原作後の世界だろうと、別に事件が起きないとは言ってない。 作:ぴんころ
『今日は、世界が今の形になってからちょうど一年。異世界と呼ばれるものの発覚、そして融合に伴い、この一年で我々の生活はいったいどのような変化がもたらされたのでしょうか?』
皆が一緒にいられる世界。
今となっては地球という名前では呼ばれなくなったその世界で、テレビから流れるニュースで少女はふと思い出す。
「ああ、そういえば。今日で一年だったのね」
呟く少女は、不愉快であると全身で表しながら、朝食の用意の片手間に
少女の尻尾がチャンネルを変えるが、流れてくるニュースの内容に変化はない。
異世界との融合、それに伴う生活様式の変化。細かな内容は違えど、ニュースの大枠としては『異世界がもたらした影響について』だ。
そんなもの、市井の住民だってよく知っているだろうと少女はテレビに紹介される”有識者”たちを嘲笑う。
「ま、たかだか一年で語れるようになることになんてない、か」
紹介される内容は、彼女に言わせれば表層。
原理などにはまるで触れず、ただ起こった現象のみを口にしているだけの愚か者たち。
とは言え、それも仕方ないことだろう。
起きた現象は、すべて”マナ”と呼ばれるエネルギー資源を用いたもの。
そして、地球にはマナそのものが認知されておらず、異世界にはマナを用いて発展してきた歴史があった。
スタート地点にすらたどり着けていなかった地球人が、一年という短期間でいったい何を語れるになるというのか。
いい加減、中身のない会話ばかりしている自称有識者たちの声を聞くのも嫌になって来たのだろう。
少女がわずかに力を込めて、ぴしりと普通ならば聞こえない程度の音を立てながらテレビの電源を落とす。
「はぁ……」
直後、テレビの音が覆い隠していた、家の外で放たれる耳障りな騒音を類い稀なる聴力が捉え、少女の瞳がすうっと細まる。
どちらも不愉快なことに変わりはないが、当たり障りのない会話の方がマシだと少女の尻尾がリモコンへと素早く迸った。
「あ」
失敗した、と少女が悟ったのは手遅れになってから。
リモコンを掴み、電源を再度入れるはずだった第三の手足はその電子機器を掴むことなく終わる。
縮尺を見誤り、空を切ったわけではない。ただ、苛立ちから掴む動きに精彩さが欠けていただけだ。
だから、当然の帰結として、本来武器として扱われる龍尾は鞭のようにしなってリモコンを弾き、その威力を以て機器を構成する部品を散乱させる。
誰が見ても、このリモコンはもう使えないというだろう。
あまりにも無残な姿に、少女は小さく「あちゃー」と漏らす。
「どうしよ」
答えを返してくれる人などいない疑問が、当然のように虚空に溶ける。
言葉には感情が宿っているようには見えない。が、焦っていないのかと言われれば否定できる。
取り繕ったような無表情の上に浮かぶ汗が、その焦りの証拠だった。
ただ、リモコンを壊したというだけにしてはあまりにも大きな焦り。
「まずいわね」
というのも。
「これじゃ、完璧なんて名乗れないわ」
少女には自負があった。
己が完璧な
永遠神剣、意志を持つ武器。
契約を結んだ者に、マナを代価にすることで、上は一位、下は十位まである位階に応じた強大な力を与える、そんな超常の武器。
その機能の一部としてあるのが、戦場に立つ契約者のサポートするための機構、守護神獣。
彼女もまた、とある永遠神剣がその契約者の深層意識から読み取った形を反映して生み出された、超常の存在。
至らぬ主人を助ける、完璧な存在だという自負が少女には存在している。
闘争が始まる前、日常の中で主人の
闘争の最中にて、心をすり減らす主人の
どちらも等しく”闘争のサポート”であると定義し、それを完璧にこなせるという自負。
そういうわけなので、契約者の
普段はパーフェクトな彼女の美貌がわずかに歪む程度には焦燥があった。
「……あれ、してもらう? いや、でもさすがにこんなことでしてもらうのは……うーん」
この状況をリカバリーする手段はすぐに思いついた。
だが、永遠神剣の一部としての本能が、その手段に訴えるのはどうよ、と彼女を止めようとしている。
少女にとっては数時間にも等しく、けれど実際には一分もなかった葛藤を終えて、彼女は──
「よし、時間を戻してもらいましょう」
というわけでTake2。
主人が起きる前にダッシュで駆け出し、向かったのはとある神社。
そこにいる、主人の知り合いが持つ永遠神剣の力を借りることで時間を少しだけ巻き戻してもらった。
今度は間違えないように細心の注意を払いながら尻尾でリモコンを操作し、外からの
顔についたわずかな土を払い落とし、ニュースに視線を向ければ、どうやら住民に”異世界との融合の影響”を聞いてみた、とのこと。
「どうせ偏向報道でしょ」
ふん、と小さく鼻で笑いながら、けれど少女は視線を外さない。
もしも彼女の主人がこの光景を見ていたならば、”周囲の異世界人への感情如何で行動を変えようとしている”と判断して温かい目をしていたかもしれない。
そんな彼女の視線の先、ニュースの中でピックアップされるのはやはりというべきか、異世界、そして異世界人に対する強い排斥感情を持った人の意見ばかり。
『異世界人は人間ではない』
『彼らは怪物だ』
『駆除しなければ』
『そもそも、地球が異世界と融合するなんて異常事態、どう考えても異世界由来の何かじゃないと説明がつかない』
『異世界って素晴らしいな、ケモ耳まで実装されてるなんて』
『猫耳は至高』
『は? 犬耳の方がいいに決まってんだろ』
『犬耳は異世界にもいないんだよなぁ……やはり世界が猫耳を求めている』
『融合した世界にはなかっただけだし? 融合してない世界全体で見れば犬耳の方が多いから』
『
『は?』
流れてくるのは数々の罵倒。
「はー、やっぱ偏向報道ね」
これが偏向でないなら何が偏向だと呆れた様子を少女は見せる。
「時代は龍娘に決まってるでしょ」
犬、猫の何がいいのだと、龍の形質を宿した人型である守護神獣は告げる。
犬娘も、猫娘も、結局のところちょっと感情を尻尾の動きで表したり、耳や鼻がいいだけではないか。
龍娘であればその翼で空を飛ぶことも自由自在、愛玩にしかならない犬猫の尻尾とは違い敵をなぎ払い、大切なものを自分の手に宿る龍の爪で守ることだって可能なのだ。
ついでに龍なら神龍も龍神もいる。犬猫は犬神、猫神がスタンダードで、神犬とか神猫とか聞くことが少ない。そんな連中とは違って、どちらに神がついても結構な頻度で耳にするハイブリッドな生命体。
やっぱり時代は龍娘ね。確信を持って少女は深く頷く。
「あ」
そんなことを考えていたから、気がつくのが遅れてしまった。
今に至るまで気がつかなかった理由はとても単純。
雑音が入らないようにニュースの音を大きくしたことで、音を拾うことができず。
考え事を中断できるほどに嗅覚が鋭くなかったことで、匂いの変化を捉えることができなかったから。
何が起きたかといえば、料理の失敗。
原因はすぐにわかった。
戻してもらった時間が本当に微妙なレベルだったために、料理の最中に戻ってきてしまい、少女の感覚と料理時間の間にズレが発生してしまったから。
聴覚、あるいは嗅覚が非常に鋭い動物ならこんなことにはならなかったのだろうか。
そんな思考が頭をよぎり、少しだけ犬猫娘が羨ましく感じる龍娘だった。
「私は! 完璧なのよ!」
まさかまさかのTake3。
朝起きた時には完璧だった化けの皮がもうだいぶ剥がれていることは彼女自身気がついていない。
また神社に行ったところで、もう次はありませんよと笑顔で口にした少女に、龍娘は笑顔が本来威嚇を意味する動作であることを心の底から思い知った。
少女と、彼女に仕える犬娘の呆れた視線を受けながら土下座をして戻してもらった時間軸は、彼女が朝食の用意を始める前のこと。
一からやり直してしまえば調理時間にズレはない、と涙をこすりながら用意を始めた朝食。
三度目の正直で、ようやく何事もなく用意を終えて、少女は緊張から解き放たれホッと一息をつく。
そして、一息ついたことで、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。そのことを自覚する。
「……なーんで私がこんなに気を揉まなきゃならないのかしら?」
そんな疑問を口にしながらも、考えることもせずに、全く関係ないはずの契約者のせいねと断定した龍娘が向かうのは主人がいるであろう二階の寝室。
普段は朝食ができた頃に起きてくるのだが、今日は時間を戻したこともあってか起きてくる気配がない。
「起きてこないから仕方ないわね」
どこか嬉しそうに呟いた少女。全く関係ない主人への八つ当たりという仄暗い喜悦が、少女の頭部に生えた龍の角から、稲妻という形で漏れ始める。
雷に当てられたようにふわりと浮かんだ稲穂の如き髪。見るものに畏怖を与えるその光景は、彼女が”龍”であることの証明だろう。
雷鳴が少女の意に沿うように、生まれた端から腕へと移動し、その内側で増幅される様は、自然現象では決してありえぬ異界常識。
わずかに右腕の外側で弾けるレベルになった稲光を従えて、少女は階段を登り、一つの扉の前で立ち止まった。
こんこん、と稲妻なき左腕で小さくノックをしたけれど、内側からは反応がない。ならばこれは当然の権利だと少女は目の前の扉へと手を伸ばす。きぃ、と小さく軋むような音だけを立てて開いた扉。
「……ん?」
けれど、部屋の中には気配がない。布団の中にも人がいない。すん、と鼻を鳴らしてマナの匂いを嗅いでみるが、あるのは残り香のみ。
つまり、この部屋の中には主人はいない。ならばと思いもう一つ、現在使用されている部屋へと向かうが、そちらにも姿はない。
一体何が起きたのか。少女はその明晰な頭脳によって一瞬で理解に至り、幾度か頷く。
「あぁ、そういうことね」
なるほどなるほど、などと呟く少女の頭脳が導き出した回答は、置いていかれたということ。
戦いか、そうでないかは別として。置いていかれたという事実だけがこの場には存在している。
そうして、たっぷり数十秒。にこやかな笑みを浮かべた少女は──
「ふっざけんなぁぁぁぁっ!!!!」
一瞬で怒りが沸騰し、叫びとともに右腕の稲妻を解き放つ。
威力は極限まで控えめ。轟雷に残っているのは雷鳴落ちる激しい音と閃光のみ。これから先も住まう予定の家屋に一切の傷をつけるようなことはしない。
とはいえ、右腕から放たれたのは騒音と閃光。そんなことをすれば近隣住民からすれば迷惑だという苦情が大量に届くことだってありえる。
だがパーフェクトを自称するぱーふぇくとな神獣は、そのあたりの配慮はちゃんとできる偉い子なのだ。
主人はその辺り、ちゃんと褒めるべきであると思うのだが!? だが!?
なお、叫びの方で近隣住民から騒音として通報されたことは気にしないものとする。
では、そんな彼女の主人はというと──
自分に前世の記憶があると気がついた時、一つ前の人生で原作と呼んだ部分の物語に関わるチャンスは全て通り過ぎていた。
なにせ舞台は異世界である。それも複数の世界を股にかけて旅をしながら、元の世界に帰ろうとする話。
つまり、この『聖なるかな』の世界は、初動の異世界転移に出会わなければ一般人は基本的に合流することのできない物語。昨今トレンドの異世界転移に乗り切れなかったのだ、俺は。
いや、関わりたかったのかと言われれば全力で首を振る所存ではあるのだが。
だってそうだろう? この世界の大まかなあらすじは、破壊神という前世の記憶に悩む主人公が、その力を目的とするこれまた前世が神な連中のせいで学校ごと異世界に飛ばされる、というものだ。
戦場に立つことができるほとんどの主要人物が神々の転生者である中、ただの一般通過前世民間人に何ができるというのか。
それはそれとして、関わる機会すら与えられなかった、というのは物申したいところ。
あれだ。告白してないのに断られる、みたいなやつ。なんで告白してもないのに、と思い納得がいかず、なら、告白した後に断られるのならいいのかと言われたら、答えはNo以外の何物でもない。つまりはそういう気持ちなのだ。
まあ、何が言いたいのかというと。
「ドラゴンの捌き方なんぞ知らんわぁぁぁぁっ!」
今の俺に必要なのは、前世の知識がもたらす赤点回避術よりもドラゴンの美味しい食べ方である、ということである。
ネットで調べても出てくるわけがないので、仕方ないから自分で模索するしかない。というわけで手順その一。まずはドラゴンを狩ります。
『ドラゴンは食べるものじゃないですよ……?』
「知ってる! でも食べられないと決まったわけじゃないから!」
『え、ええっと、その……お腹壊しちゃダメですからねー!』
頭の中に響いた相棒の声に、返答しながら飛び降りたのはビルの屋上。小さな困惑を置き去りにしながら、何処と無く路地裏のような暗さを滲ませる街の中へと一息に飛び出す。狙いは、ビルの隙間を縫って飛行する龍。龍という名称なのに西洋のドラゴンみたいなずんぐりむっくりな
風の抵抗を受けながら手を回したのは形だけそれっぽく整えた腰元のホルスター。イメージが重要と言われ急拵えで仕上げたその鞘から、一気に
何もなかったはずの両の手中に黄金の粒子が集まり、固まることで現れた二丁の拳銃は、撃鉄も引き金も、全てが意匠以上の意味を持たない怪銃。
「食べるんだから鱗は剥いだ方がいいだろうけど……」
『まずはちゃんと倒してから、ですね』
手順その二以降はドラゴン狩りが終わってからの話だ。殺しきってから考えればいい。
虚空から現出した銃は、弾切れという概念は元あった場所に置いてきたのか無尽蔵にマナを収束させて生み出した弾丸を射出する。
龍の鱗はあらゆる攻撃を弾く、なんて聞いたことがあるけれど、それはあくまで常識の範囲内の武器の話。永遠神剣由来の生物ならば神剣使いとなんら変わりなどありはしない。永遠神剣であれば殺しきれるのだ。
それを証明するように、放った弾丸は一切の淀みなく龍の鱗を貫いて肉体を蹂躙する。響いたのは苦悶以外の何物でもない咆哮。
「翼は可食部位、でいいのか?」
『わからないならやめておきましょうよー』
何もわからない。俺は雰囲気でこの
今度からはちゃんと食べられる部位を調べてこないとダメだな。
まあ、そもそも調べてなかったのは、こいつが今回は敵ではない予定だったからなのだが。
とはいえ、都合がいい、というのは事実だ。こいつを殺していいのであれば、探し人をおびき寄せる餌になってくれるかもしれない。
悪いのはちゃんと管理していない依頼人で、そういう意味ではこのドラゴンは被害者。よし、自己弁護は終了。申し訳なさを感じないわけではないが、食事の発展に犠牲はつきものなのでお前も食材にしてやる。
どこが食べられるのかはわからないけれど。
「そこは、食って確かめればいいか」
まず、誰かが食べなければそこはわからないのだから。
そろそろ間近に迫ったドラゴンの背中。それを認識して、手の中の銃に追加でマナを流し込む。
弾としてではなく材料として流し込まれたことで武器に起きたのは形状変化。先端部に不思議素材を素にして機構が追加される。
つまりは、翼を切り落とすための刃物の構築。俗に銃剣と呼ばれる類の武器の完成である。
「はい、どーん!」
足に愛を込めて、龍の背に勢いよく
地面に叩き落とした龍が起き上がるよりも素早く、目の前にある翼を付け根から切り落とす。龍の叫びは大気を揺らすが、頓着する理由がない。もう一方もあっさりと切りとばす。
「じゃ、頭も斬り落とすか」
スーパーとかで頭付きの魚が並んでいると子供が恐怖を感じるとか聞いたことあるし。
ついでに、頭を落としてしまえば手順その一は自動的に完了。さすがに頭がないのに動けるならそれはドラゴンではなくゾンビかデュラハンだろう。
「うおっ」
そのつもりで駆け出せば、狙いすましたかのように龍が暴れる。背中という不安定な足場では踏ん張ることは難しく、半ば振り落とされるような形で宙に身を投げ出す。
偶然、龍の瞳と目があう。叡智を誇るはずの勇壮な守護者の瞳には、漲る殺意以外何の感情も見えない。
所詮は偶然の交錯。すぐに視界の端に追いやられた敵意の代わりに、今度は口元に充填された多量のマナ。
龍、口、エネルギー。ここまでくれば誰だって察する。
つまりは、ブレス。
ドラゴンという存在の代名詞。ビルによって編まれた十字路を満たし、コンクリートを溶かしながら迫る、超高温かつ不定形の災害。
「っ」
『大丈夫です、任せてください!』
「……じゃあ、任せる。調理に使うから適温にしてくれ」
それを前に一瞬怯んだが、声に任せて銃弾を切り替える。青一色の魔法陣が銃口の前に展開され、通った弾も青い外殻を纏う。
瞬間、弾丸が帯びたのは冷気。青の魔法陣が持つ氷の属性に染まり、絶対零度の力を宿した弾丸は触れたところから炎を凍らせ、そのまま砕いて直進を続ける。
激突。龍は仰け反り、炎をつたい口の中にまで侵食する氷へとさらなる炎を叩きつけ焼き尽くさんと躍起になった。
「青属性を使うと凍っちゃうかー」
『あぅ……』
対処できないとは思わなかったが、さすがにドラゴンブレスすらも簡単に消し飛ばせるとは思ってもなかったから少し驚いた。自分の永遠神剣がすごいことは理解しているけれど、どれくらいすごいのかは理解してなかったのだ。……今更ながら、そんな状況で実戦に送り出すとか、師匠はどういう考えなんだろう。
いや、まあ俺よりも細かい実力に関しては察しが良い師匠なので、勝てると判断はしているんだろうけど。
……負けてみたらどうなるかなぁ。
『ダメですからね!?』
「わかってるって、死にたくないからな」
『もうっ』
起死回生の咆哮を正面から打ち砕かれ、カウンターへの対処をどうにか終わらせながらも体勢を崩している守護者に、右手の銃口を向ける。
宿ったマナは雷へと姿を変えながら収束。発射の時を今か今かと待ちわびながら空気を焼く。
……さて、詠唱どんなんだったっけ?
『はーい。えっと、これですねー』
こういう痒い所に手が届く相棒で嬉しいと思う。
頭の中に流し込まれたカンペを、そんなことを考えながら読み上げる。
「神剣の主が命ずる」
魔法陣を展開。今度の色は白。光の属性。味方に
それらは全て、弾丸を構成するマナを燃料に発動するもの。もはや飛び立ち逃げることもできない龍が死出の道を作る魔法陣を捉え、魔法陣に殺せと命ずる俺を殺せば問題ないと咆哮しながら迫ってくる。
「マナよ、希望の灯火と変われ」
銃声。
解き放った弾丸が、魔法陣をくぐり抜ける。
一つ目。弾丸を構成するマナが消費され、代わりに起動した魔法陣から生み出される雷が弾頭にまとわりつく。
二つ目。マナが消え失せる。燃料を得て動き出した魔法陣が浄化の光を総身から発し、龍の肉体を焼く。
三つ目、四つ目、五つ目。ただのエネルギーの塊だったマナが完全に消失する頃には、永遠神剣が構築した魔法が複数、龍を殺すために束ねられて突撃している。
「グルァァァァァァッ!」
咆哮。けれどブレスは放たれない。
代わりに、先のブレスを潰されたダメージから未だ立ち直っていない龍は、己の腕を叩きつける。
巨大、かつ尋常ならざる身体能力の持ち主。そんな存在が癇癪を起こしたように腕を振るえば、それだけで災害と呼んでもいい。
まあ、それも人間相手の話なのだが。
相手が同規模のエネルギーなら、真正面から受け止めるのは阿呆でしかない。
「おー、いい感じに焼けてるなぁ。あれなら、あいつをおびき寄せる餌にもなるんじゃないか?」
『え、食べるんじゃないんですか?』
「いや、食べていいなら食べるけど……先に仕事終わらせないとダメじゃない?」
『あー……』
意識を集中させる。
周囲に何かおかしな気配が生まれていないか。感知能力を全開にして確かめる。
探し人は、腹ペコ魔人との異名を持っていた(wiki調べ)原作におけるラスボス。
……来た。
「死ね」
気配は背後。すぐさま振り向き視界に捉え撃ち抜く。抵抗をする暇は与えない。与えたらこっちが負ける。
撃ち抜いたのはほぼ全裸の痴女。ラスボスこと、永遠神剣第二位『赦し』の契約者イャガ。その分身。
「あと何体くらいいるんだろうなー」
『あとで聞いてみましょうか』
「だなぁ……」
イャガの分身を殺し尽くせ。それが与えられたお仕事。
この世界から追い出されたイャガ。そいつはこの世界に入るときに自分を細分化して入ったらしく、本体が追い出されようとその分身がまだ残っている。
龍を焼いて調理したのは趣味が三割、イャガをおびき寄せる餌としての役割が七割。
さて、とりあえず一人潰せたので、焼きたてのうちに龍を食ってしまおう。
そう思って振り向くと──
「あ……」
こんがりいい匂いを発している龍の死体が、黄金の粒子となって宙へと消え去っていく途中だった。
……なるほどなるほど。つまりはそういうことか。食おうと思うなら、殺した後即座にかぶりつけ、と。
殺してから調理するのも間に合いそうにない。つまり、生きた状態の龍をそのまま調理するのが正解。
Q.つまり?
「ふっざけんなぁぁぁぁっ!!!!」
A.イャガ絶対許さねえ。
なお、後で聞いた話から察するに、それを口にしたタイミングは家に置いてきた神獣様と同じタイミングだったらしい。