これは二話連続投稿の後編です。
もしも前編を読んでいないまま間違えてここに飛んできた方は前編への移動をよろしくお願いいたします。
「セシリア! 一体どういう事だ!?」
「あんたの従姉妹が一夏と決闘なんて、一体何があったらそんな事になるのよ!?」
「私だって聞きたいですわよ!?」
ここは第三アリーナ。箒と鈴が怒髪冠を衝くといわんばかりにセシリアに詰め寄って怒号を浴びせ、セシリアも泣き叫びそうな声色で言い返す。
「さあ始まりました! なんとイギリスからはるばるやってきて織斑君に決闘を申し込んだのは、一年一組のオルコットさんの従姉妹だという子、ジャクリーン・オルコットさん! 今回の試合の実況は私、新聞部二年生黛薫子がお送りします! え、なんであっさりアリーナ取って模擬戦にまで話が進んでいるのかって? 細かい事は気にしない!」
新聞部二年生──黛薫子の実況アナウンスに第三アリーナに集合した観客から歓声が上がり、カタパルトから射出されてアリーナへと飛び出した一夏は苦笑しながら、前方で飛翔するジャクリーンを見る。
決闘を申し込まれた後に有無を言わさず引っ張られたのでほとんど話せなかったが、どうにか教えてくれたセシリア曰く「機体名はブラッディ・ティアーズ。その名から分かる通りブルー・ティアーズの姉妹機」らしく、言われた通り全体的な造形はブルー・ティアーズによく似ているが、空のような青色のブルー・ティアーズとは違って色合いはまるで血のような赤色。背部にはブルー・ティアーズに搭載されたBT兵器ブルー・ティアーズと同じものだろう武装が広げた翼のように装備されている。
「よし。いつでもかかって来なよ」
「では遠慮なくいかせていただきますね」
雪片弐型を展開して一振りし、正眼に構えて準備完了という様子の一夏にジャクリーンもにこっと微笑む。
──BATTLE START!!!
直後、互いの目の前に試合開始を意味するウインドウが表示され、同じ意味を示すブザーが響いた。
と、思った瞬間ジャクリーンの両手に小型のマシンガンが展開。彼女はニヤァと笑って銃口を一夏の方に向けて引き金を引く。ガガガガガッと発砲音が連続して響いて銃弾の雨が一夏目掛けて降り注いだ。
「くっ!」
まさか試合開始直後から仕掛けてくると思わなかった一夏が弾雨を回避して上昇するとジャクリーンは左手に握っていたマシンガンを一夏目掛けて投擲、かと思うとそのマシンガン目掛けて右手のマシンガンを乱射し始める。
(なんだ……)
いきなりの奇行に一瞬目を奪われるが、直後気づく。彼女が投げたマシンガンには何かがくっついている。
丸っこく、まるでパイナップルを思わせるそれは──
「手榴弾!?」
何故マシンガンに手榴弾なんてくっつけてるんだ。そんな疑問を考える間もなく銃弾が着弾したことで起動したのか手榴弾が爆発。辺りに黒煙が立ち込める。
(いや、手榴弾じゃなくてスモーク弾かこれ?)
爆発にダメージを与えるほどのものはなく、むしろ煙をまき散らす方が主目的に見えるそれに一夏は困惑。
だが煙に紛れて接近してきたジャクリーンがIS用の短剣を手に斬りかかってきたのを見て反射的に雪片弐型を構えた。
「そこだ!!」
ジャクリーンの短剣捌きは素人に毛が生えた程度。接近戦に特化した白式を駆る一夏ならば隙を突くなど造作もなく、大振りで短剣を振り下ろしてくるジャクリーンのがら空きの胴を横薙ぎに一閃したその時、雪片弐型がすり抜ける。空振った、違う、文字通りジャクリーンの身体をすり抜けたのだ。そして同時にジャクリーンの姿が消える。
「なに!?」
「残念、こっち!」
「な──ぐあっ!?」
剣がすり抜け、しかも相手が消えるという光景に一夏が驚いて動きを止めた瞬間、後ろからジャクリーンの声が聞こえてきたかと思うと背中を切り裂かれたような鋭い痛みが走った。
(馬鹿な、たしかに目の前にいたはず──)
咄嗟に後ろに向けて剣を振るい、斬り込んできた相手を振るいのける。「ウフフフフ」と怪しい笑みを浮かべながら、その相手──ジャクリーンが後方退避した瞬間、腰部から広がるスカート状のアーマーが動く。砲塔、セシリアのブルー・ティアーズと比べれば幾分か小型のそれが展開され、一夏はブルー・ティアーズとの戦いを思い出したか咄嗟に後方に回避しようとする。
しかしその砲塔からまき散らされたのはまたもスモーク。だが回避しようとした一夏はそのせいでジャクリーンを追う判断と行動が遅れ、スモークで視界を遮られたこともあってあっという間に煙幕の中に姿を消したジャクリーンを取り逃してしまった。
(くそ! 何がなんだか分からないが、まずはこの煙幕の中から脱出しないと!)
目の前にいたジャクリーンを狙った剣が空振ったかと思うと、目の前にいたはずのジャクリーンが背後から斬りつけてきた。仮に高速移動に特化したISを使っているとしてもあり得ない、あるいは難しいはずの行動に混乱する一夏はとにかく視界が悪い煙の中からの脱出を決め、煙は上に上がるからと白式に降下を命令、すぐに煙幕から脱出する。
「はい、予想どーり☆」
「え?」
ゴォン
煙から出てきた一夏を出迎える大爆発。どうやら一夏の行動を先読みして爆弾を投げつけていたらしく、爆炎が一夏を焼き、至近距離から舞い散る破片が白式の装甲や一夏の身体を傷つけた。
「ぐああぁぁぁっ!!」
予想だにしないタイミングでの爆撃にバランスを失った一夏がクルクルときりもみしながら墜落、どうにか途中でバランスを取り直し地面に激突するのは避けて持ち直した。
「一夏!」
「奴め、一夏の行動を完全に先読みしている……」
「ええ。ジャクリーンは昔からチェスが得意でしたの」
観客席のシャルロットが悲鳴を上げ、ラウラも険しい顔をしながらジャクリーンの行動を評価。その隣に座るセシリアがチェスで敵の行動の先読み能力を鍛えているのだろうと呟いた。
ちなみに箒と鈴はセシリアのさらに隣でハラハラしながら試合を見守ったり「何やってんのよ一夏しっかりしなさい!」と激を飛ばしてたりしている。
「く……」
地面に激突するのは避けたとはいえ大きく高度を落とした一夏は、悔しそうに表情を歪めながら空を、自分より高い場所を飛翔するジャクリーンを睨みつける。
「あは☆ ここまで予想通りに動いてくれるなんて、おにーさんってば分かりやすいよね☆」
その彼女は試合が始まる前のお淑やかな笑顔はどこへやら、ほの暗さを感じさせる笑みを浮かべていた。加えて薄緑色の瞳を宿す目を細めて見下すような視線を一夏に向けている。
「じゃあ──次いくよ?」
微笑と共にフィン状の物体──ビットが四つ射出される。試合開始前に血のような赤色の機体と言ったが、セシリアのブルー・ティアーズと同じフィン状のビットだけは黒色、さらにブルー・ティアーズはレーザー兵器なのに対しあのビットには赤紫色の実体の刃が装備・展開している。一夏がそんな分析をしているとビットはスラスターをふかして加速、一気に一夏目掛けて襲い掛かった。
「くっ!」
咄嗟に一機を雪片弐型で受け止め弾くも、その隙をつくかのようにもう一機が防御をすり抜けてまるで斬りかかるように襲い掛かる。
「雪羅!」
その攻撃は左手の特殊武装──雪羅をクロ―モードにして防ぐ。だがそこまで
「ぐあっ!?」
二機を囮に背後に回り込んだ二機の斬撃は受け止める事が出来ず、再び背中を斬りつけられた。
しかも近接戦を前提に置いているのだろうそれは単純な強度だけでもブルー・ティアーズのビットを上回っているらしく、雪片弐型で斬り払ったり雪羅クロ―モードで弾いただけでは破壊できなかったのか普通に飛行し、再び一夏を狙ってきていた。
(ダメだ、じっとしてたら的になるだけだ!)
四方八方から斬りかかってくるビットを少し無理矢理に弾き飛ばして包囲網を脱出、スラスターを全力で吹かしてビットから逃げ回る。
「あはは☆ おにーさんってば逃げ回ってばっかりで情けなーい♪ ねえねえ、そろそろ本気出してよー。それとももう本気だったー?」
ビットを走らせながら一夏を煽ってくるジャクリーン。もはやお淑やかなお嬢様なんて姿影も形もなく、セシリアが「また始まった……」と呆れて額に手を当てているが一夏はそれを気にする余裕もなくビットから逃げ回ってアリーナ中を駆け巡る。
「──今だ!」
何か機を見たのか一夏が叫び、一気に急上昇。同時に
(あれがセシリアのブルー・ティアーズと同じだっていうんなら、弱点だって同じ!)
「っ!」
油断していたのか逃げる反応が遅れたジャクリーンが両手に一本ずつ計二本の短剣を展開、同時にビットの動きが止まったのをハイパーセンサーによって背後を見て確認した一夏は想像通りだと頷いた。
「つまり! お前が制御に意識を集中しないとあのビットは動けない!」
「っっっ!」
反応が遅かったか、短剣を展開したものの構えるのが遅れたジャクリーンの左手のナイフを雪片二型を振り上げて弾き飛ばし、左手の雪羅クロ―モードで追撃する。も、それは辛くもジャクリーンも後退して回避、
「逃がさねえ!」
だが一夏は一気呵成に攻撃開始、雪片弐型と雪羅クロ―モードの疑似二刀流の猛攻にジャクリーンは防戦一方、このままもう一本の短剣を弾き飛ばして無防備になったところを零落白夜で決める。そう考えていた時だった。
「が──!?」
一夏の悲鳴が上がる。何故か、防戦一方だったジャクリーンに反撃の隙などなく、実際彼女の持つ短剣は一夏に届いてすらいない。
「ざんねーん☆ 私のブラッディ・ティアーズは、おねーちゃんのブルー・ティアーズよりちょっとだけ進歩してるんだ」
ジャクリーンがニヤァと笑い、訳が分からないという様子の一夏にそう語りかける。
その彼の背中にはブラッディ・ティアーズのビットが一機突き刺さっていた。
「まさか、お前が動けると同時に動かせるのか……?」
「半分せーかい☆ ブラッディ・ティアーズには、私が毎回制御命令を送る以外に、制御命令を先に送っておく新機能が追加されてるんだ☆」
一夏の言葉にジャクリーンはニヤニヤ笑いのままそう告げる。
「どういう事なんだ、セシリア?」
「……ブラッディ・ティアーズはブルー・ティアーズの姉妹機であり、あるシステムが搭載されていますの」
箒の問いかけにセシリアが話す。ブルー・ティアーズの弱点は制御用の命令を送るのに操縦者が集中しなければならず、その間操縦者は動けなくなってしまう点。
そこでブラッディ・ティアーズにはその弱点を補うためにあるシステムを組み込んだのだ。それが
「とはいえ、先行制御によるレーザーの発射までシステムが完成する事はなく、ビットには実体刃を取り付けたそうですが」
ブラッディ・ティアーズのビットが近接戦闘型になったのもそういう理由であり、そもそもブラッディ・ティアーズ自体がビットへの制御命令先行入力システム及びそれによるビット操作の試験機なのだろう。とセシリアは推測を口にして肩をすくめた。
「で、でも、それっておかしいわよ……」
鈴がそれに異を唱える。先行入力、つまりあのビットは入力した命令通りにしか動かないというわけだ。
「それがなんであんな綺麗に一夏の背中を狙えたわけ?」
「別段不思議でもありませんわ」
そんな鈴の疑問をセシリアは一蹴する。
「ブラッディ・ティアーズが狙う座標に一夏さんを誘導しただけですもの」
“だけ”とセシリアは語るが、それは簡単な事ではない。
二次元ならともかく宙を舞う三次元、それを計算に入れて縦横無尽の高速戦闘を行うISの背中を自動制御で動くビットに狙わせる。セシリアのようにスナイパーとして動かない相手ならまだ分かるが、一夏の本領は接近戦。動き回る事がメインの彼の背中を自動制御のビットで狙い撃つ。それをジャクリーンは持ち前の読みの鋭さで一夏の動きを予測し、やってのけたのだ。そんな彼女の底知れなさにセシリア以外のメンバーがごくりと唾を飲んだ。
「く、そっ!」
ビットのスラスターが火を噴き、加速。このまま抉られそうになるが一夏は無理矢理機体を回転させて回避、前方目掛けて加速したビットを、前方にいたジャクリーンはひょいと回避した。
「ここからが本番だよ、おにーさん☆」
ジャクリーンの両手に小型のグレネードランチャーが握られ、同時に腰の砲塔が展開。四方八方にグレネードランチャーを乱射してばら撒かれたグレネードが爆発すると、それは巨大なスモーク弾だったのか辺りに黒煙が舞い散る。さらに腰の砲塔──スモークディスチャージャーからも黒煙が噴き出し、一気に辺りが黒煙に包まれていった。
「く、またこれか!?」
煙幕で視界が効き辛い状況、ここをビットで狙ってくるのは確実。と一夏は雪片弐型を構えて周囲を警戒し始めた。
「たあぁっ!」
「っ!?」
だがそこで直接斬りかかってきたのはジャクリーン本人。ぎょっとした一夏が反射的に雪片弐型を振るうも、彼はそこで先ほどの事を思い出す。即ち振るった剣がジャクリーンの身体をすり抜けるという不可思議な現象。その例に漏れずジャクリーンの身体を剣がすり抜け、同時に彼女の姿が消失する。
「ざんねんしょー☆」
「ぐあっ!?」
直後背中に走る鋭い痛み。また目の前にいたはずのジャクリーンに背中から斬りつけられた。そんな訳の分からない現象に一夏の頭に混乱が走っている間に、再び目の前からジャクリーンが斬りかかってきた。
「何度も同じ手を食うか!」
どうせまた訳の分からないすり抜ける偽者だ、と断じた一夏はそれを囮に背後から狙ってくるだろうジャクリーンを狙って後方確認。やはりジャクリーンが斬りかかってきており、こちらを見て驚いたように目を見開いている。
「零落白夜!!」
雪片弐型が展開し、純白の光の刃がジャクリーンを捉えた……時、ジャクリーンの身体が消滅する。
「え?」
「ざんねんでしたー☆」
目を点にする一夏の背中から声がする。誰か、など言うまでもなく、そしてそっと一夏の耳に何かが近づく。
「今度は私が本物だよ、おにーさん♪」
「っ!!!」
耳元に口を添えての囁き、そこまで隙を見せているという事を自覚した一夏がジャクリーンを払いのけ、振り返る。
「なっ!?」
そして再び目が見開かれる。彼の目の前に四人のジャクリーンが立ち(正確には空中戦なのだから浮遊している)、こちらを見てニヤニヤと笑っているのだから。
「……待て、四人……っ、そうか!」
硬直していた一夏ははっとした顔になって振り向き、再び狙ってきていたジャクリーン……より下に目掛けて剣を振るう。それは何かに当たったような手ごたえを一夏に感じさせた。
「あのビットだな! 恐らくあのビットには光学迷彩と立体映像か何かを投影する機能がある! それで俺を惑わせていた! そうだろ!?」
「だいせいかーい☆」
一夏の言葉にジャクリーンがにへっと無邪気な微笑みで答えた。
「スモークの霧の中じゃないと誤魔化せないくらいだけどね。でもおにーさん、分かってるの?」
だが、その無邪気な笑みが再びほの暗く、どこか残虐性を帯びたものに変化する。
「それが分かったところで、
ジャクリーン本体、ビット四機から投影されるジャクリーン映像四人、計五人が短剣を構える。
「散開!!」
叫び、同時に全てのジャクリーンが霧の中に消える。一夏も当然
「逃がさないって言ったでしょ?」
だが上空からジャクリーンがそれを阻止せんと斬りかかる。一夏も斬りかかるがその剣はすり抜ける。映像、ならばと恐らくこの辺程度だがビットを狙って追撃──
「させると思う?」
──しようとしたところにまた別のジャクリーンが斬りかかってくる。だが一夏の顔面を狙って突き出された短剣はすり抜け、こちらもまた映像と判明。そこまでの至近距離ならばと回し蹴りを入れるとたまたまビットに当たったらしくその映像がブレ、一瞬消える。
「イヤアアァァァッ!!!」
その消滅した映像の先からまたまたジャクリーンが斬りかかり、右手を狙ってきていたそれを雪片弐型で受ける。受け止める。受け止められた。つまり彼女が本物のジャクリーンだ。
「もう逃がさねえ!」
「それはこっちの台詞!」
一夏が雪片弐型一本でジャクリーンが両手に握ってクロスさせている短剣を止め、鍔迫り合いに持ち込んでいる中、互いの叫びが響き渡る。だが同時に一夏はヒィンと風を切る音を左右から聞いた。
「これで終わり、首を断ち切れ! コンビネーション・
霧の中から迫る悪意の刃、それはかつてイギリスの
恐らく狙いは左右、後退しようものならジャクリーン自身が追撃を狙ってくる。上下に逃げても同じこと。
「なら!」
「え──きゃっ」
スラスターを一気に噴かせて前方に加速、一夏が前に動いたことで自動制御のビットは命令通りにさっきまで一夏の首があった地点を通過して再び霧の中に消える。
まさかの行動を思いもしなかったというようにジャクリーンは小さく悲鳴を上げて押し負け、一夏の胸の中に身体を収めた。
「いっけえええぇぇぇぇぇっ!!!」
そして一夏はジャクリーンを捕まえたままさらに加速し、そのまま一気に黒煙から脱出。さらにその勢いのまま地面にジャクリーンを倒し、その顔の横に雪片弐型を突き立てた。
「さあ、降参するんだ! ビットを飛ばしてくるならその前に零落白夜で君を斬る!」
「え、あ、あう……」
一夏の宣告にジャクリーンは混乱しているのか顔を赤くして困惑した目を見せながら唸るのみ。
「抵抗しても無駄だって分かるだろ? さあ、降参するんだ」
「わ、分かった! 分かったから!
一夏が顔を近づけて降参宣告を繰り返すとジャクリーンは目をぐるぐる渦巻きにして慌てたように降参を宣言。同時に試合終了を示すブザーと「ジャクリーン・オルコット、降参宣言確認。勝者、織斑一夏」とアナウンスが響き渡る。
「試合
「ふ~……」
薫子の実況を聞きながら、一夏はとりあえず終わったと息を吐く。
「いやーそれにしてもこれ、織斑君がジャクリーンちゃんを押し倒して迫ってるみたいね……カメラ持ってこなかったのが惜しいわ」
「……え?」
聞き捨てならない言葉が聞こえ、一夏はそこで改めて自分の状態を客観的に見る。
煙の中から飛び出す。これは相手の得意な陣地で戦わないための手段だ。地面に倒すのも相手に下手に動かれてはこちらが不利だから相手の身動きを封じるため。雪片弐型を顔の横に突き立てたのは多少相手を驚かすのもあったが、その方が至近距離から攻撃しやすいというのもある。
だがそんな事放っといて客観的に自分の姿を見ると、これは確かにジャクリーンを押し倒しているように見えてしまう。ついでにジャクリーンも何故かは分からないが顔を真っ赤にし、若干涙目になっていた。
『いちかぁぁぁぁぁっ!!!』
直後、何がどうしたのか箒、鈴、シャルロット、ラウラがピット・ゲートから次々と乱入、一夏に襲い掛かる。
「いや待て待て待て何がどうしたのか分からんがとにかく待てー!!!」
一夏も待てと叫びながらしかしそう簡単に止まらないと理解はしているのか大慌てでアリーナ内を逃げ回り、一夏とジャクリーンの決闘の場はあっという間に箒達による一夏ハンティングゲームの会場へと変化するのだった。
「もう気は済みまして?」
そして唯一、箒達と共にピット・ゲートからアリーナに乱入したが今回一夏を追いかけ回していない女子──セシリア・オルコットはジャクリーンの横に優雅に着地して尋ねる。
「むー」
そのジャクリーンは起き上がって座り込む体勢になって不満たらたらというように頬を膨らませており、セシリアはくすくすと笑いながら彼女の隣に座った。
「どうしてこんな事をしたんですの?」
ふふ、と優しく微笑みながら尋ねる。その笑顔は「もう答えの予想はついているが、きちんとジャクリーンの口から聞きたい」と語っており、ジャクリーンは居心地悪そうにぷいとセシリアから顔を背けて唇を尖らせた。
「あいつを倒せば、お姉様が戻ってくるかなーって思って……」
「はぁ……どうしてそう思ったんですの?」
「だって、お姉様はあいつが好きなんだって、チェルシーさんが……」
「チェルシー……」
己の信頼するメイドになんか変な告げ口されていたと知ったセシリアが頭を抱えた。
「だってお姉様、IS学園に行ってから滅多に戻ってこないし、この前帰ってきた時も本家で実務をしたらすぐにIS学園に行っちゃって……だから、あいつを倒して、あいつはたいしたことないクソザコなんだって分かればお姉様はもっと家に戻って来て、遊びに来てくれるかもって……」
「う、う~ん……」
別にイギリスに戻らないのは好きで戻らないんじゃなくって、たしかに一夏と出会える時間を優先している部分もあるが、そもそもそんな度々学校を休んでイギリスに戻っていられる余裕はないからなのだが、どうにも変な勘違いをしているらしいジャクリーンにセシリアは閉口。
しかしそんな中でも一つ確かなところはあり、セシリアはふふっと再び笑顔を見せてジャクリーンの頭に手をやった。
「相変わらず、ジャクリーンは甘えん坊さんですわね~。あんな生意気な口調が嘘みたいですわ~」
「う、ううう~……」
セシリアに頭をなでなでされるジャクリーンが恥ずかしそうに赤くなった顔を俯かせる。
「さて。そんな可愛いジャクリーンをあろうことか押し倒した一夏さんには少々お仕置きが必要ですわね」
そこでセシリアは立ち上がり、右手にスナイパーライフル──スターライトMkⅢを展開。同時にジャクリーンもきひっと笑うと立ちあがりながらぴょんっとジャンプ、空中でとんぼ返り風に一回転して着地して前傾姿勢を取ると両手に短剣を展開して構えた。
「うん。解体しよ☆」
「解体はしません……ですが、
「はーい☆」
セシリアとジャクリーンは共に狩人の顔になりながら、流石にやり返すわけにもいかずに悲鳴を上げてアリーナ内を逃げ回る一夏に銃口を向け、短剣を構えて突進するのだった。
《後書き》
性懲りもなくまた変なもん思いついたので書いてみました。というより真琴VS成志の話の感想返しにノリで「ざーこざーこ」とかメスガキっぽい事言ってたらメスガキ主人公のインスピレーションが湧いて……。
で、最初はセシリア自身をロリ化メスガキ化させてクラス代表決定戦をする感じで予定していたんですが、上手く構成が作れなかったのでジャクリーンちゃんを作りました。(笑)
言うまでもなくキャラクターのイメージはFateシリーズのジャック・ザ・リッパー。ジャックという名前を女の子っぽくもじって名付け、それに若干のお嬢様要素やメスガキ要素等を放り込んで完成しました。イメージ的には近接戦型ビットを使って相手を牽制したり短剣でスピーディな戦闘を行う……感じだったんですが、むしろスモーク弾とかを使って煙幕を作り、その中で一方的に攻撃を行うトリッキーなキャラになってしまいました。
ちなみに彼女の機体ブラッディ・ティアーズですが……実は元々はハチャメチャオールスター編の話が進んだ際にセシルに使わせる予定で設定を作った機体です……つまり、セシルの機体ネタが消えた。やべえどうしよう……。(汗)
さてまあ言うまでもないというかやっぱり「メスガキ」属性の理解が曖昧なまま作ったものなのでただの一発ネタな短編です。ミシェルや真琴みたいにかれきえ世界線に出てくるかどうかも曖昧ですが、元々真琴も出すつもりはなかったんだからワンチャンあるかもしれなくもないかもくらいは言っておきます。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。