伽噺を、知っていて?」

「勿論だ。僕にとっては、とても大事な物語だよ」

「ああ、やはり。これは私にとっても大事な物語なのですわ」

 

 これだ。

 この口調だ。僕が彼女を思い出した、その理由。

 あの時の口真似が、目の前の彼女にそっくりで。

 

「明日、あの森へご一緒しませんこと?」

「じゃあ、君が」

「ええ、ネリエに会いに行くのですわ」

 

 上品に笑う彼女に、自然と僕も笑みが零れた。

 

 

 

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「ってこともあったらしいんだよ」

「マクダインとダウィンスウィールって初代国王と王妃じゃん。ありえねー」

「んー、そう思うよなぁ」

 

 見た目は良いのに、胡坐かいて被るように酒を飲む幼女。ソウイウ商人に売ったら一生遊んで暮らせそうな上玉だけど、ちょいと手を出すには危なすぎる。なんで上質な酒のおこぼれを狙ってこうしてくだらん昔話に付き合ってるわけだが。

 

「一応聞くけど、その後会ったワケ?」

「会ったよ。でも見た目変わりすぎてて名乗られるまで誰かわかんねーの。人間の見た目変わるの速すぎだろ」

「あぁ、10年そこいらでガラっと変わるよな、アイツら」

「たかだか60年で変わりすぎだよなぁ。ダウィンスウィールの方なんかハーフエルフだってのに」

「いや60年は変わるだろ」

「お前に会ってからそこそこ経つけど、見た目変わってねーじゃん?」

「世辞なんか送るなよ、むず痒いだろ」

「ん? んー、竜人の見た目はわかんねーって話なんだけど、まあいいか!」

 

 明らかに体躯を超えた量を飲み続ける少女。蜂蜜酒が多めだが、度数の強い酒もちらほら見える。が、特に酔っ払った様子は無いし、なんなら素面が酔っ払ってるようなもんだから変化が分かりづらい。強いて言うならダル絡みしてくる時は多少酒の入ってる時だが、まぁこれも素面でもしてくるからやっぱりわからねぇな。

 

 コイツと初めて会ってから100年と少し。

 今は盗賊稼業を辞めて、この森で採れるらしい果実の"お土産"や献上品の幾つかを売り叩いて生活する毎日。盗賊の時のような支配感や達成感は無いが、気楽さはこっちのがとんと上だ。ほぼ遊んでるようなもんだしな。

 

「そういやよ、ちょいと連れが出来てな。ネリエに会ってみたいらしいんだが、連れてきていいか?」

「んー? んー。来れるなら、いいぞ」

「来れるなら?」

「お前さんは迷ってここに来ただろ? ありゃ迷わされてるからなんだ。それこそマクダインが言ってたんだけどな、この森は入ってきたヤツを迷わせるらしい。で、ここに辿り着けるかどうかはソイツの心持次第とかなんとか。悪意があったり害意があったりすると、ここに辿り着く事すらできずに永遠森の中を彷徨うらしいぜ」

「……俺の連れだ。大丈夫さ」

「おう、楽しみにしてるよ」

 

 もう一瓶、酒の蓋が開けられる。

 カラカラと笑いながら酒を飲む彼女に、俺はどこか恐怖を覚えていた。

 

 

 

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「──何か、言い残す事はあるか」

「ない」

 

 即答する。

 して、笑う。

 

「大罪人ケルメス。その妻、リファラ。罪状は──」

 

 笑う。笑う。

 罪状を読み上げる声に負けないくらい、大きく大きく笑う。

 

 あの日俺は、諦めた。ネリエに会う事を諦めた。迷わされたからだ。俺にそんなつもりは全くなかったが、リファラはネリエを捕まえて売り飛ばすつもりだったらしい。馬鹿な女だが、俺が惚れた女だ。なら仕方ない、その道を貫くしかないだろう。

 リファラがネリエを捕まえようとしたのは、金が欲しかったからだ。だがその先に目的があった。

 戦に敗け、統合された旧国の復興──それに伴う、国家転覆。

 そのために資金が必要で、そのためにネリエを捕らえようとした。

 

 なら、俺には取れる手段が沢山ある。

 この森には勝てない。肌でわかるんだ、手を出しちゃいけないって。ネリエに初めて会った時に本能が避けた。だからネリエには手を出さない。けど、リファラを全力で支援する。

 盗賊稼業に戻って、あらゆる資金繰りをやって、戦力を集めて、この国をひっくり返す。

 惚れた女にゃ尽くすんだ。だから、最後だって笑え。

 

「降ろせ!」

 

 金擦れの音が頭上で響く。いや、首上か。

 今から俺の首は断ち切られるのだから。

 

「じゃあな!」

 

 竜の喉で叫ぶは、あの森の方角へ。

 目的へ向かって迷う事をしなかった俺は、あの森へ入ってもすぐに追い出されてしまった。迷って迷って、迷い続ける事さえ出来ずに外へ辿り着いてしまうのだ。本当に、ファンタジーな森だ。

 そこへ届けるように叫ぶ。

 今も一人で暮らす、エルフの少女。エルフの平均寿命は数百年そこらの癖に、恐らく千も二千も生きているあの少女に向けて、別れの言葉を。

 

「楽しかったぜ!」

 

 ぶつん、と。

 世界が、断ち切られた。

 

 

 

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「へぇ、アイツ、笑って死んだのか」

 

 酒をちびちびとやりながらそう呟く少女は、可愛らしい童女の姿をしている。

 私が話した彼らの最期に何を感じているのか、少しだけ口角を上げているように見えた。

 

「笑いますか」

「笑うさ。楽な道を知ってたんだぜ、アイツ。選べただろうに、選ばなかったんだ。笑うしかないだろよ」

「……」

「おいおい、泣きそうな顔するなよ。お前の父親はすげぇ奴だって言ってるんだぜ? 母親の方は知んねぇけどよ」

 

 自分より遥かに年下の少女に頭を撫でられる。自身に流れる龍の血は、顔に現れる事がなかった。変わりに翼と手足にそれは現れ、私は孤児として、迫害を受けた。

 だから、その。

 幼子だけど……嬉しくは、あった。

 

「今では父も物語として語られています。……騎士アーリースに討たれる悪龍ケルメスとして、ですが」

「へえ。いつかその本持ってきてくれよ、読んでみてえや」

「失礼ですが、字が読めるのですか?」

「んー? んー。読めねえな、読み聞かせてくれ!」

「父親が殺される物語を娘に読ませるのは……」

「父親の雄姿が描かれた物語だろうよ。それに、そう思うんならお前が書けばいい。新しい見方の、ケルメスを主人公にした物語を」

 

 童女が微笑む。コトン、と置かれた酒瓶は、半分が残っている。

 

「飲めよ。酔う楽しみを覚えて、上がった血のままに文字を書け。そんで文字を書く楽しみを覚えろ。ゼッタイ、その方が楽しいぜ」

「『迷いの森の妖精さん』も新訳で『迷いの森の酒飲みエルフ』にしてもいいですか?」

「おう! だから、待ってるよ」

 

 罪人が迷えば、永遠に出る事の出来ない森。

 大罪人の血を引く私が入れば、誰の目にも止まることなく死ぬことが出来ると思っていたこの森で、まさか妖精さんに出会うとは思ってもみなかった。

 エルフの少女。とはいえ、私とて竜人とエルフのハーフだ。その私からして、彼女はひどく特別な存在に感じる。

 

 もしかしたら、伝説のハイエルフ、なのかもしれない。

 ……その辺りも物語に組み込むことにしよう。本人の許可も出たわけだし。

 

 あーあ。生の目的が出来てしまったなぁ。

 

 

 

 /

 

 

 

「あ、先生!」

「あら、お久しぶりですね」

「はい! 先生は……執筆中ですか?」

「書籍としては出しませんが、そうですね、思い出を認めています」

「思い出?」

 

 昔の教え子に覗き込まれる、手紙にも似た物語。

 死のうとしていた混血の少女が出会う、『迷いの森の妖精さん』。金の髪と浅葱色のワンピース。どこか男勝りな言葉遣いと可愛らしい幼女の見た目。

 そして何より、血迷っていた私に道を指し示してくれた、大恩ある妖精さん。

 

「もしかしてこれ、『廃城のリアラ』に出てくる、セルメスを導いたエルフですか?」

「あら、わかりますか?」

「はい! 明言はされてませんけど、なんとなく雰囲気がそっくりというか、先生がこのキャラクターに会って、会話をした事があるんじゃないかってくらい……空気が伝わってきます!」

 

 鋭い教え子だ。

 世間にはフィクションとして知られている『廃城のリアラ』は、私の両親を題材にしたほぼノンフィクションのファンタジー小説。滅びた国の王女リアラが青年セルメスに出会い、故国を取り戻さんとするお話。

 その話の最中に現れる金の髪のエルフが、善悪に迷っていたセルメスを導き、"自身の信じる道"へ導いてくれる。そんな役割を持っている。

 

「会ってみますか?」

「え? ホントにいるんですか?」

「ふふ、冗談です。それに、貴女では会えないと思いますよ」

「えー! どういうことですか! 私は純粋じゃないって事ですか?」

「純粋? あぁ、妖精は純粋無垢な子供にしか姿を現さない、という迷信ですか。うーん、どうでしょう。貴女はまだ子供かもしれませんし、純粋無垢かもしれませんが……」

「ちょ、もう成人してますよ!?」

 

 でも、貴女は迷っていませんから。

 笑う。

 笑う。いつでも笑えと、父が言っていた。だって楽しい事をしているのだから、笑えと。

 

「貴女はそのままでいてね」

「えー!」

 

 願わくは、この子の道に、影の差さぬ事を。

 

 

 

 /

 

 

 

 酒瓶を置く。

 口元を拭い、空を見る。月が綺麗ですね。

 

 いやぁ、いやはや、いやぁいやぁ。

 

「次は誰が来るかねぇ」

 

 童女の身体になって、早一万年くらい。

 未だ飽きず──楽しいぞ、この世界。

 

「何より酒が美味いしなぁ」

 

 新しい酒瓶を開けて、一息。

 ざわめき始める森に、上がる口角を抑えられなかった。

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